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呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 林炫情 玉岡賀津雄 要旨 : 本研究では 感情を扱う個人の能力を示す情動知能 (Emotional Intelligence: EI) 尺度を使用し 韓国人大学生の呼称使用の容認性判断の評定に対して 評定者の情動能力がどのように影響を及ぼすか それぞれの関連性を検討した その結果 雑談場面と授業中場面いずれも 親族名称使用については肯定的に 実名使用については否定的に判断していることが分かった また 重回帰分析の結果 先輩に対する親族名称 ( 垂直的呼称 ) 使用の容認度に影響を及ぼす変数は 自己の情動評価 (SEA) 他者の情動評価 (OEA) 情動の利用 (UOE) であることが示された 一方 先輩に対する実名使用 ( 水平的呼称 ) の容認度に影響を及ぼす変数は 情動の利用 (UOE) と 情動の整理 (ROE) が関係していることが明らかになった キーワード : 呼称 容認性判断 情動知能 (Emotional Intelligence: EI) 韓国人 大学生 1. はじめに 韓国社会では 相手との地位や年齢の上下によって呼称表現の使用が決まる ( 林, 2001, 2006; 林 玉岡 深見, 2002; 林 玉岡, 2003, 2004) そして 目上に対しては親族名称や地位 役職名などの垂直的呼称が 同等 目下に対しては名前といった水平的呼称が用いられるのが一般的である 林 玉岡 (2009) では決定木分析 (decision trees analysis) を使い 韓国人大学生の先輩に対する親族名称と実名の使用の容認度と それに影響する複数要因群の関連性を検討した 先輩に対して親族名称と実名を使用した場合のそれぞれの容認 25

林炫情 玉岡賀津雄 度を-2( 全く適切でない ) から2( 非常に適切である ) までの5 段階尺度で測定した結果 実名使用の容認度の平均 (M) は-0.68( 標準偏差 (SD) は 1.05) 親族名称使用の容認度の平均は 0.56( 標準偏差は 1.26) であった つまり 韓国人大学生は先輩にしては実名より親族名称を用いるのが適切であると判断していることが分かった また 容認度に及ぼす要因では 親族名称 使用には親疎関係が 実名 使用には場面 ( 授業中 雑談 ) の違いがより強く影響していることが明らかになった 一方 呼称使用の容認性判断と性格特性の影響を調べた研究に林 玉岡 (2004) がある 林 玉岡 (2004) では 小塩 (1998) の対人関係尺度および和田 (1996) の Big Five 尺度を用いて 韓国の職場での呼称使用の適切性判断とパーソナリティ特性との関連について検討した その結果 他者に対して気遣いをする人ほど目上の人に対する 地位 役職名 や 親族名称 の寛容度が高く 逆に調和性のない人ほど目上の人に対しての名前の使用に寛容であることが明らかにした つまり 相手との親密さを保つための配慮または相手の感情を乱さないための配慮の仕方は社会的 文化的規範の相違のみならず 同じ母語規範を共有するなかであっても個人差があることが示された しかしながら 林 玉岡 (2004) は 全体としてパーソナリティ特性尺度と呼称使用の適切性判断の相関関係は希薄であり 個人の性格を測定する他の尺度を用いてその関係性を再検討する必要がある そこで本研究では 感情を統制する個人の能力を示す尺度である情動知能 (Emotional Intelligence: EI) を使用することにした そして 韓国人大学生の呼称使用の容認性判断と個人における内面的要因との関係をみることにより 両者の関連性を検討したい 2. 研究方法 2.1 調査対象者調査対象は韓国ソウル在住の韓国人大学生で 調査の協力に同意した 161 名 ( 女性 83 名 男性 78 名 ) を対象として 大学の講義開始前あるいは終了後に実施した 平均年齢は 20.75 歳 (17 歳から 25 歳の範囲で 標準偏差は 2.04 歳 ) であった 2.2 韓国人大学生の先輩に対する容認性判断の質問項目 韓国人大学生の先輩に対する呼称使用場面は 林 玉岡 (2009) の研究で検討された 16 項目から構成される 具体的には 2( 親族名称 実名 ) 2( 親しい 親しくない ) 2( 話し手と 26

