無痛分娩って安全なの？

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かずまさこいまる
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1 第 20 回日本母性看護学会学術集会ランチタイムセミナー 1 助産師が知っておくべき麻酔分娩について埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科照井克生 terui@saitama-med.ac.jp

2 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア

3 さまざまな産痛緩和法薬物によらない方法精神予防性無痛分娩法 ( 呼吸訓練など ) アロマテラピ鍼経皮的電気刺激法 TENS 薬物全身投与オピオイドベンゾジアゼピン静脈麻酔薬吸入麻酔薬区域麻酔神経ブロック脊髄くも膜下麻酔硬膜外麻酔 CSE( 脊髄くも膜下硬膜外麻酔併用法 )

4 分娩出産の痛みの経路分娩第 Ⅰ 期子宮収縮頸管拡張交感神経を介す分娩第 Ⅱ 期会陰骨盤の伸展陰部神経を介す

5 硬膜外麻酔とは? 和歌山県立医科大学麻酔科作成

6 硬膜外麻酔分娩という用語について硬膜外麻酔分娩麻酔を使うことでお産自体が何か特別なものになってしまう? 硬膜外無痛分娩完全な無痛無感覚というわけではないんだけどな分娩時の硬膜外鎮痛法 Labor epidural analgesia お産への影響を最小限として痛みだけを緩和したい

7 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア

8 日本の硬膜外麻酔分娩は増えている? 2007 年調査 ( 厚生労働科学研究費補助金主任研究者 : 池田智明 ) 50 硬膜外無痛分娩実施施設回答率 42.7% 10 硬膜外無痛分娩率実施施設 (%) 無痛分娩率 (%) 病院診療所助産所全体 0 分娩機関種別病院診療所助産所全体分娩機関種別

9 2016 年調査回答率 59.5% 日本産婦人科医会調査海野班公開検討会資料

11 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア

12 硬膜外麻酔分娩による事故硬膜外麻酔自体によるもの硬膜外麻酔を用いた分娩誘発例での大量出血 80 妊産婦死亡数 359 例妊産婦死亡症例検討評価委員会

13 硬膜外麻酔分娩自体による妊産婦死亡局所麻酔薬中毒局所麻酔薬を長時間にわたり反復注入妊婦が不穏緊急帝王切開全身麻酔中に心停止全脊髄くも膜下麻酔局所麻酔薬投与後に呼吸停止胎児徐脈緊急帝王切開低酸素性脳症

14 ママパパクラス AM 10:00, PM 1:30 お産の痛みと産科麻酔埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科

15 硬膜外無痛分娩の実際背中を消毒硬膜外カテーテル ( チューブ ) を留置カテーテルから麻酔薬を注入分で効果痛くなくとも陣痛は感じますいきむタイミングが判りにくい場合は助産師さんがお手伝いします出産となります

16 硬膜外無痛分娩の利点欠点利点産痛を軽減できる欠点鉗子吸引分娩となる確率が高くなる母体のストレス過換気等による児への悪影響を軽減できる他の麻酔法と比べ児への麻酔薬の移行が少ない麻酔合併症が発生する可能性がある費用がかかる出産後の回復が早い

17 無痛分娩に関するよくある質問無痛分娩って安全なのですか? キチンとした体制下で行われる限り安全です無痛分娩にすると赤ちゃんへの愛情が薄れると聞きましたが本当ですか? ウソです私は無痛分娩をしたいのですが親や夫が反対していますどうしたら良いでしょうか? 出産するのは貴方です貴方が判断するべきです

18 硬膜外腔の解剖を知れば危険性がわかる硬膜外腔硬膜くも膜下腔

19 硬膜外麻酔の2大合併症くも膜下誤注入全脊髄くも膜下麻酔血管内誤注入少量過量投与局所麻酔薬中毒硬膜外麻酔に用いる局所麻酔薬は脊髄くも膜下麻酔に必要な量の約10倍

