小学校理科における学び文化の創造(12)

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広島大学学部 附属学校共同研究機構研究紀要 第 40 号 2012.3 小学校理科における学び文化の創造 (12) 血液のはたらき の理解を促す教材の開発 中田晋介柴一実山崎敬人志田正訓 1. はじめに筆者らは長年にわたって, 小学校理科における学び文化の創造 という統一テーマのもとに, 新しい教材の開発とその有効性の検証を行っている 本年度は 血液のはたらき の理解を促す教材の開発 というサブテーマを掲げて, 教材開発を行ったので, その成果を報告する PISA(2006) 1) によれば, 運動と病気予防, 健康な食事及び肥満予防との関係に関する選択問題において,OECD 平均正答率が53% であるのに対して, 日本は38% であり,OECD 平均より15ポイント低かったことが報告されている また 運動と筋肉の状態との関係に関する選択問題において,OECD 平均正答率が 82% であるのに対して, 日本は80% であり,OECD 平均より2ポイント低かったことが報告されている 休息時と運動時における呼吸の違いに関する記述問題では, 日本の正答率は50% であり,OECD 平均より5ポイント高かったが, 無答率が8% で,OECD 平均より 3ポイント高かったことが報告されている ちなみに, この問題に対するフィンランドの正答率は71% であり, 日本と比べると21ポイントも高い これらの結果から, 日本の子どもは運動のような日常的な生命現象において科学的知識を用いて説明することに課題があることが分かる ところで, 従来から, 血液の循環や働きなどについては子どもの誤概念が多いことが指摘されている 血液が体の先まで行って消えてしまう 血液は心臓で作られる 血液は心臓から出て, 心臓に戻る, 等々 2)3) こうした誤概念は児童 生徒だけでなく, 大学生においても見られることが指摘されている N. P. ペリーズ (2005) 4) らによれば, 小学校教員を目指す大学生において,(1)70% の学生が2 系列の血液循環を理解できていないこと,(2)33% の学生が血管についてよく分からないと回答したこと,(3)55% の学生がガ ス交換について間違った考えを持っていること,(4) 20% の学生が肺の機能を理解できていないこと, が指摘されている 血液循環に関する誤概念は子どもだけでなく, 大人においても保持されているのである そこで, 本研究では子どもの誤概念, 素朴概念をより科学的概念へと転換するための試みとして, ぬり絵付き科学読み物を理科授業に導入し, その効果を検証することにした 2. 具体的な実践内容単元名 6 年人の体のつくりと働き (1) 単元目標 ヒトの体のしくみとしての呼吸( 酸素を取り入れ, 体外へ二酸化炭素を排出している ), 消化 ( 食べ物は, 口, 胃, 腸などを通る間に消化され, 養分が吸収される ) 及び循環 ( 血液は, 心臓の働きで体内をめぐり, 養分, 酸素や二酸化炭素などを運んでいる ) について理解することができる ヒトの体のしくみとしての呼吸, 消化及び循環について知り, 体の機能の巧妙さについて思考することができる ヒトや動物の体のつくりの共通点と差異点からそれぞれの特徴について思考することができる (2) 具体的目標 自然事象への関心 意欲 態度 1 人と動物が生きていくのに必要なものが何かに興味をもち, 進んでそれらのことがらについて追究することができる 2 呼吸, 消化や排出及び循環の働きについて興味をもち, 進んでそれらのことがらについて追究することができる 科学的な思考 1どの動物も, 消化管はひと続きの管になっており, Shinsuke Nakata, Kazumi Shiba, Takahito Yamasaki, Masakuni Shida: Creating children s culture in learning in elementary school science (XII) Development of teaching material to promote children s understandings of Functions of blood 273

