食物アレルギー-そのしくみと治療の方向性-

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表1 - 1 食物に関連するアレルギー疾患

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

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より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

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食物アレルギーから見た離乳食の考え方

様式 1 食物アレルギーを持つ児童の保護者との面談調査票 ( 保護者 保育園記入用 ) 面談実施日 : 平成年月日 面談出席者 : 保護者側 保育園側 児童の情報 ( 保護者記入欄 ) クラス : 組 児童氏名 : 性別 : 男子 女子 生年月日 : 平成 年 月 日 年齢 : 歳 住 所 : 保護

食物アレルギーの診療の手引き2014

食物アレルギーの診療の手引き2017

序 蕁麻疹は, 皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎, 接触皮膚炎などの湿疹 皮膚炎群, せつとびひ, 癤などの感染症と並ぶ, ありふれた疾患 ( コモンディジーズ )( 群 ) である. その病態は, 皮膚マスト細胞の急激な脱顆粒により説明され, 多くの場合は抗ヒスタミン薬の内服によりマスト細胞から遊離

は めに 最近二つの薬用化粧品 ( 特定の効能を謳える化粧品 : 医薬外部品に入ります ) の健康被害が社会的に大きな問題になっています その一つは旧 茶のしずく石鹸 に含まれた加水分解コムギ末が 皮膚や粘膜からからだの中に繰り返し入ることで 一部の人にアレルギー抗体ができて コムギを含む製品を食べ


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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

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アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

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ルギー性接触皮膚炎症候群と診断されました 欧州医薬品庁は昨年 7 月にケトプロフェン外用薬に関するレヴュー結果を公表し 重篤な光線過敏症の発症は10 0 万人に1 人程度でベネフィットがリスクをうわまること オクトクリレンが含まれる遮光剤が併用されると光線過敏症のリスク高まることより最終的に医師の処

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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

侵入を防ぐ機能 ) が低下している状態 3 で天然ゴム製品と接触していたりすると 発症リスクがあることが分かっています 特に 医療従事 製造業 清掃業や介護業などに従事していて天然ゴム製のゴム手袋を頻繁に着用している方 手術などの医療行為を何度も受けている方 4 アトピー性皮膚炎などで慢性的に肌荒れ

とが多いのが他の蕁麻疹との相違点です 難治例ではこの刺激感のために日常生活に支障が生じ 重篤な随伴症状としてはまれに血管性浮腫 気管支喘息 めまい 腹痛 嘔気 アナフィラキシーを伴うことがあります 通常は暑い夏に悪化しますが 一部の症例では冬期の運動 入浴で皮疹が悪化することがあり 温度差や日常の運

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

次の目的で処方されます ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する減感作療法 この薬は 体調がよくなったと自己判断して使用を中止したり 量を加減したりすると病気が悪化することがあります 指示どおりに飲み続けることが重要です この薬を使う前に 確認すべきことは? この薬を使用する前に ダニ抗原によるアレル

食欲不振 全身倦怠感 皮膚や白目が黄色くなる [ 肝機能障害 黄疸 ] 尿量減少 全身のむくみ 倦怠感 [ 急性腎不全 ] 激しい上腹部の痛み 腰背部の痛み 吐き気 [ 急性膵炎 ] 発熱 から咳 呼吸困難 [ 間質性肺炎 ] 排便の停止 腹痛 腹部膨満感 [ 腸閉塞 ] 手足の筋肉の痛み こわばり

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アトピー性皮膚炎におけるバリア異常と易湿疹化アトピー性皮膚炎における最近の話題に 角層のバリア障害があります アトピー性皮膚炎の 15-25% くらい あるいはそれ以上の患者で フィラグリンというタンパク質をコードする遺伝子に異常があることが明らかになりました フィラグラインは 角層の天然保湿因子の

72 豊橋創造大学紀要第 21 号 Ⅱ. 研究目的 Ⅲ. 研究方法 1. 対象 A B

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

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1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

