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第 112 回日本内科学会講演会 イノベーションで拓く内科学 招請講演 関節リウマチ治療の最新の進歩と今後の課題 竹内勤 Key words 寛解, 治療目標, 抗リウマチ薬, メトトレキサート, 生物学的製剤 1. 関節リウマチ治療進歩の背景関節リウマチ (rheumatoid arthritis:ra) の治療は10 年前と比べ, 格段の進歩を遂げた. その背景には, 自然経過に関する地道な疫学的研究があった.RA が単に痛みだけが問題の疾患ではなく, 機能予後も生命予後も不良であること, 医療経済学的にもその社会的影響が大きいことが明確に示されたのである 1,2). 予後不良の要因として, 関節破壊による機能障害や様々な関節外症状, とりわけ炎症に伴う心血管イベント, 悪性リンパ腫などが次々に明らかにされたのである. この間に臨床医学的研究手法は洗練され, バイオメトリーの進歩と相まって, 疾患活動性, 関節破壊, 日常生活動作の統一された評価法が確立されていった ( 図 1) 3). 関節破壊は, 発症 2~3 年で急速に進行することが明らかとなり, 早期診断 早期治療介入の必要性が叫ばれた. しかし,1987 年以来使用されてきたACR(American College of Rheumatology) 分類基準は, 発症 6 カ月のRAを 50% しか診断できない.2010 年,ACR/EULAR (European League Against Rheumatism) による新分類基準が導入され, 早期診断はより感度高く行えるようになった 3). 一方, 関節破壊阻止というアウトカム改善に直結する臨床的寛解基準をより厳密なものとするため,2011 年, 新たにACR/EULAR 寛解基準が提唱されるに至った. 同時に 目標達成に向けた治療 :Treat to Target 治療戦略は世界的な普及活動によって認知され 4), これに基づいて2013 年にEULAR,2014 年にACRで治療リコメンデーションが刷新され, 日本でも治療ガイドラインの改訂がなされた.2010 年からここ数年間で起こった変化は, これまでのRAの歴史の中でも最も劇的で, 診断 目標達成に向けた治療 臨床的寛解 アウトカム改善という一連の流れが見直された結果である. これを踏まえ, 本邦におけるRA 治療の進歩について概説する. 慶應義塾大学リウマチ内科 112 th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Invited Lecture:4. Progress in rheumatoid arthritis therapy and future perspective. Tsutomu Takeuchi:Division of Rheumatology, Department of Internal Medicine, Keio University School of Medicine, Japan. 本講演は, 平成 27 年 4 月 12 日 ( 日 ) 京都市 みやこめっせ ( 京都市観業館 ) にて行われた. 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号 1773

招請講演 関節炎関節破壊身体機能障害余命低下 炎症の程度 炎症の総和 早期 : 関節炎 晩期 : 関節破壊 全事象の総和 腫脹関節数 評価項目 疼痛関節数患者全般評価医師全般評価 骨びらん関節裂隙狭小化 日常生活動作労働可能時間 感染症心 血管系事象悪性リンパ腫 炎症反応 評価指標 DAS,DAS28 SDAI,CDAI Steinbrocker stage vdh-sharp Score genant-sharp Score Steinbrocker class HAQ-DI SF-36,EQ-5D 治療目標 臨床的寛解構造的寛解機能的寛解 竹内勤. 日本内科学会雑誌 101:2815-2817, 2012 図 1 関節リウマチの病態と評価 治療目標 DAS:Disease Activity Score, SDAI:Simplified Disease Activity Index, CDAI:Clinical Disease Activity Index, HAQ-DI:Health Assessment Questionnaire-Disability Index, SF-36:Short Form- 36, EQ-5D:EuroQoL-5D 2. 歴史的変遷従来, リウマチ治療の基本は, 患者教育, 安静, 体操などの基礎療法をピラミッドの底辺とし, その上に疼痛 炎症をコントロールする非ステロイド性抗炎症薬 (non-steroidal anti-inflammatory drugs:nsaids) の投与, その上に抗リウマチ薬 (disease modifying anti-rheumatic drugs:dmards), 機能再建目的の外科手術, ピラミッドの頂点に新しい治療の試みが位置するというピラミッド式の治療体系が長く受け入れられてきた. しかし,NSAIDsは疼痛軽減, 短期的なQOL(quality of life) の向上をもたらすものの, これだけではリウマチの自然経過, すなわち関節破壊の進行を抑えることができない. また,NSAIDs 潰瘍, 腎機能障害などの副作用も少なくないことが認識された. 