Untitled

Size: px

Start display at page:

Download "Untitled"

まともたかにし
7 years ago
Views:

1 オクタビオパスとギリシャ哲学阿波弓夫断片オクタビオパス以下パスと略すの初期三部作がほぼ同時期に生まれたことは決して遇然ではないその成立順序についても同じことが言える同一実体の二つの異なる表現形態として孤独の迷宮０年が言葉の下の自由年鷲か太陽か年とコインの表裏を成すようにほぼ同時期に成立することやこれらの相関々係が詩論として普遍化される弓と竪琴６年へと継がれることは必然の成り行きであったこのコンステラシオンと歴史性を考慮することによって初めてパスの詩論はより良くかつ自然に理解されるのである同時にまた他の文化文明圏の作家詩人たちとの比較が成り立つのであるそこにこそパスがどのようにして自らの文学の近代性を自己の現実に根差しつつ探究し続けていたかを明らかにする筋道があるパスは第一次世界大戦の始まる年メキシコ市で生まれ８年死没するまでの２０世紀のほぼ全旅程を己れの実存的道程として生き抜いたメキシコの詩人である激変する時代状況の下で自己の詩論に再構築を挑みながらその都度始原に還ったそのような絶えず帰還すべき祖素型としての初期三部作を念頭に置いてその底流にあるギリシャ哲学との響き合いを検討するのが本稿の目的である断片À パスは古代メキシコの源流たるメソアメリカ文明をその単一性特異性独創性に基いてたった一人で誕生しただ一人で生きたと特徴付けている６世紀まで広大な両洋に挟まれて孤独の内に独自の道を拓いたこれは世界の四大文明が相互に交流し合いながら展開してきたのとは対照的な特性であるパスは年外交官として渡仏してそこで初めて自らの文明史的出自のもつ重みを実感したのではないだろうか LDS成立の契機を語ってパスは祖国から遠く離れたフランスで３

メキシコ市で生まれ８年死没するまでの２０世紀のほぼ全旅程を己れの実存的道程として生き抜いたメキシコの詩人である激変する時代状況の下で自己の詩論に再構築を挑みながらその都度始原に還ったそのような絶えず帰還すべき祖素型としての初期三部作を念頭に置いてその底流にあるギリシャ哲学との響き合いを検討するのが本稿の目的である断片À

2 駿河台大学論叢第３２号２００６たった一人になってメキシコが私に向って問いかける質問に答えることを試みたインドの薄明真辺博章訳２０００土曜美術出版２７頁と強調している異質な文明に身を置いて彼の孤独感は一層増した同時に世界の主舞台から周縁に追いやられた祖国がどれほどいとおしく感じられたことか容易に想像できる Amor a la patria 祖国への愛が何の異和感もなく自然に湧いたであろうし宗教性２の帯びた一種独特の詩的瞬間を味ったことであろうそのような祖国との原初の出会いを純粋な経験として得たことそのとき彼の中にAmorが実体ある言葉へと甦ったのではないだろうかそのような神話的なAmorの原初の姿との出会いこそがLDS成立の前提である同時に LBPが実体をもって成立する前提ともなったパスはその時のいはく言い難い心象をAmor アモールという言葉でイメージ化するその心情とは青年期の若者が自分を想うように祖国を思慕する感情であるまだ大人になりきれないリビドーに動かされた心の彷徨が重なる愛したり憎んだり嬉んだり悲しんだり３これが原初的体験として相対立しながら不可分な心情一般究極的には生と死を託すメタモルフォーズ的概念としてのアモールのイメージへと転換するのである LDS第６章独立から革命へでは世紀初頭からの百年間に起った国民国家形成に向けての三度の激しい内戦についてかなり詳細に論じている国民的基盤としての先住民人口の存在と植民地社会の遺産たる階級格差の存在とが原因となって内戦は国家の土台を揺がす深刻さをもったことを簡潔にまとめているさらにそれにも拘らずメキシコが国家として存在し得た背景には究極的には生命への愛ゆえであるとも述べているパス詩論を成立させるアモールのビジョンがここでは歴史的に実体化されているのであるパスはLOVの中でダンテの新生から大文字のAmor を運用してその解説を行っているここで我々はパスが自らの詩論を再構築する瞬間を目の当りにする０年代にはまだ解説を必要としていなかったAmorのビジョンだが０年代にはAmorの現実における不可能性はまさに神話的レベルにあると見なされているのであり視ることも手に触れることも出来ない彼岸に遠のいてしまったとのパスの現実認識が前提としてありそれを自他ともに宣言するのである断片Á パスが晩年おこなった二つの公的発言の特にその冒頭部分について考えてみる

