古河電工時報 第137号(2018年2月)

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特集 OneF 自動車 主機モータ用巻線のための次世代技術開発 New Technology of Winding Wire for Main Electric Motors 冨澤恵一 * 1 Keiichi Tomizawa 島田守 * 1 Mamoru Shimada 池田佳祐 * 1 Keisuke Ikeda 武藤大介 * 1 Daisuke Muto 福田秀雄 * 2 Hideo Fukuda 概要 ハイブリッド自動車 (HEV) や電気自動車 (EV) の普及に伴い, 動力性能や燃費向上を目的として搭載されるモータは小型化と高出力化が加速しており, これらモータに使用される巻線にはより高い絶縁性能を持つ皮膜と低損失な導電材が要求されている 当社では絶縁層に気泡を導入することで部分放電開始電圧 (PDIV) が飛躍的に向上することを明らかにし, 今までにない低誘電率絶縁材料を開発した また導体を分割することで渦電流損失を大幅に低減することが可能であることを見出し, 駆動周波数と損失低減効果の関係性について検証した結果,1 khz 以上の周波数領域にて顕著な効果が見られることを示した 1. はじめに近年, 自動車の二酸化炭素排出量削減要求などの各国の環境規制を背景に, ハイブリッド自動車 (HEV) や電気自動車 (EV) などの電動モータを搭載した車両が急速に普及している モータは加速時の駆動源としてだけでなく, 減速時には発電機としてバッテリへの充電も行っており, モータの性能は動力や燃費性能に直結する非常に重要な要素である モータには小型化, 高効率化による出力密度の向上が求められており, また高トルク性能の要求を達成するために動作電圧が400 Vを超える高電圧で使用されるケースも増加傾向にある 一般的に車載用モータには回転数を高精度で制御可能なインバータが用いられているが, インバータの高速スイッチングに伴い発生する立ち上がりが急峻で高電圧なサージ ( インバータサージ ) によってモータのコイル絶縁が損傷してしまうことが問題視されている 当社ではインバータサージに起因する部分放電現象と絶縁劣化の研究に巻線業界の中でもいち早く取り組み, そのメカニズムの解明と巻線皮膜の部分放電開始電圧の向上に努めた結果, 世界初の高耐電圧巻線 HVWW の開発に成功した 1) 本報では耐部分放電特性の更なる向上を目的として巻線の絶縁皮膜中に微細な気泡を導入する手法を新規開発し, 気泡入り皮膜の優れた絶縁特性を確認したので報告する またモータの更なる効率向上を目的として巻線に用いている導体を分割することで渦電流に対する損失を低減可能とする研究成果についても併せて報告する 2. 気泡入り絶縁材料による高耐電圧化 2.1 絶縁材料の低誘電率化当社では耐部分放電特性向上を目的とし, 比誘電率が1.0である空気をエナメル樹脂中に導入することによる絶縁皮膜の低誘電率化に取り組んできた その結果当社独自の樹脂組成開発により微細な気泡を含むエナメル層が形成されたエナメル線 ( 気泡巻線 ) の開発に成功した 図 1に開発した気泡巻線の模式図を示す Conductor 図 1 Micro Cellular Coating 開発した気泡巻線の模式図 Schematic diagram of developed winding wires with micro cellular coating. この組成開発により従来の汎用エナメル線と比較して絶縁皮膜の比誘電率を大幅に下げることが可能となった 図 2に汎用のポリアミドイミド樹脂 (PAI) に気泡を導入した絶縁樹脂の比誘電率と空隙率の関係を示す 空隙率とは絶縁皮膜に対する気泡の体積比率である * 1 研究開発本部自動車 エレクトロニクス研究所 * 2 古河マグネットワイヤ ( 株 ) 技術統括部 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 8

