444 章皮膚の悪性腫瘍 悪性リンパ腫および類縁疾患 malignant lymphoma and other hematopoietic tumors 概念 悪性リンパ腫 (malignant lymphoma) はリンパ球系細胞由来 の悪性腫瘍である. 皮膚の悪性リンパ腫 皮膚リンパ腫 (cutaneous lymphoma) は非 Hodgkin ホジキンリンパ腫の一つで, 診断時に皮膚以外の臓器で腫瘍細胞を認めない原発性皮膚リンパ腫 (primary cutaneous lymohoma) と, 他部位に原発病変があり, 転移巣として皮膚病変を生じる続発性皮膚リンパ腫 (secondary cutaneous lymphoma) に大別される. 以下, 原発性皮膚リンパ腫を中心に述べる. 分類皮膚は消化管や鼻咽喉についで節外性リンパ腫を生じる頻度が高い. 原発性皮膚リンパ腫の分類にはさまざまなものがあったが,2005 年に WHO/EORTC 分類が提唱され, 統一されつつある ( 表.6). 増殖細胞の由来から,T 細胞,NK 細胞,B 細胞, 血液前駆細胞に大別され, さらに臨床所見や表面マーカー, 分化度などから分類される. 日本では原発性皮膚リンパ腫 表.6 原発性皮膚リンパ腫の病型 皮膚 T 細胞 NK 細胞リンパ腫 (cutaneous T cell lymphoma;ctcl / NK-cell lymphoma) 菌状息肉症 (mycosis fungoides;mf) Sézary 症候群 (Sézary syndrome;ss) 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 (adult T cell leukemia / lymphoma;atll) 原発性皮膚 CD30 陽性リンパ増殖症 (primary cutaneous CD30 + T-cell lymphoproliferative disorders) 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma) リンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis) 皮下脂肪織炎様 T 細胞リンパ腫 (subcutaneous panniculitis-like T cell lymphoma) 節外性 NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型 (extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type) 種痘様水疱症様リンパ腫 (hydroa vacciniforme-like lymphoma) 原発性皮膚 g /d T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous g /d T-cell lymphoma) 原発性皮膚 CD8 陽性進行性表皮向性細胞傷害性 T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous CD8 + aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell lymphoma) 原発性皮膚 CD4 陽性小 中細胞型 T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous CD4 + small/medium T-cell lymphoma) 末梢性 T 細胞リンパ腫, 非特定 (peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified) 皮膚 B 細胞リンパ腫 (cutaneous B cell lymphoma;cbcl) 原発性皮膚辺縁帯 B 細胞リンパ腫 (primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma) 原発性皮膚濾胞中心リンパ腫 (primary cutaneous follicle center lymphoma:pcfcl) 原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫, 下肢型 (primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type) 原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫, その他 (primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, other) 血管内大細胞型 B 細胞リンパ腫 (intravascular large B-cell lymphoma) 血液前駆細胞腫瘍 (precursor hematologic neoplasm) CD4 + /CD56 + hematodermic neoplasm, blastic NK-cell lymphoma (Kim YH, et al. Blood 110: 479, 2007 を参考に作成 )
悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 445 の 90% が T 細胞由来 ( 皮膚 T 細胞リンパ腫 ) である. 検査 診断病型の決定には病理組織学的検討が必須である.HE 染色に加えて, 各種表面マーカーや T 細胞受容体 (TCR), 免疫グロブリン (Ig) の発現を免疫組織学的に検討する.TCR および Ig 遺伝子再構成を検索することで腫瘍細胞の起源や単クローン性を調べる. 病期決定を行うために各種画像検索 (CT,PET, 超音波検査, 消化管検査など ), 末梢血検査 ( フローサイトメトリー,LDH, 可溶性 IL-2 受容体 (MEMO 参照 ),HTLV-1 検査, EBV 抗体価, ボレリア抗体など ), 骨髄穿刺 ( 生検 ), リンパ節生検などを考慮する. 以下, 主な疾患について概説する. 可溶性 IL-2 受容体 (soluble IL-2 receptor;sil-2r) A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 cutaneous T cell lymphoma;ctcl そくにく 1. 菌状息肉 症 mycosis fungoides;mf 最も頻度の高い皮膚 T 細胞リンパ腫. 数年 数十年にわたって慢性に経過. 皮疹の形態により紅斑期, 局面期, 腫瘍期に分類される. 末期まで他臓器への浸潤をみない. 病理所見で表皮内の異型リンパ球浸潤 ( ポートリエ微小膿瘍 ). 治療はステロイド外用や紫外線療法が中心. 末期では化学療法など. 症状皮疹の形態 ( 図.36) により経過を 3 期に分類する. 初期には湿疹 皮膚炎や乾癬に類似した皮疹が出現し, これが数年 10 年以上続く ( 紅斑期 ). 続いて浸潤を触れる扁平に隆起した皮疹を呈するようになり ( 局面期 ), さらに数年後には腫瘤を形成してリンパ節転移や他臓器への浸潤をきたすようになる ( 腫瘍期 ). 1 紅斑期 erythematous stage( 斑状期 :patch stage) 体幹や四肢に, さまざまな形状と大きさをもつ紅斑が多発, 軽度の落屑を伴う. 軽い瘙痒を伴うことがあり, 一見, 脂漏性皮膚炎や乾癬,G ジベルひこうしん ibert ばら色粃糠疹などと区別がつかない. ステロイド外用薬に反応することもあるが, 一般的には皮疹は増悪と軽快を繰り返しながら数年 数十年かけて拡大する. 進行 図.361 菌状息肉症 (mycosis fungoides) 紅斑期.
