治験実施医療機関への治験環境改善のための各種提案について [ 筆者 ( 資料作成者 )] 日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会タスクフォースチーム大村泉美神谷勇輝岸本早江子横山領介西島壮一郎鈴木健太青柳充顕中島唯善近藤充弘
1. はじめに我が国では 臨床研究 治験活性化 5 か年計画 2012 をはじめとした種々の取り組みにより治験実施体制の整備が行われ 治験環境に改善がみられてきた しかし 医療機関の一部の治験業務において治験依頼者からの支援を要する医療機関が少なからず存在すること 治験担当医師の GCP 関連知識や治験への理解不足 効率的な治験実施のための体制や意識の問題 さらに治験の質に対する問題事例が散発しているなどの状況を踏まえると いまだ課題が残されていると言わざるを得ない 現在 ICH-E6 の改訂が進められ そのドラフトには品質マネジメントとして品質を管理するための体制 ( システム ) の導入が求められており 企業治験はもちろん 医師主導治験や ICH-GCP に基づく臨床研究においても 今後医療機関が主体となって品質を管理していくことが一層求められると推測される さらに医療機関自らが Risk Based Approach( 以下 RBA という) を用いた品質管理体制を構築することは 治験依頼者のみならず 医療機関側の業務効率化に繋がることは明らかである また 医療機関の治験スタッフ自らが治験の知識を学ぶトレーニング体制や 治験業務の効率性を最大化するためのマネジメント体制を導入する 自立した医療機関 が増加することで 今後より治験環境が改善していくものと期待する すでに欧米の医療機関では 医療機関内で適切に業務が分担及び細分化され 各業務の責任組織が明確化されており 業務分担の適正化が十分でない我が国においても 今後より適切な業務分担と 業務に対するそれぞれの自主的な管理責任が求められるのではないだろうか 日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会 ( 以下 臨床評価部会 ) では 2015 年度より治験実施環境改善を目指す治験関係者を対象に 研修会等に演者を派遣し 臨床評価部会で検討してきた内容を紹介する活動を行っている 本稿では その活動意義及び目的を示すとともに 2015 年度の活動実績を含め 本活動内容の詳細について紹介する 2. 主な活動内容についてこれまで 臨床評価部会では 治験実施環境改善に関する各種検討と提言を行ってきた 特に治験部門の人数や権限等が十分とは言えない医療機関が 効率的かつ適切に治験業務を実施するためには 自らが治験の実施体制を構築していくとともに 適切にマネジメントすることが必要であると考え 具体的な手法を検討してきた これらを提言で終わらせることなく さらに理解を深め医療現場での実装に繋げることが治験環境改善の底上げにつながると考え啓発活動を行っている 治験実施環境改善のために特に重要と考えている 3 つの講演内容について以下に紹介する 2-1 医療機関における治験トレーニングの現状と実装に向けての提案 治験を円滑に実施するためには 治験に携わる関係者がそれぞれの役割 業務を明確に理解し 業務に必要な知識 スキルを習得したうえで 自らの役割を適正に果たすことが重要となる そこで 医療機関内で効果的に実践できる治験トレーニング体制の構築について提案する 本講演では トレーニングの必要性 日本国内における治験トレーニングの現状の紹介
体系的なトレーニング体制構築の重要性 医療機関への実装方法の提案 トレーニングカリキュラムの紹介 について講演を行う なお 本講演は上記のように医療機関でのトレーニング体制構築が目的であり 講演自体が治験トレーニングを行う場ではないことをご留意いただきたい 想定する聴講対象者 治験実務担当者( 治験担当医師 CRC 治験事務局 治験薬管理者 検査担当者等) 治験関連マネジャー層の方( 治験部門責任者 CRC 管理者等 ) 治験ネットワーク SMO 等で所属医療機関の治験支援に携わっている方 2-2 医療機関主導の治験の品質管理体制構築に向けて 治験を実施する医療機関は 被験者の安全性と最終的な治験データの信頼性の両方に大きく関わっており 医療機関で行う治験実施手順の遵守や正確なデータの確保といった品質管理は 治験全体の質を担保するうえでの鍵となる その品質管理は 近年 出口管理による手法 から プロセス管理による手法 へ変わりつつある このような変化の中で 医療機関自らが治験の品質管理体制を構築することを期待する 治験依頼者も Risk Based Monitoring( 以下 RBM) というモニタリングの新手法の導入を始めているが 両者で治験の品質管理のあり方と今後行うべき Action について考える必要がある 本講演では 品質管理の考え方や手法の変化が求められている背景 リスクに基づく品質管理のベースとなる考え方や各種手法 品質管理に関する実践方法の提案 について講演を行う また 今年度は モニタリングのあるべき姿 (Principle) についてもあわせて講演する予定としている 想定する聴講対象者 治験実務担当者( 治験担当医師 CRC 治験事務局 治験薬管理者 検査担当者等) 治験関連マネジャー層の方( 治験部門責任者 CRC 管理者等 ) 治験ネットワーク SMO 等で所属医療機関の治験支援に携わっている方 2-3 医療機関における治験に関するマネジメント業務についての提案 組織は何をなすべき存在であるか をもとに考えると 全ての組織に共通の概念として組織自体ではなく社会への貢献が組織の存在意義といえる その際 組織が繁栄し社会貢献を最大化するためにマネジメントが適切に機能することが重要となる 医療機関を組織としてとらえた場合 治験業務を通じた社会貢献とは 製薬企業に提出する治験データ ( 成果 ) により新薬や新しい治療法を生み出すことである より多くの成果はより多くの社会貢献につながり マネジメントは 組織により多くの成果をあげさせる
