地球温暖化に関する知識

Similar documents
IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

Microsoft Word - cap5-2013torikumi

go.jp/wdcgg_i.html CD-ROM , IPCC, , ppm 32 / / 17 / / IPCC

<4D F736F F D A6D92E894C5817A F193B994AD955C8E9197BF2E646F63>

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

Executive summary

気候変動に関する科学的知見の整理について (前回資料2)

<4D F736F F D F967B95D281698DC58F4988C4816A B815B834F838C815B816989E6919C8F6B8FAC94C5816A2E646F63>

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

NEWS 特定非営利活動法人環境エネルギーネットワーク 21 No 年 9 月 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) の概要 環境エネルギーネットワーク 21 主任研究員大崎歌奈子 今年の夏は世界各国で猛暑や洪水 干ばつ

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節


Microsoft Word - ondan.doc

Microsoft PowerPoint 鹿毛先生プレゼンFINAL_0111.pptx

IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

Microsoft Word - ブレチン2日本版3.1.doc

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

(別紙1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(速報版)

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

スライド 1

気候変動と森林 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) から 2014 年 8 月 29 日 東京 第 3 回森林分野における国際的な動向等に関する報告会 林野庁森林利用課 佐藤雄一

海洋_野崎.indd

IPCC 第 1 作業部会 評価報告書の歴史

<4D F736F F D F193B994AD955C8E9197BF816A89C482A982E78F4882C982A982AF82C482CC92AA88CA2E646F63>

Microsoft PowerPoint - Ikeda_ ppt [互換モード]

報道発表資料 平成 26 年 11 月 2 日 文 部 科 学 省 経 済 産 業 省 気 象 庁 環 境 省 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 5 次評価報告書 統合報告書の公表について 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 40 回総会 ( 平成 26 年 10 月 27

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

<4D F736F F D ED97AA916688C C8E DA8E9F816A2E646F63>

Monitoring National Greenhouse Gases

Microsoft Word _IPCC AR4 SPM日本語訳.doc

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF C F926E93798FEB8B7A8EFB8CB9>

などの極端現象も含め 気候変動による影響を評価している さらに AR4 は 長期的な展望として 適応策と緩和策のどちらも その一方だけではすべての気候変動の影響を防ぐことができないが 両者は互いに補完し合い 気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは 確信度が高い とし 最も厳しい緩和努

資料1 美しい星へのいざない「Invitation to 『Cool Earth 50』」~3つの提案、3つの原則~」

Microsoft Word - cap3-2013kaiyo

間を検討する 締約国が提出した 貢献 は 公的な登録簿に記録される 締約国は 貢献 ( による排出 吸収量 ) を計算する また 計算においては 環境の保全 透明性 正確性 完全性 比較可能性及び整合性を促進し 並びに二重計上の回避を確保する 締約国は 各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有して


Microsoft PowerPoint - 1-2_nies_hijioka_13Feb2014【確定版】.pptx

kouenyoushi_kyoshida

資料6 (気象庁提出資料)

Microsoft Word - 7.第3章3節.doc


Microsoft PowerPoint - Noda2009SS.ppt

地球上に存在しているバイオマス資源量(森林や植物等の資源量)については 一九七五年の調査に基づいてバイオマスハンドブックが作成されていますが その内容を新エネルギー開発機構が 以下のように取りまとめています)1 ( バイオマス資源の総量は乾燥重量で約二兆t その内約九〇%が森林資

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

WTENK4-1_982.pdf

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

報道発表資料

2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

Slide sem título

部員各位

< F18D908F DC58F4994C5817A>

Microsoft PowerPoint - NIES

( 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し ) 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し 2.1 気候変動予測と将来シナリオ本節では 異常気象と気候変動の将来の予測を述べる前に それらの定量的な評価を可能にしている気候モデルと これに入力する将来の社会像について述べる 気候変動予測

平成 30 年度朝倉市地球温暖化対策実行計画 ( 事務事業編 ) 実施状況報告書 ( 平成 29 年度実績 ) 平成 30 年 9 月 朝倉市環境課

090108

資料1-1 「日本海沿岸域における温暖化に伴う積雪の変化予測と適応策のための先進的ダウンスケーリング手法の開発」(海洋研究開発機構 木村特任上席研究員 提出資料)