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 聞き手の関係が同性 異性 ) 2( 授業中 雑談 ) の合計 16 種類である 質問項目では これら 16 項目のそれぞれの場面での呼称使用が適切であるかどうかを まったく適切でない あまり適切でない どちらとも言えない ある程度適切である 非常に適切である の 5 段階尺度で判断してもらった 点数化するにあたり まったく適切でない を -2 非常に適切である を 2 とし -2 から 2 までの5 段階尺度の変数とした この尺度では 0 が どちらとも言えない になり より適切である方向に 2 より不適切な方向に -2 に変化する 本稿では適切度の平均が負の数値であれば不適切の判断 正の数値であれば適切の判断と捉え 呼称の容認性判断の指標とした 2.3 情動知能 (Emotional Intelligence: EI) 尺度 EI(Emotional Intelligence) の定義は EI を能力とみなすか それとも特性の混合として見なさすによって異なる ( 豊田 山本, 2011) 本研究では前者の定義に従って EI を自分や他者の情動の状態が分かる 感情をコントロールできる 感情を適切に表現できる といった個人の能力 (Mayer & Salovey, 1995) と定義する EI の測定は Wong & Law(2002) の Wong & Law Emotional Intelligence Scale (WLELS) の日本語版 J-WLEIS( 豊田 桜井, 2007; 坂口 成田 岸本, 2008) を参考にしながら 筆者らが英語を韓国語に訳したものを使用した WLELS は 16 項目からなっており 4つずつの下位尺度から構成される それぞれの下位尺度は 自己の情動評価 (Self-emotion Appraisal:SEA) (4 項目 : 私は自分自身の感情をよく理解している など ) 他者の情動評価 (Others-Emotions Appraisal: OEA) (4 項目 : 私は周りの人の感情をよく理解している など) 自己情動の利用 (Use of Emotion: UOE) (4 項目 : 私はいつも目標を定め そして目標を達成できるように頑張る など) および 情動の調整 (Regulation of Emotion: ROE) (4 項目 : 自分の感情をうまくコントロールすることができる など ) と命名されている この尺度は各項目に対して まったく同意しない (1) 同意しない (2) 少し同意しない (3) 同意するともしないとも言えない (4) 少し同意する (5) 同意する (6) 強く同意する (7) の7 段階評定尺度を用いた WLELS の韓国語版 (K-WLEIS) 作成にあたり オリジナルの英語の WLELS を韓国語母語話者の第 1 著者が韓国語に翻訳した そして その韓国語訳を英語に堪能な別の韓国語母語話者に依頼して 英語に訳し直した ( 即ち バックトランスレーション ) このプロセスを繰り返して より原版に忠実かつ韓国語でも分りやすい表現になるよう工夫した ( 韓国版 27

林炫情 玉岡賀津雄 WLEIS(K-WLEIS) の信頼性検証は Fukuda et al., 2012 を参照されたい ) なお 回答にはオリジナル WLELS 同様 全く同意しない から 強く同意する の 7 件法を用いた 高得点であるほど能力が高いことを示す 以下では 16 項目の呼称使用の容認性判断の評定に対して 評定者の情動能力がどのように影響を及ぼすか それぞれの関連性を検討する 3. 結果 3.1 情動知能 (EI) の下位尺度間のピアソンの相関係数情動知能 (EI) の4つの各下位尺度間の関係を調べるため ピアソンの積率相関係数を産出した 相関分析の結果は表 1に示した 表 1のように 自己情動評価 (SEA) と 情動の整理 (ROE) を除くすべての変数間において正の相関がみられた これらの数値はすべて有意であり 信頼に足るものであることが分かった 自己の情動評価 (SEA) を中心に考察すると 自分の情動を正確に評価し 理解する能力が高く 他者の情動を評価する 他者の情動評価 (OEA) 能力 (n=161, 以下同様, r=.464, p<001) 思考を促進するための 情動の利用 (UOE) 能力との関係が強いといえよう(r=.448, p<001) しかし 自己情動評価 (SEA) と 情動の整理 (ROE) の間には 有意な相関は認められなかった そのため 自分の情動を評価する能力と情動をコントロールする能力との関係は強くないと考えられる 表 1. 情動知能 (EI) の下位尺度間のピアソンの相関係数 平均値 標準偏差 EI の下位カテゴリー SEA OEA UOE ROE 自己の情動評価 (Self-Emotion Appraisal: SEA) 他者の情動評価 (Others-Emotion Appraisal: OEA) 情動の利用 (Use of Emotion: UOE) 情動の調整 (Regulation of Emotion: ROE) -.464 *** -.448 ***.264 ** -.123.242 **.237 ** - 平均 5.09 5.02 5.07 4.53 標準偏差 1.07 0.97 1.01 1.10 注 : n =161. * p <.05. ** p <.01. *** p <.001. また 他者の情動評価 (OEA) と 情動の利用 (UOE) (r=.264, p<01) および 情動の整 28

