皮膚T細胞リンパ腫・菌状息肉症・Sezary症候群なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

序 皮 膚 リンパ 腫 分 類 は 世 界 的 なコンセンサスがとれた 理 解 しやすいものになってき ました. 長 年, 皮 膚 リンパ 腫 診 療 に 携 わってきたものとして,その 進 歩 には 隔 世 の 感 があり, 皮 膚 科 医 の 役 割 の 大 きさを 再 認 識 しています.その

医学会誌-36巻第2号-1-瀬戸山充さん indd

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

CQ29. Indolent 群に対して放射線療法は勧められるか 推奨文 : Indolent 群 (PCMZL, PCFCL) では放射線療法が勧められる. 解説 : Indolent 群 (PCMZL, PCFCL) に対する放射線療法の効果に関するランダム化及び非ランダム化比較試験は存在しない

DLST の実際実際に DLST を行う手順を簡単にご説明します 患者末梢血をヘパリンや EDTA 添加の採血管で採取します 調べる薬剤の数によって採血量は異なりますが, 約 10 20mL 採血します. ここからフィコール比重遠心法により単核球を得て 培養液に浮遊し 96 穴プレートでいろいろな薬

Bowen病 ・白板症・ケラトアカントーマなら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

皮疹が出現するメカニズムは不明のものが多いのですが 後天性魚鱗癬を除き 腫瘍細胞が産生する TGF-aや EGF により表皮細胞の増殖が誘導されることが一因であろうとの推測がなされています Leser trélat 兆候は 有名な病態であり 実際 多くの症例が報告されています 最近は皮膚科以外の診療

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

呈することです 侵さない臓器は無いと言ってもいいくらいに現在までに多くの臓器病変が記載されています ( 表 2) ただし 悪性腫瘍( 癌 悪性リンパ腫など ) や類似疾患 (Sjögren 症候群 原発性硬化性胆管炎 Castleman 氏病 二次性後腹膜線維症 肉芽腫性多発血管炎 サルコイドーシス

線に及ぶ 4 パッチテスト 光パッチテストで多数の陽性物質が検出されるが それらの抗原によるアレルギー反応は直接原因ではない 5 病理組織学的に湿疹 皮膚炎群の所見を示し 時に真皮内に異型リンパ球の浸潤がみられる などです なお 現在までに本疾患の原因は解明されていません 慢性光線性皮膚炎の臨床像次

リンパ球は 体内に侵入してきた異物を除去する (= 免疫 ) 役割を担う細胞です リンパ球は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞から分化 成熟したリンパ球は免疫力を獲得し からだを異物から守ります 骨髄 リンパ球の

2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

日本皮膚科学会 / 日本皮膚悪性腫瘍学会編 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン II: 皮膚リンパ腫 暫定版 岩月啓氏 1 河井一浩 2 大塚幹夫 3 大野貴司 1 八木宏明 4 戸倉新樹 5 瀬戸山充 6 長谷哲男 7 菅谷誠 8 土田哲也 9 1. 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野 2.

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

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164 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 表皮 A-2 B-3 真皮 A-1 B-2 A-1: 皮膚白血球破砕性血管炎 A-2:IgA 血管炎 B-1: 結節性多発動脈炎 B-2: 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 B-3: 多発血管炎性肉芽腫症 皮下組織 B-1 図.2 炎症の主座となる血管の深さと血

9章 その他のまれな腫瘍

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

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して広く用いられてきました この Clark 分類に異を唱えたのが Bernard Ackerman であります Ackerman は 1980 年に発表した malignant melanoma: a unifying concept と題する論文において Clark らの病型分類は無意味であると


汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

2015 年 4 月 16 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 3 シンポジウム1-1 Netherton 症候群とその類症 旭川医科大学皮膚科教授山本明美 はじめに Netherton 症候群は魚鱗癬 竹節状の毛幹に代表される毛の異常とアトピー症状を3 主徴とする遺伝性疾患ですが

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292 章角化症 原因不明であるが, 薬剤,C 型肝炎, 歯科金属が誘因となる ことがある. Köbner 現象陽性. 白色線条 (W ウィッカム ickham 線条 ). 病理組織学的には液状変性が認められ, 真皮浅層にリンパ球 の帯状浸潤. 治療は原因の除去, タクロリムス外用, ステロイド外用

