堺市における腸管出血性大腸菌 (EHEC) による感染症の発生動向 - 平成 27(2015) 年度 - 下迫純子 杉本光伸 福田弘美 岩崎直昭 木村友美 横田正春 小林和夫 要旨堺市内における平成 27 年度の腸管出血性大腸菌 (EHEC) 感染症の発生状況は 13 事例 感染者 20 名であった 12 名が下痢 腹痛等を呈し 8 名は無症状病原体保有者であった 溶血性尿毒症症候群 (HUS) を発症した者は 1 名で 原因菌の血清型は O157:H7 であった 血清型については O157 が 11 事例 (18 名 ) O26 が 1 事例 (1 名 ) O121 が 1 事例 (1 名 ) であった O157 による 11 事例のうち複数名の感染者が判明した 5 事例では 毒素型 薬剤感受性パターンおよび IS 法 PFGE 法 MLVA 法による DNA 解析の結果 事例内の原因菌の類似度は高かった 今回の事例中で 5 事例 ( 名 ) の感染者には 発症前に焼肉等の喫食歴が見られたものの原因食品の特定には至らなかった キーワード :EHEC O157 IS 法 PFGE 法 MLVA 法 薬剤感受性 1. はじめに平成 27 年度における堺市内での腸管出血性大腸菌 ( 以下 EHEC) 感染症の発生動向を知る目的で 市内の各医療機関において分離された菌株及び行政検査として当衛生研究所に搬入 分離された EHEC について疫学的 細菌学的特徴を検討した 2. 材料と方法 1) 堺市内の医療機関にて患者検便から分離された EHEC 株それぞれの医療機関より分与していただき 当所において志賀毒素 (Stx) 産生性 パルスフィ-ルド ゲル電気泳動 ( PFGE ) 法および Fingerprinting Ⅱ (BIO-RAD) による解析 薬剤感受性試験を実施した さらに O157 については IS-printing System( 以下 IS) 法による遺伝子解析も行った また O157 O26 O111 は国立感染症研究所 ( 感染研 ) において multilocus variable-number tandem repeat analysis( 以下 MLVA) 法による分子疫学解析が行われた 2) 検便先の医療機関にて EHEC が分離された患者の家族あるいはその接触者らについて搬入された便の細菌学的検査を実施した 3) 分離方法搬入された便検体のうち EHEC O157 ( 以下 O157) EHEC O26( 以下 O26) および EHEC O111( 以下 O111) については CT-SMAC 寒天平板 ( O157 ) CT-RMAC 寒天平板 ( O26 ) および CT-SBMAC 寒天平板 (O111) による直接培養およびmEC ブイヨンによる増菌培養後 免疫磁気ビーズ O157 O26 および O111(Dynabeads) による集菌を行った 続いて それらを上記寒天平板にて培養を行った 疑わしいコロニー 5~10 株を CLIG 培地 (O157)/TSI 培地 (O26 O111) および LIM 培地 シモンズのクエン酸培 41
地に釣菌した これら菌株の生化学的性状および CLIG 培地上に発育した菌への紫外線 (365nm) 照射による蛍光の有無等から O157 O26 あるいは O111 を疑う菌株については血清型を確認した また O157 O26 および O111 以外の EHEC については CT-SMAC 寒天平板および DHL 寒天平板による直接培養 また トリプトソイブロスによる増菌培養後 それらを CT-SMAC 寒天平板および DHL 寒天平板にて培養を行った 疑わしいコロニー 5~ 10 株を TSI 培地 LIM 培地およびシモンズのクエン酸培地に釣菌した これらの生化学的性状から 疑わしい菌株について血清型を確認した 4) 志賀毒素 (stx) 遺伝子検査および志賀毒素 (Stx) 産生性の検査 stx 遺伝子検査については One Shot PCR Typing Kit( タカラ ) にて行った Stx 産生性は CAYE 培地にて振盪培養後 ポリミキシン処理し その培養上清について大腸菌ベロトキシン検出キット : デュオパス ベロトキシン ( メルク ) にて検査を行った stx 遺伝子の保有と Stx 産生性を確認し EHEC と同定した 5) 菌株の薬剤感受性各菌株は Kirby-Bauer 法 ( センシ ディスク ) によりアンピシリン (ABPC) セフォタキシム (CTX) カナマイシン (KM) ゲンタマイシン (GM) ストレプトマイシン (SM) テトラサイクリン(TC) シプロフロキサシン (CIP) ナリジクス酸 (NA) ホスホマイシン (FOM) ノルフロキサシン (NFLX) ST 合剤 (ST) クロラムフェニコ -ル(CP) の 12 薬剤に対する感受性試験を実施した 6) IS 法による遺伝子解析 O157 の菌株について IS-printing System( 東洋紡 ) の仕様書方法に準じて検査を実施した 2 種類 (1st set / 2nd set) のプライマーセットで検出される各々 18 本の増幅バンドと同じサイズの増幅バンドの有無を判定し 有り -1 無し -0 で数値化 近畿 IS データベースを利用し 菌株情報を入力登録して IS コードに変換した 7) PFGE 法による DNA 解析分離菌株について PFGE New Protocol-Kinki の方法 1) により PFGE を行った 泳動像については Fingerprinting Ⅱ(BIO-RAD) にて類似度の解析を行った 3. 結果平成 27 年度の EHEC による感染症発生状況を表 1 に示した 13 事例の発生がみられ 有症者 12 名 無症状病原体保有者 8 名 合計 20 名であった 血清型別では O157 が 11 事例 (18 名 ) O26 が 1 事例 (1 名 ) O121 が 1 事例 (1 名 ) であった 感染症発生を月別に見ると 6 月 2 事例 /2 名 7 月 2 事例 /3 名 8 月 1 事例 /1 名 月 4 事例 /6 名 10 月 2 事例 /3 名 12 月 1 事例 /1 名 28 年 1 月 1 事例 /4 名であった O157 の 18 菌株の Stx 型は 事例 12 の 1 菌株が Stx2 他 17 菌株は Stx1&2 であった さらに 事例 1 7 の 5 菌株は ABPC SM TC に薬剤耐性を示し 事例 4 の 1 菌株は SM に薬剤耐性を示した EHEC O157 の近畿 IS コードと感染研による MLVA 法の解析結果を表 2 PFGE 像のFingerprintingⅡ による解析結果を図 1 に示す 同一事例菌株は同一の IS コードであった さらに MLVA 法の解析結果も同一の type または complex であった PFGE 法の解析結果についても 100% の類似度を示した 事例間では 事例 3 7 10 は IS コードが同一であり そのうち事例 3 と事例 10 は PFGE 法の解析で 100% の類 42
似度を示し 事例 7 とは 2.31% と高い類 似度を示した 事例 4 13 は IS コードが 同一で PFGE 法の解析では 4.74% と高い 類似度を示した 事例 No. 発生届届出年月 菌株 No. 表 1 EHEC による感染症発生状況 ( 平成 27 年度 ) 年齢性別臨床症状血清型 Stx 型薬剤耐性備考 1 2015.06 1 75 M 水様性下痢 血便 腹痛 O157:H7 1&2 ABPC SM TC 2 2015.06 2 36 M 水様性下痢 血便 腹痛 O121:H1 2 ABPC KM SM TC 3 2015.07 3 65 M 水様性下痢 血便 腹痛 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 2015.07 4 67 F 無症状 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) No.3 の妻 4 2015.07 5 21 M 水様性下痢 腹痛 O157:HNM 1&2 SM 5 2015.08 6 4 M 水様性下痢 血便 腹痛 O157:HNM 1&2 (all 感受性 ) 6 2015.0 7 4 F 無症状 O26:H11 1 ABPC SM TC 7 2015.0 8 3 M 水様性下痢 血便 腹痛 発熱 O157:H7 1&2 ABPC SM TC 焼肉を喫食 他府県在住の家族 (2 名感染者 ) と焼肉店でホルモン等を喫食 2015.0 37 M 水様性下痢 血便 腹痛 O157:H7 1&2 ABPC SM TC 焼肉を喫食 No.8 の父 8 2015.0 10 83 F HUS 水様性下痢 血便 腹痛 嘔吐 痙攣 昏睡 発熱 急性腎不全 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 焼肉店で喫食 2015.0 11 3 F 水様性下痢 血便 嘔吐 発熱 O157:H7 1&2 ABPC SM TC 2015.0 12 4 M 無症状 