摂食嚥下障害の評価 簡易版 2015 改訂日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会藤島一郎, 高橋浩二, 二藤隆春 勝又明敏, 弘中祥司 小山珠美, 松木るりこ 山本弘子, 兼岡麻子委員長 : 武原格 嚥下障害患者の評価は, 場面 ( 外来, 入院 施設入所なのか ), 病状 ( 急性期,

Similar documents
<4D F736F F F696E74202D2091BD968088DD82EB82A4836C F815B834E2892F18F6F A90CE8E528EF58E71>

PowerPoint プレゼンテーション

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

Microsoft Word 栄マネ加算.doc

頭頚部がん1部[ ].indd

<4D F736F F F696E74202D2092F990B CFB8D6F8B40945C82CC955D89BF82C982C282A282C4>

摂食・嚥下障害 まず最初に何を見ますか?

PowerPoint プレゼンテーション

2) 各質問項目における留意点 導入質問 留意点 A B もの忘れが多いと感じますか 1 年前と比べてもの忘れが増えたと感じますか 導入の質問家族や介護者から見て, 対象者の もの忘れ が現在多いと感じるかどうか ( 目立つかどうか ), その程度を確認する. 対象者本人の回答で評価する. 導入の質

SpO2と血液ガス

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

JHN CQ 天理 嚥下障害と誤嚥への対応.pptx

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

今日お話しすること 1 重症心身障害児の摂食嚥下機能における問題 2 摂食嚥下機能の評価 ( 正常を知る ) 3 症例 4 まとめ

口腔ケア アセスメント解析データベース 平成 23 年度に作成した, 口腔ケア アセスメント票 の結果を効率的に管理, 分析できるソフトです 平成 24 年度, 仙台保健福祉事務所が介護老人保健施設ももせ塩竈において実施した, 口腔ケアの取組強化を目的としたモデル事業において, 仙台保健福祉事務所と

摂食嚥下障害の評価 2019 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 委員 : 勝又明敏, 兼岡麻子, 小山珠美, 高橋浩二, 二藤隆春, 弘中祥司, 藤島一郎, 松木るりこ, 山本弘子, 外部協力委員 : 神津玲, 松尾浩一郎, 谷口洋, 若林秀隆, 委員長 : 武原格 0. 基本情報

<955C8E862E657073>

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

< 嚥下運動とは > 嚥下運動は, 嚥下第 1 期 ( 口腔期 第 2 期 ( 咽頭期 第 3 期 ( 食道期 の 3 期に分けられます. しかし摂食行為を考えた場合, 嚥下運動に先立ち何をどのように食べるかを判断し口腔まで食物を運ぶ先行期 ( 認知期, 食物を捕食し咀嚼し飲み込みやすい食塊 (bo

330 先天性気管狭窄症 / 先天性声門下狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から喉頭 ) と下気道 ( 気管 気管支 ) に大別される 指定難病の対象となるものは声門下腔や気管に先天的な狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも先天性気管狭窄症や先天性声門下狭窄症が代表的な疾病である 多

針刺し切創発生時の対応

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

嚥下時の咽頭クリアランスの 加齢による変化

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度


摂食・嚥下と食事介助のポイント

スライド 1

( 別添様式 2) 喀痰吸引等業務 ( 特定行為業務 ) の提供に係る同意書 下記の内容について十分な説明を受け内容を理解したので 喀痰吸引等業務 ( 特定行為業務 ) の実施に同意いたします 喀痰吸引等 ( 特定行為 ) の種別 口腔内の喀痰吸引該当する ( 実地研修を実施する行為 ) にチェック

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

‘¬“û”qFinal

減量・コース投与期間短縮の基準

<4D F736F F D208C8B8A6A90DA90478ED28C CC82C482D182AB2E646F63>

2009年8月17日

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D CB48D655F94928D95445F90488E9690DB8EE68AEE8F802E646F63>

