鋳鉄・焼結合金加工用スミボロン® BN7000 の開発

Size: px

Start display at page:

Download "鋳鉄・焼結合金加工用スミボロン® BN7000 の開発"

そうすけひろもり
4 years ago
Views:

特集鋳鉄焼結合金加工用スミボロンの開発松田裕介 * 岡村克己上坂伸哉深谷朋弘 Development of New Grade SUMIBORON for Cast Iron and Ferrous Powder Metal Machining by Yusuke Matsuda, Katsumi Okamura, Shinya Uesaka and

1 特集鋳鉄焼結合金加工用スミボロンの開発松田裕介 * 岡村克己上坂伸哉深谷朋弘 Development of New Grade SUMIBORON for Cast Iron and Ferrous Powder Metal Machining by Yusuke Matsuda, Katsumi Okamura, Shinya Uesaka and Tomohiro Fukaya SUMIBORON PCBN (polycrystalline cubic boron nitride) tools are widely used in the cutting of hard-to-cut ferrous materials, such as hardened steel, cast iron and powder metal, and contribute to productivity growth and cost reduction for metalworking. In the recent growing automotive industry, the machining of cast iron and powder metal parts has been increasingly required. Conversely, however, the machinability of these parts has been degraded because of their high functionality. Therefore, the demand is increasing for PCBN cutting tools that enable efficient machining and long tool file. The authors have developed SUMIBORON, which has the highest CBN contents among the present production line and excellent binding force between CBN particles. ensures higher efficiency and longer tool life in cast iron and powder metal machining than any other conventional PCBN grades. This paper describes the development process and performance of. Keywords: cast iron, powder metal, CBN, PCBN, cutting tool 1. 緒言 CBN( 立方晶窒化硼素 ) はダイヤモンドに次ぐ高い硬度と熱伝導率を示し鉄系金属との反応性が低いという特徴を有する当社はこの CBN を特殊セラミックス結合材で結合させた CBN 焼結体の開発を行ない従来研削加工が主体であった焼入鋼加工の切削化を促進したさらに鋳鉄や焼結合金などの鉄系材料でも高含有率系 CBN 焼結体工具の適用により中仕上げや仕上げ加工を中心に生産性向上とコスト低減に貢献してきた ( 1 )~( 5 ) 鋳鉄の加工で使用される工具としては超硬合金セラミックスサーメットが主流であるが高精度加工や高速高能率加工には高強度で高速切削が可能な CBN 焼結体工具が使用される例えばエンジンブロックやオイルポンプでは部品の合わせ面を高能率高精度に加工するため 1 CBN 焼結体工具でフライス加工される場合も多い金属粉末を焼き固めて製造する焼結合金はニアネット 2 シェイプ技術により複雑な形状が成形できさらに金属粉末組成や粒径焼結密度などを制御し材料特性を自由に設計できるメリットから自動車のトランスミッション等の機能部品に多く採用されているしかし焼結合金は製品の高精度化への要求により高い加工精度が要求される一方材料の高硬度化のために難削化しているそのため焼結合金加工において優れた加工精度と工具寿命が得られる CBN 焼結体工具を適用する割合が増加している今回当社は鋳鉄焼結合金をより高能率高精度に加工したいというニーズに応えるために CBN 焼結体工具スミボロンを開発した本稿ではこのの特性切削性能について紹介する 2. の特長 2 1 の材料特性 CBN 焼結体は組織構造から CBN 粒子がセラミックス等の結合材を介して結合された焼結体と CBN 粒子同士が結合した焼結体の 2 種類に分類される前者は焼入鋼の加工で優れた耐摩耗性を示し後者は CBN の含有率が高く耐熱性靱性に優れ鋭利な刃先が形成できることから鋳鉄や焼結合金更に耐熱合金の加工に用いられるは後者のタイプに属する表 1にと当社従来材種焼結合金仕上げ加工用材種 BN75 の特性を示すは焼結圧力を従来の 5 万気圧から向上させ従来材種では実測値で 9 % 程度であった CBN 含有率を 93 % まで高めることで表 1 の材料特性 CBN 硬度抗折力破壊靭性値熱伝導率材種含有率粒度 (GPa) (GPa)(MPa m 1/2 )(W/m K) (vol %)(µm) BN ( 従来材種 ) ( 8 ) 鋳鉄焼結合金加工用スミボロンの開発

高い硬度と優れた強度靱性を実現したまた熱伝導率の高い CBN 粒子を多く含むため高い熱伝導性を有する 2 2 の形状の刃先断面形状と刃先処理を図 1に示すでは汎用性の高い標準型切れ味重視タイプの LF 型刃先強化タイプの HS 型の 3 種類の刃先処理をラインナップし被削性と部品形状が多岐にわたる焼結合金の加工において特に優れた切削性能を発揮する

