学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 尾崎吉弘 論文審査担当者 主査宇尾基弘副査小野卓史 竹田淳志 論文題目 Location dependency of the spatial resolution of cone beam computed tomography for dental use ( 論文内容の要旨 ) 緒言 歯科用コーンビーム CT ( 以下 CBCT) は 歯や顎骨の高精細な断面画像を連続的に表示する画像診断法であり 歯科臨床の様々な領域において広く利用されている CBCT の特徴の一つとして 優れた空間分解能を有することが知られており これまでの研究により 撮像視野中心における CBCT の空間分解能は 医科用マルチディテクター CT よりも高いことが報告されている 一方で 一般に CT による断面画像の構築は Radon 原理に基づいており 被写体周囲から全周あるいは半周分の投影画像から再構成される その投影画像は連続的な X 線透視画像として得るため動きによるブレが存在し これが撮像視野内の周辺部における空間分解能の低下につながるとする報告が存在する CBCT 画像の空間分解能についてもこのような不均一性が存在すると予想されるが これまでにこの問題点について検討した報告はない われわれは CBCT 画像における空間分解能を変調伝達関数 (Modulation Transfer Function: 以下 MTF) を用いて評価し 撮像視野内の位置依存性について明らかにすることを目的として本研究を行った 材料と方法 CBCT 装置について CBCT 装置として 3DX FPD8 ( モリタ製作所, Kyoto, Japan; 以下 3DX) と FineCube v.12( 吉田製作所, Tokyo, Japan; 以下 FineCube) の 2 機種を用いた 3DX では管電圧 80kV 管電流 1mA 撮影時間 17 秒 (360 度回転 ) で撮影を行ない 撮像視野 (Field of View: 以下 FOV) は直径 80mm x 高さ 80mm とし 画像構築にはズーム再構成機能を用い 1 辺 0.080mm のボクセルサイズとした FineCube では Wide area モード (FOV は直径 81mm x 高さ 75mm) を用い 管電圧 90kV 管電流 4mA 撮影時間 16.8 秒 (360 度回転 ) で撮影を行った 得られた画像のボクセルサイズは 0.157x0.157x0.146mm であった MTF 測定 MTF 測定のために 直径 100mm x 高さ 95mm のアクリル製円筒の中心にφ0.100mm の太さのタングステンワイヤーを縦に張ったワイヤーファントム ( 京都化学, Kyoto, Japan) を用いた 今回の MTF 測定では位相方向へのオーバーサンプリングを行なうため ワイヤーをファントムの軸に対 < 2 >
して 2 傾けた状態に位置づけた 測定に際しては測定位置の再現性を確保するために 精密平行移動用ステージを用意し その上にファントムを載せて FOV 内の複数箇所の測定位置 (X 軸方向 0, 7, 14, 21, 28mm Z 軸方向 -30, -20, -10, 0, 10, 20, 30mm) での撮影を行った 撮影はそれぞれの位置で独立して 3 回行い その画像データを DICOM 変換した後 MTF 計算用の Windows コンピュータに取り込み XY 平面上での放射方向と方位角方向 および Z 回転軸方向の MTF を計算した このソフトウェアは連続した画像ファイルを読み込み あらかじめ設定した行列サイズでイメージを抜き出し ワイヤー断面の線広がり関数 (line spread function: LSF) を得ることができる 今回の設定では 100 枚の連続した画像からオーバーサンプリングした LSF に対してフーリエ変換を行い MTF 曲線を算出した ラインペアテスト空間分解能を視覚的に評価するために SEDENTEXCT IQ ファントム (Leeds Test Objects, North Yorkshire, UK) の Spatial Resolution LP/mm(XY) モジュールと同 (Z) モジュールを用いてラインペアテストを行った これらのモジュールはアルミニウム箔とポリマーシートからなり 1.0, 1.7, 2.0, 2.5, 2.8, 4.0, 5.0 line pair/mm のラインペアが設定されている なおラインペアテストとは 1mm 中に観察可能な白黒のラインペアの数を表すものであり 数字が大きいほど解像度が高いことを示す これらのモジュールを 2 つの機種で FOV の中心および周辺部に位置づけて撮影を行い