Tte 糖分解の研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) Hayam, Jun'ch Ctaton Kyoto Unversty ( 京都大学 ) ssue Date 1961-03-23 URL https://do.org/10.14989/86472 Rght Type Thess or Dssertaton Textverson author Kyoto Unversty
8 ) 学位の種類学位記番号学位授与の日付学位授与の要件 速水醇はやみじゆんいち理学博士 理博第 2 9 号 昭和 36 年 3 月 2 3 日 学位規則第 5 粂第 1 項該当 研究科 専 攻 理学研究科化学専攻 学位論文題目 糖分解の研究 ( 主査 ) 論文調査委員教授後藤良造授教田中正三教授城野和三郎 論文内容の要旨水溶液中における単糖類の純化学的反応は, 反応溶液の水素イオン濃度 (ph ) のいかんによって種々異なった複雑な経路をたどって, 多くの反応生成物を与える これらの反応中次の 4 種類は古来反応の性格, 機構が非常によく研究されている ) 異性化反応, ) 酸性領域でのフルフラール誘導体の生成反応, ) アルカリ性領域での逆アルドール型開裂反応, v) 強アルカリ性領域での酸生成反応 しかし, これらのほかに中性付近での興味ある反応として野津, 後藤らによって見出されたアセトール C H 8CO C H 20 H の生成反応がある この領域での単糖類の分解生成物は, メチルグリオキサール C H BC O C H O であると古くから N euberg らによって主張されていて, 単糖の化学性からも一見妥当な機構が提出されていた 野津, 後藤らは単糖類の分解反応について研究を行ない, ヘキソース, ペントース, メチルペントースか らアセトールが生成し, テトロース, トリオースからはアセトールが生成しないことを証明した. これら の結果とモデル化合物を用いた研究結果とから, アセトール生成に関し, 野津の機構 ( 弱酸性 ) および後藤の機構 ( 弱アルカリ性 ) がそれぞれ提出された これらの機構はいずれも糖の構造上可能な過程ではあるが, 直接的な証明を欠いていてさらにつきすすんだ機構にはたち至っていなかった 著者は, その機構を明らかにする目的浸けでなく, 従来確たる知見の得られていない中性付近での単糖類の挙動を知り, 糖の化学性を明らかにする一助として, 放射性炭素 14C によって部分的に標識された単糖類の合成と分解とを行ない, さらに部分メチル化単糖類を利用した実験を行なって両者の知見を総合し, アセトール生成反応の機構を推定したのである 主論文第 1 部においては, 参考論文その 1 で得たヘキソース ( グルコース ) からのアセトール生成反応の特徴的性格が, ペントースの場合にも成立するか否かを検討した これによってペントースおよびヘキソースからのアセトール生成反応における共通性の有無がわかり, アセトール生成の一般機構を樹立する重要な一助とすることができる このため, D - キシロ- スー 1-14C および D -アラビノ- ス -5114C を合成 し, これらを ph 6.7 の濃厚なリン酸塩緩しょう液中で分解し, 生成したアセトールを採取後その放射能分 布を決定した 分解反応で得られたアセトールの減成 (degradaton) の結果, キシロース -1-14C, アラ - 24 -
ビノース -5-14C ともに, 用いた標識糖の約 1/2 の比放射能を持つアセトール 13-14C ( メチル J 4C) を与え ることがわかった この事実は, 標識ヘキソースの分解実験から予期されたように, ペントースの両端 炭素 C-1 および C15 がアセト - ルのメチル基に変換されることを示すもので, ヘキソースおよびペン トースからのアセト- ル生成には共通の機構が作用することを強く示唆するものであるo さらに, 生成アセトールの比放射能がいずれももとの糖の約 1/2 である事実を標識位置の知見と合せ考えると, ペントースの場合, C 5 炭素鎖に関し上下の対称性の良好な中間体が介在していることがわかる 換言すれば, アラビノース, キシロ- スの問の立体配置 (confguraton) の差の消失した共通の, またはよく似た中間体 を経由することが推定できる 主論文第 2 部に示した考察の結果, この中間体はおそらく 3 - ケトペント ース A またはそのエンジオレ- トアニオン B であろうと推察された