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Ⅰ はじめに 臨床実習において 座位での膝関節伸展筋力の測定および筋力増強訓練を行っ た際に 体幹を後方に傾ける現象を体験した Helen ら1 によると 膝関節伸展 の徒手筋力測定法は 座位で患者の両手は身体の両脇に検査台の上に置き安定を はかるか あるいは台の縁をつかませる また 膝関節屈筋群の緊張をゆるめる ために 患者に身体を後ろに傾けさせるのがよいとされている 牛ら2 は 膝関節運動における足関節角度変化への影響について調べ 足関 節背屈位での膝関節屈曲筋力で有意な高値を認めたとして 膝関節と足関節の二 関節筋である腓腹筋に適切な伸張が加わったことが原因であると述べている こ れらの研究から われわれは身体を後方に傾けることで二関節筋である股関節屈 筋群の影響もあるのではないかという仮説を立てた 股関節は足関節と比較して も可動域が大きく 大腿直筋やハムストリングス等の二関節筋が伸張されること からくる影響が現れやすいのに対し 股関節の角度の違いにおける膝関節筋力に ついての研究は少ない 本研究の目的は 健常成人男性を対象に CYBEX を用いて膝関節屈曲 伸展 動作における股関節角度の違いが膝関節屈曲 伸展動作の二関節筋力にどのよう な影響を及ぼすのかを把握することで 筋力測定および効率的な筋力増強訓練を 検討することである Ⅱ 対象と方法 本校に在籍する部活動に所属していない健常男子学生 14 名を対象とした 年 齢は 21.0±0.2 平均値±標準偏差 歳 体重は 66.0±9.7kg であった 倫理的配 慮については 本人に本研究の目的や個人情報の保護 協力を拒否しても何の不 利益も被らないことを文書と口頭で説明し 同意書にて同意を得た なお 本研 究は神戸国際大学倫理審査委員会の承認 第 G2013-003 号 を得て実施した 方法として 測定機器は CYBEX HUMAC2009-NORM System を用いた 対 象者は第一肢位として 股関節 膝関節 90 屈曲位になるように端座位をとり 対象者の体幹をシートベルト 大腿遠位部を大腿固定ベルトで固定し 上肢は体 側に下垂しシート横の固定グリップを把持させた 抵抗部位としての膝 股関節 用固定パッドは下腿前面の遠位1 3にベルトで固定し 図1 膝関節最大屈 曲 最大伸展の範囲で角速度 60 sec の等速運動を5回測定した 30 秒休憩後 膝関節 60 屈曲位での膝関節伸展の等尺運動を5秒間測定した それを3セット 98

股関節角度の違いが膝関節屈曲 伸展の筋力に及ぼす影響 行い セット間休憩は 30 秒とした 次に第二肢位として 股関節屈曲 伸展中 間位になるように背臥位で 膝関節より遠位は下垂するように 90 屈曲位とな り シートベルトの代わりに骨盤を胴体ベルト 体幹を測定者が固定し その他 は第一肢位と同様の方法で測定した 図2 そして膝関節屈曲 伸展の等速運 動ではピークトルクの BW 値 体重比 発揮したトルクなどの数値を 体重で 除して 100 乗じた値 体重1kg あたり発揮数値 ピーク時関節角度 ピークト ルクを発揮した角度 ピーク時間 トルクを発揮したところから ピークトル クまで要した時間 の測定を行い 膝関節伸展の等尺運動ではピークトルクの BW 値を測定した 測定は両下肢で行った 統計学的処理は R を使用し 対応のあるt検定や Wilcoxon の符号位順 位和検定を用いた なお統計学的有意水準は5 未満とした p 0.05 図1 第一肢位 座位 図2 第二肢位 背臥位 Ⅲ 結果 座位と背臥位における等尺 等速運動での膝関節屈曲 伸展筋力の関係を表に 示した 表1 ピークトルクの BW 値は 右側の膝関節伸展の等尺運動 両 側の膝関節伸展の等速運動 両側の膝関節屈曲の等速運動において 背臥位と座 位で有意な差が認められた 特に 右側の膝関節屈曲の等速運動は著明な有意差 が認められた の膝関節伸展の等尺運動では有意な差は認められなかった が 背臥位より座位で高値を示す傾向が見られた ピーク時関節角度は 両側の 膝関節伸展の等速運動で背臥位と座位の有意な差は認められなかったが 両側の 膝関節屈曲の等速運動では著明な有意差が認められた ピーク時間は 両側の膝 99

