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鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) 先組みビルト H 梁の塑性変形能力の改善方法 Improvement methods of plastic deformation capacity of pre-built-up H-shaped beam 倉成真也 * 中野達也 ** Shinya KURANARI Tatsuya NAKANO ABSTRACT In this paper, the improvement methods of plastic deformation capacity of pre-built-up H-shaped beam by submerged arc welding were investigated. First, a survey of improvement methods for the beam end connection of existing steel structure buildings was conducted. Next, the improvement effect about slit, boxing welding, backfill welding and web stiffener were investigated by the loading test. From test results, it becomes clear that the plastic deformation capacity of the beam increases by slit, backfill welding and web stiffener. Keywords: 先組みビルト H 梁, サブマージアーク溶接, 脆性破壊, 改善方法 pre-built-up H-shaped beam, submerged arc welding, brittle fracture, improvement method 1. 序本研究では, サブマージアーク溶接による先組み型の溶接組立 H 形断面梁を用いた梁端接合部について, 力学性能の評価, 破壊要因の解明および破壊防止法の開発を目指している ( 以下, サブマージアーク溶接を SAW, 溶接組立 H 形断面を ビルト H と略記 ). 鋼構造梁端接合部の早期の脆性破壊は, ラーメン骨組の耐震性能を確保する上で最も避けるべき現象の一つである. しかし, ビルト H 梁を用いた梁端接合部の載荷実験において, 先組み型の試験体がスカラップ底を延性き裂の発生起点とした梁フランジの脆性破壊を生じた [1],[2]. 文献 [2] では, 図 1 に示す SAW 部の シャルピー吸収エネルギーが 15J の場合に, 梁の要求性能 [3] を満たさずに脆性破壊が生じ,47J 以上の場合に要求性能を満たした実験結果が得られている. このことから, 新たに先組みビルト H 梁を製作する場合に対しては,SAW 部の靭性が高くなる溶接材料を使用することで, 梁の塑性変形能力の改善を図ることができるといえる. しかし, 既存鋼構造建築物で使用されているものに対して * 第 1 種正会員修士 ( 工学 ) 株式会社巴コーポレーション ( 元宇都宮大学大学院生 ) ( 14-54 東京都中央区勝どき 4-5-17) ** 第 2 種正会員博士 ( 工学 ) 宇都宮大学大学院准教授 ( 321-8585 栃木県宇都宮市陽東 7-1-2) は, 上記を適用することができず, 何らかの手当てが必要である. 本論文では, 先組みビルト H 梁の塑性変形能力を向上させるための改善方法を検討する. まず, 既往研究で提案されている様々な改善方法の中から, スカラップ底を延性き裂の発生起点とする梁フランジの脆性破壊を防止する観点で, 有効と考えられるものを抽出する. 次に載荷実験を行い, 耐力や塑性変形能力などの力学性能および破壊性状を把握した上で, その有効性を明らかにする. 2. スカラップ底からの破壊を防止できる改善方法の調査これまでに既往の研究で提案されている梁の塑性変形能力の改善方法の中で, スカラップ底からの破壊を防止できるものとして, 図 2 に示す 8 種類が挙げられる [4] ~ [7]. 図 2(a)~(d) は文献 [4] で提案されているものであり, 梁の耐力を増大させるとともに, 塑性変形が生じる範囲を梁端から離すことでスカラップ底からの破壊を回避することが可能である. 図 2(d) については, 近年, 外ダイアフラ 図 1 ビルト H 梁の SAW 部 73 1 / 13

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) ムを取り付けずに補強する構法の研究 [8] が行われているが, 柱が角形鋼管の場合には外ダイアフラムを取り付けるのが一般的であるというのが現在の実状であり, 外周構面の柱梁接合部では外壁を除去する必要がある. 本研究では, 梁の塑性変形能力の改善だけでなく, 施工の簡便さを考慮するため, 以下の 3 点を加味する. 1) 中低層骨組の柱梁接合部として, 採用事例が最も多い通しダイアフラム形式を対象とする. 2) 床スラブを有する場合, 床スラブを除去することなく施工できる. 3) 外周構面の柱梁接合部について外壁を有する場合, 外壁を除去することなく施工できる. これらの点を勘案して, 本研究では図 2(e) ~(h) に示す 4 種類の方法に着目する. 以下にこれらの改善方法を概説する. 図 2 (e) は, スカラップ近傍の梁ウェブにスリットを入れる方法である [5]. 施工方法は, スカラップ上部に沿って梁ウェブをガス切断によりスリットを入れ, スリット先端の応力集中を避けるために円形の孔を設けるものである. スリットを入れて梁ウェブと梁フランジの縁を切ることにより, 図 1 に示している不溶着部が開口するような破壊力学におけるモードⅠの負荷を軽減させ, 延性き裂の発生が遅れることで梁の塑性変形能力が向上することを期待している [9]. なお, 破壊力学におけるモードに関する検討については付録 1 で述べる. 図 2 (f) は, スカラップ底の SAW 金属を除去したうえで, ガスシールドアーク溶接により開先先行型の場合と同様に回し溶接を行う方法である ( 以下, ガスシールドアーク溶接を GAW と略記 ). 文献 [1] において, 開先先行型では梁の要求性能を満足する塑性変形能力が得られることが明らかとなっている. そのため, スカラップ底の SAW 金属を除去することでスカラップ底近傍の不溶着も無くなり, 回し溶接を行うことで再熱効果による靭性の改善が得られる可能性があることから, スカラップ底を起点とする脆性破壊を避け, 開先先行型と同等の塑性変形能力が得られることを期待している. 図 2 (g) は,GAW によりスカラップを埋め戻す方法である [6]. スカラップによる断面欠損, スカラップ底の応力 歪集中箇所を無くすことでスカラップ底からの破壊を避け, 断面性能を向上させることを期待している. 図 2 (h) は, 梁ウェブに水平スチフナを取り付 図 2 既往の補強工法 74 2 / 13

