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Millimeter-Wave Radar for Detecting Pedestrians あらまし 近年,IT(Information Technology) を活用した車両の安全システムの進化により, 車両事故による死亡者数は大きく減少している しかし, 歩行者などの交通弱者を保護する安全技術は未確立であり, その実用化が求められている 富士通グループでは, これまでに蓄積してきた技術を基に1970 年代よりの開発を開始しており, この分野における高い技術やノウハウを有している これらの技術を更に発展させ, 上記社会的要求に対応するために高分離分解能化と検知能力を向上させたおよび横断歩行者検知アルゴリズムの開発を進めている 本稿では, 現在開発中の歩行者検知用の概要 性能 特性を紹介し, つぎに横断歩道上の歩行者検知への適用例について説明する そして, 最後にITS(Intelligent Transport Systems) の安全 安心分野における本技術を活用した他システムへの具体的適用検討事例について述べる Abstract Recently, major advances have been made in vehicle safety systems using information technology (IT), resulting in a significant decrease in traffic fatalities. No safety system is available, however, to specifically protect pedestrians and bicycle riders. Consequently, there is an urgent demand in Japan to put such a safety system to practical use. The Fujitsu Group has been developing millimeter-wave radar since the 1970s and possesses cutting-edge radar technology and the latest detection technology using millimeter waves. We have now developed algorithms to detect pedestrians at road crossings and an advanced millimeter-wave radar for this purpose. This paper gives an overview of the millimeterwave radar we have developed to detect pedestrians and describes its performance and features. It also describes the radar s application to detecting pedestrians at road crossings and cites specific cases. Lastly, it describes application examples of the radar technology to other systems in the fields of the Intelligent Transport Systems (ITS). 石井聡 ( いしいさとし ) ( 株 ) トランストロン ASV 開発部開発第二グループ所属現在, 車載画像処理装置の開発に従事 梶木淳子 ( かじきじゅんこ ) 次世代 IT ITSプロジェクト室センサープロジェクト所属現在, 道路などに設置するの開発に従事 FUJITSU.59, 4, p.387-392 (07,2008) 387

まえがき近年,IT(Information Technology) を活用した車両の安全システムの進化により, 車両事故による死亡者数は, 大きく減少している しかし, 事故数そのものは減少しておらず, とくに歩行者や自転車などの交通弱者を保護する安全技術は未確立であり, その実用化が求められている 著者らは, 道路などインフラに設置したセンサで, 車両からは死角になりやすい横断歩道上の歩行者を検知し, 車両に情報を伝えることにより, インフラと車両が協調して事故を未然に防ぐ安全システムの実現を目指している そのため, 横断歩行者の状況をリアルタイムに計測 検知する技術の開発と実用化が重要な課題となっている 富士通グループでは, これまでの蓄積技術を基に 1970 年代よりの開発を開始し,76~ 77 GHz 帯の電波を用いた車載レーダを実用化するなど, (1) この分野における高い技術やノウハウを有している は, 昼夜, 雨, 霧の影響を受けにくい耐環境性と, 周波数が高いため減衰しやすく広域まで到達しないというレーザや可視光とは違う特徴を持っており, 交通などの屋外局所の事象の計測 検知に適している 著者らは, 上記社会的要求に対応するためにこれらの技術を更に発展させ,FM-CW(Frequency Modulated-Continuous Wave) 方式 (1),(2) の高分離分解能化と検知能力を向上させたレーダの開発, および歩行者の検知アルゴリズムの開発を進めた その結果, 一般にでは困難とされている歩行者検知可能な高感度および横断歩道上の歩行者検知センサの原理試作機を完成させた 本稿では, 現在開発中の歩行者検知用の概要 性能 特性を紹介し, つぎに横断歩道上の歩行者検知への適用例について説明する そして, 最後にITS(Intelligent Transport Systems) の安全 安心分野における本技術を活用した他システムへの具体的適用検討事例について述べる 高さ160 mmであり, インフラの機材としては, ほかのシステムと比べても十分コンパクトである レーダの基本構成を図 -2に示す レーダは, アンテナ部, ミリ波送受信部, 制御部, アナログ部, デジタル信号処理部, 外部インタフェース部から成る アンテナ部 ミリ波送受信部は, アンテナを通してミリ波電波を送信し, 対象物からの反射波を受信し, ビート信号を生成する アナログ部では, 不要な信 ろ 号を濾波し, アナログ信号をデジタル信号に変換し, デジタル信号処理部に渡す 制御部は, 送信信号を三角型 (2) に周波数変調するための制御信号を生成し, ミリ波送受信部を制御する デジタル信号処理部は, 得られた信号から対象物までの距離と速度を算出し, 外部インタフェース部より出力する (2) の仕様と性能歩行者検知を実現するためにレーダに要求される性能としては, ガードレールや信号のポールなどの構造物と歩行者を分離すること, 横断歩道領域を極力少ないレーダで網羅すること, および歩行者のでの検知特性が挙げられる 車載用レーダでは車両の分離を目標としているため分離分解能が数 m 程度であり, 約 3~4 mの車線幅の歩行者を検知するには不十分である 歩行者用には, 最低でも車線の中央にいることを検知するため, 車線幅の半分にあたる1.5 m 以下での構造物と歩行者の分離が必要である 今回, 分離分解能を高めるため, 周波数変調範囲を車載用に比べ広げ, 要求を満たした また, 少ないレーダで必要な検知領域を網羅するため, 測定範囲を広げる必要がある の概要 性能 (1) の外観と構成の外観を図 -1に示す インフラに用いるレーダの大きさは幅 130 mm 奥行 230 mm 図 -1 の外観 Fig.1-Outline of millimeter-wave radar. 388 FUJITSU.59, 4, (07,2008)