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 理 (ROE) (r=.242, p<01) の間 情動の利用 (UOE) および 情動の調整 (ROE) の間 (r=.237, p<001) に有意な正の相関が認められた これは他者の情動評価能力が相手の気持ちや感情が理解でき 適切な情動の調整や利用ができることと関係しているからであろう 男女差の検討を行うために EI の各下位尺度得点について独立したサンプルの t 検定を行った その結果 表 2に示すように EI の3つの下位尺度で有意な男女の違いがみられた まず 自己の情動評価の下位尺度 (t =2.67, df =158, p<.01) と他者の情動評価の下位尺度 (t =3.04, df =158, p<.01) について 男性よりも女性のほうが有意に高い得点を示した また 情動の調整の下位尺度 (t =-2.00, df =159, p<.05) については 女性よりも男性のほうが有意に高い得点を示した 情動の利用の下位尺度については男女の得点差は有意ではなかった (t =0.19, df =160, n.s.) 表 2. 情動知能 (EI) の下位尺度の男女別の平均値 標準偏差およびt 検定の結果 全体 (N =161) 女性 (N =83) 男性 (N =78) 下位尺度 M SD M SD M SD t 値 自己の情動の評価 5.09 1.07 5.30 1.00 4.86 1.08 2.67** 他者の情動評価 5.02 0.97 5.25 0.96 4.79 0.92 3.04** 情動の利用 5.07 1.01 5.09 1.11 5.05 0.91 0.194 情動の調整 4.53 1.10 4.36 1.13 4.71 1.04-2.00* 注 : M = 平均. SD= 標準偏差. * p <.05. ** p <.01. 3.2 雑談場面の先輩に対する 親族名称 と 実名 使用の容認性判断と情動知能 (EI) 呼称使用の容認性判断は 表 3と図 1に示したように 親族名称使用はすべての場面で正の判断が示されており 親しくない間柄よりは親しい間柄でより寛容的に受け止められていることが分かる 特に 相手が親しい異性の先輩の場合 親族名称の容認度 (M=1.05, SD=0.94) はかなり高い これに対して実名使用では すべて負の判断が示され 親しい異性の先輩に対する容認度 (M=-0.97, SD=0.95) は最も否定的であった 韓国語の呼称体系では 目上の人に対しては名前だけでは呼びにくく 垂直的呼称である親族名称や役職名で呼びかけるのが一般的である ( 林 玉岡, 2004) そのため 先輩に対しては水平的呼称である実名ではなく 垂直的呼称である親族名称を用いることが適切であると判断している 29

