Microsoft Word - 総説全体-p9-61

Size: px

Start display at page:

Download "Microsoft Word - 総説全体-p9-61"

さなえこけい
5 years ago
Views:

1 < 総説 > カルニチンの脂質栄養効果と脳の抗老化作用の研究安藤進東京都老人総合研究所名誉所員草加ロイヤルケアセンター施設長埼玉県草加市柿木町 Tel/Fax: キーワード : カルニチン肥満脳老化認知症アルツハイマー病 Studies on Lipolytic and Anti-Brain Aging Effects of Carnitine Sususmu ANDO Soka Royal Care Center Kakinoki, Soka, Saitama, Japan Summary This paper reports the cholinergic effect in the brain and the anti-obesity effect of carnitine. This cholinergic effect of carnitine is proved to be beneficial to the restoration of cognitive function in the aged brain. Carnitine is originally known to act as a carrier for fatty acids to pass into mitochondria in skeletal and cardiac muscles that need fatty acids for their energy source. Carnitine supplementation is shown to enhance the fatty acid oxidation and reduce body weights. In animal experiments, aged rats given carnitine showed cognitive improvement due to increased acetylcholine synthesis and weight loss by accelerated fatty acid oxidation. In a clinical trial, a fatty woman aged 84 who suffered from obesity (89.2 kg; BMI, 41.0), type 2 diabetes meritus, dermatitis and constipation at the beginning was given carnitine for seven months. She lost 23 kg (BMI, 30.6) resulting in much improvement in ADL with normalized blood glucose. Key words: carnitine, obesity, brain aging, dementia, Alzheimer s disease

2 脂質栄養学第 19 巻第 1 号 (2010) 要旨 : カルニチンは生体内でつくられている生理活性物質である安藤らは脳のシナプスにおいてアセチル化カルニチンがアセチルコリンの生成を高めるためにコリン性作用を賦活することを明らかにしてきた老齢になると組織のカルニチン濃度が低下するのでカルニチンを経口で補充しコリン性ニューロンを活性化することによって脳の抗老化作用ひいては認知症予防になると考えられる一方カルニチンは脂肪酸燃焼促進効果によって高齢者の肥満解消に役立つことを明らかにしたはじめにカルニチンは生体内に遊離で存在するアミノ酸の一種であるその 10% 程度はアセチルカルニチン (acetyl-l-carnitine, ALCAR) の形になっているカルニチンの主要な機能は脂肪酸の輸送である脂肪酸はミトコンドリアの中で酸化されてアセチル CoA まで分解されるがカルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内へ取り込む過程になくてはならない脂肪酸の活性化分子であるそれゆえエネルギー源として脂肪酸を燃焼している心筋と骨格筋に体内のカルニチンの大部分が存在している一方カルニチンには脂肪酸とはまったく関係のない別の作用のあることが分かってきた 1) カルニチンのコリン性作用といえるものであるそれはアセチルコリンの産生を高めコリン性ニューロンを活性化する効果を発揮するこの作用を利用すれば加齢による認知機能の低下を防いで認知予備力 (cognitive reserve, intellectual reserve) 2) を大きく確保することができ認知障害に陥りにくくすることができると考えられる本稿ではカルニチンの脂肪酸燃焼促進作用による高齢者の肥満解消とコリン性作用による脳の抗老化作用について述べる 1. カルニチンの脂肪酸燃焼促進作用カルニチンは特に筋細胞において脂肪酸輸送を担っているカルニチンの増量はミトコンドリアへの脂肪酸の供給を高めて脂肪酸の燃焼を促進すると考えられる老齢ラットにカルニチンを投与すると飽食条件においても体重減少がみられ体脂肪が消費されたためと思われたその証拠に血清中のトリアシルグリセロールは低下し脂肪酸燃焼の産物であるケトン体が増加していた 3) 老齢になると組織中のカルニチンレベルが下がる 1,3) ので肥満高齢者にカルニチンを投与してカルニチンレベルが回復できれば脂肪酸燃焼促進によって肥満解消が図られると期待される肥満高齢者 (84 歳女性 ) にカルニチンを投与して体重が著しく改善した 1 例を示す (Fig.1) 当初糖尿病皮疹便秘頻尿下肢浮腫腰痛を患っていたが体重 89.2kg(BMI, 41.0) から 67.3kg(BMI, 31.0) まで減少したことによって抗糖尿病薬が不要となり他の症状もことごとく消退した

