2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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現役時代に国民年金 厚生年金に加入していた者は 一部を除き6 歳以上で老齢基礎年金 老齢厚生年金を受給することができる 4 老齢基礎年金の額は 年度は満額で年額 78, 円 ( 月額 6,8 円 ) であるが 保険料を納付していない期間があればその期間に応じて減額される 一方 老齢厚生年金の額は現役

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

そこで 本稿では 単独世帯に着目して217 年の賃金水準から年金額を算出し 高齢単独世帯の平均的な支出額と比較することにより 超高齢社会における所得基盤確保のあり方の課題を確認する 2. 単独世帯の年金額と支出額の比較 (1) 月額の年金額と支出額の比較厚生労働省 賃金構造基本統計調査 (217 年

金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

( 第 1 段階 ) 報酬比例部分はそのまま定額部分を段階的に廃止 2 年ごとに 1 歳ずつ定額部分が消える ( 女性はすべてプラス 5 年 ) 報酬比例部分 定額部分 S16 S16 S18 S20 S22 4/1 前 4/2 ~4/2 4/2 4/2 4/2 ~~~

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01 公的年金の受給状況

政策課題分析シリーズ16(付注)

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- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

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問題の背景 高齢者を取り巻く状況の変化 少子高齢化の急速な進展 2015 年までの労働力人口の減少 厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ 少なくとも 年金開始年齢までは働くことのできる 社会 制度づくり ( 企業への負担 ) 会社にとっての問題点 そしてベストな対策対策が必要に!! 2

26公表用 栃木局版(グラフあり)(最終版)

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表 2 イ特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金は本来 65 歳から支給されるものです しかし 一定の要件を満たせば 65 歳未満でも 特別支給の老齢厚生年金 を受けることができます 支給要件 a 組合員期間が1 年以上あること b 組合員期間等が25 年以上あること (P.23の表 1 参照 ) c

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2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

2. 事例 Q&A [1] 公的年金制度の仕組み Q. 私は昭和 37(1962) 生まれの男性で 現在 55 歳のサラリーマンです 何歳からどのような年 金が受け取れるのでしょうか A. 65 歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金が それに加えて配偶者が 65 歳になるまで加給年金が 支給されます 確

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退職後の医療保険制度共済組合の年金制度退職後の健診/宿泊施設の利用済組合貸付金/私的年金退職手当/財形貯蓄/児童手当個人型確定拠出年金22 共イ特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金は本来 65 歳から支給されるものです しかし 一定の要件を満たせば 65 歳未満でも 特別支給の老齢厚生年金 を受けるこ

はじめに 定年 は人生における大きな節目です 仕事をする 働く という観点からすれば ひとつの大きな目標 ( ゴール ) であり 定年前と定年後では そのライフスタイルも大きく変わってくることでしょう また 昨今の労働力人口の減少からも 国による 働き方改革 の実現に向けては 高齢者の就業促進も大き

本誌に関するお問い合わせはみずほ総合研究所株式会社調査本部電話 (03) まで 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証す

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①公表資料本文【ワード軽量化版】11月8日手直し版【1025部長レク⑤後】平成30年61本文(元データあり・数値1004版)

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取材時における留意事項 1 撮影は 参加者の個人が特定されることのないよう撮影願います ( 参加者の顔については撮影不可 声についても収録後消去もしくは編集すること ) 2 参加者のプライバシーに配慮願います 3 その他 (1) 撮影時のカメラ位置等については 職員の指示に従ってください (2) 参

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この改正は 1 企業に勤務していながら厚生年金 健康保険の恩恵を受けられない非正規労働者に厚生年金 健康保険を適用し セーフティネットを強化することで 社会保険における 格差 を是正することや 2 社会保険制度における 働かない方が有利になるような仕組みを除去することで 特に女性の就業を促進して 今

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平成 30 年 2 月末の国民年金 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 及び福祉年金の受給者の 年金総額は 49 兆円であり 前年同月に比べて 7 千億円 (1.4%) 増加している 注. 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 受給 ( 権 ) 者の年金総額は 老齢給付及び遺族年金 ( 長期要件 ) につ

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図 1 60 歳 61 歳 62 歳 63 歳 64 歳 65 歳 生年月日 60 歳到達年度 特別支給の 男性 S24.4.2~S 平成 21~24 年度 女性 S29.4.2~S 平成 26~29 年度 男性 S28.4.2~S 女性 S33.4.2~S35.