林炫情 玉岡賀津雄 ようである 本調査における容認性判断の傾向は 従来の実態調査 ( 林, 2003; 林 玉岡, 2003) などの結果を反映しているといえよう さらに t 検定により容認性判断の男女差の検討を行った 表 3に示したように 親しい異性の先輩に対する実名使用 (t =2.55, df =157, p<.05) と 親しい同性の先輩に対する実名使用 (t =2.17, df =158, p<.05) について 男性よりも女性のほうが有意に高い得点を示していた その他の場面での男女差は有意ではなかった 表 3. 雑談場面の呼称使用における容認度の平均 標準偏差および t 検定の結果 全体 (N =161) 女性 (N =83) 男性 (N =78) 呼称 間柄 M SD M SD M SD t 値 親しい異性の先輩 1.05 0.94 1.10 0.96 1.00 0.88 0.65 親族 親しい同性の先輩 0.84 1.06 0.87 1.09 0.82 1.03 0.28 名称 あまり親しくない異性の先輩 0.30 1.15 0.40 1.17 0.19 1.13 1.13 あまり親しくない同性の先輩 0.18 1.17 0.27 1.17 0.09 1.18 0.95 親しい異性の先輩 -0.97 0.95-0.79 1.02-1.17 0.83 2.55* 実名 親しい同性の先輩 -0.95 1.02-0.78 1.12-1.13 0.88 2.17* あまり親しくない異性の先輩 -0.77 1.09-0.78 1.07-0.75 1.11-0.16 あまり親しくない同性の先輩 -0.65 1.15-0.52 1.12-0.78 1.09 1.38 注 1 : * p <.05. ** p <.01. *** p <.001. 容認度の平均 (M) と標準偏差 (SD) 注 2 : 平均の値は +2 から -2 までの変数で + は親族名称や実名の使用が適切であるとの判断 - は適切でないとの判断である 親族名称 と 実名 の間柄における呼称使用の容認性判断を EI の4つの下位尺度の得点で予測するために強制投入法による重回帰分析を行った その結果は 表 4に示したとおりである 親族名称使用の容認度については 親しい異性の先輩 (β=.283, p<.01) および親しい同性の先輩 (β=.355, p<.001) に対して 自分の情動評価 (SEA) が有意な説明 ( 独立 ) 変数となった 標準偏回帰係数 (β) が正の値を示していることから 自己の情動評価能力が高いほど親しい先輩に対する親族名称使用の容認度が高くなるようである あまり親しくない異性の先輩 (β=.185, p<.05) と同性の先輩 (β=.255, p<.01) に対しては 情動の利用 (UOE) が有意な説明変数となった 標準偏回帰係数 (β) はいずれも正の値を示していることから 目標達成のために頑張る人ほど親しくない先輩に対しての親族名称使用に寛容的に受け止めていることが明らかになった このことを考え合わせると 雑談場面での先輩に対する親 30

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 呼称使用の容認度 2.00 1.00 0.00-1.00-2.00 親族名称実名 1.05±0.94 0.84±1.06 0.30±1.15 0.18±1.17-0.77±1.09-0.65±1.15-0.97±0.95-0.95±1.02 図 1. 雑談場面の先輩に対する 親族名称 と 実名 使用の容認度注 : 棒グラフは容認度の平均 棒グラフ上の線は標準偏差 (±) を示す 31

