稲垣氏講演資料

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低年金 低所得の高齢者に対する年金給付の見直しも大きな政策課題となっている それでは 低年金 低所得の高齢者の状況は これまでの公的年金制度の発展の中でどのように改善してきたのであろうか また これらの高齢者は 今後どのように増加していくのだろうか 現行制度を維持した場合 本当に深刻な状況になるので

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

無年金・低年金の状況等について

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退職後の医療保険制度共済組合の年金制度退職後の健診/宿泊施設の利用済組合貸付金/私的年金退職手当/財形貯蓄/児童手当個人型確定拠出年金22 共イ特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金は本来 65 歳から支給されるものです しかし 一定の要件を満たせば 65 歳未満でも 特別支給の老齢厚生年金 を受けるこ

平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

表 2 イ特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金は本来 65 歳から支給されるものです しかし 一定の要件を満たせば 65 歳未満でも 特別支給の老齢厚生年金 を受けることができます 支給要件 a 組合員期間が1 年以上あること b 組合員期間等が25 年以上あること (P.23の表 1 参照 ) c

平成25年4月から9月までの年金額は

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年金・社会保険セミナー

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

第14章 国民年金 

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Microsoft PowerPoint - 老後の年金格差(前半)HP用

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いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

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Microsoft Word - T2-06-1_紙上Live_老齢(1)_①支給要件(9分)_

図 1 60 歳 61 歳 62 歳 63 歳 64 歳 65 歳 生年月日 60 歳到達年度 特別支給の 男性 S24.4.2~S 平成 21~24 年度 女性 S29.4.2~S 平成 26~29 年度 男性 S28.4.2~S 女性 S33.4.2~S35.

はじめに 定年 は人生における大きな節目です 仕事をする 働く という観点からすれば ひとつの大きな目標 ( ゴール ) であり 定年前と定年後では そのライフスタイルも大きく変わってくることでしょう また 昨今の労働力人口の減少からも 国による 働き方改革 の実現に向けては 高齢者の就業促進も大き

政策課題分析シリーズ16(付注)

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要 旨 政府の社会保障国民会議は 2008 年 5 月 19 日の雇用 年金分科会で 公的年金制度に関する定量的なシミュレーションを公表した 主たる注目点は 基礎年金の財源を全額税方式とした場合の必要財源の規模と消費税率換算のシミュレーションである 基礎年金の税方式化を行うにあたっては 制度移行前の

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

再任用と年金加入の関係をまとめると次のようになる ( 都道府県によって勤務形態は異なる ) 再任用の勤務形態フルタイム勤務 3/4 1/2 週の勤務時間 38 時間 45 分 29 時間 19 時間 15 分 共済年金 厚生年金 (2016 年 9 月 30 日まで ) 加入する年金 (2015 年

( 第 1 段階 ) 報酬比例部分はそのまま定額部分を段階的に廃止 2 年ごとに 1 歳ずつ定額部分が消える ( 女性はすべてプラス 5 年 ) 報酬比例部分 定額部分 S16 S16 S18 S20 S22 4/1 前 4/2 ~4/2 4/2 4/2 4/2 ~~~

Microsoft Word - 6 八十歳までの保証がついた終身年金

01 公的年金の受給状況

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2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

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被用者年金一元化法

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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スライド 0

別紙2

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

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PowerPoint プレゼンテーション

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

2 給付と負担における世代間の大きな格差給付と負担を比較すると 後の世代ほど負担がより重くなっており 世代間の不公平感が高まっている 3 職業や世帯形態による制度の違い負担面での一元化が行われておらず ( 注 3) また 被用者の扶養配偶者 (3 号被保険者 ) の取扱いは 女性の就業意欲を妨げる要

平成13年8月29日

第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

年金額の改定について 公的年金制度は平成 16 年の法改正により永久に年金財政を均衡させる従来の仕組みから おおむね ( 100 ) 年間で年金財政を均衡させる仕組みへと変わった この年金財政を均衡させる期間を 財政均衡期間 という これにより 政府は少なくとも ( 5 ) 年ごとに財政の検証をおこ