そこで, 横断歩道の幅を 4 m, 奥行を 5 車線 (1 車 線 3.7 m 5= 約 20 m) と仮定した 図 -3(a) に示 すように 2 台ので上記横断歩道全体を 網羅する場合, ビーム角を約 15 測定範囲 20 m 以 上という仕様を策定した 車載では, 一つのアンテナを切り替えてミリ波の送受信を行っている その長所は小型軽量であり, 短所は歩行者のようなミリ波の反射波が弱いターゲットを検知しにくいことである しかし, 車載への要求は, ミリ波の反射波が強い車両の検知であり, とくに上記短所は問題とならない 今回のシステムでは, 切替え時のロスをなくすため, 送信 受信それぞれにアンテナを設け, ミリ波の反射波が弱い人なども検知できるようにしたが, その分, 形状は大きくなる しかし, この短所は, インフラ用であるため車載ほど小型軽量の要求は強くない 歩行者を検知する上では歩行者反射特性を知る必要がある 歩行者からの反射は, 多点からの反射と ミリ波送外ンテナ受アフナ号部ミリ波信ロ部グ部Fig.2-Block diagram of millimeter-wave radar. 外部インタデジタル信制御部部処理装置へ図 -2 の構成 ェース部処理部電源ア考えられ, マルチパスのある通信路の確率密度分布に準ずると考えた マルチパスのある通信路での確率密度分布には, 直接波強度の強いときの仲上 -ライス分布と直接波とマルチパスなどの反射波の強度とが同様な場合のレーリー分布がある (3) どちらの分布に近いかを検証するため, 一定時間本レーダで人を検知し, 受信電力の確率密度分布を計測した 確率密度分布を図 -4に示す 歩行者の平均受信電力を0 dbとし, 横軸は, 相対的な受信電力値を, 縦軸は確率密度を表す また, 仲上 -ライス分布とレーリー分布の確率密度関数グラフもこの図に重畳する この図からも分かるとおり, レーリー分布のグラフ ( スワーリングの変動モデル (2) ) と実データによる確率密度分布の傾向はほぼ一致することが分かる これより, 今後は, 歩行者からの反射特性はレーリー分布であることを利用し, 検知範囲の設計, レーダの設置設計, 検知処理アルゴリズムのシミュレーションなどを行うこととした ここまで紹介したの仕様と性能を表 -1にまとめた 歩行者検知用の横断歩道への適用 (1) 横断歩道歩行者検知システムの概要本システムでは, 具体的な交通システムへの適用を考え,24 時間 365 日どのような環境でも横断歩道上の歩行者を検知することを目標とした そこでほかのセンサに比べて耐環境性が高く, 歩行者の検知可能なレーダを用いた横断歩行者の検知システムの LAN LAN 歩行者検知処理装置 歩行者検知アルゴリズム (a) 使用イメージ LAN 外部機器へ (b) 原理試作システムの概要 図 -3 使用イメージと横断歩行者検知センサの原理試作システムの概要 Fig.3-Image of setting up radar and outline of first trial system. FUJITSU.59, 4, (07,2008) 389