パスはその時のいはく言い難い心象をAmor アモールという言葉でイメージ化するその心情とは青年期の若者が自分を想うように祖国を思慕する感情であるまだ大人になりきれないリビドーに動かされた心の彷徨が重なる愛したり憎んだり嬉んだり悲しんだり３これが原初的体験として相対立しながら不可分な心情一般究極的には生と死を託すメタモルフォーズ的概念としてのアモー

3 Gracias Gracias Gracias Gracias Gracias Sorprender

4 Sorprender Sorprender No veo con los ojos: las palabras son mis ojos. Nadie estar ser

5 オクタビオパスとギリシャ哲学る人つまり自分でない他人に停まる存在に停まらないために常に自らを投企して人間本来の在り方を模索する責任があるハイデガーは自分を死への存在として自覚することによって本来の自分を生きることが出来ると考えた街路はキルケゴールハイデガーとの出会いなしには考えられない必要不可欠の触媒であるしかしその素材はもともとLDSにあるその第２章メキシコの仮面頁に於て現代社会のNinguneo６人間を人間と見なさない関係のことを自宅でのある出来事を発端として展開しているのがそれである別室で物音がしたので誰か居るのかと誰何したところその最近田舎から上京したばかりの家事手伝いの女性の声がして誰でもありません御主人私ですとの返事が返ってきたのであるパスは既に現実の生活の上で地方からそれもメキシコ人ならよく解るが先住民系の女性が働きに来て大都会における状況を把握した上で誰でもありませんというその表現の仕方において他者の目で見られる都会生活者の己れというものを認識したのであるしメキシコが依然として都市と農村という形において特に地方においてはまだ己れが具体的に生き個人が共同体の一部として大地に根差しそれぞれの名前が各自の人格と緊密に結びついた前近代的発展類型にある社会と共存していることを認識するのであり存在の稀薄な都会生活者としての己れを自覚していたからこそパスはヨーロッパの現実において再び逆にメキシコの現実を追認していくのであるこれが短詩街路創作の底流にある詩的現実であるそれがヨーロッパに於て創られながらその根本なる原体験はすでにメキシコの生活上の体験として生きられていたのである二つのスピーチの真実を註釈するに於てパスの初期三部作の相関々係を十分に理解した上でなされないと十全なる形で把えることは難しいパスの詩篇については勿論のこと散文散文詩についても同様のことが言える断片Â Ｏパスの詩論が初期三部作によって基礎固めされそれ以降ゆっくりと展開していく様は人間的である第二論文で検討したが強制的出国 destierro という未曽有の事態に直面して渡米を余儀なくされたパスにとりどのように精神的わだかまりを払拭して自他共に和解を遂げるかが課題となるパスは己れのこの葛藤をアモールの隠喩によって官能的な議論に転換することでパス流の回路を切り拓くことによってこの矛盾を克服せんとしているが憎しみながらも偲わずにいら７

ならよく解るが先住民系の女性が働きに来て大都会における状況を把握した上で誰でもありませんというその表現の仕方において他者の目で見られる都会生活者の己れというものを認識したのであるしメキシコが依然として都市と農村という形において特に地方においてはまだ己れが具体的に生き個人が共同体の一部として大地に根差しそれぞれの名前が各自の人格と緊密に結びついた前近代的発展

