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項目 1 炭水化物の消化 2 吸収と肝臓への輸送 3 血糖の細胞への取り込み 4 解糖系とその調節 5グリコーゲン合成

項目の詳細 1 関係する臓器と酵素 ならびに産物について解説する 単糖分子どうしの結合の種類によって切る酵素が違うことを説明する 乳糖不耐症について説明する 2 小腸粘膜細胞が単糖を取り込む方法について解説する 門脈について解説する 3 細胞への糖の取り込み機構について解説する 肝細胞と他の細胞との糖取り込み機構の違いについて解説する 4 解糖系は 簡単にいえば 6 炭糖を 2 分子の 3 炭糖 ( ピルビン酸 ) に分割する過程であること その過程で 1 分子から 2 分子の ATP と 2 分子の NADH を生じることを解説する ピルビン酸をこれからどう処理することになるかについての概略を説明する 解糖系の調節について フルクトース 2,6- ビスリン酸などのはたらきを解説する 5 エネルギーの貯蔵のために肝 筋ではたらくグリコーゲン合成と解糖系の関係を解説する

炭水化物の消化 口腔 唾液中の酵素 胃 低 ph により唾液アミラーゼの活性を停止 小腸 膵液中の酵素 : 多糖の消化 粘膜細胞表面の酵素 : 単糖に消化 腸管粘膜細胞が単糖を吸収する 特異的な輸送体 ( トランスポーター )

α- アミラーゼによって : でんぷん 乳糖 ショ糖セルロース でんぷんをデキストリン イソマルトース マルトース ( 麦芽糖 ) に分解 膵臓の α- アミラーゼによって : 肝臓へ デキストリンはさらにイソマルトース マルトースに分解 門脈から吸収 小腸粘膜細胞から吸収 セルロース : 糞便に排出 イラストレイテッド生化学図 7.10 小腸粘膜細胞の膜結合酵素 ( イソマルターゼ マルターゼ ラクターゼ スクラーゼ ) によって : 2 糖を単糖 ( グルコース フルクトース ガラクトース ) に分解

α- アミラーゼによる多糖の分解 グリコーゲン イラストレイテッド生化学図 7.9 マルトースとオリゴ糖 α(1 6) 結合をもつ 2 糖やオリゴ糖 α- アミラーゼは α(1 4) 結合だけを切る 糖鎖の分岐をつくる α(1 6) 結合は切れない

解剖生理学 図 6-11 小腸の構造

小腸上皮細胞からのグルコースの吸収 ナトリウムイオンとともにグルコーストランスポーター (SGLUT) を通じて管腔から吸収される ( 共輸送 )

糖質の消化についてのまとめ (1) 唾液中の α ーアミラーゼが食事中の多糖に作用してオリゴ糖が生じる 膵臓の α ーアミラーゼが多糖の消化をおこなう 最終的な糖質消化は小腸の粘膜細胞でおこなわれる いくつかのジサッカリダーゼにより単糖が生じる これらの酵素は腸管粘膜細胞の刷毛縁膜から分泌されそこにとどまる 糖質の吸収には特異的な輸送体 ( トランスポーター ) が必要である

図 7.11 小腸 大腸 乳糖不耐症 ラクターゼ欠損 乳糖 ガラクトースグルコース 大腸で乳糖は細菌のえさに 乳糖 ラクターゼの欠損または活性が不十分 水素二酸化炭素 3 炭糖 2 炭糖 水分を吸収 鼓腸 下痢 脱水 浸透圧性下痢

糖質不耐症について 糖質の吸収に欠陥 ( 遺伝性 腸疾患 栄養失調 腸管粘膜細胞を傷害する薬物などで ) があると 未消化の糖質が大腸に入り 浸透圧性下痢が生じる 未消化の糖質を細菌が発酵させて大量の CO 2 ガス H 2 ガスが生じ 急激な腹痛 下痢 腹部膨満が起きる ラクターゼ欠損によるラクトース不耐症が 糖質消化の欠陥の中では最も多く見られる