0.3 0.25 人の実データによる確率分布レーリー分布仲上 - ライス分布 0.2 確率密度 0.15 0.1 0.05 0-30 -25-20 -15-10 -5 0 5 10 15 20 相対的受信電力 (db) 図 -4 歩行者の確率密度分布 Fig.4-Probability density function of walker. 表 -1 仕様 性能 項目 仕様 性能 備考 レーダ方式 FM-CW 周波数 76.5 GHz これを中心に ±200 MHz 送信出力 10 mw 以下 水平ビーム半値幅 15 垂直ビーム半値幅 4 アンテナゲイン 24 dbi 分離性能 1.5 m 以下 歩行者の測定範囲 2~20 m 開発を進めた 本システムの処理概要は, まず図 -3(a) に示すように横断歩道全域をカバーするために2 台のレーダを対向させ, それぞれのレーダの検知データを一つの情報に統合すること, つぎに車線幅のエリアごとに歩行者の有無 進行方向などの情報を生成することである この情報を無線通信で車両に定期的に通信し車内で注意喚起を行うか, または路上の表示板に注意喚起の表示を行うシステムを想定している レーダ自体の距離精度性能は, 文献 (4) などと同様な性能を有している 出力情報を車線幅エリアごととしたのは, ドライバへの注意喚起に用いる情報としては, 詳細な位置は不要であることと, 通信を考慮すると情報量を減らす必要があると考えたためである (2) 原理試作システムの概要横断歩行者を検知する原理試作システムの概要を 図 -3(b) に示す 原理試作システムの構成は,2 台の, 歩行者検知処理装置および通信用のLANからなる では, 横断歩行者, 通過車両, 背景にある構造物など検知領域内のあらゆる対象物からの距離 速度 受信電力を得る LANを通してその情報を歩行者検知処理装置に送り, 歩行者検知処理装置では, 新たに開発した検知アルゴリズムにより, 歩行者の有無, 進行方向, 車線ごとの位置に変換する LANを用いた理由は, リアルタイム性には欠けるが無線などに置換えが簡単であり, 道路を横断するケーブル設置の必要がなく, 手軽にデータを取得できるためである (3) 検知アルゴリズム図 -5に示すようにアルゴリズムの処理は, 背景差分, 時系列処理, レーダ融合処理と並列に行う背景生成からなる 背景差分は, 背景にある構造物などの背景データと入力データとで差分をとり, 背景を取り除く処理である これにより, ガードレールや信号ポールなどの構造物の情報を除去し, 横断歩道上に新たに現れた歩行者 通過した車の情報を得る しかし, レーダから得られる情報には, 閾値処理で除去し きれなかったランダムノイズもまだ含まれている 時系列処理は, 背景差分で得られた情報とその前に検知した歩行者の情報から推定された距離 進行 いき 390 FUJITSU.59, 4, (07,2008)

レーダよりデータ取得 背景差分 背景生成 時系列処理 レーダ融合処理 横断歩行者検知データ出力 図 -5 アルゴリズムの処理フロー Fig.5-Processing flow of detection algorithm. 歩行者の有無と進行方向 図 -6 イメージ図と検知結果例 Fig.6-Image and example of detection result. 方向 受信電力を比較し, 追跡を行う処理である 横断歩道上に現れた歩行者や通過した車は一般的に追跡できるが, ランダムノイズは追跡できない 一般的にランダムノイズの抑制は, 閾値処理であるが, この処理を加えることにより, ランダムノイズをより強力に抑制している また, ここで歩行者と通過した車両との分離は受信電力の違いによって行っている レーダ融合処理とは,2 台のレーダ検知範囲の重複した部分で同時に検知した同一物体の情報を一つにまとめる処理である 背景生成では, 入力データを距離ごとの平均化を行う これにより, 常に存在するガードレールや信号ポールなどの構造物の情報は生成されるが, 歩行者や通過車両などのような定常的にそこに存在しない物体の情報は生成されない (4) 検知結果検知結果の一例を図 -6に示す この例は, 横断歩道の幅として4 車線あるテストコースで横断歩行者の原理試作システムを用いたものであり, そこで二人の歩行者が歩いてくるシーンを示している 二人の歩行者の有無 進行方向 車線幅のエリアごとの位置が検知されていることが検知結果例から分かる むすび本稿では, 今回開発した歩行者検知用ミリ波レー ダの概要 性能 歩行者検知の特性について紹介し, 横断歩道上の歩行者検知システムへの適用について述べた ほかのアプリケーションへの展開として, 踏切の障害物検知への応用を進めている (5) 踏切障害物検知とは, 鉄道運行の安全を確保すべく, 踏切に存在する自動車などの障害物を検知し, 列車へ警報を促すものである 従来は列車への衝突時のダメージが大きい自動車を対象として, レーザを用いた装置を配備していたが, 近年は歩行者, 車椅子, 自転車などの交通弱者も検知対象とし, それらを保護する要望が高まってきている これらに対応するには, レーザの線的検知では難しく, 踏切内全体を漏れなくカバーする面での検知が必要であり, 今回開発中のがその耐環境性もあり最も適していると考えられる 現在, 実際に横断歩行者の検知システムの開発と並行して, 踏切障害物検知システムを提供する企業と共同で踏切にこのを設置し, 実証実験を行っており, 近い将来実配備を行う予定である を用いた歩行者検知の技術はまだ前例がなく様々な課題も存在する そのため, 実道路での実証実験を積み, 課題の洗出しと対応策の実施などを繰り返すことにより, 早期実用化を実現し, ITSにおける安全 安心に貢献していく所存である FUJITSU.59, 4, (07,2008) 391

参考文献 (3) 桑原守二ほか : デジタルマイクロ波通信. 初版, (1) 堀松哲夫ほか : 実用化を迎えたシス東京, 企画センター,1986. テム. 電子情報通信学会誌,Vol.87,No.9,p.756- (4) 山野眞市ほか : シングルチップMMIC 応用自動車 759(2004). 用 76 GHz. 富士通テン技報,Vol.22, (2) 吉田孝ほか : 改定レーダ技術. 初版, 東京, 電 No.1,p.12-19(2004). 子情報通信学会,1996. (5) 堀松哲夫 : 鉄道踏切の安全を高めるITSセンサ. FUJITSU,Vol.57,No.5,p.545-550(2006). 392 FUJITSU.59, 4, (07,2008)