特別支援学校における介護職員等によるたんの吸引等(特定の者対象)研修テキスト

平成 27 年 1 月から難病医療費助成制度が変わりました! (H26 年 12 月末までに旧制度の医療費助成を受けている人は 3 年間の経過措置 を受けられます ) 分かり難い場合は協会又は自治体の窓口へお問い合わせください H27 年 1 月からの新制度 1. 難病医療費助成の対象は ALS 重

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

<4D F736F F D204E FA967B8CEA94C58169E0D58BA6905F8C6F93E089C894C5816A E646F63>

私のリビングウィル 自分らしい最期を迎えるために あなたが病気や事故で意思表示できなくなっても最期まであなたの意思を尊重した治療を行います リビングウィル とは? リビングウィルとは 生前に発効される遺書 のことです 通常の遺書は 亡くなった後に発効されますが リビングウィルは 生きていても意思表示

下唇口峡図 1-1 口腔の各部 摂食嚥下器官の解剖 One1 1Chapter 1 口腔の構造 口腔は呼吸器の最末端と最初の消化器を担う重要な器官であり, 摂食嚥下, 唾液による消化, 呼吸や発声などの多くの役割を果たしている. 前方を口唇 ( 上唇, 下唇 ), 側方を頬, 上方を口蓋 ( 硬口蓋

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

問題 A 問 1. 老化に伴う口腔機能の変化で適切なものを選びなさい 1. 刺激唾液の増加 2. 咀嚼時間の短縮 3. 味覚閾値の低下 4. 最大咬合力の低下 5. 喉頭侵入頻度の減少 問 2. 間違っているものを選びなさい 1. ロコモ は 骨 + 関節 + 筋肉 の連動としての運動能力の低下を指

Microsoft PowerPoint - H27.5実技研修(呼吸器)配布資料 (2) [互換モード]

第 41 回 KTSM 実技セミナー in 兵庫基礎コース概要報告 開催目的 高齢化に伴い 複数の原因による摂食嚥下障害を有する高齢者が多くなり 医療 介護 福祉での食事ケアの充実 技術の向上が必要とされている 今回食事支援に必要となる 安全安楽なポジショニング 早期経口摂取につなげるベッドサイドス

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

佐久病院・腎移植患者様用パス

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

1 施設設備の衛生管理 1-1 食品取扱室の清掃及び保守点検 < 認証基準 > 床 内壁 天井 窓 照明器具 換気扇 手洗い設備及び排水溝の清掃手順 保守点検方法が定められていること 床及び排水溝の清掃は1 日に1 回以上 その他の清掃はそれぞれ清掃の頻度の記載があること 保守点検頻度の記載があるこ

<30358CC48B7A8AED C838B834D815B8145E4508CB E089C88A772E786477>

Transcription:

摂食嚥下障害の評価 簡易版 2015 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会では 2011 年に摂食嚥下障害の評価簡易版 ( 案 ) を作成し これまでに多くの会員の方々に利用して頂いてきた. しかし この評価表 ( 案 ) だけでは十分に患者の状態を記載しきれないこともあり より詳細に嚥下障害の状態を評価できるように改訂を行った. 当初は詳細版を作成しようという考えもあったが 今回も簡易版として出すことになった. 各職種でそれぞれの詳細な評価は実施していただき 本評価はチーム内や施設間の連携ツールに役立つように配慮してある. この評価は前回同様に表にまとめて記載する方式をとっている. しかし今回は 摂食状況のレベルを追加し 各評価項目の評価内容の追加を行った. そのため 1 枚の評価表では見にくい場合もあり 同じ評価表を 1 枚にまとめたものと 2 枚に分けて見やすくしたものを作成した.2 枚に分けたものは 本学会のホームページよりダウンロードできるのでご利用頂きたい. また表の各項目については解説をつけてあるので 初心者や不明な点は解説を読んでから評価して頂ければ幸いである. 電子カルテが普及してきたことも考慮し 評価表を電子カルテに組み込むことも想定し 本学会のホームページからダウンロードする際 pdf ファイルのみならず excel ファイルでもダウンロードできるように変更した. 本評価表が会員の皆様の日常臨床に利用頂ければ幸いである. 2015 年 3 月日本摂食 嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 jsdr@fujita-hu.ac.jp