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細胞へのグルコースの取り込み グルコーストランスポーター GLUT-1: 赤血球と脳 GLUT-2: 肝臓 腎臓 膵臓 GLUT-3: 神経細胞 GLUT-4: 筋肉 GLUT-5: グルコースでなくフルクトースを輸送 イラストレーテッド生化学図 8.10

解糖系のはたらき 炭素数 6( グルコースなど ) 炭素数 3 の中間代謝物 2 分子 ( 以下略 ) CO 2 炭素数 2の中間代謝物 炭素数 4 の中間代謝物 イラストレーテッド生化学図 8.2 CO 2 炭素数 6 の中間代謝物 炭素数 5 の中間代謝物 CO 2

解糖系でのエネルギー発生 グルコース 2 分子の ATP を使う ( エネルギー投資段階 ) 4 分子の ATP 2 分子の NADH を生成する ( エネルギー生成段階 ) 2 分子のピルビン酸 イラストレーテッド生化学図 8.11 収支 グルコース 2 ピルビン酸 2 ADP 2 ATP 2 NAD+ 2 NADH

解糖系 : 中間代謝物 グルコース 6- リン酸 グルコース フルクトース 6- リン酸 フルクトース 1,6- ビスリン酸 グリセルアルデヒド 3- リン酸 炭素数 :6 デヒドロキシアセトンリン酸 1,3-ビスフォスフォグリセリン酸 3-フォスフォグリセリン酸 2-フォスフォグリセリン酸フォスフォエノールピルビン酸 イラストレーテッド生化学図 8.1 乳酸 ピルビン酸 炭素数 :3

解糖系 : 酵素からみて (1) 細胞外グルコースグルコーストランスポーター 細胞内グルコースグルコキナーゼ ヘキソキナーゼ グルコース6-リン酸フォスフォグルコースイソメラーゼ フルクトース 6- リン酸 フォスフォフルクトキナーゼ -1 フルクトース 1,6- ビスリン酸 フルクトース 1,6- ビスリン酸 グリセルアルデヒド 3- リン酸 1,3 ビスホスホグリセリン酸 アルドラーゼ ジヒドロキシアセトンリン酸 グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ ホスホグリセリン酸キナーゼ 3-ホスホグリセリン酸ホスホグリセリン 2- ホスホグリセリン酸 酸ムターゼ

解糖系 : 酵素からみて (2) 2- ホスホグリセリン酸 エノラーゼ ホスホエノールピルビン酸 ピルビン酸 ピルビン酸キナーゼ 反応が 一方通行 の酵素は? グルコキナーゼ ヘキソキナーゼ フォスフォフルクトキナーゼ -1 ピルビン酸キナーゼ

チェック項目 細胞に グルコースはどのようにして取り込まれるか? 肝臓と他の細胞との違い どの中間代謝物までが炭素数 6 で どこからどこまでが炭素数 3 か? どの中間代謝物どうしの間で エネルギーの出し入れが起こるか? 解糖系はどのようにしてコントロールされるか?

グルコースのリン酸化 グルコース リン酸化によって (1) グルコースが反応しやすい ( 高エネルギー ) になる また (2) 細胞膜を通過できなくなり 取り込んだグルコースをとどめておける ATP を消費 ヘキソキナーゼ (HK) または グルコキナーゼ (GK) グルコース 6 リン酸 イラストレーテッド生化学図 8.12

アルドースからケトースへ グルコース 6- リン酸 ( アルドース ) フォスフォグルコースイソメラーゼ イラストレーテッド生化学図 8.15 フルクトース 6- リン酸 ( ケトース )