ための仕組みとして機能する 組織全体のパフォーマンスを向上させるには 個々の治験の管理手法を最適化 することが重要となる また 医療機関が抱える 多数の治験を円滑に実施するために必要となる方法 や 治験が医療機関の収益事業となりえるための必要な対応 などの疑問に対し 企業がもつ業務マネジメント機能を治験実施医療機関に応用する方法 を一つの手法として紹介する 本講演では マネジメントの考え方 個々の治験の最適化 複数治験を同時実施する際の最適化 組織全体の基盤強化を目的とした体制構築の提案 について講演を行う 想定する聴講対象者 治験実施医療機関で組織運営をされている方( 治験部門責任者 病院長 経営管理者等 ) 治験実務担当者( 治験担当医師 CRC 治験事務局 治験薬管理者 検査担当者等) 治験関連マネジャー層の方( 治験部門責任者 CRC 管理者等 ) 3. 2015 年度の活動実績 2015 年 5 月から活動を開始し 2016 年 4 月までの間に全国 9 箇所 1500 名以上の治験関係者を対象として講演活動を実施した 講演した内容は主に 2 章に挙げた 3 つの内容であるが 適宜医療機関の要望を聴きながら 内容をカスタマイズして講演している 治験関連団体や病院への演者派遣として実施し 主な聴講者は医師 CRC 治験関連マネジャーである 講演後 聴講者に対して講演内容及び理解度に関するアンケートを実施し 合計 1319 名の回答を得た 一例として 日本 SMO 協会の第 31 回継続研修会 医療機関主導の臨床試験品質管理体制の構築に向けて ~リスクに基づく品質マネジメント導入の提案 ~ での講演後アンケート結果を以下に示す 企業が実施し始めている RBM の認知度は講演前より高かったが 医療機関で取り入れることができる RBA や PDCA の品質管理手法を具体的に紹介することで 受講後には医療機関で実践する品質管理方法の理解が深まったという意見が約 90% を占めた ( 図 1)
図 1: 講演受講後の理解度の変化 PDCA という品質管理手法 148 237 38 2 RBA という品質管理手法 93 275 40 12 RBM 129 239 53 7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 深まった もしくは以前から理解していたある程度深まった あまり変わらなかった 変わらなかった また 講演で紹介した手法を 今後自身の担当医療機関に取り入れたい との回答は約 70% であり 講演内容に とても満足 及び 満足 との回答も約 70% であった ( 図 2) 図 2: 講演満足度 2% 0% 15% とても満足 26% 満足 普通 やや不満 ( 期待にやや足りない ) 57% 不満 ( 期待外れ )
RBM という言葉の認知度は高まってきているが 医療機関自らが実施する品質管理の具体 的な手法については各人がまだまだ手探り状況であると考えられた このことから 具体 的手法を提案している本講演活動は 医療機関内での品質管理体制構築の一助につながっ たものと期待している また本講演活動のポイントとしては 講演のみならず参加者とグループディスカッション やワークショップを併用している点にあり 実装に向けたより具体的な提案を行ってきた この点についてアンケートでも高評価を得ており 知識の習得に加え具体的事例を一緒に 検討することで より実装へ向けた一歩に繋がっていると考える 写真 公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 臨床研究セミナー また 本年 1 月に実施した西部 CRC の会研修会 医療機関主導の臨床試験品質管理体制の 構築に向けて リスクに基づく品質マネジメント導入の提案 の講演後 講演内容を参 考にプロセス管理手法などを実装すべく取り組みを開始しているという情報も入手してお り 医療機関での具体的な実装の動きも徐々に見え始めてきたところである 4. 本講演活動の応募方法について 本 講 演 活 動 に つ い て は 日 本 製 薬 工 業 協 会 の ホ ー ム ペ ー ジ http://www.jpma.or.jp/medicine/shinyaku/tiken/message/receipt.html にて 講演 内容の紹介や申し込み方法 注意点等応募方法に関する詳細を掲載している なお 聴講対象者としては 治験実施環境の向上に向けて現在活動されている個人及び組 織 団体としており 講演内容の実践へ向けて取り組んでいただけることを前提としてい る また参加人数等いくつか申し込み条件を設けており 条件に合致しない場合や 営利 目的の研修会 1企業の社内研修目的等での講演は対象外としている
5. まとめ本講演活動の目的は自主的に各種管理体制が構築されている医療機関 つまり治験のプロフェッショナル医療機関を日本に増やすことである 適切な品質管理 信頼性の高いデータの構築 治験の知識 スキルの習得 GCP や治験実施計画書を遵守した高質かつ効率的な治験の実施 マネジメント手法の導入による治験業務の最適化などを自ら積極的に進めている医療機関が 今後治験依頼者から必要とされる医療機関になると確信する また 臨床評価部会の過去の提言を講演形式 ワークショップ形式で医療機関等の治験関係者に直接的に働きかけることによって 意識改革を含め具体的な行動の開始など更なる効果を生むことを期待している 本講演活動が 治験実施環境の改善に寄与することを期待しており 積極的に活用いただきたい ( 製薬協ホームページより ) 以上