ポスター発表 P-34 アレキシサイミア空間からみた イマジナリー コンパニオン体験 大学生年代におけるイマジナリー コンパニオン体験の諸相(2) 後藤和史 愛知みずほ大学人間科学部 大饗広之 日本福祉大学子ども発達学部 ver.20160518
第 15 回日本トラウマティック ストレス学会 Japaese Society for Traumatic Stress Studies 日本トラウマティック ストレス学会 利益相反 (COI) の開示 演題発表に関連し 開示すべき COI 関係にある企業などはありません 筆頭演者 : 後藤和史
3 問題意識 1 イマジナリー コンパニオン (imagiary compaio, IC) 体験は児童期に比較的多くみられる現象ではあるが, 虐待 - 解離 にまつわる臨床的文脈の中で積極的に論じられている (Putam, 1989, 1997) また, 一般的には IC は次第に消失して青年期後期には見られなくなるとされているが, 臨床的文脈ではいくつか報告がみられる 澤ら (2002): 青年期の IC 体験の臨床的記述 大饗 (2007): 成人における IC 体験の臨床的記述 が, 一般大学生を対象に 現在の IC 体験を調査した研究は数少ない 山口 (2007): IC 体験を報告した大学生を対象に調査面接 心理検査
4 問題意識 2 IC 体験を拡張して 想像上の人格体験 ( 非実在 ad/or 非生物の対象だが人間のような独自の人格や心性を持った存在として認める体験 ) ととらえると, 人格化体験ぬいぐるみや人形などの非生物に人格や心性を認めて話しかけるなどの空想的活動 橋本 宇津木 (2011): 生物 非生物に対する心性評価と攻撃性との関連 実体的意識性 (leibhaftige Bewußtheit; Jaspers, 1913) 柴山 (2010): 解離性障害患者群の実体的意識性体験の臨床的記述厳密な定義と異なり視知覚されている例も記されている といった体験も周辺として挙げることができるだろう
7 問題意識③ この問題意識に基づいて 後藤 大饗(2015) @JSTSS2015 大学生年代におけるIC周辺体験の諸相を記述的に検討 解離性体験との関連を検討 1. IC周辺体験は比較的高い割合 1/3強 でみられ る 2. 人格化体験 ぬいぐるみや人形 は他のIC周辺体 験と強い関連がある 3. 解離群のほうが 高いIC周辺体験率 IC様対象が活発に心的活動をしている 自己 対象間で積極的な心理的やり取りが行われている ことを見出した
8 本研究の目的 IC 周辺体験とアレキシサイミア空間との関連を検討 ( 大学生年代において ) IC 周辺体験は解離との関連が強いことから, 感情認識言語化困難が高く, 空想内省困難が低い 領域 ( 右下 : 第 4 象限, 心的体験化領域 ) にIC 体験が布置されるだろう
9 アレキシサイミア空間という観点 後藤(2012) アレキシサイミア傾向が感情認識言語化困難と空想内省困難 の2次元から構成されることに基づいて これらの2次元空間 上に第3の変数を布置することによって 単にアレキシサイミア 傾向の強弱のみならず 感情性と空想性の心理 病理を記 述しようと試み このアプローチを アレキシサイミア空間 と命名 アレキシサイミア空間 を利用した研究 解離性体験 虐待的生育歴 後藤ら, 2012) 自閉症スペクトラム AQ 後藤, 2013 自己注目 反芻 省察 後藤 加藤, 2014a マインドフルネス 後藤 加藤, 2014b 批判的思考的態度 後藤 安念, 2015 など
10 アレキシサイミア空間 2 1 感情認識言語化困難 弱 強 強 省察の弱さ非自覚性 要内省課題に対する困難回避的コーピング行動 自閉症スペクトラム批判的思考態度の弱さ 2 空想内省困難 主観的健康感 ( 行動化 ) アレキシサイミア ( 身体化 ) 心的体験化 ストレッサー強度評価ストレッサー頻度認知ストレッサー重大性評価情緒不安定性 / 抑うつ夢見中の不快体験発達外傷 弱 マインドフルネス論理的思考への自覚 開放性ストレッサー対処必要性評価夢見体験 最早期記憶の言語化探求心 / 客観性 / 証拠の重視 自己意識特性 反芻コミュニケーション不安境界性パーソナリティ精神表現性解離 離人性的虐待を伴う発達外傷