CHOoCHCニ~CH~HD]d0HooHC A oedch 20H COH.: C 二〇 C0HCHのH B (- ) 主論文第 2 部においては, 部分メチル化単糖を利用してアセトールの生成機構を検討した すなわち, 参考論文その 1 および主論文第 1 部において明らかとなったように, アセトール生成には共通機構が存在 し, 単糖の両端炭素がアセトールのメチル基に変換されるのであるから, 次に問題となるのは C-1 および C6 ( ヘキソースの場合 ) または C-1 および C-5 ( ペントースの場合 ) がメチル基に変換される機構で ある 一般にアルデヒド基のメチル基 - の直接還元例は, 水添分解のような特殊な例を除いて知られてい ないし, 特に水溶液系の反応例は全く知られていないから, アルドースが一度ケトースに異性化した後に メチル基の生成反応が行なわれると解する方が妥当であろう この場合三種の機構が考えられる そこで 著者は, メチル化単糖を利用してこの反応機構を追究した すなわち, ヘキソースの 1 -, または 6 - 位を 0- メチル化しておけば, β- カルボニル脱離機構の場合にだけ OH ( の脱離よりも OM e(~' の脱離のほう がより容易であるために, 反応が促進され, 他の機構では反応が抑制されるであろう この原理を適用した 結果, 次のような事実がわかった ) 1-0 - メチルーフラクトースの場合はアセト - ル生成促進, ) 3-0- メチルーグルコースの場合はアセトール生成なし, 促進, ) 6-0 - メチルーグルコースの場合はアセトール生成 これらの事実はトレーサ - 実験の結果と相容れるものであって, アセトール生成には 3 - ケトース (- キソースの場合, 4 - ケトースも関与 ) からの β- カルボニル脱離反応が重要な働きをすることがわか った これにつづく過程は多く既知の型の反応であって, 全反応は次のように略記できる CH O CH 乏 OH CH aoh CH 一B CH 8 CH CCH OH CHOH CHOH 二080 CCHOH (a) C [ - 0 CHOH (b) 二0CHOH - CHOH または C - 0 一一 CHOH C - 0 CHOH CH OH CHOH CH OH CH 20H CH 20H CH 20H CH 20H - 25 - ーCニ~C - 0 (C) CH OH (d) CH 皇 OH CH OH CH 20H - CO 2H - - (1) J CHO H CH 乏 OH
(dc H O C H O 斑 C H O H C H O H C H ao H CHC H 皇 O H 8F ~C(a ) CH O H ~(b ) C0C - 0 ~ > ~ 1二 > C H ao H C H 乏 O H 二0H~CCC一HT=ニH0C0一H/EdC(2) 式中 3 1 ケトペントースは上下対称のためにアセト - ルほ上半下半部からほぼ等しい割合で生成する ミリC( 少なくとも下半部の寄与がヘキソースの場合よりも大きくなる ) ことが期待され, 第 1 蔀に述べたよう にこれが実証されている (C, C ) はよく見られる異性化であって, 近似例も知られていてる また, (d, d ) は次の一般式で示される反応であって, H ouse, C om bes, Jun, K arrer が報告されている らによってかなりの反応例 R/ E R C O - C - C O R / - R C O C R H O H + R C O 2H O H (R C O C R H O H 十 R C O 乞 H ) 以上述べたように, 本研究によってアセトールの生成過程が明らかとなり, その生成反応は a) 糖の異 性化, b) 3 - ケトースからの β- カルボニル脱離反応, C) α- ジケトンの β- ジケトンへの異性化 ( ベ ンジル酸型転位を行なわない ) とそれにつづく d) 切断の 4 段階に要約された ちなみに, a) の異性 化の成立と C) のベンジル酸型転位不成立の二つの条件を満す糖の反応例の報告はこれまでになく, この アセトール生成反応はこの意味で従来未知の反応であり, 上述の二つの基本反応の ) 両者の成立 ( サッカ リン酸生成 ), ) 両者の不成立 ( フルフラール生成 ), ) 異性化の不成立と転位の成立 ン酸生成 ) 三つの既知例とともに可能な最後の組み合わせに相当するものである 0 ( メタサッカリ 参考論文その 1 では,D - グルコースー 1-14C, D - グルコース -3, 4 