FOMC:ジョージ総裁が反対も政策変更なし

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マクロ インサイト FRB FRB 長期金利 FRB bp 図表 1 FRB と市場の金利予測の乖離 FOMC 予測 vs 市場予測 年末 年末 2.0 市場が

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経済学でわかる金融・証券市場の話③

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金融政策決定会合における主な意見

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

経済見通し

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2014 年 2 月 2 月 5 日ロックハート アトランタ連銀総裁 経済データの内容は強弱まちまちだが 一般には 2014 年に関して前向きな見方が強まっている それには妥当な理由があると考えられる 講演で 月 6 日ドラギ ECB 総裁 今日 行動しないことを決めた理由は実のとこ

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12月CPI

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

資料1

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

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「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

2012 年 10 月 15 日号

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

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1. 各都市の不動産市場トレンド 1-1. オフィス価格指数 対前回変動率 (2016 年 4 月から 2016 年 10 月まで ) 図表 1-1は オフィス価格指数の各都市 対前回変動率 今回 (2016 年 10 月現在 ) 対前回変動率が最も高かったのは 東京 の +3.4% 次いで 大阪

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1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

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2013 年 8 月 19 日号

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平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

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(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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平成23年11月1日

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

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2011 年 1 月 17 日号

【別添3】道内住宅ローン市場動向調査結果(概要版)[1]

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米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

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貸出は積極的だが消費者向けの環境に変化

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ニュースリリース 食品産業動向調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 2 6 日 株式会社日本政策金融公庫 食品産業景況 DI 4 半期連続でマイナス値 経常利益の悪化続く ~ 31 年上半期見通しはマイナス幅縮小 持ち直しの動き ~ < 食品産業動向調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日

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ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

米労働市場は直近の回復基調に変化なし ~FRB出口政策への影響は限定的~

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Transcription:

米国経済 2013 年 1 月 31 日全 6 頁 FOMC: ジョージ総裁が反対も政策変更なし 新たに投票権を得たカンザスシティ連銀総裁が指摘するインバランス ニューヨークリサーチセンターシニアエコノミスト土屋貴裕エコノミスト笠原滝平 [ 要約 ] 政策変更はなく 事実上のゼロ金利政策と QE3( 量的緩和第 3 弾 ) は資産買い入れ規模を含めて変更はない またゼロ金利政策と資産買い入れを継続する期間の指針も変更されず 経済の現状認識は 天候等の一時的要因を理由として下方修正された 討議資料であるベージュブックからは 金融政策の変更は示唆されない また これまでの失業率低下ほどは雇用環境が改善しているとは言えず 労働市場発のインフレ圧力は限られる こうした経済の動向からは 緩和的な金融政策が継続されよう 前回の FOMC では長期国債購入に対し メンバーの意見が分かれていることがわかった 今回から投票権を得たカンザスシティ連銀のジョージ総裁は 反対票を投じた 他のメンバーを含めて FOMC で具体的にどのような議論があったか 議事録にも注目したい 資産買い入れの効果は金利低下などであり コストはジョージ総裁も指摘する経済や金融のインバランス ( 不均衡 ) から生じる資産バブル的な要素だろう 資産市場で極端な動きが生じた場合には 資産買い入れの縮小 停止が視野に入ることも想定される 株式会社大和総研丸の内オフィス 100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワーこのレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

