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うきえほうねん
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1 Jpn. J. Environ. Entomol. Zool. 26(3):89-93(2015) 環動昆第 26 巻第 3 号 :89-93(2015) 資料はじめに兵庫県西部におけるタガメとゲンゴロウが繁殖する池と水田の水生昆虫相市川憲平 1) 大庭伸也 2) 1) 姫路市立水族館 2) 長崎大学教育学部生物学教室 ( 受領 2015 年 7 月 21 日 ; 受理 2015 年 10 月 7 日 ) Aquatic insects in paddy fields and ponds in western Hyogo Prefecture, Japan, where Kirkaldyia deyrolli and Cybister chinensis breed. Noritaka Ichikawa 1) and Shin-ya Ohba 2). 1) Himeji City Aquarium, Himeji , Japan. 2) Biological Laboratory, Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki , Japan. Abstract The aquatic insect fauna in the marshes at Hyogo Prefecture, Japan, were investigated from 2013 to Two large-bodied aquatic insects, the giant water bug Kirkaldyia deyrolli (Vuillefroy) and the diving beetle Cybister chinensis Motschulsky, breed in the marshes, which are formed from rice fields and ponds. Eighty-four species, including 15 IUCN Red List species, were identified in the study. Key Words: Kirkaldyia deyrolli, Cybister chinensis, aquatic insects, pond, paddy field 田んぼの生きもの全種リスト ( 改訂版 )( 桐谷編, 2010) には, 過去に国内の圃場内や畦, ため池, 水路で確認された昆虫 1726 種が掲載されており, 過去における水田生態系の種多様性の高さが示されている. しかし,1960 年代以降の農業農村の近代化や外来種の影響などによって, その多様性は大きな打撃を受けてきた. 特に生活史の一部または全てを水中で過ごす水生昆虫類の衰退は著しい ( 市川, 2014). 慣行農法で稲を栽培している水田では, その水生昆虫相はさらに低くなっており ( 例えば, 中西ら, 2009), 水田が多様性の高い場所であったことを推察することが困難になっている. また, 環境省版レッドリストの第 3 次版 ( 環境省, 2007) と第 4 次版 ( 環境省, 2012) に掲載されている水生甲虫類を比較してみると, わずか 5 年間で種数が 43 種から 112 種に激増している. 第 3 次版に掲載されていた種も, 第 4 次版ではランクが上がったものが多い.2000 年ころからの水田生態系における多様性の急速な劣化を反映しているものといえる ( 市川, 2014). 現在もなお比較的高い多様性を保っている湿地や水田の水生昆虫相を調査し, データを残しておくことは, 今後の研究に高く寄与するだろう年, 兵庫県西部に県内では最後と思われるタガメ Kirkaldyia deyrolli (Vuillefroy, 1864) とゲンゴロウ Cybister chinensis Motschulsky, 1854 の両種がともに繁殖している場所を確認した. タガメやゲンゴロウのような高次の栄養段階に属する大型種が繁殖する湿地は, 非常に多様性の高い環境であることが推察される ( 八木, 1996).2013 年から約 2 年間, この水田とため池の水生昆虫相を調査したので, その結果を資料として報告する. 調査地と調査方法 2013 年から 2 年間, タガメとゲンゴロウという 2 種の代表的な大型水生昆虫が繁殖する兵庫県の湿地群 ( 池と水田 ) の水生昆虫相が調査された. その結果, レッドリストに掲載されている 15 種を含む 84 種の水生昆虫が観察された. 調査地は兵庫県西部の丘陵地にある 10 枚の水田と 4 か所のため池からなる緩い傾斜地で, 個人の私有地内にある ( 図 1) 年の予備調査でタガメとゲンゴロウの繁殖を確認したが, ここを含めて近隣の多くの水田は, ニホンジカ Cervus nippon Temminck, 1838 やイノシシ Sus scrofa Linnaeus, 1758 による獣害がひどいため放棄されていた. この場所は県内外の採集者が頻繁に訪れる場所となっていたので, 獣や採集者の侵入を防ぎ, 確認したタガメやゲンゴロウなどを保全していくために,2013 年の春に地主と相談して周囲を高さ Corresponding author: nrtagame@ybb.ne.jp