OsiriX ソフトウェア (Pixmeo, Geneva, Switzerland) を用いて画像読影用モニター (RadiForce RX220, Eizo, Japan) 上で観察し 視覚的な評価を行なった 微細構造物の主観的評価更に微細構造物の主観的な観察を行なうために Jcl:SD ラット ( 体重 719g, オス, 日本クレア, Tokyo, Japan) をソムノペンチル麻酔下にて 10% ホルマリン緩衝液にて灌流後浸漬し頭部を切断したものを被写体とした これを 2 つの機種で FOV の中心と上方周辺部に位置づけて撮影を行ない ラットにおける歯や歯周組織の描出能について主観的評価を行なった ( 動物実験計画書承認番号 : 0130227A) 結果 2 機種の CBCT 装置について XY 平面上での放射方向と方位角方向 更に Z 回転軸方向における MTF 曲線が得られた 2 機種のいずれにおいても XY 平面上の放射方向では回転中心からの位置によらず MTF 曲線は一定であった 一方 方位角方向では測定位置によって空間分解能は異なっており 回転中心から遠ざかるほど MTF 曲線が下方にシフトする傾向が認められた Z 回転軸方向については中央でもっとも MTF が高く 中央より上下方向にシフトすると MTF は低下する傾向が認められた FOV 中心から周辺にかけての空間分解能の変動をより直感的に理解するために 得られた MTF 曲線から 50%MTF と 10%MTF を算出しグラフ化を行った これらのグラフから XY 平面については 2 つの機種で同様の傾向が認められ 放射方向では不変 方位角方向では右下がりとなる (FOV 周辺部にいくほど空間分解能が低下する ) ことが示された Z 回転軸方向では 3DX では FOV 中央より上下でやや低下する程度であったが FineCube では FOV 中央で特に空間分解能が < 3 >
高くなる凸型を示し Z =30mm と Z =20mm の値は同等であった ラインペアテストの結果については XY 平面の放射方向については FOV 中心と周辺部で読み取り可能なチャートは等しく 解像限界は 3DX では 2.5 lp/mm FineCube では 2.8 lp/mm であった 方位角方向については FOV 周辺部において 3DX で 1.7 lp/mm FineCube で 2.0 lp/mm であった Z 回転軸方向に関しては 3DX と FineCube のいずれにおいても 中央で 2.8 lp/mm 上方あるいは下方で 1.7 lp/mm であった Jcl:SD ラットを用いた主観的評価では 被写体を FOV 中心に位置した場合には 3DX と FineCube 共に それぞれ臼歯やその周囲の歯根膜腔や歯槽硬線が鮮明に描出されたが FOV 周辺上方部に位置づけた場合には 2 機種とも描出能が低下していた 考察 今回の研究により CBCT 画像の空間分解能は FOV 内で不均一であり 位置依存性が認められること また観察方向による方向依存性が存在することが明らかとなった MTF 測定の結果 10%MTF の値は XY 平面での放射方向では 3DX で 2.3 lp/mm FineCube では 2.7 lp/mm となった 一方方位角方向では位置依存の影響を受け 3DX で中心から周辺にかけて 2.3 lp/mm~1.8 lp/mm FineCube で 2.6 lp/mm~1.9 lp/mm という結果が得られた また Z 回転軸方向では 3DX においては上下方向にシフトしても大きな違いは認められなかったが FineCube においては 上下的な位置により大きな違いが認められ しかもその変化量は独特であった これまで歯科用 CBCT 画像の空間分解能の不均一性について検討した報告は無いが Yang らはプロトタイプの乳房用 CBCT の空間分解能について報告を行っている 同報告によれば 放射方向での空間分解能に位置依存性は無いが 方位角方向では FOV 中心から周辺にかけて MTF が低下するとしており 今回の我々の研究と同様の結果であった 本研究において この MTF の低下は使用した 2 機種の装置に共通して認められた結果であり 他の CBCT 装置においても同様の結果が認められる可能性は高いと考えられる 一方 Z 回転軸方向に関しては 機種による違いが認められ 3DX では高さ依存性はわずかであったが FineCube では明らかな高さ依存性が認められた さらにラインペアテストでは いずれの機種においても 上下方向にシフトすることによって MTF の結果以上に解像限界が低下した これは 上下方向にシフトすることにより MTF が低下するだけではなく コーンビーム投影によるアーチファクトによって被写体の識別がより難しくなることを示すものであると考えられた 本研究によって CBCT で得られる画像の空間分解能は FOV 内の被写体の位置付けによって影響され FOV 中心部において最も高く 周辺部では低くなることが明らかとなった 最近の CBCT 装置の多くは 80mm x 80mm 程度の大きな FOV を設定しており 上下歯列の全体を FOV の中に位置づけて撮影を行うことができる しかしながら このような撮影では歯列全体が FOV の周辺部に位置づけられることになり CBCT の優れた空間分解能を生かしきれていない可能性があると考えられた < 4 >
