第 4 章 管理体制の整備 HACCP の 7 つの原則 1 危害分析 : 危害の原因の明確化 2 重要管理点の決定 : CCP の判定と決定 3 管理基準の設定 : CCP を管理するための管理基準の設定 4 モニタリング方法の設定 : 適切に管理されているかの確認方法 5 修正処置の設定 : 問

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第 4 章 管理体制の整備 1 HACCPによる製造過程の管理 1 HACCP とは HACCP とは何か を一言で言うと HACCP とは製造過程の中で 何が危害となるのか を明 確にし 管理を行う上で絶対ミスすることができない重要な管理事項 を重点的にシステムで管理 するための手法です 従来の品質管理では 最終製品の中から検体 HA を抜き取って検査し その結果で製品の合否を 危害分析 重要管理点 何が危害を及ぼす原因と なるのかを明確にする 管理上 絶対ミスする事が できない管理事項 (管理上の目の玉の付け所) 判定していましたが このやり方では抜き取り 検査には限界があり 判定の信頼性に不安があ りました そこで HACCP では製造過程にお CCP ける重要な管理事項をしっかり管理することに システムとして管理する より製品の安全性を確保する手法です HACCP は Hazard Analysis Critical Control Point の略語ですが HA とは危害分析で原料や製 造過程の中で何が危害となるのかを明確にすることです また CCP とは製造過程の中でこの管 理事項をミスするとお客様に健康危害を及ぼす製品ができてしまうという重要管理点です HACCP で対象とする健康危害には次の 3 つの危害があります ①生物的危害 有害微生物の増殖などによって起こる食中毒の原因になる危害 ②化学的危害 原材料に由来する農薬や抗生物質の残存および工場内で使用する洗 剤や殺菌剤の混入などによる危害 ③物理的危害 金属 石 ガラスといった危険異物の混入による危害 2 HACCP 7つの原則のポイント HACCP には 管理のシステムを構築するための基本として 7 つの原則 と 12 の手順 があります ここでは 7 つの原則 について説明します HACCP の 7 つの原則 は 図のように 7 つの項目で構成されています 74

第 4 章 管理体制の整備 HACCP の 7 つの原則 1 危害分析 : 危害の原因の明確化 2 重要管理点の決定 : CCP の判定と決定 3 管理基準の設定 : CCP を管理するための管理基準の設定 4 モニタリング方法の設定 : 適切に管理されているかの確認方法 5 修正処置の設定 : 問題発生時の 6 検証方法の設定 : HACCP プランが機能しているかを確認 7 記録の維持管理 : モニタリングや修正処置の記録 原則 1 危害分析 (HA) 危害分析は 重要管理点 (CCP) を決定する前段階として大変重要です 危害分析で原材料および製造過程で想定される健康危害についてリストアップし その危害が管理上どの程度重要か どのように管理して防いだらよいかを明確にします 危害のリストアップについては 危害分析に必要とされる情報を事前に収集しておく必要があります 収集する情報は 食品衛生に関わる文献 製造現場での調査によるデータおよび製造条件を想定した試験結果などになります 原則 2 重要管理点 (CCP) の決定 重要管理点は 後述するCCP 決定フローに基づいて行いますが このとき留意すべきCCPの要件として次の3つが挙げられます 1この管理ポイントの後工程には該当する危害を防御する工程はなく 前提条件プログラム (PRP) による管理のみでは不十分であること 2 製造工程上で連続してもしくは必要な頻度でモニタリング 記録 修正処置ができること 3 管理すべき事項を自らコントロールできること 管理上重要な事項であっても時間的にまたは設備や技術的な理由で自らが管理できない事項はCCPとならない 原則 3 管理基準 (CL) の設定 管理基準 (Critical Limit) は CCPについて設定しますが 製造過程で食の安全を確保するために許容できる基準を管理基準として設定します 管理基準を設定するには 科学的もしくは客観的な根拠に基づいて設定しなければなりません 管理基準として一般的に使用する指標は 温度 時間 ph AV( 酸価 ) 糖度 塩分濃度などの数値化できるものが使用されますが 目視による官能検査なども場合によっては指標として使用することもあります 微生物検査の結果などリアルタイムで測定できないものについては CCPの管理基準として適当ではありません 75

