特集 これからのステーション経営

Similar documents
What are CAPs?

PowerPoint プレゼンテーション

認知症医療従事者等向け研修事業要領

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

加算 栄養改善加算 ( 月 2 回を限度 ) 栄養スクリーニング加算 口腔機能向上加算 ( 月 2 回を限度 ) 5 円 重度療養管理加算 要介護 であって 別に厚生労働大が定める状態である者に対して 医学的管理のもと 通所リハビリテーションを行った場合 100 円 中重度者ケア体制加算

フレイルのみかた

平成 31 年度 地域ケア会議開催計画 魚津市地域包括支援センター 平成 31 年 4 月

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

計画の今後の方向性

Microsoft Word - 4㕕H30 �践蕖㕕管璃蕖㕕㇫ㅪ�ㅥㅩㅀ.docx

区分

, 地域包括支援センターの組織と人材 2. 1 福祉専門職の歴史と特性

02 H30 å°‡éŒ•â–€ï¼„â–¡ã…»æł´æŒ°â–€ï¼„â–¡ï¼‹ç‘¾ä»»ï¼›ã‡«ã…ªã‡�ㅥㅩㅀ.xlsx

PowerPoint プレゼンテーション

1. 地域ケア会議の定義, 法的な位置づけ狛江市 ( 以下 市 ) では, 多様な生活課題を抱えている高齢者が, 地域で安心して自分らしく生活できる環境づくりを進めるため, 介護支援専門員 ( ケアマネジャー ) 等への個別支援や関係機関 団体等の連携体制の構築を通じて, 介護支援専門員等が包括的か


下の図は 平成 25 年 8 月 28 日の社会保障審議会介護保険部会資料であるが 平成 27 年度以降 在宅医療連携拠点事業は 介護保険法の中での恒久的な制度として位置づけられる計画である 在宅医療 介護の連携推進についてのイメージでは 介護の中心的機関である地域包括支援センターと医療サイドから医

PowerPoint プレゼンテーション

SBOs- 3: がん診断期の患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 4: がん治療期 ; 化学療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 5: がん治療期 ; 放射線療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 6: がん治療期

11 平成 21 年度介護予防事業実施状況について 平成 22 年 7 月 大阪市健康福祉局健康づくり担当

まちの新しい介護保険について 1. 制度のしくみについて 東温市 ( 保険者 ) 制度を運営し 介護サービスを整備します 要介護認定を行います 保険料を徴収し 保険証を交付します 東温市地域包括支援センター ( 東温市社会福祉協議会内 ) ~ 高齢者への総合的な支援 ( 包括的支援事業 )~ 介護予

<4D F736F F D20CADFCCDEBAD D9595B68E9A816A8AEC91BD95FB8E735F5F91E682558AFA89EE8CEC95DB8CAF8E968BC68C7689E >

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - Q&A(訪問リハ).doc

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

事業内容

65歳~74歳 介護認定率(平成22年度)

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

Microsoft Word - シラバス.doc

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

居宅介護支援事業者向け説明会

ケア困難患者や家族への直接ケア 医療スタッフへのコンサルテーション 退院や倫理的問題を調整する調整 ケアの質を改善 向上させるための教育と研究を実践し CNS が関わることで患者の病状や日常生活機能と社会的機能が改善して 患者と家族の QOL が高まり 再入院が減少することが明らかとなってきておりま

2. 経口移行 ( 経口維持 ) 加算 経口移行 ( 経口維持 ) 計画に相当する内容を各サービスにおけるサービス計画の中に記載する場合は その記載をもって経口移行 ( 経口維持 ) 計画の作成に代えることができる 従来どおり経口移行 ( 経口維持 ) 計画を別に作成してよい 口腔機能向上加算 口腔

01 R1 å®�剎ç€fl修$僓ç€flä¿®ï¼„æł´æŒ°ç€fl修+å®�剎未組é¨fi蕖咂ㆂ;.xlsx

atamagami

スライド 1

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

【最終版】医療経営学会議配付資料 pptx

Microsoft PowerPoint - 05短時間の身体介護 調査結果概要((5)短時間の身体介護)0320

7 時間以上 8 時間未満 922 単位 / 回 介護予防通所リハビリテーション 変更前 変更後 要支援 Ⅰ 1812 単位 / 月 1712 単位 / 月 要支援 Ⅱ 3715 単位 / 月 3615 単位 / 月 リハビリテーションマネジメント加算 (Ⅰ) の見直し リハビリテーションマネジメン