そこを食べたものが通る間に消化させると考えることができる 2 血液は, 体じゅうをめぐりながら, 酸素や養分を運ぶ働きをしていると考えることができる 3 人や動物の体のつくりについて共通点と差異点を見つけ, 人の特徴を考えることができる 観察 実験の技能表現 1はき出した空気と吸う空気の違いを調べ, その結果を記録にまとめることができる 2ご飯粒を用いて, 唾液がデンプンを消化する働きを調べ, 結果をまとめることができる 自然事象についての知識 理解 1 動物は, 体内に酸素を取り入れ, 体外へ二酸化炭素を排出していることを理解している 2 食べ物は, 口 胃 腸などを通る間に消化され, 養分が吸収されることを理解している 3 血液は, 心臓の働きで体内をめぐり, 養分 酸素や二酸化炭素などを運んでいることを理解している 4 人の体のつくりには, 動物との共通点と差異点があることを理解している (3) 単元において習得と活用を目指す科学概念 動物は, 体内に酸素を取り入れ, 体外へ二酸化炭素を排出している 食べ物は, 口 胃 腸などを通る間に消化され, 養分が吸収される 血液は, 心臓の働きで体内をめぐり, 酸素 栄養分や二酸化炭素 老廃物などを運んでいる 人の体のつくりは動物との共通点と差異点がある (4) 指導計画 ( 全 14 時間 ) 第 1 次生物の体のつくり 2 第 2 次消化 2 第 3 次呼吸 2 第 4 次血液のはたらき 2 第 5 次体のしくみ 6 (5) 構想子どもたちは, これまで色々な生物を飼って育てる経験をもっている しかし, 自然界が, 大きく 生物 と 無生物 に分けられることについては, 概念的に分化されているとは限らない 生きている生物に共通にあてはまる性質は, 栄養をとる 呼吸をする 仲間をふやす という点である これらの点はヒトにおいても例外ではない 栄養をとる 理由は, エネルギー源を補給し続ける, 体をつくる, 体のしくみを整える ためである 体のエネルギー源となる栄養 素には, 炭水化物 と 脂肪 がある 体をつくる栄養素は タンパク質 である 体が 炭水化物 脂肪 タンパク質 の三大栄養素を利用するために不可欠な有機物質が ビタミン である 呼吸をする 理由は, 消化分解されたグルコースからエネルギーを引き出すために酸素が必要で, 化学反応の結果として水と二酸化炭素が呼息の際に吐き出される これらの活動には, 血液の循環の働きが必要である 血液は心臓の働きにより全身をめぐっている このような 生物 についての関心を高め, 体のしくみについての科学的な概念を形成させたい これまで子どもたちは, 事象に着目し視覚的に捉えることのできないものの性質について, 学習したことを振り返りながら, 追究し考察する経験の機会を得ている また, 科学的思考をより活性化し, 科学的な概念の形成のために, 実験の結果からわかったことをまとめる経験を繰り返し行ってきた そこで, 本単元の指導に当たっては, 視覚的に捉えることのできない体のしくみの巧妙さについても捉えることができるように, 体で起こっている現象について知る観察 実験を行うようにする 具体的には, 生理学的視点とし, 消化 の際には, 消化の実験を行い, 消化酵素が働き効率よく栄養素を吸収している様子について思考する場面などを設定する また, 解剖学的視点として, 魚の解剖による観察や人体模型などにより臓器の働きについて知る場面を設定する また, 子どもたち同士の相互作用の場を組織化することで 体のしくみ に対する科学的な概念を形成させたい さらに, ヒトと動物の共通点と差異点からそれぞれの特徴について思考させ, 体のしくみ はシステムとして機能しているという見方を育てたい 3. 分析の方法本研究においては, 研究授業を実施し, 授業前と授業後に質問紙法によるアンケート調査を行い, ぬり絵付き科学読み物講読の効果を検証することにした 研究授業の実施時期は平成 23 年 11 月 29 日,12 月 5 日, 実施学年及び実施対象者は広島大学附属小学校 1,2 部 6 年 (80 名 ) であり, 授業者は中田晋介教諭であった 4. 事前事後アンケートの結果 (1) 問 1- 血液循環に関する理解の変容事前事後アンケートの問 1の設問は次の通りであった 問 1. 血液が人の体の各部分を流れるようすを線と矢印で図の中に書き入れてください 図のあいているところに文章で説明してください 274

