総会2016CFTVer. 2

Similar documents
第 112 回日本皮膚科学会教育講演 皮膚病理へのいざない 第 1 回毛包 脂腺に分化する腫瘍 ( 基底細胞癌を含む ) 佐賀大皮膚科三砂範幸 1 毛包腫瘍 :Over view 2 脂腺腫瘍 :Over view 1

Bowen病 ・白板症・ケラトアカントーマなら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

450 章皮膚の悪性腫瘍 症状顔面や手背などの露光部に, 直径数 mm 1 cm 程度の淡紅りんせつ色の紅斑性局面を形成し, 固着性の鱗屑や痂皮を伴う. 境界はやや不明瞭. 角化傾向が強く, ときに灰白色の角化性結節や角状の突出 皮角 (cutaneous horn) を認める( 図.8).60 歳

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

高知赤十字病院医学雑誌第 2 2 巻第 1 号 年 5 原著 尿細胞診 Class Ⅲ(AUC) の臨床細胞学的検討 ~ 新報告様式パリシステムの適用 ~ 1 黒田直人 1 水野圭子 1 吾妻美子 1 賴田顕辞 2 奈路田拓史 1 和田有加里 2 宇都宮聖也 2 田村雅人

<4D F736F F D CB48D655F87562D31926E88E695DB8C928A E947882AA82F F4390B38CE32E646F6378>

Microsoft PowerPoint - ASC-Hの分析について.ppt

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

皮疹が出現するメカニズムは不明のものが多いのですが 後天性魚鱗癬を除き 腫瘍細胞が産生する TGF-aや EGF により表皮細胞の増殖が誘導されることが一因であろうとの推測がなされています Leser trélat 兆候は 有名な病態であり 実際 多くの症例が報告されています 最近は皮膚科以外の診療

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

がん登録実務について


2010 年 3 月 18 日放送 第 34 回日本香粧品学会会頭講演より メラノサイトは動く 岩手医科大学皮膚科教授 赤坂俊英 1. メラノサイトが動くとき胎生期に神経溝由来のメラノブラスト ( 色素形成芽細胞 ) もstem cell factor 受容体であるチロシンキナーゼのc-kitの活性

Microsoft Word 病理所見の書き方(実習用).docx

2010 年 12 月 2 日放送第 109 回日本皮膚科学会総会 9 教育講演 19 メラノーマのすべて より メラノーマの早期診断と治療方針 岡田整形外科 皮膚科 眼科髙田実はじめに悪性黒色腫は転移しやすく 悪性度の高いがんとして恐れられていますが 他のがんと同じく早期発見 早期治療が適切に行わ

cell factor (SCF) が同定されています 組織学的に表皮突起の延長とメラノサイトの数の増加がみられ ケラチノサイトとメラノサイトの増殖異常を伴います 過剰のメラニンの沈着がみられます 近年 各種シミの病態を捉えて その異常を是正することによりシミ病変の進行をとめ かつシミ病変の色調を薄

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

扉_総論.indd

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

乳腺40 各論₂ 化膿性乳腺炎 (suppulative mastitis) 臨床像 授乳の際に乳頭の擦過創や咬傷から細菌が侵入し, 乳房に感染症を生じるものである 乳汁 排出不良によって起こるうっ滞性乳腺炎とは区別する 起炎菌は連鎖球菌や黄色ブドウ球菌である 自発痛, 腫脹, 硬結, 圧痛, 発赤

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

ベセスダシステム2001の報告様式 ーASC-US、ASC-Hの細胞像と臨床的意義ー

_08長沼.indd

日産婦誌61巻4号研修コーナー

母斑・母斑細胞母斑なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

<4D F736F F F696E74202D2089EF8AFA8CE38DB791D682A681478A7789EF2089F090E020284E58506F C E B8CDD8AB B83685D>

本日のお話 皮膚がんの原因 紫外線について 紫外線と皮膚がん 紫外線以外の皮膚がんの原因 早期に発見するために

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

PowerPoint プレゼンテーション

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

2015 年 4 月 16 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 3 シンポジウム1-1 Netherton 症候群とその類症 旭川医科大学皮膚科教授山本明美 はじめに Netherton 症候群は魚鱗癬 竹節状の毛幹に代表される毛の異常とアトピー症状を3 主徴とする遺伝性疾患ですが

IARC/IACRにおける多重がんの判定規則改訂版のお知らせ

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

参考文献 1. Hampe, J.F. and Misdorp, W. (1974) Tumours and dysplasias of the mammary gland. Bull WHO 50: Moulton, JE, (1990) Tumors of the Mamma

皮膚病理なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

pbl(renal) LI

00467TNM悪性腫瘍の分類日本語版第7版

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

PowerPoint プレゼンテーション

!"#$%&'() FNAC) CNB) VAB MMT!

