NTN TECHNICAL REVIEW No.81(213) [ 製品紹介 ] パーキングブレーキ付き電動ブレーキユニット Electro-mechanical Brake Unit with Parking Brake 山崎達也 * Tatsuya YAMASAKI 村松誠 * Makoto MURAMATSU 増田唯 ** Yui MASUDA 車両の低燃費化や利便性向上などの要求に応えるため, 回生ブレーキや電動パーキングブレーキ (EPB) などの新しいブレーキ関連技術が普及してきている. 今後, ブレーキの更なる高機能化を達成するためには, その最終形態である電動ブレーキの実用化が必要となる. NTNでは, パーキングブレーキ機能を有する電動ブレーキユニットを開発した. The new brake technology such as regenerative braking and Electric Parking Brake (EPB) has been spreading in order to meet the demands to improve the fuel economy and convenience of vehicles. It needs to utilize Electromechanical Brake (EMB) which is the final form for the further advanced features of brake. NTN has developed the EMB unit which has parking brake function. 1. はじめに近年, ブレーキ関連技術の中で, 電動アクチュエータによってパーキングブレーキを動作させるEPB 1) (Electric Parking Brake), およびモータなどによって車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する回生ブレーキが普及しつつある. EPBは, 油圧ブレーキキャリパに専用の電動アクチュエータを搭載するタイプと, 従来のパーキングブレーキ機構のワイヤを電動アクチュエータで牽引するタイプの2 種類が市販されている.EPBには, 坂道発進補助など自動制御による利便性の向上, パーキングブレーキレバーのスイッチ化による車内空間の有効活用などのメリットがある. 回生ブレーキは, 制動時に車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し, 車両の燃費 ( 電費 ) 改善に貢献する技術であり, ハイブリッド車や電気自動車などモータを駆動源として走行する車両を中心に普及してきた. また最近では, オルタネータなどによって車両の運動エネルギーを回収し補機などの電源として利用するエンジン車両も市販されている. 回生ブレ ーキを使って効率良くエネルギーを回収するためには, 制動時に摩擦力によって制動力を得るサービスブレーキとの協調制御技術が重要であり, 市販車両は電動の油圧アクチュエータを用いてサービスブレーキを制御している 2)~5). しかし, 現行の油圧システムは, 環境負荷の高いブレーキオイルを使用しているだけでなく, 応答性が不足するため運動エネルギーを最大限回収することが難しい. この課題を解決する手段として, モータの回転運動により機械的にブレーキピストンを制御しサービスブレーキを操作する電動ブレーキ (EMB,Electro-mechanical Brake) があり, 各ブレーキメーカで開発が進められている. NTNでは, これまでに独自の直動機構を用いた小型 軽量な電動ブレーキ用アクチュエータを開発し, 提案してきた 6)~9). 今回, パーキングブレーキ機能を新たに追加すると共に, 内部設計を見直すことで更に小型化および性能向上を図った電動ブレーキユニットを開発した. 本稿では, 改良したアクチュエータの構造およびユニットの特性について紹介する. **EV モジュール事業本部シャシーシステム技術部 **EV モジュール事業本部制御システム技術部 -3-
パーキングブレーキ付き電動ブレーキユニット 2. パーキングブレーキ付き電動ブレーキユニットの構造 2. 1 電動ブレーキユニット cc クラスの車両の後輪用として開発した電 動ブレーキユニットの外観を図 1 に, 内部構造を図 2 に示す. 併せて, ユニットおよび使用するモータの仕 様を表 1 および 2 に示す. 本ユニットは直動機構とモータを並列に配置し, そ の間のトルク伝達には平行軸歯車を用いている. モー タによって発生したトルクは歯車を介して直動機構に 伝達され, パッドをディスクに押し付ける荷重 ( 以下, 押圧力 ) に変換される. ユニット全体を小型化するた め, 直動機構にはNTNが独自に考案した遊星ローラねじ機構 6) を採用した. 本機構は, 単体での荷重変換率 ( 入力トルクに対し出力される押圧力の比率 ) が高いため, 歯車列に必要な減速比が小さくでき, ユニット全体の小型化が可能である. 今回, 各要素の設計見直しを行うことで, アクチュエータの占有体積を従来品 (211 年開発品 ) に対し約 3% 削減し, 後述するように応答性も改善した. 更に, 新たな機能としてパーキングブレーキ機構を歯車部に追加した. これにより, 車両として別途パーキングブレーキを設ける必要がなくなり, 組付性やコスト面での改善が期待できる. パーキングブレーキ機構については, 次節にて詳細に説明する. Top view Isometric view Back view Side view 図 1 電動ブレーキユニット外観 EMB unit -31-