事前事後アンケートにおいて, 血液循環に関する児童の考えをまとめたものが表 1,2 である 表 1 血液循環に関する児童の考え ( 事前 ) 自由記述による児童の考え ( N = 74) N 血液が心臓から肺へ行き, 肺から心臓に戻り, 心 45 臓から体の各器官を通り, 再び心臓に戻る 血液は心臓から体の各器官へ行き, 再び心臓 15 に戻る 血液は心臓から体の各器官へ一方的に行く 4 血液は肺と心臓から各器官へ行き, 再び肺と 4 心臓に戻る 血液は肺から体の各器官へ行き, 再び肺に戻る 4 血液は心臓から肺へ行き, 肺から体の各器官 1 へ行き, 再び心臓に戻る 血液は心臓から体の各器官へ行き, 肺を経 1 て, 再び心臓に戻る 表 2 血液循環に関する児童の考え ( 事後 ) 自由記述による児童の考え ( N = 72 ) N 血液が心臓から肺へ行き, 肺から心臓に戻り, 心 41 臓から体の各器官を通り, 再び心臓に戻る 血液は心臓から体の各器官へ行き, 再び心臓 17 に戻る 血液は心臓から体の各器官へ一方的に行く 3 血液は肺と心臓から各器官へ行き, 再び肺と 7 心臓に戻る 血液は肺から体の各器官へ行き, 再び肺に戻る 2 血液は心臓から肺へ行き, 肺から体の各器官 1 へ行き, 再び心臓に戻る 血液は心臓から体の各器官へ行き, 肺を経 1 て, 再び心臓に戻る 血液循環に関する問 1の事前事後アンケートを比較すると, は事前が45 名 ( 約 60.8%), 事後が41 名 ( 約 56.9%) であった ぬり絵付き科学読み物講読後も約 4 割の児童が血液循環について, 誤概念を持っている これらの誤概念の特徴は次の通りである 1 血液は心臓から各器官に送られ, 再び心臓に戻る ( 心臓中心説 ) 事前 15 名 ( 約 20.3%), 事後 17 名 ( 約 23.6%) 2 血液は心臓から各器官に一方的に送られる ( 循環不要説 ) 事前 4 名 ( 約 5.4%), 事後 3 名 ( 約 4.2%) 3 血液は心臓と肺の両方から各器官に送られ, 再び心臓と肺に戻る ( 心臓 肺中心説 ) 事前 4 名 ( 約 5.4%), 事後 7 名 ( 約 9.7%) 4 血液は肺から各器官に送られ, 再び肺に戻る ( 肺 中心説 ) 事前 4 名 ( 約 5.4%), 事後 2 名 ( 約 2.8%) 5 血液は心臓 肺 全身 心臓と循環する ( 肺中心循環不全説 ) 事前 1 名 ( 約 1.4%), 事後 1 名 ( 約 1.4%) 6 血液は心臓 全身 肺 心臓と循環する ( 循環不全説 ) 事前 1 名 ( 約 1.4%), 事後 1 名 ( 約 1.4%) (2) 問 2- 心臓の働きに関する理解の変容問 2の設問は, 次の通りであった 問 2. 心臓の働きについて, 正しいものには, まちがっているものには をつけてください 1. 心臓は血液を作っている 2. 心臓は血液をポンプのように全身に送り出している 3. 心臓は血液をきれいにする働きがある 4. 