2 / 6 政策変更なし 2013 年最初 (2013 年 1 月 29 日 -1 月 30 日 ) の FOMC( 連邦公開市場委員会 ) では 政策変更はなく現状維持 政策金利を 異例の低水準 とする事実上のゼロ金利政策と いわゆる QE3 ( 量的緩和第 3 弾 ) が継続され ゼロ金利政策および資産買い入れの継続条件も変わらない 資産買い入れのうち 月 400 億ドルの MBS( 住宅ローン担保証券 ) と 450 億ドルの長期国債の買い入れにも変更はない 対象となる期間が異なるものの 直近の経済を示す実質 GDP(2012 年 10-12 月期 ) がマイナス成長となったように 公表された声明文では 天候関連の混乱やその他の一時的要因が主因となり ここ数ヵ月間の経済活動は一時的に足踏み と下方修正された 前回 2012 年 12 月の FOMC で オペレーション ツイストの代替策として 月 450 億ドルの長期国債買い入れを行う QE3 の拡充が決まったばかりであり 政策効果を見極めるため 現状維持は当然視できよう 2013 年に入り 新たに FOMC の投票権を得た地区連銀総裁のスタンスも注目され 今回から投票権を得たカンザスシティ連銀のジョージ総裁が反対票を投じた 米国経済 労働市場の動向 前回の FOMC で FRB は異例なほど低い金利水準を維持する時間軸政策に 今後 1~2 年のインフレ率が 2.5% を上回らない限り 失業率が 6.5% になるまでは少なくとも低金利を続けるという数値目標を導入した だが 資産買い入れの終了時期は明示されておらず 労働市場の見通しが著しく改善 することが条件であり 効果とコスト を勘案することになっている 声明文における経済の現状認識は 一時的な経済活動の足踏み としたが 一過性の要因を除いた場合はどう評価されるのか それは 金融緩和の継続時期を探ることにもなる ベージュブック ( 地区連銀景況報告 ) 今回の FOMC の討議資料となるベージュブックでは 経済活動は総じて拡大したと報告された 消費部門では 年末商戦が 2011 年に比べて増加したものの 期待には届かなかったようだ 一方で 買い替え需要により堅調な自動車販売は多くの地区で増加したとされている 雇用は緩やかに拡大しており 所得も僅かながら増加傾向にある そのため消費は全体として拡大したようだ 不動産部門では 中古住宅販売や不動産価格などが幅広い地区で改善したと報告された 引き続き低い金利水準や不動産価格 所得の緩やかな増加に伴って改善したとみられる 総じて 消費者の経済活動は堅調であり 経済全体を押し上げただろう 製造業は地区によって拡大したところも縮小したところもあり ばらつきがみられたようだ 企業マインドを示す ISM 指数においても 非製造業は改善が続いているのに対して 製造業は 2012 年中ごろから横ばいである 海外経済減速による輸出減少 財政の崖 に伴う先行き不透明感などによって 製造業の活動は伸び悩んだとみられる 趨勢的に減少しているとは言え 製造業は 1,000 万人超の雇用を抱え 雇用環境の改善には製造業の回復が必須と言えよう

3 / 6 雇用に関しては ほぼ変わりがないと報告された 財政の崖 による不透明感から軍需産業などで雇用の抑制がみられたようだ 一部の地区では労働需給が僅かながら引き締まっていると報告された また 賃金に関しては ほとんどの地区で安定的 または抑制されているようだ 雇用環境は総じて緩慢な改善とみられ 改善ペースが加速していないことが示された インフレに関しては 賃金の上昇圧力が抑制されていると報告された 投入価格は原油価格の下落などによって安定しているとみられる ただし 地区によっては干ばつの影響で食品価格が上昇し インフレ圧力は抑制的でも 食品価格の上昇には留意が必要だと考えられる 雇用創出の一端を担う製造業は改善にばらつきがみられ 雇用環境の改善ペースは加速していない 特殊要因には留意が必要だがインフレは抑制されている 現在の景況は FRB による金融緩和策の継続を否定する内容ではないだろう FOMC メンバーの発言 - 資産買い入れの縮小 停止時期にばらつき それでは FOMC メンバーのスタンスはどうだろうか 今回の FOMC から投票権を持つメンバーが変更となる 輪番制で新たに投票権を得るメンバーはシカゴ連銀のエバンス総裁 セントルイス連銀のブラード総裁 カンザスシティ連銀のジョージ総裁 ボストン連銀のローゼングレン総裁の 4 名 ( 図表 1) 加えて 毎年投票権のあるニューヨーク連銀のダドリー総裁 議長 副議長を含めた理事メンバーである 今回の FOMC では 経済見通しが公表されないため 前回の FOMC から直近にかけての投票権を有するメンバーの発言をまとめてみる まず これまで数値目標導入を提案してきたエバンス総裁は 失業率が 6.5% まで低下するのは 2015 年の半ばと予想している そのため 少なくとも 2015 年半ばまでこれまでのゼロ金利政策を支持する方針とみられる また ローゼングレン総裁は失業率が 7.25% に低下するまで資産買い入れを続けるべきだと主張 2013 年中に 7.25% を下回らないと予想しているため 少なくとも 2014 年に入るまでは資産買い入れを続ける方針とみられる さらに 物価の安定と雇用の最大化の目標が前進しなければ 買い入れ規模をさらに拡大することも可能だと考えているようだ 上記のハト派に対して 今回 反対票を投じたジョージ総裁は FRB による資産買い入れは将来的に資産バブルを引き起こす可能性があり ゼロ金利政策もインフレを誘発リスクがあると発言している 2013 年に失業率は 0.5% ポイント程度低下すると見通していることから 景気自体は緩やかな改善を見込んでいるとみられるが 現在の金融緩和策にはリスクを感じているようだ 失業率の低下ペースに関わらず タカ派のスタンスを継続する可能性がある また ブラード総裁もどちらかといえば早期の引き締めを示唆する発言がみられる 2013 年末には失業率が 7.1% 程度に低下すると見込んでおり 資産買い入れの停止の可能性を示唆している ただし 現在の資産買い入れ ゼロ金利政策に関して全般的に反対というスタンスではなく 比較的強気の景気見通しを持っているため 2013 年末の資産買い入れ停止を示唆したとみられる 上述のジョージ総裁とは若干スタンスが異なるだろう

