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および反復経口投与 (1 mg/kg, b.i.d. 8 日間 ),pregabalin は単回投与 (1~3 mg/kg) したときの疼痛閾値に与える影響を評価した. ラット神経障害性疼痛モデルにおける NCP-916 の血漿, 脳脊髄液および脊髄実質濃度は,NCP-916 を 1 mg/kg の用量で単回経口投与し, 投与 1,2,4 および 8 時間後に採取 採材し,NCP-916 濃度を測定した.NCP-916 の協調運動能はラットを 1 分間に 1 回転 (1 rpm) する rota-rod に乗せ, 薬物投与 1,3 および 6 時間後落下時間から評価した. 3. 多発性硬化症モデルラット EAE モデルにおける NCP-916 の効果多発性硬化症病態モデル (EAE モデル ) は Lewis 系雌性ラットの尾部に gpmbp(68-84) -adjuvant 投与液を皮内投与することで作製した.EAE モデルにおける P2X4 受容体の発現は EAE モデル作製後に経日的に L 脊髄領域を採材し, 定量的リアルタイム RT-PCR 法および免疫組織化学的手法により評価した.EAE モデルでは症状スコア, 体重および von Frey test による % 疼痛閾値について経日的な推移を観察し,NCP-916 の予防的 (EAE モデル作製日から 22 日間 ) 治療的反復投与(EAE モデル作製後 1 日目から 21 日間 ) における影響を観察した. 結果 考察 1. P2X4 受容体選択的低分子アンタゴニスト NCP-916 の同定新規 P2X4 受容体アンタゴニスト NCP-916 の in vitro 阻害活性および選択性を検討した. NCP-916 はヒト P2X4 受容体発現細胞における 2 µmol/l ATP 誘発 Ca 2+ 反応および P2X4 受容体電流を濃度依存的に阻害し (IC 値 :27.8 nmol/l), 非選択的 P2X 受容体アンタゴニストとして知られる TNP-ATP よりも 3 倍以上強い P2X4 受容体電流阻害活性を示した ( 図 1). 次に P2X4 受容体選択性を評価した結果,NCP-916 は 3 µmol/l までの濃度において P2X1,P2X2,P2X3, P2X2/3 および P2X7 受容体に % 以上の阻害作用は示さなかった. また,NCP-916 は 1 µmol/l の濃度において種々の受容体, イオンチャネル, トランスポーターおよびキナーゼに影響を及ぼさなかった. 次に NCP-916 の薬物動態プロファイルを評価した. 凍結肝細胞を用いて NCP-916 の代謝安定性を検討した結果, 凍結肝細胞に 4 時間インキュベーションしたときの NCP-916 の残存率は % 以上となり,NCP-916 は代謝安定性の優れた化合物であることが明らかとなった. また,NCP-916 は in vitro 血液脳関門透過性評価系から中枢移行性を有する化合物であると判定された. 本研究から,NCP-916 は強力かつ選択的な低分子 P2X4 受容体アンタゴニストであることを確認した. さらに,in vitro 薬物動態試験結果から NCP-916 は中枢移行性が高く代謝を受けづらい薬物動態プロファイルの良好な化合物であることが判明した.

図 1. ヒト P2X4 受容体発現細胞における 2 µmol/l ATP 誘発 P2X4 受容体 電流に対する NCP-916 および TNP-ATP の阻害活性 2. ラット神経障害性疼痛モデルにおける NCP-916 の効果ラット神経障害性疼痛モデルにおける NCP-916 の鎮痛作用を検証した. ラット神経障害性疼痛モデルにおいて NCP-916 は 3 mg/kg 以上の単回経口投与により用量依存的にアロディニアを抑制した (ED 値 :3. mg/kg) ( 図 2).NCP-916 は薬効が認められたすべての用量において, 投与 3 時間後以降に鎮痛作用が認められた.NCP-916 の血漿中濃度, 脳脊髄液中濃度および脊髄実質濃度を測定し, 薬効と P2X4 受容体が発現する脊髄 ( 標的器官 ) における濃度との関連を検証した. その結果, NCP-916 は中枢移行性を有し, 投与後 1 時間には目的濃度が脊髄に到達していることが判明した. この結果から,NCP-916 は薬効発現までに時間を要することが考えられた. 