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海老澤元宏 Ebisawa Motohiro 独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部長編著に 症例を通して学ぶ年代別食物アレルギーのすべて ( 南山堂 ) など 食物アレルギーはどのような症状で どのようなしくみで起きるのでしょうか その診断や治療法などを紹介し アレルギー物質を含む食品表示についても解説します 食物アレルギーとは 厚生労働科学研究班の調査などから わが国では1 歳の10 人に1 人 3 歳では20 人に1 人が何らかの食物に対してアレルギーを起こすと推定されています *1 文部科学省が実施した学校における保護者からの子どもの食物アレルギーの調査への回答は 2007 年の調査では2.6% でしたが 2013 年に行った調査では速報値として4.5% と報告されています *2 近年 理由は不明ですが 先進国で食物アレルギーは増加傾向にあり大きな社会問題になっています 食物アレルギーとは 食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体 じゃっき にとって不利益な症状が惹起される現象 と定 ( かゆみを起こしたり くしゃみ 鼻水を出さ せる物質 ) ロイコトリエン( 気管支を収縮させたり 鼻づまりを起こす物質 ) などが放出され 私たちにとって好ましくないアレルギー反応が引き起こされます その結果 じんましん こうはんおうとせきこうとうふしゅぜんめい紅斑 下痢 嘔吐 咳 喉頭浮腫 喘鳴 呼吸困難などの症状が誘発されます つまり IgE 抗体依存性の食物アレルギーでは 摂取した食物がアレルギー反応を起こす能力を持った状態で消化管から吸収された後 血液を介して皮膚 気管支粘膜 鼻粘膜 結膜などに到達してアレルギー反応が起きるのです IgE 抗体依存性の反応の場合には 食物を摂取した直後から2 時間以内ぐらいにアレルギー反応を認めることがほとんどです ( 即時型反応 ) したがって 食物アレルギーを起こす物質は基 即時型アレルギーは IgE 抗体を介した反応 マスト細胞の分布する場所において症状が出現 ( 皮膚 鼻咽腔粘膜 眼球 & 眼瞼結膜 気管支粘膜 腸管粘膜など ) 図 1 義されています *3 一般の人がよく誤解していることですが 食物に含まれている化学物質 ( トマトやホウレンソウや鮮度の落ちた青魚などに含まれるヒスタミンなど ) による作用や 乳糖を体質的に分解できずに下痢を起こす乳糖不耐症などは食物アレルギーには含めません 図 1に示すように 食物アレルギーのメカニズムの大部分はIgE( 免疫グロブリンE) という生体内の微量なタンパク質が介在して起こることが知られています IgE 抗体は皮膚 腸粘膜 気管支粘膜 鼻粘膜 眼球結膜などに存在するマスト ( 肥満 ) 細胞に結合した状態で食物アレルゲン ( アレルギー反応を起こすもとのIgE 抗体と結合するタンパク質 ) と出会うことにより マスト細胞から化学伝達物質であるヒスタミン 疾患じんましん アレルギー性鼻炎 アレルギー性結膜炎 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 気管支喘息 アレルギー疾患のメカニズム (IgE 抗体依存性反応 ) 01