NTN TECHNICAL REVIEW No.81(213) 17mm 62mm 84.5mm 図 2 電動ブレーキユニット概略図 Schematic of EMB unit 表 1 電動ブレーキユニット仕様 (cc クラス後輪用 ) Specification of EMB unit 表 2 モータ仕様 Specification of motor 2. 2 パーキングブレーキ機構図 3にパーキングブレーキ機構の概略構造を示す. パーキングブレーキ機構は, 中間歯車に設けた係止穴とモータハウジング内に固定されたソレノイドおよびロックピンで構成される. パーキングブレーキの制御フローを, 図 4を用いて以下に説明する. < パーキングブレーキ制御フロー > (a) 作動 1モータにより, 押圧力を規定値まで付加する. 2ソレノイドを駆動し, ロックピンを前進させる. 3モータへの電力供給を停止する. パッドからの反力により, 押圧力が減少する方向へ中間歯車が回転する. 4ロックピンと係止穴が係合し, 中間歯車の押圧力減少方向への回転が規制される. ソレノイドへの電力を遮断し, 動作完了. (b) 解除 1モータを押圧力増加方向へ駆動する. 2ロックピンに作用していた摩擦力が解放され, 中間歯車とロックピンの係合状態が解放される. 3ソレノイド内のリターンスプリングにより, ロックピンが後退する. 4ブレーキペダル操作量に応じてモータを駆動する ( 解除動作完了 ). -32-
パーキングブレーキ付き電動ブレーキユニット 図 3 パーキングブレーキ機構概略 Schematic of parking brake 図 4 パーキングブレーキ制御フロー Control-flow of parking brake -33-
NTN TECHNICAL REVIEW No.81(213) 3. 応答性ユニットの重要特性の一つである応答性の評価結果について説明する. なお, 本評価を実施するに当たり, 電動ブレーキユニット専用にインバータを設計, 製作し, ユニット内蔵の荷重センサにて検出する押圧力のフィードバック制御を構築した. 3. 1 サービスブレーキサービスブレーキの応答性評価結果の一例を図 5に示す. 矩形状の押圧力指令 (kn 12kN) を与え, 実際の押圧力がどのように追従するか示している. なお, パッドとディスクの初期クリアランスはmmである. 昇圧, 減圧とも従来品に対し3% 程度応答性が改善している. 3. 2 パーキングブレーキ図 6に, サービスブレーキの押圧力指令 kn( クリアランス.1mm) の状態で, パーキングブレーキを作動 ( 解除 ) させた場合の押圧力の変化を示す. パーキングブレーキを作動させる場合, 前節で説明したように一定以上の押圧力が発生した状態でソレノイドを駆動しロックピンを前進させる. その状態で押圧力を減少させ, 中間歯車側面に設けた係止穴とロックピンの位相が一致したところで中間歯車がロックされる ( 図中 A). パーキングブレーキを解除する場合には, ロックピンに作用している摩擦力を解放するため, モータで一旦押圧力を上昇させ ( 図中 B), その後押圧力を解除する. パーキングブレーキの作動, 解除共に, 指令から.3 秒以内で動作が完了している. また, サービスブレーキが動作中 ( ブレーキペダルを踏んでいる状態 ) も, 同様に約.3 秒以内で動作が完了することを確認した. 1 kn 5.1.2.1.2 sec sec kn 1 5 図 5 サービスブレーキ応答性 Response of service brake kn 1 1 5 kn 5 -.1.1.2.3.4.5 -.1.1.2.3.4.5 sec sec 図 6 パーキングブレーキ応答性 Response of parking brake -34-
パーキングブレーキ付き電動ブレーキユニット 4. おわりに 本稿では, パーキングブレーキ機能を有し cc クラスの後輪用として適用可能な小型の電動ブレーキ ユニットについて紹介した. 本ユニットは, 内部設計 を見直すことで, 従来品に対し小型化と性能向上を果 たしている. ブレーキの性能向上は車両の燃費だけでなく安全性 改善の面でも効果があり 1)~13), 今後電動ブレーキに 対する期待も高まってくると予想する. 引き続き, ユ ニットや制御技術を改良し, 電動ブレーキの実用化に 向け開発を進める. 参考文献 1) 野口裕, 竹川学 : 電動パーキングブレーキシステムの紹介, スバル技報,No.36(29)7-72. 2) 小畑卓也, 大谷行雄, 伊藤義徳, 後藤進之介, 小池雄一 : 回生協調対応電動型制御ブレーキアクチュエータの開発, 自動車技術会学術講演会前刷集,No.21172(211). 3) 大久保直人, 西岡崇, 赤峰宏平, 波多野邦道 : 電動サーボブレーキシステムの開発,HONDA R&D Technical Review,Vol.25, No.1(213)47-51. 4) 青木康史, 鈴木健二, 中野博士, 野尻欣主 : ハイブリッド車用油圧サーボブレーキシステムの開発,HONDA R&D Technical Review, Vol.18,No.2(26)6-66. 5)Christain von Albrichsfeld, Jurgen Karner:Brake System for Hybrid and Electric Vehicle,SAE Paper,29-1- 1217(29). 6) 山崎, 江口, 牧野 : 電動ブレーキユニットの開発,NTN TECHNICAL REVIEW, 75(27)53-61. 7) 山崎, 江口, 牧野 : 電動ブレーキ用アクチュエータ,NTN TECHNICAL REVIEW, 77(29)4-44. 8)Tatsuya Yamasaki:Linear Motion Actuator for Electromechanical Brake, World Tribology Congress 29 Extended-Abstract,No.9745(29). 9) 山崎 : 電動ブレーキ用アクチュエータの開発, 月刊トライボロジー,285(211)34-36. 1) 足立智彦 : スタビリティコントロールシステム (ESC) に関する動向, 自動車技術,Vol.6, No.12(26) 28-33. 11) 成波, 波多野忠, 廣瀬敏也 : 緊急時のブレーキアシスト装置の効果評価について, 自動車技術会学術講演会前刷集,No.265894(26). 12) 小西康夫, 服部雅仁, 杉沢雅和, 西井理治 : アクティブブレーキ制御用油圧ブースタの開発, 自動車技術会学術講演会前刷集, No.973975(1997). 13) 田中博久, 児玉博之, 松崎善樹, 坪内薫 : ブレーキにおける革新的な技術, 自動車技術, Vol59,No.1(25)69-74. 執筆者近影 山崎達也 EVモジュール事業本部シャシーシステム技術部 村松誠 EVモジュール事業本部シャシーシステム技術部 増田唯 EVモジュール事業本部制御システム技術部 -35-