林炫情 玉岡賀津雄 族名称は 相手との親しい関係維持や心理的距離を縮める呼称として 相手とのより円滑な関係形成のために積極的に用いられているといえよう 一方 実名の使用については 親しい異性の先輩に対して 情動の利用 (UOE) が有意な説明変数であった (β=-.220, p<.05) 標準偏回帰係数(β) が負の値を示していることから 親しい異性の先輩に対する実名使用は 情動の利用が不器用で柔軟に対応できない人ほど否定的に受け止めている傾向があるようである 他者の情動評価 (OEA) と 情動の整理 (ROE) はすべての場面で有意ではないことから 先輩に対する親族名称と実名使用の容認性判断を予測する説明変数ではないと解釈できる 表 4. 雑談場面における呼称使用の容認度をEIで予測する重回帰分析結果 説明変数 EI (Emotional Intelligence) 呼称 予測変数 - 間柄 SEA OEA UOE ROE R 2 親しい異性の先輩.283 ** R 2 =.096 親族名称 親しい同性の先輩.355 *** R 2 =.143 あまり親しくない異性の先輩.185 * R 2 =.057 あまり親しくない同性の先輩.255 ** R 2 =.082 親しい異性の先輩 -.220 * R 2 =.046 実名親しい同性の先輩あまり親しくない異性の先輩 あまり親しくない同性の先輩 注 1 : * p <.05. ** p <.01. *** p <.001. 注 2 : 網掛けしたセルの数値は標準偏回帰係数 (β) を示す. 3.3 授業中の場面における 親族名称 と 実名 使用の容認性判断と情動知能 (EI) 授業中の場面における呼称使用の容認度について雑談場面と同様の分析を行った 授業中の場面における呼称使用の容認度を表 5と図 2に示す 授業中の場面の容認性判断も雑談場面同様に 親疎関係 ( 親しい 親しくない ) および相手との性差 ( 異性 同性 ) に関わらず 親族名称使用の容認度について正の判断 実名使用について負の判断を示した 職場での呼称使用の適切性判断を調べた林 玉岡 (2004) では 職場での親しくない先輩に対して親族名称が使われるのは適切でないと判断していることが報告されている しかし 大学生を対象にした本調査では 容認度の平均値は若干下がるものの親族名称が親しくない関係で使われることに対しても寛容に受け止められて 32

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 いることが明らかになった これらの結果から 韓国人大学にとって呼称使用の選択はフォーマルかインフォーマルということとはあまり関係なく行われるのではないかと考えられる 容認性判断の男女差を t 検定で検討したところ すべての場面で有意な違いは認められなかった 表 5. 授業中の場面の呼称使用における容認度の平均 標準偏差および t 検定の結果 容認度の平均 (M) と標準偏差 (SD) 全体 (N =161) 女性 (N =83) 男性 (N =78) 呼称 間柄 M SD M SD M SD t 値 親しい異性の先輩 0.80 1.01 0.90 1.06 0.69 0.94 1.34 親族 親しい同性の先輩 0.80 0.99 0.94 1.04 0.65 0.92 1.84 名称 あまり親しくない異性の先輩 0.23 1.16 0.24 1.26 0.21 1.05 0.21 あまり親しくない同性の先輩 0.25 1.05 0.93 1.04 0.10 1.05 1.74 親しい異性の先輩 -0.61 0.94-0.66 1.00-0.56 0.89-0.63 実名 親しい同性の先輩 -0.62 1.05-0.61 1.03-0.63 1.07 0.08 あまり親しくない異性の先輩 -0.47 1.09-0.43 1.11-0.50 1.08 0.39 あまり親しくない同性の先輩 -0.42 0.99-0.32 1.06-0.51 0.91 1.22 注 1: * p <.05. ** p <.01. *** p <.001. 注 2: 平均は+2から-2までの変数で +は親族名称や実名の使用が適切であるとの判断 -は適切でないとの判断を示す 親族名称 と 実名 の呼称使用の容認性判断を EI の4つの下位尺度で予測する重回帰分析の結果は 表 6に示したとおりである まず親族名称使用の容認度については 親しい異性の先輩 (β=.177, p<.05) に対しては 他者の情動評価 (OEA) が 親しい同性の先輩 (β=.186, p<.05) に対しては 自己の情動評価 (SEA) が有意な説明変数となった いずれの標準偏回帰係数 (β) も正の値であることから 自分と他者の感情をよく理解し それを表現する能力が高いほど 親族名称の容認度も高くなる傾向があるようだ あまり親しくない異性の先輩 (β=.210 p<.05) とあまり親しくない同性の先輩 (β=.246, p<.01) に対しては 情動の利用 (UOE) が有意な説明変数となった 標準偏回帰係数 (β) は正の値であることから 雑談場面同様 授業中の場面においても親族名称が相手との親しい関係維持や心理的距離を縮める呼称として 積極的に用いられていることがうかがえる 情動の整理 (ROE) はすべて有意ではなかった 33