長寿命を達成できるとが判明した ( 図 2: 拡大図 ) このため焼結合金の加工では焼結合金中に含まれる高融点金属や炭化物などの各種硬質粒子により切削時に CBN 粒子の周囲の結合材が削り取られ CBN 粒子が浮き出した後に脱落することを繰り返して摩耗が進展すると考えられる ( 図 2: 摩耗プロセス ) 従ってこの CBN

3mm 1mm t に切り出した焼結体の表面を 3µm のダイヤモンド遊離砥粒を用いて鏡面研磨し 18 のフッ硝酸中で 12 時間処理することで結合材を溶出させ研磨面を SEM 観察した写真 1 は SEM 観察の結果である従来材種と比較しでは結合材の溶出による空孔が少なく CBN 粒子間の境界が連続している様子が見られるこれは CBN

焼結合金加工におけるの切削性能 3 1 焼結合金加工における課題焼結合金を CBN 焼結体工具で加工した際図 2のように表面に凹凸のある摩耗形態となることが多い摩耗部を高解像度の走査型電子顕微鏡 (SEM) で拡大し詳細に分析した結果 CBN 粒子の周囲の結合材がなく CBN 粒子が浮き出しているこ写真 1 酸処理後の SEM 画像 µm 1µm 図 2

2 高い硬度と優れた強度靱性を実現したまた熱伝導率の高い CBN 粒子を多く含むため高い熱伝導性を有する 2 2 の形状の刃先断面形状と刃先処理を図 1に示すでは汎用性の高い標準型切れ味重視タイプの LF 型刃先強化タイプの HS 型の 3 種類の刃先処理をラインナップし被削性と部品形状が多岐にわたる焼結合金の加工において特に優れた切削性能を発揮する耐欠損性と切れ味のバランスに優れた標準型は鋳鉄や焼結合金の汎用加工における第一推奨の刃先処理である LF 型は切れ味の良いシャープエッジ刃型で焼結合金の仕上げ加工において優れた面粗度と形状精度を長時間維持することができる HS 型はチャンファー角度を大きくし R ホーニングを施すことにより HRC5 を超える焼入れ焼結合金の断続加工でもチッピングや欠損を抑制し長寿命を達成できるとが判明した ( 図 2: 拡大図 ) このため焼結合金の加工では焼結合金中に含まれる高融点金属や炭化物などの各種硬質粒子により切削時に CBN 粒子の周囲の結合材が削り取られ CBN 粒子が浮き出した後に脱落することを繰り返して摩耗が進展すると考えられる ( 図 2: 摩耗プロセス ) 従ってこの CBN 粒子の脱落を抑制することが工具性能向上のための課題であると言える 3 2 による焼結合金加工 (1) の改良点は従来材種に対し CBN 粒子の含有率を高めることで機械的特性に劣る結合材を相対的に 3 % 減少させさらに結合材の改良により焼結時の CBN 粒子間の反応を促進させることで CBN 粒子間の結合力を強化したこの効果を確認するためとについて 3mm 3mm 1mm t に切り出した焼結体の表面を 3µm のダイヤモンド遊離砥粒を用いて鏡面研磨し 18 のフッ硝酸中で 12 時間処理することで結合材を溶出させ研磨面を SEM 観察した写真 1 は SEM 観察の結果である従来材種と比較しでは結合材の溶出による空孔が少なく CBN 粒子間の境界が連続している様子が見られるこれは CBN 粒子の含有率が高くなったことで CBN 粒子同士の接触面積が増加し酸処理後も CBN の骨格が保たれており CBN 粒子間の結合力が強化されていることを示している図 1 の刃先処理 3. 焼結合金加工におけるの切削性能 3 1 焼結合金加工における課題焼結合金を CBN 焼結体工具で加工した際図 2のように表面に凹凸のある摩耗形態となることが多い摩耗部を高解像度の走査型電子顕微鏡 (SEM) で拡大し詳細に分析した結果 CBN 粒子の周囲の結合材がなく CBN 粒子が浮き出しているこ写真 1 酸処理後の SEM 画像 µm 1µm 図 2 焼結合金加工における刃先の損傷形態 (SEM 画像 ) (2) 切削評価による性能確認切削時の摩耗量を比較するためと従来材種について 2NU-CNGA1248( 刃先処理 : ホーニング.1mm) の工具を準備し被削材 : SMF44( 寸法 : 外径 65mm 内径 27mm 長さ 41mm 硬度: HRB7 の中空丸棒 ) を切削速度 Vc : m/min. 送りf:.15mm/rev. 切り込み ap :.3mm で連続湿式環境下において端面切削し逃げ面摩耗量の比較を行った図 3に示すようには従来材種に対し 2 % 以上の摩耗低減が確認できた 212 年 7 月 SEI テクニカルレビュー第 181 号 ( 9 )