Relative Permittivity 3.5 Measured Estimated 3.0 2.5 2.0 1.5 20 30 40 50 60 Porosity (%) Relative Permittivity 図 3 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0 50 100 150 200 250 300 Temperature ( ) Porosity = 50% 比誘電率の温度依存性 Temperature dependence of relative permittivity. 図 2 PAI の比誘電率と空隙率の関係 Relative permittivity of PAI as a function of porosity. 空隙率と比誘電率との理論値については発泡絶縁体を被覆し た架橋電線でよく用いられている式 (1) のA.S.Windeler の式にて推定した ε c : 気泡入り絶縁樹脂の実効比誘電率 ε i : 絶縁物の比誘電率 ( 今回は PAIの比誘電率 ) ε a : 気泡 ( 空気 ) の比誘電率 (=1.0) F : 気泡率の容積比 ( 空隙率 %) (1) 図 2 中の実線は本計算による理論推定値を示し各プロット点は実測値を示す 今回開発した気泡入りPAI 樹脂の比誘電率の実測値はこの理論値とほぼ一致し, 気泡入りエナメル層においても発泡電線と同様の式で推定可能であることを確認した この結果気泡を 50 vol% まで導入することで, 比誘電率を約 2.2 まで低減させることが可能となった 2.2 比誘電率の温度依存性気泡を50 vol% 導入した常温での比誘電率 2.2のPAI 絶縁樹脂について, 比誘電率の温度依存性を図 3に示す 車載用モータは高温環境下にさらされることがあり, モータに使用される巻線も同様に高温においても比誘電率が上昇せず, 絶縁特性が維持されていることが重要である 本測定の結果気泡入りPAI 樹脂では300 もの高温下でも比誘電率は変わらず一定であることが判明した このことから気泡入りPAI 樹脂層は車載用モータ向け巻線材料として, 高温下においても非常に高い絶縁性を有していることが示された 2.3 部分放電開始電圧 (PDIV) の推定と妥当性検証当社では部分放電開始電圧 (Partial Discharge Inception Voltage : PDIV) を巻線間の電界強度と空気の絶縁性を示すパッシェン曲線を用いて推定し, 実測との差分を検証することで放電現象が絶縁皮膜の絶縁性に依存するという理論 1) の妥当性を明らかにしてきた 本報でも有限要素法などの電界解析によりツイストペアの空気ギャップの電界強度とギャップ距離の関係を評価し, パッシェン曲線と電界強度が一致するときの印加電圧をPDIV 推定値として示し,PDIV 実測値と比較することで気泡導入による皮膜の低誘電率化が部分放電開始電圧へ及ぼす効果の妥当性について検証した 2.4 部分放電開始電圧 (PDIV) の測定気泡入り PAI 層を導体上に焼き付けて気泡巻線を作製し, 部分放電開始電圧の測定を実施した 導体の直径は1.0 mm, 絶縁層の膜厚は30 µmとし, 気泡化したPAI 樹脂を導体上に焼き付けて絶縁層を形成した気泡巻線を評価に用いた 気泡の空隙率は30% 及び50% である PDIVの測定にはツイストペアを試験片として用い, 次の方法にて実施した 温度 25, 相対湿度 50% に制御された恒温恒湿槽に試験片を設置し, 導体間に50 Hzの正弦波交流電圧を50 V/sの昇圧速度で印加し, 放電電荷量が10 pcを超えたときの印加電圧をpdivとした 部分放電の検出にはKPD2050( 菊水電子工業製 ) を用いた 同一サンプル内にて1 回の実験で繰り返し5 回測定し, そのうちの 2 ~ 5 回目のデータを採用し, その平均値をN=1のデータとした 測定のN 数はN=3としこれら全データの平均を代表値とした また温度依存性の取得には25 ~ 300 まで保持可能な恒温槽内で気圧依存性取得時にはポンプにて減圧状態を一定に維持したデシケータ内で測定を実施した 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 9

2.5 空隙率と部分放電開始電圧空隙率を30%,50% としたときの気泡巻線の25 における PDIV 測定結果を図 4に示す また比較として気泡を導入していない汎用エナメル線の測定結果を0% として併記した 1100 1000 Ratio of PDIV to basis (%) 110 100 90 80 70 60 50 Measured Estimated PDIV (Vp) 900 800 図 5 40 0 50 100 150 200 250 300 Temperature ( ) PDIV の温度依存性 Temperature dependence of PDIV. 