心臓は血液の単なる通り道である 心臓の働きに関する問 2の結果を事前事後アンケートで比較したものが表 3である 表 3 心臓の働きに関する理解の変容 設問 事前 ( 79 名 ) 事後 ( 78 名 ) 1 62 名 ( 約 79.5 %) 64 名 ( 約 82.1 %) 2 78 名 ( 約 98.7 %) 76 名 ( 約 97.4 %) 3 67 名 ( 約 84.8 %) 65 名 ( 約 83.3 %) 4 52 名 ( 約 65.8 %) 49 名 ( 約 62.8 %) 問 2の設問 1については事前と事後を比較すると, 正答者が2 名増加しており, 正答率が約 79.5% から約 82.1% へとわずかに増加している しかし事後アンケートの結果が示すように, 科学読み物講読後も, 約 2 割の児童が心臓で血液が作られると考えている 設問 2は事前事後でほとんど差がなく, ほぼ全員が心臓が血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしていると理解している 設問 3は事前事後において差がなく, 科学読み物講読後も, 約 2 割の児童が全身を廻った血液が心臓で新しく変わると理解している 設問 3は事前事後において差がなく, 科学読み物講読後も, 約 4 割の児童が設問 2で心臓が血液を送り出すポンプであると回答しているにも拘わらず, 心臓を血管と同じ血液の通り道と考えている (3) 問 3- 肺及び心臓の働きに関する理解の変容問 3の設問は, 次の通りであった 275

問 3. 肺の働きについて正しいものには, まちがっているものには をつけてください 回答欄の 4 に関しては空欄に言葉を入れてください 1. 呼吸は肺によって空気中の酸素を採り入れることである 2. 吸った空気とはいた空気では含まれているそれぞれの気体の割合は同じである 3. 肺は呼吸, 心臓は血液の流れに関する器官であるが, これらの器官は血液でつながっているわけではない 4. 心臓から体の各部分に送り出された血液には ( ア ) が多く含まれ, 体の部分から心臓にもどる血液には ( イ ) が多く含まれている 表 5が示すように, 動脈に関する記述欄 ( ア ) において, 正解である 酸素 + 栄養分 と回答した児童は, 事前事後において3~5 名であり, 約 9 割の児童が酸素のみを挙げていた 中には動脈において二酸化炭素の占める割合が多いと誤答する児童が事前事後において,5~8 名いた 同様に, 静脈に関する記述欄 ( イ ) において, 正解である 二酸化炭素 + 老廃分 と回答した児童は, 事前事後において2~5 名であり, 約 9 割の児童が二酸化炭素のみを挙げていた 中には静脈において酸素の占める割合が多いと誤答する児童が事前事後において,5~8 名いた 肺の働きに関する設問 1~3の結果を事前事後アンケートで比較したものが表 4である 表 4 肺の働きに関する理解の変容 設問 事前 ( 79 名 ) 事後 ( 78 名 ) 1 3 名 ( 約 3.8 %) 4 名 ( 約 5.1 %) 2 76 名 ( 約 96.2 %) 74 名 ( 約 94.9 %) 3 69 名 ( 約 87.3 %) 67 名 ( 約 85.9 %) 問 3の設問 1において, 呼吸とは肺の働きによって酸素を取り入れ, 二酸化炭素を排出することである ので, を正解とした 事前事後アンケートにおいて, 3,4 名の児童しか正答していなかった 設問 2において, 吸気と排気に含まれる気体の成分については, 9 割以上の児童が正答しており, 設問 1の問題文を読み間違えた可能性が高い 設問 3は事前事後で差がなく, 科学読み物講読後も, 約 2 割の児童が肺と心臓が血管で繋がっており, 血液が流れていると考えていない 次に, 心臓の働きに関する設問 4の記述例をまとめたものが表 5である 表 5 心臓の働きに関する理解の変容 記述欄 事前 ( 79 名 ) 事後 ( 78 名 ) ( ア ) 酸素 + 5名 ( 約 6.3 %) 3 名 ( 約 3.8 %) 栄養分酸素のみ 69 名 ( 約 87.4 %) 67 名 ( 約 85.9 %) 二酸化炭素 5 名 ( 約 6.3 %) 8 名 ( 約 10.3 %) ( イ ) 二酸化 5 名 ( 約 6.3 %) 2 名 ( 約 2.6 %) 炭素 + 老廃物二酸化炭素のみ 68 名 ( 約 86.1 %) 67 名 ( 約 85.8 %) 酸素 5 名 ( 約 6.3 %) 8 名 ( 約 10.3 %) 不要物のみ 1 名 ( 約 1.3 %) 1 名 ( 約 1.3 %) (4) 問 4- 科学的知識の日常生活 ( 運動 ) への適用問 4の設問は次の通りであった 問 4. 