関節伸展の等速運動で背臥位と座位の有意な差は認められなかったが 両側の膝 関節屈曲の等速運動では背臥位と座位で著明な有意差が認められた 14 名の平均的な膝関節伸展等速運動の膝関節角度に対するトルクの偏倚を図 に示した 図3 背臥位 座位ともにピークトルク以降で急激なトルクの減少 が認められた 表1 等尺運動 座位と背臥位における等尺 等速運動での膝関節屈曲 伸展筋力の関係 ピークトルク BW 背臥位 座位 p値 膝関節伸展 右側 283.0±56.3 314.5±51.7 278.2±47.6 311.2±66.2 膝関節伸展 右側 193.3±55.5 223.5±59.5 192.6±58.1 212.3±53.8 屈曲 右側 89.9±21.1 112.8±30.1 88.9±20.1 106.4±25.8 63.2±9 64.7±9.5 59.6±9.4 54.7±11.3 屈曲 右側 31.6±11.3 48.5±12.2 31.0±13.8 44.4±13.8 膝関節伸展 右側 0.57±0.17 0.57±0.18 0.54±0.19 0.68±0.31 屈曲 右側 0.57±0.20 0.79±0.19 0.60±0.17 0.79±0.22 単位 Nm 等速運動 ピークトルク BW 単位 Nm ピーク時関節角度 膝関節伸展 右側 単位 ピーク時間 単位 秒 p 0.05 p 0.05 p 0.01 Wilcoxon の符号位順位和検定による解析 座 図3 位 背臥位 平均的な膝関節伸展等速運動の膝関節角度に対するトルクの偏倚 100

股関節角度の違いが膝関節屈曲 伸展の筋力に及ぼす影響 Ⅳ 考察 ピークトルクの BW 値は 膝関節伸展の等尺運動 膝関節伸展 屈曲の等速 運動において 背臥位と座位で比較すると座位で高値を示した 膝関節伸展の等尺運動では 膝関節 60 屈曲位を測定肢位と設定したこと また 等速運動におけるピーク時関節角度が膝関節屈曲 60 付近にあったこ とから 背臥位では大腿直筋が大きく伸ばされた状態にあったと考えられる Herzog 3 4 は 股関節角度0 では膝関節 20 から 30 屈曲位において大腿直筋 が至適長となると報告していることからも 本研究の設定肢位における大腿直 筋の長さは最大収縮を起こす至適長ではなかったと考えられる また Maffiuletti ら5 によれば股関節角度0 に対し 90 で大腿直筋 外側広筋 内側広筋の筋活 動が大きいと報告している このことからも 座位では背臥位に比べ大腿直筋 外側広筋 内側広筋の筋活動が大きいことが考えられる さらに背臥位と座位の 動作を比較した場合 背臥位では上肢は固定グリップを把持しにくく上肢による 代償は少なかったが 腹筋群により骨盤の後傾を行い筋長を確保することで膝関 節の運動を代償しており 座位では背臥位と同じように骨盤の後傾による代償に 加え 固定グリップを把持しやすく上肢による代償が大きかった これらのこと から座位は背臥位と比較して 大腿直筋の至適長に違いがあり 大腿直筋 外側 広筋 内側広筋の筋活動が大きく 上肢による代償が多くみられたと考えられ る 次に膝関節屈曲運動において オーチス6 によると ハムストリングスの最 適なモーメントアームは膝関節の屈曲角度によって決定されるとあり また モーメントアームよりも筋長の影響を大きく受けると述べている 座位と背臥位 では膝関節屈曲におけるハムストリングスの最適なモーメントアームは変化しな いが 筋長が短かったと考えられる また背臥位と座位の動作を比較した場合 背臥位では背筋群により骨盤前傾を行い筋長を確保していたが 座位では骨盤前 傾と固定グリップ把持による上肢代償が大きかったことから 座位は背臥位と比 較してハムストリングスも筋長に違いがあり 上肢による代償が多くみられたと 考えられる の膝関節伸展の等尺運動では有意な差は認められなかったが 背臥位より 座位で高値を示す傾向が見られたことについては 測定の順序として 対象者全 員においてから開始し習熟度が乏しかったのに対して 右側では学習の転移 によりより習熟度が高まったことが考えられる ピーク時関節角度は 両側の膝関節伸展の等速運動で 背臥位と座位の有意な 101