摂食嚥下障害の評価 簡易版 2015 改訂日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会藤島一郎, 高橋浩二, 二藤隆春 勝又明敏, 弘中祥司 小山珠美, 松木るりこ 山本弘子, 兼岡麻子委員長 : 武原格 嚥下障害患者の評価は, 場面 ( 外来, 入院 施設入所なのか ), 病状 ( 急性期, 回復期, 生活期 ) や嚥下障害の重症度などで異なると思われるが, ここでは最低限診ておくべきポイントを示し, 結果を一枚の表として分かり易くまとめる方法を提示する. 評価項目と内容は日本摂食嚥下リハビリテーション学会の認定士レベルを想定している. 未評価は空欄として, 未評価であることがわかるように, 理由を余白の部分の部分に記載する. この表が他施設などに紹介する場合にも統一した評価表として使用されれば共通理解の一助になると考えている. 以下項目について診るべきポイントを解説する. なお, 各大項目に その他 の欄を設けてあるが小項目にあげた以外で特筆すべき点や補足説明を記載して評価の補助とするためのものである. なおこれ以外の詳細な情報が必要な場合は各職種 ( 各領域 ) で別途作成し使用することとする. 0. 表のはじめ部分は患者の基礎情報を記載する項目をあげてある. バイタルサインをとり, 可能な限り経皮的血中酸素飽和度 (SpO 2 ) を測定しておく. 主訴や症状で最も問題となっている点を記載する. 症状に関しては自覚症状が基本であるが, 本人の訴えだけでなく家族 介護者などによる他覚症状の場合もあるのでその場合はその旨を記載する. 疾患に関する情報も重要であり, 嚥下障害の原因となりうる可能性のある疾患名をわかる範囲で記載する. 不明の場合はその旨記載する. 既往歴も同様. 嚥下障害のリハビリテーションでは予後予測が大切であるが, 疾患その発症からの時期におよび既往歴, 併存症とよってかなりのことが判る. 経口摂取に関してはその内容として : 常食 粥 きざみをあげてあるが, 嚥下調整食としてゼリー食とか, ミキサー食などを食べている場合はその他 ( ) のところに記入する. 嚥下調整食学会分類 2013 に対応したコードを記入すれば連携などの際に有用である. 摂食 嚥下状況のレベルについても記入する 次項目にある補助 ( 代替 ) 栄養を用いていて, 楽しみレベルであっても経口摂取していればその内容を記載することとする. 補助 ( 代替 ) 栄養について, 間欠的経管栄養 (OE 法など ) が行われている場合にはその他の項目に記載する. 点滴については必要に応じて末梢点滴 (PPN) か中心静脈栄養 (TPN) か皮下注射かなどを追加で記載する 座位耐久性についても車いす乗車の可否, 時間を中心に記載する. ( 藤島一郎 )