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みずほインサイト 政策 218 年 6 月 8 日 年金繰下げ受給の効果 7 歳超の繰下げ拡大で高齢者の就業促進期待 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 3-3591-138 naoko.horie@mizuho-ri.co.jp 年金の支給開始年齢は原則 65 歳だが 66~7 歳からの繰下げ受給を選択すると年金額は繰下げ 1 カ月につき.7% 増える 今後 繰下げ制度の周知と 7 歳超の受給開始に関する検討が行われる 7 歳超の繰下げ増額率も同じとすれば 一定の仮定の下で計算すると手取りベースで比較しても単身世帯で 89 歳まで生存すれば 65 歳受給開始より 75 歳受給開始の方が生涯の年金総額は増える 少子高齢化が進み 労働力人口が減少するなか 7 歳代の就業を促進するためにも 7 歳超の繰下げ受給の拡大を進めていくことが必要である 1. 公的年金の支給開始年齢公的年金の支給開始年齢は原則として65 歳である ただし 厚生年金については 6 歳代前半に 特別支給の老齢厚生年金 が一部支給されており 完全に65 歳からの支給となるのは 男性は225 年度以降 (1961 年 4 月 2 日生まれ以降 ) 女性は23 年度以降 (1966 年 4 月 2 日生まれ以降 ) である ( 図表 1) 図表 1 特別支給の老齢厚生年金の支給 生年月日男性 1949.4.2~1953.4.1 女性 1954.4.2~1958.4.1 男性 1953.4.2~1955.4.1 女性 1958.4.2~196.4.1 男性 1955.4.2~1957.4.1 女性 196.4.2~1962.4.1 男性 1957.4.2~1959.4.1 女性 1962.4.2~1964.4.1 男性 1959.4.2~1961.4.1 女性 1964.4.2~1966.4.1 男性 1961.4.2~ 女性 1966.4.2~ 6 歳 65 歳特別支給の老齢厚生年金 ( 報酬比例部分 ) 61 歳 62 歳 63 歳 64 歳 65 歳 ( 注 )6~64 歳に支給される 特別支給の老齢厚生年金 の定額部分は既に支給終了 218 年度は男性は62 歳以上 女性は61 歳以上に報酬比例部分が支給されている ( 資料 ) 厚生労働省資料より みずほ総合研究所作成 1