図 4 700 600 0% 30% 50% Porosity 空隙率と PDIV の関係 PDIV as a function of porosity. PDIVを測定した結果, 気泡を導入することにより従来の汎用エナメル線 (0%) と比較してPDIVの大幅な向上が確認された また空隙率を増加させるほどPDIVが向上する傾向が見られ, 空隙率 50% の気泡巻線においては0% と比較して200 Vp 以上もPDIVが向上することが判明した 本結果より気泡を導入して比誘電率を低下させることでPDIVを大幅に向上させることが可能であることを示した 2.6 部分放電開始電圧の温度依存性空隙率 50% の 1.0 mm 気泡巻線について測定環境温度と PDIV の関係性について図 5に示す 図には,25 におけるPDIVを基準 (100%) とし, 基準値に対する各温度でのPDIVの割合を保持率として示した またパッシェン曲線から求めたPDIVの推定値についても図中に併記した 推定値を算出する際に使用する比誘電率については図 3の値を使用した 本測定結果から測定環境温度の上昇に伴いPDIVが低下する傾向が見られ, 300 での環境下では25 でのPDIV 値と比較して約 30% 低下することが判明した またその低下率はパッシェン曲線から算出した推定値とよく一致することを確認した 本結果より気泡を含む皮膜でも過去の報告と同様に, 電界強度とパッシェン曲線にて高温下での PDIVが推定可能であることを示した 2.7 部分放電開始電圧の気圧依存性 PDIVは空気密度の変化に影響を受けることから測定時の気圧によっても変動することが知られている 2) 空隙率 50% の 1.0 mm 気泡巻線について測定環境の気圧とPDIVの関係性について図 6に示す 図には 25 における PDIV を基準 (100%) とした場合の保持率を示した またパッシェン曲線から求めた PDIVの推定値についても図中に併記した 推定値を算出する際に使用する比誘電率については図 3 の値を使用した 本測定の結果より気圧の減少に伴いPDIVが低下する傾向が Ratio of PDIV to basis (%) 図 6 120 100 80 60 40 20 0 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 Atmosphere (atm) PDIV の気圧依存性 Atmosphere dependence of PDIV. Measured Estimated 見られ, 大気圧の半分である0.5 atmでの環境下ではpdivは約 30% 低下することが判明した またその低下率はパッシェン曲線から算出した推定値とよく一致することを確認した 本結果より気泡を導入した皮膜でも減圧下でのPDIVは理論どおりに推定可能であることを示した 2.8 実用化に向けて上記報告にて絶縁皮膜の気泡化による画期的な絶縁性能の向上を示してきた しかしながら実際のモータへ適用するためにはモータへの巻線加工時に影響する機械特性の評価, また巻線としての信頼性の指標の一つである長期での耐熱特性を評価する必要がある 今後もこれらの評価を継続し, 自動車用モータへの早期上市を目指していく 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 10

3. 分割導体による渦電流損失の低減 3.1 モータ損失の分類ここからは, 導体構成の改良により損失を低減するための取組について述べる 図 7にモータで生じる損失を主な要因ごとに分類したものを示す 損失はまず巻線で生じる損失 ( 銅損 ) とコアで生じる損失 ( 鉄損 ) とに分けることができる このうち銅損については巻線に電流を流すことでDC 抵抗に比例して発生するジュール損失 (DC 損 ) と, コアから漏洩した磁束が巻線に鎖交することで生じる渦電流損失 ( 渦損 ) とに分けることができる また鉄損も同様に渦電流損失とヒステリシス損失に分けることができる 3) モータ損失 図 7 銅損 ( 巻線損失 ) 鉄損 ( コア損失 ) モータ損失の分類 Classification of motor loss. DC 損失 渦電流損失 渦電流損失 ヒステリシス損失 式 (2) に巻線導体中で発生する銅損を表す式を示す W は損失,L は導体長さ,S は導体断面積,I は電流値,t は磁束に垂直な方向の導体厚み,B は鎖交磁束密度振幅,f は周波数,ρ は体積抵抗率,k e は損失係数である 右辺第一項はDC 損を表し, 電流値の二乗に比例する 右辺第二項は鎖交磁束によって生じる渦損を表し, 鉄損の渦電流損失と同様の式 4) で表すことができる 3.2 分割導体巻線の構造図 8に当社で開発を進めている分割導体巻線の模式図を示す 図 8 導体 ( 素線 ) 素線絶縁皮膜 共通絶縁皮膜 分割導体巻線の模式図 Schematic figure of conductor division magnet wire. 