1 認知 意識レベル : 基準は開眼して周囲に気配りができていれば 清明, そうでなければ 不清明 とする. ぼうっとしている状態も 不清明 と評価する. 何も刺激を与えない状態で開眼していなければ 傾眠 とする. 意思表示 : 口頭 / 筆談 / ジェスチャーなど手段を問わない. 従命 : 指示に対する理解とほぼ同義であるが, 理解はよくても失行症 ( 特に口部顔面失行 ) などがあればスクリーニングテストでの RSST や空嚥下の評価に影響する. 診察時の一般的な会話から推察も可能だが, 具体的に 手を上に上げてください グー, チョキ, パーをしてください 口をとがらせてください などを行い, 失行や空間無視 前頭葉症状などの認知機能障害についても問題があればその旨を別に記載する. 食への意欲 : 食への意欲に関してはその後の訓練に影響する. 食べたい ( 意欲はある ) が食べるとむせて苦しいので食べたくないとか, 食べ始めるとすぐに苦しくなるために食が進まないという場合は意欲ありと判定する. 実際に食べていないことと意欲がないことの区別を判定する必要がある. ( 武原格 ) 2. 食事 摂取姿勢: 食事時の姿勢を記入する. 端座位は背面にもたれかかる物が無い状態を指すこととする. ベッドの横に足を下ろして食べている場合がこれにあたる. 座位が可能でもベッド上でリクライニング位にて摂取している場合には Bed up とし, 床からの角度を記入する. 摂取方法: 自立とはセットしてある食事を, 水分も含め, 一人で全て食べている場合を指す. ペース配分などに関して少しでも声かけをしている場合は 見守り となる. また, 食事全般において一部でも介助を必要とする場合には部分介助とする 飲食中のムセ: 飲食中のムセは, わかる範囲で どういう種類の食品でむせるか 食事のはじめにむせるか, 後半でむせるか などを聞くようにし, 特徴があればその他の欄に記載する. 可能な限り摂食場面を観察する. できない場合にはその場で適当な食品を食べてもらい評価すると良い. ムセがなくても誤嚥がある可能性を考え, 呼吸状態の観察を行なうことも重要である. 時々 とは食事時間中 1,2 回, 頻回とは 3 回以上をめやすとする 口腔内食物残留 : 食後の口腔内のどこにどの程度の食物が残留しているかを確認する. 麻痺側には食物残渣 ( 食べカス ) が多く付着しやすい. 摂食場面を観察したり, その場で適当な食品を食べてもらったりして評価すると良い. 流涎 : 食事場面以外でも常時ある場合は多量とし, 常時と記載する. また, 唾液が飲めずに常に喀出している場合はその他のところに 唾液常時喀出 などと記載する.( 小山珠美 )

3. 頸部 頸部可動域: 頸部可動域は, 咀嚼や嚥下運動, あるいは摂食時の姿勢, 嚥下時の呼吸コントロール等に影響する. 自分自身で動かす自動運動と 他者が動かす他動運動で可動域が異なる場合があるが 本評価は自動ないし他動運動で最大の評価とする 中から特記すべき項目について評価する. 屈曲 ( 前屈 ): 頭部体幹を側面からみて, 頭頂と外耳孔 ( 耳の穴 ) を直線に結んだ線と体幹 ( 肩峰を通る床への垂直線 ) とのなす角度を観察する ( 図 1). 正常可動域は 0~60 度である. 屈曲したときに, ほぼ 60 度近く前屈すれば 制限なし, 多少屈曲するものの不十分な場合は 少し動く, ほとんど動かなければ 不動 とする. 頸部が伸展し図 1 て屈曲 0 度に達しない場合は -( マイナス ) で表現し不動とし その他にその旨を記載する. 2) 回旋 : 正中線と回旋したときの鼻梁 ( 鼻頭 ) とのなす角度を, 左回旋右回旋とで各々につき観察する ( 図 2). 正常可動域は各々 0~70 度であるほぼ 70 度回旋すれば 制限なし, 回旋するものの不十分な場合は 少し動く, ほとんど動かなければ 不動 とする. 図 2 ( 武原格 ) 4. 口腔 口腔機能 義歯 : ここでいう義歯とは取り外しが可能な部分床義歯 ( いわゆる部分入れ歯 ) もしくは全部床義歯 ( いわゆる総入れ歯 ) を示す 歯が揃っており義歯が必要のない場合は 不要, 義歯が必要な場合は 要, がたつき, 痛みなどの訴えがなく義歯を使用している場合は 適合, がたつき 痛みなどの不具合を訴えながらも義歯を装着している場合は 不良, 本来義歯装着が望ましいにもかかわらず装着していない場合は なし とする. 義歯の衛生状態が保たれ 使用法 保管法が正しい場合は 適切 義歯が不衛生もしくは使用法が誤っている場合は 不適切 とする 衛生状態 ( 口腔 ): 口腔内を観察したときに食物残渣を認める場合, あるいは経口摂取をしていなくても剥離上皮や粘着物の付着が認められる場合には 不良, 食物残渣はないが歯垢や歯石が目立つ場合には 不十分, ほとんど歯垢や歯石が見られない場合は 良好 とする. 口腔機能が正常に保たれていると自浄作用も働くので衛生状態は良好となる. 口腔衛生状態は誤嚥性肺炎発症の予測因子となる. 口腔乾燥が疑われる場合 : 口腔内をライトで照らし 口腔内粘膜の状態を観察する 湿潤状態を観察する また 舌苔付着 舌裂溝などの舌の変化を記録する 専門的には 顎下腺 耳下腺からの唾液流出を確認する 口腔乾燥の原因は多岐にわたるので 必要があれば専門医に診察を依頼する 開口量 : 開口は, できるだけ大きく口を開けてもらい, 手