7 オクタビオパスとギリシャ哲学断片Ã 六年前の２０００年に新潟県の山間部のある村で世界中の芸術家が多数集まり同地の自然環境を生かしたインスタレーションが出品された７参加者の一人から後日聞き知っただけなので詳述できないがひとつの作品が印象に残り永く想像力を掻き立てたそれはほぼ次のようなものであったなだらかな棚田の各所にステンレス製の反射鏡を空に向けて設置したものであった昼間見ると棚田は真昼の星空になったようにキラキラ輝く月夜の晩に見ると月の傾きに応じて反射鏡による光体の帯がどんどん推移するものであった反射鏡の角度と月の傾きが刻一刻予想外の光体の流れを創り出すものそれが作品の主題であったそこには棚田も反射鏡もないただ月光だけが動く光体と化して暗闇を這うその瞬間は詩的インスピレーションを掻き立てる地球や月という大自然の中の普段対照的対立的に眺める自他が一体となって一つの殺那の芸術的空間を創り出すのである棚田は異化されただ惑星間のコンステラシオンだけが詩的瞬間をもたらす契機となっているのである日常的には別個のものあるいは対面している物が芸術作品と化すことで全く異質な第３の産物が出現する李白の月下独酌という寓意詩もこれと同様に月を主人公にしたものである８詩人は独り月下で盃を重ねながら自分の影と盃に映る月を友として決して孤独ではないという月下の独酌が一瞬のうちに饗宴と化すそこには人間の生命のはかなさが重くのしかかるがそれがこの殺那の一瞬を一層永遠の輝きのうちに固定することになるのである棚田がここでは酒仙に代っているだけで天地人の合体は共通しているのであるタオイズムは西欧合理主義の二元論を乗り越えるものでパスは初期三部作の一つである彼の詩論弓と竪琴のイメージの章でもパスは再三触れているこのように考えると反対物の合一一致の思想は東洋においては宗教思想哲学のみならず日常生活文化全般に浸透する鍵概念である特に禅仏教で十全に展開され何ら神秘主義的なものではないしかしパスも語るように西欧合理主義においては神秘学とポエジーは決して容認されないというパスが東洋思想に自己の詩論の源流を求めて傾注する所以であるしかし単純に自己の詩論の原点に東洋思想を据えるというものではない内部からの自発的な議論の延長線上に東洋思想の受容は位置しているのであって初期３部作の中でも既に具体的に模索されているのであるそこでの具体的現実に即した議論を普遍的な言葉に置き換えていく

普段対照的対立的に眺める自他が一体となって一つの殺那の芸術的空間を創り出すのである棚田は異化されただ惑星間のコンステラシオンだけが詩的瞬間をもたらす契機となっているのである日常的には別個のものあるいは対面している物が芸術作品と化すことで全く異質な第３の産物が出現する李白の月下独酌という寓意詩もこれと同様に月を主人公にしたものである８詩人は独り月下で盃を重ねながら

8 駿河台大学論叢第３２号２００６パスの想像力に満ちた転換力にこそ注視しなければならないのであるタオイズムにおいて議論される反対物の合一についても同様であって LDS最終章DDSにも見られるし最初期の詩論PSPCにも改訂版AYLに収録される回転する記号にも HDL冒頭亀裂の伝統にも AYL最終章実体のない言葉の章でも密度の濃い議論が展開されている最後に忘れてはならないのは０年のノーベル賞受賞講演の後半部では総まとめ的に展開されるのであるしたがって我々にとってはパスが固有の歴史的事実から普遍の言葉によって如何に議論しそれを普遍的イメージをもたらすAmorのビジョンとして摘出しメキシコ人としての伝統に根ざすなかで普遍を語る一つの統一的な詩論としてどのように形成していったのかが主題となるのである彼の対立物の合一の展開を見れば彼の思考の過程が明らかになる彼は東洋思想についてインド在住以降多様な議論を展開しているそれは詩作詩論の新展開と同時進行していることは言うまでもないが自分の本来的なものとの関係においてより受容し易い様態への転換を模索するのであって彼が東洋的なものを自ら変容することによって摂取しようとするのではないそれ故に東洋において思想的に育まれた背景たる風土歴史の特異性があるのであってヨーロッパにおいてはそこでの独自のものがありたたイスパノアメリカに於てパスはどのように接近して独自の詩論を展開するに至ったのかが興味ある主題なのである反対物を男女 Amorというイメージによって展開する過程がパスが自らの文学に近代性を確保する過程そのものなのである固有でありかつ普遍である文学の在り方それはまたパス独自の詩論がどのように形成されるのかについて理解を深めることは我々にとっても無縁ではない断片Ä LDSが詩人としてパスが生まれ展開していく決定的要素となった点について最も重要な部分は最終章で補足として収録される孤独の弁証法と題する部分をどのように読み解くかにかかっているその中でパスはLDSの核心部を集約する形で展開しているある意味では本書成立の基本的契機について議論しているつまり最終章として配置され作品全体を再度集約し詩的に語り直すとこの意味をもつものであろうそれは自分の個人的宿命運命としてこれまで辿ってきた軌跡を神話的歴史的心理的に即ち三つの時間軸において再検討していこうというそれもあくまで普遍的な言葉によって説明し自らに内蔵する内面的対立矛０

