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世界初!超低温保存した子豚の精巣をもとに子豚が誕生

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

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報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

報道発表資料 2006 年 4 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 躁 ( そう ) うつ病 ( 双極性障害 ) にミトコンドリア機能障害が関連 - 躁うつ病の発症メカニズム解明につながる初めてのモデル動物の可能性 - ポイント 躁うつ病によく似た行動異常を引き起こすモデル動物の開発に成功 ミト

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

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論文の内容の要旨

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体外受精についての同意書 ( 保管用 ) 卵管性 男性 免疫性 原因不明不妊のため 体外受精を施行します 体外受精の具体的な治療法については マニュアルをご参照ください 当施設での体外受精の妊娠率については別刷りの表をご参照ください 1) 現時点では体外受精により出生した児とそれ以外の児との先天異常

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報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

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「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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3 学校教育におけるJSLカリキュラム(中学校編)(理科)3.単元シート・指導案例・ワークシート 9 生物の細胞と生殖

生物時計の安定性の秘密を解明

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

1. 経緯わが国では 抗生物質の発見や戦後の衛生環境の向上などにより 感染症による死亡が激減し これに代わって高齢化とともにがんの発生 死亡数が増加を続け 1981 年には国民の死亡原因の第 1 位に躍り出ることになりました がんは 先進国のみならず発展途上国で急速に患者数が増加しており その克服は

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

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1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

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01_かがみ(案1)国動協宛て

物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の

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ヒト胚の研究体制に関する研究(吉村 泰典 委員提出資料)

平成14年度研究報告

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

研究成果の概要 ( 背景 ) 従来の遺伝子工学は, 実質的に外来遺伝子の導入に限られ, 標的部位への導入は極めて困難でした ZFN, TALEN, CRISPR/Cas 1) 等のゲノム編集は, 微生物起源の人工酵素による遺伝子改変技術の総称で, 外来遺伝子の標的部位への導入のほか, 内在遺伝子の破

ごあいさつ バイオシミラーの課題 バイオ医薬品は 20 世紀後半に開発されて以来 癌や血液疾患 自己免疫疾患等多くの難治性疾患に卓抜した治療効果を示し また一般にベネフィット リスク評価が高いと言われています しかしその一方で しばしば高額となる薬剤費用が 患者の経済的負担や社会保障費の増大に繋がる

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

細胞内で ITPKC の発現とインターロイキン 2 の発現量 過剰だとインターロイキン 2 の発現が低下し (a) 低下させると逆に増加する (b)

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

ドメイン検索を行うアプリケーション に適用できるようにしました また 検索を高速に実施するユーザのことを考慮して 複数のネットワーク機器 ( ノード ) に分散処理させるアプリケーションである Condor( コンドル ) 7 などの作業管理機能を盛り込み 高速実行環境を簡便な手順で構築することがで

( 写真 ) 左 : キャッサバ畑 右上 : 全体像 右下 : 収穫した芋

特定不妊治療費助成制度 の利用の手引き ( 申請案内 ) 平成 23 年 8 月 1 日から特定不妊治療に対する助成制度を創設しました 富田林市では 不妊治療の経済的負担の軽減を図るため 大阪府及びその他の都道府県 指定都市 中核市 ( 以下 大阪府等 という ) が実施する 特定不妊治療費助成制度

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

卵黄 PIP 2 IP 3 mammalian ICSI ER Ca 2+ 胚盤

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 8 月 15 日 独立行政法人理化学研究所 15 年冷凍保存マウスから子供を作出 - 精子の新たな保存法開発へ - マウスなどの動物が モデル動物 としてがんをはじめとする病態の解明や医薬品開発に役立っています とくにマウスは 研究に用いられて 100 年の歴史を持つことや ヒトの遺伝子と 99% も似ている遺伝子を持つなどの特徴をもっていることから さらに重要な動物になってきています このマウスを研究者らに提供し続けてきた理研バイオリソースセンターの遺伝工学基盤技術室の小倉淳郎室長らは ハワイ大学等との共同で マウス生産に欠かせない 新たな精子の凍結保存法 を開発しました 新しい保存法は 精巣あるいは動物個体をそのまま冷凍庫へ入れ 数時間かけて凍結するという非常に簡便な方法です これまでは精子を分離 洗浄したりなどの手間がかかっていましたが この方法はとても簡単です また 1991 年から 2006 年の 15 年間もマイナス 20 度の冷凍庫に保存されていた実験用の標準マウスを融かして回収した精子からも マウスの子供を 27 匹得ることができました 世界中の貴重な実験用マウスや希少動物の精巣をいったん凍結しておけば 生きた動物を復活させる可能性が一気に高くなります この手法がマウス以外の動物でどの程度応用できるかが今後の検討課題ですが マンモスなど永久凍土に眠る絶滅動物の精子を回収し 近縁種の卵子に顕微授精をすることでその子供を得ることも夢ではないかもしれません