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢の65 歳より5 年 (6カ月) 早く6 歳 カ月から受給を開始すると年金額は3.%(.5% 6 カ月 ) 減額となる 一方 繰下げ受給 を選択した場合には 繰下げ1カ月につき年金額が.7% 増 額される 5 年 (6カ月) 遅らせて7 歳 カ月から受給を開始すると年金額は42.%(.7% 6カ月 ) 増額となる ( 図表 2) 繰上げ受給を選択している者は 徐々に減少している 老齢基礎年金のみの受給権者 1 のうち 繰上 げ受給権者数は212 年度末時点で323 万人 受給権者全体の4.2% であったが 216 年度末には251 万 人 同 34.1% となっている ( 図表 3 左 ) なお 老齢厚生年金の受給については 現在 特別支給の老 齢厚生年金のうち 報酬比例部分が一部支給されているため 繰上げ受給を選択する者は少なく 216 年度末時点で5 万人 繰上げ受給率は.2% にとどまっている 図表 2 繰上げ受給と繰下げ受給の年金増減率 繰上げ受給 繰下げ受給 請求時の年齢 減額率 請求時の年齢 増額率 6 歳 カ月 3.% 66 歳 カ月 8.4% 61 歳 カ月 24.% 67 歳 カ月 16.8% 62 歳 カ月 18.% 68 歳 カ月 25.2% 63 歳 カ月 12.% 69 歳 カ月 33.6% 64 歳 カ月 6.% 7 歳 カ月 ~ 42.% ( 資料 ) 厚生労働省資料より みずほ総合研究所作成 図表 3 繰上げ受給と繰下げ受給の状況 繰上げ受給 繰下げ受給 ( 万人 ) 45 4 4.2 38.6 35 人数 3 割合( 右目盛 ) 45 37.1 4 35.6 34.1 35 3 ( 万人 ) 6 5 1.2 4 1.3 国民厚生 1.3 1.2 1.1 1.3 1.1 割合( 右目盛 ) 1.4 1.4 1.2 1.5 1. 25 2 25 2 3 人数 厚生 15 323 34 286 268 251 15 2.5 5 5 212 13 14 15 16 ( 年度 ) 23 24 国民 25 26 28. 212 13 14 15 16 ( 年度 ) ( 注 ) 繰上げ受給は 老齢基礎年金のみの受給権者のうち繰上げ受給権者数とその割合 繰下げ受給の 国民 は老齢基礎年金のみの受給権者のうち繰下げ受給権者数とその割合 厚生 は老齢厚生年金の受給権者のうち繰下げ受給権者数とその割合 それぞれ年度末現在 ( 資料 ) 厚生労働省資料より みずほ総合研究所作成 2

一方 繰下げ受給権者数は 老齢基礎年金のみの受給権者については 万人程度 受給権者全体に占める割合は1.3~1.4% で推移している 老齢厚生年金の受給権者については 212 年度末の23 万人から徐々に増加しており 216 年度末には28 万人となった ただし 受給権者全体に占める割合でみると 1.1~1.2% で推移しており あまり変化していない ( 前掲図表 3 右 ) 3. 繰下げ受給の拡大検討 218 年 2 月に閣議決定された 高齢社会対策大綱 では 公的年金の繰下げ受給に関して 65 歳より後に受給を開始する繰下げ制度について 積極的に制度の周知に取り組むとともに 7 歳以降の受給開始を選択可能とするなど 年金受給者にとってより柔軟で使いやすいものとなるよう制度の改善に向けた検討を行う と記されており 今後 繰下げ受給の拡大が検討される見通しである 繰下げ増額率については 7 歳 カ月までと同様に繰下げ1カ月につき年金額が.7% 増額と仮定すると 75 歳 カ月からの受給の場合 年金額は84.% の増額となる 218 年度の新規裁定者の年金額 ( 老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計 ) は 男性の平均的収入 2 で4 年間就業した場合で年額 188 万円である 3 この年金額で繰下げ受給を選択すると 7 歳 4 からの受給で266 万円 75 歳からの受給が可能になれば345 万円 ( 繰下げ1カ月につき.7% 増額の場合 ) となる ただし 年金額が増額されると 税や社会保険料の負担も増えるため 手取りベースで考えると増額率は抑制される 年金額 他の収入 各種控除 居住する地域等により税や社会保険料が異なるため 手取りベースの増額率は条件により差が生じる 以下では 仮に 単身世帯で 東京 23 区のうち最も人口数が多い世田谷区の例で計算すると 先ほどの男性の平均的収入で4 年間就業し 年金以外の収入がない場合の手取り収入額は 65 歳からの受給で169 万円 7 歳からの受給で229 万円 75 歳からの受給で291 万円となる ( 図表 4) 図表 4 繰下げ年齢別の年金額 ( 万円 ) 35 3 25 2 年金額 手取り額 15 5 65 66 67 68 69 7 71 72 73 74 75 受給開始年齢 ( 歳 ) ( 注 ) 単身世帯で 男性の平均的収入で4 年間就業したときの218 年度の年金額をもとに受給開始時の年金額と手取り額を算出 受給開始年齢は各年齢のカ月のもの 218 年度価格 7 歳 1カ月以降も繰下げ増額率が1カ月につき.7% 増額されると仮定 医療保険料は74 歳までは国民健康保険で世田谷区の218 年度の保険料 75 歳は東京都の218 年度の後期高齢者医療保険料 介護保険料は世田谷区の218 年度の保険料で算出 所得税 住民税は 基礎控除 公的年金等控除 社会保険料控除のみを考慮 ( 資料 ) 厚生労働省 国税庁資料等より みずほ総合研究所作成 3