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

腫瘍・アポクリン・エクリンなら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

Microsoft PowerPoint - ★総合判定基準JABTS 25ver2ppt.ppt

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

Dr. Kawamura.doc

PDF/開催および演題募集のお知らせ

Taro-18_2特別講演.jtd

D. 汗腺系腫瘍 413 c d e 図.14 汗管腫 (syringom) 2 5 mm c d e 腔の一端に, 短い尾のような上皮索をつける特徴的な像 オタマジャクシ様 (tdpole-like) またはコンマ状 (comm til) を呈する. 管腔は 2 層の壁細胞からなり, 周囲に結合組

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

6„”“ƒ-’ó‹ä’æ’¶.ec9

症例4 消化器

図 1 乳管上皮内癌と小葉上皮内癌 (DCIS/LCIS) の組織像 a: 乳頭状増殖を示す乳管癌 (low grade).b: 篩状 (cribriform) に増殖する DCIS は, 乳管内に血管増生を伴わない時は,comedo 壊死を形成することがあるが, 本症例のように血管の走行があると,


Microsoft Word - 眼部腫瘍.doc

線に及ぶ 4 パッチテスト 光パッチテストで多数の陽性物質が検出されるが それらの抗原によるアレルギー反応は直接原因ではない 5 病理組織学的に湿疹 皮膚炎群の所見を示し 時に真皮内に異型リンパ球の浸潤がみられる などです なお 現在までに本疾患の原因は解明されていません 慢性光線性皮膚炎の臨床像次

<4D F736F F F696E74202D2097E189EF90B893788AC7979D95F18D902E707074>

乾癬なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

NEWS37-p1.eps

第 6 回千葉乳房画像研究会教育講演資料 (2004/7/17) 2 カテゴリー 1: 異常なし (negative) カテゴリー 2: 良性 (benign) 乳房は左右対称で 腫瘤 構築の乱れも石灰化も存在しない 血管や点状の 1,2 個の石灰化 正常大の腋窩リンパ節 高濃度乳房をよく乳腺症とし

4. 膵腫瘤存在診断 A) 確診 1 粋の明らかな異常エコー域 ( 注 ) 2 粋の異常エコー域が以下のいずれかの所見を伴うもの a) 尾側膵管の拡張 b) 膵内または膵領域の胆管の狭窄ないし閉塞 c) 膵の限局性腫大 B) 疑診 1 膵の異常エコー域 2 膵領域の異常エコー域 3 膵の限局性腫大

組織所見 ( 写真 4,5): 異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状, 管状に浸潤して おり, 浸潤性乳管癌 ( 硬癌 ) の所見である. 設問 2 78 歳, 女性. 左乳房上 C 領域の腫瘤 選択肢 1. 線維腺腫 2. 乳管内乳頭腫 3. 乳管癌 4. 小葉癌 5. 悪性リンパ腫 写真 4

インスリン局所注射部の 表在超音波検査について

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

9章 その他のまれな腫瘍

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D20925F CF82CC D8F8A8CA9836E FC95D246494E414C5B93C782DD8EE682E890EA97705D>

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

<4D F736F F D2091E63789F192B796EC8A6791E593E08E8B8BBE8CA48B8689EF82DC82C682DF>

2017 年 8 月 31 日放送 第 80 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 5 シンポジウム5-2 片側性やブラシュコ線に沿った分布を示す小児皮膚疾患 ~ 診断と遺伝子検査のポイント~ 慶應義塾大学皮膚科准教授久保亮治はじめに日常の診療では時々 線状に配列する皮疹や 縞々模様を呈する皮疹 体の片


呈することです 侵さない臓器は無いと言ってもいいくらいに現在までに多くの臓器病変が記載されています ( 表 2) ただし 悪性腫瘍( 癌 悪性リンパ腫など ) や類似疾患 (Sjögren 症候群 原発性硬化性胆管炎 Castleman 氏病 二次性後腹膜線維症 肉芽腫性多発血管炎 サルコイドーシス