林炫情 玉岡賀津雄 呼称使用の容認度 2.00 1.00 0.00-1.00-2.00 親族名称実名 0.80±1.01 0.80±0.99 0.23±1.16 0.25±1.05-0.61±0.94-0.62±1.05-0.47±1.09-0.42±0.99 図 2. 授業中の場面の先輩に対する 親族名称 と 実名 使用の容認度注 : 棒グラフは容認度の平均 棒グラフ上の線は標準偏差 (±) を示す 34

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 一方 実名使用では 親しい異性の先輩を除いて 親しい同性の先輩 (β=-.216 p<.05) あまり親しくない異性の先輩 (β=-.201 p<.05) あまり親しくない同性の先輩 (β=-.310 p<.001) に対して 情動の整理 (ROE) が有意な説明変数であった 特に あまり親しくない同性の先輩への標準偏回帰変数 (β) は 0.1% 水準で有意な係数であった 標準偏回帰変数 (β) がいずれも負の値を示しており 授業中場面での実名使用は目標達成のために頑張ることが苦手な人ほど 実名使用について否定的に受け止めているようである 一般に授業中の場面は雑談場面に比べてフォーマルな場面であり 先輩に対しても親族名称よりは名前で呼び合う実名の使用がよりふさわしいといえる そのことが負の影響につながったと解釈できる また 親しい異性の先輩 (β=.249 p<.01) 親しい同性の先輩 (β=.195 p<.05) あまり親しくない異性の先輩 (β=.216 p<.01) あまり親しくない同性の先輩 (β=.238 p<.01) のすべての容認度に対して 情動の整理 (ROE) が有意な説明変数となった いずれの標準偏回帰変数 (β) も正の判断を示していることから 情動をコントロールする能力が高いほど 適切でないと判断しているようである 実名使用の容認度に対して 自己の情動評価 (SEA) と 他者の情動評価 (OEA) はすべてにおいて有意ではなかった 4. おわりに 35

林炫情 玉岡賀津雄 本研究では 感情を扱う個人の能力を示す情動知能 (Emotional Intelligence: EI) 尺度を使用し 韓国人大学生の呼称使用の容認性判断の評定に対して評定者の情動能力がどのように影響を及ぼすか それぞれの関連性を検討した まず 呼称使用の容認度判断の結果をまとめると 容認度は雑談場面と授業中の場面で若干変わるものの いずれの場面も 先輩に対する親族名称使用は肯定的に 実名使用は否定的に判断していることが明らかになった 授業中の場面は 雑談場面に比べてフォーマルな場面であり 親族名称よりも実名使用がよりふさわしいといえよう しかし 今回の結果を考慮すると フォーマルかインフォーマルかということは 韓国人大学生の先輩に対する呼称使用の規範意識にそれほど強く影響していないことが推測される 容認性判断の男女差については t 検定の結果 親しい異性の先輩と同性の先輩に対してのみ有意な違いが見られ 両方とも女性よりも男性の方が否定的に受け止めていた また 呼称使用の容認性判断を従属変数 情動知能の 4つの下位尺度を独立変数とする強制投入法による重回帰分析の結果 想定していた親族名称と実名使用に関する 16 項目それぞれの容認性判断と情動知能の 4つの下位尺度間の関連性が確認された 先輩に対する垂直的呼称 つまり親族名称使用の容認度に影響を及ぼす変数は 自己の情動評価 (SEA) 他者の情動評価 (OEA) 情動の利用 (UOE) であることが示された それぞれの要因間の影響を総合して考えると 親族名称が相手との親しい関係維持や心理的距離を縮める呼称として 相手とのより円滑な関係形成のために積極的に用いられているとも解釈できる 情動の整理 (ROE) は親族名称を使用するすべての場面で有意ではないことから 先輩に対する親族名称使用の容認性判断を予測する変数ではないといえる 一方 先輩に対する水平的呼称 つまり実名使用の容認度に影響を及ぼす変数は 情動の利用 (UOE) と 情動の整理 (ROE) が関係していた 情動の利用 (UOE) は標準偏回帰係数が有意であったすべてにおいて負の値を示していることから 情動の利用が不器用でパフォーマンスができない人ほど 先輩に対する実名使用により否定的であるといえる 雑談場面に比べ フォーマルな場面であり 先輩に対しても親族名称よりは名前で呼び合う実名の使用がよりふさわしいといえる そのことが負の影響につながったと考えられる 感情をコントロールする 情動の整理 (ROE) は 雑談場面では影響を示していなかったが 授業中の場面ではすべてにおいて影響を及ぼしていた 正の標準偏回帰係数 (β) が有意であり 情動をコントロールする能力が高いほど 適切でないと判断しているようである 本研究では 感情を扱う個人の能力を示す情動知能 (Emotional Intelligence: EI) に注目 36