高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

「2025年に向けた新しい地域づくり -地域包括ケアシステムの構築を目指して-」

2 社会保障 2.1 社会保障 2.2 医療保険 2.3 年金保険 2.4 介護保険 2.5 労災保険 2.6 雇用保険 介護保険は社会保険を構成する 1 つです 介護保険制度の仕組みや給付について説明していきます 介護保険制度 介護保険制度は 高齢者の介護を社会全体で支えるための制度

看護師のクリニカルラダー ニ ズをとらえる力 ケアする力 協働する力 意思決定を支える力 レベル Ⅰ 定義 : 基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する 到達目標 ; 助言を得てケアの受け手や状況 ( 場 ) のニーズをとらえる 行動目標 情報収集 1 助言を受けながら情報収集の基本

リハビリテーションマネジメント加算 計画の進捗状況を定期的に評価し 必要に応じ見直しを実施 ( 初回評価は約 2 週間以内 その後は約 3 月毎に実施 ) 介護支援専門員を通じ その他サービス事業者に 利用者の日常生活の留意点や介護の工夫等の情報を伝達 利用者の興味 関心 身体の状況 家屋の状況 家

改定事項 基本報酬 1 入居者の医療ニーズへの対応 2 生活機能向上連携加算の創設 3 機能訓練指導員の確保の促進 4 若年性認知症入居者受入加算の創設 5 口腔衛生管理の充実 6 栄養改善の取組の推進 7 短期利用特定施設入居者生活介護の利用者数の上限の見直し 8 身体的拘束等の適正化 9 運営推

厚生労働省による 平成 30 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.1) に対する 八王子介護支援専門員連絡協議会からの質問内容と八王子市からの回答 Q1 訪問看護ステーションによるリハビリのみの提供の場合の考え方について厚労省 Q&A(Vol.1) での該当項目問 21 問 22 問 23 A


06 参考資料1 平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について


shiryou2-1_shikuchouson-survey2.docx

Microsoft Word DOC

<4D F736F F D208B8F91EE E838A E398C8E82DC82C >

資料 4 医療等に関する個人情報 の範囲について 検討事項 医療等分野において情報の利活用と保護を推進する観点から 医療等に関する個人情報 の範囲をどのように定めるべきか 個別法の対象となる個人情報としては まずは 医療機関などにおいて取り扱われる個人情報が考えられるが そのほかに 介護関係 保健関

001

介護老人保健施設 契約書

<4D F736F F D C605F937393B9957B8CA781418E7392AC91BA81418AD68C CC816A C95DB8C9289DB2E646F63>

1

サービス担当者会議で検討し 介護支援専門員が判断 決定するものとする 通所系サービス 栄養改善加算について問 31 対象となる 栄養ケア ステーション の範囲はどのようなものか 公益社団法人日本栄養士会又は都道府県栄養士会が設置 運営する 栄養士会栄養ケア ステーション に限るものとする 通所介護

2 経口移行加算の充実 経口移行加算については 経管栄養により食事を摂取している入所者の摂食 嚥 下機能を踏まえた経口移行支援を充実させる 経口移行加算 (1 日につき ) 28 単位 (1 日につき ) 28 単位 算定要件等 ( 変更点のみ ) 経口移行計画に従い 医師の指示を受けた管理栄養士又

Microsoft PowerPoint - 矢庭第3日(第6章ケアマネジメントのプロセス)

スライド 1

スライド 1

認知症サポーター養成講座

佐久総合病院 H24年度在宅医療連携拠点事業 活動報告

杉戸町高齢者実態調査

Microsoft PowerPoint - 地域密着型サービスについて(長岡市)

利用者満足の向上センターのチラシの配布など センターのPRのために具体的な取り組みを行っている 苦情対応体制を整備している 特記事項 名刺 サービス情報誌 広報での PR イベントでのパネル設置など実施 相談の際のプライバシーの確保を図っている 公平性 中立性の確保 業務改善への取り組み 相談室の整

平成17年度社会福祉法人多花楽会事業計画(案)