2011 年 9 月 29 日放送第 74 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 6 教育講演 4-1( 膠原病 ) 皮膚限局型エリテマトーデスの病型と治療 埼玉医科大学皮膚科教授土田哲也 本日は 皮膚限局性エリテマトーデスの病型と治療 についてお話させていただき ます 言葉の問題と病型分類エリテマトー

1.中山&内田 P1-9

成人T細胞白血病・NK/ T細胞リンパ腫・皮膚T細胞リンパ腫なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

実践!皮膚病理道場

PowerPoint プレゼンテーション


学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

<4D F736F F D208DD F E8482BD82BF82CD82B182F182C88DD F082DD82C482A282DC82B72E646F63>

Transcription:

第 115 回日本皮膚科学会総会 学術大会 ( 京都 ) クレータ状を呈する上皮性皮膚腫瘍の病理 日本医科大学武蔵小杉病院皮膚科安齋眞一 COI 開示 : 演題発表に関連し 開示すべき利益相反 (COI) 関係にある企業 法人組織や営利を目的とした団体はありません

クレーター状を呈する上皮性皮膚腫瘍 ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma およびそれと鑑別が必要な腫瘍

ケラトアカントーマ : Keratoacanthoma とは何か? いろいろと問題がある

前提としての大問題 みんなが思っているケラトアカントーマ : Keratoacanthoma は 本当に同じものなのだろうか? この定義上の問題も訳をわからなくしている大きな要因 人によってケラトアカントーマ :Keratoacanthomaの定義が違う?

何が問題か? ( というかなぜ訳がわからないか?) ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma という腫瘍は存在するのか? 全部有棘細胞癌 :Squamous cell carcinoma じゃないの? ただの同じ様な全体構築をもつ病変の総称 ( 臨床病名 ) ではないのか? あるとしたら ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma は ほんとうにすべて良性腫瘍なのか? ほとんどの例は 自然軽快するが 臨床的 / 病理組織学的にケラトアカントーマ :Keratoacanthomaと診断した症例で転移を起こすことがある ときに病理組織学的に 有棘細胞癌 :Squamous cell carcinomaと鑑別が難しい

臨床的にあるいは病理組織学的に KA と思われた病変が転移など SCC とすべき所見をともなったときどう考えるのか? 日本ではこう考える傾向が強い 本来 SCC のものを KA と誤診した 最初から KA と SCC が合併していた KA の中に SCC が生じた ( 悪性転化した ) 元来 KA は SCC である 最近ではこう考えられている 欧米での基本的な考え方

では 臨床的にあるいは病理組織学的に KA と思われた病変が転移など SCC とすべき所見をともなったときどう考えるのか? KA の中に SCC を生じることがあるという報告 ( 考え ) が提示された KA with a conventional SCC component KA with malignant transformation KA-like SCC *Weedon DD, Malo J, Brooks D, Williamson R. Squamous cell carcinoma arising in keratoacanthoma: a neglected phenomenon in the elderly. Am J Dermatopathol 2010; 32:423-426. *Misago N, Inoue T, Koba S, Narisawa Y. Keratoacanthoma and other types of squamous cell carcinoma with crateriformarchitecture: classification and identification. J Dermatol 2013; 40: 443-452. クレーター状の構築を示すSCCの亜型があることも報告されている *Sáchez Yus E, Simón P, Requena L, Ambrojo P, deeusebio E. Solitary keratoacanthoma: a self-healing proliferation that frequently becomes malignant. Am J Dermatopathol2000; 22: 305-310. *Misago N, Inoue T, Nagase K, Tsuruta N, ey al. Crater/ulcerated form of infundibular squamous cell carcinoma: A possible distinct entity as a malignant (or high-grade) counterpart to keratoacanthoma. J Dermatol 2015;42:667-673.