450 章皮膚の悪性腫瘍 症状顔面や手背などの露光部に, 直径数 mm 1 cm 程度の淡紅りんせつ色の紅斑性局面を形成し, 固着性の鱗屑や痂皮を伴う. 境界はやや不明瞭. 角化傾向が強く, ときに灰白色の角化性結節や角状の突出 皮角 (cutaneous horn) を認める( 図.8).60 歳

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

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ROCKY NOTE 血球貪食症候群 (130221) 完全に知識から抜けているので基本的なところを勉強しておく HPS(hemophagocytic syndrome) はリンパ球とマクロファージの過剰な活性

通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

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第 112 回日本皮膚科学会教育講演 皮膚病理へのいざない 第 1 回毛包 脂腺に分化する腫瘍 ( 基底細胞癌を含む ) 佐賀大皮膚科三砂範幸 1 毛包腫瘍 :Over view 2 脂腺腫瘍 :Over view 1

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を身につけることが必要です 図 1,2,3 臨床像から初めに他の疾患で あると考えても 少しでも合致しない 点があれば鏡検を行うようにします 極言すれば 初診時には念のため 全 例鏡検していくくらいの意気込みで ちょうどよいです そして 他の疾患と考えて治療を開 始したが 予想どおりの改善が見られ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

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D. 汗腺系腫瘍 413 c d e 図.14 汗管腫 (syringom) 2 5 mm c d e 腔の一端に, 短い尾のような上皮索をつける特徴的な像 オタマジャクシ様 (tdpole-like) またはコンマ状 (comm til) を呈する. 管腔は 2 層の壁細胞からなり, 周囲に結合組

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考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

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MTX を使用している患者に発症するリンパ増殖性疾患は WHO 分類では 移植後リンパ増殖性疾患や HIV 感染に伴うリンパ増殖性疾患と類縁の Other iatrogenic immunodeficiency associated LPD に分類されている 関節リウマチの治療は 近年激変し 早期の

cell factor (SCF) が同定されています 組織学的に表皮突起の延長とメラノサイトの数の増加がみられ ケラチノサイトとメラノサイトの増殖異常を伴います 過剰のメラニンの沈着がみられます 近年 各種シミの病態を捉えて その異常を是正することによりシミ病変の進行をとめ かつシミ病変の色調を薄

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ


10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4


した つまり 従来から研究されてきた IgE/Fc RI を介した活性化経路は 肥満細胞活性化の一面に過ぎず むしろ生体防御の見地からすると 感染に対する防御こそ肥満細胞の機能の中心的な役割である可能性も出てきたのです この一連の研究は 肥満細胞は何もアレルギーを起こすために存在しているのではなく

性の症例や 関節炎の激しい症例に推奨されるが 副作用 ( 肝障害 骨髄抑制 間質性肺炎など ) に留意し 十分なインフォームドコンセントに配慮する必要がある 妊娠までの最低限の薬剤中止期間は エトレチナートでは女性 2 年間 男性 6か月 メトトレキサートでは男女とも3か月とされている TNFα 阻

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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2013 年 5 月 9 日放送 第 76 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 2 教育講演 1 皮膚科における血管炎診療のパラダイムシフト 聖マリアンナ医科大学 皮膚科 准教授川上民裕 血管炎を理解するための基礎知識血管炎とは 病理組織において血管への好中球浸潤 血管壁のフィブリノイド壊死を特徴とし

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最初に事後指導項目規定をお示し致します これらは 陰性スメアに対して行っております まず 取り扱い項目は要医療 要治療の 2 項目あります 要医療扱いの細胞所見は 一つ目に 炎症を伴う強度細胞異型の見られるもの 二つ目として 萎縮像に炎症を伴った強度細胞異型の認められるもの 三つ目として 核異型の伴