Microsoft Word WG2報道発表資料_確定版HP用_.doc

今日お話しすること 1. 家庭部門の温室効果ガス排出 エネルギー消費の動向 2. 環境省うちエコ診断の概要と成果から見た家庭の対策 3. 家庭部門の対策の推進のための自治体に期待すること 2

種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

フロネシス08:気候変動リスクにそなえる | 気候変動で社会はどのように変わるのか

お知らせ

このまま温暖化が進むと 地球の平均気温や平均海面水位はどこまで上がってしまうのでしょうか また 温暖化の程度は 世界の社会経済に関する将来の道筋に どのように依存しているのでしょうか していくために 不可欠です 1 さまざまな研究が 迫りつつある危機を予測しています これらの温暖化予測情報を正しく理

1 平成 22 年度の取組み結果 平成 22 年度の取り組み結果は 下記のとおりです 温室効果ガスの総排出量 平成 22 年度 温室効果ガス総排出量 (t-co2) 26,876 27, % 具体的取り組み 平成 22 年度 電気使用量 (kwh) 37,334,706 38,665,4

Microsoft PowerPoint - 公開シンポジウム16年9月(河宮).pptx

建物から排出される CO2 を大幅に削減するためには 企画や基本設計段階から取り組む必要があります 当社では 10 年前より 基本設計段階で用いる LCCO2 と LCC 算出ツール ( 表計算ソフト ) を開発 使用してきました ダイエット D i e t建築ナビ はこのソフトを元に 省 CO2

家庭の中で最も多くの電力を消費するのが電気冷蔵庫 (14.2%) で 家庭全体の電力消費量の約 7 分の 1 を占めています 続いて照明 (13.4%) テレビ (8.9%) エアコン (7.4%) といった順番になっており この 5 種類を合わせると全体の約 44% になります ( 図 ) この中

<4D F736F F D20826D C C835895B681698DC58F4994C5816A89FC322E646F63>

台風23 集約情報_14_.PDF

参考資料 1 約束草案関連資料 中央環境審議会地球環境部会 2020 年以降の地球温暖化対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合事務局 平成 27 年 4 月 30 日

Microsoft PowerPoint - Chigakub-04.pptx

<4D F736F F F696E74202D20926E8B858AC28BAB96E291E B8CDD8AB B83685D>

IPCC第4次評価報告書 第3作業部会報告書 概要(プレゼン版)

032244[1-8].indd

IPCC 第5次評価報告書の概要 -WG1(自然科学的根拠)-

各家庭の 1 年間の出費のうち約 7% は電気 ガス 灯油といったエネルギーへの支出です 詳しくは 各制度のパンフレット W EB で 市民向け 太陽光発電 燃料電池 ( エネファーム ) HEMS ( ホームエネルギーマネジメントシステム ) 定置用蓄電 太陽熱利用 ガスエンジン木質コージェネバイ

<372E926E8B8589B BB91CE8DF42E786C73>

Microsoft Word WG2報道発表資料_確定版、HP用_.doc

日本物理学会誌Vol

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町

スライド タイトルなし

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

「節電対策パンフレット」(家庭向け)

DE0087−Ö“ª…v…›

世界の CO2 排出量と東京都 2013 年度は 東京 63.8 百万トン シンガポールフィンランドポルトガルスウェーデンデンマーク < 東京 < マレーシアベルギーオーストリア 2

IPCC第48回総会に際しての勉強会資料

COP21合意と今後の課題

IPCC 第 5 次評価報告書に向けた将来シナリオの検討日本からの貢献とその意義環境研究総合推進費 A 1103 統合評価モデルを用いた世界の温暖化対策を考慮したわが国の温暖化政策の効果と影響 藤森真一郎 国立環境研究所 社会環境システム研究センター 環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト一般公開

<4D F736F F F696E74202D F43444D838D815B D B988C493E089F090E08F91816A5F8CF68EAE94C5>

Let s Research ペットボトルの容器に色を付け 太陽の光にあてて中の水の温度の変化を調べてみよう 太陽からのエネルギー 私たちが生きていけるのは 約 1 億 5,000 万 km 離れた太陽から降り注ぐ光と熱のエネルギーのおかげです もし太陽からのエネルギーが届かなければ 地球は凍り付い

( 別紙 ) 中国電力株式会社及び JFE スチール株式会社 ( 仮称 ) 蘇我火力 発電所建設計画計画段階環境配慮書 に対する意見 1. 総論 (1) 石炭火力発電を巡る環境保全に係る国内外の状況を十分認識し 本事業を検討すること 本事業を実施する場合には 本事業に伴う環境影響を回避 低減するため