ケラトアカントーマ : Keratoacanthoma の臨床的定義 臨床的に発症後急速に増大する 自然退縮することが多い 時間的特徴 半球状を呈し 中央に角栓を入れるクレーター状結節としてみられる腫瘍 肉眼形態の特徴

一応 この肉眼形態の特徴に当て はまる病変の臨床像を出します

ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma の 病理組織学的定義 病理組織学的には 外向 内向性に角化細胞が増加する病変 中央に角栓をともない 病変辺縁に口唇状構築をともなう 良性上皮性腫瘍 腫瘍の全体構築のみの診断クライテリア

この様な全体構築をもつ腫瘍 今回お話しする病理組織学的基準で診断 次に示す腫瘍に分類可能

クレーター状構築を示す上皮性腫瘍の分類 Benign neoplasms Crateriform Verruca:CFV Crateriform seborrheic keratosis: CSK Keratoacanthoma: KA Malignant neoplasms Crateriform (Papillated) Bowen s disease KA with a conventional SCC component KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK Infundibular SCC (Crater type)

ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma という良性腫瘍は存在するのか? 確かに存在する!!

全体構築をもとにした診断クライテリアだけではケラトアカントーマ :Keratoacanthoma を診断することができない

ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma 全体の病理組織学的特徴 外向 内向性に角化細胞が増加する病変 で 中央に角栓をともない 病変辺縁に口 唇状構築をともなうという全体構築をもつ 今までの全体構築に関するクライテリア 毛包漏斗部及び毛包峡部に分化する 多房性の病変 スリガラス様の薄桃色の角化細胞 (large pale pink cells) が特徴

KA と SCC の鑑別点 通常多形性が無秩序に起こるSCC 対し 早期 / 増殖期から成熟期のKAでは 深部の腫瘍胞巣辺縁に最も多形性が強く 細胞多形性の勾配 ( 極性を持った多形性の勾配 ) がみられる つまり KAではスリガラス様の薄桃色の角化細胞 (large pale pink cells) に核異型性がない ( 少ない )

ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma の病理診断においてもう一つ大事な点 時期によってその病理組織像が 劇的に変化する腫瘍である!

ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma の 病理組織像の時間的変化 定型的な単発性 KA は 生検された時期によってことなる組織像を呈する KA は以下のような 4 病期に分類することができる 1) 早期 / 増殖期 2) 成熟期 3) 消退期 4) 消失期

KA( 早期 / 増殖期 ) 早期 / 増殖期のKAは 角質の充満した表皮または毛包漏斗部構造がいくつか弯入した病変で 層状角化パターンを示し しばしば多量のケラトヒアリン顆粒をともなう 病変の深部にのみ スリガラス様の薄桃色の角化細胞 (large pale pink cells) がある 病変深部は周辺間質との境界が不明瞭になることがある KA 病変の辺縁部では 成熟期より早期 / 増殖期の方が増殖する角化細胞に核異型や核分裂像がよく見られ 両期とも腫瘍細胞の軽度の浸 潤がみられる

KA( 成熟期 ) 左右対称性でクレーター状 外向内向性発育のある病変 連続して拡大した毛包漏斗部から毛包峡部へと分化した病変で 中央に大きな角栓を伴う 正常被覆表皮から連続して 覆い被さるような口唇様構造を伴う 病変は主に毛包峡部分化 つまりスリガラス様の薄桃色の大型の角化細胞 (large pale pink cells) が増加し 緻密な角化を伴う 時に細かいケラトヒアリン顆粒や部分的錯角化をともなう

KA( 消退期 ) 病変はクレーター状の構築を残すが 数個のケラチンを充満した薄いクレーター構造になる 消退期のKAは 再び層状の毛包漏斗部様角化となり スリガラス様の薄桃色の大型の角化細胞は消失傾向となる 真皮の線維化 炎症細胞浸潤を伴う

KA( 消失期 ) 消失期の KA は 覆い被さるあるいは挙上した辺縁を持つ菲薄化した表皮病変であり 表皮は 表皮稜が消失して平坦化し萎縮性となる

クレーター状構築を示す 他の上皮性良性腫瘍

クレーター状構築を示す上皮性腫瘍の分類 Benign neoplasms Crateriform Verruca:CFV Crateriform seborrheic keratosis: CSK Keratoacanthoma: KA Malignant neoplasms Crateriform (Papillated) Bowen s disease KA with a conventional SCC component KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK Infundibular SCC (Crater type)

良性クレーター状腫瘍

良性クレーター状腫瘍 良性のクレーター状病変だと考えたものには どうも3 種類の病変がありそうだということに気がついた その構成成分が 脂漏性角化症 :Seborrheic keratosisであるもの 尋常性疣贅 :Verruca vulgarisに類似 上記のいずれでもないもの 腫瘍胞巣周囲の角化細胞の核異型性が目立つ 好酸性の豊富な細胞質を持つ細胞の集塊を伴う

