講演のキーワード 2017年新人口推計 人口減少 長寿化の継続 社会保障制度改革の展望 公的年金制度の課題と2019年年金財政検証 公的年金 私的年金の役割 ファイナンシャル ジェロントロジー 金融老年学 金 融リテラシーと加齢行動経済学 2

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2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

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目次はじめに 1. 賃金上昇動向とその要因 賃金上昇の影響 最後に はじめに CLMV RIM 213 Vol.13 No.48 51

(1987) (1990) (1991) (1996) (1998) (1999) (2000) (2001) (2002) 3 ( ) ( ) hkyo

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特別講演 日本の社会保障制度の展望と公的 私的年金の役割 駒村康平慶應義塾大学教授 ( 慶應義塾大学ファイナンシャル ジェロントロジー研究センターセンター長 )

講演のキーワード 2017年新人口推計 人口減少 長寿化の継続 社会保障制度改革の展望 公的年金制度の課題と2019年年金財政検証 公的年金 私的年金の役割 ファイナンシャル ジェロントロジー 金融老年学 金 融リテラシーと加齢行動経済学 2

頻繁な社会保障制度改革 制度改正 1 2025年に向けて集中改革の時期 公費を低所得者と医療 介護に集中 2 年金は5年間隔 医療は2年間隔 介護は3年間隔で細かい制度および報酬改定による改革を続 けていく 医療介護は6年に一度の同時改定 年金 2019年 2024年 保険料固定の下での代替率確保と私的年金拡充 低所得高齢者対策 医療 2018年 2020年 2022年 2024年 介護 障害者 2018年 2021年 2024年 報酬で 事業者 医療施設の行動を誘導 介護労働者不足対策 生活習慣病 介護予防 認知症対策 社会保障 税一体改革 社会保障改革プログラム法と追加改革 政治状況 経済 財政状況 人 口動態等 3 上に政策あれば 下に対策あり 政策が対する民間の反応を視野に入れた政策か 政府は家計全体を横断的に視野に入れていない 個別のインパクトが見えない 将来展望の欠如と生涯にわたる資産形成行動 高齢者目線 制度改革や制度利用の変更に どのように感じるか 理解できるか 反応するのか という が不足 老年 心理 学やファイナンシャルジェロントロジーが貢献 経済主体 家計 高齢者のリアクション 貯蓄 消費 資産形成 相続 3

新人口推計 継続する寿命の伸長 特定年齢までの生存率 実績と推計 寿命中位年齢の動向と推計 100 95 90 90 80 70 85 60 50 80 40 75 30 20 70 65 男 65歳 M 17) 75歳 M17) 65歳 F17) 75歳 F17) 女 国立社会保障 人口問題研究所 将来日本の人口推計 各年 より作成 4

2040年頃 170万人が死亡して 70万人が生まれてくる社会 出生数の動向と推計 単位 千人 将来死亡者数推計 単位 千人 出生数の現実と予測 1000人 死亡者数推計 1000人 2500 1800 1700 2000 1600 1500 1500 1400 1300 1000 1200 1100 国立社会保障 人口問題研究所2017年将来日本の人口推計より作成 5 2064年 2062年 2060年 2058年 2056年 2054年 2052年 2050年 2048年 2046年 2044年 2042年 2040年 2038年 2036年 2034年 2032年 2030年 2028年 2026年 2024年 2022年 1000 2020年 1980年 1992年 2002年推計 2012年推計 2018年 0 1975年 1987年 1997年 2006年推計 現実 2017年推計 2016年 500

今後の高齢者数の見通し 75 歳以上と女性の比率の上昇 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 65 歳 75 歳以上人口 ( 人数 ( 単位 1000 人 ) 75 歳以上比率 (%) 女性比率 (%)) の推計 70.0% 65.0% 60.0% 55.0% 50.0% 0 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 65-74 歳人口 75 歳以上人口 75 歳以上人口の女性比率 75 歳以上比率 65 歳以上人口女性比率 45.0% 国立社会保障 人口問題研究所 将来日本の人口推計 (2017 年 ) より作成 6

年金制度の課題と2019年年金財政検証 1 2014年財政検証に基づく改革を2016年に実行 デフレ期のマクロ経済スライド停止分をキャリーオーバーで対応する 非正規労働者への厚生年金の適用拡大 2 2014年財政検証で確認された課題 マクロ経済スライドが基礎年金については30年程度適用される 基礎年金の給付水準の大幅低下 低年金高齢者の増加 厚生労働省年金数理部会 平成27年公的年金財政状況報告 では持続可能性を確認 3 2014年年金財政検証における議論 利潤率推計 実質利子率推計 積立金の収益目標 GPIFの基本ポートフォーリオ 4 公私年金連携政策と私的年金 企業年金 個人年金 の普及 厚生年金基金の減少 私的年金制度充実 加入促進 基礎年金へのマクロ経済スライドの効果を相殺するためには 低所得者支援が必要 7