彼の対立物の合一の展開を見れば彼の思考の過程が明らかになる彼は東洋思想についてインド在住以降多様な議論を展開しているそれは詩作詩論の新展開と同時進行していることは言うまでもないが自分の本来的なものとの関係においてより受容し易い様態への転換を模索するのであって彼が東洋的なものを自ら変容することによって摂取しようとするのではないそれ故に東洋において思想的に育まれた背景たる風土

9 LDS DDS

10 LDS LDS DDS LDS

11 オクタビオパスとギリシャ哲学ファナイネスデラクルスあるいは信仰の罠の冒頭部分でもかなり綿密な補足を行っている特にヌエバエスパーニャ時代における統治制度をどのように考えるかについて補強しているメキシコに於ては植民地史は永くタブー視されデリケートな問題を含むものでありながらメキシコ創立期の天才的女流詩人の数奇な運命を渉猟し尽くすことで歴史家オクタビオパス真骨頂と言える作品である彼女を通して国民意識の形成とその深化の在り様が見えてくるヌエバエスパーニャ時代をどう見るかによってつまり外国による単なる支配か新たな文明の創出なのかによってその後の歴史の見方が変ってくるのであってパスは独立革命を初めとする三つの革命による激変において伝統継承より破壊を特徴として捉えている民族形成とそれに照応する政治体制をめぐって三つの内戦はほぼ同一線上にあるのであってそこでは亀裂と連続の同時進行的な流れを特徴としているパスはそこから動と静の相対立する二面の合一としてメキシコ創出の歴史をイメージする視点を得ているのであるそれはイデオロギー的文化的民族学的には一貫した法則の下に捉えられない難しさがあるがパスはそうした歴史的感性によって普遍的にメキシコ近代を語る地平を拓いたあるいはそのための彼独特の秘密の回路を創出したのである断片Å AYLのイメージの章で特にその後半部でパスは反対物の合一についてかなり綿密な初期的な形ではあるが正面に据えて議論している例えば羽毛と石という全く正反対の物が一瞬において和合する一般的ないし合理主義的な見地からは決して起こり得ない詩的な合一の瞬間を様々なケースを引いて議論しているその際タオイズムに関して荘子などと共にさかんに引用されているアーサーウェリーが年に上梓した東洋特に中国文化に関する書物２を用いて展開しているこれはどういうことかと言えば中国における東洋思想というものがメキシコ人として文化の底流にあることを検討するために議論しているのであって異質な文明圏の哲学的思弁を取り入れようとして批判的に検討しているわけではない質感の近かしい思弁に対する熱い眼差しがそこには感じられるのである地中海文明ギリシャ文明西欧文明という流れに対して地中海文明ギリシャヘレニズム文明東洋文明というもう一つの流れがあってメキシコがスペイン征服を契機に後者の流れに連結されていく点を具体的にイメージしているから３

民族形成とそれに照応する政治体制をめぐって三つの内戦はほぼ同一線上にあるのであってそこでは亀裂と連続の同時進行的な流れを特徴としているパスはそこから動と静の相対立する二面の合一としてメキシコ創出の歴史をイメージする視点を得ているのであるそれはイデオロギー的文化的民族学的には一貫した法則の下に捉えられない難しさがあるがパスはそうした歴史的感性によって普

