2016 熊本地震における地方公共団体管理橋梁の被害調査報告 梶田幸秀 1 葛西昭 2 岩坪要 3 平野翔也 4 1 正会員九州大学大学院准教授工学研究院社会基盤部門 ( 819-0395 福岡市西区元岡 744) E-mail: ykajita@doc.kyushu-u.ac.jp 2 正会員熊本大学大学院准教授先端科学研究部物質材料科学部門 ( 860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39- 1) E-mail:kasai@kumamoto-u.ac.jp 3 正会員熊本高等専門学校准教授生産システム工学専攻 ( 866-8501 八代市平山新町 2627) E-mail: iwatsubo@kumamoto-nct.ac.jp 4 学生会員九州大学大学院工学府建設システム工学専攻 ( 819-0395 福岡市西区元岡 744) E-mail: hirano@doc.kyushu-u.ac.jp 大地震が起きると, 概ね 2,3 週間程度で被害調査報告 ( 速報 ) が行われるが, そのときの内容は, 国道や高速道路, 新幹線など管理団体の規模の大きい橋梁に対する被害報告が行われることが多い. しかし, 地方公共団体管理の橋梁も当然ながら被害を受けており, それらの橋梁被害から今後の設計に関する情報や耐震補強に対する方策など, 学ぶことも多い. そこで, 本論文では, 地方公共団体管理の橋梁に着目し, 被害橋梁の場所の分布図について述べ, 特に, 通行止め箇所の被害の状況について報告する. Key Words: 2016 Kumamoto Earthquake, local government, road closed, damaged bridges 1. はじめに 2016 年熊本地震では, 多数の構造物に被害が生じた. 今後, 地震による構造物の被害をより小さくするには, 発生した損傷事例をしっかりと調査 分析を行うことが必要である. 九州 大分自動車道や九州新幹線, 国道や一級河川などの被害は, 土木学会をはじめとする諸学会の先遣隊調査の対象となる 1). 一方, 地方公共団体管理の構造物などについては, 管理者は被害の状況を把握しているが, 先遣隊の被災調査の対象となることが少ない. しかし, 地方公共団体管理の構造物の被害から学ぶことも多い. そこで, 著者らは地震発生から 2 ヶ月を経た 6 月下旬から 7 月上旬にかけて, 地方公共団体管理の橋梁被害に関する被害調査を行った. その結果, 多くの橋は, 応急補修 復旧が行われ, 車両の通行が再開されていたが, まだ, 通行止めが解除されていない橋梁あり, それらの橋梁を中心として被害状況の調査報告を行うことを本稿の目的とした. 表 -1 被害状況調査橋梁数 場所 被害調査橋梁数 通行止め箇所 益城町 23 3 八代市 1 1 嘉島町 5 0 甲佐町 4 2 宇城市 3 0 御船町 1 0 西原村 2 0 南阿蘇村 3 2 阿蘇市 3 0 2. 被災橋梁の数と位置表 -1 に今回著者らが調査を行い, 被災していると判断 した橋梁の数を, 図 -1 にその橋梁の設置場所を示す. な お, 表の場所は, 橋梁の設置箇所であり, 管理者ではな い. また, 国土交通省, 西日本高速道路株式会社, 九州 旅客鉄道株式会社管理の橋梁および国が直轄で復旧する ことになった県道 28 号 ( 俵山バイパス ) および阿蘇大 橋, 南阿蘇橋, 阿蘇長陽大橋は本表および図には含まれ ていない. 図より分かるとおり, 布田川断層帯に沿って 被災している橋梁がほとんどである. 図の中で黄色のマ 1
図 -1 被害ありと判断された橋梁の位置図 ( 撮影日 2016 年 5 月 3 日 ) 写真 -1 第一畑中橋の被災状況 写真 -2 畑中橋の被災状況ークの場所は, 調査時点である地震発生後約 2 ヶ月たっても車両の通行不可能の場所であり, その箇所は, 表に示すとおり, 益城町で 3 箇所 ( 第一畑中橋, 田中橋, 第二宮園橋 ), 八代市で 1 箇所 ( 横江大橋 ), 甲佐町で 2 箇所 ( 府領第一橋, 田口橋 ), 南阿蘇村で 2 箇所 ( 大正橋, 新阿蘇口大橋 ) であった. 通行不可能の場所は 8 箇所存在したが, 地震により落橋したのは, 九州自動車道の跨道橋である府領第一橋だけである. 府領第一橋および横江大橋については, 被害の規模からこれまでにも被害報告が行われているため 2), 本稿では残りの 6 橋について述べることとするが, 益城町管理の田中橋 (1930 年 ( 昭和 5 年 ) 完成, 橋長 28.1m,3 径間の RC 橋 ) については,6 月の調査時点ですでに撤去されており, また, 被災写真を入手できなかったため, 本稿では被害報告できない. 次章に残り 5 橋の橋梁の被害を中心に報告を行う. 3. 通行止め箇所の橋梁被害 (1) 第一畑中橋 ( 管理者 : 益城町 ) 写真 -3 第二宮園橋の被災状況第一畑中橋は,1961 年 ( 昭和 36 年 ) に建設された橋長 34.3m,3 径間の PC 床版橋である. 写真 -1 に示すとおり, 耐震補強により桁かかり長の拡長が行われているが橋脚の頭部が圧壊されている. こちらの写真の撮影日は 5 月 3 日であり,6 月下旬の調査時にはすでに撤去され, 橋梁そのものが無くなり通行止めの状態であった. 第一畑中橋は, 木山川に架かる橋であるが, この橋のすぐ横 ( 西側 ) に国道 443 号が通っており, 畑中橋 ( 橋長 25m, 管理者 : 熊本県 ) により木山川を横断できる状況であった. 畑中橋は, 写真 -2 に示すとおり, 橋軸直角方向に 20cm 程度のずれが発生し, 両側の橋台が沈下している状況ではあったが, 木山川を横断できる橋を確保するため, 速やかに復旧されたものと思われる. なお, 前述した田中橋 ( 橋長 28.1m, 管理者 : 益城町 ) は第一畑中橋よりひとつ上流側にかかる橋であるが, 調査時点ではこちらも撤去されていた. (2) 第二宮園橋 ( 管理者 : 益城町 ) 第二宮園橋は,1988 年 ( 昭和 63 年 ) に建設された橋長 40.7m,2 径間の PC 床版橋である. この橋も木山川に架かる橋であり, 国道 443 号の畑中橋よりも少し下流側 2