11 方法 1 調査参加者大学生 186 名 ( 男性 65 名, 女性 121 名, 平均年齢 20.10 歳 ) 質問紙構成 1. IC 周辺体験 : 独自に開発した質問紙を用いた 1 人格化体験 ( ぬいぐるみなど ),2 他自我体験,3 他人格体験,4 実体的意識性体験の 4 つの体験について説明し, 関連体験の有無 具体的な説明 関係性 参加者自身の関与行動 IC 様対象の心的活動 IC 様対象の関与行動について回答を求める形式とした 2. Gotow Alexithymia Questioaire(GALEX; 後藤ら, 1999) 3. 解離性体験 :DES 日本語版 ( 田辺 小川, 1992) 後藤 大饗 (2015) と同一調査
12 方法② 調査手続き 調査回答用のウェブページの作成に はGoogle Formsを用いた 講義授業および学内情報配信シス テムを用いて調査内容の説明をする とともに回答ページのURLを紹介して 回答への協力を依頼した 回答ウェブページの初頭には調査目 的の説明 倫理的表明 調査同意 欄を設け 調査への参加について能 動的同意を表明した参加者のみが 回答できるように設定した
13 方法 3~4 つの IC 周辺体験 1 人格化人によっては人形やぬいぐるみなど本質的には非生物であるものに対して, あたかも心を持った存在であるかのように感じたり振る舞ったりすることがあります 3 他人格人によっては 自分の中に, 今の自分以外の誰かがいる と感じることがあります ( 誰か は人間とは限りません) 2 他自我人によっては 自分の中に, 別の自分がいる と感じることがあります ( 別の自分 は人間とは限りません ) 4 実体的意識性人によっては 自分にも見えたり聞こえたりといった感覚がないけれども, 確かに自分の近くに誰かがいる と感じることがあります ( 誰か は人間とは限りません)
3 関係性 ( 親近感 ~ 嫌悪感 ) 1. 友情を感じる 2. 恋愛感情を感じる 3. 大切にしたい, と思う 4. 恐れや不安を感じる 5. 怒りを感じる 6. いなくなってほしい, と思う 4 関与行動 ( 自分 対象 ) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 何かを強制的にさせようとする / させる 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かをしてあげる 1IC 周辺体験の有無 2 体験の記述プラス 5ICの心的活動 1. 何かを感じている 2. 何かを考えている 3. 何かに興味を向けている 4. 何か意図している 6ICの関与行動 ( 対象 自分 ) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 自分に何かを強制的にさせようとする 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かしてくれる 14
15 結果① 体験率 アレキシサイミア空間の各象限 Galex の 感 情 認 識 言 語 化 困 難 尺度と 空想内省困難 尺度 を中央値折半して 低低群 高高群の4群に群分け 表 象限ごとの人数 感低 空低 32 感低 空高 38 感高 空低 42 感高 空高 36 148 象限群ごとのIC周辺体験率を検 討 カイ二乗検定 感情認識言語化困難が高く 空 想内省困難が低い 心的体験化 象限群で 人格化 他人格 他自我の体験率 有意に高い p<.05 実体的意識性の体験率 有意傾向 p=.052