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

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444 章皮膚の悪性腫瘍 悪性リンパ腫および類縁疾患 malignant lymphoma and other hematopoietic tumors 概念 悪性リンパ腫 (malignant lymphoma) はリンパ球系細胞由来 の悪性腫瘍である. 皮膚の悪性リンパ腫 皮膚リンパ腫 (cutaneous lymphoma) は非 Hodgkin ホジキンリンパ腫の一つで, 診断時に皮膚以外の臓器で腫瘍細胞を認めない原発性皮膚リンパ腫 (primary cutaneous lymohoma) と, 他部位に原発病変があり, 転移巣として皮膚病変を生じる続発性皮膚リンパ腫 (secondary cutaneous lymphoma) に大別される. 以下, 原発性皮膚リンパ腫を中心に述べる. 分類皮膚は消化管や鼻咽喉についで節外性リンパ腫を生じる頻度が高い. 原発性皮膚リンパ腫の分類にはさまざまなものがあったが,2005 年に WHO/EORTC 分類が提唱され, 統一されつつある ( 表.6). 増殖細胞の由来から,T 細胞,NK 細胞,B 細胞, 血液前駆細胞に大別され, さらに臨床所見や表面マーカー, 分化度などから分類される. 日本では原発性皮膚リンパ腫 表.6 原発性皮膚リンパ腫の病型 皮膚 T 細胞 NK 細胞リンパ腫 (cutaneous T cell lymphoma;ctcl / NK-cell lymphoma) 菌状息肉症 (mycosis fungoides;mf) Sézary 症候群 (Sézary syndrome;ss) 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 (adult T cell leukemia / lymphoma;atll) 原発性皮膚 CD30 陽性リンパ増殖症 (primary cutaneous CD30 + T-cell lymphoproliferative disorders) 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma) リンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis) 皮下脂肪織炎様 T 細胞リンパ腫 (subcutaneous panniculitis-like T cell lymphoma) 節外性 NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型 (extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type) 種痘様水疱症様リンパ腫 (hydroa vacciniforme-like lymphoma) 原発性皮膚 g /d T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous g /d T-cell lymphoma) 原発性皮膚 CD8 陽性進行性表皮向性細胞傷害性 T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous CD8 + aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell lymphoma) 原発性皮膚 CD4 陽性小 中細胞型 T 細胞リンパ腫 (primary cutaneous CD4 + small/medium T-cell lymphoma) 末梢性 T 細胞リンパ腫, 非特定 (peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified) 皮膚 B 細胞リンパ腫 (cutaneous B cell lymphoma;cbcl) 原発性皮膚辺縁帯 B 細胞リンパ腫 (primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma) 原発性皮膚濾胞中心リンパ腫 (primary cutaneous follicle center lymphoma:pcfcl) 原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫, 下肢型 (primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type) 原発性皮膚びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫, その他 (primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, other) 血管内大細胞型 B 細胞リンパ腫 (intravascular large B-cell lymphoma) 血液前駆細胞腫瘍 (precursor hematologic neoplasm) CD4 + /CD56 + hematodermic neoplasm, blastic NK-cell lymphoma (Kim YH, et al. Blood 110: 479, 2007 を参考に作成 )

悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 445 の 90% が T 細胞由来 ( 皮膚 T 細胞リンパ腫 ) である. 検査 診断病型の決定には病理組織学的検討が必須である.HE 染色に加えて, 各種表面マーカーや T 細胞受容体 (TCR), 免疫グロブリン (Ig) の発現を免疫組織学的に検討する.TCR および Ig 遺伝子再構成を検索することで腫瘍細胞の起源や単クローン性を調べる. 病期決定を行うために各種画像検索 (CT,PET, 超音波検査, 消化管検査など ), 末梢血検査 ( フローサイトメトリー,LDH, 可溶性 IL-2 受容体 (MEMO 参照 ),HTLV-1 検査, EBV 抗体価, ボレリア抗体など ), 骨髄穿刺 ( 生検 ), リンパ節生検などを考慮する. 以下, 主な疾患について概説する. 可溶性 IL-2 受容体 (soluble IL-2 receptor;sil-2r) A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 cutaneous T cell lymphoma;ctcl そくにく 1. 菌状息肉 症 mycosis fungoides;mf 最も頻度の高い皮膚 T 細胞リンパ腫. 数年 数十年にわたって慢性に経過. 皮疹の形態により紅斑期, 局面期, 腫瘍期に分類される. 末期まで他臓器への浸潤をみない. 病理所見で表皮内の異型リンパ球浸潤 ( ポートリエ微小膿瘍 ). 治療はステロイド外用や紫外線療法が中心. 末期では化学療法など. 症状皮疹の形態 ( 図.36) により経過を 3 期に分類する. 初期には湿疹 皮膚炎や乾癬に類似した皮疹が出現し, これが数年 10 年以上続く ( 紅斑期 ). 続いて浸潤を触れる扁平に隆起した皮疹を呈するようになり ( 局面期 ), さらに数年後には腫瘤を形成してリンパ節転移や他臓器への浸潤をきたすようになる ( 腫瘍期 ). 1 紅斑期 erythematous stage( 斑状期 :patch stage) 体幹や四肢に, さまざまな形状と大きさをもつ紅斑が多発, 軽度の落屑を伴う. 軽い瘙痒を伴うことがあり, 一見, 脂漏性皮膚炎や乾癬,G ジベルひこうしん ibert ばら色粃糠疹などと区別がつかない. ステロイド外用薬に反応することもあるが, 一般的には皮疹は増悪と軽快を繰り返しながら数年 数十年かけて拡大する. 進行 図.361 菌状息肉症 (mycosis fungoides) 紅斑期.