電子機器のトランスなどに使用されているリッツ線 ( 撚り線 ) 構造をモータ巻線に応用したもので, 占積率を高めるために平角断面形状としている 素線には互いの導通を防ぐための素線絶縁皮膜が設けられており, さらに外周には耐電圧性を確保するための共通絶縁皮膜が設けられている 導体を撚り線構造としているのは製造過程で素線がばらけるのを抑制するとともに, モータに組み込んだ際に各素線にかかる磁束を均一化するためである モータには必ずステータのコアとロータとの間のギャップが存在し, 磁束のコアからの漏れは主にこのギャップから発生する そしてギャップに近いほど磁束密度が大きくなるので渦電流損失の原因となる漏れ磁束にはロータに近い部分ほど大きくなるという空間的な分布が存在する そのため仮にリッツ線を撚らなかった場合には各素線の撚り線断面内での位置により鎖交する磁束密度に差が生じる その結果素線同士でインピーダンスに差を生じ, 巻線全体としての抵抗値が大きくなる原因となる それに対して撚り構造とした場合には各素線の撚り線断面内での位置が長手方向に進むとともに相互に入れ替わるため全ての素線に均一な電流が流れるようになり, 巻線全体の抵抗が最小となる 3.3 損失低減効果次に分割導体巻線の損失低減効果について述べる 図 9に損失評価装置の模式図を示す (2) 一般的に交流磁界により導体中に生ずる単位体積当たりの渦損は鎖交磁束密度振幅の二乗, 周波数の二乗, さらに磁束に垂直な方向の導体厚みの二乗に比例する したがってモータの回転数が低い状態で巻線に大電流を流す場合には相対的にDC 損 ( 第 1 項 ) の影響が大きくなるのに対し, モータ回転数が高くなり交流磁界の周波数が高くなる場合には相対的に渦損 ( 第 2 項 ) の影響が大きくなる そもそも細い丸型巻線が使用されていた頃に巻線の渦損が注目されることはなかった しかし近年の車載用モータでは駆動電流の大電流化や高電圧化が進んでおり, DC 損を小さくするために断面積が大きい平角巻線の使用が増えている 巻線断面寸法が大きいほど発生する渦電流損失が大きくなるため, 近年になってこの損失の大きさが問題視されるようになった インピーダンスアナライザ 計測用コイル 図 9 ~ 測定サンプル 渦電流損失測定装置の模式図 Schematic figure of conductor eddy loss measuring device. 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 11

本測定装置はコアにギャップを有する計測用コイルと計測用 コイルに接続されたインピーダンスアナライザから構成される 損失測定対象となる巻線サンプルは短く切り出した状態で計測用コイルのギャップに設置される 巻線サンプルが存在する場合と存在しない場合 ( ブランク ) とで計測用コイルのインピーダンスには差が生じる インピーダンスの差はサンプル巻線に発生する渦電流に起因するものであり, サンプル設置前後のレジスタンスの差からサンプル巻線における損失を計算することができる 図 10に本測定装置を用いて測定した同じ導体断面寸法の分割導体巻線と平角巻線の損失を示す 横軸は周波数, 縦軸に巻線 1 本当たりの損失を示している 巻線 1 本の渦電流損失 ( W) 0.14 0.12 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 磁界 平角ソリッド線 0.00 0 1000 2000 3000 4000 周波数 ( Hz) 平角リッツ線 図 10 渦電流損失測定結果 Comparison of measured conductor eddy current loss of solid and conductor division magnetic wires. この測定ではサンプル巻線の渦電流損失のみが算出されるため, 得られる損失値は周波数の二乗に比例している 分割導体巻線の損失は平角線の損失の約 19% であり,(2) 式の第 2 項から計算すると分割導体巻線は43% の導体幅の巻線を使用した場合と同等の渦電流損失となる ここまで述べたように分割導体巻線には渦損低減効果があることが実験的にも確認されている 他方で分割導体巻線では素線皮膜があるために導体占積率は平角線よりも小さくなり, DC 損失がより大きくなるデメリットもある そこで分割導体巻線をモデル化し,DC 損も含めたトータル損失低減効果の試算を行った 図 11に従来型平角巻線を分割導体巻線に置き換えた場合に銅損 (DC 損失と渦電流損失の合計値 ) が低減される範囲と増加する範囲を周波数と電流値に対して示す 電流 ( A) 損失が増加 損失が低減 周波数 ( Hz) 図 11 分割導体巻線による銅損低減効果の模式図 Schematic motor copper loss reduction on plane of frequency and current in case of replacement by conductor division magnetic wire. 