殊型生活情報クローズアップ 本的には食品中のタンパク質 ( アミノ酸が数個つながったペプチドも含む ) です わが国で多く認められる食物アレルギーの原因となる食物は 鶏卵 牛乳 小麦 甲殻類 果物類 そば 魚類 ピーナッツ等ですが 食物アレルギーは小児と成人で原因食物が異なり いろいろな臨床型 ( 表 1) *1 が存在します 食物アレルギーの症状と臨床型 食物アレルギーによって表 2に示すような症状が皮膚 粘膜 呼吸器 消化器などに出現します これらの即時型症状に引き続き血圧低下により脱力状態に陥り 緊急に対応しないと生命に影響を及ぼすアナフィラキシーショックを起こす場合もあるので注意が必要です 年齢によっても認められる症状が異なり 授かゆ乳期には慢性的な痒みを伴う湿疹 ( 顔面から始まることが多い ) を持つ子どもに食物アレルギー を合併していることが多いです 離乳期以降 本人が直接食物を摂取すると 幼児 学童 成人も含め じんましん 紅斑などの皮膚症状や呼吸困難などの急激な反応 ( 即時型症状 ) が出現することが多くなります 乳児期 特に授乳期のアトピー性皮膚炎に食物が悪化要因として関与することは多いのですが 幼児 学童と成長するに伴い食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の悪化要因として関与する例は少なくなっていきます 即時型のタイプの特殊型で最近増えている食物アレルギーに 口腔アレルギー症候群 があります 幼児期 学童期 成人期に果物 ( キウイフルーツ バナナ メロン もも パイナップル りんごなど ) や野菜などを口にすると口の粘膜や口周囲の皮膚にじんましん反応を起こすことがあります 果物アレルゲンの場合には 加熱処理することによりアレルゲン性が減弱あ 新生児 乳児消化管アレルギー 臨床型発症年齢頻度の高い食物 新生児期乳児期 耐性獲得 2 かんかい ( 寛解 ) アナフィラキシーショックの可能性 食物アレルギーの機序 牛乳 ( 育児用粉乳 ) 多くは寛解 (±) 主に非 IgE 依存性 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎 1 乳児期鶏卵 牛乳 小麦 大豆など多くは寛解 (+) 主に IgE 依存性 即時型症状 ( じんましん アナフィラキシーなど ) 乳児期 ~ 成人期 乳児 ~ 幼児 : 鶏卵 牛乳 小麦 そば 魚類 ピーナッツなど 学童 ~ 成人 : えび かになどの甲殻類 魚類 小麦 果物類 そば ピーナッツなど特鶏卵 牛乳 小麦 大豆などは寛解しやすい その他は寛解しにくい (++) IgE 依存性 食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FEIAn/FDEIA) 口腔アレルギー症候群 (OAS) 学童期 ~ 成人期 幼児期 ~ 成人期 小麦 えび かになど寛解しにくい (+++) IgE 依存性 果物 野菜など寛解しにくい (±) IgE 依存性 表 1 食物アレルギーの臨床型分類 1 慢性の下痢などの消化器症状 低タンパク血症を合併する例もある すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない 2 寛解とは 治療はしていないが 症状が軽減または消失すること 治ること 耐性獲得も同じような意味 皮膚症状粘膜症状消化器症状呼吸器症状全身性症状 そうようほっせき瘙痒感 じんましん 血管運動性浮腫 発赤 湿疹 眼症状 鼻症状 けん結膜充血 浮腫 瘙痒感 流涙 眼瞼浮腫くしゃみ 鼻汁 鼻閉 かゆ口腔咽頭症状口腔 口唇 舌の違和感 腫張 咽頭の痒み いがいが感腹痛 悪心 嘔吐 下痢 血便こうやくさせいがいそう喉頭絞扼感 喉頭浮腫 嗄声 咳嗽 喘鳴 呼吸困難アナフィラキシー多臓器の症状アナフィラキシーショック頻脈 虚脱状態 ( ぐったり ) 意識障害 血圧低下 表 2 食物アレルギーにより引き起こされる症状 02