呼称の容認性判断と情動知能 (Emotional Intelligence: EI) の関係 し 呼称使用の容認性判断に及ぼす影響について検討を行った しかし 全体的に決定 係数 (R 2 ) の値があまり高くなく EI で測定される呼称使用の容認性判断について十分に説 明されたとは言い難い 今後 さらに多様な変数を検討する必要があろう [ 参考文献 ] 林炫情 (2001) 韓国語と日本語における呼称の対照研究序論 国際協力研究誌 7(1), 107-121. 林炫情 玉岡賀津雄 深見兼孝 (2002) 日本語と韓国語における呼称選択の適切性 日本語科学 11, 31-54. 林炫情 (2003) 非親族への呼称使用に関する日韓対照研究 社会言語科学 5(2), 20-32. 林炫情 玉岡賀津雄 (2003) 職場における お兄さん および お姉さん の親族名称使用に関する日韓対照研究 日本文化学報 18, 21-35. 林炫情 玉岡賀津雄 (2004) 韓国の職場での呼称使用の適切性判断に及ぼす属性 対人関係特性 性格特性の影響 広島経済大学研究論集 27(1), 29-44. 林炫情 (2006) 代名詞的用法の対称詞使用に関する日韓対照研究 人間環境学研究 5(1), 1-19. 林炫情 玉岡賀津雄 (2009) 韓国人大学生の先輩に対する 親族名称 と 実名 の使用に関する適切度を決める諸要因 ことばの科学 22, 137-149. 小塩真司 (1998) 青年の自己愛傾向と自尊感情 友人関係のあり方との関連 日本教育心理研究 46, 280-290. 坂口晴香 成田健一 岸本陽一 (2008) パーソナリティとの関連性からみる情動知能- J-WLELS( 日本語版 Wong & Law Emotional Intelligence Scale) の大学生への適用 - 日本パーソナリティ心理学会大会発表論文集 17, 118-119. 豊田弘司 桜井裕子 (2007) 中学生用情動知能尺度の開発 奈良教育大学教育学実践総合センター研究紀要 16, 13-18. 豊田弘司 山本晃輔 (2011) 日本語版 WLEIS(Wong & Law Emotional Intelligence Scale) の作成 奈良教育大学教育学実践総合センター研究紀要 20, 7-12. 和田さゆり (1996) 性格特性用語を用いた Big Five 尺度の作成 心理学研究 67, 61-67. 37

林炫情 玉岡賀津雄 Fukuda, E., Saklofske, D. H., Tamaoka, K., & Lim, H. (2012) Factor Structure of the Korean version of Wong and Law's emotional intelligence scale. Assessment, 19, 3-7. Wong, C.S., & Law K.S. (2002) The effects of leader and follower emotional Intelligence on performance and attitude: An exploratory study. The Leadership Quarterly, 13, 243-274. Mayer, J. D., & Salovey, P. (1995) Emotional intelligence and the construction and regulation of feelings. Applied and Preventive Psychology, 4, 197-208. ---------------------------------------------------------------------------- 林炫情 ( いむひょんじょん ) 山口県立大学国際文化学部 753-8502 山口県山口市桜畠 3-2-1 hjlim@yamaguchi-pu.ac.jp 玉岡賀津雄 ( たまおかかつお ) 名古屋大学大学院国際言語文化研究科 464 8601 名古屋市千種区不老町 ktamaoka@lang.nagoya-u.ac.jp 38