原則 4 モニタリング方法の設定 モニタリングは 製造ラインが適切に管理されているかを確認するもので 次の3つの要件を満たすことが必要です 1 製造過程において連続的もしくは適切な頻度でチェック 記録 修正処置が行えること 2チェックした結果を正確かつ迅速に得ることができ 修正処置を必要とする場合にこの結果に基づき適切に行えること 3モニタリングの担当者は 教育訓練を受けてモニタリングのポイントを理解し 適切な方法で行うことができる十分なスキルを有していること 原則 5 修正処置の設定 万一 モニタリングの結果で管理基準の逸脱が確認された場合を想定して 適切かつ迅速に正常な状態に戻すための手順や 逸脱したとき製造された製品の処置について事前に決めておく必要があります 修正処置として決めておかなければならない事項は次の通りです 1 逸脱した状態を正常な状態に戻す手順 2 逸脱時に製造された製品の区分と処置 3 処置を担当する者および処置の方法について判断する責任者 4 処置を実施した記録とその保管 原則 6 検証方法の設定 検証とは製造過程においてHACCPプランが適切に運用され 機能しているかを確認することです 併せてHACCPプランが機能するために管理基準の設定値などに問題がないかについても確認が必要です 万一 HACCPプランに問題があった場合は HACCPプランの見直しを行い適切なプランに修正します 原則 7 記録の維持管理 HACCPプランが適切に機能していることもしくは管理基準の逸脱があっても適切な処置が行われたことを証明するために さらには今後同様なトラブルが発生してしまったときの参考資料として記録を取りそれを適切に保管することは大変重要です また 記録をしっかりとって保管しておくと製造過程や最終製品に問題が発見され出荷停止や製品回収が必要となったときの該当する製造ロットの特定や原因の究明を適切に行うことが可能となります 記録の保管については 保管管理の責任者 保管期間 保管場所を明確にしておくことが必要です 76

第4章 3 管理体制の整備 危害分析の方法 危害分析を行うにあたってのポイントは次の通りです ①危害の発生要因と管理上の重要性および発生する頻度を明確にする ②健康危害に関わる情報を事前に収集しておく ③製造現場の現状把握をしっかり行い 問題点を明確にしておく ④危害分析を行う過程の対象は 原材料から製品の出荷に至るすべての過程とする ⑤危害となるかならないかは PRP 特に施設設備 の整備状況によって異なる 実際に危害をピックアップする有効な方法として 特性要因図 を使った方法がありますので紹介 します 特性要因図は問題点 特性 と原因 要因 を魚の骨に似た図で表し 問題点の原因が何かを特定 するのに用います 特性要因図の作成方法をハンバーグの製造過程で製品の細菌数が管理基準を逸脱したケースで説明 します ①右端には問題となった 細菌数の管理基準の逸脱 と特性を記載します ②中央の矢印に対し 製造過程を大分類して原料 加工 包装と各工程の分類を記載します ③事例を参考に説明すると 加工工程において 焼き機の管理 に問題があった可能性があると記載 します このように工程ごとに問題と考えられる事項を記載していきます たとえば 原料処理で は 仕掛品の保管管理 と言うようにそれぞれの大分類ごとに記載していきます ④次に焼き機の管理不良の原因として 焼き温度の低下 と記載します 特性要因図の作成手順 ① 原料 原料処理 加工 包装 ③焼き機の管理 ④温度の低下 従業員 製造機器 細菌数の管理基準逸脱 ② 保管 要因が多い場合は②にしぼって特性を 加工工程での細菌数の基準逸脱 としてもよい この特性要因図を危害分析に利用すると 特性を健康危害である 生物的危害 化学的危害 物 理的危害 とし それぞれの工程において存在する可能性がある危害の要因を骨に記載していきます この記載された危害の要因を危害のリストに記載して評価を行います 危害の評価は 法令で管理 基準がある 発生した場合 重篤性が高い 発生の頻度が高い などを評価の要件として評価します 77

