イベントアトリビューション研究の現状と気象研究所における計画異常気象分析検討会 2015/02/23 気象研究所気候研究部第 5 研究室今田由紀子 1

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えりかごみぶち
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1 イベントアトリビューション研究の現状と気象研究所における計画異常気象分析検討会 2015/02/23 気象研究所気候研究部第 5 研究室今田由紀子 1

2 Detection & Attribution ( 気候変動の検出と要因分析 ) 個々の外部要因のみを与えた歴史実験 (AOGCM & ESM) を過去の観測データと比較することで既に気候は変化しているのか変化しているのならどのような要因が効いていたかを調べる IPCC AR5-WG1-SPM (2013) Courtesy of H. Shiogama 2

3 イベントアトリビューション (E/A) ーこれは温暖化のせいですか? ー International Detection and Attribution Group (IDAG) の新しい取り組み熱波大雪大雨干魃などの異常気象が発生すると必ず聞かれるのはこれは温暖化のせいですか? 異常気象は気候システムのなかの自然な揺らぎ内部変動によっても生じる個別のイベントが人間活動のせいだと言うことは原理的に出来ない ( これまでの専門家の回答 ) 人間活動による気候変動が観測されたような異常気象の発生確率や強度をどの程度変えてきたかは定量評価できるイベントアトリビューション ( 新しい取り組み ) 最初の論文は Oxford 大学グループの Pall et al. (2011, Nature) 2000 年秋の英国洪水の発生リスクは温室効果ガス増加によって高まっていた Courtesy of H. Shiogama 3

MIROC5 による E/A( 創生プログラム ) 全球大気気候モデル (AGCM) でたくさん (100 メンバ ) のアンサンブル実験を行う MIROC5 AGCM (T85L40) ALL 全強制実験 NAT0 NAT1 NAT2 自然強制実験外部強制人為起源 + 自然起源自然起源のみ ( 人為起源は産業化前 ) 境界条件 SST 海氷メンバー数期間 HadISST 100

4 MIROC5 による E/A( 創生プログラム ) 全球大気気候モデル (AGCM) でたくさん (100 メンバ ) のアンサンブル実験を行う MIROC5 AGCM (T85L40) ALL 全強制実験 NAT0 NAT1 NAT2 自然強制実験外部強制人為起源 + 自然起源自然起源のみ ( 人為起源は産業化前 ) 境界条件 SST 海氷メンバー数期間 HadISST 年以降 MIROC3 の 20 世紀再現実験の変化パターンを除去 HadISST の線形トレンド ( ) を除去 (Christidis and Stott 2014) CMIP5 historical 実験の変化パターンを除去 (Daithi 2013) 年以降 ALL-LNG 20C+RCP4.5 HadISST For validation 4

人間活動が発生確率を高めていた例 2010 年ロシア熱波 2013 年 6-7 月米国南西部熱波 2010

5 人間活動が発生確率を高めていた例 2010 年ロシア熱波 2013 年 6-7 月米国南西部熱波 2010 年南アマゾン旱魃確率密度 NAT(2010) 平年 ALL(2010) 確率密度観測 ALL NAT 気温偏差 ( ) 観測 (Watanabe et al. 2013, SOLA) 気温偏差 ( ) (Shiogama et al. in prep) (Shiogama et al. 2013, ASL) 確率密度 2013 年 6-7 月日本の猛暑 NAT2 NAT1 観測 ALL 気温偏差 ( ) (Imada et al. submitted to BAMS) その他 2010 年パキスタン豪雨 2011/2012 年冬季の海氷減少とユーラシアの寒波人間活動の寄与が検出できなかった例 2012 年 6-7 月九州北部豪雨確率密度 NAT ALL 観測豪雨をもたらした気圧配置パターンの強さ 5 (Imada et al. 2013, BAMS)

6 日本域を対象とした E/A の例平成 24 年 7 月九州北部豪雨に対する地球温暖化の寄与 (Imada et al., 2013 BAMS) 平成 25 年夏季の日本の猛暑に対する地球温暖化の寄与 (Imada et al BAMS) 米国気象学会誌紀要第 94 巻 9 号 ( 左 ) 第 95 巻 9 号 ( 右 ) 表紙 6

7 2012 年梅雨期 (6/15-7/15) の気象場の特徴気候値水蒸気フラックス発散 (JRA25) 偏差場 H Z500( 色 ) OLR( 線 ) 偏差 (2012 年梅雨期 ) 2012 PJ pattern 対流活発 Circumglobal teloconnection (Silkroad) pattern 7 Imada et al. 2013

8 モデルバイアス気候値水蒸気フラックス発散偏差場九州周辺の梅雨期の水蒸気フラックス発散量 MIROC5 AMIP 10 本の結果 JRA25 COR=-0.10 気候値偏差場モデルは水蒸気収束を再現できていない MIROC5 AGCM (100 メンバーアンサンブル平均 ) ただ PDF を描けばいい訳ではなくモデルの再現性や背景の物理プロセスを十分に検証する必要がある 8