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社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

問 28 高年齢雇用継続給付との調整難度 A 70 問 29 特例老齢年金難度 B 72 問 30 経過的加算難度 B 74 問 31 老齢厚生年金の支給の繰下げ難度 B 76 問 32 老齢厚生年金の支給の繰上げ難度 B 80 問 歳以後の在職老齢年金難度 A 84 問 34 障害厚生

各国の年金制度 ( ノルウェー ) ノルウェーの年金制度 坂本純一 ( 野村総合研究所金融 ITイノベーション研究部主席研究員 ) 1. 制度の特色 2009 年に成立した年金改正法により, 現在のノルウェーの年金制度は過渡期にある 旧制度は定額部分と報酬比例部分からなる給付体系であったが, 201

一元化後における退職共済年金および老齢厚生年金の在職支給停止 65 歳未満の場合の年金の支給停止計算方法 ( 低在老 ) 試算表 1 年金と賃金の合算額が 28 万を超えた場合に 年金額の支給停止 ( これを 低在老 といいます ) が行われます 年金と賃金の合算額 (c) が 28 万以下の場合は

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被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

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国民年金

年金部会ワーキングチームの進め方について

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(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 15,250 円 ( 平成 26 年度 ) 付加保険料月額 400

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2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

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参考資料

介護保険・高齢者福祉ガイドブック

タテ ヨコ ナナメ から大解剖 保険販売の目で見る 公的年金 セールス手帖社保険FPS研究所

スライド 1

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他の所得による制限と雇用保険受給による年金の停止 公務員として再就職し厚生年金に加入された場合は 経過的職域加算額は全額停止となり 特別 ( 本来 ) 支給の老齢厚生年金の一部または全部に制限がかかることがあります なお 民間に再就職し厚生年金に加入された場合は 経過的職域加算額は全額支給されますが

第 2 節強制被保険者 1 第 1 号被保険者頻出 択 ( 法 7 条 1 項 1 号 ) 資格要件 日本国内に住所を有する20 歳以上 60 歳未満の者 ( 第 2 号 第 3 号被保険者に該当する者を除く ) 例 ) 自営業者 農漁業従事者 無業者など 適用除外 被用者年金各法に基づく老齢又は退

確定給付企業年金制度のご案内 ━ 大阪府電設工業企業年金基金のご案内 ━

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

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1. はじめに 自ら変わります 社会保険庁を変えます 社会保険庁ホームページ : 社会保険庁改革リスタートプラン より やるき化 プロジェクト あたりまえ化プロジェクト 見える化 プロジェクト きれい化 プロジェクト 2007/4/14 Copyright

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12 ページ, 図表 ,930 円 保険料納付済月数 + 全額免除月数 1/2+4 分の 3 免除月数 5/8+ 半額免除月数 3/4+4 分の 1 免除月数 7/8 ( 出所 ) 厚生労働省 老齢年金ガイド平成 2730 年度版 より筆者作成 40 年 ( 加入可能年数

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

3 高齢者 介護保険を取り巻く現状 1 人口 高齢化率本市は高齢化率が 45% を超えており 本計画の最終年度である 2020( 平成 32) 年度には 高齢化率 48.0% 2025( 平成 37) 年度には高齢化率 49.7% まで増加することが推計されます また 2018( 平成 30) 年以

年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加

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Transcription:

2010 一橋大学政策フォーラム 年金の将来 平成 22 年 9 月 28 日 ( 火 ) 年金制度改革の移行措置 一橋大学経済研究所世代間問題研究機構 稲垣誠一 1