16 14 12 8 6 4 2 2 4 図 3 焼結合金加工におけるの切削結果表 1 2 るまた酸処理前後の熱伝導率減少率が小さいため CBN 粒子同士の結合が強化されていることが推察されるこれにより切削時に刃先で発生した熱は熱伝導率の高い CBN 粒子を経由し効率的に放熱されると考えられる ( 図 5: イメージ図 ) -6% 12-32% 8 6 4 2 4.

でを超える温度に達する (6) フライス加工などの断続を伴う加工では工具が切削と空転を繰り返すことで刃先の内外部に温度差が生じ熱膨張収縮により表面に引張り応力が生じることで熱亀裂が発生し寿命に至るよって靱性に優れかつ高い熱伝導性を有し刃先で発生した熱を放出して熱亀裂を低減することが工具性能向上のための課題であると考えられる 4 2 による鋳鉄加工 (1) の改良点は 3 2

3 図 3 焼結合金加工におけるの切削結果表 1 2 るまた酸処理前後の熱伝導率減少率が小さいため CBN 粒子同士の結合が強化されていることが推察されるこれにより切削時に刃先で発生した熱は熱伝導率の高い CBN 粒子を経由し効率的に放熱されると考えられる ( 図 5: イメージ図 ) -6% 12-32% 鋳鉄加工におけるの切削性能 4 1 鋳鉄加工における課題鋳鉄の高速切削では加工時の刃先は Vc = 7m/min. でを超える温度に達する (6) フライス加工などの断続を伴う加工では工具が切削と空転を繰り返すことで刃先の内外部に温度差が生じ熱膨張収縮により表面に引張り応力が生じることで熱亀裂が発生し寿命に至るよって靱性に優れかつ高い熱伝導性を有し刃先で発生した熱を放出して熱亀裂を低減することが工具性能向上のための課題であると考えられる 4 2 による鋳鉄加工 (1) の改良点は 3 2 で記述したように従来材種に対し CBN 粒子の含有率を高めさらに CBN 粒子同士の結合力を強化したと従来材種について直径 6mm 1mm t に切り出した焼結体を用意し 25 の環境 3 下で Xe レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した ( 図 4) その後各焼結体を 3 2(1) と同じ方法でフッ硝酸処理を施し同様に熱伝導率を測定した図 5は従来材種との焼結体の酸処理前後の熱伝導率を示すは従来材種に対し 1 % 以上熱伝導率が上昇してい図 5 CBN 焼結体の熱伝導率 (2) 切削評価による性能確認切削時の熱亀裂による損傷を比較するため FMU4R のカッターと SNEW123ADTR の工具をと従来材種について準備しフライス加工評価を実施した被削材 : パーライト 4 地 FC25( 寸法 : 15mm mm 25mm 硬度: HB2-23 の板材 ) を 25mm の間隔を開けて平行に配置 ( 図 6) して切削速度 Vc : 15m/min. 送り f:.2mm/rev. 切り込み ap :.3mm で乾式環境下において上面フライス加工を行い 45 パス時点の刃先を SEM で観察したは従来材種に対して同数加工した場合の熱亀裂が低減しており熱伝導率の向上により切削性能が改善されたことが確認できた ( 写真 2) 図 4 熱伝導率測定の模式図図 6 フライス加工評価の模式図 ( 1 ) 鋳鉄焼結合金加工用スミボロンの開発

以上の粗加工領域では切刃長の長いソリッド CBNの BNS8が推奨となるまた焼結合金加工におけるの適用領域を図 7(b) に示すは焼結合金加工の汎用加工における第 1 推奨材種である但し仕上げ加工領域では

4 写真 2 鋳鉄フライス加工刃先 SEM 画像 5. の適用領域と使用実例評価結果及び使用実例からまとめた鋳鉄におけるの適用領域を図 7(a) に示すは鋳鉄の高速仕上げ加工で優れた耐摩耗性と耐熱亀裂性を示す切込み 1mm 以上の粗加工領域では切刃長の長いソリッド CBNの BNS8が推奨となるまた焼結合金加工におけるの適用領域を図 7(b) に示すは焼結合金加工の汎用加工における第 1 推奨材種である但し仕上げ加工領域では微粒の CBN 粒子を高密度に焼結することで高品位の刃先稜線を維持できる BN75 が第 1 推 BN5 3 2 BN75.1 BNS 図の適用領域 5 15 ø2 2 3 ø ø 図 8 の使用実例 212 年 7 月 SEI テクニカルレビュー第 181 号 ( 11 )

奨となるまた HRC6 前後の高硬度な焼入焼結合金の連続切削では焼入鋼切削と同様熱的摩耗が支配的となる場合があるため焼入鋼用の工具材種が推奨されるの使用実例を図 8に示す耐摩耗性と耐欠損性に優れるは鋳鉄の旋削加工やフライス加工焼結合金の加工において従来材種の 1.