(a) 右岸側橋台部 (b) 伸縮装置の損傷 写真 -4 田口橋の被災状況 写真 -5 乙女橋の被災状況 (a) 橋梁全景 にある橋である この橋は, 橋梁本体には損傷は無いが, 橋台背面アプローチ部 ( 河川堤防盛土部分 ) で約 50cm の段差が生じている. この橋は, 車一台分の幅しかないため, 復旧 補修が行われていないものと考えられる. (3) 田口橋 ( 管理者 : 熊本県, 場所 : 甲佐町 ) 田口橋は,1968 年 ( 昭和 43 年 ) に建設された橋長 260.6m,8 径間の PC(T 桁 ) 橋である. 緑川 (1 級河川 ) にかかる県道橋であるが, 被害状況を写真 -4 に示す. こちらも第二宮園橋と同様に橋台背面アプローチ部の段差が確認でき, また, 伸縮装置の損傷も確認できる. 田口橋のひとつ上流側に乙女橋がある. 乙女橋は,1965 年 ( 昭和 40 年 ) に建設された橋長 275.0m,8 径間の PC(T 桁 ) 橋である. こちらの橋梁も写真 -5 に示すとおり, 橋梁中間部での沈下が確認されたが, 応急復旧により通行可能の状態ではあった. (4) 新阿蘇口大橋 ( 管理者 : 熊本県, 場所 : 南阿蘇村 ) 新阿蘇口大橋は,2014 年 ( 平成 26 年 ) に建設された橋長 213.0m, ニールセン形式の鋼橋である. 国道 57 号に並行して架けられている. 写真 -6 に示すとおり, こちらは阿蘇長陽大橋と同じく, 橋台を支える地盤が崩れて (b) 橋台部を拡大写真 -6 新阿蘇口大橋の被災状況いる状況で有り, 橋梁本体には特に目立った被害は生じていないと思われる. (5) 大正橋 ( 管理者 : 熊本県, 場所 : 南阿蘇村 ) 大正橋は,1996 年 ( 平成 8 年 ) に建設された橋長 63.5m, 鋼橋である. 写真 -7 に示すとおり, 河川堤防盛土部分の変状が大きく, その結果, 右岸側では, 桁が橋台に衝突している状況である. 大正橋の近くには, 国道 57 号と国道 325 号との合流地点 ( 阿蘇大橋架設地点 ) で 3
(a) 全景 (a) 左岸側橋台の損傷 (b) 左岸側橋台の損傷 (b) 落橋防止ケーブルの塑性変形 (c) ゴム支承の残留変形 写真 -8 車帰橋の被災状況 (c) 桁端と橋台パラペット部の衝突 写真 -7 大正橋の被災状況 起きた大規模土砂災害の迂回路となったミルクロードの 終点 ( 赤水 ) 付近に位置する車帰橋があるが, こちらも 写真 -8 に示すとおり河川堤防盛土部分の変状から, 落橋 防止ケーブルの塑性変形やゴム支承の残留変形など大き な被害が確認されたが, 啓開のための重要道路としてい ち早く補修工事が入り, 車の通行が可能となっている. 4. おわりに本論文では, 地震発生から約 2 ヶ月経過した時点でも 通行止め箇所の地方公共団体管理の橋梁を中心に調査報告を行った. 通行止め箇所があるが, 新阿蘇口大橋を除き, その近隣の橋梁も被害を受けているが, 応急復旧を行い, 交通の流れの遮断を防いでいることがわかった. また, 比較的新しい橋梁でも大きな被害を受けており, 今後も被害分析とともに, 被害を受けていない橋梁もいくつか確認しており, 被害が発生しなかった理由についても検討を行っていく予定である. 謝辞本調査にあたり, 一般社団法人九州橋梁構造工学研究会から支援を受けました. 4
参考文献 1) 土木学会地震工学委員会主催 : 平成 28 年 (2016 年 ) 熊本地震地震被害調査結果速報会 ( 平成 28 年 4 月 27 日 ) http://committees.jsce.or.jp/eec2/node/76 (2016 年 8 月 22 日参照 ) 2) 日経コンストラクション 7 月 11 日号, 日経 BP 社,2016 (2016. 9. 2 受付 ) INVESTIGATION REPORT ON DAMAGED BRIDGES MANAGED BY LOCAL GOVERNMENT DUE TO 2016 KUMAMOTO EARTHQUAKE Yukihide KAJITA, Akira KASAI, Kaname IWATSUBO and Shoya HIRANO After a large earthquake occurred, an advanced team investigated the damage of infrastructures and made some reports in a few week just after the earthquake. The contents mainly consisted of the national road bridges, the expressway bridges and the Shinkansen bridges and so on. The local road bridges were naturally damaged and we learned lessons from the damage of local road bridges. In this report, the local road bridges were focused on. Especially, the damage situation at the road closed point were reported. 5