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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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担っている 子宮脱落膜内から筋層血管内へ浸潤する一群の絨毛細胞は EVT と呼ばれている 胎児由来の絨毛と母体脱落膜組織の接している母体胎児境界面における胎盤の基本構造を図 1 に示す 胎児からつらなる未分化な trophoblast である cytotrophoblast (CT) は付着絨毛の先端で増殖して cell column とよばれる細胞塊を形成しつつ EVT へと分化して子宮壁内へと浸潤してゆく EVT の浸潤は子宮筋層内の血管壁まで達し 母体の血管内皮細胞を EVT が置換することで 子宮壁の血管構造が再構築される この EVT の働きにより子宮壁内のらせん動脈は細径で抵抗の高い構造から太径で抵抗の低い構造へと変化し それに伴って絨毛間腔へと流入する母体血液量が飛躍的に増大する 以上より EVT の働きは胎盤形成の大きな原動力となっている そこで EVT 浸潤の調節に関わる機構に注目した 図 1 妊娠初期における trophoblast の動き CTs EVTs ST Extravillous trophoblast へと分化しながら浸潤していく CTs; cytotrophoblasts ST; syncytiotrophoblats EVTs; extravillous trophoblasts AV; anchoring villi FV; floating villi ヒト正常妊娠維持機構について 母体胎児境界面における免疫調節がかつてより注目 されてきた とくに EVT の母体脱落膜内血管への浸潤の不良について研究が行われてきた これまで 母体側の EVT 浸潤調節因子としては hypoxia TGF- family GM-CSF など

が 胎児側因子として integrin activin MMP HLA-G などの関与が報告されている このうち免疫誘導分子である major histocompatibility complex (MHC) class I のうち human leukocyte antigen(hla)-g は 多型性の乏しい HLA-classI 分子のひとつで 主に脱落膜内に多く存在する子宮 NK 細胞からの攻撃を免れるために発現していると考えられている HLA-G は EVT が胎児側から母体側へと浸潤するにつれて発現が増加し そのことが胎盤の正常な発育と関係していることが報告されており 注目されている それに関連して MHC class I と構造が類似した CD1d も 近年母体胎児境界面に位置する絨毛細胞で発現していることが報告された CD1d は invariant Natural Killer T 細胞 (inkt) という natural killer (NK) Receptor と T Cell Receptor を併せ持つ特殊なリンパ球と特異的に反応する 最近母体胎児境界面において inkt の存在が報告された CD1d はチロシンキナーゼを含む短い細胞内ドメインを有している CD1d と inkt の結合あるいは 近接する CD1d 分子どうしの架橋反応により CD1d のチロシンキナーゼが相互にリン酸化され CD1d 陽性細胞の細胞内シグナルが活性化される これにより CD1d 陽性細胞からは interleukin (IL)-12, IL-15, IL-4,IL-10 などのサイトカインが分泌される CD1d と inkt の結合は 同時に inkt も活性化し inkt から IFN- や IL-4 が急速に分泌され 獲得免疫系を誘導するに至る そのため inkt の働きは 初期免疫と獲得免疫の橋渡しであると考えられている 胎盤においては胎児側の CD1d 陽性絨毛細胞と母体 ( 子宮 ) 側の inkt が相互作用し 適度な炎症反応を起こすことで胎盤形成に重要な役割を担っている可能性が考えられる 絨毛細胞が母体にとっては allograft であるのに拒絶されず どのようにして 適度な 浸潤が保たれるのかは 現在のところまだ明らかとされていない HLA-G HLA-C などの MHC class I 分子の関与の可能性は知られており また ヒト胎盤の母体胎児境界面において CD1d の存在も報告されていた しかし絨毛細胞が CD1d を発現することが実際に臨床的にどのような意味を持つのかについては不明である 例えば 胎盤異常に起因すると考