5 奨となるまた HRC6 前後の高硬度な焼入焼結合金の連続切削では焼入鋼切削と同様熱的摩耗が支配的となる場合があるため焼入鋼用の工具材種が推奨されるの使用実例を図 8に示す耐摩耗性と耐欠損性に優れるは鋳鉄の旋削加工やフライス加工焼結合金の加工において従来材種の 1.3 倍以上の工具寿命を達成したさらに焼結合金の一つとして自動車エンジン用 VSR( バルブシートリング ) の加工を行った使用実例を示す VSR 材は通常の焼結合金と比較して炭化物等の硬質粒子を多く含むため硬度が高く加工し難い材料になっているは VSR 加工に対しても長寿命化を達成している以上のようにさまざまな形状材質の鋳鉄焼結合金加工に対しの適用により高能率化と長寿命化を実現できた参考文献 (1) 大田焼結合金鋳鉄加工用スミボロンの開発 SEI テクニカルレビュー第 165 号 81(24) (2) 岡村焼入鋼断続加工用スミボロン BN35 BNC3の開発 SEI テクニカルレビュー第 165 号 87(24) (3) 寺本焼入鋼高速加工用スミボロン BNC および高精度加工用スミボロン BNC16の開発 SEIテクニカルレビュー第 172 号 89(28) (4) 岡村焼入鋼高能率加工用コーティドスミボロン新 BNC2 の開発 SEI テクニカルレビュー第 174 号 18(29) (5) 松田鉄系焼結合金仕上げ加工用スミボロン BN75の開発 SEI テクニカルレビュー第 176 号 41(21) (6) H. Kato, K. Shintani and H. Sugita, Cutting performance of sintered cubic boron nitride tool in high speed machining of gray cast iron The application of prolonged tool life mechanism to the milling operation -, Proc. International seminar on improving machine tool performance, vol.1, (June ) 6. 結言 CBN 焼結体工具スミボロンの適用により鋳鉄や焼結合金加工において加工能率向上工具寿命の延長が可能となったは当社のスミボロン製品の中でも最高の CBN 含有率硬度熱伝導率を有する材料でその適用領域は難削材などの材料強度が必要とされるアプリケーションにも広がる今後もの適用が拡大し切削加工工程のトータルコストの削減品質の向上並びに高精度化に貢献することが期待される用語集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1 フライス加工工作物を可動テーブルに固定し回転工具を用いて平面や溝を成形する切削加工執筆者松田裕介 * : 住友電工ハードメタル超高圧マテリアル開発部 CBN 焼結体工具の開発設計に従事岡村上坂深谷克己 : 住友電工ハードメタル超高圧マテリアル開発部伸也 : 住友電工ハードメタル超高圧マテリアル開発部グループ長朋弘 : 住友電工ハードメタル超高圧マテリアル開発部部長 * 主執筆者 2 ニアネットシェイプ技術機械加工や電気加工などの除去加工の手間やコストを減らすことを狙い最終製品に近い形状を得る成形法 3 Xe レーザーフラッシュ法断熱真空中に置かれた平板状試料の表面を Xe レーザーで均一にパルス加熱し表面から裏面への熱拡散現象を観測することにより熱拡散率を求める手法 4 パーライト鋼の組織の一種で炭素が.77wt % 溶け込んだ鉄を高温領域から温度 727 以下へと徐冷した時に生ずる共析組織光沢が真珠に似ているためパーライトと称される ( 12 ) 鋳鉄焼結合金加工用スミボロンの開発

焼入鋼加工用スミボロン®BN1000/BN2000 の開発

焼入鋼加工用スミボロン®BN1000/BN2000 の開発産業素材焼入鋼加工用スミボロン / の開発原田高志 * 月原望寺本三記久木野暁深谷朋弘 Development of SUMIBORON / for Hard Turning by Takashi Harada, Nozomi Tsukihara, Minori Teramoto, Satoru Kukino and Tomohiro Fukaya With the expanding use