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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

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2 地温 : 15~25 の温度帯に緩効性効果が一番高い 30 を超えると ウレアーゼ抑制材の分解が加速する上 微生物の繁殖も速くなり 微生物の活性を抑える効果が低くなる 3 土壌 ph: 弱酸性土壌 (ph5.5) からアルカリ性土壌 (ph8.0) まで土壌 ph が高いほど緩効性効果も高くなる

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写真2 長谷川式簡易現場透水試験器による透 水性調査 写真1 長谷川式土壌貫入計による土壌硬度調査 写真4 長谷川式大型検土杖による土壌断面調査 写真3 掘削による土壌断面調査 写真5 標準土色帖による土色の調査 樹木医 環境造園家 豊田幸夫 無断転用禁止

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注 ) 材料の種類 名称及び使用量 については 硝酸化成抑制材 効果発現促進材 摂取防止材 組成均一化促進材又は着色材を使用した場合のみ記載が必要になり 他の材料については記載する必要はありません また 配合に当たって原料として使用した肥料に使用された組成均一化促進材又は着色材についても記載を省略す

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取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

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約 210ha 161ha 平成 28 年度の営農再開等の状況 1 水稲 : 主食用米 ( コシヒカリ 天のつ ぶ その他 )106ha 作付 飼料用米 ( ふくひびき その他 )55ha 作付 震災前 ( 平成 22 年産 ) の約 210ha に比べ約 80% 再開 ) 約 30ha の水田は防

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高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

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2011年度 化学1(物理学科)

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( 50 ) 園芸土壌のリン酸過剰がもたらす弊害とその対策 1. はじめに 1.1 土壌肥料学との出会い筆者は2015 年 3 月まで, ちょうど40 年間東京農業大学土壌学研究室 ( 現, 生産環境化学研究室 ) に在職した 本研究室は, 東京農業大学の初代学長である横井時敬先生の次男横井利直先生

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キレート滴定

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Transcription:

この冊子は 宝くじの普及宣伝事業として助成を受け作成されたものです 財団法人日本土壌協会

INDEX 適正な施肥 P 3 ph の調整 P 6 EC( 電気伝導度 ) の調整 P 8 適正なリン酸施肥法 P10 (1) リン酸質肥料の肥効の特性 (2) 地力増進基本指針における有効態リン酸の改善目標 (3) 畑地のリン酸施用量 (4) リン酸過剰対策 適正な塩基飽和度 P12 (1) 陽イオン交換容量と塩基飽和度との関係 (2) 塩基飽和度が低い場合 (3) 塩基飽和度が高い場合 (4) 塩基バランス 2 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

適正な施肥Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 3 土壌肥沃度は土壌の種類や状態によって異なり 作物の収穫量を大きく左右します そのため 一般には土壌診断を行って 土壌改善の方針を決めます しかし 土壌診断の結果は数字で示されることが多く 土壌改良や施肥改善に結びつける時に 解釈に苦しむことが多いのが現実です この冊子では 土壌診断に基づいた バランスのとれた土づくり を実践するための具体的な改善対策を分かりやすく説明します

土づくりは 土壌の透水性等の物理性 ph や養分等の化学性 土壌微生物等の成育状況の生物性を総合的に改善して 作物が正常に生育することを目的として 我々は量的にも質的にも最高の作物が収穫できることを願っています その改善程度を測定する手段として 一般に土壌診断が行われています 最近の傾向としてこれら資材の効果発現を急ぐ余り これらの養分のアンバランスが見られるようになり 特に土壌の化学性にその傾向が見られます 土壌の化学性は 物理性等とは異なり肉眼では見えにくい欠点があります 土壌診断と健康診断の関連性土壌診断塩基置換容量塩基飽和度 p H( 水素イオン濃度 ) EC( 電気伝導度 ) 有効態リン酸量有効態窒素量 健康診断胃袋の大きさ満腹度合体温血圧年令栄養成分量 出典 : 生井兵治 相馬暁 上松信義 ( 農業科学基礎 農文協 2002) を一部改変 塩基置換容量は 健康診断に例えれば胃袋の大きさです 食べ過ぎの場合は問題が多いように この容量以上に施肥等を行えば土壌に吸収されず田畑を汚します 塩基飽和度は 人間なら満腹度と言えます 腹八分目と言われるように 人間の健康診断と同じで総合的に土壌養分も塩基飽和度で 80% 位が適切な数字です 判断する必要が ph は 人間の場合の体温です 必須項目です あります EC は 土壌溶液中の肥料分の多少を示します 人間の血圧に相当します 有効態リン酸量は 熟畑化すると高まります 有効態窒素量は 作物が吸収利用できる窒素量です 人間が食べるたんぱく質の量に相当します 4 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