えられる疾患として習慣流産があるが 抗リン脂質抗体症候群のような自己免疫性疾患患者が習慣流産を発症しやすいことと これらの疾患の自己抗体の対象となる自己由来抗原として知られる phosphatidylethanolamine(pe) や phosphatidylinositol(pi) などのリン脂質が CD1d に提示されることとが 実際にどのような機序で結びついているのかは解明の期待されるところである しかし in vitro における primary の EVT 培養が ST 分化傾向が強く困難であったため 胎盤における CD1d の存在部位と機能について 組織学的 経時的に研究することはこれまで困難であった 今回 以前我々のグループにおいて確立されたヒト胎盤由来の絨毛細胞の EVT 分化誘導初代培養系を用いることにより安定した EVT 培養が可能となった 本研究では 1EVT への分化に伴う CD1d 発現の減少 2CD1d 発現 TGF- 1 IFN- により調節されていること 3 複数の CD1d 分子間の架橋反応により 絨毛細胞からの IL-12 分泌が誘導されることを明らかにした 免疫染色により 母体脱落膜内へ浸潤が進むほど EVT の CD1d 発現が減少していくことが明らかとなった CD1d は ST においては 発現が認められなかった 母体由来の inkt は 母体脱落膜内と ST によって完全に覆われた絨毛が母体血に浸っている部分に存在する ST において CD1d が発現していない理由として 妊娠初期の胎盤を母体由来の inkt との接触による激しい炎症反応から防御するためである可能性が考えられた 一方 EVT では CD1d が提示されており cell column 内の近位 EVT ではその発現が最も強い この理由として 胎盤形成の際に母体脱落膜内へ EVT が適切に浸潤するためには 局所的な炎症反応が必要と考えられており CD1d-iNKT 間の相互作用と それにより起こる急速なサイトカインの産生と分泌が このような炎症性の微小環境をつくるのに重要な役割を演じている可能性が考えられた しかしその一方で inkt の過剰な活性化は流産を引き起こすことが知られており 脱落膜内 inkt 細胞の活性度は厳密に制御される必要があると考え

られた inkt 活性の制御は CD1d 発現の濃度で制御されていると報告されている そこで胎盤における CD1d 発現制御因子を検討した 今回は胎盤に存在する TGF- 1 と IFN- に注目した In vivo において TGF- 1 は EVT や脱落膜 NK 細胞からの分泌により母体胎児境界面に蓄積していると考えられる TGF- 1 は EVT における CD1d 発現を転写レベルから抑制していることがわかった 脱落膜細胞は IFN- も発現していることが報告されているが 培養 EVT を IFN- に暴露すると CD1d 発現は濃度依存的に増加した 以上の検討から 絨毛細胞表面の CD1d 発現は脱落膜リンパ球や絨毛細胞自身より分泌されるサイトカインの相対的なバランスにより autocrine/paracrine 的に調節されていると考えられた 流産や子宮内胎児発育不全の原因となる抗リン脂質抗体症候群において 抗リン脂質抗体が CD1d に提示されている PE,PI などの自己リン脂質と結合することにより CD1d 分子間の架橋反応が起こると考えられた In vitro において CD1d 分子間の架橋反応を起こすことにより IL-12 発現が誘導されたことから 胎盤局所における過剰な炎症反応が誘起されることが 抗リン脂質抗体症候群などにおける胎盤異常の原因となっている可能性が示唆された 以上の結果を踏まえ 今後の展望としては まず実際の習慣流産患者の血清を用いて CD1d 発現ヒト絨毛細胞株で IL-12 などの炎症性サイトカインの発現が促進されるかどうかを確認すべきであると考えている また inkt に認識されることが報告されている自己リン脂質である PE などの抗原が本当に CD1d 上に提示されているのかについて CD1d と PE の位置関係について confocal 蛍光免疫染色などによって確認をすることが必要である また 現在 習慣流産の治療としては 胎盤局所での炎症反応の緩和を目的とした抗炎症薬投与や 凝固抑制を目的としたヘパリン投与が行われているが 将来的には本研究の成果を応用して CD1d あるいは抗リン脂質を介する炎症反応の抑制を目的とした治療法の開発が期待される このような治療法は 習慣流産にとどまらず 子宮内胎児発育不全や

妊娠高血圧症候群などの他の EVT 浸潤不良に基づく胎盤異常疾患の治療にも貢献できると 考えられる