フルクトース 6- リン酸から 2 分子のトリオース ( 炭素 3 つの糖 ) リン酸への分裂フルクトース 6 リン酸 ATP ATP を消費 フォスフォフルクトキナーゼー 1 ADP 抑制 :ATP, クエン酸亢進 :AMP 亢進 : フルクトース 2,6 ビスリン酸 フルクトース 1,6 ビスリン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 グリセルアルデヒド 3 リン酸

ピルビン酸の生成 (1) グルセルアルデヒド3リン酸 Pi NAD グルセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ NADH + H + 1,3 ビスホスホグリセリン酸 ADP ホスホグリセリン酸キナーゼ ATP 2,3 ビスホスホグリセリン酸 3- ホスホグリセリン酸 ( イラストレーテッド生化学図 8.18)

ピルビン酸の生成 (2) 3- ホスホグリセリン酸 2- ホスホグリセリン酸 H 2 O ホスホエノールピルビン酸 ADP ピルビン酸キナーゼ ATP 促進 フルクトース 1,6 ビスリン酸 ピルビン酸 ( イラストレーテッド生化学図 8.18)

ピルビン酸の処理 エタノール アセトアルデヒド ( 酵母 一部の細 CO2 菌など ) 乳酸 無気的解糖 CO2 ピルビン酸 オキサロ酢酸 NAD+ NADH + H + アセチル CoA TCA サイクルまたは糖新生 イラストレーテッド生化学図 8.24 も参照 TCA サイクルまたは脂肪酸合成

無気的解糖の終点 : 乳酸の生成 ピルビン酸 乳酸デヒドロゲナーゼ 血管に乏しい あるいはミトコンドリアを欠く組織では ピルビン酸の多くは最終的に乳酸になる たとえば 眼のレンズと角膜 腎臓の髄質 精巣 白血球 赤血球など 乳酸 イラストレーテッド生化学図 8.21 上の反応の平衡は NADH/NAD + 比で決まる 運動時の筋肉では 解糖による NADH の産生が酸化的リン酸化による処理よりも早いので 反応の平衡が乳酸生成のほうに偏る 細胞内環境が酸性化 けいれん 肝臓と心臓では NADH/NAD+ 比は運動時の筋肉よりも低い

質問 静止状態と比較すると 激しく収縮している筋肉では何が起こっているか A. ピルビン酸から乳酸への変換が増加している B. ピルビン酸の CO2 と水への酸化は減少している C. NADH/NAD+ 比は減少している D. AMP 濃度は減少している E. フルクトース 2,6- ビスリン酸濃度は減少している

乳酸アシドーシス 血漿中の乳酸濃度が上昇した状態 心筋梗塞 肺塞栓 大量の出血 ショック状態などで循環系が虚脱した場合におこる 酸素不足 酸化的リン酸化障害 ATP 合成の減少 嫌気的解糖の利用 乳酸の生成 酸素負債 : 酸素の利用可能性が不十分な時期から回復するために必要な余分の酸素 血中乳酸濃度でモニターする ショックの有無 重症度 患者の回復度

無気的解糖のまとめ (1) グルコース ATP を消費 グルコース 6 リン酸 フルクトース 6 リン酸 ATP を消費 フルクトース 1,6 ビスリン酸 グリセルアルデヒド 3 リン酸 2 分子の NADH を生成 2 分子の 1,3 ビスホスホグリセリン酸

無気的解糖のまとめ (2) 2 分子の1,3-ビスホスホグリセリン酸 2 分子のATPを生成 2 分子の3-ホスホグリセリン酸 2 分子の 2- ホスホグリセリン酸 2 分子のホスホエノールピルビン酸 2 分子の ATP を生成 2 分子の乳酸 2 分子のピルビン酸 2 分子の NADH を消費

解糖系の調節機構 グルコキナーゼ ( 肝臓 ) フォスフォフルクトキナーゼ 1 ピルビン酸キナーゼ

ヘキソキナーゼとグルコキナーゼ : 活性の濃度依存性 空腹時の血糖値 グルコキナーゼの Vmax 肝臓 グルコキナーゼ (GK) ヘキソキナーゼの Vmax ヘキソキナーゼ (HK) 血糖濃度 (mmol/l)