9 Reproducibility of ALL-LNG run Anomaly Correlation Coefficient between ALL-LNG (10-member) and OBS (JJA) T2 Z500 SLP PRCP 9

10 2012 年梅雨期 (6/15-7/15) の気象場の特徴気候値水蒸気フラックス発散 (JRA25) 偏差場 Z500( 色 ) OLR( 線 ) 偏差 (2012 年梅雨期 ) 2012 PJ pattern Responces to SST Atmospheric internal mode (Kosaka et al. 2009) Circumglobal teloconnection (Silkroad) pattern 10 Imada et al. 2013

年再現 2012 年温暖化なし 2012 年 ( 温暖化有り ) 2012 年 ( 温暖化なし ) 長期再現実験

11 2012 年 7 月九州北部豪雨に対する地球温暖化の寄与 SST に対する応答 : 温暖化なし実験においても PJ パターンが現れている (= 内部変動の寄与 ) 再現実験の方が極値の発生頻度が ( 若干 ) 高い (= 温暖化の寄与 ) 2012 年再現 2012 年温暖化なし 2012 年 ( 温暖化有り ) 2012 年 ( 温暖化なし ) 長期再現実験 probability Kusunoki et al. 2006: 温暖化に伴う太平洋高気圧の強化 2012 PJ Index 11 Imada et al. 2013

2013 年 7-8 月の気象場 (JRA25 偏差場 ) Warmer SST in the north

- HadISST [ocean] Double high pressure systems OLR

200hPa divergence flow (arrows) La Nina-like condition

12 2013 年 7-8 月の気象場 (JRA25 偏差場 ) Warmer SST in the north Pacific Surface Air Temperature (SAT) - JRA25 [land] SST - HadISST [ocean] Double high pressure systems OLR (shading), PSI850 (black contour), Z200 (gray contours), 200hPa divergence flow (arrows) La Nina-like condition Active convection in Indonesia, Philippines, Asian monsoon regions 12

Event Attribution by MIROC5 MIROC5 AGCM (T85L40) Boundary conditions ALL NAT1 NAT2 ALL-LNG External Forcing RCP4.5 preindustrial preindustrial 20C+RCP4.

13 Event Attribution by MIROC5 MIROC5 AGCM (T85L40) Boundary conditions ALL NAT1 NAT2 ALL-LNG External Forcing RCP4.5 preindustrial preindustrial 20C+RCP4.5 SST sea ice HadISST A liner trend based on HadISST (1870 to 2012) is removed (Christidis and Stott 2014) Changes detected from the CMIP5 historical runs are removed (Daithi 2013) HadISST Ensemble size Period Jul-Aug 2013 Jul-Aug 2013 Jul-Aug SAT Index (western Japan land area) T850 Index (130E-140E, 30N-37N) ALL-LNG JRA25 reanalysis COR=0.76 COR=0.44 Probability 正規分布を仮定して分散を補正 For validation SAT (Jul-Aug) [K] 13

14 2013 年 7-8 月偏差場のモデルによる再現 SAT (JRA25, land) & SST (HadISST) ALL 100 member SAT OLR (shading) PSI850 (black) Z200 (gray) 200hPa Div. flow (arrows) 14

15 2013 年 7-8 月偏差場のモデルによる再現 SAT (JRA25, land) & SST (HadISST) ALL top case SAT OLR (shading), PSI850 (black) Z200 (gray) 200hPa Div. flow (arrows) 15

16 2013 年猛暑の発生確率に対する人間活動の寄与 SAT Index (b) T850 Index Probability beyond the 2013 record ALL NAT1 NAT2 SAT Index 12.4% 1.73% 0.50% ALL の約 1/7 ALL の約 1/25 K 発生確率の差は自然強制 (NAT) 実験の設定や指標の選び方に大きく依存するため様々な境界条件やマルチモデルを用いた不確実性の検証が必要 T850 Index 0.26% 0.07% 0.01% ALL の約 3/11 ALL の 1/26 16

17 人間活動の背景場への影響 (ALL-NAT) SAT (land), SST(ocean) OLR (shading), 850hPa stream function (contour), 200hPa divergence flow (arrows) ALL-NAT1 Observed linear trend ALL-NAT2 CMIP5 warming pattern 17

18 人間活動の背景場への影響 (ALL-NAT) SAT (land), SST(ocean) OLR (shading), 850hPa stream function (contour), 200hPa divergence flow (arrows) ALL-NAT1 Observed linear trend ALL-NAT2 CMIP5 warming pattern ジェットの極側へのシフト西岸境界流の極側シフト各種データセットによる年のSSTトレンド ( 全球平均トレンドを除去 ) Wu et al Nature Climate Change 18

19 E/A の現状と課題モデルバイアス非温暖化 (NAT) 実験の設定の不確実性イベント発生から E/A の結果が得られるまでのタイムラグ社会からの要望はイベント発生直後現状は HadISST の公開を待ってから実験を開始するため数か月遅れ 19