4 / 6 理事メンバーの中では バーナンキ議長が明確な立場を表明しなかった 資産買い入れに一定の効果があると考えているものの その効果を見極める必要があると示唆した 早急な資産買い入れ停止を支持する可能性は低いとみられる 2012 年はリッチモンド連銀のラッカー総裁が金融緩和に反対し続けたが 2013 年は エバンス総裁やローゼングレン総裁などが投票権を得たことでハト派の勢いが増しそうだ 資産買い入れの縮小 停止の議論は続くものの インフレ率の上昇を伴う労働市場の著しい改善がなければ その具体化は早くても 2013 年末ごろになるだろう 図表 1 各地区連銀総裁の投票権 ( 年 ) 2012 2013 2014 ニューヨーク連銀 ダドリー総裁 クリーブランド連銀 ピアナルト総裁 リッチモンド連銀 ラッカー総裁 アトランタ連銀 ロックハート総裁 サンフランシスコ連銀 ウィリアムズ総裁 シカゴ連銀 エバンス総裁 セントルイス連銀 ブラード総裁 カンザスシティ連銀 ジョージ総裁 ボストン連銀 ローゼングレン総裁 ミネアポリス連銀 コチャラコタ総裁 ダラス連銀 フィッシャー総裁 フィラデルフィア連銀 プロッサー総裁 ( 注 ) シャドーは 2013 年から投票権を得たメンバー ( 出所 )FRB より大和総研作成 労働市場でみると金融緩和の継続が示唆される 1 資産買い入れの縮小 停止時期に関して FOMC 参加者の意見にばらつきがみられる そこで 今後の金融政策の方向性を考えるにあたり 実際の労働市場の動向 特に労働市場発のインフレ要因となる賃金の動向に注目したい 失業率と賃金上昇率 ( 名目時間当たり賃金の前年比 ) の関係はフィリップス曲線として知られる ( 図表 2) 通常は失業率と賃金上昇率に逆相関の関係がある しかし 2010 年初め以降は両者のバランスが崩れ 失業率の低下局面でも賃金上昇率が低下している その理由に 失業率が実際の雇用環境を必ずしも表せないことが考えられる 失業率は 失業者の減少など雇用環境の改善に伴って低下するほか 職探しを諦めて労働市場から退出する ( 失業者ではなくなる ) 者が増加することでも低下する ( 労働参加率の低下 ) 労働参加率の低下要因として 趨勢的な高学歴化や高齢化 就業率の弱含みなどが挙げられる 労働参加率の低下による失業率の低下は雇用環境の改善とは言い難く 失業率が必ずしも実際の雇用環境を表せていないことの理由である 1 詳細は 大和総研ニューヨークリサーチセンター土屋貴裕 笠原滝平著 米国経済見通し続く財政問題の不透明感 (2013 年 1 月 18 日 ) を参照 http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/usa/20130118_006695.html