のひらを縦方向にして指先から口に入れ, 指の幅で開口量を評価する. 示指, 中指, 薬指の幅に相当する場合は 3 横指, 示指, 中指の幅に相当する場合は 2 横指, 示指の幅に相当する場合 1 横指とする. 口腔感覚異常 : 口腔感覚異常は閉眼させた状態で こよりなどで上唇, 下唇, 舌に軽く触れ, 鈍麻がみられる場合はその部位を記入する 口角下垂 : 口唇を閉鎖させた状態で口角下垂の有無を評価する. 軟口蓋運動 (/ ア / 発声時 ): 短い / ア / の連続発声時の軟口蓋の挙上運動を視診で評価する. 健常人の軟口蓋挙上運動と同等の場合は十分, 挙上が少ない場合あるいは口蓋垂の偏位を伴う場合は不十分, 挙上運動を認めない場合をなしとする. 口腔内食物処理 : 咀嚼 すりつぶし 押しつぶし 普通食を咀嚼可能な場合は十分, 軟食のみを咀嚼可能な場合は不十分, いわゆる咀嚼はできないがすりつぶし 押しつぶしができる場合はそれを記す 全くできない場合は不能とする 舌運動 : 舌運動の評価は, 口を軽く開けた状態で舌をできるだけ前に出してもらい ( 挺舌 ) 舌尖の位置と偏位の有無を評価する. 下唇より前下方に出せれば 十分 とし, それ以下は不十分, 挺舌ができない場合は不能とする. 舌尖の偏位がある場合は偏位している方向を記載する. ( 高橋浩二, 勝又明敏, 弘中祥司 ) 5. 発声 構音気管切開孔の有無を記載する. 気管カニューレを使用している場合は, カフやスピーチバルブの有無を併せて記載する. 例 : カフ付きカニューレ, スピーチカニューレ ボタン型カニューレ ( レティナ ) など メーカー名, 商品名などを書いても良い 発声 : 声帯振動を伴う発声を 有声 伴わない発声を 無声 という. 声帯振動を確認するためには喉頭を触診すると良い 母音は全て有声なので, / アー / や / エー / などと発声させてはっきり聞こえれば 有声, 呼気も弱く 発声にいたらない場合は なし とする. 重度の失語症などで発話が困難であっても声が出れば 有声 か 無声 に分類する. 湿性嗄声 : 誤嚥の徴候の一つである湿性嗄声 ( 湿り気を帯びたごろごろぜろぜろした声 ) を評価する. 発声や会話時に湿性嗄声が聞かれなければ なし, 食後などに時々聞かれる場合を 軽度, 常にゴロゴロしている場合は 重度 とする. 湿性嗄声を認める場合には, 自発的あるいは指示による咳払い後に澄んだ声が出るかを確認する. 構音障害: 舌 口唇の運動障害を反映する構音の状態を評価する. 会話が明瞭に聞き取れれば なし, 聞き取りにくいことばがあるが内容が推測できる場合は 軽度, 内容の推測が困難な程度であれば 重度 とする. 失語症や発語失行による喚語困難 ( 言いたい言葉が思い浮かんでいるが発語に至らず あの えっと など言葉を思い出そうとする様子の診られる状態 ), 発話開始の躊躇はこれに含まない. 構音障害が疑われる