14C および D プルコ - スー 6-14C を合成 し, これらを弱酸性のリン酸塩緩しょう液中で分解し, 生成する放射性アセトールを捕集して減成を行 なった その結果グルコース ( へキソ- ス ) の C -1, C - 6 がアセトールのメチル炭素に, C -3, C -4 が アセトールの第 1 級アルコール炭素に変換されていること, さらに炭素鎖の切断がもとの糖 の C 3-C 4 の 間で起こっていることがわかった 参考論文その 2 では, 標識糖合成の一環として, 他に報告例のない L -ラムノースー 1-14C の合成法を検 討した O このものが L- マンノースと同一の立体配置を持つことを利用して, L-マンノ- スー 1-14C 合成法 を参考としながら合成を行なった 5 - デオキシーしアラビノースに弱アルカリ性でシアンヒドリン合成を 行ない, L- ラムノ T - ラクトンー 1-14C を経て総合収率 37% で L - ラムノースー 1-14C を得た o 論文審査の結果の要旨 主論文は糖分解の研究は関するものであるO 従来, 水溶液中における単糖類の純化学的反応は, 反応溶液の水素イオン濃度 (ph ) のいかんにより種々異なった複雑な経路をたどって, 多くの生成物を与え, その反応の性格, 機構が, 特に強アルカリ性, 強酸性の場合には, 非常によく研究されている 中性付近 - 26 -
での興味ある反応として野津, 後藤らによって見出されたアセトール C H ac O C H 巳 O H の生成経路がある. この領域での単糖類の分解生成物は, メチルグリオキサール C H ac O C H O であると古くから N euberg らによって強く主張されていて, 単糖の化学性からもー見妥当な機構が提出されてきているO 野津, 後藤らは各種単糖類およびモデル化合物からアセトールの生成を証明し, その生成に関し野津および後藤の機構がそれぞれ提出されている これらの機構は, いずれも可能な過程であるが, 直接的な証明を欠いていて, さらにつきすすんだ機構にはたち至っていない 著者速水醇 - は, この機構を明らかにする目的および従来確たる知見の得られていない中性付近での単糖類の挙動を知り, 糖の化学性を明らかにする一助として本研究を行なっている 放射性炭素 14 C によって部分的に標識された単糖類の合成と分解, さらに部分メチル化単糖を利用した実験等を行ない, 糖分解反応の機構を推定したものであって, 興味のあるものである 主論文第 1 部においては, 参考論文その 1 で得たヘキソースからのアセトール生成反応の特徴的性格が, ペントースの場合にも成立するか否かを検討している このために, D -キシロースー 1-14 C および D - アラビノースー 5 J 4 C を合成し, これらを ph 6.7 の濃厚なリン酸塩援しょう液中で分解し, 生成したアセトールを採取後, その放射能分布を決定している 分解反応で得られたアセト- ル減成 (degradaton) の結果, キシロースー 1-14C, アラビノースー 51 14C ' ともに, 用いた標識糖の約 1/2 の比放射能を持つアセト ール-3-14C ( メチル-14C ) が生成してくることを明らかにしている この事実は, 標識 - キソースの分解実験から予期されたように, ペントースの両端炭素 C -1 および C -5 がアセトールのメチル基に変換されることを示めすもので, 著者はへキソ- スおよびペントースからのアセトール生成には, 共通の機構が作用することを示唆するものであることを強調している 生成アセトールの比放射能がいずれももとの糖 の約 1/2 である事実を, 標識位置の知見と合せ考え, ペントースの場合, C 5 炭素鎖に関し上下の対称性 の良好な中間体が介在していることが明確であるとしている 換言すれば, アラビノース, キシロースの 問の立体配置 (confguraton) の差の消失した共通の, またはよく似た中間体を経由することが推定でき る 著者は主論文第 2 部に示した考察の結果, この中間体はおそらく 3 サトペントース A またその エンジオレートアニオン B であろうと提唱 Cしている 加HCHo-C二oCHo-CHcD,]" A ( q H ao H C O H C 二〇 C O H C H BO H B (- ) 主論文第 2 部においては, 部分メチル化単糖を利用してアセトールの生成機構を検討している 一般にアルデヒド基のメチル基 - の直接還元例は, 水添分解のような特殊な例を除いて知られていないし, 特に水溶液系の反応例は全く知られていないから, アルドースが一度ケトースに異性化した後に, メチル基の生成反応が行なわれると解するほうが妥当であろうとしている そこで, 著者はメチル化単糖を利用することに着 - 27 -