O157:H7 1&2 ABPC SM TC No.11 の父 10 2015.10 13 36 F 水様性下痢 血便 腹痛 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 炙りレバー等外食 11 2015.10 14 2 F 水様性下痢 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 2015.10 15 7 F 無症状 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) No.14 の姉 12 2015.12 16 27 F 無症状 O157:H7 2 (all 感受性 ) 定期健診にて検出 2016.01 17 2 M 水様性下痢 血便 腹痛 嘔吐 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 牛レアステーキ丼 焼肉を外食 13 2016.01 18 40 F 無症状 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 2016.01 1 5 M 無症状 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 2016.01 20 8 F 無症状 O157:H7 1&2 (all 感受性 ) 牛レアステーキ丼 焼肉を外食 No.17の母牛レアステーキ丼 焼肉を外食 No.17の兄牛レアステーキ丼 焼肉を外食 No.17の姉 表 2 平成 27 年度 EHEC O157 分離株の近畿 IS コードと感染研 MLVA type/complex 事例菌株近畿 ISデータベース感染研 MLVA 血清型 Stx 型 No. No. ISコード MLVA type MLVA comp 1 1 O157:H7 1&2 2165-117103 15m0046 15c014 3 3 O157:H7 1&2 24711-11675 13m0073 15c011 4 O157:H7 1&2 24711-11675 13m064 15c011 4 5 O157:HNM 1&2 8451-215275 15m0324 5 6 O157:HNM 1&2 215085-213103 15m0323 7 8 O157:H7 1&2 24711-11675 15m0328 O157:H7 1&2 24711-11675 15m0328 8 10 O157:H7 1&2 2165-1823 15m024 11 O157:H7 1&2 21641-11675 15m032 12 O157:H7 1&2 21641-11675 15m032 10 13 O157:H7 1&2 24711-11675 15m0101 11 14 O157:H7 1&2 137231-17711 15m0471 15 O157:H7 1&2 137231-17711 15m0471 12 16 O157:H7 2 4711-1758 15m0472 13 17 O157:H7 1&2 8451-215275 16m0008 18 O157:H7 1&2 8451-215275 16m0008 1 O157:H7 1&2 8451-215275 16m0008 20 O157:H7 1&2 8451-215275 16m0008 43
菌株 No. 事例 10 13 事例 3 3 86.27% 2.31% 1.3% 4 事例 7 8 事例 11 12 81.1% 71.03% 5.24% 87.18% 7.64% 4.74% 事例 8 10 事例 1 1 事例 11 14 15 事例 12 16 事例 13 17 18 1 20 事例 4 5 事例 5 6 図 1 平成 27 年度 EHEC O157 分離株の PFGE 像の Fingerprinting Ⅱ による解析結果 4. 