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第 35 章ソフトウェアの再利用 ソフトウェアの再利用 の定義 ISO と IEC それに IEEE が共同で作成した 用語集 (Vocabulary) についての規格 1(ISO /IEC/IEEE 24765:2010) では 再利用 (Reuse) は次のように定義されている [ISO10a] ( 翻訳は筆者 ) 1. 別の問題の解決の中でのある資産の使用 (IEEE Std 1517-1999 (R2004) IEEE Standard for Information Technology Software Life Cycle Processes Reuse Processes. 3.16.) 2. 新しいアプリケーションを構築するために既存の部品を使用して 少なくとも部分的に ソフトウェア システムを構築すること 別に 難しい定義ではない ソース プログラムとプログラマ個人のレベルに限れば ずいぶん前から実際に行われてきたことである それにも関わらず プログラマ個人のレベルから参加者を組織全体に広げ さらに対象をソース プログラムだけから要件定義や設計 テストデータなどに広げることは 現実はほとんどできていない ソフトウェアの品質についての規格 (JIS X 25010:2013 元の規格は ISO/IEC 25010: 2011) では ソフトウェアの保守性の中で 再利用性 について次のように定義されている [JIS13a] 再利用性(Reusability) : 一つ以上のシステムに 又は他の資産作りに 資産を使用することができる度合い つまり資産が再利用性を持っているほど ソフトウェアの品質が良い ということになる ここで 資産 と呼んでいるものは 繰り返しになるがソース プログラムだけでなく 要件定義や設計の結果 テスト シナリオやテストデータなど幅広いものを含んでいる ここで本格的な再利用とは何か この本格的な再利用がなぜ進んでいないのかを考えてみたい 再利用 のための作業 Ⅰ この原稿で既に何度も引き合いに出している 共通フレーム 2013 には ソフトウェア再利用プロセス というのがあって この上位のプロセスの下に次の 3 つのプロセスが定義されている [IPA13a] ドメイン ( 領域 ) エンジニアリングプロセス 再利用資産管理プロセス 再利用施策管理プロセス話の順序は共通フレーム 2013 とは逆になるが 下位の個別のプロセスの概要は以下の通りである 再利用施策管理プロセス とは そのプロセスの目的に 組織の再利用施策を計画 確立 管理 制御及び管理すること並びに再利用の機会を体系的に活用することを目的とする と述べられており ソフトウェアの再利用に当たってはこのプロセスが最初に実行されることになる このプロセスには 以下のアクティビティが定義されている [IPA13a] 開始 ドメインの定義 1 この規格は JIS 化されていない 331

再利用アセスメント 計画 実行及び制御 レビュー及び評価ソフトウェアの再利用を行う組織では 再利用施策管理者 という人が位置づけされることになっており このプロセスはその人が組織の中で再利用を実施するために行うべき作業を定義したものである 再利用資産管理プロセス の目的は 構想から廃止までの再利用資産の存続期間を管理すること であり 次のアクティビティが定義されている [IPA13a] プロセス開始の準備 資産の保管及び検索の定義 資産管理及び制御ソフトウェアの再利用を行う組織ではやはり 資産管理者 が位置づけされており このプロセスはその人のためのプロセスである 再利用の対象資産の管理に加えて どのような再利用用の資産があるのかの検索も このプロセスで行われる ドメイン( 領域 ) エンジニアリングプロセス の目的は ドメイン モデル ドメイン方式 ( 英語では Domain Architecture) 及びドメインのための資産を作成し 保守すること とあり ドメイン エンジニアと呼ばれる人がこの仕事を担当する 2 [IPA13a] このプロセスには 以下のアクティビティが定義されている プロセス開始の準備 ドメインの分析 ドメインの設計 資産の準備 資産の保守以上の説明から明らかなように 再利用の対象になる資産 ( 要件定義書 各種の設計書 ソース プログラム テスト シナリオ テストデータなど ) はドメイン エンジニアが作成し 資産管理者が管理することになる これだけを見れば 組織がソフトウェアの再利用を開始するに当たって まず最低 3 人の管理者を選び 共通フレーム 2013 で定義された仕事を担当させれば良いことになる しかしソフトウェアの再利用は そんなに単純なものではない 再利用 のための作業 Ⅱ 共通フレーム 2013 で ソフトウェアの再利用に関わる 3 つのプロセスの上位にある ソフトウェア再利用プロセス には 次に記述がある [IPA13a] 注記組織としてソフトウェアの再利用を実践することを望むこの共通フレームの利用者は この共通フレームの規定 ( 条項 ) とともに IEEE Std 1517-1999 のソフトウェア再利用プロセスの規定で補足することも考えられる 表現は 補足することも考えられる といかにも穏やかだが 現実は その規定にも従わな 2 ドメイン ( 領域 ) とは組織が再利用の対象にする領域を指す言葉で 難しい概念である 何がドメインになるのか どう選べば良いのかなどの具体的なものについては 共通フレーム 2013 にも後で述べる IEEE の規格にも McClure の書籍にも記述がない 332