クレーター状脂漏性角化症 : Crateriform seborrheic keratosis ときに外方への手指状突出を伴うクレーター状の全体構築を持ち 基底細胞様細胞の増加による過角化と表皮肥厚がある しばしば偽角質嚢腫を伴う

ケラトアカントーマとしての基本構築

Crteriform seborrheic keratosis: クレーター状脂漏性角化症

この腫瘍の鑑別上の問題 反転性毛包角化症 :Inverted follicular keratosis とどう鑑別するか? 脂漏性角化症 :Seborrheic keratosis がクレーター状を呈する場合 ほとんどが 尋常性疣贅 : Verruca vulgaris の所見をともなってくる つまり 尋常性疣贅の所見を持つ脂漏性角化症 : Seborrheic keratosis with the features of Verruca vulgaris そうすると 渦状角化 :squamous eddy をともなってくることが多い 構成成分が 反転性毛包角化症 :Inverted follicular keratosis と類似する

Crateriform epithelial CSKtumors

IFK

結局 全体構築で決めるしかない? クレーター状を呈したらクレーター状脂漏性角化症 :Crateriform seborrheic keratosis クレーター状でなかったら反転性毛包角化症 :Inverted follicular keratosis

良性クレーター状腫瘍 良性のクレーター状病変だと考えたものには どうも3 種類の病変がありそうだということに気がついた その構成成分が 脂漏性角化症 :Seborrheic keratosisであるもの 尋常性疣贅 :Verruca vulgarisに類似 上記のいずれでもないもの 腫瘍胞巣周囲の角化細胞の核異型性が目立つ 好酸性の豊富な細胞質を持つ細胞の集塊を伴う

尋常性疣贅 :Verruca vulgaris に類似するもの

1 2 胞巣の大きさは均一で 規則正しく配列する 胞巣辺縁は平滑である 内方発育は目立ず 表皮稜の集中像を伴う

粗大なケラトヒアリン顆粒がある 胞巣辺縁の細胞の核の腫大や異型性は目立たない

密な角化 ( 層状角化または錯角化 ) がある 一部 Pale pink cells があるが 下方への増加はない ( 毛包峡部に分 化した細胞の下方への増加がない )

Crateriform verruca (CFV) 病変はいくつかの胞巣より成り 胞巣の大きさは均一で 各胞巣が不規則に癒合することなく規則正しく配列している 病変下面は辺縁表皮と同じ高さで一線となり 胞巣の辺縁は平滑である 内方発育が目立たない しばしば表皮稜の集中像がある Pale pink cellはあっても良いが 毛包峡部に分化した細胞の下方への増加がない 細胞異型は基底層を含め基本的にないか あっても軽度 炎症細胞浸潤はないか 軽度あるのみでリンパ球や形質細胞浸潤が主体 顕著な角化 ( 層状角化または錯角化 ) と 顆粒層肥厚を伴う Ogita A, Ansai S, Misago N, Anan T, Fukumoto T, KimuraT, Saeki H: A clinicopathologic study of crateriformverruca: epidermal crateriformconfigulations histopathologically distinguished from keratoacanthoma, J Dermatol, Epub ahead of print.

結局 その構成成分が 尋常性疣贅 :Verruca vulgaris に類似 クレーター状疣贅 :Crateriform verruca (CFV) ( 以前に trichilemmal horn として報告された例に類似 : たぶん一部は同じもの ) そうではないもの 腫瘍胞巣周囲の角化細胞の核異型性が目立つ 好酸性の豊富な細胞質を持つ細胞の集塊を伴う ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma

CFV VV

悪性クレーター状腫瘍 Malignant neoplasms Crateriform (Papillated) Bowen s disease KA with a conventional SCC component KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK Infundibular SCC (Crater type)

Crateriform Bowen s disease KAの構築と極めて類似したクレーター状の病変で 連続性で角化した腫瘍胞巣と覆い被さるような上皮の口唇様構築よって形成される外向内向発育性の病変で 中央に角栓をともなう 口唇様構築部や腫瘍細胞胞巣はボーエン病の典型的な細胞で構成され 多核細胞や異角化細胞を含む著明な異型性を伴う角化細胞が基底層を避けて表皮全層性に増殖している