2 市川憲平ほか図 1 調査地の概要 P は休耕田, P は 2014 年だけ稲を植え付けた水田, 図中右の棚田は全て放棄田 2m の金網で囲った. 湛水した田は,2013 年は 6 枚だけだったが,2014 年は 9 枚に増え, そのうち 6 枚で無農薬での稲作が再開された. しかし,2015 年は再び休耕した. 水田の一辺の縁部には, 水深約 20~40cm, 幅 1m 以下の素掘りの溝や, 約 3x5m の不定形で, 水深 20~40cm の水たまりが設けられていた. 水田に水がないときは, この溝や水たまりで調査を行った. 三角池の水深は 1m を越えるが, 他の池の水深は約 60~80cm だった. スワン池の 3 割ほどにはガマ属 Typha sp. が茂っているが, 他の池は岸辺にわずかにショウブ属 Acorus sp. などの水草が生えているだけだった年 3 月 31 日から 11 月 14 日までに 13 回,2014 年 2 月 28 日から 11 月 10 日までに 17 回,2015 年 2 月 21 日から 6 月 12 日までに 9 回, 目合い 1mm, 口径 30 5cm の手網によるすくい取りによって, 図 1 中の全ての池や水田の水生昆虫相の調査を行った. 同一調査日に調査に入った協力者からの情報も加えた. また, 協力者の人数は調査日により異なった. 調査努力が一定ではないため量的な比較は行わず, 定性的な調査とした. トンボ類の成虫については, 見つけ取りによって確認されたものも記録に含めた. なお, タガメやタイコウチ, ゲンゴロウ幼虫の餌資源 (Ohba and Nakasuji, 2006; Ohba et al., 2008; Ohba, 2009) として重要な両生類についても同時に記録した. 結果と考察調査地内で, ニホンアカガエル Rana japonica Boulenger, 1879, ヤマアカガエル Rana ornativentris Werner, 1903, シュレーゲルアオガエル Rhacophorus schlegelii (Günther, 1858), トノサマガル Pelophylax nigromaculata (Hallowell, 1861), モリアオガエル Rhacophorus arboreus (Okada et Kawano, 1924), ニホンアマガエル Hyla japonica Günther, 1859, ツチガエル Glandirana rugosa (Temminck et Schlegel, 1838) の 7 種のカエル類とアカハライモリ Cynops pyrrhogaster (Boie, 1826) の繁殖を確認した. これらは先行研究で示されたように (Ohba et al., 2008; Ohba, 2009), 本調査地内でも確認されたこれらの両生類がタガメやゲンゴロウ幼虫をボトムアップ的に支えていると考えられる. 確認した水生昆虫は,5 目 30 科 84 種 ( 表 1) で, そのうち水田 ( 耕作田, 水張り休耕田と付随する素掘りの溝 ) で確認したものは 65 種, 池で確認したものは 64 種だった. これらの内, 調査地内で幼虫を確認した種は,49 種だった. トンボ類 27 種の内,6 種についてはまだ幼虫を確認していない. また, 環境省レッドリスト掲載種が 15 種含まれていた. この調査地の水生昆虫相と比較するため, 2013 年から 2015 年にかけて毎年 7 月に 1 回だけだが, タガメもゲンゴロウも生息しない神戸市西区の無農薬栽培の水田で調査を行ったところ, トンボ類を除いて確認した水生昆虫は 24 種だった ( 市川, 未発表 ). 本調査地の水田で確認したトンボ類を除いた水生昆虫は 52 種であり, 神戸市西部の無農薬水田よりは種数が多かった. 筆者の 1 人市川がこの調査地付近を最初におとずれたのは 1980 年代の前半であり, そのころは, 今は放棄田となっている周辺の棚田のほとんどで稲作が行われていた. 当時は, ヒメゲンゴロウ Rhantus suturalis (Macleay, 1825) はごく普通に見ることができる種であり, シマゲンゴロウ Hydaticus bowringii Clark, 1864 も確認できていた ( 市川未発表 ). しかし, 今回両種とも観察することができなかった. 他にも 30 年前には生息していたが, 今回見ることができなかった種がいる可能性は高い. なお, 今回調査を行っている地域の 1km 圏内のため池や湿地では侵略的外来種のオオクチバス Micropterus salmoides (Lacepède,1802) やアメリカザリガニ Procambarus clarkii Girard, 1852 の生息が確認された ( 大庭未発表 ). これらの外来生物は希少な水生昆虫に対して直接および間接的に影響を及ぼすことが知られている ( 苅部西原, 2011;Ohba, 2011). この地域の生物多様性を保全するため, 今後も水生昆虫類の継続的なモニタリングと外来種への警戒を行う必要がある