公的年金の現行水準からの変化率と選択肢 30% 低下 出典 : 厚生労働省 (2015) より作成 8

支給開始年齢 加入期間の効果 私的年金のシミュレーション 出典 : 厚生労働省 (2015) より作成 9

給付水準以前の問題として 自分の加入している公的年金をどの程度理解しているか? 金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より引用 10

長寿と資産形成 運用 1 寿命の伸長の影響 寿命の伸長 貯蓄行動 資産選択 引退時期 2 収入 資産リスク 資産低下 変動要因 物価 資産価格の変動 社会保障制 度の見直し 公的年金 医療 介護費用 資産運用の長期化 運用能力への負荷 3 認知機能の低下リスク 認知機能が低い期間が長期化する 11

加齢とともに増加する金融資産額とリスク性資産の割合 加齢と金融資産合計額 万円 左 リスク性資産 株式 債券 信託等 割合 右 2500 20.0% 18.0% 2000 16.0% 14.0% 1500 12.0% 10.0% 1000 8.0% 6.0% 500 4.0% 2.0% 0 0.0% ~34 35-44 45-54 リスク性資産の割合 55-64 65-74 75+ 合計金融資産 出典 駒村研究室推計 12

金融資産 の高齢化 年齢別金融資産の保有割合の推計 金融資産における高齢者の割合の上昇 100% 90% 22% 25% 29% 30% 30% 25% 21% 20% 22% 21% 23% 26% 26% 16% 16% 14% 13% 80% 70% 26% 60% 50% 40% 24% 30% 20% 15% 10% 10% 0% 4% 8% 4% 7% 3% 7% 3% 6% 3% 2014年 2020年 2025年 2030年 2035年 ~34 35-44 45-54 55-64 65-74 75+ 資料 国立社会保障 人口問題研究所日本の世帯数の将来推計(全国推計) (2013年1月推計)より駒村推計 13

生涯にわたる資産形成に関する課題 1) 時間分散 高齢者ほどリスク性資産のウェイトを下げる? 2) 資産効果 加齢とともに金融資産 ( 相続 退職金 ) が増加し リスク性資産のウェイトを上げる 3) 加齢と金融リテラシーの変化 ( 逆 U 字形 ) の問題 4) 加齢に伴う認知能力の低下の問題 加齢行動経済学 5) 公的年金 ( 終身 物価スライド ) や社会保障制度の不確実性上昇 6) 金融資産以外のリスクのライフサイクル的変化 労働所得の不確実性 ( 賃金構造 雇用形態の変化 失業リスク ) 住宅ローン 教育費 支出の不確実性 若い世代に ターゲットイヤーファンド が受け入れられるか?( 生涯にわたる個人資産の形成問題 ( 金融リテラシー 行動経済学 公私年金連携政策 の課題 ) 14

年齢と共に逆U字になる金融リテラシー 60歳代でピーク 男性の方が高い 若い男性では自信過剰 性別 年齢別の金融リテラシー 70 客観評価ー自己評価 10 60 5 50 40 0 18-29歳 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 30-5 20 10-10 0 18-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 男性 女性 -15 男性 女性 金融広報中央委員会 2016 金融リテラシー調査 より作成 15

経済状況別の金融リテラシー 所得階層別 金融資産別の正答率 所得階層別金融リテラシー 金融資産別の金融リテラシー 80 80 70 70 60 50 60 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 金融広報中央委員会 2016 金融リテラシー調査 より作成 16

学歴 職業別金融リテラシー 高学歴 公務員で高い正答率 学歴別金融リテラシー 70 職業別金融リテラシー 70 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 金融広報中央委員会 2016 金融リテラシー調査 より作成 17

年齢とともに低下する認知機能 出典 : 高山緑 ( 知的機能の変化と適応ジェロントロジーコア科目 1 加齢にともなう心身機能 生活の変化と適応 ) 18

認知能力と運用パフォーマンス 認知能力と株式投資している人の割合 Kim, E., S. Hanna, S. Chatterjee, and S. Lindamood 2012, Who among the Elderly Owns Stocks? The Role of Cognitive Ability and Bequest Motive, Journal of Family Economic Issues, Vol.33, pp. 338-352 19