電流値が大きく周波数が小さい場合にはDC 損の割合が大きく, 分割導体巻線を適用するとむしろ損失が増大する それに対して周波数が高い場合には相対的に渦損の割合が大きいため分割導体巻線により銅損を低減することができる 仮に回転数を大きくし電流値を小さくするなど, 高回転で低損失という分割導体巻線の特性を有効に使えるようなモータ構成を実現できればモータの小型化などのメリットにつなげることができると考えられる 3.4 実用化への課題分割導体巻線を実用化するためには平角巻線を置き換えて使用できるよう, 従来の平角線と同等に取り扱える必要がある モータに平角線を搭載する場合には巻線を短尺のセグメントに分割し,U 字型に加工した後にコアのスロットに挿入し, さらに端部同士を溶接してコイル化する方法が採られる場合が多い 5) そのため分割導体巻線にも平角巻線と同様に曲げ加工可能であることと溶接可能であることとが求められる 図 12に分割導体巻線に曲げ加工を行った際の導体の変形を有限要素法解析により計算した結果を示す 図 12 分割導体解析の曲げ解析結果 Result of FEM analysis of bending conductor division magnetic wire. 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 12

曲げ部周辺では素線間に隙間を生じ, 導体のばらけが生じる結果となった 実際に試作した巻線でも解析結果と同様にばらける現象が生じている すなわち単に素線を撚って平角線形状に加工しただけの分割導体巻線では曲げ加工に対応することはできず, さらなる工夫が必要になる また一般的にセグメントコイル化した巻線同士の接続は端部の皮膜を機械的に除去した状態でTig 溶接のような導体を溶着する方法により行われる 分割導体巻線においても外周皮膜に関しては平角巻線と同様に機械的に除去することができるが, 素線間にある皮膜までは除去できないという問題がある 仮に素線間にある皮膜を残したまま導体間の溶着を行うと皮膜材料が炭化した状態で溶接部に残留する可能性がある これは接続不良の原因となるため対策が必要となる これら残された課題を解決していくことで大きな損失低減効果が期待される分割導体巻線を実用化し, 車載用モータの低損失化と電動車の燃費低減に貢献していきたい 4. おわりに絶縁皮膜を気泡化することによる部分放電開始電圧の向上効果, 及び導体を分割することによる渦電流損失の低減効果について実験, 評価を進めてきた その結果絶縁皮膜の気泡化では自動車が運用される過酷な温度, 気圧条件下においても気泡が有する低誘電率性は低減しないことを見出した また分割導体巻線においては加工性への課題はあるものの, 従来の巻線と比較して渦電流損失を低減させることが可能であることを明確にすることができた 小型化 高効率化が加速することが予想される車載用モータの分野において, 本報告の内容は更なるモータの技術革新に寄与することが期待できる画期的な技術である 当社としては今後も低誘電率材料やモータ内渦電流損失に着目し, モータの性能向上を達成する材料開発に注力する 参考文献 1) 武藤, 大矢, 青井, 上野 : 巻線の部分放電現象に関する研究, 古河電工時報,133(2014),11-18. 2) 脇本, 高橋, 香田, 滝澤, 石田 :EV,HEV モータの高電圧絶縁に関する研究, デンソーテクニカルレビュー,16(2011), 68-76. 3) JMAG モータ設計勉強会編 : 永久磁石同期モータ設計入門, 株式会社 JSOL,(2016),219. 4) 森本雅之 : 入門モーター工学, 森北出版株式会社,(2013),56. 5) 金岩, 加藤, 梅田, 高崎, 神谷, 水谷 : 小型ハイブリッド車のモータステータの開発, デンソーテクニカルレビュー,19(2014), 58-59. 古河電工時報第 137 号 ( 平成 30 年 2 月 ) 13