前述の例による受給開始年齢別の手取り年金額から 手取り繰下げ増額率 を算出すると 7 歳から受給を開始すると35%( 制度上の繰下げ増額率は42%) 75 歳から受給を開始すると72%( 同 84%) となる ( 図表 5) また 同じ例で 受給開始年齢が65 歳 7 歳 75 歳のときの受給終了年齢別 ( 死亡年齢別 ) の年金総額 ( 手取りベース ) を比較すると 65 歳より7 歳で受給開始した方が生涯の年金総額が増加するのは84 歳 カ月以上生存したときとなる また 65 歳より75 歳で受給開始した方が年金総額が増加するのは88 歳 カ月以上生存したときとなる ( 図表 6) 図表 5 受給開始年齢別の繰下げ増額率 9 84 8 76 67 7 59 72 6 5 64 5 増額率 42 57 4 34 49 42 3 25 35 17 2 28 8 21 手取り増額率 14 7 65 66 67 68 69 7 71 72 73 74 75 受給開始年齢 ( 歳 ) ( 注 ) 前提条件は 図表 4と同じ ( 資料 ) 厚生労働省 国税庁資料等より みずほ総合研究所作成図表 6 受給開始年齢別の年金総額 ( 手取りベース ) ( 万円 ) 8, 7, 6, 5, 4, 3, 65 歳から受給 7 歳から受給 75 歳から受給 2, 1, 65 7 75 8 85 9 95 受給終了年齢 ( 歳 ) ( 注 ) 前提条件は 図表 4と同じ 点部分は各年齢の11カ月まで年金を受給した場合 ( 資料 ) 厚生労働省 国税庁資料等より みずほ総合研究所作成 4

また 7 歳より75 歳で受給開始した方が年金総額が増加するのは93 歳 7カ月以上生存したときとなる ( 前掲図表 6) 7 歳超の繰下げ増額率については7 歳まで ( 繰下げ1カ月につき.7% 増 ) より上乗せされることも考えられる 図表 5で示した手取りベースの繰下げ増額率は一例であり 年金額や他の条件により個人ごとに異なることには留意する必要があるが 216 年時点の65 歳の平均余命 5 は 男性は19.55 年 (84.55 歳 ) 女性は24.38 年 (89.38 歳 ) であることを考えると 7 歳超の繰下げ受給を普及させるには繰下げ増額率の上乗せが必要であろう 6 4. 高齢者の就業と年金年金の繰下げ受給の拡大の狙いは 高齢化が進むなか 高齢期における職業生活の多様性に対応した年金制度の構築 のためである 7 現在 6 歳定年企業が多いものの 企業には65 歳までの継続雇用制度の導入等も含めた雇用確保が義務付けられており 65 歳までの雇用確保は概ね定着した 今後は 7 歳を見据えた雇用機会の確保が課題になるが 現在 66~69 歳定年企業が.7% 8 7 歳以上定年企業が1.1% 定年制を廃止した企業が2.6% 希望者全員に66 歳以上の継続雇用制度を導入している企業が5.7%(66~69 歳が.6% 7 歳以上が5.1%) にとどまっている ただし 65 歳以上の就業者数は徐々に増加しており 217 年の65 歳以上の就業者数は87 万人で うち65~69 歳が44 万人 7~74 歳が2 万人 75 歳以上が157 万人である ( 図表 7 上 ) また それぞれの年齢階級別の人口に占める就業者の割合 ( 就業率 ) でみると 65~69 歳 7~74 歳はこの数年上昇しており ( 図表 7 下 ) 65 歳以上の就業者数が増加しているのは高齢者数そのものが増加しているだけ図表 7 65 歳以上の就業者数と就業率の推移 ( 万人 ) 8 87 就業者数 157 75 歳以上 6 482 2 7~74 歳 4 9 137 65~69 歳 2 44 255 22 3 4 5 6 7 8 9 12 13 14 15 16 17 ( 年 ) 5 就業率 44.3 65~69 歳 4 34.2 3 27.4 21.9 7~74 歳 2 9.1 9. 22 3 4 5 6 7 8 9 12 13 14 15 16 17 ( 年 ) 75 歳以上 ( 注 )211 年はデータなし 就業者数は四捨五入の関係で必ずしも合計と一致しない 就業率は 各年齢階級別の人口に占める就業者の割合 ( 資料 ) 総務省 労働力調査 ( 詳細集計 ) ( 各年版 ) より みずほ総合研究所作成 5