3 水田の水生昆虫相表 1a 湿地群で確認された水生昆虫 ( 表 1b に続く ) 科名和名学名環境省生息場所トンボ類幼虫確認 2 RDB 1 水田池成虫コカゲロウ科フタバカゲロウ Cloeon dipterum Linnaeus フタオカゲロウ科フタオカゲロウの一種 Siphlonuridae sp. イトトンボ科キイトトンボ Ceriagrion melanurum Selys ホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys) アジアイトトンボ Ischnura asiatica Brauer モートンイトトンボ Mortonagrion selenion (Ris) NT クロイトトンボ Paracercion calamorum calamorum (Ris) オオイトトンボ Paracercion sieboldii (Selys) モノサシトンボ科モノサシトンボ Copera annulata (Selys) アオイトトンボ科アオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann) ホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus (Ris) サナエトンボ科フタスジサナエ Trigomphus interruptus (Selys) NT タベサナエ Trigomphus citimus tabei Asahina オニヤンマ科オニヤンマ Anotogaster sieboldii (Selys) ヤンマ科ギンヤンマ Anax parthenope julius Brauer クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus nigrofasciatus Oguma エゾトンボ科オオヤマトンボ Epophthalmia elegans (Brauer) トンボ科ショウジョウトンボ Crocothemis servilia mariannae Kiauta ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra (Selys) オオシオカラトンボ Orthetrum triangulare melania (Selys) シオカラトンボ Orthetrum albistylum speciosum (Uhler) シオヤトンボ Orthetrum japonicum japonicum (Uhler) ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius) コシアキトンボ Pseudothemis zonata (Burmeister) チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa Selys キトンボ Sympetrum croceolum (Selys) マユタテアカネ Sympetrum eroticum eroticum (Selys) リスアカネ Sympetrum risi risi Bartenef ネキトンボ Sympetrum speciosum speciosum Oguma ミズカメムシ科ミズカメムシ Mesovelia vittigera Horváth イトアメンボ科ヒメイトアメンボ Hydrometra procera Horváth カタビロアメンボ科ケシカタビロアメンボ Microvelia douglasi Scott アメンボ科アメンボ Aquarius paludum paludum (Fabricius) オオアメンボ Aquarius elongatus (Uhler) ハネナシアメンボ Gerris nepalensis (Distant) ヒメアメンボ Gerris latiabdominis (Miyamoto) コオイムシ科コオイムシ Appasus japonicus Vuillefroy NT オオコオイムシ Appasus major (Esaki) タガメ Kirkaldyia deyrolli (Vuillefroy) VU タイコウチ科タイコウチ Laccotrephes japonensis Scott ミズカマキリ Ranatra chinensis Mayr ヒメミズカマキリ Ranatra unicolor Scott ミズムシ科オオミズムシ Hesperocorixa kolthoffi Lundblad NT チビミズムシの一種 Micronecta sp. アサヒナコミズムシ Sigara maikoensis (Matsumura) エサキコミズムシ Sigara septemlineata (Paiva) ヒメコミズムシ Sigara matsumurai Jaczewski マツモムシ科マツモムシ Notonecta (Paranecta) triguttata Motschulsky コマツモムシ Anisops ogasawarensis Matsumura マルミズムシ科マルミズムシ Paraplea japonica (Horváth) ヒメマルミズムシ Paraplea indistinguenda Matsumura 1) ここに示した絶滅危惧ランクは, VUは絶滅危惧 Ⅱ 類, NTは準絶滅危惧, DDは情報不足である. 2) 田や池で確認したトンボ類はすべて幼虫で, 成虫については別列に示した. 成虫しか確認できなかったトンボ類 7 種を含めて, 66 属 84 種の水生昆虫が確認された

4 市川憲平ほか表 1b 湿地群で確認された水生昆虫 ( 表 1a から続く ) 科名和名学名環境省 RDB 1 生息場所水田池幼虫確認トンボ類 2 成虫コガシラミズムシ科コガシラミズムシ Peltodytes intermedius Sharp キイロコガシラミズムシ Haliplus eximius Clark VU コツブゲンゴロウ科コツブゲンゴロウ Noterus japonicus Sharp ゲンゴロウ科ケシゲンゴロウ Hyphydrus japonicus Sharp NT マルケシゲンゴロウ Hydrovatus subtilis Sharp NT チビゲンゴロウ Hydroglyphus japonicus japonicus (Sharp) マルチビゲンゴロウ Leiodytes frontalis (Sharp) NT ホソセスジゲンゴロウ Copelatus weymarni Balfour-Browne ホソクロマメゲンゴロウ Platambus optatus (Sharp) クロズマメゲンゴロウ Agabus conspicuus Sharp マメゲンゴロウ Agabus japonicus Sharp チャイロマメゲンゴロウ Agabus reginbarti Kamiya ハイイロゲンゴロウ Eretes griseus (Fabricius) コシマゲンゴロウ Hydaticus grammicus (Germar) クロゲンゴロウ Cybister brevis Aube NT ゲンゴロウ Cybister chinensis Motschulsky VU ガムシ科ミユキシジミガムシ Laccobius inopinus Gentili NT スジヒラタガムシ Helochares nipponicus Hebauer NT キイロヒラタガムシ Enochrus simulans (Sharp) キベリヒラタガムシ Enochrus japonicus (Sharp) ガムシ Hydrophilus acuminatus Motschulsky NT コガムシ Hydrochara affinis (Sharp) DD ヒメガムシ Sternolophus rufipes (Fabricius) タマガムシ Amphiops mater Sharp トゲバゴマフガムシ Berosus lewisius Sharp ヒメセマルガムシ Coelostoma orbiculare (Fabricius) ドロムシ科ムナビロツヤドロムシ Elmomorphus brevicornis brevicornis Sharp マルハナノミ科トビイロマルハナノミ幼虫 Scirtes japonicus Kiesenwetter ハネカクシ科メダカハネカクシ亜科幼虫 Steninae sp. ハムシ科ジュンサイハムシ Galerucella nipponensis Laboissiere ミズアブ科ミズアブ科幼虫 Stratiomyidae sp. ユスリカ科ユスリカ科幼虫 Chironomidae spp. フサカ科フサカ科幼虫 Chaoboridae sp. 表 1aの脚注参照

5 水田の水生昆虫相謝辞水生甲虫類の多くの種については森正人氏に, コミズムシ類については中西康介氏に同定をお願いした. また, 姫路市立水族館の職員や, 林田にタガメの里をつくる会の多くの会員に調査を手伝っていただいた. ここに感謝申し上げる. 本研究は, 日本動物園水族館協会野生動物保護募金および JSPS 科研費の助成を受けた. 引用文献市川憲平 (2014) タガメやゲンゴロウ類に未来はあるか, 吉岡俊人編, 里地里山里海の生きもの学,pp , 福井大学連携リーグ, 福井. 環境省 (2007) 報道発表資料. 哺乳類, 汽水淡水魚類, 昆虫類, 貝類, 植物 I 及び植物 II のレッドリストの見直しについて. (2015 年 8 月 23 日アクセス ). 環境省 (2012) 報道発表資料. 第 4 次レッドリストの公表について ( お知らせ ). (2015 年 8 月 23 日アクセス ). 苅部治紀西原昇吾 (2011) アメリカザリガニによる生態系への影響とその駆除方法, エビカニザリガニ淡水甲殻類の保全と生物学, pp , 生物研究社, 東京. 桐谷圭治編 (2010) 田んぼの生きもの全種リスト改訂版, 農と自然の研究所, 福岡. 中西康介田和康太蒲原漠野間直彦沢田裕一 (2009) 栽培管理方法の異なる水田間における大型水生動物群集の比較. 環動昆 20: Ohba, S. (2009) Ontogenetic dietary shift in larvae of Cybister japonicus (Coleoptera: Dytiscidae) in Japanese rice fields. Environmental Entomology 38: Ohba, S.(2011) Impact of the invasive crayfish Procambarus clarkii on the giant water bug Kirkaldyia deyrolli (Hemiptera) in rice ecosystems. Japanese Journal of Environmental Entomology and Zoology 22: Ohba, S., and F. Nakasuji (2006) Dietary items of predacious aquatic bugs (Nepoidea: Heteroptera) in Japanese wetlands. Limnology 7: Ohba, S., H. Miyasaka, and F. Nakasuji (2008) The role of amphibian prey in the diet and growth of giant water bug nymphs in Japanese rice fields. Population Ecology 50: 八木剛 (1996) ゲンゴロウのすむ環境とは? 生物による環境評価再考. 昆虫と自然 31(6):

1月

ならやまビオトープ池の生き物 (2010 年 2011 年 ) ハイイロゲンゴロウ成虫シオカラトンボ幼虫奈良人と自然の会目的ならやまベースキャンプ地の荒れた湿地 ( 昔は水田 ) の泥を取り除いて改修したビオトープ池にどのような生き物が飛来し繁殖するかを明らかにするとともにこのビオトープ池を今後どのように維持管理したらよいかを探るために定期的な生き物調査を行った場所奈良市佐紀町ビオトープ池