場合は, パンダのたからもの と言ってもらい, パ行 ( 口唇 ), タ行 ( 前舌 ), カ行 ( 奥舌 ) に歪みがあるかを評価しておくと良い. これはあくまでスクリーニングであり 構音の歪みが全て評価できるわけではない 開鼻声 : 鼻咽腔閉鎖機能不全によって鼻にかかったような声になる母音の共鳴の異常. / アー / や / イ-/ などを発声させて発声時に鼻にかかった声がなければ なし, 鼻にかかっていれば 軽度, 鼻にかかった感じが強く,/ ンー / のように聞こえてしまえば 重度 とする. その他 : 声のふるえ, 失調, 著しい高さの異常, 声量の低下, 嗄声などがあれば記載する. ( 二藤隆春松木るりこ山本弘子 ) 6. 呼吸機能嚥下と呼吸は密接な関係があり, 経口摂取を開始 継続する上で呼吸機能の評価は重要である. 評価のポイントは1 安静時呼吸数 2 咳 痰の有無 3 随意的な咳である 安静時呼吸数 : 呼吸の主な目的は肺におけるガス交換により血中の酸素と二酸化炭素 ( 炭酸ガス ) の濃度を一定の範囲に保つことであり, 延髄に呼吸中枢がある. 運動などにより末梢において酸素が消費され, 二酸化炭素が産生されると, 一回換気量と呼吸数が増加する. 肺疾患でガス交換機能が低下していると, 一回換気量の減少を呼吸数の増加で補う. 心不全でも肺うっ血などにより一回換気量が減少していると呼吸数は増加する. 一方, 呼吸中枢が障害されると, 呼吸数が減少したり, 呼吸バターンが変化したりする. このように呼吸状態はさまざまな原因で変化するバイタルサインの 1 つである. 成人の安静覚醒時の呼吸数は毎分 12~15 回である.20 回以上を頻呼吸 10 回以下を徐呼吸と判定する 視診で胸郭を観察したり, 鼻孔付近に指を置いて呼気を数えたりして 呼吸数を測定する. わかりにくい場合は, 聴診器を用いて呼吸音を聞き取ってもよい. 随意的な咳 : 誤嚥物を適切に排出できるかを評価する 咳は反射運動であり, 本来 随意的な咳 という表現は不適切かもしれないが, ゴホンと咳をしてください とか 咳をする真似をしてください という指示に対して行われる運動を 随意的な咳 とする. 遂行するには指示理解と呼吸機能がともに良好である必要がある. 排痰法のひとつであるハフィング ( ハッハッ と強く速く息を吐く) や 咳払いで評価してもよい 発生した咳様の音 ( 咳や咳払いでは ゴホン ( エヘン ) ハフィングでは ハッ の音の大きさや強さで確認する 十分に腹筋が収縮しているかを確認するために腹部を触れてみてもよい ほぼ正常ならば 十分 音や腹筋の動きが弱々しく 痰の排出が十分できないと推測される場合は 不十分 指示に従えない場合は 不可 とする 咳 痰の有無 : 咳 ( 咳嗽 ) とは, 気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生態防御反応である. 喀痰 ( 咳によって吐き出される痰 ) を伴わない乾性咳嗽と, 喀痰を伴う湿性咳嗽とに分類される 痰は異物をからめとって体外に排出するために 肺や気管支の粘膜から分泌された粘液の塊であり 感染やアレルギーなどによる炎症が存在する