446 章皮膚の悪性腫瘍 菌状息肉症の亜型 類縁疾患 a に伴って皮膚萎縮や色素沈着 ( 多形皮膚萎縮 ) をきたすことも多い. 局面状類乾癬 (15 章 p.273 参照 ) は本症への移行が多くみられ, 紅斑期の一種と考えられている. 2 局面期 plaque stage( 扁平浸潤期 :infiltrative stage) 紅色ないし紅褐色で, 扁平に隆起し浸潤を触知する. 環状や馬蹄状などの形態をとり, 鱗屑を伴うことが多い. これが増悪と軽快を繰り返しつつ, 数年かけて次の病期へ移行. 3 腫瘍期 (tumor stage) 暗赤色のドーム状に隆起した弾性腫瘤が出現. 当初は表面平滑であるが, しだいにびらん, 潰瘍化する. 腫瘍期に至ると進行は速くなり, リンパ節や肝臓, 脾臓, 肺などへの浸潤をみる 内臓浸潤期(stage of visceral dissemination). 白血化することはまれ. 免疫能低下による感染症や内臓病変により, 多くは 1 2 年で死の転帰をとる. b 図.362 菌状息肉症 (mycosis fungoides) a: 紅斑期.b: 毛包向性を示す (folliculotropic MF). 病理所見紅斑期 : 真皮浅層にリンパ球浸潤を認め, 海綿状態を伴わない表皮内へのリンパ球浸潤 ( 表皮向性 ) や, 一部では異型リンパ球を認める. 局面期 : 真皮上層に, かなり密な帯状の細胞浸潤を認める. 浸潤リンパ球のなかには, 核の形状が深くくびれた大型の異型細胞もみられる. 表皮向性も顕著になり, ポートリエ微小膿瘍 (Pautrier s microabscess, 図.37) と呼ばれる巣状の表皮内リンパ球浸潤が多数みられる. 腫瘍期 : 表皮向性は軽度で, 真皮全層および皮下組織まで異型リンパ球が浸潤する. 浸潤する腫瘍細胞は CD4 + T 細胞の表面マーカーを有する (CD3 +, CD4 +, CD5, CD20 ). 正常 T 細胞で発現する CD7 や CD26 は, 陰性になることが多い. 診断 鑑別診断 末期になるまで, 血液や生化学的検査などでの異常所見はほ
悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 447 a b c d f e g h l i j k 図.36 3 菌状息肉症 (mycosis fungoides) a c: 局面期.d l: 腫瘍期. 浸潤の強い潰瘍を形成する. とんどない. 診断は臨床および病理所見による. 早期では特徴的な所見が得られにくいため, 疑わしい症例に関しては皮膚生検を繰り返すこともある. 組織の遺伝子再構成解析が有用である. 鑑別を要する疾患は, 湿疹 皮膚炎 ( アトピー性皮膚炎など ), 乾癬, 類乾癬, 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫などである.
448 章皮膚の悪性腫瘍 遺伝子再構成解析 (gene rearrangement analysis) 図.37 菌状息肉症の病理組織像紅斑期から局面期に相当する組織像. 異型を伴うリンパ球が表皮内に侵入し, ポートリエ微小膿瘍 (Pautrier's microabscess) を形成する. 治療 TNMB 分類 ( 表.7) を決定し, 治療法を考慮する. 局面期までの病変には PUVA や narrow band UVB などの光線療法で, ある程度の進行を抑制する. ステロイド外用やインターフェロン投与も行われる. 腫瘍期などの進行例に対しては, 電子線照射や多剤併用化学療法 (CHOP 療法など非 Hodgkin リンパ腫に準じる, 表.8) を行う. 2.S セザリー ézary 症候群 Sézary syndrome;ss 原発性皮膚 T 細胞リンパ腫の一種. 強い瘙痒を伴う. 紅皮症, 表在リンパ節腫脹, 末梢血中での異型リンパ球出現の 3 主徴. 病理所見および治療は菌状息肉症とほぼ同じ. 図.38 Sézary 症候群 (Sézary syndrome) 強い瘙痒を伴う全身の潮紅. 定義紅皮症, 表在リンパ節腫脹, 末梢血中での異型リンパ球出現の 3 主徴を有する原発性皮膚 T 細胞リンパ腫. 現在では, 表.7 で示した TNMB 分類において T4, B2 を満たすものを Sézary 症候群と診断する. 症状 50 歳以上の男性に好発. 全身に落屑を伴う紅斑をびまん性 に認め, 紅皮症 ( 体表面積の 80% 以上 ) の状態を呈する ( 図
悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 449 表.7 菌状息肉症 Sézary 症候群の病期分類 (ISCL /EORTC, 2007) T: 皮膚病変の性質と範囲 T1: 体表面積の 10% 未満 T1a( 斑のみ ),T1b( 局面を伴う ) T2: 体表面積の 10% 以上 T2a( 斑のみ ),T2b( 局面を伴う ) T3:1 個以上の腫瘤形成 ( 直径 1 cm 以上 ) T4: 紅皮症 ( 体表面積の 80% 以上 ) N: リンパ節 N0: 臨床的に異常リンパ節なし # N1: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN0-2 * N1a( クローン性増殖なし ),N1b( クローン性増殖あり ) N2: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN3 * N2a( クローン性増殖なし ),N2b( クローン性増殖あり ) N3: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN4 * Nx: 臨床的に異常リンパ節あるが, 組織学的確認なし M: 内臓 M0: 内臓病変なし M1: 内臓病変あり ( 組織学的に確認 ) B: 血液 B0: 末梢血リンパ球のうち, 異型リンパ球の数が 5% 以下 B0a( クローン性増殖なし ),B0b( クローン性増殖あり ) B1: 末梢血リンパ球のうち, 異型リンパ球の数が 5% を超えるが,B2 を満たさない B1a( クローン性増殖なし ),B1b( クローン性増殖あり ) B2:Sézary 細胞 ( クローン性増殖あり ) が 1000 個 /ml 以上 (Olsen E et al. Blood 110 : 1713, 2007 を参考に作成 ) T N M B ⅠA 1 0 0 0,1 ⅠB 2 0 0 0,1 ⅡA 1 2 1,2 0 0,1 ⅡB 3 0 2 0 0,1 ⅢA 4 0 2 0 0 ⅢB 4 0 2 0 1 ⅣA1 1 4 0 2 0 2 ⅣA2 1 4 3 0 0 2 ⅣB 1 4 0 3 1 0 2 # 異常リンパ節 : 表面から触れ, なおかつ硬い, 不整形, 集簇, 可動性不良ないし直径 1.5 cm 以上のもの * リンパ節の NCI 分類 NCI LN0: 異型リンパ球なし NCI LN1: 随所に孤立性異型リンパ球を認めるが, 集塊はつくっていない NCI LN2: 多数の異型リンパ球, または 3 6 細胞の集塊 NCI LN3: 異型リンパ球が大きな集塊をつくるが, リンパ節の基本構造は保たれる NCI LN4: 異型リンパ球または腫瘍細胞によってリンパ節構造が部分的あるいは完全に消失する 表.8 菌状息肉症 ( 腫瘍期 ) に適用される CHOP 療法の例.38). しばしば強い瘙痒を伴う. また, 表在リンパ節腫脹 ( 画像上 1.5 cm を越える ) と肝脾腫をみる. 全身状態は一般に良好で発熱はない. 進行すると結節性の皮疹を生じ, 内臓臓器へ浸潤する場合がある. 病理所見 検査所見末梢血で白血球増加と異型リンパ球を認める. この異型リンパ球は Sézary 細胞 (CD4 + T 細胞の表面マーカーを有する ) と呼ばれ, 菌状息肉症で観察される細胞と同様の, 切れ込みの深い核を有する. 紅皮症の皮疹部では, 真皮上層に帯状または血管周囲性のリンパ球浸潤, さらに Sézary 細胞も認める. 表皮にポートリエ微小膿瘍をみる場合もある ( 図.37 参照 ).