運動をした時の様子について答えてください 1. 激しい運動をすると, 呼吸があらくなるのはなぜだと思いますか あなたの考えを書いてください 2. 激しい運動をすると, 心臓の動きが速くなるのはなぜだと思いますか あなたの考えを書いてください 表 6 運動時の呼吸の働きに関する理解の変容 記述欄 事前 ( 79 名 ) 事後 ( 78 名 ) ア 6 名 ( 約 7.6 %) 2 名 ( 約 2.6 %) イ 51 名 ( 約 64.6 %) 53 名 ( 約 68.0 %) ウ 2 名 ( 約 2.5 %) 3 名 ( 約 3.8 %) エ 2 名 ( 約 2.5 %) 6 名 ( 約 7.7 %) オ 18 名 ( 約 22.8 %) 14 名 ( 約 17.9 %) 記述欄 ( ア ) において, 正解である (A) より多くの酸素を供給し,(B) より多くの二酸化炭素を排出する と回答した児童は事前事後において,2 ~ 6 名であり, わずかである 記述欄 ( イ ) において, 約 7 割の児童が (A) か (B) のいずれかを回答している 事前事後において, エネルギーが必要である とか 心臓を動かすため と誤答している児童が約 3 割近くいる 次に事前事後アンケートにおいて, 運動時の心臓の働きに関する児童の考えをまとめたものが表 7,8 である 運動時の心臓の働きに関する事前事後アンケートにおいて, 約 4 割近い児童が 血液が酸素を供給する だけと回答しており, 栄養分を供給するとは考えていない 表 7によれば, 酸素と栄養分を供給すると回答している児童はわずか1 名である しかしこの児童も 276

表 7 運動時の心臓の働きに関する児童の考え ( 事前 ) 自由記述による児童の考え ( N = 79) N 血液が酸素を供給する 38 血液を体に送る, 循環させる 23 肺に血液を送る 4 呼吸回数を増やす 4 エネルギーを供給する 3 酸素と栄養を供給する 1 酸素を供給し, 二酸化炭素を排出する 1 その他 3 表 8 運動時の心臓の働きに関する児童の考え ( 事後 ) 自由記述による児童の考え ( N = 78 ) N 血液が酸素を供給する 36 血液を体に送る, 循環させる 25 エネルギーを供給する 4 呼吸とのバランスを取る 4 運動に心臓の動きを合わせる 3 酸素を供給し, 二酸化炭素を排出する 1 その他 5 心臓の働きによって二酸化炭素と老廃物が戻されるとは回答していない 問 3の設問 4の事前事後アンケートにおいて, 心臓から体の各部分に送り出された血液には酸素と栄養分が多く含まれ, 体の部分から心臓に戻る血液には二酸化炭素と老廃物が多く含まれている と回答している児童が3~5 名おり, 加えて, 約 9 割近い児童が 心臓から体の各部分に送り出された血液には酸素が多く含まれ, 体の部分から心臓に戻る血液には二酸化炭素が多く含まれている と回答しているにも拘わらず, 児童の知識が運動時の心臓の働きに活かされていないのである 児童によっては, 運動時における心臓の働きを呼吸と強く関連づけて考えたり, 漠然とエネルギー供給と捉えたりしてている児童が3,4 名いることが事前事後アンケートより分かる まで運んでいる 5. 飲んだ水はすべて, 尿として体から排出される 6. 水 ( 水分 ) は大腸で体に取り込まれる 7. 体から出た不要なものは腎臓で取り除かれ, 尿として体外に排出される 8. 