体制届の主な項目と添付書類 居宅サービス 別途 資料の提出をお願いすることがあります サービスの種類 体制届の主な項目 別紙 添付書類 その他の添付書類 備考 施設等の区分 ( 通院等乗降介助 ) - 道路運送法の許可証 - 日中の身体介護 20 分未満体制 別紙 15 定期巡回 随時対応サービスに

‡Æ‡¤‡©‡¢34_

Q7: 判定様式には80% を超えるサービスのみ記載するのですか? それとも 80% を超える超えないに関わらず 居宅サービス計画に位置づけたサービスはすべて記載するのですか? A7: 80% を超える超えないに関わらず 居宅サービス計画に位置づけたサービスについて すべて記載してください Q8:

実務研修(研修記録シート)【茨城県社協版】

概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について

Microsoft Word - 改善内容-ver1200

小児_各論1の2_x1a形式

入所利用料 NO.2 単価新 老人訪問看護指示加算 300 円 / 回 訪問看護ステーションに対し医師が訪問看護指示書を交付した場合 緊急時治療管理 認知症情報提供加算 511 円 / 日緊急的な治療管理を行なった場合 (3 日限度 ) 350 円 / 回認知症疾患医療センター等に紹介した場合 地域

Microsoft Word - 3

ファーストケアチーム 事業実施マニュアル 阿南市保健福祉部福祉事務所 介護 ながいき課 平成 28 年 6 月作成

Microsoft PowerPoint - 9-2桜川市(2)

<4D F736F F F696E74202D208ED089EF959F8E F958B5A8F70985F315F91E630338D E328C8E313393FA8D E >

<4D F736F F D A8D CA48F43834B C E FCD817A E

Microsoft Word 栄マネ加算.doc

前回の改善計画の進捗評価 Ⅰ. 事業運営の評価 ( 評価項目 1~10) 項目前回の改善計画実施した具体的な取組進捗評価 Ⅱ. サービ ス提供等 の評価 1. 利用者等の特性 変化に応じた専門的なサービス提供 ( 評価項目 11 ~27) 2. 多機関 多職種との連携 ( 評価項目 28 ~31)

17★ 訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて(平成十二年三月三十日 老企 厚生労働省老人保健福祉局企画課長通知)

Microsoft PowerPoint - (HP掲載用)270820定期巡回.pptx

< F2D89FC82DF82E993FC8D6594C C192E C394EF816A>

例えば行為の際に使用する ツール について 行為との関連性をわかりやすくするために イベントの p/o である行為の p/o として記述した 咀嚼する 時に使用するツールである 義歯 は 咀嚼する の p/o でありツールロールを担う として記述する オントロジーに記述する概念は 極力看護プロファイ

高齢者虐待防止対応マニュアル別冊 6 関係機関との連携 (1) 各機関の役割 市町村や地域包括支援センター等の関係機関は それぞれ対応可能な範囲があります 範囲を超えた対応は行うことができません また 事例によって関係機関の対応を依頼する場合があります 市町村が中心となるコアメンバー会議によって 大

周南市版地域ケア会議 運用マニュアル 1 地域ケア会議の定義 地域ケア会議は 地域包括支援センターまたは市町村が主催し 設置 運営する 行政職員をはじめ 地域の関係者から構成される会議体 と定義されています 地域ケア会議の構成員は 会議の目的に応じ 行政職員 センター職員 介護支援専門員 介護サービ

歯科中間報告(案)概要

Microsoft Word - 資料表紙3.doc

点検項目 点検事項 点検結果 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ 計画の定期的評価 見直し 約 3 月毎に実施 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅱ ( リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ の要件に加え ) 居宅介護支援事業者を通じて他のサービス事業者への情報伝達 利用者の興味 関心 身体

介護支援専門員 ( 回答数 件 ) 介護支援専門員の基礎資格 介護支援専門員の基礎資格 n= 複数回答 0 基礎資格について 介護福祉士 が 件 ( 0.%) と最も多かった 介護支援専門員が担当する利用者 (H 年 月 ). 要介護別利用者の割合 要介護 0% 要介護

居宅介護支援事業所に係る特定事業所集中減算の取り扱いについて

利用者基本情報 基本情報 作成担当者 : 相談日年月日 ( ) 来 所 電話 その他 ( ) 初回 再来 ( 前 / ) 本人の現況在宅 入院又は入所中 ( ) フリガナ 本人氏名 男 女 M T S 年月日生 ( ) 歳 Tel ( ) 住 所 Fax ( ) 日常生活 障害高齢者の日常生活自立度