考察今年度の EHEC 感染症で複数名の感染者が判明した事例では それぞれに IS 法 PFGE 法および MLVA 法による DNA 解析 薬剤感受性試験および毒素型別等の結果 同一事例内での分離菌株の類似度は高く 各事例内の感染源は同一であると考えられた 近畿 IS データベース平成 27 年分離株で見ると 事例 3 7 10 と同一の近畿 IS コードは 41 菌株で 一番多く登録されている 事例 4 13 については 3 番目に多く 18 菌株登録されている 事例 1 については 13 菌株で 5 番目に多く 4~6 月にかけて登録されている 2) 事例 10 は 炙りレバー等の喫食歴があり 近畿では ~10 月にかけて同様の喫食歴をもつ事例が発 生したが 原因食品の特定には至らなかった 3) 事例 3 の MLVA complex 15c011 株は 20 府県 27 地衛研から 12 型 127 株が検出されており 近畿では 6~ 月にわたり検出されている この 15c011 株は 8 月に九州ブロックを中心にしたピークがみられたが 共通の感染源の解明には至っていないことが報告されている 4) また 事例 2 の O121:H1(VT2) は 感染研の PFGE 解析により 5 都道府県から 5~6 月に分離された 6 菌株のパターンが一致していることが報告されている 5) 厚生労働省により 平成 23 年には生食用食肉の規格基準の制定 平成 24 年 7 月 1 日より生食用としての牛レバーの販売が禁止され 同年 10 月には 漬物による O157 44
の集団発生を受け 漬物の衛生規範が改正された 平成 27 年は全国の EHEC 感染者の総報告数が平成 8 年以降で最少であったが 飲食店等を原因施設とする食中毒事例は依然として多く発生していることが報告されている 6) 今年度のいずれの事例においても 保健所による発症前の喫食歴等を含む聞き取り調査が実施され 5 事例 名の感染者は発症前に焼肉等の喫食歴が見られ これらの食品との関連が疑われる事例もあったが 食品等の残品がなく 原因食品の特定には至らなかった 5. 結語 1) 今年度の EHEC 感染症は O157 が 11 事例 (18 名 ) O26 が 1 事例 (1 名 ) O121 が 1 事例 (1 名 ) であった 2) O157 による 11 事例のうち 複数名の感染者が判明した 5 つの事例では それぞれに IS 法 PFGE 法および MLVA 法による DNA 解析 薬剤感受性試験および毒素型別等の解析結果 事例内での分離菌株の類似度は高く 同一性の高いものであった 3) 13 事例中 5 事例 名の感染者は 発症前に焼肉等の喫食歴が見られたが 原因食品の特定には至らなかった 謝辞今回 菌株の性状を検査するに当たり これらの菌株を分与していただいた堺市内各医療機関の関係各位並びに菌株の入手 その搬送に携わって頂いた感染症対策課の方々 また DNA 型別解析結果を還元して頂いた国立感染症研究所細菌第一部の皆様に深謝いたします なお 本報告は一部 厚生労働省科学研究費補助金新興 再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 の支援を受けて実施したものであることを付記します [ 参考文献 ] 1) 勢戸和子 他 : 厚生労働科学研究費補助 金 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 平成 15 年度 分担研究報告書 - 近畿ブロックにおけるパル スフィールドゲル電気泳動 (PFGE) 型別法の 施設間変動について. 感染研新プロトコール の試用. 食品由来感染症の細菌学的疫学的 指標のデータベース化に関する研究. 平成 15 年度総括 分担研究報告書. 2004 : 5-104. 2) 勢戸和子 他 : 厚生労働科学研究費補助 金 ( 新興 再興感染症及び予防接種政策推 進研究事業 ) 平成 27 年度分担研究報告書 - 近畿ブロックにおける食品由来感染症の病原 体情報の解析および共有化システムの構築 に関する研究. 平成 27 年度総括 研究分担 報告書.2016:58-68 3) 勢戸和子 他 : 厚生労働科学研究費補助 金 ( 新興 再興感染症及び予防接種政策推 進研究事業 ) 平成 27 年度分担研究報告書 - 飲食チェーン店で発生した腸管出血性大腸 菌 O157 食中毒疑い事例. 平成 27 年度総 括 研究分担報告書.2016:6-72 4) 泉谷秀昌 他 : 腸管出血性大腸菌感染症 < 特集関連情報 >2015 年に分離された腸 管出血性大腸菌 O157,O26 および O111 株 の MLVA 法による解析. 病原微生物検出情 報.Vol.37 No.5 (2016.5):3-5 5) 石原朋子 他 : 腸管出血性大腸菌感染症 < 特集関連情報 >PFGE による O157, O26,O111 以外の腸管出血性大腸菌におけ る広域感染事例の解析. 病原微生物検出情 報.Vol.37 No.5(2016.5):5-7 6) < 特集 > 腸管出血性大腸菌感染症 2016 年 4 月現在. 病原微生物検出情報. Vol.37 No.5 (2016.5):85-86 45