第 4 章 ETF とペアトレード (1)ETF とは? ETF は Exchange Traded Funds の略称で 日本語では上場投資信託といいます 株価指数など特定の指数に連動することを目的に運用される投資信託のうち 取引所に上場されているもののことを指します 例えば 日経平均が上がると思うので 日経平均を買いたい と思った人がいたとします 日経平均採用銘柄を全部買うのにはかなり大きな資金が必要になりますが 日経平均に連動する ETF を購入すれば 日経平均を購入したのとほぼ同じ効果を得ることができます ETF は小額から投資できるものがほとんどですので 便利な商品と言えます また ETF は取引所に上場していますので 取引時間中であれば株式と同じように 自分の好きな価格やタイミングで売買することが可能です ほとんどの銘柄で信用取引ができるのも魅力の一つといえます ETF と通常の投資信託の主な違い ETF 通常の投資信託 購入 売却の価格 取引所に上場しているので 株式と同じく自分で指定することが可能 指定不可能 信託報酬 ( 運用管理費用 ) 一般的に通常の投資信託よりも安い 一般的に ETF よりも高い 信用取引可能 不可能 88
(2)ETF の分類 ETF は 対象指数に連動するように運用されています 対象指数は国内の株価指数だけではなく 海外株価指数や商品価格など多岐にわたります 1 国内株価指数連動型 TOPIX や日経平均株価など国内の主要株価指数に連動するタイプで ETF の中では最も一般的なタイプと言えます 国内新興市場指数に連動する ETF や TOPIX を規模別に分類 (T OPIX Core30 や TOPIX Small など ) した指数に連動する ETF などもこのタイプに分類されます TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) 上場インデックスファンド TOPIX(1308) 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) 上場インデックスファンド 225(1330) 2 業種別 銀行や電機などの業種別にまで投資対象を絞り込んだタイプの ETF です 東証が算出する株価指数に連動するタイプ ( 東証電気機器株価指数連動型など ) 証券コード協議会 が定める 33 業種を 17 業種に集約したタイプなどがあります 東証電気機器株価指数連動型上場投資信託 (1613) 東証銀行業株価指数連動型上場投資信託 (1615) NEXT FUNDS TOPIX-17(1617~1633) 89
3 テーマ別 独自の投資テーマを掲げるタイプの ETF です 次世代自動車や代替エネルギーなど国内のエコ ( 環境 ) 関連銘柄を投資対象とするもの 資本関係から見てグループに属すると認識される企業を対象とするもの REIT 指数に連動するものなどがこのタイプに分類されます 上場インデックスファンド J リート隔月分配型 (1345) 上場インデックスファンド FTSE 日本グリーンチップ 35 (1347) MAXIS S&P 三菱系企業群上場投信 (1670) 4 外国株指数 外国債券指数連動型 アメリカの NY ダウやブラジルのボベスパ指数などの外国株指数や 世界の国債インデックスなどの外国債券指数に連動するタイプの ETF です (1) 国内株価指数連動型の外国版といった感じです 外国指数に連動するものの 株式同様にリアルタイムで売買することができます 一つの指数に連動するものだけだはなく 日本を除く先進国 22 カ国の株式市場をカバーする指数に連動するもの 新興国 22 カ国の株式市場をカバーする指数に連動するものなどもあります 上海株式指数 / 上証 50 連動型上場投資信託 (1309) NEXT FUNDS ブラジル株式指数ボベスパ連動型上場投信 (1325) Simple-X NY ダウ シ ョーンス インテ ックス上場投信 (1679) 5 商品 ( コモディティ ) 連動型 金価格や原油価格に連動するタイプの ETF です 金やプラチナなどの貴金属 原油や天然ガスなどのエネルギー関連だけでなく 小麦など農産物の商品価格に連動するものもあります ( ) 商品連動型 ETF の一部 ( 投資信託法第 220 条 外国投資法人の発行する投資法人に類する証券 に該当するもの ) はマルサントレードで取り扱っておりません 金価格連動型上場投資信託 (1328) 純銀上場信託 (1542) WTI 原油価格連動型上場投信 (1671) 90
(3)ETF のリスク ETF の主なリスクとして 以下のようなものが挙げられます 1 価格変動リスク ETF は 株式や債券などの値動きのある金融商品に投資するため 価格が一定ではありません 投資金額を下回ったり 分配金が減少するリスクがあります 2 価格乖離リスク ETF は その対象となる指数の値動きと ETF の基準価額の値動きが連動するように運用される商品ですが その運用にあたって有価証券の組入コストが生じることなどから 株価指数等と基準価額の値動きが一致しない場合があります また 本来は対象指数の動きに沿った値動きを目的としていますが 市場が急変して売買が集中した場合などは 対象指数との連動が困難になるリスクがあります 3 流動性リスク 保有する ETF を希望する価格やタイミングで売れないリスクのことです ETF には出来高の少ない銘柄もあり