①人格化 人形やぬいぐるみ ②他自我 自分の中に 別の自分 ③他人格 自分の中に 今の自分以外の誰か ④実体的意識性 感覚がないが 確かに自分の近くに誰か 80% 人格化 15 60% 16 結果① 60% 18 人格化 17 他自我 他自我 40% 24 40% 21 24 27 20% 11 27 19 20% 23 24 11 14 5 0% 8 0% 感低 空低 感低 空高 感高 空低 感高 空高 ① ② ③ ④ アレキシサイミア空間 χ2(3, N=148)=9.068, p=.028 感低 空低 感低 空高 感高 空低 感高 空高 ① ② ③ ④ アレキシサイミア空間 χ2(3, N=140)=14.670, p=.002
①人格化 人形やぬいぐるみ ②他自我 自分の中に 別の自分 ③他人格 自分の中に 今の自分以外の誰か ④実体的意識性 感覚がないが 確かに自分の近くに誰か 40% 他人格 29 17 結果① 40% 実体的意識性 他人格 実体的意識性 32 20% 30 20% 31 13 6 0% 30 37 1 1 ① ② 30 36 2 2 0% 感低 空低 感低 空高 感高 空低 感高 空高 ③ ④ アレキシサイミア空間 χ2(3, N=147)=17.006, p=.001 10 5 感低 空低 感低 空高 感高 空低 感高 空高 ① ② ③ ④ アレキシサイミア空間 χ2(3, N=148)=7.743, p=.052
独立変数を感情認識言語化困難 空想内省困難 中央値折半 従 属変数をIC周辺体験の体験率とし た決定木分析を実施 18 他自我_有無 ノード 0 67.8 99 32.2 47 100.0 146 感情認識 P 値=0.006, カイ 2 乗=7.635, 自由度 =1 人格化_有無 <= 34.000; <欠損値> ノード 0 53.2 82 46.8 72 100.0 154 感情認識 P 値=0.003, カイ 2 乗=8.579, 自由度 =1 <= 33.000; <欠損値> > 34.000 ノード 1 77.9 60 22.1 17 52.7 77 ノード 2 56.5 39 43.5 30 47.3 69 空想内省 P 値=0.089, カイ 2 乗=2.884, 自由度 =1 > 33.000 <= 25.000 ノード 1 65.3 49 34.7 26 48.7 75 決 定 木 分 析 ① ノード 2 41.8 33 58.2 46 51.3 79 ノード 3 47.4 18 52.6 20 26.0 38 > 25.000; <欠損値> ノード 4 67.7 21 32.3 10 21.2 31 ①人格化 人形やぬいぐるみ ②他自我 自分の中に 別の自分 ③他人格 自分の中に 今の自分以外の誰か ④実体的意識性 感覚がないが 確かに自分の近くに誰か
①人格化 人形やぬいぐるみ ②他自我 自分の中に 別の自分 ③他人格 自分の中に 今の自分以外の誰か ④実体的意識性 感覚がないが 確かに自分の近くに誰か 内他者_有無 感情認識 P 値=0.010, カイ 2 乗=6.632, 自由度 =1 感情認識 P 値=0.000, カイ 2 乗=14.705, 自由 度=1 <= 33.000; <欠損値> > 33.000 ノード 1 97.3 72 2.7 2 48.4 74 実体的_有無 ノード 0 87.7 135 12.3 19 100.0 154 ノード 0 86.3 132 13.7 21 100.0 153 <= 33.000; <欠損値> 19 ノード 2 75.9 60 24.1 19 51.6 79 ノード 1 94.7 71 5.3 4 48.7 75 > 33.000 ノード 2 81.0 64 19.0 15 51.3 79 空想内省 P 値=0.126, カイ 2 乗=2.339, 自由度 =1 <= 25.000 ノード 3 69.0 29 31.0 13 27.5 42 決 定 木 分 析 ② > 25.000; <欠損値> ノード 4 83.8 31 16.2 6 24.2 37 ①人格化 感情 高 ④実体的 感情 高 ②他自我 感情 高 空想 低 ③他人格 感情 高 空想 低 で 体験率が高い