適正な施肥有機質肥料 植物生育には水と日光が欠かせませんが 土壌からの養分も必須です 多くの植物では土壌本来が持っている養分だけでは不十分で 不足する養分は一般に肥料として与えています 肥料には 有機質肥料と無機質肥料の 2 種類があります 有機質肥料には動物等の排泄物が使用されています これは土壌中で分解されないと植物は利用できないため 効果の発現が遅いことや臭気等の問題がありますが 微量要素等様々の養分を含むと言う長所もあります 無機質肥料は鉱物等を原料としていて 取り扱いやすく 肥効が直ちに現れる等の長所がありますが 過剰施用すると濃度障害を起こす等の欠点があります 無機質肥料 遅効性 微量要素養分が豊富臭気等の問題がある 速効性 取り扱いが簡単過剰施用に注意 肥料の施用が過ぎるより 少々不足気味の方が 植物は健全に育ちます 人間と良く似ています 従って 正確な土壌診断に基づいた適切な施肥改善対策が必要です 過剰施肥による水稲の倒伏 Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 5

わが国の気候は温暖多雨で 特にこの多量の雨量が土壌中の可溶性成分を土壌の下層土方向に溶脱し 土壌を適切に管理しないと 土壌を酸性化する特長があります 一方 作物は土壌の ph によっては育ちにくいものもあります 右表に 作物生育に好適な ph の一覧を示します ph 測定風景 6 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

作物の種類別好適 ph p H 普通作物果菜 豆類葉根菜類果樹 花き等 6.5 ~ 7.0 大麦ホウレンソウイチジク 6.0 ~ 7.0 小麦エンドウ トマト ダイコン キャベツ アスパラガス ブドウ アンズ カーネーション 6.0 ~ 6.5 サトイモ 大豆 インゲン エダマメ カボチャ キュウリ スイートコーン スイカ ソラマメ ナス ピーマン メロン アズキ ウド カリフラワー コマツナ シュンギク ショウガ セロリ チンゲンサイ ニラ ネギ ハクサイ ブロッコリー ミツバ レタス ナシ カキ キウイフルーツ ユズ キク p Hの調整(kg/10a) 5.5 ~ 6.5 イネ エンバク ライムギ イチゴ ラッカセイ カブ ゴボウ タマネギ ニンジン ウメ リンゴ 5.5 ~ 6.0 サツマイモ ソバ ヤマノイモ オカボ モモ オウトウ ミカン 5.0 ~ 6.5 バレイショ 5.0 ~ 5.5 クリ 4.5 ~ 5.5 ブルーベリー チャ ツツジ シャクナゲ 低い場合は石灰資材の施用が必要です 土壌の種類によって資材は異なりますが ph を 1 上げるのに必要な石灰量は下表の通りです 炭カル苦土炭カル消石灰 黒ボク土 350 330 270 非黒ボク土 200 200 160 石灰散布 ( 写真提供 : 株式会社 IHI スター ) ph が高い場合は 主に硫黄華が用いられます ph が高くなる事例は施設栽培で多く見られます ph を下げるのに要する硫黄華も土壌の種類によって異なります 例えば 風乾土 100kg の土壌 ph を 1 下げるのに必要な硫黄華量は右表のようになります 土壌砂質土泥炭土上記以外の土壌 硫黄華量 55g 240g 80g Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 7