眼し, ヘキソースの 1 -, または 6 - 位を0 -メチル化しておけば, O H H の脱離よりもO M e(~) の脱離のほうがより容易であるために, 反応が促進されるであろうと考察して, これを適用した結果, 次のような事実を明らかにしている すなわち, ) 1-0 - メチルーフラクトスの場合はアセトール生成促進, ) 310 - メチルグルコースの場合はアセトール生成なし, ) 610 1 メチルーグルコースの場合はアセトール生成促進. これらの事実はトレ- サー実験の結果と相いれるものであって, 著者は, アセトール生成には 3サト ス ( ヘキソースの場合, 4 サトースも関与 ) からのβ- カルボニル脱離反応が重要な働らきをするものであることを強調している そして全反応は次のように略記できることを提出している C H O C H 乞 O H C H 皇 O H C H O H ( C H O H C - 0 C H O H J.... -k _ トキ J c H O H c H O H または C - o 1 C H ao H C H 20 H C H 3 CーH a C H a CC - 0 二0~C - 0 U0Cニ0 一C H O H > C - 0 1 C H O H C H ao C H 乏 O H C H ao H H8C H O C H 乏 O H C H O H C - 0 C H 20 H C H 乏 O H CHC H 8 Cニ01 ~C = 0 - C - 0 - C H O H - C H 乏 O H J C H O H C O 乞 H [ C H ao H C H ao H C H 乏 O H 以上述べたように, 著者は本研究によってアセト - ルの生成過程を明らかにし, その生成反応は, a) 糖の 異性化, b) 3- ケトースからの β- カルボニル脱離反応, C) α- ジケトンの β- ジケトンへの異性化 ( ベン ジル酸型転位を行なわない ) とそれにつづく, d) 切断の 4 段階に要約されることを確立している ちなみ に, a) の異性化の成立と C) のベンジル酸型転位不成立の二つの条件を満す糖の反応例の報告は, これまでになく, 著者がはじめて見出したもので, アセトール生成反応は, この意味において, 従来未知の反応であるといえる 参考論文の 2 編はともに主論文の先駆をなすもので, 特にその 1 は主論文の骨格を形成する重要なものである その 1 においては, D -グルコースート 14C, D -グルコース-3, 4-14C および D -グルコ - ス16-14C をそれぞれ合成し, これらを弱酸性リン酸塩緩しょう液中で分解して, 生成する放射性アセトールを捕集し減成を行ないアセトール生成機構の一端を明らかにしたものであり, その 2 はし- ラムノ ス-1J 4C の合成を試み, 最初にその合成に成功した実験報告である ともに興味深い成果を得ている 要するに, 述水醇 - の論文は, 主論文および参考論文を通じ, 有機反応機構および有機合成の分野に興味のある新知見を加えたもので, 特に糖化学の研究に貢献するところが大きい またこれらの論文から著者が 有機化学の領域に豊富な知識と優秀な研究能力とを有することがうかがわれる したがって, 本論文は理学 博士の学位論文として価値があるものと認める - 28-
主論文公表誌 B uetn of the C hem ca Socety of Japan, V o.34 (1961), N o,7 参 考 論 文 1. Studes on the C hem ca D ecom poston of Sm pe Sugars X,A ceto F erm aton from 14C -L abeed H exoses ( 糖分解の研究 第 10 報, 14 C - 標識ヘキソース類からのアセトール生成 ) ( 後藤良造ほか 2 名と共著 ) 公表誌 B uetn of the C hem ca Socety of Japan, V o.34 (1961), N o.6 2. L -R ham nose-1-14c (L - ラムノースート 14C の合成 ) ( 後藤良造ほか 1 名と共著 ) 公表誌 有機化合物合成法 第 12 集 ( 昭. 35) - 29 -