12 駿河台大学論叢第３２号２００６であるパスの詩論にはメキシコが普遍の言葉で脈打つメソアメリカ文明の末裔はその絵文書の伝統から概念を視覚化するのに長じるさらに先住民の言葉とスペイン人のそれとの響きの交感から色彩にはリズムが重ねられるイメージは形象化色彩化されリズム化されるそこでは自然がひとつのカンタータとして据えられ結合と分離をイメージさせるリズムが生じる宇宙は無邪気な結合と分離の相対立する物の運動としてリズムを奏でるさらに視覚的絵画的側面から言えば無数の男女の無限の和合絵図である静と動の合一である天体運行のイメージは官能的なリズムと化す彼がタントリズムに関心を示すのはそのためである同種のリズミカルな心地よさを味わうのであるパス詩論の原初型であるPSPCは基本的には次のように要約されよう２年文壇や芸術家の組織はロシア革命を信奉する体制翼賛的な人々によって占められていたそうした現実の下でPSPCは政治的な芸術を真向から批判したものであるその一つは科学主義合理主義的な価値基準からなる芸術観批判である現実から理解判断分析可能なもののみを選別してそれ以外のものを科学的合理主義の名において排除する神秘的なもの神話的なもの無意識的なもの要するに無垢なるもの原初的なもの非イデオロギー的なもの PSPCの言葉を用いるとすればマラビジョーソ maravilloso なものを排除するからであるその意味でヘーゲル的唯物弁証法批判であるここではシュールレアリズムと響き合うパスが芸術哲学といかに本来の自分になり切るケツゼンかという実存の問題との一致をを蹶然と表明している政治と芸術の問題歴史と文学の問題が詩人サンファンデラクルスの詩論を梃子に議論されているつまりポエジーの面から言えば神という絶対者が存在しまた聖職者として神に帰依する者として生きた詩人デラクルスがいかに詩人つまり自分自身たりえたかという問いを提起してそこにはコムニオン合一か孤独かいずれの詩かありえないとするまたそこでデラクルスの詩が理解不可能なのは彼女が自分自身になり切っているからだと説くここでパスが２年段階の現実に掛けて隠喩的に批判するのは党やイデオロギーという絶対者とコムニオンする主流がもう一方の孤独の詩の存在に寛容的になれないのはなぜかという問いである詩人の自由度においてスペイン絶対王制下の詩人の方が革命的政権下の詩人より享受しているのは何故かという批判がむしろ隠された主題となっているのである

文壇や芸術家の組織はロシア革命を信奉する体制翼賛的な人々によって占められていたそうした現実の下でPSPCは政治的な芸術を真向から批判したものであるその一つは科学主義合理主義的な価値基準からなる芸術観批判である現実から理解判断分析可能なもののみを選別してそれ以外のものを科学的合理主義の名において排除する神秘的なもの神話的なもの無意識的なもの要するに無垢なるもの

13 オクタビオパスとギリシャ哲学断片Æ AYLのイメージの章でパスはその詩論の鍵概念となる反対物の合一についての哲学的思弁の歴史的地理的発祥について検討している同作品は６年に書かれたもので最初期の詩論の祖型ないし素型をなすことについてはこれまでも何度か指摘したその中でヘラクレイトスに関するパスの執拗な議論が目に付くがこのソクラテス前の哲学者はヘーゲルが立ち戻る原点としても位置付けられているつまりヘーゲルを一部ないし全部継ぐ形でマルクスが登場しそれが唯物弁証法の形で反対物の合一が理論化され現代化されるのである階級闘争の歴史階級史観として資本制社会の矛盾とその解決の方向を歴史的必然とすることが明らかにされたそのような知の系譜が一方にはあるパスは７２年詩論泥の子供たちを上梓しているその冒頭論文亀裂の伝統において歴史と文学の相関が議論される本書全体を象徴的に語ろうと意図している点特にRuptura というスペイン語亀裂という言葉であろうこの語はある過程に裂け目が生じてその前後に変化や落差が起こる状況一つのものを二つに割るという意味を有している考古学的な意味合いも含むが科学主義合理主義的な思考でする分析も暗示している AYLのイメージからおよそ２０年後に出る同論文においては反対物の合一の思想の展開を大きく二つに分けて議論しているメソポタミア文明とエジプト文明の一部あるいは全部がギリシャに受け継がれるソクラテス前のギリシャの哲学者たち前６から前世紀のタレスからデモクリトスまでは宇宙の生成原理を求めて哲学を開始するがエフェソス生まれのヘラクレイトスもその一人であるプラトンによりソクラテスの精神が対話的に思想として取り出されそれがアリストテレスによって学問的に体系化されるその思想はアリストテレスを教師としたアレキサンダー前３６前３２３の東方遠征によりエジプトペルシャインドにまで伝播することになった大王の死後その遺志はヘレニズム文化圏の内に結晶化し東西文明の融合を見たのであるまた彼の友人プトレオマイオスによって継承されその流れはやがて８世紀初頭ムーア人イスラム教徒によるイベリア半島征服と８００年間に渡るその後のレコンキスタによってスペインポルトガルに伝来しさらにコルテスらによるアステカ征服とそれに続く植民統治によってアメリカ大陸に伝播されると考えられるこの流れをパスは東洋との交流を経たヘラクレイトスの対立物の一致の思想としてルネサンス以降中世の行詰まりからの服却の梃子としてギリシャへの回帰がなされることで始まるネオプラト