同時に,RAの機 能予後, 生命予後はともに不良で進行性の経過を示すこと, 予後に直結する関節破壊は発症早期から急速に進行することが明らかにされ, 滑膜炎による関節破壊の進行を変え得る薬剤であるDMARDsを早期から積極的に使う治療戦略が主体となった ( 図 2) 1,2). 3. 目標達成に向けた治療戦略と寛解治療目標を設定し, それに向かって治療を最適化していくという 目標達成に向けた治療 (Treat to Target) プログラムは, それまで標準化が遅れていた関節リウマチ治療に大きな変革をもたらした ( 表 1). その戦略は日本を含め世界で受け入れられ, 広く認知されている 4). この間, 治療目標として設定された臨床的寛解であるが, その基準をより厳密にしようという動 1774 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号

第 112 回日本内科学会講演会 イノベーションで拓く内科学 活動性 ( 関節炎 ) RA に特有 時間と伴に 関節破壊 非ステロイド性抗炎症薬ステロイド 抗リウマチ薬 短期 日常生活動作低下 長期 可逆的 時間と伴に 不可逆的 図 2 関節炎, 関節破壊, 身体障害の関係 Smolen JS, et al. Lancet 370:1861-74, 2007 表 1 目標達成に向けた治療 (Treat to Target) 基本的な考え方 A 関節リウマチの治療は, 患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである. 関節リウマチの主要な治療ゴールは, 症状のコントロール, 関節破壊などの構造的変化の抑制, 身体機能の正 B 常化, 社会活動への参加を通じて, 患者の長期的 QOLを最大限まで改善することである. C 炎症を取り除くことが, 治療ゴールを達成するために最も重要である. 疾患活動性の評価とそれに基づく治療の適正化による 目標達成に向けた治療 (Treat to Target;T2T) は, D 関節リウマチのアウトカム改善に最も効果的である. リコメンデーション 1 関節リウマチ治療の目標は, まず臨床的寛解を達成することである. 2 臨床的寛解とは, 疾患活動性による臨床症状 徴候が消失した状態と定義する. 寛解を明確な治療目標とすべきであるが, 現時点では, 進行した患者や長期罹患患者は, 低疾患活動性が当面 3 の目標となり得る. 4 治療目標が達成されるまで, 薬物治療は少なくとも3 カ月ごとに見直すべきである. 疾患活動性の評価は, 中 ~ 高疾患活動性の患者では毎月, 低疾患活動性または寛解が維持されている患者では 5 3~6カ月ごとに, 定期的に実施し記録しなければならない. 6 日常診療における治療方針の決定には, 関節所見を含む総合的疾患活動性指標を用いて評価する必要がある. 治療方針の決定には, 総合的疾患活動性の評価に加えて関節破壊などの構造的変化及び身体機能障害もあわせて 7 考慮すべきである. 8 設定した治療目標は, 疾病の全経過を通じて維持すべきである. 9 疾患活動性指標の選択や治療目標値の設定には, 合併症, 患者要因, 薬剤関連リスクなどを考慮する. 10 患者は, リウマチ医の指導のもとに, 目標達成に向けた治療(T2T) について適切に説明を受けるべきである. きが起こった. それまで用いられていたDisease Activity Score(DAS)28 による寛解では, その 基準を満足していても腫脹関節が多数残存し, 関節破壊へつながる可能性が指摘されていた. 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号 1775

招請講演 (Felson DT, et al:a&r 63:573, ARD 70:404, 2011) 臨床研究用 Boolean -SJC,TJS,PtGA,CRP all<_1 Index-based -SDAI<_3.3 SDAI=SJC+TJC+EGA+PtGA+CRP(mg/dl) 日常診療用 Boolean -SJC,TJC,PtGA all<_1 Index-based -CDAI<_2.8 CDAI=SJC+TJC+EGA+PtGA 慶應義塾大学病院通院中の RA 患者 (n=1402) の活動性 2011.12 120 患者割合 (%) 100 80 60 40 21 11 22 3 3 13 15 39 41 69 高疾患活動性中疾患活動性低疾患活動性寛解 20 46 45 41 31 0 DAS28-ESR SDAI CDAI Boolean Kaneko et al. J Rheumatology 40:1254-58, 2013 図 3 ACR-EULAR 新寛解基準 SDAI:Simplified Disease Activity Index, CDAI:Clinical Disease Activity Index, SJC:Swollen