と分泌量が増加する 通常は透明だが 膿性では白色 ~ 黄色調を呈し 時に血液を混じる 咽頭や口腔まで排出された状態では 鼻 副鼻腔からの分泌物や唾液と区別しがたいことがある 咳や痰は ほぼ全ての呼吸器疾患が原因になり得るが 特に嚥下障害者においては肺炎の存在を強く疑うサインとなる 咳の有無や頻度を確認して なし 時々 頻回 から選択し 咳がみられる場合は 乾性 湿性 を判別する また痰の有無や量を確認して なし 少量 多量 から選択し 喀痰が観察できる場合はその 性状 を記載する なお 咳をして痰を排出する力がない患者では喘鳴 ( ヒューヒューなど ) や痰のからんだような音 ( ゼロゼロ ゴロゴロなど ) しかみられない場合もあり 呼吸の様子をよく観察し記載する 一般的に 肺炎では胸部聴診で気道内の分泌物 ( 痰 ) の存在により水泡音 ( コースクラックル ) が聴かれる ( 二藤隆春 ) 7. スクリーニングテスト摂食嚥下障害のスクリーニングテストとして反復唾液嚥下テスト (RSST:Repetitive Saliva Swallowing Test) や改訂水飲みテスト (MWST:Modified Water Swallowing Test) フードテスト (FT:Food Test) が標準化されており, 初期評価で簡便に行うことができる. RSST 人指し指と中指で甲状軟骨を触知し 30 秒間に何回空嚥下が行えるかを数える. 原法は触診のみであるが, 聴診器での嚥下音の確認と触診を併用すると評価が正確になる. 喉頭隆起が完全に中指を乗り越えた場合に 1 回と数え,30 秒間に 3 回未満の場合にテスト陽性, すなわち問題ありとする. 誤嚥症例を同定する感度は 0.98, 特異度は 0.66 と報告されている. 口頭指示理解が不良な場合は判定不可 例えば手を上げてなどの指示に従えなければ判定困難とみなす MWST: 改訂水飲みテストは 3ml の冷水を嚥下させて誤嚥の有無を判定するテストである 口腔内に水を入れる際に咽頭に直接流れこむのを防ぐため 舌背には注がずに必ず口腔底に水を入れてから嚥下させる 評点が 4 点以上であれば最大でさらに 2 回繰り返し 最も悪い場合を評点とする カットオフ値を 3 点とすると 誤嚥有無判別の感度は 0.70 特異度は 0.88 とされている MWST で評価不能となった場合は, その旨をその他に記載する. とろみ水で評価した場合はどの程度の濃度を使用したのか明記する 以下に日本摂食 嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013 に示されている 3 段階のとろみを示す 1) 薄いとろみ ; コップを傾けると落ちるのが少し遅いと感じるが, コップからの移し替えは容易である. 細いストローでも十分に吸える 2) 中間のとろみ : スプーンで混ぜると, 少しだけ表面に混ぜ跡が残る. スプーンですくってもあまりこぼれないが, フォークでは歯の間から落ちてすくえない. コップから飲むこともできるが, 細いストローで吸うには力が必要 3) 濃いとろみ : 明らかにとろみが付いており, まとまりがよく, 送り込むのに力が必要である. スプーンで eat するという表現が適切で, ストローの使用は適していない. コップを傾

けてもすぐに縁までは落ちてこない. フォークの歯でも少しはすくえる. FT: 茶さじ一杯 ( 約 4g) のプリンを食させて評価するテストで 嚥下後の口腔内残留が評価の対象となっている点がMWSTと異なる カットオフ値を4 点とすると 誤嚥有無判別の感度は 0.72 特異度は 0.62 と報告されている 手順は成書を参照のこと. MWST 評価基準 ) 1. 嚥下なし むせる and/or 呼吸切迫 2. 嚥下あり 呼吸切迫 3. 嚥下あり 呼吸良好 むせる and/or 湿性嗄声 4. 嚥下あり 呼吸良好 むせなし 5.4に加え 反復嚥下が 30 秒以内に2 回可能 FT 評価基準 ) 1. 嚥下なし むせる and/or 呼吸切迫 2. 嚥下あり 呼吸切迫 3. 嚥下あり 呼吸良好 むせる and/or 湿性嗄声 口腔内残留中等度 4. 嚥下あり 呼吸良好 むせなし 口腔内残留ほぼなし 5.4に加え 反復嚥下が 30 秒以内に2 回可能 スクリーニングテストの考え方スクリーニングテストを行う際には それぞれのテストは大まかな状態は把握できるが細かい所はわからないということに留意する また あるテストで状態が不良であると判断された場合にも 別のテストではよい結果が出る可能性もある いくつかのテストを行ってみると 唾液の嚥下は困難であるが 食物の誤嚥は心配なさそうなことが想像される 一方 自発的な嚥下が可能であっても不顕性誤嚥の可能性が高い場合もあるため その他の検査や症状を複合的にみていく 頸部聴診法 (Cervical auscultation) 食塊を嚥下する際に咽頭部で生じる嚥下音と嚥下前後の呼吸音を頸部より聴診する 非侵襲的に誤嚥や下咽頭部の貯留を判定して嚥下障害をスクリーニングする ベッドサイドでも簡便に行えるため嚥下障害の診断の一助として臨床の場に用いられている 聴診を行う部位は喉頭の下方とし 嚥下時の喉頭挙上運動を妨害しない部位とする 1) 手技 1 聴診器の接触子を頚部 ( 輪状軟骨直下気管外側 ) に接触させ 呼気をできるだけ一定の強さで出してもらい聴診する 2 準備した検査食を与え いつものように飲んで下さい と指示し 嚥下音を聴診する 3 嚥下終了後 貯留物の排出行為は行わずに呼気を出してもらい聴診する 4 嚥下前後の呼気音の比較を行う