差は認められなかったが 両側の膝関節屈曲の等速運動では背臥位の方がより伸展位でピークトルクを示した またピーク時間でも同様に 膝関節屈曲は座位と比べて背臥位でピークトルクが伸展位へと移行するという結果が得られた 膝関節等速運動の伸展において 背臥位と座位で差がなかったため筋長は影響せずモーメントアームが影響していると考えられる Neumann 7) によると 膝関節の最大伸展トルクは 一般に膝関節屈曲 45 70 のあいだで発生し これはモーメントアームが影響していると述べており 本研究の結果に対する我々の考察と一致する 膝関節等速運動の屈曲において 股関節伸展でピークトルクが伸展位へと移行した オーチス 6) の報告からも 背臥位では座位に比べハムストリングスが短縮しているため 筋長による影響で座位よりピークトルクが伸展位にあることが考えられる 膝関節伸展の等速運動では 背臥位 座位ともにピークトルク以降で急激なトルクの減少が認められた Neumann 7) によると 最大努力での膝関節伸展トルクは 伸展のてこ作用の減少と筋長の短縮とが組み合わさって 典型的には膝関節伸展の最終 30 で急激に落ち込むと述べている また Durarte ら 8) によると 一般的に内側広筋は膝関節伸展域に働きやすいといわれている しかし 江間ら 9) によると 内側広筋の活動が膝関節を伸展するほど低くなったと報告している さらに川島ら 10) によると 座位にて膝関節屈曲 90 での最大等尺性収縮時の筋放電量を 100% と換算した場合 膝関節伸展位では内側広筋で 76% であり 膝関節伸展位では屈曲位と比べ内側広筋の筋活動が低下していることや内側広筋は伸展位では膝蓋骨の安定性により関与し 屈曲位では膝関節伸展張力としての役割が大きくなるのではないかと報告している 今回得られた結果はこれと一致するものである このことから 座位での膝関節筋力の測定および筋力増強訓練を行った際に 体幹を後方に傾ける現象が見られることは 膝関節伸展の最終域の大腿直筋の筋長の短縮や てこ作用の減少 内側広筋の働きの減少を大腿直筋の筋長を伸ばすことでトルクの低下を代償していたと考えられる これらの結果から 筋力測定で最大筋力を求めるためには 肢位は座位で行い 膝関節伸展運動では膝関節屈曲 60 付近 膝関節屈曲運動では膝関節屈曲 45 付近の関節角度で行うこと また 座位姿勢が困難な状況で背臥位などの股関節角度 0 で行う場合は膝関節伸展運動では座位と同じ角度だが 膝関節屈曲運動で膝関節屈曲 30 付近で行うことが良いと示唆された 次に 筋力増強訓練肢位は筋力測定と同様の理由から 座位で二関節筋の影響を考慮し膝関節伸展最終域での大腿直筋の短縮やハムストリングスの伸張による 102

股関節角度の違いが膝関節屈曲 伸展の筋力に及ぼす影響 抵抗を防ぐために 体幹を後ろに傾けるような肢位をとることが良いと示唆され た また 負荷量の面では 全可動域において同一の負荷をかけた場合 関節角 度しだいで過負荷や低負荷になることが考えられるため 可動域に適切な負荷量 の抵抗をかけることでこれらを改善することができる 膝関節伸展運動ではピー クトルクが 60 以降では減少した結果から 膝関節を伸展するにつれて 抵抗を 弱めることが良いと考えられる 膝関節屈曲運動はピークトルクが 45 以降でも 大きな変化は認められず 屈曲最終域 90 付近でピークトルクが減少した結果か ら 屈曲最終域付近で抵抗を弱める負荷のかけ方が良いと示唆された 本研究の限界点は四つあると考えられ 第一に男性のみを対象としたこと 第 二に対象者は正常の若年者のみであり 障害者 高齢者では言及することができ ないこと 第三に股関節の角度の条件設定が0 背臥位 と 90 座位 の2 パターンの為に その間の角度に関して述べられないこと 最後に 筋ごとの筋 収縮を捉えられなかったことが挙げられる 