Microsoft Word - 01.doc

宮城県災害時気象資料平成 30 年台風第 24 号による暴風と大雨 ( 平成 30 年 9 月 29 日 ~10 月 1 日 ) 平成 30 年 10 月 3 日仙台管区気象台 < 概況 > 9 月 21 日 21 時にマリアナ諸島で発生した台風第 24 号は 25 日 00 時にはフィリピンの東で

Transcription:

地球温暖化に関する知識 気象庁 気象庁 1

目次 地球温暖化問題とは 1 地球温暖化の原因 2 温室効果とは 3 温室効果ガスの種類 4 温室効果ガスの観測 5 温室効果ガスの濃度の変化 6 地球規模の気候の変化 7 日本の気候の変化 8 さくらの開花日の変化 9 地球温暖化と海洋 10 地球規模の気候変化の予測 11 日本の気候変化の予測 12 台風の将来予測 13 地球温暖化を緩やかにするための国際的な取り組み 14 地球温暖化を緩やかにするために私たちにできること 15 気象庁 2

地球温暖化問題とは 私たちの社会はそれぞれの地域の気候を背景にかたちづくられています その気候が 地球規模で 私たちが経験したことのないものに変わりつつあります 現在の地球は過去 1400 年で最も暖かくなっています この地球規模で気温や海水温が上昇し氷河や氷床が縮小する現象 すなわち地球温暖化は 平均的な気温の上昇のみならず 異常高温 ( 熱波 ) や大雨 干ばつの増加などのさまざまな気候の変化をともなっています その影響は 早い春の訪れなどによる生物活動の変化や 水資源や農作物への影響など 自然生態系や人間社会にすでに現れています 将来 地球の気温はさらに上昇すると予想され 水 生態系 食糧 沿岸域 健康などでより深刻な影響が生じると考えられています これらの地球温暖化に伴う気候の変化がもたらす様々な自然 社会 経済的影響に対して 世界各国との協力体制を構築し 解決策を見いだしていかなければなりません これが 地球温暖化問題です ひまわり 6 号が撮影した地球 気象庁 1

地球温暖化の原因 20 世紀半ば以降に見られる地球規模の気温の上昇 すなわち現在問題となっている地球温暖化の支配的な原因は 人間活動による温室効果ガスの増加である可能性が極めて高いと考えられています 大気中に含まれる二酸化炭素などの温室効果ガスには 海や陸などの地球の表面から地球の外に向かう熱を大気に蓄積し 再び地球の表面に戻す性質 ( 温室効果 ) があります 18 世紀半ばの産業革命の開始以降 人間活動による化石燃料の使用や森林の減少などにより 大気中の温室効果ガスの濃度は急激に増加しました この急激に増加した温室効果ガスにより 大気の温室効果が強まったことが 地球温暖化の原因と考えられています 現代社会はたくさんの化石燃料を消費し 大量の温室効果ガスを排出しています 気象庁 2

温室効果とは 地球の大気には二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体がわずかに含まれています これらの気体は赤外線を吸収し 再び放出する性質があります この性質のため 太陽からの光で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが 熱として大気に蓄積され 再び地球の表面に戻ってきます この戻ってきた赤外線が 地球の表面付近の大気を暖めます これを温室効果と呼びます 温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下 19 と見積もられていますが 温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ 14 となっています 大気中の温室効果ガスが増えると温室効果が強まり 地球の表面の気温が高くなります 温室効果の模式図 気象庁 3

温室効果ガスの種類 人間活動によって増加した主な温室効果ガスには 二酸化炭素 メタン 一酸化二窒素 フロンガスがあります 二酸化炭素は地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きな温室効果ガスです 石炭や石油の消費 セメントの生産などにより大量の二酸化炭素が大気中に放出されます また 大気中の二酸化炭素の吸収源である森林が減少しています これらの結果として大気中の二酸化炭素は年々増加しています メタンは二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスです メタンは 湿地や池 水田で枯れた植物が分解する際に発生します 家畜のげっぷにもメタンが含まれています このほか 天然ガスを採掘する時にもメタンが発生します 人為起源の温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別の割合 (2010 年の二酸化炭素換算量での数値 :IPCC 第 5 次評価報告書より作図 ) 気象庁 4

温室効果ガスの観測 大気中の二酸化炭素の観測は 1957 年に南極で 1958 年にハワイのマウナロアで それぞれ始まりました マウナロアでの観測の結果は大気中の二酸化炭素の増加を明確に示し 今日の地球温暖化問題の議論のきっかけのひとつとなりました 日本では 気象庁が 1987 年に岩手県の三陸海岸の綾里で大気中の二酸化炭素の観測を始めました 現在では 研究目的の観測も含め 国内の複数の観測所で二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの観測が行われています 気象庁では 綾里のほか 東京都の南鳥島 沖縄県の与那国島で長期間の観測を続けています また 観測船によって 海上の大気と海水中の二酸化炭素の観測を 1984 年から定期的に行っています 世界と日本の温室効果ガス観測地点 ( 世界気象機関全球大気監視計画観測所情報システム HP 掲載図を編集 ) 参考 温室効果ガス世界資料センター http://ds.data.jma.go.jp/gmd/wdcgg/jp/wdcgg_j.html 世界気象機関全球大気監視計画観測所情報システム ( 英文 ) http://gaw.empa.ch/gawsis/default.asp 海洋の温室効果ガスの知識 http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/co2/knowledge/index.html 気象庁 5

温室効果ガスの濃度の変化 二酸化炭素の大気中の濃度は過去数百年にわたって 280ppm( ) 程度でしたが 18 世紀半ばから上昇を始め 特にここ数十年で急激に増加しています これは 動力などの燃料として石炭や石油が大量に使われるようになったためです 二酸化炭素以外の温室効果ガス ( メタン 一酸化二窒素など ) も 同様に 18 世紀半ばから急激に増加しています これは 増加した人口をささえるための農業や畜産業などの活発化にともなう 耕地の拡大 肥料の使用の増加 家畜の増加などによるものと考えられています 西暦 0 年から 2011 年までの主な温室効果ガスの大気中の濃度の変化 (IPCC 第 5 次評価報告書より ) 参考 温室効果ガスの情報 http://ds.data.jma.go.jp/ghg/info_ghg.html ppm ppb: ある物質の大気中に存在している割合で ppm は 100 万分の 1 ppb は 10 億分の 1 を表す 気象庁 6

地球規模の気候の変化 地球温暖化にともなうものと考えられる様々な地球規模の変化が観測されています 温度計が使われるようになった1850 年以降の記録からは 世界の平均気温の上昇傾向が明らかです 水温上昇にともなう海水の膨張や 氷床や氷河が融けて海に流れ込むことなどによって 世界平均の海面水位は上昇しています 世界平均の海面水位は1901~2010 年の間に19cm 上昇したと見積もられています 北半球の積雪面積や北極海の海氷面積が減っています 気温及び海面水位の変化 ( 上 ) 世界平均地上気温 ( 下 ) 潮位計と人工衛星データによる世界平均海面水位の変化 気温の変化は 1961~1990 年の平均からの差 色はデータセットの違いを表す (IPCC 第 5 次評価報告書より ) 参考 気温 降水量の長期変化傾向 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/index.html 気候変動監視レポート http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/index.html 気象庁 7

日本の気候の変化 日本の平均気温は 1898 年 ( 明治 31 年 ) 以降では 100 年あたりおよそ 1.1 の割合で上昇しています 特に 1990 年代以降 高温となる年が頻繁にあらわれています 日本の気温上昇が世界の平均に比べて大きいのは 日本が 地球温暖化による気温の上昇率が比較的大きい北半球の中緯度に位置しているためと考えられます 気温の上昇にともなって 熱帯夜 ( 夜間の最低気温が 25 以上の夜 ) や猛暑日 (1 日の最高気温が 35 以上の日 ) は増え 冬日 (1 日の最低気温が 0 未満の日 ) は少なくなっています 1 日に降る雨の量が 100 ミリ以上というような大雨の日数は 長期的に増える傾向にあり 地球温暖化が影響している可能性があります 日本の平均気温の変化都市化の気温への影響が比較的少ない 15 地点のデータをもとに 日本の平均気温の平年差 (1981 年から 2010 年までの平均値からの差 ) の変化を求めた 長期的な変化を見やすくするために 5 年の移動平均処理 ( ある年を中心とする連続する 5 年の平均値をその年の値とする ) を行った 参考 気温 降水量の長期変化傾向 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/index.html 気候変動監視レポート http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/index.html 気象庁 8