Transcription:

インターライ方式 ケアアセスメントの特徴と利点 多職種連携と切れ目のないケアプランを可能に 特定非営利活動法人インターライ日本 慶應義塾大学医学部医療政策 管理学教室 天野貴史 石橋智昭 池上直己 はじめに インターライ方式 の特徴 MDS 方式から何が変わったか居宅ケアにおける インターライ方式 の利点 本記事は 訪問看護と介護 (vol.17 No.4 2012 医学書院 ) に特別記事として掲載されたものです なお 訪 問看護と介護 は 電子ジャーナルとして配信されています 詳しくは下記医学書院ウェブサイトをご覧ください http://ej.islib.jp/ejournal/top-13417045.html

はじめに 介護保険制度が発足して 10 年 その総括であるにおいて 厚生労働省は 地域包括ケアシステムの確立 が今後の課題に挙げられた 地域包括ケア は さまざまな意味で使われる概念だが 狭義には 個々人の心身の状態に応じた 切れ目のない 医療や介護の提供体制 の地域単位での構築を意味する このような問題意識は 介護保険制度設立当初から認識されており 多職種協働やトータルケアマネジメントの重要性が叫ばれ 介護支援専門員 ( ケアマネジャー ) が制度化される根拠ともなった しかし 制度設立から 10 年が経って新たに 地域包括ケア の確立が課題に挙げられたことは 職種間 サービス間の分断が十分に改善されていないという評価を反映していると言える 地域包括ケア の実現に寄与するアセスメント方式一方 現在介護施設や在宅などで広く用いられている MDS(Minimum Data Set) 方式は 切れ目のないケア を提供するためのアセスメントとして最適である その理由として MDS 方式は多職種による利用を前提に開発されており 施設版 (MDS2.1) と在宅版 (MDS-HC2.0) の基本アセスメント項目を同じにするなど 職種間 サービス間の連携を容易にする設計になっていることが挙げられる このたび MDS 方式は内容が刷新され インターライ方式 と改称された 本稿では 切れ目のないケアを実現するうえで汎用性がいっそう高まったその特徴と 居宅ケアにおける活用の利点を紹介する

インターライ方式 の特徴 インターライ方式は 国際的な研究組織である interrai によって それまでの MDS 方式のすべての版を再構築するかたちで 2009 年に開発されたアセスメント方式である 再構築の対象となったのは 施設 (Long Term Care Facility, LTCF) 版 (MDS2.1) と在宅 (Home Care, HC) 版 (MDS-HC2.0) だけではなく 今まで日本に紹介されていなかった高齢者住宅 (Assisted Living, AL) 版等もあった インターライ方式 の構成と使い方 MDS/ インターライ方式は 利用者の状態を把握するための アセスメント表 と アセスメントで捉えた問題を検討するための指針が書かれた CAP(Clinical Assessment Protocol ケア指針) から構成されている ケアプランを立てるとき まずアセスメント表を用いて評価を行なう この項目の多く ( これをトリガー項目という ) は たとえば褥瘡 せん妄 転倒など 特定の問題や機能低下のリスクがある利用者を選定する これに従って該当の CAP 項目へ進むと この利用者のニーズ 状態に応じた適切なケアは何か? を特定するための指針が書かれている このようにインターライ方式では アセスメントとケア指針の2 段階で ケアプランを立てる ( 逆に リスクが高いと想定される CAP 項目から 指示されたアセスメント項目へと遡って リスクの有無を判定することもできる ) 特徴 ❶ 多面的かつ必要十分なアセスメント項目 アセスメント表 は 表 1 に示す領域により構成されている アセスメント項目は 利用者の機能 健康 社会支援 サービス利用などを包括的に把握するために 居宅 施設 高齢者住宅の各場面において それぞれ最低限必要な項目が抽出されている したがって ある特定の領域に偏ることのないアセスメントが可能である