2) 注意事項 聴診を行う前に咳嗽を複数回行わせ 貯留物を排出させる 呼気を出してもらう時は 発声を伴わないように指示する 接触子を当てる位置は 嚥下時の喉頭挙上運動や頚部の運動を妨げないようにする 3) 判定基準 嚥下音 呼吸音 聴診音長い嚥下音弱い嚥下音複数回の嚥下音 泡立ち音 (bubbling sound) むせに伴う喀出音嚥下音の合間の呼吸音 湿性音 (wet sound) 嗽音 (gargling sound) 液体振動音 むせに伴う喀出音喘鳴様呼吸音 疑われる嚥下障害舌による送り込みの障害咽頭収縮の減弱喉頭挙上障害食道入口部の弛緩障害など誤嚥誤嚥呼吸 嚥下パターンの失調喉頭侵入誤嚥誤嚥や喉頭侵入咽頭部における液体の貯留 誤嚥誤嚥 ( 健常では 5ml の水嚥下時の嚥下音は約 0.5 秒 ) ( 高橋浩二 ) 8. 脱水 低栄養 皮膚 口の乾燥 : 発熱 皮膚の張り具合や かさつきなどを見る. 濃縮尿の有無 尿量の減少がないかをチェックする るいそう ( 痩せ ) は, 数値的には BMI(Body Mass Index: 正常は 18.5~25 で 18.5 未満は痩せと判定 ) や体重減少率 ( 最近 6ヶ月 10% 以上または 2 週間 2% は中等度以上の栄養障害と判定 ) その他 上腕三頭筋皮下脂肪厚 上腕周囲長の基準値との比などから評価される るいそうは, 皮下脂肪と筋肉の喪失による. その状態を, 顔面, 頸部の状態で観察し, 上肢の筋肉の状態も見る. 可能な場合には, 上腕の背側 ( 伸展側 ) の中点の皮下脂肪をつまんでその厚さを確認する. これらの所見から, るいそうの有無と程度を主観的に評価する. その他 : 全体的な活気の低下 感染症 脱水と関連したデータ ( 尿素窒素 アルブミン

など ) がある場合にはコメント欄に記載する ( 小山珠美山本弘子 ) 9. 総合評価表で悪かった項目の内で特に重要なものを1-3 個箇条書きにして記載する. 異常がない場合もその旨記載する. また, 指導のみ, 外来訓練, 入院訓練, 他院へ紹介など今後の治療方針についても可能な限り記載する. ( 武原格 ) 10. 検査代表的な嚥下機能検査法は嚥下造影検査 (VF) と嚥下内視鏡検査 (VE) である.VF は放射線被曝を伴い造影剤を含む食品を検査食として用いるが 嚥下の全過程を観察可能である 一方 VE は鼻腔の違和感があり 咽頭や喉頭の評価が中心となるが 通常の食品を検査食としてベッドサイドで繰り返し実施可能である. 両検査は誤嚥や咽頭残留の検出精度でほぼ互角とする報告もあり 施設や患者の状況に応じて実施可能な検査を行い 必要な情報が得られるように努める. 検査法の詳細については当委員会作成の 嚥下造影の検査法 ( 詳細版 )2014 版 嚥下内視鏡検査の手順 2012 改訂 をご参照いただきたい. ( 二藤隆春 )