EC( 電気伝導度 ) とは 土壌溶液の中にどのくらいの硝酸 硫酸などの塩類が溶けているかを見るもので 作物の耐塩性とも関係します 土壌の塩類集積を回避するには 土壌に残存している塩類を測定して合理的な施肥を行うことですが その一つに 最近は塩類濃度を高めにくいノンストレス緩効性肥料も開発されています 一方 塩類が土壌中に溜まってしまった場合は その塩類を除去するか 薄める必要があります 除塩方法としては 主に次のような手段が考えられています 1 耐塩性の弱い作物の栽培を控え 耐塩性の強い作物に切り替えるとともに 土壌中の塩類濃度を高めない施肥を行う 2 天地返しや深耕によって 土壌の塩類濃度を下げる 3トウモロコシや牧草等を栽培して 収穫物を畑から持ち出して除塩する方法があります いわゆるクリーニングクロップの栽培です 高 EC に耐え 養分吸収量の多いトウモロコシは有望ですが 麦類やソルゴー スーダングラスなどの牧草類 センチュウ退治も狙えるクロタラリア マリーゴールドなども使われます また EC は土壌中の硝酸態窒素との相関が一般に高いことから 施肥量の目安に利用されることがあります マリーゴールド 8 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

作物の種類別耐塩性 耐塩性 EC(1:5) (ms/cm) 普通作物野菜果樹その他 強い 1.5 以上大麦 ホウレンソウ ハクサイ アスパラガス ダイコン イタリアンライグラス ナタネ 中程度 0.8 ~ 1.5 水稲 小麦 ライ麦 大豆 キャベツ カリフラワー ブロッコリー ネギ ニンジン バレイショ サツマイモ トマト カボチャ スイートコーン ナス トウガラシ ブドウ イチジク ザクロ オリーブ スイートクローバー アルファルファ スーダングラス オーチャードグラス トウモロコシ ソルガム やや弱い 0.4 ~ 0.8 弱い 0.4 以下 イチゴ タマネギ レタス キュウリ ソラマメ インゲン リンゴ ナシ モモ オレンジ レモン プラム アンズ タバコ イグサ ラジノクローバ レッドクローバー E C ( 電気伝導度)の調整Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 9 深耕風景 ( 写真提供 : ヤンマー株式会社 ) 緑肥ソルゴーの生育

熔燐 0 20 土壌中には大量のリン酸が存在しますが リン酸分の多くは土壌に強く吸着 固定されています そのため 植物が容易に利用できる成分は少ないのです 我が国に多く存在する黒ボク土は 特にその傾向が強いです いわばリン酸欠乏状態です 土壌のリン酸固定力は 100g の乾土が捕まえるリン酸の量 (P2O5mg) をリン酸吸収係数 ( 略して リン吸 ) として表します 一般に黒ボク土のリン酸吸収係数は 1,500 以上を示します 従って リン酸肥料については リン酸吸収係数を考えながら 施用量を決めます (1) リン酸質肥料の肥効の特性 リン酸質肥料に含まれるリン酸成分の溶解性は 次の 3 種類がありますので その溶解性に注意を払って 作物によって使い分ける必要があります 例えば 生育期間の短い作物には水溶性成分の多いリン酸肥料 4 4 4 を 生育後期にリン酸を多く必要とする場合は く溶性リン酸成分が多いリン酸肥料を使うのが効率的な施肥法となります 水溶性 ( 水に溶けるリン酸成分 ) 可溶性 ( クエン酸アンモニウムアルカリ液に可溶なリン酸成分 ) く溶性 (2% クエン酸液に可溶なリン酸成分 ) 次に主要なリン酸質肥料の溶解性を考慮した成分含量を示します 主なリン酸質肥料の保証成分 (%) 水溶性可溶性く溶性 肥効速効緩効 適する作物生育期間の短い作物生育期間の長い作物 肥料名水溶性可溶性く溶性 化成肥料 (14-14-14) 11 14 0 過燐酸石灰 17 20 0 10 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