そのような銘柄は流動性リスクが高くなります 4 信用リスク 株や債券の発行体が 出資者に対する利息や配当などの支払いを約束どおり行わないリスクのことです ETF は複数の金融資産を投資対象にしているため 信用リスクは総じて低いといわれますが 仮に ETF が 上場廃止 になった場合は 上場廃止後に一定の買取期間を経て ETF は償還されることとなります 万一 運用会社が破綻した場合でも 投資家から集めた資金 ( 信託財産 ) は法律に基づき 運用会社ではなく信託銀行で分別管理されているため 資産ゼロ にはなりません 5 その他のリスク 取引所が定める上場廃止基準に該当して 上場廃止になるリスクがあります また 信託の継続が困難であると管理会社等が判断した場合 信託を終了する可能性があります Copyright(C)2013MARUSAN-SEC.All rights reserved 91
(4) ペアトレードとは? ペアトレードとは 2 銘柄間の価格差から利益を狙う手法で 市場全体の変動リスクを極力中立にしながら利益を狙うのが目的です 値動きに連動性のある 2 つの銘柄の価格差に着目し 株価が大きく開いているときに 割高な方を売る ( 信用売り ) と同時に 割安な方を同金額買います その後 2 銘柄間の価格差が縮まったときに 同時に反対売買をすれば 利益を確定することができるというわけです ペアトレードは価格差を取ることから サヤ取り ともいわれます (5) ペアトレードのポイント ペアトレードで最も重要になるのは 組み合わせる 2 つの銘柄選びです サヤ取りをするためには 値動きのよく似た ( 相関性の高い ) 組み合わせを探さなければなりません 一般的に 同業のトップクラスにある銘柄同士を組み合わせると上手くいきやすいとされていますが 代表的な株価指数同士を組み合わせる というのが分かりやすいと思います この代表的な例として 日経平均と TOPIX が挙げられます 右に並んだチャートは 日経平均 ( 上 ) と TOPI X の日足チャート (1 年 ) です 全く同じではありませんが 値動きがよく似ているのは一目で分かります 日経平均 日経平均 TOPIX は それぞれ算出方法が異なりますが 日本を代表する株価指数なので同じような動きをすることが多いです また 個別銘柄のペアトレードでは 片方の銘柄が業績修正などによって もう片方の銘柄との相関関係が崩れてしまう 片方の銘柄が特殊要因で上場廃止になってしまう などの固有のリスクがあるのですが 日経平均と T OPIX ではこれらのリスクは低いと考えられます そのため ペアトレードでは有効な組み合わせの 1 つといえます TOPIX 日経平均の代用として 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) TOPIX の代用として TOP IX 連動型上場投資信託 (1306) が利用できます この 2 銘柄は ETF の中でも出来高が多く 流動性リスクが低いと考えられます 92
(6)ETF と NT 倍率を利用したペアトレードの手順 それでは 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) と TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) を利用して ペアトレードの手順をご説明します 1 どちらを売ってどちらを買うのか? 日経平均と TOPIX の相関性が高いことは分かっていますが どちらを売ってどちらを買うのかが問題になってきます そこで NT 倍率 というものを利用します NT 倍率 NT 倍率とは 日経平均 TOPIX で算出される倍率です 日経平均と TOPIX の価格差によって上下するのですが この 2 つの指数は相関性が高いので 倍率が極端に離れることは少なく ある一定の範囲内で推移します 下のグラフは 1 年間の NT 倍率の推移です NT 倍率の推移 (2011 年 2 月 14 日 ~2012 年 2 月 13 日 ) 11.8 11.7 11.6 11.5 11.4 11.3 11.2 11.1 11.0 10.9 11/2/14 11/2/28 11/3/14 11/3/28 11/4/11 11/4/25 11/5/9 11/5/23 11/6/6 11/6/20 11/7/4 11/7/18 11/8/1 11/8/15 11/8/29 11/9/12 11/9/26 11/10/10 11/10/24 11/11/7 11/11/21 11/12/5 11/12/19 12/1/2 12/1/16 12/1/30 12/2/13 震災のあった 2011 年 3 月には大きなブレが見られますが それ以降は概ね 11.4~11.7 の数値で推移しているのが分かります なんとなくですが 倍率が 11.4 近辺と 11.7 近辺でトレードすればいいような気がするのではないでしょうか? 次に日経平均と TOPIX がどのような状態になったら倍率が上下するのか考えます 93