20 血管内に誤って注入すると局所麻酔薬中毒の症状 30 キシロカイン濃度 (μg/ml) 25 心血管系抑制 20 呼吸停止 15 昏睡 10 痙攣意識消失めまい舌のしびれ耳鳴 5 0

21 くも膜下に誤って注入すると麻酔の広がり T12 下肢手術影響低血圧 ( 軽度 ) T10 無痛分娩低血圧胎児徐脈 T4 帝王切開重度低血圧徐脈 C2( 高位脊麻 ) 横隔神経麻痺呼吸停止

22 誤注入しても重大事に至らないように少量分割注入 1 回の投与は 3ml ずつ症状下肢が重い耳鳴舌のしびれ原因くも膜下誤注入以後の注入を止める血管内誤注入結果呼吸停止を回避けいれんや心停止を回避

23 初回注入直後の観察が大切側臥位ですごす ( 仰臥位低血圧予防 ) 血圧を 5 分間隔で 30 分間測定下肢運動不能は無いか? 耳鳴や舌のしびれは無いか? 放散痛は無いか? 痛みはとれたか? 麻酔範囲評価胎児心拍数に異常はないか?

24 硬膜外持続注入中の産婦の過ごし方側臥位とし歩行はさせない血圧を15 分毎測定飲水は許可固形物は禁定期的導尿 (3 時間ごと ) 麻酔科医は時間ごとに診察して記録

25 硬膜外麻酔分娩記録の例母体安全への提言 2015

26 トラブルシューティング痛み片効きカテーテル引き戻して追加投与まだら効き体位を変えて追加投与効果なし血管内迷入カテーテル入れ換え低血圧輸液負荷エフェドリンフェニレフリン胎児心拍数異常麻酔レベル体位変換酸素投与低血圧治療チェック下肢運動不能くも膜下迷入循環補助カテーテル抜去

27 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア

30 海野班の提言安全な無痛分娩を提供するために必要な診療体制に関する提言無痛分娩に係る医療スタッフの研修体制の整備に関する提言無痛分娩の提供体制に関する情報公開の促進のための提言無痛分娩の安全性向上のためのインシデントアクシデントの収集分析共有に関する提言無痛分娩に関するワーキンググループ ( 仮称 ) の設置に関する提言

31 Ⅱ. 安全な無痛分娩を提供するために必要な診療体制に関する提言安全な無痛分娩を提供するためには無痛分娩を取り扱う病院又は診療所 ( 無痛分娩取扱施設 ) において以下が必要 1) 診療上の責任が明確である 2) 無痛分娩を担当する医療スタッフの技術的水準が担保されている 3) 必要な設備医療機器等が整備されている 4) 担当する医療スタッフが認識を共有した上でチームとして対応できる 5) 無痛分娩に関する十分な説明が妊産婦に対して行われる 1. 無痛分娩取扱施設は最新の産婦人科診療ガイドライン産科編を踏まえた上で個々の妊産婦の状況に応じた適切な対応をとること 2. 無痛分娩取扱施設は安全な無痛分娩を提供するために必要な診療体制 ( 別紙参照 ) を確保するよう努めること

32 必要な診療体制 1. インフォームドコンセントの実施に関すること 1 合併症に関する説明を含む無痛分娩に関する説明書を整備すること 2 妊産婦に対して説明書を用いて無痛分娩に関する説明が行われ妊産婦が署名した無痛分娩の同意書を保存すること 2. 無痛分娩に関する安全な人員体制に関すること 1 無痛分娩麻酔管理者を配置すること 2 麻酔担当医を明確化すること 3 無痛分娩研修修了助産師看護師を活用すること