Joint Count, TJC:Tender Joint Count, EGA:Examiner Global Assessment, PtGA:Patient Global Assessment, CRP:C Reactive Protein 関節破壊進行阻止をアウトカム評価項目として設定されたより厳格な新寛解基準は2011 年に発表された ( 図 3) 3).DAS28と異なって複雑な計算式を用いないこと, 各項目の重みが均等であること,SDAI(Simplified Disease Activity Index) や CDAI(Clinical Disease Activity Index) には DAS28の評価項目には含まれていない関節評価者 ( 医師など ) によるグローバル評価が含まれたことなどを特徴とする. この厳密な臨床的寛解基準は, 現実的な治療目標たり得るかという議論が話題となった. 自施設での検討によればそれは杞憂であり, これまでのDAS28 寛解より低いものの新寛解基準は達成可能な治療目標であることが確認された 5). 一方, 集団での治療成績に加え, 個人の治療効果の重要性が指摘され, 寛解例と非寛解例を識別する要因など, 個 別化治療への検討も課題となっている 4). 4. 抗リウマチ薬従来は, 効果も少ないが, 副作用も少ない抗リウマチ薬が好んで用いられてきた. 確かにRA を単なる痛みだけの疾患ととらえれば, 痛みを取るだけのために重篤な副作用リスクは回避したいと考えるのは当然かもしれない. しかし, RAは機能予後も生命予後も不良な疾患であり, それが発症早期に決定づけられることを考えれば, 副作用のリスクを管理しながら, 早期から確実な臨床効果が期待できる薬剤, あるいは関節破壊進行を抑えることのできる薬剤を用いる, という戦略がコンセンサスとなっている 1~3,6,7). 1776 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号

第 112 回日本内科学会講演会 イノベーションで拓く内科学 抗リウマチ薬 (DMARDs:Disease Modifying Anti-Rheumatic Drugs) 合成抗リウマチ薬 (synthetic DMARDs) 生物学的抗リウマチ薬 (biological DMARDs) 従来型合成抗リウマチ薬 conventional synthetic DMARDs 標的合成抗リウマチ薬 targeted synthetic DMARDs バイオオリジナル抗リウマチ薬 bio-original DMARDs バイオシミラー抗リウマチ薬 bio-similardmards - メトトレキサート MTX - スルファサラジン - レフルノミド - ヒドロキシクロロキン - 注射金製剤 - イグラチモド - トファシチニブ (JAK) - バリシチニブ (JAK) - ペフィシチニブ (JAK) - アプレミラスト (PDE4) - アバタセプト - アダリムマブ - アナキンラ - セルトリズマブ ペゴル - エタネルセプト - ゴリムマブ - インフリキシマブ - リツキシマブ - トシリズマブ - インフリキシマブ BS - エタネルセプト BS - アダリムマブ BS - リツキシマブ BS Smolen JS, et al:ard, Sep 26, 2013 online, ARD73:3-5, 2014.( 著者改編 ) 図 4 抗リウマチ薬の分類グレー : 日本未承認, 下線 : 開発中 1) 抗リウマチ薬の分類本邦では免疫調節薬, 免疫抑制薬, 生物学的製剤などの分類が行われていたが,2013 年その新たな分類が提案された. 合成抗リウマチ薬と生物学的抗リウマチ薬の2つに大別, 合成はさらに 従来型 とあらかじめ薬剤標的を定め, それに対して作成された生物学的には, さらに オリジナル と シミラー に分類するものである ( 図 4) 6). 2) メトトレキサート (methotrexate:mtx) DMARDsの中でアンカードラッグと呼ばれ, 世界的にもRAの第一選択薬とされるMTXは, 他の薬剤が効果不十分の際に用いること, 最大投与量が8 mg/ 週であったが,2011 年 2 月 23 日から日本においても第一選択薬として,16 mg/ 週までの最大投与量が承認された. 投与前にB 型肝炎ウイルスを初めとする感染症や, 間質性肺炎の合併などのチェックを行い, 安全性が確認された後に投与を開始する. 一般的には6~ 8 mg/ 週から開始するが, 年齢, 合併症, 体重などのリスク評価によって初回投与量を減量する.MTX 投与後, 来院時に, 肝障害, 血球減少などの有無を評価し, 安全性に問題がない上限用量まで斬増する. 重篤な有害事象として, ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症, 間質性肺炎, 骨髄障害, リンパ腫などがあり, 注意深い経過観察が必要である. 早期にMTX 治療を行うことによって臨床的には約半数に臨床的寛解,60% 強に構造的寛解を導入できるが, 寛解に至らなかった症例では関節破壊の進行が認められる. 興味深いことに関節破壊の進行が抑止できた例では血清 IL(interleukin)-6 値が有意に低下し, それが関節破壊進行の良いバイオマーカーとなる可能性が示されている 8).MTX の効果 副作用のバイオマーカーとして赤血球中のポリグルタメート化 MTX(MTX-PG) 測定が米国では実施可能であるが, その有用を巡って世界的に前向き試験による検証が進められている. 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号 1777