食べることで得た養分は肝臓にたくわえることができる 表 9 食事と体の働きに関する理解の変容 設問 事前 ( 79 名 ) 事後 ( 78 名 ) 1 47 名 ( 約 59.5 %) 41 名 ( 約 52.6 %) 2 77 名 ( 約 97.5 %) 77 名 ( 約 98.7 %) 3 73 名 ( 約 92.4 %) 76 名 ( 約 97.4 %) 4 66 名 ( 約 83.5 %) 71 名 ( 約 91.0 %) 5 71 名 ( 約 89.9 %) 73 名 ( 約 93.6 %) 6 70 名 ( 約 88.6 %) 69 名 ( 約 88.5 %) 7 64 名 ( 約 81.0 %) 67 名 ( 約 85.9 %) 8 56 名 ( 約 70.9 %) 55 名 ( 約 70.5 %) 事前事後アンケートを比較すると, 設問 2,3,4, 5,7 において, わずかながら正答率の上昇が見られることから, ぬり絵付き科学読み物の効果が現れていると見なしたい しかしながら, これらの設問はほぼ 8,9 割の児童が正答しており, 食べ物の吸収及び一部消化に関する理解度は高いことが分かる 設問 1については, 科学読み物において, 食べ物を噛み砕くことも消化である と解説されていたにも拘わらず, 事後アンケートにおいても正答率はほとんど変化しておらず, 約 5 割の児童が理解しているにとどまっている 設問 8についても, 科学読み物において, 肝臓の働きとして養分を貯えることは示されていたにも拘わらず, 約 3 割の児童が誤答しており, 事前事後アンケートにおいても, その割合はほとんど変化していない (5) 問 5- 科学的知識の日常生活 ( 食事 ) への適用問 5の設問は次の通りであった 問 5. 飲食をした時のようすについて, 正しいものには, 間違っているものには をつけてください 1. 食べ物をよくかんで食べなければいけないのは, のどにつかえないようにするためである 2. 食べた肉はそのままのすがたで体の筋肉になる 3. だ液や胃液は食べ物を小さく分解する働きがある 4. 血液は食べ物から得た栄養を体のすみずみ (6) 問 6- 科学読み物に対する児童の興味授業実施後, 科学読み物に対する興味度を,(1) 大変おもしろい,(2) ややおもしろい,(3) あまりおもしろくない,(4) 全くおもしろくない, の4 件法で問うたところ,78 名の児童のうち,(1) と回答した児童が21 名 ( 約 26.9%),(2) と回答した児童が 40 名 ( 約 51.3%),(3) と回答した児童が12 名 ( 約 15.4%),(4) と回答した児童が5 名 ( 約 6.4%) であった (1) 及び (2) と回答した児童が全体の約 78.2% を占めており, 数字の高さから児童が強く科学読み物に対して興味を示したものとみなしたい 277

(7) 問 7- 科学読み物に取り入れたぬり絵に対する児童の情意面での評価今回, 授業で自作教材として用いた科学読み物には 2 種類のぬり絵が綴じ込まれていた 一つは, 血液循環に関するぬり絵 であり, もう一つは, 消化 吸収器官に関するぬり絵 であった 授業実施後, 科学読み物に対する興味度を,(1) 大変楽しい,(2) やや楽しい,(3) あまり楽しくない,(4) 全く楽しくない, の4 件法で問うたところ,78 名の児童のうち, (1) と回答した児童が25 名 ( 約 32.1%),(2) と回答した児童が32 名 ( 約 41.0%),(3) と回答した児童が14 名 ( 約 17.9%),(4) と回答した児童が7 名 ( 約 9.0%) であった (1) 及び (2) と回答した児童が全体の約 73.1% を占めており, 科学読み物を講読しつつ, ぬり絵を行うという活動を高く評価していたことが分かる (8) 問 8- 科学読み物の講読による人体学習への児童の意欲授業実施後, もっと人の体について調べたいですか という問 8に対して,(1) 大変調べたい,(2) やや調べたい,(3) あまり調べたくない,(4) 全く調べたくない, の4 件法で問うたところ,78 名の児童のうち,(1) と回答した児童が25 名 ( 約 32.1%),(2) と回答した児童が33 名 ( 約 42.3%),(3) と回答した児童が17 名 ( 約 21.8%),(4) と回答した児童が3 名 ( 約 3.8%) であった (1) 及び (2) と回答した児童が全体の約 74.4% を占めていた 科学読み物講読後, 調べ学習を実施したところ, 児童はさまざまな視点から人体について調べ, その内容をパワーポイントにまとめた 紙幅の都合上, 彼らの内容を紹介することができないが, 科学読み物の講読及びぬり絵活動が人体学習に対する意欲を高めた可能性を示している み物はやや易しかったのかも知れない 5. 