を上梓しているその冒頭論文亀裂の伝統において歴史と文学の相関が議論される本書全体を象徴的に語ろうと意図している点特にRuptura というスペイン語亀裂という言葉であろうこの語はある過程に裂け目が生じてその前後に変化や落差が起こる状況一つのものを二つに割るという意味を有している考古学的な意味合いも含むが科学主義合理主義的な思考でする分析も暗示している

14 駿河台大学論叢第３２号２００６ニズムと区別して考えているパスは６２年から６８年までインド大使として滞在するがこの体験によって人類の歴史過程の多様性をもう一つのヘラクレイトスのルートとして実感したのではなかったか２２７２年のHDLのヘラクレイトスは AYLのと比べて一段と東洋的なのは彼のインド体験に負うところが大きいしたがってイスパノアメリカの一員メキシコに於てはヨーロッパ近代以降ヘーゲルマルクスへと継がれるこれかあれかの二者択一つまり二分して分析する西欧合理主義思想の基本概念ではなくこれもあれもこれ即ちあれ万物の根元はみな同じという老荘思想により近いものとして考えられているのであるこれとあれの二極対立によりいずれかが淘汰されることを原理とする世界観進歩史観こそがヘーゲルマルクスの弁証法であればこれ即あれの同一性の内に第三の道をイメージする詩的思弁の世界とは相入れないのであるパスの詩論の源流であるギリシャのヘラクレイトスの対立物の一致の思想はタオイズムの内にも同一の原理を見出すのであるメキシコはこれまで西欧の発展原理の一面のみを受容してきたという前提の下でパスはヘラクレイトスに詩論の源流を求めそこに多様な歴史過程の可能性を孕む始原を求めようとするのである断片Ç パスはフランシスコデケベドの語るヘラクレイトスを中間頃的に吟味することで現代のヘラクレイトス観はより相対化されるべきであると示唆するがこれにはパスの時間意識に関する重要な意味を含むものと考えられる現代の読みは現代の価値基準に基いてなされるのが通例である言葉の本来的可能性は一時封殺されるこれと同様にヘラクレイトス自身は一体どう考えていたのかという原初の意味はしばしば等閑に付されるものだヘラクレイトス観の再検討はパスのこのような認識から出た指摘であろう一般に知られているところではヘラクレイトスの語ったところとして残っている断片はわずか３０ほどでその内対立物の一致に関するものは数片あるかないかというこうした限界の中でパスはヘラクレイトスの原初の姿をどう読みとるかに関心を抱いているのである原初の形がどのように引き継がれ深められているのか深められるということは原ヘラクレイトスからの逸脱の過程でもあるがパスのシュールレアリズムがそうであるように知の継承には当然伴う事態であろうその意味で同じ詩人としてパスがヘラクレイ６