(2) 地力増進基本指針における有効態リン酸の改善目標施肥法リン酸の施肥は 固定 吸着と言う厄介な問題を含んで 計算が複雑ですので 有効態リン酸含量 ( トルオーグ法 ) とリン酸吸収係数との関係から 次のような改善目標が示されています 地力増進基本指針における有効態リン酸の改善目標 区分土壌の種類目標リン酸 ( 乾土 100g 当たり ) 水田 普通畑 樹園地 (3) 畑地のリン酸施用量 畑地のリン酸含量を高めるためには 次表によって計算するのが合理的です リン酸質資材施用量 リン酸級数係数 2,000 以上 1,000 ~ 2,000 1,000 以下 黒ボク土 多湿黒ボク土 その他の土壌 10mg 以上 10 ~ 100mg 10 ~ 75mg 10 ~ 30mg リン酸質資材施用量 (kg/10a) ( 目標トルオーグリン酸 - 現存トルオーグリン酸 ) 2mg 4mg 6mg 8mg 10mg 120 240 360 480 600 80 160 240 320 400 40 80 160 160 200 適正なリン酸(4) リン酸過剰対策黒ボク土の分布が多いわが国の耕地では 不足する有効態リン酸を富化するために これまで熔リンを中心とするリン酸肥料の施用によっていましたが 今日ではむしろリン酸富化の傾向が多く認められるようになって来ています リン酸過剰による作物への障害はほとんど認められませんが 環境問題や経済的な観点から過剰なリン酸肥料施用はつつしむべきです 深耕による作土層の拡大によってリン酸濃度の低下が図られたり 肥料成分の少ない稲わら バーク堆肥 ピートモス等を施用されているケースもあります Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 11

12 土壌診断によるバランスのとれた土づくり (1) 陽イオン交換容量と塩基飽和度との関係 土壌の養分のうち大切な塩基としてカリウム マグネシウム カルシウムがあります これら全塩基を土壌が保持する量の指標として 陽イオン交換容量 (CEC) があります 塩基飽和度は この陽イオン交換容量に占める交換性陽イオン ( カリウム マグネシウム カルシウム ) の比率を示しています この冊子の冒頭でも紹介しましたが 陽イオン交換容量は人間に例えれば胃袋の大きさです カルシウム飽和度とは カルシウムと言う養分 (= 塩基 ) が陽イオン交換容量にどの程度詰まっているかを示す尺度です 土壌の陽イオン交換容量と適正塩基飽和度 陽イオン交換容量 (me/100g) 10 以下 10 ~ 20 20 以上 塩基飽和度 (%) 100 ~ 170 80 ~ 100 75 ~ 80 カルシウム飽和度 (%) 80 ~ 150 60 ~ 80 50 ~ 60 マグネシウム飽和度 (%) 16 16 16 カリウム飽和度 (%) 出典 : 細谷 山口 ( 農業技術体系土壌施肥編農文協 1988) 塩基飽和度は一般には 60 ~ 90% 程度が適正範囲とされていますが 塩基飽和度は土壌の陽イオン交換容量の多少によって大きく左右され 土壌の陽イオン交換容量が小さくなるに伴って 適正塩基飽和度は高くなる傾向があります 土壌の陽イオン交換容量が 20me( ミリグラム当量 ) では 75 ~ 80% が適正範囲となりますが 10me( 主に砂質土 ) 以下では 100% 以上となります これは 塩基飽和度と言う物差しを満足しても作物の要求する塩基類の絶対量が不足するためです また 塩基飽和度の適正幅は作物の種類によっても異なり レタス ホウレンソウは塩基飽和度に敏感ですが 小麦 トウモロコシは比較的影響を受けにくい作物です 6 6 6

適正な塩基飽和度塩基置換容量とは? 塩基飽和度とは? 土壌が肥料等の養分を保持するのは 基本的に イ オン反応です 粘土の表面はマイナスに 一方 ナト リウム (Na + ) カリウム(K + ) カルシウム(Ca ++ ) やマグネシウム (Mg ++ ) はプラスに荷電しています 粘土表面のマイナスイオンとこれらプラスが図のよ うにくっつきます 実際には凹凸ではありませんが 塩基置換容量 : 理解しやすくするために凹凸で表現しています 20me/100g 乾土 くっつき方は 原子量の重さとは関係なく イオンの荷電数で決まります 図は 100g の乾土当たり 20me の塩基置換容量 塩基飽和度 : 12/20 = 60% を示す例ですが これではプラスイオンを 20 ケ保持 する能力があります これが塩基置換容量です これにプラスイオンがくっつきます 図では ナト リウムイオン (Na + )2 ケ カリウムイオン (K + )2 ケ カルシウムイオン (Ca ++ )4 ケ マグネシウムイオ 塩基置換容量と塩基飽和度のイメージ図 ン (Mg ++ )4 ケが粘土にくっついています 塩基飽和度は 図の例で求めれば プラスイオンの ( 注 );Na23 K39 Ca40 Mg24 の数値は原子量を示しています 総量 (= 12 ケ )/ 20me で 60% となります (2) 塩基飽和度が低い場合例えば 交換性石灰と苦土含量が低い場合について 分析値から過不足を計算した宮崎県中部農業改良普及センターが分かりやすく説明していますので 紹介します 分析値と理想値を示すと 塩基置換容量 (me/100g 土壌 ) 交換性塩基 (mg/100g 土壌 ) 石灰苦土カリ 分析値 22.7 221 50.5 68.6 ( 理想値 ) - (356) (64.0) (56.3) 次に過不足を計算しますと 土壌 100g 当たり交換性塩基含有量 石灰 (mg) 苦土 (mg) カリ (mg) 分析値 221.0 50.5 68.6 理想値 356.0 64.0 56.3 100g 当たり過不足 -135.0-13.5 12.3 10a 当たり過不足 (kg) * -202.5-20.3 18.5 その結果 石灰は約 202.5kg 不足し 苦土は 20.3kg 不足し カリは 18.5kg 過剰であることが分かります ( * 10a 当たり過不足は 作土深 15cm で計算 ) Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 13