ければならない と記述されているものと考えた方が良い この IEEE の規格は 共通フレーム 2013 で述べられている 3 つのプロセスを詳細に説明していることに加えて 当時の IEEE の規定であった IEEE/EIA Std 12207.0-1996 (IEEE /EIA Standard for Information Technology Software Life Cycle Process) 3 のいくつかのプロセスの内容を補足する形を取っている 具体的には 内容を補足しているプロセスは次の通りである 4 [IEEE99a] 取得プロセス (Acquisition Process) 供給プロセス (Supply Process) システム開発プロセス (Development Process) 運用プロセス (Operation Process) 保守プロセス (Maintenance Process) この中のシステム開発プロセスでは 次のアクティビティに補足がある 5 [IEEE99a] システム開発プロセス開始の準備プロセス (Process Implementation) システム要件定義プロセス (System Requirements Analysis) システム方式設計プロセス (System Architecture Design) ソフトウェア要件定義プロセス (Software Requirements Analysis) ソフトウェア方式設計プロセス (Software Architecture Design) ソフトウェア詳細設計プロセス (Software Detailed Design) ソフトウェア構築プロセス (Software Coding and Testing) ソフトウェア統合プロセス (Software Integration) ソフトウェア適格性確認テストプロセス (Software Qualification Testing) システム結合 (System Integration) システム適格性確認テストプロセス (System Qualification Testing) ソフトウェア導入プロセス (Software Installation) ソフトウェア受け入れ支援 (Software Acceptance Support) この中の ソフトウェア詳細設計プロセス には 次の 6 項目の追加がある 6 [IEEE99a] 5.3.6.1 開発者はそれぞれのソフトウェア コンポーネントについて もし可能であれば利用可能な詳細設計を選び 再利用する もし利用可能なものがなければ 開発者は新たに詳細設計を行う 新たに詳細設計を行う時には 開発者は選択されたドメイン モデルからの言語とコンセプトを使用する さらに開発者はそのドメイン モデルからデータ構造と命名規則を使用する ( この作業は IEEE/EIA Std 12207.0-1996 の 5.3.6.1 で定義された要求に 再利用関連の要求として追加される ) 3 この IEEE の規定は ISO/IEC 12207:1995( 日本の JIS 規格では JIS X 0160:1996) と基本的に同じである 今この規格は ISO/IEC 12207 IEEE Std 12207-2008( 日本の JIS 規格は JIS X 0160:2012 これをベースに 共通フレーム 2013 が作成されている ) になっている ISO の 1996 年版と 2008 年版では 開発プロセスの括り方などには大きな違いはない 4 ここでは 日本語のプロセス名は 共通フレーム 2013 のものを使用している 5 ここでは 日本語のアクティビティ名は 共通フレーム 2013 のものを使用している (IEEE の規定で アクティビティ として位置づけされているものが 共通フレーム 2013 では プロセス となっているものがある ) 6 翻訳は 筆者による 333

5.3.6.2 開発者はドメイン インタフェースの標準に従って 外部とのインタフェース ソフトウェア コンポーネント間とソフトウェア ユニット間のインタフェースを開発し 文書化する 開発者は可能であれば 利用可能な資産を再利用する ( この作業は IEEE /EIA Std 12207.0-1996 の 5.3.6.2 で定義された要求に 再利用関連の要求として追加される ) 5.3.6.3 開発者は可能であれば デ -タベースについての利用可能な詳細設計を選択し 再利用する ( この作業は IEEE/EIA Std 12207.0-1996 の 5.3.6.3 で定義された要求に 再利用関連の要求として追加される ) 5.3.6.4 開発者は可能であれば テストへの要求を明確にするために利用可能なテスト資産を再利用する ( この作業は IEEE/EIA Std 12207.0-1996 の 5.3.6.5 で定義された要求に 再利用関連の要求として追加される ) 5.3.6.5 開発者は 再利用のための基準 に基づいて ソフトウェアの詳細設計とテストの要求を評価する 評価の結果は文書化する ( この作業は IEEE/EIA Std 12207.0-1996 の 5.3.6.7 で定義された要求に 再利用関連の要求として追加される ) 5.3.6.6 開発者はソフトウェアの詳細設計についての再利用の情報を報告するために ドメイン エンジニアリング フィードバック メカニズムと資産管理コミュニケーション メカニズムを利用する 元のソフトウェア詳細設計プロセスには 8 つのタスクが定義されている [IPA13a] 上記の 5.3.6.6 はこれらのタスクへの追加ではないため 8 つのタスクに 5 つの追加があることになる つまりこれ以外の 3 つのタスクは 元のタスクの内容がそのまま適用されることになる さらに追加される 5 つのタスクの中 4 つについては 可能であれば を再利用する と表現されている つまり ソフトウェアの再利用は これまでのスクラッチ型の開発 7と比較して あまり大きな違いはないように見える 8 しかし実際は ソフトウェアの再利用では全く異なる考え方とアプローチが要求されている ソフトウェアの再利用の考え方ソフトウェアの再利用に関わる IEEE の規格 ( IEEE Std 1517-1999) には その付録 (Annex) に 基本的な概念 ( Basic Concept ) という部分がある ここに 次の記述がある 9 [IEEE99a] 再利用を行う開発では 再利用のための考え方をプロジェクト計画 開発 テストを含む全ての開発の活動で必要とする ( 中略 ) 開発に伴う全ての意思決定は どのような資産が再利用のために使用できるかという立場でなされなければならない ( 中略 ) 一般に 再利用に伴う開発を行うために 次の再利用のための活動がソフトウェアのライフサイクルの各作業で実施されていなければならない ソフトウェア開発計画を ソフトウェア再利用計画を含むように拡張する プロジェクトで使用するアプリケーション パッケージを探し 評価する プロジェクトで再利用を実施することによる利点とコストを評価する 7 ソフトウェアの再利用を行わない従来型の開発を ここでは スクラッチ型の開発 と呼ぶことにする 8 ここではシステム開発プロセスの中のソフトウェア詳細設計プロセスを用いて再利用の作業の説明をしたが 他のプロセスやアクティビティも基本的には変わらない 9 翻訳は 筆者による 334