今後の課題として 女性や高齢者や 患者の特性を踏まえるために女性や高齢者や患者を対象として研究を進める必要 がある また 股関節における詳細な角度設定 例えば0 30 60 90 各筋の筋収縮を捉える事を目的とした筋電図の使用などにより 股関節角度が膝 関節筋力に及ぼす影響について研究していく必要がある 今回の研究では ピークトルクは背臥位より座位で有意に高値を示した 膝関 節伸展はモーメントアームが強い影響を及ぼし 股関節角度が変化してもピーク 時関節角度は有意な変化は認められず 膝関節屈曲は筋長が強い影響を及ぼし 股関節角度が変化するとピーク時関節角度は有意な変化が認められた これらの ことから 筋力測定や筋力増強訓練は座位で行うこと ピークトルクの位置で筋 力測定を行うこと 訓練では関節角度に応じた負荷量の抵抗をかけることが良い と示唆された 謝辞 本研究に対し ご協力いただいた被験者をはじめとした全ての皆様にこの場を 借りて心から感謝申し上げます 103

参考文献 1)Helen JH, Jacqueline M. 新 徒手筋力検査法原著第 8 版. 津山直一, 中村耕三 ( 訳 ), 第 5 章下肢の筋力テスト { 膝関節伸展 ( 大腿四頭筋 )}, 東京, 協同医書出版社,pp224-227,2008. 2) 牛志馨, 霍明, 丸山仁司. 膝関節運動における足関節角度の変化への影響について. 理学療法科学 25(4):557-560,2010. 3)Herzog W, Abrahamse SK, ter Keurs HE. Theoretical determination of force length relatio of infact human skeletal muscles using the cross-bridge model. Pflugers Archiv 416(1-2):113-119, 1990. 4)Herzog W, Hasler E, Abrahamse SK. A comparison of knee exteor strength curves obtained theoretically and experimentally. Medicine and Science in Sports and Exercise 23(1):108-14, 1991. 5)Maffiuletti NA, Lepers R. Quadriceps femoris torque and EMG activity in seated versus supine position, Medicine and Science in Sports and Exercise 35(9):1511-1516, 2003. 6)Oatis CA. オーチスのキネシオロジー身体運動の力学と病態力学原著第 2 版. 山﨑敦, 佐藤俊輔, 白星伸一, 他 ( 監訳 ). 第 4 部 : 下肢のキネシオロジー { ユニット7 膝関節ユニット ( 第 42 章膝関節における筋活動の力学と病態力学 )}, 東京, ラウンドフラット,pp802,2012. 7)Neumann DA. 筋骨格系のキネシオロジー原著第 2 版. 嶋田智明, 有馬慶美 ( 監訳 ). 第 Ⅳ 部下肢 { 第 1 3 章膝関節 ( 膝関節の筋機能 )}, 東京, 医歯薬出版株式会社,pp596,2005. 8)Durarte-Cintra AI, Furalani J. Electromyographic study of quadriceps femoris in man.electromyographic Clin Neurophysiol, pp539-554, 1981. 9) 江間諒一, 若原卓, 金久博昭, 他. 股関節および膝関節角度が等尺性膝関節伸展トルクと大腿四頭筋の筋活動に与える影響. スポーツ科学研究 7:109-118,2010. 10) 川島敏生, 野鳥長子, 武田真佐美, 他. 大腿四頭筋のセッティング訓練の有効性について ( 内外側広筋の筋活動からの検討 ). 理学療法学 24:347,1997. 104