招請講演 新生血管 細胞外マトリックス ( コラーゲンなど ) B 細胞 抗原提示細胞 T 細胞 CD20 CD80/86 CD28/CTLA4 接着分子発現亢進 活性化 T 細胞 滑膜細胞増殖 VEGF 骨 / 軟骨破壊 炎症性サイトカイン (TNFα,IL-6) MMP アポトーシス プロスタグランディン 関節痛 活性化破骨細胞 図 5 RAの標的分子 VEGF:vascular endothelial growth factor, MMP:matrix metalloproteinase, CTLA4:cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4 3) 生物学的抗リウマチ薬 (1) 生物学的製剤の特徴生物から産生される抗体などのタンパク質を治療薬として用いるもので, 標的分子に特異性の高い抗体分子や受容体 免疫グロブリン融合蛋白である. 経口無機化合物が, 代謝系の肝臓 腎臓に対して副作用を生じやすいのに対して, 生物学的製剤そのものによる臓器障害は少ないとされる 2,6,7). また, 標的分子のみの活性を抑えることができることも利点である. バイオテクノロジーの技術を駆使して作り出されるため, バイオ医薬品とも呼ばれている. その標的分子は炎症性サイトカインのTNFα(tumor necrosis factor α) やIL-6の受容体, そして免疫応答細胞 B 細胞上のCD20,T 細胞活性化調整を目的としたCD80/86 である ( 図 5) 2). 一方, コラーゲン関節炎や遺伝子改変マウスモデルで有望とされていたIL-1β ではあったが, 米国で市販されたIL-1 receptor antagonist(anakinra) は, 有効性の観点から十分な評価が得られていない. 同様にIL-17AやIL-17 受容体抗体は, 関節リウマチに対して期待された臨床的効果を示さないことがプラセボー対象二重盲検試験で明らかになった. 一方で, これら標的分子製剤は乾癬で極めて優れた効果が確認されており, 適応となる疾患が異なっていたと認識されている. モデル動物の妥当性の評価とともに, 改めて臨床科学の重要性が浮き彫りにされた. 抗体製剤は, 標的とする分子をマウスに免疫して作られたモノクローナル抗体をもとに作られてきた. マウス成分を少しでも減らそうと工夫され, 抗原結合部位のみを残して他をヒト由来にしたマウス ヒトの あいの子 ( キメラ ), キメラ型抗体, 抗原結合部位の中でも結合に関わる超可変部位のみを残して他をヒト由来にしたヒト化抗体, ファージライブラリ由来あるいはヒト遺伝子導入マウスから取得された完全ヒト抗体がある. さらに最近では, 半減期を延ばすためにポリエチレン グリコール (PEG) を付加し, 抗 1778 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号

第 112 回日本内科学会講演会 イノベーションで拓く内科学 IFX(3 mg/kg)+mtx RISING(54 w) DAS28-ESR=6.2 30 IFX(10 mg/kg)+mtx RISING(54 w) DAS28-ESR=6.2 45 ETN(50 mg/w)+mtx JESMR(52 w) DAS28-ESR=6.0 35 ADA(40 mg/2 w)+/-mtx Harmony(52 w) DAS28-ESR=5.3 38 ABT(10 mg/kg)+mtx late Ph2(48 w) 43 TCZ(8 mg/kg)+/-mtx REACTION(52 w) 43 0 10 20 30 40 50 DAS28 Remission(%) 図 6 日本における生物学的製剤による臨床的寛解導入率 IFX: インフリキシマブ,ETN: エタネルセプト,ADA: アダリムマブ,ABT: アバタセプト,TCZ: トシリズマブ 体フラグメントと結合させたPEG 化製剤も使用可能となった. 日本では7 製剤 ( インフリキシマブ, エタネルセプト, トシリズマブ, アダリムマブ, アバタセプト, ゴリムマブ, セルトリズマブ ペゴル ) が市販されている 6). (2) 生物学的製剤の有効性と安全性 TNF,IL-6 受容体,CD80/86 の異なる 3 標的に対する製剤の有効性は,MTX 効果不十分例に対して投与した場合, 現在のところ, 明らかな差は報告されていない. 日本で行われたMTX 抵抗性 RAの治験や臨床試験の成績では,1 年後に臨床的寛解を達成した症例は約 30~50%, 年間関節破壊進行の抑制率は85~100% に上る ( 図 6) 2,6,7). 