マルクスの弁証法であればこれ即あれの同一性の内に第三の道をイメージする詩的思弁の世界とは相入れないのであるパスの詩論の源流であるギリシャのヘラクレイトスの対立物の一致の思想はタオイズムの内にも同一の原理を見出すのであるメキシコはこれまで西欧の発展原理の一面のみを受容してきたという前提の下でパスはヘラクレイトスに詩論の源流を求め

15 オクタビオパスとギリシャ哲学トスをどう理解するかという問題は極めて重要と言える我々の主題との関連で特に重要なのはヘラクレイトスの原初的な宇宙観万物流転というものがその後の知の継承の中で様々な色付けをされる点とは別にパスが近代の薄明期に出た詩人ケベド８０６との対話２３の中で浮び上ってくるヘラクレイトス像に注目し生涯を賭けてそれを現代化しようと腐心していたことでありその意義は計り知れないものがあるケベドのヘラクレイトス観が中世末期からのネオプラトニズムの下でその原初的なものから逸脱していくまたそのことによって受け継がれていくヘラクレイトスに反発していたことにパスは着目するのでありそのようなケベドに近代性を見出しそれを現代の言葉で捉え直すことで次世代に投企せんとして終生対話を続けたのであるパス全集第３巻にパス自ら編集責任者として掲載されたルーベンスの泣くヘラクレイトス２原題メランコリアが一体何を意味しているのかを考える糸口を与える芸術家のみが感知しえるヘラクレイトスの逸脱を物語るのか否かいずれにせよそこには視覚の特権としての歴史を捉える象徴性が見出せる対立物の一致の思想が人は同じ河に二度と入ることは出来ないほか２３のヘラクレイトスの謎めいた断片から演繹されて出てくる考え方であることは周知の事実であるパスがヘラクレイトスを言葉の本来の意味において知ることになるのはケベドを介してであることは推察されるところであるヘラクレイトスの断片とか略一口に言ってもその多くの言葉について伝承によりいくつもの異なった原文が与えられている場合が多いから略それぞれ複数で考えられなければならないだろうとの藤澤の指摘にもかかわらずパスがケベドを介して原初のヘラクレイトスを模索するのはイスパノアメリカ文学という新たな伝統を構築する問題意識と重なるからである断片È ヘラクレイトスは詩的インスピレーションをかきたてる哲学者だったらしく先述のルーベンスの作品もそうだがケベドの時代からおよそ００年後にニーチェが同じくヘラクレイトスについて専門的研究を行っている生についての根本的議論においてこれまでのカトリックの伝統の下の哲学を覆すような実存主義的議論を展開しているそれはニヒリズムという言葉で捉えられもしているが彼がその哲学形成の途上ヘラクレイトスを摂取したという事実は極めて興味深い変転きわま７

掲載されたルーベンスの泣くヘラクレイトス２原題メランコリアが一体何を意味しているのかを考える糸口を与える芸術家のみが感知しえるヘラクレイトスの逸脱を物語るのか否かいずれにせよそこには視覚の特権としての歴史を捉える象徴性が見出せる対立物の一致の思想が人は同じ河に二度と入ることは出来ないほか２３のヘラクレイトスの謎めいた断片から演繹されて出てくる考え方であることは周