悪性クレーター状腫瘍 Malignant neoplasms Crateriform (Papillated) Bowen s disease KA with a conventional SCC component KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK Infundibular SCC (Crater type)

KA with a conventional SCC component KA-like SCC 及び KA with malignant transformation (mka) が含まれる いずれの型の病変も 一部に KA と診断できる領域 ( 弯入した毛包漏斗部とスリガラス様の薄桃色の大型の角化細胞 (large pale pink cells) からなる腫瘍細胞胞巣によって構成された外向内向性の病変で 著明な核異型性を欠く ) と通常の SCC の領域がある KA-like SCC では SCC 領域が KA の病変に混在したり KA との明瞭な境界がみられないが mka では SCC 領域と KA 領域の間に明瞭な境界がみられる KA 領域の大部分の細胞で核異型性があった場合もKA-like SCCと診断する

KA-like SCC

KA-like SCC

KA with malignant transformation

KA with a conventional SCC component

悪性クレーター状腫瘍 Malignant neoplasms Crateriform (Papillated) Bowen s disease KA with a conventional SCC component KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK Infundibular SCC (Crater type)

Crateriform SCC 多房性や口唇様構築を伴うこともあるクレーター状病変で Bowen 様異型角化細胞が全層性にクレーターの底部にみられる 毛包峡部でみられるような スリガラス様の薄桃色の大型の角化細胞はない AKの病変が辺縁や口唇様構築にみられる

クレーター状病変で多房性や口唇様構造を伴うことがある

辺縁部 クレーター底部 クレーター底部は全層性に Bowen 様異型角化細胞があり 毛包峡部分化 つまり Large pale pink cells はない 日光角化症病変が辺縁や口唇様構造にある

Infundibular SCC (crater/ ulcerated form) 漏斗部型 SCC は通常の SCC が毛包漏斗部から連続して放射状に増加してものである KA とは違い 病変の全体に核異型性がある KA 要素はみられない 真皮深層に浸潤した広範囲な腫瘍細胞の浸潤を伴うクレーター状の病変で 病変中央には少量から中等量の角質塊がある 病変辺縁では異型角化細胞増殖を伴ういくつかの連続した毛包漏斗部様構造が特徴である クレーター底では腫瘍細胞で構成される毛包漏斗部様構築や異型角化細胞胞巣がある KAの毛包漏斗部様構築は層状角化で異型性がみられないのに対し Infundibular SCCでは毛包漏斗部様構築を構成する細胞は 錯角化をともなうボーエン様の異型角化細胞である

ケラトアカントーマに類似する構築を形成する病変の割合 (380 例の集計 ) Benign neoplasms (88 例 :23.3%) Crateriform SK (12 例 :3.2%) Crateriform Verruca (76 例 :20.0%) Low grade malignancy? Keratoacanthoma (214 例 :56.3%) Early/ proliferative (85 例 :39.7%) Well-developed (82 例 :38.3%) Regressing/ Regressed(47 例 :22.0%) Ogita A, Ansai S, Misago N, Anan T, Fukumoto T, KimuraT, Saeki H: Histopathological diagnoses of epithelial crateriformtumors: Keratoacanthoma and other types of epithelial crateriformtumors, J Dermatol, Epub ahead of print.

ケラトアカントーマに類似する構築を形成する病変の割合 Malignant neoplasms (78 例 :20.5%) Crateriform (Papillated) Bowen s diease (12 例 :3.2%) KA with a conventional SCC component (45 例 :11.8%) KA-like SCC KA with malignant transformation Crateriform SCC arising from AK (11 例 :2.9%) Infundibular SCC (Crater type) (10 例 :2.6%)