危害のリスト 製品の名称 生めん 原料 工程 うどん ゆで 危害の原因物質 分類 評価 危害の発生要因 危害の防止措置 危害の種類 製造工程由来 麺線切り ゆで 金属の混入 P 切り刃の定期点検 切り刃の破損による欠損 金属検出機による 部分の混入 チェック 有害微生物 B ゆで槽の温度低下及びゆ ゆで温度の定期的チェッ で時間の不足による加熱 クと時間の管理を徹底 不足 洗剤 殺菌剤の 混入 C 洗浄時に使用した洗剤 洗浄作業終了時の点検の 殺菌剤の残存 徹底 バッケット部の定期 的点検 ゆで槽のバッケット部の 金属検出機による 欠損による混入 チェック 金属異物の混入 4 P 重要管理点 CCP の決定方法 重要管理点の決定は Codex 食品に関わる国際的な基準を決める機関 のガイドラインに沿って 行いますが 図に示した CCP 決定フロー図 DT Decision Tree を使って行います なお ここに示した CCP 決定フロー図は Codex のガイドラインを直訳したものがわかりにくい との声を多く聞きますので 初心者にもわかりやすいように大きく逸脱しない範囲でわかりやすい言 葉に置き換えています 重要管理点 CCP の決定手順 DT 質問1 この工程でコントロールをしなければならないほどリスクが大きく 重大な危害を もたらす可能性があるか 質問2 NO この工程で危害を防止できるか NO 質問3 CCPではない この工程では防止できないが安全性の確保のために コントロールは必要か 製造過程の管理を修正する NO CCPではない この工程でのコントロールは 消費者に危害を与える可能性を予防 排除または 減少させるのに必要か? CCP 78 NO CCPではない

第 4 章 管理体制の整備 この CCP 決定フロー図の使い方を ハンバーグの包装工程に設置した金属検出機の例で説明しま しょう 質問 1 この工程でコントロールしなければならないほどリスクが大きく 重大な危害をもたらす可能性があるか? 金属異物の混入が見過ごされてしまうと 消費者に健康危害を与える恐れがあるためコントロールしなければならない 質問 2 この工程で危害を防止できるか 金属検出機の検出感度は Fe1.0mm SUS1.2mm のため危害を防止できる 質問 3 この工程でのコントロールは 消費者に危害を与える可能性を予防 排除または減少させるのに必要か? この包装工程の後工程には金属検出機を設置していないので この工程で危害を除去する必要がある CCP となる * この事例では 包装工程の金属検出機のためCCPとなりましたが 原料工程に設置され検出感度が包装工程の金属検出機より低い場合は CCPではなくPRPもしくはOPRP( オペレーションPRP) となります 5 モニタリングの方法 モニタリングは 製造工程の管理が適切に行われていることを確認する目的で行いますので PDCA サイクルの Check となり HACCP システムを適切に運用するための重要な事項となります モニタリングの方法は 対象とする製品および製造ラインの特性にした方法で行うことが必要ですが モニタリングを実施するうえで共通するポイントは次の通りです 1モニタリングの対象とするチェック項目と管理基準を明確にする 2モニタリングの方法はリアルタイムで実施でき かつ正確に測定できる方法を設定する 3モニタリングは連続的もしくは適切な頻度で測定する 4モニタリングに使用する管理機器 ( 温度計など ) は定期的に校正された正確な機器を使用すること 5モニタリングの担当者は必要とされる教育訓練を受け 適切なスキルを有すること 6モニタリング結果は記録し適切に保管すること 79

6 検証と HACCP プランの見直し ❶ 検証 HACCP プランが適切に運用され機能していることを確認するために検証を行います この検証は HACCP チーム (ISO22000 では内部監査チーム ) が行うことになっていますが 工場の規模が小さくてチーム編成が難しい場合は 該当ラインの当事者を除く他のメンバーで行っても客観的にチェックできれば大きな問題はありません 検証として行う事項は次の通りです 1 製造工程やPRPに関わる作業日報やチェックシートなどの記録が適切に行われているかを確認します 2モニタリングが適切な方法で行われているか 実際に行っている状況を確認します 3 原材料の受け入れ検査 工程のふき取り検査および最終製品の検査などについて 逸脱がないかを確認します 4モニタリングに使用されている管理機器が適切に校正されているかを確認します 5HACCPプランの見直しを必要としているかを確認します ❷ HACCP プランの見直し検証の結果 HACCP プランが機能していないことが確認され 製造ラインの設備の変更や使用する原材料の変更などが生じたら 見直しを行い適切な修正を行うことになります HACCP プランの見直しが必要とされるケースはいろいろありますが 代表的な事例を紹介します モニタリングは適切に行われているが 管理基準の逸脱が頻繁に発生している 管理基準の設定が不適切であった可能性があるので 管理基準の適合性を再確認する 製品の製造仕様が変更されたにもかかわらず HACCP プランの見直し修正が行われていない 該当する項目について 再度危害分析を行う モニタリングの結果では異状がないのに 時々製品検査で不適合品が出る モニタリングの方法 ( 測定方法 頻度 ) について見直す 製造に使用する設備や測定するための管理機器が変更された 再度危害分析を行い モニタリングの方法や管理基準の見直しを行う 原料事情が急変し 使用する原材料の仕様や産地が変わった 再度危害分析を実施するとともに管理基準を見直す 80