20 結果② 諸活動との関連 ③ 感情認識言語化困難が高く 空想 内省困難が低い 象限で高い体験率 ④ 感情認識言語化困難 空想内省 困難が高い 象限で高い体験率 人格化 会話をする (p=.010) 他自我 自分と けんかする (p=.120) 自分に 何かしてくれる (p=.070) 他人格 が 何かを考えている 人格化 自分に 何かをしてくれる (p=.087) (p=.006) 実体的意識性 自分が 何かを言う (p=.011) が 何かを言う (p=.133)
21 結果③ 体験記述の特徴 設問 あなたにとって は どのような存在かを具体的にお書きください また に関する具体的な体験 エピソード がありましたら 書ける範 囲内でお書きください 感情認識言語化困難が高い群 空想内省困難が高い群 エピソードを中心とした記述 な存在 と 設問の書式を繰 り返した記述 ぬいぐるみに対する人格化体験 実体的意識性の詳細な記述 エピソードの記述はないことが多い
22 アレキシサイミア空間への布置 1 感情認識言語化困難 弱 強 強 ~ な存在 と, 設問の書式を繰り返しただけの記述 実体的意識性との相互作用 2 空想内省困難 未体験 ( 行動化 ) アレキシサイミア ( 身体化 ) 心的体験化 人格化 実体的意識性体験 エピソードを中心とした記述ぬいぐるみに対する人格化実体的意識性エピソード 霊 弱 高い IC 体験率 他自我 他人格体験他自我 他人格との相互作用
23 考察① IC周辺体験率が高いのは 感情認識言語化困難が高く空想内省 困難が低い 心的体験化 象限 他人格 他自我との相互作用も関連 解離性体験との関連をベースとした仮説的予測が支持 ただし 人格化 実体的意識性といった外在的ICには感情認識言語化困難 情緒不安定性と関連 が主に関与 他自我 他人格といった内在的ICには さらに空想内省機能が関与
アレキシサイミア空間からみた 虐待 解離理解 (後藤 田辺 小澤, 2012) ツイン ブースト システム を提唱
25 ツイン ブースト システム 1. 2. まず長期的ストレスの結果として プライマリ ブースト システム ストレス 過敏性 ネガティブ感情性の高まり が発動 ストレス負荷が一定以上になる or 質の異なったストレス負荷がかかる と セカンダリ ブースト システム 体験変容過程 が発動 複合した結果が解離や離人体験
26 感情認識言語化困難の背景 ストレス過敏性亢進 STEP 1 プライマリ ブースト 主体 ぬいぐるみなどの 物体に投影 人格化体験 IC様 対象 非感覚 霊 実体的意識性 闘争-逃走反応など外的脅威に対する過敏性に関連 わずかな外的 内的刺激を 味方 中立 敵 という軸で認知
空想 内省困難の弱さ 機能亢進 体験変容過程 27 STEP 2 セカンダリ ブースト 主体 主体っぽい 他自我 IC様 対象 他者っぽい 他人格 内言活動から主体的所属感が喪失したもの
28 考察② 空想内省困難が高い群で な存在 と設問の書式を繰り返すのみの記述 夢体験を物語文法に従って言語化 できない 自己概念記述課題 20答法 における空欄反応 回答態度への疑義 (後藤 小玉, 2000; 後藤, 2005; 後藤 安念, 2015) 自己内省的状況に対する困難感 心理療法状況で示されるアレキシ サイミアっぽさの背景では 心の近視 感情認識言語化困難 空想内省困 難が強い アレキシサイミア象限で実体 的意識性対象との言語的相互作用 実体的意識性体験は感情認識言 語化困難の強さと関連 この象限と関連するのは 自閉症スペクトラムの強さ 批判的思考態度の低さ 後藤, 2013; 後藤 安念, 2015) まじで 霊 と思ってる 統合失調症スペクトラム
29 虐待 解離をめぐる現象の理解に アレキシサイミア空間は 有用な観点を提供しうる 結語