表 1 インターライ方式 によるアセスメント領域 アセス メント 領域 居宅版 施設版 高齢者住宅版 A 基本情報 B 相談受付表 C 認知 D コミュニケーションと視覚 E 気分と行動 F 心理社会面 G 機能状態 H 失禁 Ⅰ 疾患 J 健康状態 K 口腔および栄養状態 L 皮膚の状態 M アクティビティ N 薬剤 O 治療とケアプログラム P 意思決定権と事前指示 Q 支援状況 R 退院 退所の可能性 S 環境評価 T 今後の見通しと全体状況 U 利用の終了 V アセスメント情報 特徴 ➋ 明確な評価基準で結果の ばらつき が少ないまた アセスメント表の 記入要綱 には 各アセスメント項目の定義と評価の基準が明確に記されており 実施者間 職種間のアセスメントの差をなくすように設計されている たとえば ADL は 実施者によってアセスメント結果にばらつきが大きい項目であるため ばらつきを少なく かつケアプランへの反映が可能になるように 支援の程度と頻度に基づく詳細な評価基準が設けられている

特徴 ❸ 評価結果をケアプランに反映できる指針つき CAP( ケア指針 ) の 27 領域 ( 表 2) は 居宅 施設 高齢者住宅の各場面において 要支援 要介護高齢者にそれぞれ起こりやすい問題の領域である 各 CAP には それぞれの 問題状況が起こる背景や要因 問題が悪化する危険性 問題が改善する可能性 を検討するための指針や ケアの方向に関する臨床的知見がまとめられている これらを活用することにより 利用者の問題状況を客観的に分析し ケアの指針を得ることが可能となる 表 2 インターライ方式 の CAP( ケア指針 ) 項目 機能面 精神面 社会面 臨床面 居宅版 施設版 高齢者住宅版 1. 身体活動の推進 2. IADL 3. ADL 4. 住環境の改善 5. 施設入所のリスク 6. 身体抑制 7. 認知低下 8. せん妄 9. コミュニケーション 10. 気分 11. 行動 12. 虐待 13. アクティビティ 14. インフォーマルな支援 15. 社会関係 16. 転倒 17. 痛み 18. 褥瘡 19. 心肺機能 20. 低栄養 21. 脱水 22. 胃ろう 23. 検診 予防接種 24. 適切な薬剤使用 25. 喫煙と飲酒 26. 尿失禁 27. 便通

特徴 ❹ 課題のあり処を浮き彫りにする トリガー項目 各 CAP には トリガー ( 引き金 ) と呼ばれるアセスメント項目( トリガー項目 ) が設定されている アセスメント項目の大部分は何らかの CAP のトリガー項目となっており これらの項目のアセスメント結果によって特定の CAP が トリガー される トリガーされた領域は 利用者が課題を抱えている領域であり CAP に書かれた指針に沿って 課題の分析 検討を行ない ケアプランに反映させる トリガーは 蓄積されたアセスメントのデータベースを分析することによって同定されており たとえば ADL の CAP は 追跡して改善ないし維持された利用者の特性に基づいて規定されている 例として 表 3 に せん妄 の CAP のトリガー項目を示した アセスメントによりこれらの項目に該当すると せん妄の CAP が トリガー され せん妄に関する利用者の課題を詳細に検討し ケアプラン作成に活かすように工夫されている この CAP とトリガーの仕組みにより 27 の問題領域に関して 全体をアセスメントしたうえで 該当領域についてより深い課題検討が可能となる 表 3 せん妄 の CAP トリガー項目 以下の 1 つ以上に当てはまる 普段とは違う ( 新しく始まった / 悪化した / 最近までの状態とは異なる ) 以下の行動がみられる 注意がそらされやすい [C3a=2] 支離滅裂な会話がある [C3b=2] 1 日のうちで精神機能が変化する [C3c=2] 急な精神状態の変化 [C4=1] [ ] 内はアセスメント表の項目記号とアセスメント結果を示している たとえば [C3a=2] は C3. せん妄の兆候 をアセスメントする評価項目 C3a 注意がそらされやすい の結果が 2.( 該当の ) 行動があり 普段の様子とは違う であることを示し この項目にチェックがついた利用者は せん妄 が起こっている / 起こりやすい状況にあるものと認識できる また せん妄 のおそれを感じるときは このトリガー項目から指示されたアセスメント項目へと遡って評価を確認することもできる