報告の概要 現行の年金制度を維持した場合 低年金 低所得の高齢者は 今後 どのように増加していくのだろうか また 貧困層増加の原因は何か 推計手法 ダイナミック マイクロシミュレーションモデル 高齢者の同居家族 一人暮らしの高齢者が急速に増加 公的年金額の分布 低年金 無年金の高齢者は増えない 等価所得分布 低所得に偏った分布になっていく 貧困層の高齢者 生活保護の対象が2~3 倍に増加 年金制度改革は有効な対応策となりうるだろうか A 案 : 全国民共通の所得比例年金と最低保障年金 B 案 : 基礎年金を税方式に移行 ( 起算点 2015 年度 ) C 案 : 基礎年金を税方式に移行 ( 起算点 1989 年度 ) D 案 : 75 歳以上の基礎年金を税方式に移行 ( 公私の役割分担の変更 ) 2

INAHSIM のシミュレーションサイクル 年金保険料の納付 新しい年 人口動態 結婚 出生 死亡 離婚 国際人口移動 施設への入所 老親の子との同居 若年者の離家 コンピュータ上に構築した仮想社会が 現実の政策や個々人の行動により どのように変化していくかを観察する社会実験のためのツール いわば 日本社会の 地球シミュレータ 年金の新規裁定 健康状態の遷移 就業状態の遷移 稼働所得の決定 3 ( 注 ) INAHSIM: Integrated Analytical Model for Household Simulation

シミュレーションの前提条件 個人 夫婦 世帯 ( 経済主体 ) の行動 ( 結婚 出産 就業 同別居 施設入所など ) 基本的に 2000 年代前半の行動 (behavior) が変化しないと想定 所得は 稼働所得と公的年金のみを考慮 ( 他の社会保障給付等は含まない ) 公的年金制度に関する前提 初期値人口 (2004 年 ) の年金受給者は 前年の公的年金による収入 ( 公的年金受給者で受給額ゼロの場合は データを補完 ) を年金額とみなす 2005 年度以降に新規裁定される者は 老齢基礎年金 老齢厚生年金 遺族厚生年金のみを考慮 共済年金加入者は厚生年金加入とみなす 遺族基礎年金 障害基礎年金 障害厚生年金は考慮していない支給開始年齢は 原則として本則 老齢厚生年金の支給開始年齢は 性別 生年度別の経過措置を考慮 在職老齢厚生年金は考慮しない 65 歳未満は退職を支給要件とし 65 歳以上は無条件支給 基礎年金は65 歳 繰上げ 繰下げは考慮しない 経済前提 賃金上昇 物価上昇は考慮しない マクロ経済スライドによる給付の削減 既裁定者に対する物価スライドの適用など 現役世代に対する受給者世代の給付の実質的な削減は考慮していない 4

高齢者の同居家族の見通し ( 対人口比 ) 高齢化率が急速に上昇 特に 同居家族のいない高齢者の増加が著しい 5

高齢者の年金額分布の見通し ( 対人口比 ) 75-99 万円がピーク 100 万円台の年金受給者が増加 低年金 無年金は増えない 高額の年金受給者は顕著に減少 6

高齢者の等価所得分布の見通し ( 対人口比 ) 等価所得は 世帯の所得 ( 稼働所得と公的年金のみ ) を世帯人員の平方根で除したもの ( 生活水準に相当 ) 低所得の高齢者は 顕著に増加 7

貧困層の高齢者の見通し ( 対人口比 ) 等価所得が 100 万円未満の高齢者を貧困層と定義 これは 基礎年金 (80 万円 ) のみの夫婦 ( 等価所得 112 万円 ) よりも低い所得水準 現行制度の下では 2% 台から 5% 台に増加 生活保護の対象者が 2~3 倍になることが懸念される 8

貧困層の高齢者の同居家族の状況 ( 対人口比 ) 施設 ( 老人ホーム等 ) は 現在と同水準の需要を満たすだけ供給があると想定 年齢区分別にみると 75 歳以上が圧倒的に多い 9