5 / 6 また 過去の経験から 失業率が 6~7% 程度の水準まで低下すると 賃金の上昇が始まる可能性がある しかし 2011 年の半ばから雇用者数の増加ペースが高まるのと同時に 就業率に上昇の兆しがみられる 就業率が上昇すれば 職探しを再開する者が増えて労働参加率が上昇する可能性がある 職探しを始める者以上に雇用者が増加しなければ 労働参加率の上昇に伴って一時的に失業率の上昇圧力がかかるとみられる すなわち 景気拡大に伴う失業率の低下は緩やかなペースに留まり 賃金の上昇はまだ先になるのではないか 労働市場発のインフレ圧力は限られ こうした観点からは 緩和的な金融政策は当面の間維持されるだろう 図表 2 フィリップス曲線の変化 ( 注 ) シャドーは景気後退期 ( 出所 )BLS,NBER,Haver Analytics より大和総研作成 資産買い入れの効果とコスト 一方 資産買い入れの 効果とコスト については 2012 年 12 月の FOMC 議事録でも多くのメンバーは懸念を示していた 資産買い入れの明確な効果の一つは 金利の低下であろう 住宅ローンの借り換え促進を通じ 家計による金利支払額の低減が図られてきた また 株価や住宅などの資産価格の上昇 あるいは消費者や企業のマインドを前向きにさせることも 金融緩和 として伝えられることの効果として加えられるだろう だが ポートフォリオ リバランス効果 2 は明示的ではない 不動産関連の融資はようやく前年比プラスに転じたばかりで 銀行など金融機関によるキャッシュ ( FRB に保有する準備預金 ) は 積み上がっている ( 図表 3) 2 日本銀行 ( 筆者注 : 中央銀行 ) が市場に潤沢な資金を供給することにより 金融機関に安全であるが利息を生まない日銀当座預金 ( 筆者注 : 低利の準備預金 ) が積み上がると 金融機関が よりリスクはあるがリターンも期待できる有利な運用先を求めてポートフォリオ ( 資産の組合せ ) の再構成を行うということを期待するものである 内閣府 平成 15 年度年次経済財政報告 http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-00103.html

6 / 6 一方 懸念材料は 今回の FOMC で反対票を投じたジョージ総裁も指摘した 経済や金融のインバランス ( 不均衡 ) から生じる資産バブル的な要素だろう 超低金利が続くと 少しでも利回りを求める傾向が強まる可能性がある 資金余剰主体の企業部門の資金調達ニーズは限られるだろう 銀行などの金融機関による与信先が潤沢ではないとすれば 事後的に不適切とされる投融資が広がり それがバブル的な様相を呈することが FRB において懸念されるコストだと考えられる 今のところ 銀行などによるキャッシュは積み上がる傾向にある つまり FRB の資産買い入れは ポートフォリオ リバランス効果を得られているわけではないが リスクに転じているわけでもない ただし 準備預金がさらに増え続けることは 金融引き締め派を増やす可能性がある 例えば 今のところポジティブに理解されている住宅価格の上昇は 農地価格の上昇などと合わせて資産バブルにつながる可能性が否定できず 注意を払う必要性があろう 図表 3 米国における銀行の保有資産 25% 20% 15% 10% 5% 0% -5% -10% -15% 米国における銀行貸出 ( 前年比 ) 商工ローン 不動産関連ローン ( 億ドル ) 米国における銀行保有の キャッシュ 20,000 全銀行 18,000 米国内銀行 QE2 16,000 外国銀行 14,000 12,000 10,000 QE1 8,000 6,000 4,000 2,000-20% 05 06 07 08 09 10 11 12 ( 出所 )FRB,Haver Analytics より大和総研作成 0 08/1 09/1 10/1 11/1 12/1 13/1 バーナンキ議長らが繰り返し指摘してきた 財政の崖 は一部解決 一部先送りとなり 米国財政を巡る不透明感はなおも継続することが想定される 労働市場の著しい改善 はまだ見通すことができない だが FRB のバランスシートが拡大を続けると 出口戦略が困難になることが一層警戒されることになろう 金融危機以前の平時は FRB の負債の大部分は銀行券 ( お札 ) であったが 現在は 3 兆ドルに達した FRB の負債の 6 割程度を準備預金が占めており これをどう減らすかが出口戦略の課題ということになる すなわち 準備預金の減少ペースが速すぎれば金利の急騰などの懸念が高まり 逆に遅すぎればいわゆる過剰流動性として 資産価格や物価を大きく押し上げる懸念が高まる 資産市場のどこかで極端な動きが生じた場合には 労働市場の著しい改善 を待たずに資産買い入れの縮小 停止が視野に入ることも想定される FOMC で具体的にどのような議論があったか 議事録にも注目したい