さくらの開花日の変化 さくらの開花の時期は 春先の気温の変化にともなって早まってきていることが長年の観測結果からわかります 例えば 4 月 1 日までに開花するところは 1960 年代 (1961~1970 年 ) では三浦半島から紀伊半島にかけての本州の太平洋沿岸と四国 九州でしたが 2000 年代 (2001~2010 年 ) では関東 東海 近畿 中国地方まで北上するようになっています さくら ( ソメイヨシノ ) の 4 月 1 日の開花ラインの変化 気象庁 9

地球温暖化と海洋 地球温暖化を考える際 地球表面の 7 割を占める海洋の存在を無視するこ とはできません 海洋は地球温暖化の進行をやわらげる役割を担っています 例えば 1971 年から 2010 年までの 40 年間に地球全体で蓄積された熱 エネルギーの 9 割以上は海洋に吸収されています また 地球温暖化の原 因である人間活動によって放出された二酸化炭素の約 3 割を海洋が吸収して 大気中の二酸化炭素の濃度の上昇を抑えています 一方 海洋は熱を吸収することで 自身も温暖化しています 海水温の 上昇により海水が膨張し 海面水位が世界的に上昇しています 海洋は大気 に比べて変化しにくいですが いったん変化してしまうとその状態が長く続 きます このため 地球温暖化により海水温の分布や海流が変われば 長期 間にわたって気候に影響を及ぼすことが懸念されています このように 海 洋の温暖化は 直接的 間接的に 私たちの社会に大きな影響を与える可能 性があります 世界の海洋の変化を把握 するため 世界気象機関 (WMO) をはじめとした 国際機関や世界各国の政府 や研究機関が連携して 海 洋の観測が行われています 日本では 気象庁が 1930 年代に観測船による海洋観 測を開始しました また 海洋の二酸化炭素濃度など の温室効果ガスの観測を 1984 年から続けていま す 観測船による海洋観測海の中の温度や塩分を測定するセンサーと海水を採取する装置を組み合わせた観測機器が 現代の海洋観測の主役です 参考 海洋の健康診断表 ( 海洋の総合情報 ) http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/index.html 気象庁 10

地球規模の気候変化の予測 気候が将来どのように変化するか 世界中の研究機関が それぞれ開発した気候モデルを使って コンピュータによる将来の予測を行っています 予測結果は それぞれの気候モデルの特性や 用いるシナリオ ( 将来の温室効果ガス排出量の違いに応じた大気中濃度の見通し ) によって少しずつ異なります このため それらの予測結果のどれかひとつだけを正しいと決めることはできません 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) の第 5 次評価報告書にまとめられた世界中の研究機関の気温の予測結果は 以下のようになります 21 世紀末の地球の平均気温は20 世紀末に比べ 温室効果ガスの大幅な排出削減を行った場合は約 0.3~1.7 非常に高い温室効果ガス排出量が続いた場合は約 2.6~4.8 上昇する 気温の上昇の程度は地域によって異なり 陸上や北半球の高緯度で大きくなる ( 下図参照 ) 今後の温室効果ガスの排出量が多いほど気温の上昇が大きい 非常に高い温室効果ガス排出量が続いた場合 海面水位は 21 世紀末に約 45~82cm 上昇すると予測されており また 今世紀中頃までに北極海の氷が夏季には完全に融けてしまう可能性が高いと予測されています さらに 極端な高温や大雨の頻度が増加する可能性が非常に高いと予測されています 21 世紀末 (2081-2100 年の平均 ) の気温の変化の予測複数の気候モデルによる RCP8.5 シナリオ ( 非常に高い温室効果ガス排出量が続いた場合 ) の予測結果を平均したもの 1986-2005 年の平均気温からの変化を示す (IPCC 第 5 次評価報告書より ) 気象庁 11

日本の気候変化の予測 日本の周辺で起きる気候変化を細かく予測する研究も行われています 今後も二酸化炭素などの温室効果ガスを多く排出 ( エネルギーのバランスと経済発展を重視しグローバル化が進展する社会を想定 ) する場合 100 年後の日本の気候は次のように予測されています 気温は現在よりも3 程度高くなる 予測される気温の上昇は高緯度ほど大きい 全国平均の年降水量 ( 雨または雪の量 ) は増加する これは 地球温暖化によって 大気に含まれる水蒸気量が増えることなどによると考えられる 日本のほとんどの地域で積雪の量が減る これは 気温の上昇によって雪ではなく雨が降る場合が増えるためと考えられる 北海道の内陸部などでは雪の量は現在と同程度か増える これは 温暖化が進んでも依然として気温が低いためと考えられる 日本のほとんどの地域では地球温暖化にともなって雪の量が減ると予測されています 参考 地球温暖化予測情報 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/gwp/index.html 気象庁 12