KA と組織学的に KA と類似した疾患 : 臨床データの比較 男 : 女年齢 ( 歳 ) ( 平均 ±SD) 大きさ (mm) ( 平均 ±SD) Crateriform SK (12 例 ) 6:6 62.9±15.3 9.8±2.4 (10 例中 ) Crateriform verruca (76 例 ) 41:35 67.9±15.0 8.2±3.8 (64 例中 ) Keratoacanthoma (214 例 ) 増殖期 (85 例 ) 成熟期 (82 例 ) 消退消失期 (47 例 ) 122:93 69.8±14.0 (212 例中 ) 9.3±5.2 (74 例中 ) 10±4.8 (69 例中 ) 12±6.5 (39 例中 ) Crateriform Bowen (12 例 ) 7:5 81±6.4 8.6±1.7 (10 例中 ) KA with a conventional SCC (45 例 ) 25:20 76.1±14.5 12.9±6.2 (40 例中 ) 切除までの期間 ( 月 ) ( 平均 ±SD) 3.2±1.3 (5 例中 ) 14.0±15.9 (41 例中 ) 2.3±3.3 (51 例中 ) 5.1±7.8 (43 例中 ) 7.1±11 (27 例中 ) 12.3±12.8 (8 例中 ) 10±17.3 (26 例中 ) Crateriform SCC (11 例 ) 3:8 79.2±13.4 9.5±7.3 13.3±16 (3 例中 ) Infundibular SCC(crater) (10 例 ) 8:2 73±8.2 11±4.8 3.4±3.6 (6 例中 ) (8 例中 )

KA と組織学的に KA と類似した疾患 (366 例 ): 発症部位の比較 頭部顔面頸部手前腕上腕体幹下肢 合計 10 例 232 例 36 例 15 例 21 例 12 例 16 例 24 例 Crateriform SK (12 例中 ) 1 例 8.3% 6 例 50% 0 例 0 例 0 例 2 例 16.7% 1 例 8.3% 2 例 16.7% Crateriform verruca (74 例中 ) 5 例 6.8% 23 例 31.1% 20 例 27% 1 例 1.4% 6 例 8.1% 2 例 2.7% 7 例 9.5% 10 例 13.5% Keratoacanthoma (205 例 ) 2 例 1% 138 例 67.8% 14 例 6.8% 13 例 6.3% 14 例 6.8% 7 例 3.4% 6 例 2.9% 11 例 5.4% cbowen (10 例中 ) KA with a conventional SCC(44 例中 ) 0 例 6 例 60% 2 例 4.5% 40 例 90.9% 1 例 10% 1 例 10% 0 例 0 例 2 例 20% 0 例 0 例 0 例 1 例 2.3% 0 例 0 例 1 例 2.3% Crateriform SCC (11 例中 ) 0 例 9 例 81.8% 1 例 9.1% 0 例 1 例 9.1% 0 例 0 例 0 例 Infundibular SCC (10 例中 ) (crater) 0 例 10 例 100% 0 例 0 例 0 例 0 例 0 例 0 例 顔面発生 232 例中 良性は 12.5% KA は 59.5% 悪性は 28%

The incidence of SCC developed in KA with patient's age Age Cases of KA Cases of KA with a conventional SCC component Incidence of SCC developed in KA <70 100 9 9/109 (8.3%) 70 112 36 36/148 (24.3%) 70-79 51 15 15/66 (22.7%) 80-89 50 16 16/66 (24.2%) 90+ 11 5 5/16 (31.3%) Total 212 45 45/257(17.5%)

結論 (1) ケラトアカントーマ :Keratoacanthoma というのは 特徴的な全体構築を持ち 毛包漏斗部及び毛包峡部に分化した Pale pink cells を特徴とする 急速に増大したり 自然消退することの多い 良性 ( あるいは低悪性度 ) の独立した上皮性腫瘍

結論 (2) ときにケラトアカントーマ :Keratoacanthoma 内には 有棘細胞癌 :Squamous cell carcinoma が発生することがある 一部生検で ケラトアカントーマ : Keratoacanthoma しかなくとも注意は必要 臨床的及び病理組織学的全体構築がケラトアカントーマ :Keratoacanthoma に類似する有棘細胞癌 :Squamous cell carcinoma がある

CQ. 臨床的に単発性ケラトアカントーマを疑ったときにどのような初期対応が推奨されるか? 推奨度 B 病理組織学的に診断を検討するために できる限り早期に全摘出することを勧める 全摘出が困難な場合には 部分生検で診断を検討することを勧める 日本皮膚科学会皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第 2 版

謝辞 この講演の内容に関しては 以下の方々にお世話になりました 謹んで御礼申し上げます 共同研究者荻田あづさ ( 日本医科大学武蔵小杉病院皮膚科 ) 三砂範幸 ( 中尾医院 ) 木村鉄宣福本隆也阿南隆 ( 以上札幌皮膚病理診断科 ) ( 敬称略 ) 症例収集認定 NPO 法人皮膚病理発展推進機構札幌皮膚病理診断科職員の皆様

ご静聴ありがとうございました