評価対象とした年金改革案 ( 移行措置別 ) 過去期間を旧制度 将来期間を新制度とする方法 (A 案 ) 全国民共通の所得比例年金と最低保障年金 全国民共通の所得比例年金 ( 現役時所得の 50% 上限は 300 万円 ) 低年金者には 最低保障年金 (84 万円 ) を給付 50 万円未満 : 所得比例年金 +84 万円 162 万円未満 : 所得比例年金 +84 万円 -( 所得比例年金 -50 万円 ) 0.75 (B 案 ) 基礎年金を税方式へ移行する方式 ( 起算点 :2015 年度 ) 2015 年度以降の期間について 保険料を納付したものとみなす 被保険者については 2054 年度に 受給者については 2100 年頃に移行完了 (A 案も同様 ) (C 案 ) 基礎年金を税方式へ移行する方式 ( 起算点 :1989 年度 ) 消費税導入時 (1989 年度 ) 以降 保険料を納付したものとみなす 現在の受給者 無年金者について抱き起こし 満額の 3 分の 1 程度 (30 万円弱 ) の基礎年金を最低保障 被保険者については 2028 年度に 受給者については 2080 年頃に移行完了 移行措置なしで 直ちに新制度を導入する方法 (D 案 ) 75 歳以上の基礎年金を税方式に移行する方式 ( 公私の役割分担も変更 ) 最低保障年金 所得比例年金 基礎年金を 75 歳以上と 75 歳未満に区分し 前者を税方式 後者を国庫負担なしの社会保険方式に再編 ( 財源の振替え ) 現在の 75 歳以上の受給者 無年金者について抱き起こし 満額 ( 約 80 万円 ) の基礎年金を最低保障 ( クローバックにより給付を実質的に抑制 ) 10

D 案は なぜ不公平が生じないか 65 歳から 74 歳までの 10 年間の受給額が保険料納付額を上回る 現行制度は 基礎年金 + 報酬比例 なので 70 万円程度の ゲタ をはいた分布 11 ( 出所 ) ねんきん定期便の加入記録等に関するインターネット調査 (1950 年代生まれ )

改革案別 低所得の高齢者の見通し 今後 20 年間 (2030 年頃まで ) A 案 B 案には全く改革効果がみられないが C 案 D 案では大きな効果がある 超長期 (2050 年以降 ) では 各案とも一定の効果がみられるが A 案の効果が特に大きい 12

改革案別の総給付費 追加財源の見通し A 案は 将来 現行制度と比べて 巨額の追加財源が必要となる D 案は クローバックの仕組みを取り入れるので 追加財源は これよりもさらに抑制される 13

年金改革案の評価 今後 20 年間程度 (2030 年頃まで ) の低所得の高齢者への対応 A 案 ( 所得比例 最低保障 ) B 案 ( 税方式 2015 年度 ) は 全く効果なし C 案 ( 税方式 1989 年度 ) は 受給者の抱き起こしにより かなりの効果 ( 広く 薄く ) D 案 (75 歳以上税方式 ) は ターゲットを絞った最低保障であり 効果大 ( 集中型 ) 超長期 (2050 年以降 ) の低所得の高齢者への対応 A 案は 超長期の観点では 低所得の高齢者に対する措置としてたいへん有効 B 案 C 案 D 案は 超長期的には 低所得高齢者対策として A 案に対してかなり劣る C 案 D 案は 時間的余裕を生かし 次の対策を組み合わせることが必要 パートの厚年適用 ( 現行制度と違い 第 1 号被保険者の保険料との逆転現象が起きない ) 75 歳未満の高齢期の準備に自助努力 ( 私的年金など ) を促す仕組み (D 案 ) 追加財源 いずれの案も 当分の間は巨額の追加負担を必要としない A 案は 所得比例年金のため 高額の年金受給者が多くなりがちであり 将来巨額の追加負担を必要とする D 案は 追加財源が最も少なく クローバックの仕組みにより さらに低減が可能 14