肝臓でのグルコキナーゼ (GK) の活性調節 グルコース 細胞膜 GLUT-2: グルコーストランスポーター グルコース 6 リン酸 細胞質 核 グルコースは核の GKRP が GK を細胞質に放出すること ( 活性化 ) を促進する フルクトース 6 リン酸 F6P は GK の核への移転 ( 非活性化 ) を促進する ピルビン酸 グルコキナーゼ調節タンパク (GKRP) 図 8.14

ホスホフルクトキナーゼ -1 (PFK-1) 不可逆的リン酸化反応 解糖系でもっとも重要な調節ポイントであり 一方向性の律速段階である 基質 (ATP, フルクトース 6- リン酸 ) の濃度による調節 調節物質による調節 細胞内エネルギーレベル (ATP,AMP, クエン酸 ) フルクトース 2,6- ビスリン酸

エネルギーレベルによる調節 高エネルギー時 :ATP クエン酸が高濃度 低エネルギー時 :AMP が高濃度 ホスホフルクトキナーゼ -1 は ATP とクエン酸によってアロステリックに阻害され AMP によってアロステリックに活性化される

フルクトース 2,6 ービスリン酸 フルクトース 6- リン酸からできる ( ホスホフルクトキナーゼ -2(PFK-2) によって ) フルクトースビスフォスファターゼ -2(FBP-2) によって分解される PFK-1 を活性化する フルクトース 1,6- ビスホスファターゼ (FBP-1) を阻害する

3 フルクトース 2,6- ビスリン酸による調節 ( 図 10.5 から作成 ) 解糖 フルクトース 6- リン酸 糖新生 ホスホフルクトキナーゼ -1 (PFK-1) 促進 PFK-2/FBP-2 複合体 フルクトース 2,6- ビスリン酸 抑制 フルクトースビスホスファターゼ -1 (FBP-1) フルクトース 1,6- ビスリン酸 フルクトースビスホスファターゼ -2 (FBP-2) の活性低下 フルクトース 2,6- ビスリン酸の濃度低下 フルクトースビスホスファターゼ -1(FBP-1) の活性上昇 フルクトース 1,6 ビスリン酸からフルクトース 6- リン酸への反応がすすむ

インスリン インスリンによる調節 グルカゴン アデニリルシクラーゼ プロテインキナーゼ A イラストレーテッド生化学図 8.17

血中のインスリン濃度が高まると肝細胞内フルクトース 2,6 ビスリン酸濃度が高まる 1. 細胞内 camp 濃度の低下 活性化されたプロテインキナーゼ A の濃度の低下 2. PFK-2/FBP-2 複合体のリン酸化反応は脱リン酸化されるほうに平衡が移動する 3. 脱リン酸化された PFK-2 は活性化されるが FBP-2 は不活性化される それで フルクトース 2,6 ビスリン酸が生成される 4. フルクトース 2,6 ビスリン酸は PFK-1 を活性化するので 解糖が促進される

質問 (1) ホスホフルクトキナーゼ -1 によって触媒される反応に関する以下の記述のうち正しいものはどれか A. 高濃度の ATP とクエン酸によって活性化される B. フルクトース 1- リン酸を基質とする C. 解糖系の律速反応である D. ほとんどの組織において平衡に近い E. フルクトース 2,6 ービスリン酸によって阻害される

質問 (2) 解糖系における以下の記述のうち正しいものはどれか A. グルコースの乳酸への変換には酸素が必要である B. ヘキソキナーゼは肝臓におけるグルコース代謝において 糖質を含む食餌をとったあとの吸収期において重要な役割をはたす C. フルクトース 2,6- ビスリン酸はホスホフルクトキナーゼ -1 の強力な阻害因子である D. 調節を受けている反応は不可逆反応である E. グルコースから乳酸への変換により 2 分子の ATP と 2 分子の NADH が産生される