ではなく 就業率が上昇していることも影響している わが国の高齢者の就業意欲は高いことが知られる 6 歳以上の男女を対象とした内閣府 高齢者の地域社会への参加に関する意識調査 (213 年 ) によると 就労を希望する年齢は 働けるうちはいつまでも が29.5% 76 歳以上 が2.7% 75 歳ぐらいまで が.1% 7 歳ぐらいまで が 23.6% となっており 65 歳を超えて働きたいと回答した者の割合が全体の7 割弱となっている これを年齢層別にみると 年齢層が高いほど 働けるうちはいつまでも と回答する割合が高まる傾向がある こうしたなかで 7 歳代の就業をさらに促進するためにも 7 歳を超える繰下げ受給の拡大を実施すべきである また 現在 厚生年金の適用対象は7 歳未満となっているが 7 歳以上も適用対象とし 保険料を拠出し続けることになれば 退職後の年金額のさらなる増額にもつながる 厚生年金の適用対象年齢の引き上げもあわせて検討すべきであろう なお 高齢者の就業促進に関しては 年金制度改革のみならず それぞれの就業ニーズに応じた多様な形態による就業機会や勤務形態の確保 高齢者を積極的に雇用する企業への支援拡大 再就職支援や高齢期の起業支援等の対策もあわせて実施することが必要である 1 年金を受ける権利を持っていて 本人の請求により裁定された者 全額支給停止されている者も含む 2 平均標準報酬 ( 賞与を含む月額換算 )42.8 万円 3 厚生労働省 平成 3 年度の年金額改定について (218 年 1 月 26 日 ) による 月額 156,336 円 4 7 歳 カ月 以下同じ 5 厚生労働省 簡易生命表 (216 年 ) による 6 繰下げ受給で年金額が増額されることにより 医療保険や介護保険の自己負担割合が上がることがある 医療費は 7 歳以上は原則 2 割負担 75 歳以上は原則 1 割負担であるが 現役並み所得者 ( 単身世帯で年金収入等が 383 万円以上 ) は現役世代と同じ 3 割負担である 介護保険は原則 1 割負担だが 一定以上所得者は 2 割負担 ( 単身世帯で年金収入等が 28 万円以上 ) であり 218 年 8 月からは 2 割負担者のうち特に所得の高い層 ( 同 34 万円以上 ) は 3 割負担となる 7 高齢社会対策大綱 (218 年 2 月閣議決定 ) による 8 厚生労働省 平成 29 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (217 年 6 月 1 日現在 ) による 全国の常時雇用する労働者が 31 人以上の企業 156,113 社に占める企業数の割合 以下同じ 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 取引の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません 本資料のご利用に際しては ご自身の判断にてなされますようお願い申し上げます また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります なお 当社は本情報を無償でのみ提供しております 当社からの無償の情報提供をお望みにならない場合には 配信停止を希望する旨をお知らせ願います 6