るいは消失してしまうことも多く認められます 口腔アレルギー症候群のメカニズムの1つは シラカバやハンノキなどの花粉に対して IgE 抗体が作られている花粉症の患者において バラ科の果物 ( りんご ナシ サクランボなど ) を摂取した際に果物中の花粉のある成分に似ているタンパク質に反応してしまうことにより発症します 即時型食物アレルギーの特殊型のまれな食物アレルギーで 特定の食物と運動の組み合わせでじんましんから始まり呼吸困難 そしてショック症状に至る場合を 食物依存性運動誘発アナフィラキシー といいます わが国では 原因として小麦 甲殻類などが多く報告されています 原因食物を含む昼食を摂取した後 2 時間以内にサッカーなどの激しい運動をした場合に じんましんから始まり 呼吸困難 ショック症状に至るような例が典型的です 加水分解小麦けんを混ぜて泡立ちをよくした石鹸を使用した人たしゅちが小麦を食べてから運動し 顔面や眼瞼の腫ちょう脹 そしてアナフィラキシー症状が出るようになってしまった健康被害もこのタイプです 食物アレルギーの診断 食物アレルギーに対し 成人の患者や子どもの保護者が 食生活において経験的に ある食物に対してアレルギーがある と自己判断されているケースも多いです 自己判断が絶対に間違っているとは言いませんが 食物アレルギーの診断は専門の医師にも難しい作業です 即時型症状の場合には 誰の目にも明らかな症状が出現するので 詳しく話を聞けば原因食物の診断はそれほど難しくないですが 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎 ( 表 1) の場合には 湿疹がコントロールされていない状況では食物が関与しているかの判断は困難です このタイプの発症時の大きな特徴として 生後数カ月以内に顔面から始まる瘙痒の強い ステロイド外用療法に抵抗性 ( 改善と増 悪を繰り返す ) の湿疹が見られることです 保護者は 子どものアトピー性皮膚炎の湿疹が悪い状態にあると食物に原因を求めてしまうこともよくありますが 湿疹のコントロールが悪いと非特異的なこと ( 授乳や入浴などによる体温の変化等 ) で発赤などの症状が誘発されたように見えてしまうことも一因です また 食物アレルゲンに対するIgE 抗体の検査 *4 や皮膚テスト *5 によるIgE 抗体の証明が診断の補助的意味しか持たないことも食物アレルギーの診断を難しくしています 最終的には 食物除去試験 *6 や食物経口負荷試験 *7 ( 後述 ) によって食物アレルギーの診断を確定します 食物経口負荷試験は症状への対処に慣れた食物アレルギーを診療している専門医において施行されるべきです 食物経口負荷試験では 即時型症状が出現することがあり危険も伴うので 患者に対して家庭で行うように安易に指示すべきでないし 経験のない一般医が行うべきではありません 食物アレルギーの診療においては 病診連携 ( 診療所と病院の連携 ) を進めることが重要です 診断に関連して問題となるケースとして 保護者が食物をとらせると子どもが痒がるからと食物制限をどんどんエスカレートさせてしまったり アトピー性皮膚炎には食物アレルギーは関係ない と医師から相手にされず正しい診断が受けられていなかったりする場合があります また 血液検査 *8 や皮膚テストが陽性という理由だけで必要のない食物除去をずっと指導されている場合もあります 食物経口負荷試験を基本とした 正しい診断による必要最小限の食物除去 は非常に重要です 食物アレルギーの管理 正しい診断による必要最小限の食物除去 が食物アレルギーの基本的な対応 管理です 正しい診断による必要最小限の食物除去 には たくさんの意味が込められています 03