トマトの根腐れ病適正な塩基飽和度(3) 塩基飽和度が高い場合過剰な石灰 苦土 カリ肥料の施用量の削減や クリーニングクロップの活用 深耕による濃度低下等リン酸過剰の場合とほぼ同じ対策しかありません 湛水して除塩する方法もありますが 環境汚染につながる危険性があるので 注意が必要です 湛水除塩風景 ( 左 : 施設 下 : 露地 ) 写真提供 : 出岡裕哉氏 (4) 塩基バランス 塩基含有量について 一般に ph を適正に保てば 石灰も苦土もカリも欠乏することはほとんどありません しかしながら 施設栽培での多量の塩基の集積がある場合や堆肥施用の連続による場合は 塩基間のバランスが大きく崩れることがあるので注意を要します 土壌の石灰 苦土 カリの作物による吸収には 相互に助長的 または抑制的な及ぼしあう特長があります すなわち 1 石灰の吸収は苦土 カリの多用で抑制する 2 苦土の吸収はカリの多用で抑制される 3カリの吸収は石灰 苦土の多用で抑制されるのが一般的です 露地野菜では土壌中の石灰と苦土の比が重量 (g) 比で 3.7 ~ 7.0 苦土とカリの比が 1.1 ~ 3.2 が適当であると言われています 例えば 石灰と苦土が基準以上であってもバランスが悪ければ バランスがとれるよう石灰または苦土を施用する必要があります 特に カリが多く 苦土 カリ比が小さいときには 苦土を施用しないと作物が苦土欠乏を起こすことがあります 土壌分析の結果 苦土 カリの比が小さい場合でも 直ちに苦土を施用しましょうと診断を下すのは早計です 本当に苦土が少なくて補給が必要な場合と 堆肥の多施用でカリが過剰でこのバランスが崩れる場合があるからです 14 土壌診断によるバランスのとれた土づくり

参考資料 鎌田淳 : カリウム過剰による障害と対策 - 花蕾黒変症の発生機作について土づくりフォーラム研究会資料 (2008) 藤原俊六郎 安西徹郎 加藤哲郎 : 土壌診断の方法と活用農文協 (1996) 関東土壌肥料専技会 : 全農東京支所肥料農薬部 (1996) トルオーグ (1949) 岡崎正規ら訳 : 新版 土壌肥料全国農業改良普及支援協会 (2005) 吉田澪 : やさしい土の話化学工業日報社 (2007) 宮崎県中部農業改良普及センター HP JA 肥料農薬部 : だれにでもできる土壌診断の読み方と肥料計算 (2010) ( 本文中に掲載分は除く ) この冊子は 宝くじの普及宣伝事業として助成を受け作成されたものです 平成 22 年度 土壌診断によるバランスのとれた土づくり Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 企画 編集 発行 : 財団法人日本土壌協会会長理事松本聰 101-0051 東京都千代田区神田神保町 1-58 TEL: 03-3292-7281 ~3 FAX: 03-3219-1646 E-Mail: mail@japan-soil.net URL: http://www.japan-soil.net 制作協力 : 株式会社イメージヴォックス この印刷物は 環境にやさしい 100% 再生紙と生分解性に優れた大豆インクを使用しています Vol.3 ー土壌診断に基づく改善対策ー 15