考察以上の結果より, 次の諸点が明確になった 1 問 1 の結果より, 科学読み物講読後も, 血液循環に関する科学的な理解は約 6 割の児童にとどまり, 約 4 割の児童において誤概念が引き続き認められた 2 血液循環に関する誤概念のパターンはM.W. アノーディン (1986) らの調査結果と類似していた 3ガス交換を担う肺の働きと血液循環を担う心臓の働きを混同している児童が問 1や問 3の設問 3などにおいて認められた 4 問 3の設問 2において, 口からの吸気と排気に含まれる気体について正答しているにも拘わらず, 運動時による呼吸の変化について説明できている児童は1 割にも満たない 日常生活への科学的知識の適用に関して言えば, 食べ物の消化 吸収に関する児童の理解度は高い 5 同様に, 運動時の心臓の働きについても, 約 4 割の児童が酸素を供給すると回答しているが, 栄養分を供給したり, 二酸化炭素や老廃物を運び出したりすると回答している児童は少ない 6 問 6~9の結果より, 科学読み物の講読やぬり絵活動が子どもの興味関心や意欲などを高める上で有効であることが分かった 6. おわりに人体学習にぬり絵付き科学読み物を導入することによって, 児童の興味関心や意欲については効果が上がることが確認できた しかし知識面に関しては, 授業の実施時期や授業内容などを工夫することによって, 科学読み物の効果を再検討することが今後の課題として残された なお, 科学読み物の製作に当たっては, 広島大学大学院教育学研究科博士課程前期 1 年の古石卓也氏と濱田ゆり子氏のご協力を得ました 記して, 深謝申し上げます (9) 問 9- 科学読み物の難易度に関する児童の自己評価授業実施後, この読み物は難しかったですか という問 9に対して,(1) 大変難しい,(2) 少し難しい,(3) ちょうどよい,(4) 少し簡単,(5) 簡単すぎる, の5 件法で問うたところ,78 名の児童のうち, (1) と回答した児童が5 名 ( 約 6.4%),(2) と回答した児童が12 名 ( 約 15.4%),(3) と回答した児童が 38 名 ( 約 48.7%),(4) と回答した児童が12 名 ( 約 15.4%),(5) と回答した児童が11 名 ( 約 14.1%) であった (1) と (2) を合わせて難しいと回答した児童が全体の約 21.8%, 約 2 割,(4) と (5) を合わせて易しいと回答した児童が全体の約 29.5%, 約 3 割, であり,(3) で適切と回答した児童が約 5 割であるから, 第 6 学年の児童にとっては, 今回用いた科学読 引用 参考文献 1) 国立教育政策研究所 生きるための知識と技能 3 OECD 生徒の学習到達度調査 (PISA) 2006 年調査国際結果報告書,pp.123-127,2007. 2) 松森靖夫 子どもを変える小学校理科 第 3 巻 人体の授業,pp.103-104,1996. 3)Arnaudin, M. W. & Mintzes, J. J., The cardiovascular system: Children s conceptions and misconceptons, Science and Children, 23(5), pp.48-51, 1986. 4)Pelaez, N. J., Boyd, D. D., Rojas, J. B., and Hoover, M. A., Prevalence of blood circulation misconceptons among prospective elementary teachers, Advance in Physioligy Educaton, 29, pp.172-181, 2005. 278