生物学的製剤の安全性は,1) 標的分子の生理学的役割を阻害することに関連するもの,2) 抗製剤抗体を含めたタンパク質製剤に対する生体反応に関連するもの,3) 標的を抑えることによって二次的に惹起される事象などに分けて考えることができる.TNFやIL-6など の炎症性サイトカインは本来, 生体防御に関わる分子であり, それを阻害する生物学的製剤では感染症が問題となる. 実際, 日本で行われた生物学的製剤の市販後全例臨床調査では, 重篤副作用の約半数が感染症であった 2,6,7). (3) 生物学的製剤の導入時期臨床的効果も高く, 関節破壊抑制効果も強力な生物学的製剤であるが, 世界的にもその導入時期の遅れが課題となっている. 臨床的寛解と構造的寛解達成の先には機能的寛解達成があり, 目標達成に向けた治療戦略でも, 長期にわたる患者 QOLの最適化を求めている. 機能的寛解を達成するためには, 関節破壊進行度の観点からvan der Heijde modified Total Sharp Score (vdh-tss) を50 点以下に抑えなければならないというメタ解析がある 3,6). これを踏まえて, 日本で行われた生物学的製剤治験の投与前の vdh-tssと罹病期間の関係を解析した ( 図 7). その結果, 発症 2~3 年の早期では, それ以降に 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号 1779

招請講演 足関節レントゲンでの関節破壊60 50 40 30 20 度10 0 0 6 7 8 9 10 罹病期間 ( 年 ) 機能的寛解達成のための閾値手図 7 発病してからの時間と関節破壊の進行 ~ 日本の生物学的製剤治験データの解析 ~ 表 2 生物学的製剤の有効性を規定する因子 適切な標的分子 ( 例 :TNFα,IL-6R,CD80/86,CD20) トラフ値 > 最低有効血中濃度 トラフ値を規定する要因 - 標的分子量 - 投与量と投与間隔 - 併用薬 :MTX, ステロイド -Fc 受容体親和度 - 抗バイオ抗体 投与中止に至る副作用 ( 注射時反応など ) 製剤の組織移行 ( 滑膜への移行 ) 比べ, 年間関節破壊進行度が5 倍のスピードで進行すること, この時期の関節破壊進行抑制の戦略が重要であること, 生物学的製剤の導入タイミングを考えるうえで有力な情報となることが確認された. (4) 生物学的製剤の最適化, 個別化有効性を規定する要因は, 適切な標的分子, 投与された生物学的製剤のトラフ値 ( 次回投与時の血中濃度 ) が最低有効血中濃度を超えることが求められる ( 表 2) 6,7). 関節リウマチの適切な標的分子は, 炎症性サイトカインではTNFα, IL-6 受容体がある.RA 患者の中にTNFα 型,IL-6 受容体型があれば, それに合わせた個別化治療が可能である. しかし, 抗 TNFα 抗体インフリキ シマブを用いたRISING 試験では, 血中 IL-6 濃度が90% 以上低下することが示されており 9), その抑制と臨床的効果が関連することが明らかとなっている. 関節リウマチ患者では,TNFα が単独で病態形成に関わる群とIL-6-IL-6 受容体が関与する患者群が異なっているというよりは, TNF-IL-6 軸が病態の中心となっていると考えた方が説明しやすい. このサイトカインネットワークは, 疾患によって異なっており, 関節リウマチで想定されているサイトカインネットワークを図 8に示した. 5. 今後の課題 MTXや生物学的製剤の有効性, 安全性を予測する因子, 投与中モニタリングのための薬剤レベルなどのバイオマーカー開発, さらには薬剤の分子機序などを明らかにして 10), それらの客観的指標を用いて治療薬を最適化する必要がある. 同時に, 新たな標的分子の探索と有望な薬剤の開発, 副作用や薬剤費などの理由で薬剤投与ができない患者に対する治療法の開発などが課題である. 今後, 治療法や薬剤選択にあたって, 個々の 1780 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号

第 112 回日本内科学会講演会 イノベーションで拓く内科学 anti-tnf GM-CSF anti-gm-csfr 患者 A TNF anti-il-6 anti-il-6r sicam-1 IFNγ IL-6 MTX IL-6R VEGF Osteonectin 患者 B IL-17 Osteopontin Osteocalcin BAP 図 8 関節リウマチにおける生物学的製剤の標的とサイトカインネットワーク TNF-IL-6 軸は, 多くのRA 患者において主要なパスウェイとして機能している TNF 非依存 IL-6 軸, あるいはこれと全く異なるパスウェイは, 一部のRA 患者で機能 GM-CSF:granulocyte macrophage-colony stimulating factor, sicam-1:soluble intercellular adhesion molecule-1, BAP:bone allealine phosphatase 症例に適したテーラーメイド医療の構築に向けた検討が進められるであろう. 