( 図 ) 顕微受精の様子

報道発表資料 2006 年 8 月 15 日 独立行政法人理化学研究所 15 年冷凍保存マウスから子供を作出 - 精子の新たな保存法開発へ - ポイント 精巣や動物体を冷凍してもその中の精子核は生きている 15 年冷凍保存したマウスの精子からも正常な産子が生まれた 永久凍土などに眠る絶滅動物の精子も使える可能性独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は ハワイ大学等との共同で新たな精子の凍結保存法を開発しました 新しい保存法は 精巣あるいは動物体をそのまま冷凍庫へ入れて数時間かけて凍結するというだけの極めて簡便な方法で 融解後は顕微授精法 ( 図 1) 1 により回収精子から体外受精と同様に効率よく産子 ( マウス ) を得られることを確認しました 理研バイオリソースセンター ( 小幡裕一センター長 ) 遺伝工学基盤技術室の小倉淳郎室長および越後貫成美技師らによる研究成果です 従来の精子凍結保存法は 精子の活性を保つため 2 に分離 洗浄後 特殊な保存液に浸して 液体窒素 (-196 ) に保存することが必須とされていました この技術を用いて 1990 年代より現在まで 爆発的に増加している遺伝子改変マウスが保存されています 今回 理研バイオリソースセンター等が開発した方法は 精子を分離する必要もなく 精巣あるいは動物個体を通常の冷凍庫 (-20 から-80 ) に入れるだけというものです まだ詳細な原理は不明ですが 精巣中でゆっくりと冷やされることが精子核の保存性に良好に働いているようです この方法を用いて 英国から日本へ輸送したマウスの遺伝子改変に最も使われている系統 (C57BL/6) の凍結精巣からもマウスが効率よく生まれています 世界中の貴重な実験用マウスや希少動物の精巣をいったん凍結しておけば 生きた動物を復活させる可能性が一気に高くなります また 1991 年から 2006 年の 15 年間冷凍庫 (- 20 ) に保存していたマウス ( 実験用の標準マウス : BALB/cおよびC3H/He) を融かして回収した精子からも産子を 27 匹得ることができました ( 図 2) これらの産子は正常に大人まで発育し 子供も生まれることを確認しました 本方法がマウス以外でどの程度応用できるかが今後の検討課題ですが マンモスなど永久凍土に眠る絶滅動物の精子を回収し 近縁種の卵子に顕微授精をすることで産子を得ることも夢ではないかもしれません 本研究成果は 米国の科学雑誌 米国アカデミー紀要 オンライン版 (8 月 14 日 ~18 日の週 ) に掲載されます 1. 背景微生物をはじめ線虫やメダカ 蛙などとともにウサギやマウス ラットなどを実験動物として活用し さまざまな疾患の原因解明や効率良い創薬をすることが日常的に行われるようになっています さらに さまざまな生物のゲノム解析が進み