ピルビン酸キナーゼの調節 (1) フルクトース 6 リン酸 ホスホエノールピルビン酸 ADP ピルビン酸キナーゼ ATP ピルビン酸 促進 フルクトース 1,6 ビスリン酸 Feed forward 調節

ATP グルカゴン ピルビン酸キナーゼの調節 (2) 肝細胞 アデニリルシクラーゼ camp + PPi 血糖値低 グルカゴンが分泌される プロテインキナーゼ A を活性化 結果的に 血液中にグルコースを放出する 糖新生 こちらにまわされるホスホエノールピルビン酸 リン酸化 ピルビン酸キナーゼ ( 活性型 ) リン酸化 ピルビン酸産生低下キナーゼ ( 非活性型 ) ピルビン酸

インスリンとグルカゴンが解糖系の酵素の量をどのように変えるか グルコキナーゼ インスリンで増大 グルカゴンで減少 ホスホフルクトキナーゼ インスリンで増大 グルカゴンで減少 ピルビン酸キナーゼ インスリンで増大 グルカゴンで減少 イラストレーテッド生化学図 8.23

ピルビン酸キナーゼの欠損症 赤血球においてピルビン酸産生低下 赤血球において ATP 産生低下 乳酸産生低下 赤血球が壊れやすくなる : 溶血 赤血球はミトコンドリアがないので 解糖だけがエネルギー (ATP) 源 ATP 不足 形の維持に必要な膜のポンプが機能しない 赤血球の形が変化 マクロファージに貪食される 溶血性貧血 : 赤血球の未熟な段階での細胞死と溶解によりおこる

質問 43 歳の男性が脱力 疲労 息切れ めまい感を訴えている ヘモグロビン値は 5~7g/dL( 男子の正常値は 13.5g/dL 以上 ) であった 患者から採取した赤血球では乳酸産生が異常に低下していた どの代謝経路の異常が考えられるか? 以下の酵素のうち どの酵素の欠損がこの患者の貧血の原因である可能性がもっとも高いか? A. ホスホグイソメラーぜ B. ホスホフルクトキナーゼ -1 C. ピルビン酸キナーゼ D. ヘキソキナーゼ E. 乳酸デヒドロゲナーゼ

グリコーゲン代謝 血糖値の維持 : グリコーゲンをグルコースに分解して血中に放出 グリコーゲン貯蔵場所 : 肝と筋 肝 : およそ 100g 含有 血糖になる 筋 : およそ 400g 含有 エネルギー源 イラストレーテッド生化学図 11.2

グリコーゲン代謝パスウェイの概要 グリコーゲン UDP- グルコース グルコース 1- リン酸 グルコース 6- リン酸 グルコース 図 11.1 より作成

グリコーゲンの構造 分岐部 α(1 6) グリコシド結合 直線部 α(1 4) グリコシド結合 図 11.3

グリコーゲンの合成 1. UDP- グルコースの合成 グルコース 6- リン酸 グルコース 1,6- ビスリン酸 グルコース 1- リン酸 図 11.6 ホスホグルコムターゼによるグルコース 6- リン酸からグルコース 1- リン酸の生成 グルコースウリジン二リン酸図 11.4 グルコース1-リン酸とUTPから UDP-グルコースピロフォスファターゼによって UDP-グルコースを生成

図 11.5 2 1 3 4 5 5 4 1UDP- グルコース生成 2UDP- グルコースからグルコースを受け取るためのプライマーとして 既存のグリコーゲンまたはグリコゲニンタンパクを利用 3グリコゲニン自身によって最初の数分子のグルコース鎖延長がおこなわれる 4グリコーゲンシンターゼによる α(1 4) グリコシド結合による鎖の延長 5 分岐酵素 (4:6 トランスフェラーゼ ) によって鎖の末端が鎖の途中に α(1 6) 結合される