第4章 7 管理体制の整備 前提条件プログラム PRP の重要性 HACCP による管理を機能させるためには 前提条件プログラム PRP の整備と適切な運用が不 可欠となります 前提条件プログラムとは 図に示すように HACCP による管理の基盤となるもので HACCP を導 入するにあたって事前に整備されていなければならない事項となります たとえば 従業員の教育訓練や健康管理は ケアレスミスを失くすことや従業員からの有害微生物 の汚染を防止するために不可欠なものです また施設設備の管理は 衛生的に製品を製造するために は機器のメンテナンスが不可欠となります このように 食品安全を確保するための管理のシステ ムが機能することを支える管理事項であり 前提条件プログラムが整備されていない状態で HACCP などの管理システムを導入しても機能しません 人間に置き換えて言うと 体力がなければテクニッ クだけではサッカーの試合に勝てないと言うことです 前提条件プログラムとして整備する事項は 総合衛生管理製造過程や ISO22000 などでは次の管理 事項を整備するよう求めています 前提条件プログラム PRP ①施設設備の衛生管理 ⑥排水及び廃棄物の衛生管理 ②従業員の衛生教育 ⑦従業員の衛生管理 ③施設設備 機械器具の保守点検 ⑧食品などの衛生的取り扱い ④そ族昆虫の防除 ⑨食品の回収プログラム ⑤使用水の衛生管理 ⑩製品等の試験検査に用いる設備等の保守管理 総合衛生管理製造過程の一般的衛生管理事項の要件から HACCPによる管理の体系 品質マネジメント ISO9001 HACCPによる安全性の管理 製品の流通 包装 加工 原料 原料購入 製造過程 前提条件プログラム PRP) ①施設設備の衛生管理 ⑥排水及び廃棄物の衛生管理 ②従業員の衛生教育 ⑦従業員の衛生管理 ③施設設備 機械器具の保守点検 ⑧食品などの衛生的取り扱い ④そ族昆虫の防除 ⑨食品の回収プログラム ⑤使用水の衛生管理 ⑩製品等の試験検査に用いる 設備等の保守管理 81

8 ISO22000 とは HACCP は食品の安全を確保するための優れた手法と言うことができます しかしながらその優れ た手法にも弱点がありました その弱点というのは HACCP が手法であるため管理システムを運用 するためのマネジメントの考えかたが取り入れられていないということです 具体的には 経営トップの責任が明確になっていない 経営トップのコミットメント 組織間 部署間の連携の重要性が明確にされていない 内外部とのコミュニケーション および PDCA サイ クルを円滑に回して機能させるには不十分と言ったことが挙げられます そこで ISO22000 は HACCP をベースに ISO9001 のマネジメントの考え方を取り入れて より機 能する管理システムにしたもので HACCP のより発展したものと言って良いでしょう 一方 ISO22000 と ISO9001 とは何が違うかについて簡単に説明すると ISO22000 が食品の安全 性確保に特化した規格であるのに対して ISO9001 は品質の差別化によって顧客満足度を向上させる ための品質マネジメントシステムです そのため ISO9001 によるマネジメントは ISO22000 のベー スになっていると言うことができます また このところ FSSC22000 の認証取得の動きが出てきていますが FSSC22000 は ISO22000 が PRP に対する要求がやや弱いという考え方から ISO22000 と PRP のガイドラインである ISO22002 を 統合した規格となっています ISO22000と9001の関係 ISO22000 安全性 リスクをなくす ISO22000の概念 ISO9001 顧客 品質の差別化 ISO9001 のマネジメント P コミットメント 方針の明確化 顧客満足 A レビュー 見直し 改善 HACCP 前提条件プログラム PRP C 内部監査 検証 82 D 実行