16 駿河台大学論叢第３２号２００６りないこの人の世の在り方を嘆き悲しむのではなくてむしろ無心に遊ぶ子供２と見なすこのことによってこの世で翻弄される人間の悲哀東洋的には無常観これをむしろ微笑ましく受け止めるそうした詩的な在り方を提示することで世界を自分自身に重ねて憂うプラトニックな人間に対して言うならばエールを送ることを意味してはいまいか現実にどう対処すべきか大きな示唆を与えるこれは生と死の冷酷無比の現実に耐えかねた哲人がひたすら悲しんでいるのではなくニーチェには微笑みをもって向い合うそういう在り方が見られるのであってその考えの原初の部分にヘラクレイトスが位置付けられているのではないかパスはペシミズムはどのように生を愛するかを我々に教えると語っているそこにはニーチェのヘラクレイトスと響き合うものがあるそこでパスはケベドのヘラクレイトスの内に見られるメランコリーの意味を近代性と受け止め直すことで新たに概念化を試みるとともにケベドを継ぐ鍵概念となしていることも見逃せないここで思い出されるのは７０年後半から原油開発を軸に経済近代化を目ざしたメキシコのロペス大統領７６８２がその最終年の月日原油価格の下落で挫折を余儀なくされるその経緯を年頭教書演説の中で涙ながらに報告したことであるこれには銀行国有化を突然に発表するなど国民的に大きな衝撃を与えたがパスはこうした具体的現実に共感するとともにヘラクレイトスを通じてニーチェの無邪気な子供たちを想起するとともにルーベンスのヘラクレイトスと対比させる形で自らの驚きを表明するのである２６パスの詩人臭さが如実に表わされたものと言える３月２３日註本書を初め本文中のパス著作に関し以下の記号を以て省略する LDS 孤独の迷宮 Cuadernos americanos, México ０, FCE. México. ０. LBP 言葉の下の自由 FCE,. AOS 鷲か太陽か FCE, ６. AYL 弓と竪琴 FCE, ６. LOV La otra voz, Seix Barral, Barcelona ０. HDL Los hijos del limo, Seix Barral, ８７. 泥の子供たち竹村文彦訳水声社 PSPC Poesia de soledad y poesia de Comunio n, ３ México: Primeras Letras ３３. Vuelta. ８８, España: Las peras del olmo, Seix Barral. ７牛島信明訳孤独の詩と感応の詩８

そこでパスはケベドのヘラクレイトスの内に見られるメランコリーの意味を近代性と受け止め直すことで新たに概念化を試みるとともにケベドを継ぐ鍵概念となしていることも見逃せないここで思い出されるのは７０年後半から原油開発を軸に経済近代化を目ざしたメキシコのロペス大統領７６８２がその最終年の月日原油価格の下落で挫折を余儀なくされる

17 LDS DDS JIC Sor Juana Inés de la Cruz o las trampas de la fe. Seix Barral.. Pasado en claro La otra voz, Seix Barral, Barcelona. Amor La llama doble. Seix Barral, M Comienzo con una palabra que todos los hombres, desde que el homber es homber, han proferido: gracias. Es una palabra que tiene equivalentes en todas las lenguas. Y en todas es rica la gama de significados. En las lenguas romances va de lo espiritual a lo físico, de la gracia que concede Dios a los hombres para salvarlos del error y la muerte a la gracia corporal de la muchacha que baila o a la del felino que salta en la maleza. Gracia es perdón, indulto, favor, beneficio FCE p. Claude Lévi Strauss: An Introduction, Dell Publishing Co., st. printing. p.. Braulio Peralta, El poeta en su tierra, Grijalbo.. iichiko Después, oir a Carlos Monsivais me hizo pensar, me sorprendió. Sutextomesorprendió, aunque me interesa, lo que escribe, lo que dice, me sorprendió proque desar-

Y en todas es rica la gama de significados.

18 rolló una suerte de abanico intelectual, algnnas de los facetas de lo que yo he escrito, de lo que me ha interesado Pasado en claro

19 iichiko iichiko iichiko, No.. Octavio Paz. El laberinto de la soledad FCE. P. LUNA Project iichiko. No.. iichiko. No.. Zoot suit Fiebre latina,., José Agustin La contracultura en México, Grijalbo,., Arthur Waley, Kessinger Pub.C.O. Londres. Quevedo, Heraclito y algunos sonetos. Obras Completas. Fundacion y disidencia. P.. Obras Completas, P. El Surrealismo, Las peras del olmo,, p..

, José Agustin La contracultura en México, Grijalbo,., Arthur Waley, Kessinger Pub.C.O. Londres.

20 Octavio Paz, El ogro filantrópico, Joaguin Mortíz,.

2-1_ pdf

2-1_ pdf 歴史 2-_02020 History 教員室 : B02( 非常勤講師室 ) 環境都市工学科 2 年会的諸問題の解決に向けて主体的に貢献する自覚と授業の内容授業授業項目授業項目に対する時間. 近代世界の成立 - 近代ヨーロッパの成立と世界 -2 絶対王政と近代国家の形成 -3 市民革命と産業革命 -4 ナショナリズムと国民国家の成立 -5 アジアの植民地化 2- 帝国主義の成立と世界分割