NT 倍率の計算式を分数で表すと以下のようになります NT 倍率 = 日経平均 TOPIX あくまで相対的にということになりますが NT 倍率が上昇するには 日経平均の上昇 TOPIX の下落 となればいいことになります ( 左下図参照 ) 逆に NT 倍率が下落するには 日経平均の下落 TOPIX の上昇 となればいいことになるわけです ( 右下図参照 ) NT 倍率 = 日経平均 TOPIX NT 倍率 = 日経平均 TOPIX ここで日経平均と TOPIX の性格についてご説明します 日経平均は 225 銘柄の修正単純平均で算出するので 日経平均採用の値嵩株 ( 価格が高い株式 ) の株価変動によって指数が変動しやすいという特徴を持ちます 一方の TOPIX は 東証 1 部全銘柄の時価総額をベースに浮動株基準で比重を掛けて算出するので 時価総額が大きな銘柄の株価変動によって指数が変動しやすいという特徴を持ちます また 値嵩株と時価総額が大きな銘柄にはそれぞれ特徴があり 値嵩株はハイテク株などの輸出関連銘柄が多く見られ 時価総額が大きな銘柄にはメガバンクや NTT といった内需関連銘柄が多く見られます NT 倍率が上昇するときには輸出関連銘柄が強い傾向がある NT 倍率が下落するときには内需関連銘柄が強い傾向がある ということがいえます さて 話を少し戻しましょう NT 倍率が 11.4~11.7 で推移するのであれば 11.4 近辺では NT 倍率の上昇 11.7 近辺では N T 倍率の下落が予想できます 上の式に当てはめて考えるのであれば 11.4 近辺で日経平均を買い TOPIX を売る 11.7 近辺で日経平均を売り TOPIX を買う の組合せでペアトレードをすれば 理論上サヤ取りが可能になるはずです 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) と TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) を利用して検証してみました 94
2ETF と NT 倍率を利用したペアトレードの検証 2011 年 4 月以降 このペアトレードを実行したらどのくらいの損益になるのでしょうか 下記のルールで売買シミュレーションしてみました ルール 建玉は 約 100 万円になるように調整する 約定価格は該当日付の終値と仮定 1NT 倍率が 11.4 近辺になったら 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) を買い建て TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) を売り建てる 2NT 倍率が 11.7 近辺まで上昇したら 1 のポジションを解消し 逆に TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) を買い建てし 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) を売り建てる 3NT 倍率が 11.4 近辺まで下落したら 2 のポジションを解消し 日経 225 連動型上場投資信託 (1321) を買い建て TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) を売り建てる 以下 1~3 を繰り返す ペアトレードの検証 (2011 年 4 月 ~) 日付 NT 倍率 日経 225 (1321) TOPIX (1306) 損益 ( 諸経費除く ) 9,730 円 862 円 2011/4/12 11.40 100 株 1,130 株 新規買い 新規売り 10,040 円 857 円 2011/8/1 11.70 100 株返済売り 1,130 株返済買い +36,650 円 +31,000 円 +5,650 円 10,040 円 857 円 2011/8/1 11.70 100 株 1,170 株 新規売り 新規買い 95
日付 NT 倍率 日経 225 (1321) TOPIX (1306) 損益 ( 諸経費除く ) 8,830 円 773 円 2011/9/29 11.41 100 株返済買い 1,170 株返済売り +22,720 円 +121,000 円 -98,280 円 8,830 円 773 円 2011/9/29 11.41 110 株 1,250 株 新規買い 新規売り 8,950 円 766 円 2011/10/24 11.71 110 株返済売り 1,250 株返済買い +21,950 円 +13,200 円 +8,750 円 8,950 円 766 円 2011/10/24 11.71 110 株 1,280 株 新規買い 新規売り 9,140 円 788 円 2012/2/13 11.51 110 株 +20,900 円 1,280 株 -28,160 円 -7,260 円 ( 含み損 ) ( 含み益 ) ( 含み損 ) 損益合計 ( 含み損込み ) +74,060 円 結果はご覧の通りですが 1 つだけとても重要なことがあります 相場を大きく動かす事象が発生した場合や NT 倍率の推移する水準が変わったときは 即座にポジションを解消する ということです 先のページにある NT 倍率の推移でも分かるように 相場を大きく動かす事象 ( このケースは震災です ) で NT 倍率は大きくブレて 水準が急激に変わることがあります また そのような事象が発生しなくても相場付きによって水準は変わってきます このような時は ~ で推移するだろう という予測からはずれるわけですから ペアトレードのメリットであるリスク軽減効果が効かなくなってしまいます リスクを回避するためにもこれらのことは守るようにしてください 96