次に神経障害性疼痛治療薬の第一選択薬として使用される pregabalin の薬効を比較する目的で, ラット神経障害性疼痛モデルにおける鎮痛作用を評価した.Pregabalin は単回経口投与によりアロディニアを用量依存的に抑制した (ED 値 :9.1 mg/kg).pregabalin の鎮痛作用は NCP-916 のように頭打ちは観察されなかったが, 統計学的に有意な鎮痛作用が認められた 1 mg/kg 以上の用量では鎮静および自発運動の抑制が観察されたことから, 高用量では正確に疼痛閾値を測定できていない可能性が考えられた. そこで NCP-916 および pregabalin の中枢抑制作用について rota-rod test を用いて評価した結果,pregabalin は 3 mg/kg において協調運動能に有意な影響が観察されたが,NCP-916 は 6 mg/kg 投与においても影響は認められなかった ( 図 3). この結果から,P2X4 受容体阻害は上位中枢における神経活動へ及ぼす影響は小さいと考えられた. 次に,NCP-916 のラット神経障害性疼痛モデルにおける反復経口投与における影響を評価した. その結果,NCP-916 は投与期間中, 持続的な鎮痛作用が認められた. 本研究では, ラット神経障害性疼痛モデルにおける選択的 P2X4 受容体アンタゴニストの経口投与によるアロディニア抑制作用を初めて示した.NCP-916 は in vivo においても高い中枢移行性を有していることを確認したが,pregabalin のような中枢抑制作用が無いことから, 臨床で使用しやすい新規神経障害性疼痛治療薬として有用である可能性が示された. % paw withdrawal threshold (g) 1 1 2 4 6 8 23 24 2 $ 1 mg/kg 3 mg/kg 1 mg/kg 3 mg/kg % paw withdrawal threshold (g) 1 mg/kg 1 3 mg/kg 1 mg/kg 3 mg/kg 1 2 4 6 8 Time after administartion (hr) Duration time on Rota Rod (sec) 1 1 NCP-916 1 3 6 1 mg/kg 3 mg/kg 6 mg/kg Duration time on Rota Rod (sec) 1 1 Pregabalin 1 3 6 1 mg/kg 3 mg/kg 6 mg/kg 図 2. ラット神経障害性疼痛モデルにおける NCP-916 および pregabalin 経口投与による薬効評価 図 3. Rota-rod 試験における NCP-916 および pregabalin の影響

3. 多発性硬化症モデルラット EAE モデルにおける NCP-916 の効果多発性硬化症モデルである EAE モデルでは症状スコアの回復期において % 疼痛閾値が顕著に低下した. 多発性硬化症患者では回復期に神経障害性疼痛を伴うことが報告されていることから, 本病態モデルは臨床の病態を反映した疼痛評価モデルであると考えられた. EAE モデルにおける P2X4 受容体の関与を検討するために,P2X4 受容体の発現を免疫組織染色法にて確認した. その結果,P2X4 受容体の発現量増加と神経障害性疼痛の発症に経日的な変化に相関性が認められたことから, 疼痛閾値の低下に P2X4 受容体が関連していると考えられた. そこで, ラット EAE モデルにおける P2X4 受容体の痛みに対する寄与を薬理学的に明らかにするために,NCP-916 を反復経口投与し, 症状スコアならびに % 疼痛閾値に与える影響について検討した.NCP-916 反復経口投与は症状スコアには影響が認められなかったが,EAE 発症に伴って発現するアロディニアを抑制し ( 図 4), 統計学的に有意差が認められた.NCP-916 によって有意な鎮痛作用が認められたことから,EAE モデル動物は P2X4 受容体を介して神経障害性疼痛の発症および維持に関与していることが示唆された. % paw withdrawal threshold (g) 1 1 1 2 3 4 Day post immunization % paw withdrawal threshold (g) 1 1 1 2 3 4 Day post immunization adjuvant : vehicle adjuvant : NCP-916 EAE : vehicle EAE : NCP-916 図 4. NCP-916 治療的投与におけるラット EAE モデルの疼痛閾値の経日的変化 総括 本研究では P2X4 受容体を選択的かつ強力に阻害する NCP-916 を同定し,NCP-916 の経口投与による神経障害性疼痛モデルにおける薬効および副作用を検討した.NCP-916 はラット神経障害性疼痛モデルのアロディニアを抑制し, 反復投与においても鎮痛耐性は認められなかった. 既存の神経障害性疼痛治療薬は副作用の発現, 薬効不足および鎮痛耐性が問題となっている. 本研究から P2X4 受容体アンタゴニストは安全で有効性の高い画期的な神経障害性疼痛治療薬になると考えられた. また,EAE モデルにおける検討から,P2X4 受容体アンタゴニストは神経障害性疼痛だけでなく慢性炎症性脱髄性疾患に起因する疼痛にも関与することが明らかとなり, 幅広い疼痛への適用の可能性が示唆された. 引用文献 1) Tsuda et al. (23) Nature. 424(69):778-83.