33 3 無痛分娩研修修了助産師看護師を活用すること ( 無痛分娩研修修了助産師看護師の責務及び役割 ) 無痛分娩研修修了助産師看護師は母子共に安全でかつ産婦とその家族が納得のいく分娩ができるよう支援すること無痛分娩研修修了助産師看護師は異常が予測される場合医師と速やかに連携し母子の安全を確保すること無痛分娩の経過中の産婦の全身状態及びバイタルサインを観察すること無痛分娩研修修了助産師看護師が直接観察できない場合は自らの指導下に助産師看護師による観察を行う体制をとること無痛分娩の経過中の産婦について全身状態バイタルサイン又は鎮痛の状況に変化が生じた場合や分娩の進行状況等について麻酔担当医に適宜報告をすること ( 無痛分娩研修修了助産師看護師の要件 ) 有効期限内の NCPR の資格を有し新生児の蘇生ができること救急蘇生コースの受講歴を有していること助産師についてはアドバンス助産師相当の能力を有することが望ましい安全な麻酔実施のための最新の知識を修得しケアの向上を図るため関係学会又は関係団体が主催する講習会を 2 年に 1 回程度受講すること

35 Ⅳ. 無痛分娩の提供体制に関する情報公開の促進のための提言 1. 無痛分娩取扱施設は無痛分娩を希望する妊婦とその家族が分かりやすく必要な情報に基づいて分娩施設を選択できるように無痛分娩の診療体制に関する情報をウェブサイト等で公開すること無痛分娩の診療実績無痛分娩に関する標準的な説明文書無痛分娩の標準的な方法分娩に関連した急変時の体制危機対応シミュレーションの実施歴無痛分娩麻酔管理者の麻酔科研修歴無痛分娩実施歴講習会受講歴麻酔担当医の麻酔科研修歴無痛分娩実施歴講習会受講歴救急蘇生コースの有効期限日本産婦人科医会偶発事例報告妊産婦死亡報告事業への参画状況ウェブサイトの更新日時 2. 無痛分娩に関わる学会及び団体は妊婦とその家族が必要な情報へのアクセスを容易にするため情報公開を行っている無痛分娩取扱施設をとりまとめたリストを作成しウェブサイト上で公開するとともに妊婦とその家族無痛分娩取扱施設等に対してこのような取組の更なる周知徹底を図ること

37 無痛分娩って安全なのですか? 副作用についてたずねた際にきちんと説明しどのような対処を心がけているか説明してくれるか? 自分は上手だから大丈夫そんな合併症は経験したことがない単なる自信過剰知識不足 ( どのような合併症があるか知らない ) 経験不足 ( まれな合併症は多数経験しないと遭遇しない )

38 硬膜外麻酔分娩の主な合併症合併症頻度低血圧 17~37% 硬膜穿刺後頭痛 1~2% 背部痛 30~40% 不成功 1.5~10% 悪心 1.0~2.4% 掻痒 1.3% 硬膜下注入 0.1~0.82% 血管内誤注入 5~10% 痙攣 0.02% くも膜下誤注入 <1.6~2.9% 全脊髄くも膜下麻酔 ( 全脊麻 ) 0.02% 放散痛 0.05~0.42% 運動神経障害 % 硬膜外血腫非常に希硬膜外膿瘍 %

39 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア

40 麻酔分娩中の助産師によるケア痛みで分娩進行を評価することが難しくなります努責したい感じが弱くなるのでタイミング指導を麻酔による合併症を理解して対処して医師コールを

41 硬膜外麻酔による母体や分娩経過への影響アウトカム該当研究数硬膜外群オピオイド群オッズ比または加重平均差器械分娩難産による器械分娩分娩第Ⅰ期延長分娩第Ⅱ期延長開始後のオキシトシン 38 以上の発熱低血圧悪心分娩第Ⅰ期VAS(mm) 分娩第Ⅱ期VAS(mm) 不満足 / / /106 18/ 人 555人 581人 609人 218/ / /675 37/ /839 1/845 31/417 23/ 人 1014人 536人 526人 117/ / ( ) 0.68( ) 42分(17-68) 14分(5-23) 1.80( ) 5.35( ) 74.2( ) 1.17( ) -40(-38から-42) -29(-21から-38) 0.25( ) P値 <0.001 < <0.001 <0.001 <0.001 オッズ比が1を下回る場合は硬膜外鎮痛法が優れている加重平均差がマイナスの値の場合は硬膜外鎮痛法が優れている Halpern SH, et al. JAMA 1998;280:

42 硬膜外麻酔分娩により帝王切開は増加しないオッズ比 (95%CI) 硬膜外オピオイドオッズ比 (95% CI) 硬膜外群が優るオピオイド全身投与群が優る個々の研究による帝王切開リスクをオッズ比と 95% 信頼区間で示す全体の集計を total 欄に示す箱の大きさはその研究での患者数に比例する菱形は個々の研究を総合したオッズ比の点推定を示し対角線の長さが 95% 信頼区間に相当する N は解析対象患者数 n は観測された事例数を示す ( 文献 44 より改変 )

43 努責コーチングの重要性産婦が痛みを感じてから努責させると痛がりはじめ努責持続時間痛み持続時間

44 出血量は増える? 硬膜外麻酔による交感神経遮断血管拡張鉗子吸引分娩率の増加会陰裂傷の増加重症化出血量は増えるとの報告も減るとの報告もあり輸血頻度は増えない

45 児にどれだけ薬物が移行するか母体新生児母体新生児母体血母体血臍帯血局所麻酔薬ブピバカイン臍帯血鎮痛薬フェンタニル Bader AM, et al. Anesth Analg 1995;81:829-32

46 硬膜外麻酔分娩による新生児への影響影響研究数オッズ比 95%信頼区間または加重平均差 P値胎児心拍数異常または羊水混濁 3 108/ / ( ) 0.81 アプガースコア 1分値7点未満 5分値7点未満 /1004 9/ / / ( ) 0.38( ) NACS 生後早期生後24時間人 48人 40人 41人 -0.55(-1.8から0.70) -0.20(-1.0から0.62) 臍動脈pH低値* 6 139/ / ( ) 0.04 重度新生児仮死 5 (臍動脈pH<6.99 2/857 2/ ( ) ナロキソン必要例 3/407 14/ ( ) 2 硬膜外群オピオイド群 >0.99 <0.001 オッズ比が1を下回る場合は硬膜外鎮痛法が優れている加重平均差がマイナスの値の場合は硬膜外鎮痛法が優れている NACS: neurologic and adaptive capacity score 神経学的適応能力スコア *:3つの研究ではpH<7.15 他の3つの研究では ph<7.20と定義 Halpern SH, Leighton BL, Ohlsson A, et al. JAMA 1998;280:

47 硬膜外麻酔無しの経腟分娩区域麻酔下帝王切開全身麻酔下帝王切開ミネソタ州オルムステッド郡年に生まれた 5,320 人の小児全身麻酔での帝王切開 : 193 人区域麻酔での帝王切開 : 304 学習障害の頻度を比較区域麻酔による交感神経遮断が児のストレス減らした? 同じ集団で硬膜外無痛分娩と無痛なし群を比較したら学習障害率に差はなかった

48 内容麻酔分娩という用語について日本の硬膜外麻酔分娩率硬膜外麻酔分娩による事故の解説安全な提供体制についての提言麻酔分娩中の助産師によるケア硬膜外麻酔による母体合併症と分娩への影響を理解し麻酔を必要とする産婦にも的確で共感をもったケアを

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分娩に関する調査公益社団法人日本産婦人科医会医療安全部会分娩に関する調査概要目的 : 妊産婦死亡報告事業によって全国の妊産婦死亡が報告されてきている報告事例の中には無痛分娩を実施している事例や未受診妊婦帰省分娩してきた妊婦など含まれておりそれらの要因が妊産婦死亡に対してりスク因子になるのかなどを検討するためには現状における具体的な実施状況の把握が重要である今回過去 3 年間の無痛分娩