3 2. カルニチンのシナプス作用と認知機能向上効果筆者らは加齢にともなう神経伝達効率の低下はシナプスからのアセチルコリン放出減少によることを示してきた 4) カルニチンの神経作用については老齢ラットにアセチルカルニチンを投与してシナプスにおけるアセチルコリンの合成促進と学習能力でみる認知機能の改善効果を証明した 5) Fig.2 にシナプスにおけるアセチルコリン生成がカルニチン投与で増加することを示すカルニチンのコリン性作用が知られるようになってからカルニチンに抗認知症効果を期待した治験がかなり行われてきている認知症の症状が改善したとするものと効果がないとする報告が混在しているそこで Montgomery ら 6) はランダム化二重盲検法で行われた互いに比較しうる研究の21 報についてメタ分析を行いより確からしい結論を導き出しているそれらの研究ではアセチルカルニチンの投与期間は 3 ヶ月から 1 年で効果判定には 12 種類の知的機能評価テストバッテリーと 2 つの臨床症状評価スケールが用いられていた研究ごとの総合的な効果指標 (efficacy measures) を研 Fig.1. Body weight loss by carnitine intake. A fatty woman aged 84 was given carnitine and lost 23 kg for 10 months

4 脂質栄養学第 19 巻第 1 号 (2010) Fig.2. Improved acetylcholine parameters in cerebral synaptosomes of rats given acetyl-l-carnitine (ALCAR) (Ref. 5). Choline uptake: high-affinity choline uptake; Acetylcholine synthesis; and Acetylcholine release: high-k + (50mM)-evoked acetylcholine release.*p<0.05 (vs control) 究に用いられた集団のサイズに対してプロットすると逆漏斗 (inverted funnel) の形に分布する参加人数の少ない研究では効果が悪いものからよいものまで広く分散しているが集団のサイズが大きくなるほど漏斗の先端に集中する傾向がみられるその中央値は 0.201(95% CI ) となり有意に効果があると判定された臨床症状でも 0.32(95% CI ) と改善効果が認められたおわりにカルニチンは脂肪酸代謝に必須のものでありその必要量は生体内で合成されていると思われる血中から組織への取り込みは能動輸送で行われるためカルニチンは細胞内により高い濃度に保たれている老齢になるとカルニチンの血中濃度はあまり変化しないが取り込み能低下によって組織内濃度が減少する 1) そのため初老期以降にカルニチンの補充が望ましいといえるカルニチン摂取は肥満解消からメタボリックシンドロームの予防になるばかりでなく脂肪酸を燃焼する骨格筋と心筋にとってカルニチンレベルを維持することで廃用性萎縮を防ぐ意義もあると思われる神経系においてはカルニチンがアセチルコリン生成を増やしてコリン性機能を発揮することが分かってきたそれによって高齢者の認知機能の向上や認知症予防への応

5 用が考えられる既に国外ではアセチルカルニチンの治験がかなり実施されておりそれらのメタ分析によって軽度認知障害と軽度アルツハイマー病への効果があると認められている 6) カルニチンを医薬品にする動きはないがサプリメントとして広く利用されるようになればわが国における認知症患者の発生は少なくなると考えている参考文献 1. 安藤進 : カルニチンと脳神経機能老化抑制と食品頁食品総合研究所編アイピーシー安藤進 : 脳の刺激で認知症予防アンチエイジング医学日本抗加齢医学会雑誌 3: , Tanaka Y, Sasaki R, Fukui F, Waki H, Kawabata T, Okazaki M, Hasegawa K and Ando S, Acetyl-L-carnitine supplementation restores decreased tissue carnitine levels and impaired lipid metabolisms in aged rats. J Lipid Res, 45: , 安藤進 : コリン作動性シナプス機能の老化. 神経精神薬理 16: , Ando S, Tadenuma T, Tanaka Y, et al., Enhancement of learning capacity and cholinergic function by carnitine in aging rats. J Neurosci Res, 66: , Montgomery SA, Thal JJ and Amrein R: Meta-analysis of double blind randomized controlled clinical trials of acetyl-l-carnitine versus placebo in the treatment of mild cognitive and mild Alzheimer s disease. Int Clin Psychopharmacol 18: 61-71,

総説実践女子大学生活科学部紀要第 54 号,001 ~ 005, L- カルニチン - その存在量と生理機能 - 田島眞 L-Carnitine the amounts in foods and the functional properties Makoto TAJIMA L-Car

総説実践女子大学生活科学部紀要第 54 号,001 ~ 005, L- カルニチン - その存在量と生理機能 - 田島眞 L-Carnitine the amounts in foods and the functional properties Makoto TAJIMA L-Car 総説実践女子大学生活科学部紀要第 54 号,001 ~ 005,2017 1 L- カルニチン - その存在量と生理機能 - 田島眞 L-Carnitine the amounts in foods and the functional properties Makoto TAJIMA L-Carnitine is an amino acid with a peculiar nutritional