小児期 (0~ 15 歳 ) では 特に食物アレルギーと診断した後の定期的なフォロー 指導が大切です 小児期の食物アレルギーの中で最も多い 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎 ( 表 1) や 即時型症状 では そのほとんどが乳児期に発症し 3 歳までに約 5 割 小学校入学までに約 8~9 割が寛解します *1 したがって 食べられるようになったのでは ということを前提に 定期的に特異的 IgE 抗体検査や食物経口負荷試験を行う必要があります 乳児期に発症する食物アレルギーは鶏卵 牛乳 小麦 大豆の順に頻度が多いですが 一般的に改善がみられる順番は頻度の多さに反比例し 大豆 小麦 牛乳 鶏卵の順です しかし 食物アレルギーは個々に原因 治り方 検査データが異なるので 指導を一般化せずに個別にかつ的確に診断し対応していくことが重要です 食物経口負荷試験を実施する際は 原因食品であっても完全に除去することなく食べられることも多いので 細かい指導をすることで生活の質の改善や予後を改善することが期待されます *3 例を挙げると 卵黄と卵白を分けて考えること 加熱 非加熱でも症状を起こすアレルゲン性は異なります また 牛乳アレルギーでは 加工品中の牛乳に換算したタンパク質のほとんどは25ml未満と少量なので 食物経口負荷試験は加工品が摂れないかどうかというレベルから行うことが多いです 食品の種類によっても 患者の症状の訴えが異なることが多いので 違和感なく食べられるものをとっていくように指導します 食物経口負荷試験後の食事 栄養指導に管理栄養士が関わると診療上大きな力を発揮してくれます 食物アレルギーの診療は医師と看護師 管理栄養士などのコメディカルの共同作業といっても過言ではありません 幼児期以降 学童から若年成人にかけて発症する即時型症状のタイプでは 原因食物はそば ピーナッツ 魚類 甲殻類 果物類などが多い のですが 発症頻度は乳児期に比べると圧倒的に低いです 経過をみていくと乳児期に発症するタイプ ( 鶏卵 牛乳 小麦等 ) に比べて治りにくいのでより慎重に経過を追っていく必要があります 食物アレルギーの発症予防として 妊娠中も授乳中も特に母親の食物制限の必要はありません 偏食をしないように心がけることが大切です また 重症化を予防する観点から 乳児で痒みを伴うアトピー性皮膚炎を疑うようなケースで スキンケア ステロイド外用療法を行っても再燃 ( 抑えられていた症状がまたぶり返すこと ) して治療に抵抗性がみられる場合には 食物アレルギーを疑って早期に診断し対応することが大切です 早期に対応 管理することにより食物アレルギーの耐性を早期に獲得することが可能となります 食物アレルギーの今後の治療の方向性 食物アレルギーの治療 管理は さまざまな 可能性を模索し世界中で研究が進んでいます 乳幼児期に発症した小児の食物アレルギーは 小学校入学までに8~9 割は寛解しますが 3 歳以降には寛解の速度が鈍り 社会生活 ( 保育園 学校生活 ) の質を悪くします 近年 こうした患者に対する積極的な治療法として 経口免疫療法 といい原因食物を少量ずつ徐々に増やしながら定期的 ( 多くは連日 ) 摂取しながらからだを過敏な食物に対して慣れさせていく治療法の有効性が報告されています しかし 症いき状誘発閾値 ( アレルギーの症状が出る量 ) を増加させる効果は多くの症例で認められ誤食のリスクを防ぐことにおいては有効ですが 最終的な耐性化 ( 治ること ) まで誘導可能なのかは不明です さらに体調等の悪化 食後の運動などによるアレルギー症状の出現や消化器系の副作用もあるので世界的には一般診療として勧められていません *1 一方 わが国では我々の施 04