加齢行動経済学 仮説 加齢に伴う認知機能低下が資産選択に与える影響を考える 1 加齢による認知機能の低下により 高齢者は認知機能をより節 約する判断をするため フレーミング効果 表現の仕方によって 決定が左右される をより起こしやすくなる 2 加齢ともに 多くの選択肢への対応が難しくなり わかりやす い情報とシンプルな選択肢を好むようになる 高齢者は若年者よりより選択肢が少ない方 半分程度 を好む 3 高齢者は意思決定を延期する傾向が強く また選択しなかった ことへの後悔を感じない 保有効果 いったん保有したものを手放したくない はより 強くなる 20

4) 高齢者は 肯定的な感情的の出来事や情報を記憶し ネガティブな情報を忘れる傾向がある ネガティブフレームよりもポジティブフレームの影響を強く受ける 家族内 ( 親子間 ) での意思決定 情報共有の課題 ( 介護 相相続問題 ) 5) 時間軸については 将来を展望するという視点ではなく 過去を振り返るという視点に立つ 意思決定のタイミングの遅れ ( 資産 事業継承 資産管理 空き家問題 ) 6) 加齢と男女間の違い 加齢行動経済学 ( 仮説 2) 21

100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 年齢 性別の行動バイアス (%) 18-29 歳 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳代 70 歳代 損失回避 損失回避 近視眼的 近視眼的 横並び 横並び 行動経済学からの接近 損失回避傾向 横並び行動 は女性の方がすべての年齢で高い 近視眼的行動 は 男性の方がほぼすべての年齢で高い 男女とも高齢期において 損失回避傾向 横並び行動 は若干低下するが 近視眼的行動 は上昇する ( 参考資料 3 参照 ) 金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より作成 22

高齢期における資産管理 社会保障へのインプリケーション 1) 高齢化社会における認知機能の 減少 は 取引コストの上昇 市場機能の低下 現代の社会経済活動は 一定の情報処理能力の存在を前提に設計 2) 高齢社会における金融サービスのあり方 高齢者の心身の変化への対応 ( 心理的な揺らぎ ( 不安定性 ( 遺言なども )) 理解 記憶力の低下 ( 金融商品や手続き ) 判断の先送り 取引能力の低下などへの対応 心理的な特徴 ( 家族との理解の齟齬 ) 金融と医療 介護 福祉との連携 成年後見 ( 利用状況の課題 財産管理と身上監護 ) 地域包括ケアと市民後見 相続を巡る課題 ( 親子間 家族間の利害対立 認知機能や心理の変化も含めて ) 23

長寿の動向と社会経済システムの変化 1) 人生 80 年 から 人生 90 年 そして 人生 100 年 へ 2) 長寿の進展の影響は 高齢者の 数的な増加 による影響のみならず 社会経済システムに与える 質的な影響 にも注目する必要がある 3) 長寿に適合した社会経済システムの確立 1) 産業革命 福祉国家の時代に確立した各種の社会経済システム (20 世紀モデル 就学 就労 引退 の年齢区分 ) の見直し 2) 年齢による知性 認知機能 心理の変化を組み入れた社会経済システムの確立 : 認知科学 老年学 社会神経科学 に基づく政策立案 ライフサイクル的な見方への修正 自律した個人像 ( 意思決定 判断能力 ) の修正の必要性 加齢行動経済学の成果を活かした 新しい社会経済ルール整備 公的役割 サービスの必要性 ( 社会保障制度も含む ) 24

参考資料1 金融リテラシー2016年の分野別の正答率 金融リテラシー マップの分野 家計管理 生活設計 金融知識 金融取引の基本 金融知識 金融 経済の基礎 金融知識 保険 金融知識 ローン クレジット 金融知識 資産形成 外部の知見活用 合計 正答率 51.0 50.4 72.9 48.8 52.5 53.3 54.3 65.3 55.6 金融広報中央委員会 2016 金融リテラシー調査 より作成 25

参考資料 2 金融リテラシー国際比較 正誤問題正答率国際比較 100 80 60 40 20 0 日本 OECD 平均ドイツ英国ノルウェー米国金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より作成 26

参考資料 3 行動経済学的接近 金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より引用 27

金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より引用 28

参考資料 4: 金融リテラシー問題例 金融広報中央委員会 (2016) 金融リテラシー調査 より引用 29

資料 参考文献 厚生労働省 2015 平成26年財政検証結果 レポート 国民年金及び厚生年金に係る財政 の現況及び見通し 厚生労働省年金数理部会 2017 平成27年 公的年金財政状況報告 金融広報中央委員会 2016 金融リテラシー 調査 30