有効かつ安全性の高い最適なMTX 投与量の個別化,TNF,IL-6, T 細胞,B 細胞標的製剤選択の個別化, 各製剤の投与量 投与法の個別化などが当面の課題である. そのためには, 個々の症例で, これら製剤の有効性を予測する必要がある. さらに, 寛解導入した後に, 製剤を減量 中止することは可能か. それはどのような条件がそろえばよいのか. このような治療の個別化研究と同時に,RA の病態の分子レベルでのさらなる解明が必要となろう. 個々の症例で重要な炎症 免疫シグナルパスウェイが示され, どの分子が主要なプレイヤーであるかがわかれば, 個々の症例におい て理想的な標的を見出すことができるかもしれない.RAは集団的解析から個別化解析へ向かい, 同時にその成果はRA 以外のリウマチ性疾患のロールモデルとなってリウマチ性疾患全体の理解が深化していくと考えられる. 著者のCOI(conflicts of interest) 開示 : 竹内勤 ; 講演料 ( アステラス製薬, アッヴィ, エーザイ, 第一三共, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 中外製薬, ファイザー, ブリストル マイヤーズ, ヤンセンファーマ ), 原稿料 ( アッヴィ, エーザイ, 中外製薬, ブリストル マイヤーズ ), 研究費 助成金 ( 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 中外製薬 ), 寄附金 ( アステラス製薬, エーザイ, シンバイオ製薬, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 中外製薬, ファイザー, ブリストル マイヤーズ ), 寄附講座 ( アステラス製薬, アッヴィ, エーザイ, 田辺三菱製薬, 中外製薬, ブリストル マイヤーズ, ユーシービージャパン ) 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号 1781

招請講演 文献 1 ) 竹内勤 : 関節リウマチ. 日内会誌 99 : 2392 2400, 2010. 2 ) 竹内勤 : 関節リウマチの治療の進歩. 日内会誌 101 : 647 653, 2012. 3 ) 竹内勤 : 関節リウマチ : 診断と治療法の進歩. 日内会誌 101 : 2815 2817, 2012. 4 ) 竹内勤, 金子祐子 : 関節リウマチにおける Treat to Target 治療戦略. 日内会誌 103 : 2321 2327, 2014. 5 ) Kaneko Y, et al : American College of Rheumatology/European League Against Rheumatium remission criteria for RA maintain reliable performance when evaluated in 44 joints. J Rheumatol 40 : 1254 1258, 2013. 6 ) 竹内勤 : 関節リウマチ治療の最新の進歩と今後の課題. 日内会誌 104( 臨時増刊号 ):84 88, 2015. 7 ) Takeuchi T, Kameda H : The Japanese experiences with biologic therapies for rheumatoid arthritis. Nat Rev Rheumatol 6 : 644 652, 2010. 8 ) Nishina N, et al : Reduction of plasma IL-6, but not TNF-α by methotrexate in patients with early rheumatoid arthritis : a potential biomarker for radiographic progression. Clin Rheumatol 32 : 1661 1666, 2013. 9 ) Takeuchi T, et al : Inhibition of plasma IL-6 in addition to maintain efficacious trough level of infliximab was associated with clinical remission in patients with rheumatoid arthritis : analysis of the RISING Study. Ann Rheum Dis 71 : 1583 1585, 2012. 10)Kikuchi J, et al : Peripheral blood CD4+CD25+CD127low regulatory T cells are significantly increased by tocilizumab treatment in patients with rheumatoid arthritis : increase in regulatory T cells correlates with clinical response. Arthritis Res Ther 17 : 10, 2015. 1782 日本内科学会雑誌 104 巻 9 号