MDS 方式から何が変わったか 以上のような仕組みは MDS 方式 でも用いられていたが インターライ方式 では その仕組み を発展させる開発がなされ 切れ目のないケア の実現によりいっそう活用できるアセスメント方式と なった ここでは インターライ方式で改善された主な事項を紹介する アセスメント項目の共通化 MDS 方式では 施設版 在宅版 高齢者住宅版など さまざまな場に対応した版が別に存在したが インターライ方式では全体を再構築し 利用者の居住場所を問わずに全版共通に用いる項目を コア項目 とし それに各版にそれぞれ必要な 固有項目 を追加するモジュール形式を採用した 表 1で示したとおり コア部分が大半であり たとえば居宅版では 退院 退所の可能性 はないが ( 家族などの ) 支援状況 と 環境評価 が追加される 一方 高齢者住宅版では 該当する領域はコア部分に限られている このように 3 つの版を再構築したことにより アセスメント項目のさらなる共通化が図られ さまざまな居住場面において利用者を共通の ものさし でアセスメントすることが可能となっている CAP の一本化と精緻化これまで在宅版の CAP と 施設版の RAP(Resident Assessment Protocol) に分かれていた指針を CAP として一本化した これにより 切れ目のないケアプランを作成するうえで 課題の検討がいっそう行ないやすくなった 表 2 で示したとおり 大部分の CAP はいずれの版においても適用されている また 同時に CAP トリガーが精緻化され 必要に応じて 問題解決のためのトリガー 悪化の危険性を低減するためのトリガー 改善の可能性を高めるトリガー というように トリガーに 2 つ以上のレベルを設定した したがって 異なるアプローチが必要である利用者の状態に対し より精緻な課題分析が可能となっている 日本版 独自の工夫このような大幅な刷新に加え 2011 年 11 月に発表された 日本版 のインターライ方式ケアアセスメントでは 以下のとおり独自の工夫を行なっている オリジナル版では アセスメント表の項目記号は セクションも含めて施設版 在宅版など各版によって各々異なっているが 日本版では統合して同じにした 上記に合わせて記入要綱も1 冊の本にまとめ 各版に固有な箇所については色枠で囲むなど 汎用性と使い勝手をいっそう高めた オリジナル版では CAP は別冊であったが 日本版では CAP も含めて1 冊にまとめた 日本でこれまで刊行されていなかった 高齢者住宅版 も合わせて1 冊にまとめた なお 同版は居宅 施設の中間に位置づけられ 入居者の生活を評価する項目としてインターネット活動への参加などの独自な項目も加えられている

居宅ケアにおける インターライ方式 の利点 このように 多様な特徴をもつ インターライ方式 であるが 居宅ケアの場面でこれを活用する利 点として とくに以下の 2 点が挙げられる 多職種間のスムーズな連携が可能居宅ケアにはさまざまな専門職が関わっており 職種によってアセスメント内容や形式が大きく異なることが 職種間の連携を阻害している インターライ方式 では アセスメントするべき内容は 高齢者に起こりやすい問題状況である 27 の CAP 領域から 各領域の専門家による標準的な水準で設定されている したがって アセスメントはある特定の専門職の視点に偏らない包括的なものとなっている アセスメント担当者が福祉職の場合は医療的知識を補うように 医療職の場合には福祉的知識を補ってアセスメントを行なうことが可能である また これらの項目が 共通言語 によって書かれているため 職種間で情報を共有することも容易になっている 利用者のニーズに応じた活用が可能居宅ケアにおいては 利用者の状態に応じたさまざまなニーズが発生する インターライ方式 の居宅版アセスメントは 長期ケアのニーズをもつ利用者のみならず 退院直後や在宅における病院からのケアの提供時などの 亜急性期のニーズをもつ利用者にも対応できるよう設計されている また 先にも述べたとおり 居宅 高齢者住宅 施設各版におけるコア項目を設定しているため 居住場所によらず 利用者を中心に置いたアセスメントが可能となっている さらに 居宅から高齢者住宅 居宅から施設への連携の際の情報共有が容易である 以上 インターライ方式 の特徴と居宅ケアにおける利点について述べてきた インターライ方式は 実施者間 職種間の差がないアセスメントを可能にする包括的なアセスメント項目と CAP とトリガーの仕組みによる客観的な課題分析を可能にするアセスメント方式である より多くの事業者 専門家がインターライ方式のアセスメントを活用することで 切れ目のないケア を実現し 地域包括ケアシステム確立に寄与することを期待している