A 案 ( 所得比例年金 最低保障年金 ) ポンチ絵だけで議論を進めることは危険 制度の仕組みを具体的な数字で 所得比例年金の算定式報酬の上限 最低保障年金 ( 月額 7 万円?)? 最低保障年金 所得比例年金 最低保障年金を加算する所得 ( 年金 ) 水準 モデル年金だけでは議論ができない?? 現実の年金額分布がどうなるか ( スライド #11) 定量的な議論を早急に行うことが必要 2030 年頃 ( 今後 20 年間 ) までの低年金 低所得の高齢者対策をどうするのか 単純に所得比例 ( スウェーデン方式でも同様 ) では 高額の年金受給者が多数生みだされることになるが 問題はないのか ( スライド #11の分布の ゲタ がなくなり 分布が立ち上がる ) 現行制度の 基礎年金 ( 定額 )+ 所得比例年金 の方が 算定方式として優れているのではないか将来巨額の追加財源が必要と見込まれるが 財政的に 本当に維持可能なのか 15

B 案 C 案 ( 基礎年金を税方式へ移行 ) B 案 C 案は 現行制度の枠組みを維持しつつ 基礎年金を税方式に移行 消費税の負担をもって保険料を納付したものとみなすという考え方で 最終的な制度の仕組みはいずれも同じ B 案は 制度改正時の2015 年度から新しい考え方に移行 C 案は 1989 年度の消費税導入時から 負担をしていたものとみなす ( 受給者 無年金者も抱き起こし ) 低年金 低所得の高齢者への対応策として B 案は 移行に長期間 ( 完全移行は2100 年頃 ) を要するため 少なくとも2030 年頃までは 全く効果がない C 案は 移行期間が短く 低所得の高齢者への対応として すぐに改革効果が現れる 超長期の低所得高齢者対策には ( 時間的余裕を活用 ) 非正規就業者の正社員化 ( 厚生年金への適用 ) 正社員化が無理なら 厚生年金にパート労働者 ( 非正規就業者 ) の適用が必要 ( 現行制度と違い 第 1 号被保険者との保険料の逆転現象は起きず 事業主の負担も少ないので 導入は容易 ) 16

D 案 ( 公私の役割分担の変更が望ましい ) 公私の役割分担の変更 私的年金 就業等 厚生年金 ( 社会保険方式 ) 基礎年金 ( 社会保険方式 ) 私的年金 就業等 厚生年金 ( 社会保険方式 ) 基礎年金 ( 税方式 ) 基礎年金の見直し 65 歳 75 歳終身 65 歳 75 歳終身 75 歳未満 ( 国庫負担のない社会保険方式 ) は 民営化 ( 適用除外 ) を視野 基礎年金 ( 国庫負担なし ) 75 歳以上は基礎所得保障としての税方式 ( クローバックにより 追加費用を削減 ) 厚生年金の見直し ( 今回のシミュレーションでは織り込んでいない ) 17 基準となる支給開始年齢を 75 歳 (65 歳支給開始の年金額が現行制度と同額となるよう 繰上げ減額率を緩和 ) 75 歳支給開始の年金額 ( 基準年金額 ) は 現行制度の 1.5 倍程度 非正規就業者 ( パート ) 等を強制適用 / 自営業者等は任意加入 私的年金 ( 企業年金 個人年金等 ) に優遇措置 (75 歳までの有期年金を原則 )

まとめ 低所得の高齢者の増加は 深刻な問題 なぜ 所得分布 ( 貧困率 ) の将来見通しを示して 年金制度改革の議論を行わないのか 生活保護対象となる高齢者が 近い将来急増することが見込まれるが 数十年先に実現する年金制度改革の姿のみで 移行期間中の議論をなぜ行わないのか A 案 ( 所得比例 最低保障年金 ) では なぜ 具体的な制度の仕組みが示されないのか 移行期間中の低所得の高齢者への対応はどのように行うのか 高額年金が多くなると考えられるが 現役時代の格差を老後 ( 生涯 ) まで持ち込むことはないのか 長期的には 巨額の追加財源が必要と見込まれるが 財政的に 本当に維持可能なのか 税方式 (C 案 D 案 ) への移行は 移行期間中も含めて 低所得の高齢者対策として有効であり 追加財源も限定的ではないのか ただし パート適用など 厚生年金側の措置が必要 D 案は 75 歳未満の高齢期のために自助努力 ( 私的年金など ) を促す仕組みが必要 18