446 章皮膚の悪性腫瘍 菌状息肉症の亜型 類縁疾患 a に伴って皮膚萎縮や色素沈着 ( 多形皮膚萎縮 ) をきたすことも多い. 局面状類乾癬 (15 章 p.273 参照 ) は本症への移行が多くみられ, 紅斑期の一種と考えられている. 2 局面期 plaque stage( 扁平浸潤期 :infiltrative stage) 紅色ないし紅褐色で, 扁平に隆起し浸潤を触知する. 環状や馬蹄状などの形態をとり, 鱗屑を伴うことが多い. これが増悪と軽快を繰り返しつつ, 数年かけて次の病期へ移行. 3 腫瘍期 (tumor stage) 暗赤色のドーム状に隆起した弾性腫瘤が出現. 当初は表面平滑であるが, しだいにびらん, 潰瘍化する. 腫瘍期に至ると進行は速くなり, リンパ節や肝臓, 脾臓, 肺などへの浸潤をみる 内臓浸潤期(stage of visceral dissemination). 白血化することはまれ. 免疫能低下による感染症や内臓病変により, 多くは 1 2 年で死の転帰をとる. b 図.362 菌状息肉症 (mycosis fungoides) a: 紅斑期.b: 毛包向性を示す (folliculotropic MF). 病理所見紅斑期 : 真皮浅層にリンパ球浸潤を認め, 海綿状態を伴わない表皮内へのリンパ球浸潤 ( 表皮向性 ) や, 一部では異型リンパ球を認める. 局面期 : 真皮上層に, かなり密な帯状の細胞浸潤を認める. 浸潤リンパ球のなかには, 核の形状が深くくびれた大型の異型細胞もみられる. 表皮向性も顕著になり, ポートリエ微小膿瘍 (Pautrier s microabscess, 図.37) と呼ばれる巣状の表皮内リンパ球浸潤が多数みられる. 腫瘍期 : 表皮向性は軽度で, 真皮全層および皮下組織まで異型リンパ球が浸潤する. 浸潤する腫瘍細胞は CD4 + T 細胞の表面マーカーを有する (CD3 +, CD4 +, CD5, CD20 ). 正常 T 細胞で発現する CD7 や CD26 は, 陰性になることが多い. 診断 鑑別診断 末期になるまで, 血液や生化学的検査などでの異常所見はほ

悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 447 a b c d f e g h l i j k 図.36 3 菌状息肉症 (mycosis fungoides) a c: 局面期.d l: 腫瘍期. 浸潤の強い潰瘍を形成する. とんどない. 診断は臨床および病理所見による. 早期では特徴的な所見が得られにくいため, 疑わしい症例に関しては皮膚生検を繰り返すこともある. 組織の遺伝子再構成解析が有用である. 鑑別を要する疾患は, 湿疹 皮膚炎 ( アトピー性皮膚炎など ), 乾癬, 類乾癬, 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫などである.

448 章皮膚の悪性腫瘍 遺伝子再構成解析 (gene rearrangement analysis) 図.37 菌状息肉症の病理組織像紅斑期から局面期に相当する組織像. 異型を伴うリンパ球が表皮内に侵入し, ポートリエ微小膿瘍 (Pautrier's microabscess) を形成する. 治療 TNMB 分類 ( 表.7) を決定し, 治療法を考慮する. 局面期までの病変には PUVA や narrow band UVB などの光線療法で, ある程度の進行を抑制する. ステロイド外用やインターフェロン投与も行われる. 腫瘍期などの進行例に対しては, 電子線照射や多剤併用化学療法 (CHOP 療法など非 Hodgkin リンパ腫に準じる, 表.8) を行う. 2.S セザリー ézary 症候群 Sézary syndrome;ss 原発性皮膚 T 細胞リンパ腫の一種. 強い瘙痒を伴う. 紅皮症, 表在リンパ節腫脹, 末梢血中での異型リンパ球出現の 3 主徴. 病理所見および治療は菌状息肉症とほぼ同じ. 図.38 Sézary 症候群 (Sézary syndrome) 強い瘙痒を伴う全身の潮紅. 定義紅皮症, 表在リンパ節腫脹, 末梢血中での異型リンパ球出現の 3 主徴を有する原発性皮膚 T 細胞リンパ腫. 現在では, 表.7 で示した TNMB 分類において T4, B2 を満たすものを Sézary 症候群と診断する. 症状 50 歳以上の男性に好発. 全身に落屑を伴う紅斑をびまん性 に認め, 紅皮症 ( 体表面積の 80% 以上 ) の状態を呈する ( 図

悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 449 表.7 菌状息肉症 Sézary 症候群の病期分類 (ISCL /EORTC, 2007) T: 皮膚病変の性質と範囲 T1: 体表面積の 10% 未満 T1a( 斑のみ ),T1b( 局面を伴う ) T2: 体表面積の 10% 以上 T2a( 斑のみ ),T2b( 局面を伴う ) T3:1 個以上の腫瘤形成 ( 直径 1 cm 以上 ) T4: 紅皮症 ( 体表面積の 80% 以上 ) N: リンパ節 N0: 臨床的に異常リンパ節なし # N1: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN0-2 * N1a( クローン性増殖なし ),N1b( クローン性増殖あり ) N2: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN3 * N2a( クローン性増殖なし ),N2b( クローン性増殖あり ) N3: 臨床的に異常リンパ節あり. 組織学的に NCI LN4 * Nx: 臨床的に異常リンパ節あるが, 組織学的確認なし M: 内臓 M0: 内臓病変なし M1: 内臓病変あり ( 組織学的に確認 ) B: 血液 B0: 末梢血リンパ球のうち, 異型リンパ球の数が 5% 以下 B0a( クローン性増殖なし ),B0b( クローン性増殖あり ) B1: 末梢血リンパ球のうち, 異型リンパ球の数が 5% を超えるが,B2 を満たさない B1a( クローン性増殖なし ),B1b( クローン性増殖あり ) B2:Sézary 細胞 ( クローン性増殖あり ) が 1000 個 /ml 以上 (Olsen E et al. Blood 110 : 1713, 2007 を参考に作成 ) T N M B ⅠA 1 0 0 0,1 ⅠB 2 0 0 0,1 ⅡA 1 2 1,2 0 0,1 ⅡB 3 0 2 0 0,1 ⅢA 4 0 2 0 0 ⅢB 4 0 2 0 1 ⅣA1 1 4 0 2 0 2 ⅣA2 1 4 3 0 0 2 ⅣB 1 4 0 3 1 0 2 # 異常リンパ節 : 表面から触れ, なおかつ硬い, 不整形, 集簇, 可動性不良ないし直径 1.5 cm 以上のもの * リンパ節の NCI 分類 NCI LN0: 異型リンパ球なし NCI LN1: 随所に孤立性異型リンパ球を認めるが, 集塊はつくっていない NCI LN2: 多数の異型リンパ球, または 3 6 細胞の集塊 NCI LN3: 異型リンパ球が大きな集塊をつくるが, リンパ節の基本構造は保たれる NCI LN4: 異型リンパ球または腫瘍細胞によってリンパ節構造が部分的あるいは完全に消失する 表.8 菌状息肉症 ( 腫瘍期 ) に適用される CHOP 療法の例.38). しばしば強い瘙痒を伴う. また, 表在リンパ節腫脹 ( 画像上 1.5 cm を越える ) と肝脾腫をみる. 全身状態は一般に良好で発熱はない. 進行すると結節性の皮疹を生じ, 内臓臓器へ浸潤する場合がある. 病理所見 検査所見末梢血で白血球増加と異型リンパ球を認める. この異型リンパ球は Sézary 細胞 (CD4 + T 細胞の表面マーカーを有する ) と呼ばれ, 菌状息肉症で観察される細胞と同様の, 切れ込みの深い核を有する. 紅皮症の皮疹部では, 真皮上層に帯状または血管周囲性のリンパ球浸潤, さらに Sézary 細胞も認める. 表皮にポートリエ微小膿瘍をみる場合もある ( 図.37 参照 ).