含有成分 商品名 薬効分類 医療用医薬品 : 禁忌 と明記されている薬剤 鶏卵 1 牛乳 塩化リゾチーム ( リゾチーム塩酸塩 ) アクディーム, エリチーム, ノイチーム, ムコゾーム 点眼液, リゾティア 点眼液, リフラップ, レフトーゼ タンニン酸アルブミンタンナルビンなど止 耐性乳酸菌 カゼイン 精製ゼラチンゼラチン ( ブタ皮由来 ) 一般用医薬品 2 鶏卵 牛乳 リゾチーム塩酸塩 ( 塩化リゾチーム ) タンニン酸アルブミン乳酸菌 CPP-ACP ( リカルデント ) エンテロノン ー R 散, エントモール 散, コレポリー R 散, ラックビー R 散ミルマグ 錠エマベリン Lカプセルアミノレバン EN 配合散, エンシュア H, エンシュア リキッド, ラコールNF 配合経腸用液, ラコール 配合経腸用液 エスクレ 坐剤 ジーシー MIペーストリカルデント ガム 消炎酵素 ししゃ瀉 整腸剤 剤, 整腸剤 制酸剤 緩下剤高血圧 狭心症治療剤 経腸または経口栄養剤 抱水クロラール坐剤 かぜ薬 鎮咳去痰薬 鼻炎用内服薬 口腔咽頭薬 ( トローチ剤 ) 痔疾用薬 歯痛 歯槽膿漏薬 一般点眼薬など止瀉薬整腸薬口腔ケア用塗布薬特定保健用食品 表 3 注意しなければならない医薬品 1 卵白アレルギーのある患者 とある 2 一般用医薬品については添付文書の 使用上の注意してはいけないこと に卵アレルギー患者または牛乳アレルギー患者が明記されているものを挙げた 設を含め専門施設において 外国に比べ幅広く研究的な診療として実施されています その他の新しい取り組みとして舌下免疫療法 経皮免疫療法などの研究も進められています 定期的な皮下注射によりIgE 抗体がマスト細胞と結合しなくなるようにする 抗 IgE 抗体療法 もアメリカでは経口免疫療法と組み合わせて臨床治験が進められています 注意すべき医薬品 食物アレルギー患者が注意しなければならない医薬品含有成分は 鶏卵アレルギー患者においては リゾチーム塩酸塩 ( 塩化リゾチーム ) が挙げられます ( 表 3) 塩化リゾチームはかぜちんがいきょたんやく薬や鎮咳去痰薬として医療用医薬品だけではなく一般用医薬品にも広く使用されているため 患者が 塩化リゾチームが卵白由来の成分であることを知らずに摂取し アレルギー症状を誘発する可能性は高いです 牛乳アレルギー患者では タンニン酸アルブミン 乳酸菌 カゼイン 乳糖 CCP-ACP 義務 推奨 表 4 特定原材料等の名称卵 乳 小麦 えび かに そば 落花生あわび いか いくら オレンジ キウイフルーツ 牛肉 くるみ さけ さば ゼラチン 大豆 鶏肉 バナナ 豚肉 まつたけ もも やまいも りんご ごま カシューナッツ 加工食品に含まれるアレルギー表示 ( リカルデント ) が挙げられます 感受性の 高い患者では乳糖や口腔ケアを目的に使用され るCCP-ACP( リカルデント ) に留意する必要ふけいざいがあります 特に乳糖は賦形剤 *9 やドライパウ ダータイプ (dry powder inhaler 以下 DPI) 製剤に安定剤として汎用されます 純度の高い乳糖にも微量の乳清タンパク質が残存し過敏な牛乳アレルギー患者は症状を引き起こします かんなお DPI 製剤に含まれる乳糖で経気道的な感さ作 *10 を増強することが報告されています ゼラチンは添加物もしくはカプセルの原材料として汎用されていますが 留意が必要なのは腸管粘膜からの吸収がよい坐薬であり 特にエスクレ 坐剤ではゼラチンアレルギー患者を投与禁忌の対象としています ( 表 3) 患者の体 05