20 MRI におけるイベントアトリビューション研究計画 20

21 気象研究所 5 年計画 (H26~) 重点研究季節予報の高度化と異常気象の要因解明に関する研究における E/A の計画 MRI モデルによる準リアルタイム E/A 実験体制の確立創生 A との連携国際協力新規性 (MRI の強み ) ダウンスケーリング高次のモーメントの議論十年規模変動 21

22 準リアルタイム E/A 実験体制の確立現行の E/A 研究が抱える課題解像度モデルバイアス非温暖化実験の不確実性 HadISST の間違ったトレンド社会のニーズとのタイムラグ MRI-AGCM(60km) で 100 メンバーの E/A を目指すより高解像度で日本域の再現が良いモデル気象庁 SST を利用して準リアルタイム化を実現 IDAG グループとの協力 WCRP Climate Variability Programme s Climate of the 20th Century Project (C20C+) - モデル相互比較プロジェクト BAMS 異常気象レポートへの貢献 22

23 非温暖化実験の不確実性 ALL-NAT (2011 年 5-10 月時点のトレンド ) CMIP5 マルチモデル HadISST 線形トレンド色 :SAT 線 :Z850 矢印 :div200 23

24 HadISST の間違ったトレンド Tokinaga et al Nature HadISST1 や ERSST3B はデータ同化で欠損値を埋める際に偽のトレンドが入っているため観測点のみのデータを用いた場合で AGCM を駆動した場合と比較すると Walker 循環の長期的応答が逆になるトレンドが間違っていないデータ準リアルタイムで入手可能なデータ気象庁 COBE-SST 24

25 WCRP Climate Variability Programme s Climate of the 20th Century Project (C20C+) By Daithi Stone (LBNL) First contributions to the C20C Detection and Attribution Project ( 25

26 新規性 MRI の強み NHRCM による力学的ダウンスケーリング台風や豪雨創生 C( 気象研環境応用 ) との連携統計的ダウンスケーリング高次のモーメントの議論極端事象の発生確率の変化を 2 次以上のモーメント (PDF の形 ) の変化で議論創生 C( 防災科研統計数理研 ) との連携太平洋十年規模変動と日本の異常気象の関係創生 A との連携 26

27 E/A の国内国外の動向 27

28 EA に関する国内の動き文科省創生プロジェクトテーマ A がメイン ( 塩竈東大 AORI 渡部木本 ) ES3 特別推進課題にて文科省創生プロジェクトテーマ A, C, D が連携して 100 年 100 アンサンブル過去将来実験 + ダウンスケーリングを計画 (AORI 木本 MRI 高薮 DPRI 中北 ) 文科省創生プロジェクトテーマ C, D, A が Typhoon Haiyan 実験を実施 (MRI 高薮 DPRI 竹見森 NIES 塩竈 ) S10 で農業影響評価研究者への EA 実験データ提供気象庁気象研究所 5 年間の EA プロジェクト (MRI 釜堀, 今田 ) 28

29 国際 EA に関する国際的動向 ( Oxford 大学の Myles Allen RCM を用いて世界のいろいろな地域の EA 実験を行う欧州米国西部南アフリカ豪州 & ニュージーランド南西アジアアフリカ東アジア ( これから ) EU-FP7, EUCLEIA (EUropean, CLimate and weather Events: Interpretation and Attribution) UKMO の Peter Stott が主導パブリックコミュニケーションを念頭に置いた EU の E/A がメイン World Weather Attribution program (US) Heidi Cullen (Climate Central) UKMO の季節予測 SST& 海氷を用いてイベント発生前に予め E/A の実験セットを準備しておく near-real-time E/A の実現を目指す WCRP Climate Variability Programme s Climate of the 20th Century Project (C20C+) Daithi Stone (LBNL) モデル相互比較プロジェクト CMIP6 に向けては特に MIP の提案は行わず有志でモデル比較などを行っていく By H. Shiogama 29

30 まとめ I. MRI モデルによる準リアルタイム E/A 実験体制の確立のため創生 A との連携や国際 E/A グループへの参加を視野に入れて準備を進めている II. III. IV. 日本周辺の再現の難しさや解像度の問題については MRI の強みを生かしてダウンスケーリング等を積極的に取り入れていく将来的には準リアルタイム ( イベント発生後 1 ヶ月前後 ) のデータ提供を目指す E/A 実験を応用して異常気象の発生確率に対する太平洋十年規模変動の寄与や高次のモーメント (PDF の形 ) の変化に目を向けたオリジナリティのある研究を目指す 30

水田亮

水田亮 Database for Policy Decision making for Future climate change (d4pdf) Hideo Shiogama (NIES, Japan) & the MRI+MIROC joint team Database for Policy Decision making for Future climate change (d4pdf) The joint

イベント アトリビューション研究の現状と気象研究所における計画 異常気象分析検討会 2015/02/23 気象研究所気候研究部第 5 研究室今田由紀子 1

イベントアトリビューション研究の現状と気象研究所における計画異常気象分析検討会 2015/02/23 気象研究所気候研究部第 5 研究室今田由紀子 1