論文審査の要旨および担当者 報告番号甲第 4816 号尾崎吉弘 論文審査担当者 主査宇尾基弘副査小野卓史竹田淳志公開審査 : 平成 26 年 12 月 26 日 ( 論文審査の要旨 ) 歯科用コーンビーム CT ( 以下 CBCT) は 歯や顎骨の高精細な断面画像を連続的に表示する画像診断法であり 歯科臨床の様々な領域において広く利用されている CBCT の特徴の一つとして 優れた空間分解能を有することが報告されているが これまでに CBCT 画像の空間分解能について詳細な検討がなされたことはない 尾崎はこの点に着目し CBCT の撮像視野 (Field of View: 以下 FOV) 内の様々な位置における空間分解能について評価を行った 本研究は CBCT における空間分解能の位置依存性について検討した初めての研究であり その着眼点と独創性は高く評価される 本研究において尾崎は 2 種類の CBCT 装置 ( モリタ社製 3DX とヨシダ社製 FineCube) を用いて FOV 内の様々な位置において変調伝達関数 (Modulation Transfer Function: 以下 MTF) 解析を行い その空間分解能を定量的に評価した 具体的には 直径 100µm のタングステンワイヤーをもつファントムを作成し ワイヤーに沿った 100 枚の画像からオーバーサンプリングを行って XY 平面上での放射方向と方位角方向 および Z 回転軸方向の 3 方向における MTF をそれぞれ計算しているが この手法はきわめて再現性が高いと考えられ 精度の高い MTF 曲線を得ることに成功している 更に尾崎は 得られた MTF 解析の結果を検証するために 空間分解能モジュールを使用したラインペアテストやラット頭部の画像を用いた主観的評価を行っているが このことは本研究が周到な研究デザインのもとで実施されたことを示している 本研究により得られた主な結果は 以下の通りであった 1) MTF 解析の結果 XY 平面上での空間分解能は 放射方向においては 回転中心からの位置によらず一定であったが 方位角方向においては回転中心に近いほど高く 周辺に向かうにつれて低下した また Z 回転軸方向においては 空間分解能は FOV 中央部で最も高く 上下方向にシフトすると低下した 2) ラインペアテストの結果 XY 平面の放射方向においては 読み取り可能なチャートは位置によらず等しく 解像限界は 3DX で 2.5 lp/mm FineCube で 2.8 lp/mm であった 方位角方向においては FOV 周辺部において 3DX で 1.7 lp/mm FineCube で 2.0 lp/mm であり いずれも中心部よりも低下していた Z 回転軸方向に関しては 3DX と FineCube のいずれにおいても FOV 中央で 2.8 lp/mm 上方あるいは下方で 1.7 lp/mm であった 3) ラット頭部の画像を用いた主観的評価では 3DX と FineCube のいずれにおいても 被写体を FOV の周辺部に位置づけた場合には 中心部に位置づけた場合よりも 明らかに描出能が低下した 以上のように 本研究によって CBCT で得られる画像の空間分解能は FOV 内の被写体の位置 < 5 >
付けによって影響され FOV 中心部において最も高く 周辺部では低くなることが明らかとなった このことについて尾崎は 最近の CBCT 装置の多くは 80mm x 80mm 程度の大きな FOV を設定しており 上下歯列の全体を FOV の中に位置づけて撮影を行うことができるが このような撮影では歯列全体が FOV の周辺部に位置づけられることになり CBCT の優れた空間分解能を生かしきれていないことを指摘しているが このような考察は CBCT の有用性を今後更に発展させる上で重要な示唆を与えるものと評価される 以上のように 本研究は CBCT 画像における空間分解能の不均一性および位置依存性について明らかにした初めての研究であり 歯科医学のみならず画像診断学および医用画像工学全般の発展に寄与するところがきわめて大きいと考えられる よって 本論文は博士 ( 学術 ) の学位を請求するに十分値するものと認められた < 6 >