その情報をもとに遺伝子やタンパク質の機能を効果的に解明することも可能となってきています マウスは ヒトと同じ哺乳類であり ヒトの遺伝子の 99% が存在する上 実験動物として百年以上の歴史があり 遺伝や病気に関する知見が蓄積しています マウスを活用し 遺伝子を改変した病気のモデルマウスや 日本人の遺伝的性質を反映した病気のモデルマウスを使った研究がさらに重要となってきています ゲノム解析や遺伝子 タンパク質の機能解明が必要になるとともに 遺伝子レベルまで品質が保証されるモデルマウスの育種 提供が欠かせない状況となっています 2. 研究手法と成果期待が高まっているモデルマウスの品質保証 莫大な需要にこたえるためのマウス系統の保存は 液体窒素温度で精子の凍結保存する手法が最も信頼性があり 現在広く利用されています この手法では 融解後にも 通常の体外受精で必要になる精子の運動性と受精能を保つことが必須とされています このためには 壊れやすい精子を覆っている細胞膜を保護する必要があるので 精子を分離 洗浄し 凍結保護剤とともに急速に冷却して液体窒素に保存します この手法は 1990 年代より爆発的に増加した遺伝子改変マウスに用いられ その主流を占めています 今回 開発した冷凍法は これまでのように精子を分離 洗浄する必要がなく 精巣あるいは動物体を通常の冷凍庫 (-20 から -80 ) に入れるだけという簡単なものです これまでの方法では 精子が自ら動いて受精しないといけない体外受精を用いていたため 最高の条件で液体窒素に保存をしなければいけませんでした つまり 精子の運動性を保持させるために複雑な凍結保存を必要としていました しかし 顕微授精技術を応用すると DNA の保存のみを考えればよくなります そこで DNA 保存に最良の条件をいくつか検討した結果 精子を貯める臓器 ( 精巣上体 ) と精巣をそのままゆっくり凍結することで成功しました これまでは精巣上体精子 つまり完全に成熟した精子が一番良いだろうとこればかりが注目をされていましたが 今回は主に精巣精子に注目しました 精巣精子は動きが悪いので体外受精には使えませんが むしろ簡易長期保存には向いていて 顕微授精で容易に産子を得ることができます 今回の方法については まだ詳細な原理は不明ですが 精巣中でゆっくりと冷やされることが精子核の保存性に良好に働いているようです この手法は 凍結させる際に特別な条件もなく簡単にできるところが利点です 生殖細胞は DNA が 100% 正常でなければなりません このため 専門家は こんな簡単な凍結方法で長期間の保存ができるとは夢にも思っていませんでした 一般的には 温度が低ければ低いほど長期間保存できます 臓器あるいは動物体の丸ごとの凍結保存 (-20 ) では 数ヶ月程度しか DNA が保存されないだろうと考えられていました 本来であれば液体窒素中が一番よく保存できるはずですが 今回 -20 で保存ができたのは驚きでした この方法を用いて英国から日本へ輸送したマウスの遺伝子改変に最も使われている系統である C57BL/6 マウスの凍結精巣からもマウスが効率よく生まれました このことは 世界中の貴重な実験用マウスや希少動物の精巣をいったん凍結しておけば 生きた動物を復活させる可能性が一気に高くなる証明となりました

またこの方法は 動物体の緩慢凍結でもほぼ同じ条件になるので 1991 年から 2006 年の 15 年間冷凍庫 (-20 ) に保存していたマウス ( 実験用の標準マウス : BALB/c および C3H/He) を融かして回収した精子からも実験してみたところ 産子を 27 匹得ることができました これらの産子は正常に大人まで発育し 子供も生まれることを確認しました 3. 今後の期待動物精子の凍結保存は歴史が浅いため 長期保存の世界記録は残念ながらわかりません ( 植物は種子があるので 相当長い期間保存できることでしょう ) しかし 15 年保存の精子でも普通の効率でマウスが生まれているので それ以上古くても使える手法だと予想されますが どのくらいまで古くても可能であるか ということは現状ではまだわかりません なお この 15 年保存のマウスは 慈恵医科大に眠っていたものをようやく見つけたものです さらに 本手法がマウス以外でどの程度応用できるかを検討することが今後の課題です マウス以外の動植物についても この方法を試すことはすぐにできます 動物園などで死んだ動物にはもっと古い個体があるかもしれませんし マンモスなど永久凍土に眠る絶滅動物の精子を回収し 近縁種の卵子に顕微授精をすることで産子を得ることも夢ではないかもしれません ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター遺伝工学基盤技術室室長小倉淳郎 Tel : 029-836-9165 / Fax : 029-836-9172 筑波研究所研究推進部吉田元裕 Tel : 029-836-9078 / Fax : 029-836-9100 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 顕微授精法顕微鏡下で卵子に精子を注入して受精させる技術 2 精子の活性を保つ通常の体外受精で必要になる精子の運動性と受精能を保つこと このためには 壊

れやすい精子の細胞膜を保護する必要があるので 精子を凍結保護剤とともに 急速に精子を冷却し 液体窒素に保存をする 図 1 顕微受精の様子 図 2 産まれた 27 匹のうちの 2 匹