ソフトウェア製品を作成する際に使用できる再利用用のライブラリや他の内外の資産を探す ( 中略 ) プロジェクトのレビューやインスペクション 監査で 再利用の観点からのチェックを行う つまりソフトウェアの再利用では 規定などの書かれている内容を単に実施するだけではなく ソフトウェア開発組織の文化を変革し ソフトウェア開発に参画する人全ての考え方を再利用実施に向けて変革する必要があることになる このために 上級の管理者の参画が不可欠である 私がソフトウェア技術者としてまだ現役だった頃 ソフトウェアの再利用に挑戦したいくつかの企業があった いずれも 情報システムを有効に活用していることで著名な企業だった しかし その全てが失敗に終わってしまった たぶん 次の述べる資産の品質とともに この 文化を変える ことに失敗したのだと想像する この 組織の文化を変えること がソフトウェアの再利用に成功するための鍵であり 最も困難な部分であると考える 再利用用の資産の品質カルマ マクルーア 10 (Carma McClure) はその著種の中で ソフトウェアの再利用に成功するためのキィの 1 つは 再利用用の資産の品質であると述べている [MCCLURE01] そのため再利用に挑戦する企業は CMMI のレベル 3 以上 11が必要とも述べている 12 キィワード再利用 再利用性 再利用施策管理プロセス 再利用施策管理者 再利用資産管理プロセス 資産管理者 ドメイン ( 領域 ) エンジニアリングプロセス ドメイン エンジニア ドメイン ドメイン モデル ドメイン方式 人名カルマ マクルーア (Carma McClure) 規格 ISO/IEC/IEEE 24765:2010 JIS X 25010:2013 ISO/IEC 25010:2011 IEEE Std 1517-1999 共通フレーム 2013 参考文献とリンク先 [IEEE99a] Software Engineering Standards Committee of IEEE Computer Society, IEEE Standard for Information Technology Software Life Cycle Process Processes Reuse 10 カルマ マクルーアは 再利用に関わる IEEE の規格を策定するチームでリーダを務めた 11 CMMI については 第 40 章で述べる 12 これは たぶん正しい しかし前述の 文化の変革 は CMMI のレベルとは関係しない 従ってソフトウェアの再利用に当たっては この両方が必要である 335

Processes IEEE Std 1517-1999, IEEE, 1999. [IPA13a] 情報処理推進機構ソフトウェア エンジニアリング センター編 共通フレーム 2013 経営者 業務部門が参画するシステム開発及び取引のためにソフトウェアライフサイクルプロセス共通フレーム 2013 オーム社 平成 25 年. [ISO10a] ISO/IEC/IEEE, System and software engineering Vocabulary-ISO/IEC/IEEE 24765:2010(E), ISO/IEC, 2010-12-15. [JIS13a] 日本工業標準調査会審議 JIS システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価 -システム及びソフトウェア品質モデル JIS X 25010:2013 (ISO/IEC 25010:2011) 日本規格協会 平成 25 年. [MCCLURE01] Carma McClure, Software Reuse A Standard-Based Guide 13, IEEE Computer Society, 2001. (2016 年 ( 平成 28 年 )7 月 26 日新規作成 ) 13 IEEE は 1998 年頃に ソフトウェア開発に関わる多くの規格を定めて公表している これらの規格には 制定以降 20 年近くが経緯している今でも まだ現役のものが多い この再利用に関わる規格も その 1 つである この多くの規格の制定に伴って IEEE は A Standard-Based Guide と銘打った規格の解説書群の発行を計画した この書籍は そういう経緯で発行されたものである 計画通りに書籍が発行されていればソフトウェア開発に関わる素晴らしいライブラリが完成したはずだった しかし一部の書籍は計画倒れに終わり 残念なことに日の目を見なかった 336