台風の将来予測 北大西洋では熱帯海域の海水温の上昇にともなって 1970 年ごろから強い熱帯低気圧 ( ハリケーン ) の活動が増えています 一方 台風 ( 最大風速が秒速 17.2 メートル以上の北西太平洋の熱帯低気圧を台風と呼びます ) の発生個数 日本への接近数 上陸数には 長期的な増加や減少の傾向は見られません 地球温暖化にともなう台風やハリケーンといった熱帯低気圧の活動の予測研究によると 非常に強い熱帯低気圧の数は増えると予測されています また 熱帯低気圧にともなう雨は強くなる傾向があると予測されています 気候モデルが予測した将来の台風約 20 キロメートルという細かさで気候を再現できる全球大気気候モデルと 5 キロメートルの細かい領域モデルを組み合わせた研究により 将来の台風の数や強さの予測ができるようになりました ( 21 世紀気候変動予測革新プログラム の一環として気象研究所 海洋研究開発機構などによる研究グループが実施 ) 気象庁 13

地球温暖化を緩やかにするための国際的な取り組み 温室効果ガスの排出をできるだけ少なくし 地球温暖化の進行を抑えることが 人間社会と自然環境への地球温暖化の影響を小さくします 国連が 1992 年に採択した 気候変動に関する国際連合枠組条約 (UNFCCC) は 大気中の温室効果ガスの濃度を気候に危険な人為的影響を及ぼさない水準で安定化させることを目的としています 同条約のもとで温室効果ガスの濃度の安定化のための具体的な方策が検討され 1997 年に京都で開かれた第 3 回条約締約国会議 (COP3) で 先進国に温室効果ガスの排出削減を義務付ける合意文書 ( 京都議定書 ) がまとまりました 京都議定書では 先進国ごとに温室効果ガス排出量の削減目標が設定されたほか 国際的な協調による排出量の削減を促進する仕組み ( 共同事業で生じた削減量を両国で分け合うなど ) を導入しました 同議定書で定められた日本の削減目標は 2008~2012 年の 5 年間の平均排出量を 基準年 ( 二酸化炭素については 1990 年 ) に比べて 6% 減らすことでした 様々な取り組みの結果 この目標は達成されました 京都議定書の後継となる新たな国際合意を目指し 2011 年 11 月に開催された気候変動に関する国際連合枠組条約第 17 回締約国会議 (COP17) において 全ての国を対象とした 2020 年以降の新しい枠組みをつくることが決定され 2015 年の第 21 回締約国会議 (COP21) で パリ協定 が合意されました 気候変動に関する国際連合枠組条約第 19 回締約国会合 (2012 年 11 月 ) の様子 気象庁 14

地球温暖化を緩やかにするために私たちにできること 地球温暖化対策の中で一番大きな課題が二酸化炭素の排出量の削減です 二酸化炭素の排出量を減らすには化石燃料の消費を減らす必要があります 日本の二酸化炭素排出量の約 2 割は 給湯や暖房 調理のためのガスの使用 電気製品の使用 それに自家用車の利用などにより わたしたちの日常生活から排出されています このような二酸化炭素の排出を減らすため わたしたちにもできることがあります カーテンによる太陽光の調節やクールビズ ウォームビズによる冷暖房機に頼らないすごし方の工夫 冷房 暖房の温度を控えめに設定する シャワーを流しっぱなしにしないなどにより 燃料や電力の消費を抑えましょう ポットやジャーの保温を控える 電化製品の主電源をこまめに切る 長時間使わない時はコンセントを抜くなどにより 節電を心がけましょう 家族が同じ部屋で団らんすると 暖房と照明によるエネルギー消費を 2 割減らすことができると試算されています 通勤や買い物の際に自家用車の使用を控えて バスや鉄道 自転車を利用したり 自家用車を使うときもアイドリングストップなどの エコドライブ を実践しましょう 誰にでもできる身近なことから 二酸化炭素の排出を減らしていきましょう 参考 全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org/ 気象庁 15