調の良いときは問題ない量であっても 体調不こうしん良時には消化管からの吸収が亢進するなどの要因から重篤な反応を引き起こす場合があります 医療関係者は食物由来のアレルゲンを含む医薬品の知識を身に着けるとともに 患者や保護者が自己防衛できるように 避けるべき医薬品について医師や薬剤師が情報提供を行うことも大切です アレルギー物質を含む食品表示 2002 年 4 月より 発症頻度が多いか重篤な症 状を誘発しやすい食物 ( 特定原材料等 ) に対して 微量 ( 数 µg/g 以上 ) でも含有している場合は 原材料表示されるようになりました *1 ただし 表示の対象は容器包装された加工食品のみで 店頭販売品や外食は対象外です 原因食物の除去を実践するうえで重要な情報であり 患者および保護者に情報提供するべきです ( 表 4) 3 年に一度 厚生労働科学研究班で実施している即時型食物アレルギーによる全国の健康被害調査を参考に 表示品目を見直しています 2008 年 6 月より えび かにが義務表示に追加され 2013 年 9 月からごまとカシューナッツが推奨表示に加わりました わが国におけるアレルギー物質を含む食品表示は閾値を設定していることにおいて また 4 4 4 4 4 4 4 4 4 可能性表示 ( 例えば 卵が入っているかもしれない 4 4 など ) を許可していない点で高く評価されています この制度が始まる前には JAS 法による原材料表示規定で5% 未満の原材料は表記しなくてよいことになっていました 具体例としては カレールーに含まれているピーナッツバターなどが表示されていなかったので ピーナッツ ( 落花生 ) アレルギー患者がピーナッツの表示がないことで誤食し医療機関を受診するということも頻発していました 今でも 乳 に関する代替表記 *11 や紛らわしいものがたくさんあり 分かりにくいと患者た ちから言われることが多いです アレルギー物質を含む食品表示は 消費者庁の発足により同庁の関連する委員会において検討されるようになりました おわりに 厚生労働科学研究の 食物アレルギーの研究班 において 食物アレルギーの診療の手引き 2011 *1 および 食物アレルギーの栄養指導の手引き2011 が発行されホームページで公開されています 食物アレルギーの診療のレベルの向上と患者の生活の質の改善を目的として専門家が集まり作成しました 医師のみならず栄養士などコメディカルや一般の人にも分かりやすく解説されており 食物アレルギー研究会 (http://foodallergy.jp/) 等のホームページからダウンロード可能なので参考にしてください *1 厚生労働科学研究班 ( 研究代表者 : 海老澤元宏 ) 食物アレルギーの診療の手引き2011 *2 文部科学省 学校生活における健康管理に関する調査 中間報告 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/12/ icsfiles/afi eldfile/2013/12/19/1342460_1_1.pdf *3 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会 食物アレルギー診療ガイドライン2012 *4 血中抗原特異的 IgE 抗体検査 ( 以下 特異的 IgE 抗体検査 ) のこと 採血し 複数の食品に対しての特異的 IgE 抗体価を測定して原因食品を同定する ただし 陽性だからといって食物アレルギーが出現することとは必ずしも一致しない 詳細は *1を参考 *5 プリックテストまたはスクラッチテストなどがある 皮膚に原因食物と思われる食物の抽出物を一滴垂らして皮膚をわずかに傷つけ アレルゲンに特異的な抗体を検出する 詳細は *1を参考 *6 問診から疑わしい原因食物を食事の内容から1~2 週間完全に除去して 症状の改善が得られるかどうかを観察する検査のこと 母乳栄養の乳児では 母親の食事から除去する必要がある 詳細は *1を参考 *7 アレルギーの原因と思われる食物を実際に摂取し アレルギー症状の出現を観察する検査のこと 詳細は *1を参考 *8 特異的 IgE 抗体検査や好塩基球ヒスタミン遊離試験など 詳細は *1を参照 *9 錠剤 散剤 顆粒剤などの固形製剤に 成型 増量 希釈を目的に加えられる添加剤 *10 生体に特定の抗原を与え それに対する反応を強め アレルギーを起こしやすくすること *11 表記方法や言葉が異なるが 特定原材料と同一であるということが理解できる表記のこと *1~ 11 までは広報部作成 参考文献 厚生労働科学研究班 ( 研究分担者今井孝成 ) 食物アレルギーの栄養指導の手引き2011 海老澤元宏編 小児アレルギーシリーズ食物アレルギー ( 診断と治療社 ) 海老澤元宏編 症例を通して学ぶ年代別食物アレルギーのすべて ( 南山堂 ) 06

*********** ウェブ版 2014 年 4 月号の訂正について *********** 本誌に以下の誤りがありました 訂正とともにお詫び申し上げます 6 ページ左段 30 行目誤 : この制度が始まる前には JAS 法による原材料表示規定で5% 未満の原材料は表記しなくてもよいことになっていました 具体例としては 正 : JAS 法に基づく加工食品品質表示基準により 複合原材料の原材料のうち 複合原材料に占める重量の割合の高い順が3 位以下であって かつ 当該複合原材料に占める重量割合が5% 未満の原材料については その他 とまとめて記載することができます そのため アレルギー物質の表示制度が導入される前は 以上