鋼構造論文集 第23巻第91号 216年9月 ṇ ቑ ࡋ Ⲵ ࢪ u1 㻙 ᶓ 3. 実験方法 3. 1 試験体計画 図 3 に試験体形状および加力概要を示す 試 験体は逆 T 字形の部分骨組架構とし 柱両端を ピン支持としている 梁は BH-6 2 16 25 (SN49B) と し 柱 お よ び 接 合 部 パ ネ ル は -5 5 19 (BCP325) としている 表 1 に試験体リスト 表 2 に施工状況を示す 実験パラメータは図 2 e ~ h の 4 種類の改 善方法である 比較に用いる SBR PL 試験体 は 文献 [1] [2] において梁の要求性能を満たさ ずに脆性破壊した試験体である 使用する梁材は SBR MW 試験体が同一ロット材 a 材 PL SL NS WS 試験体が同一ロット材 b 材 で ある 接合部パネルおよびダイアフラムはすべて 同一ロット材である 以下に 各試験体の詳細お よび施工状況を述べる なお スリット 回し溶接 䕕 㻗 ける方法である [7] この方法は著者らの研究グ ループが提案している補強方法で 既往の研究で 補強効果が確認されているものである 補強の基 本方針は 塑性化開始位置を梁端溶接部から離れ た位置とすることでスカラップ底からの破壊を避 け 断面性能を向上させることを期待するもので ある [1] [11] u2 v2 v1 図 3 試験体形状および加力概要 単位 mm 表 1 試験体リスト 試験体名 改善方法 梁ロット SBR 改善無し a材 PL 改善無し b材 SL スリット b材 MW 回し溶接 a材 NS 埋め戻し溶接 b材 WS 梁ウェブ水平スチフナ b材 表 2 施工状況 SL 試験体 スリット MW 試験体 回し溶接 NS 試験体 埋め戻し溶接 WS 試験体 梁ウェブ水平スチフナ 3 / 13 75 2_JSSC鋼構造論文集No91.indd 75 216/9/16 18:43:25

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) 図 4 スリット詳細 ( 単位 :mm) 写真 1 SAW 金属の除去状況 図 5 回し溶接の順序 埋め戻し溶接の施工は上下スカラップともに行っている. SL 試験体は図 2(e) に示すように, スカラップにスリットを入れた試験体である. 図 4 にスリット寸法の詳細図を示す. スリット先端位置に応力集中を避けるための孔 (φ= 6mm) をあけた後, 梁ウェブをガス切断している. スリット長さに関しては, 事前に有限要素解析によりスリット長さと梁フランジの座屈に対する検討を行って決定している [8]. MW 試験体は図 2(f) に示すように, スカラップ底に回し溶接を行った試験体である. 写真 1 にスカラップ底の SAW 金属の除去状況を示す. SAW 金属の除去は一般的なエアアークガウジングにより行っており, 除去領域の長さはスカラップ底から 15mm 程度である. なお, スカラップ底には図 2(f) に示すように若干の SAW 金属が残留している. 回し溶接は, 文献 [12] に示されている開先先行型の方法に準拠して図 5 に示す順序で行っている. NS 試験体は図 2(g) に示すようにスカラップに埋め戻し溶接を行った試験体である. 図 6 に埋め戻し溶接の施工手順を示す. 溶接施工条件は, 事前に溶接施工試験を行って決定している. 施工手順は, バックアップ材を当てて溶接する際に, 裏当て金の前後に隙間ができるため, 始めに写真 2 に示すように裏当ての前後を溶接して隙間を埋めている. 次にバックアップ材を当てた状態で片側から溶接を行い, バックアップ材を外した後, 写真 2 バックアップ材の設置状況 図 6 埋め戻し溶接施工手順 ( 単位 :mm) 図 7 梁ウェブ水平スチフナ詳細 ( 単位 :mm) 76 4 / 13

鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) 反対側からも溶接を行っている. WS 試験体は図 2(h) に示すように梁ウェブに水平スチフナを取り付けた試験体である. 図 7 にスチフナの詳細を示す. 施工方法は,4 枚のスチフナを梁ウェブ, パネルフランジ, パネルウェブの 3 箇所を隅肉溶接により取り付けている. スチフナのサイズは, 文献 [7] の算定法により, 梁ウェブの全塑性曲げモーメントとスチフナによって増大する梁端補強断面の全塑性曲げモーメントを等置して設計している. 3. 2 溶接方法ビルト H 梁の組立溶接は無開先の両面隅肉溶接であり, 溶接方法は 2 電極方式の SAW で下向姿勢 ( 傾斜角 45 度 ) の 1 パス施工である. 使用する溶接ワイヤは規格が YS-S6 で径は 4.8mm φ, フラックスは規格が JIS Z 332 SFMS1 であり, 溶着金属の品質区分は JIS Z 3183 S51-H 該当である. 表 3 に溶接条件を示す. 極間は 2mm, ワイヤ突出し長さは 3mm である. 結線方法は逆 V 結線, 溶接電源は AC-AC である. 梁端部は梁フランジ接合部分を完全溶込み溶接とし, 梁ウェブ接合部分を隅肉溶接とする, いわゆる工場溶接接合形式である. 梁端部の溶接は GAW で行い, 溶接ワイヤは 1.4mm φ(ygw18) とし, 入熱 4kJ/cm 以下, パス間温度 35 以下で管理している. エンドタブは固形タブである. 裏当て金は FB-9 25 であり, 梁フランジ内面と組立溶接している. 通しダイアフラムの板厚は 32mm (SN49C) であり, 梁フランジと芯通しで配している. スカラップは図 8 に示す 35mm+1mm の複合円型である. 試験体の製作時期の違いにより, スカラップ 35R の回転中心の位置が図 8 に示すように異なっている. また, 実際のスカラップ加工では梁フランジの溶接変形を考慮して梁フランジ表面までスカラップ切削加工を行わず, 梁ウェブおよび SAW 部を少し削り残すことが多い. 本実験の試験体もそのようにしており, 削り残しの厚さは SBR PL 試験体で 2mm 程度,SL WS 試験体で 1mm 程度である. 3. 3 素材の機械的性質表 4 に素材引張試験により得られた素材の機械的性質を示す. 試験片形状は, 梁フランジ, 梁ウェブ, ダイアフラム, 接合部パネル, スチフナが JIS Z 2241 1A 号,SAW 金属から採取した溶金引張試験片については a 材が JIS Z 2241 14A 号, b 材が JIS Z 3111 A2 号である. 図 9 にシャルピー衝撃試験片の採取位置を示す. 試験片形状は,JIS Z 2242 V ノッチ試験片で 梁ロット a 材 b 材 電極 表 3 溶接条件 溶接電流 (A) アーク電圧 (V) 先行 85 3 後行 85 3 先行 75 3 後行 7 32 溶接速度溶接入熱 (cm/min) (kj/cm) 75 41 55 49 図 8 スカラップ詳細 ( 単位 :mm) 部位 鋼種 表 4 素材の機械的性質 t (mm) σ y1 (N/mm 2 ) σ y2 (N/mm 2 ) σ u (N/mm 2 ) a 材 25.6 372 361 532 29.5 梁フランジ b 材 25.4 345 327 522 3.4 SN49B a 材 16.7 368 343 517 28.8 梁ウェブ b 材 16.2 352 343 519 27.5 SAW 金属 a 材 1 2 7.3-52 619 26.6 S51-H 2 b 材 6. - 489 613 27.5 ダイアフラム SN49C 32.2 376 367 565 26.7 接合部パネル BCP325 19.6 375 359 519 26.5 スチフナ SN49B 22. 371 362 541 29.2 1 溶着金属の品質区分,t: 板厚 ( 2 径 ),σ y1: 上降伏点,σ y2: 下降伏点 (.2% オフセッ ト耐力 ),σu: 引張強さ,el.: 破断伸び el. (%) 77 5 / 13

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) あり,SAW 部と母材部から採取している.SAW 部については, 載荷実験時に梁フランジに材軸方向に引張力が作用することを想定し, 試験片が全て溶接金属となるように採取している. 表 5, 図 1 にシャルピー衝撃試験結果を示す. 母材部の シャルピー吸収エネルギー ve は a 材が 191J,b 材が 165J であり 1J を超えている. 他方で,SAW 部の ve は a 材が 14J,b 材が 15J と 27J を下まわっており, 母材部に比べて非常に小さいことがわかる. 3. 4 載荷方法載荷は, 図 3 に示しているように, 油圧ジャッキにより梁自由端に正負交番の漸増振幅繰返し荷重を作用させるものである. 制御は, 次式で求められる梁部材角 R に対して行っている. u u v + v R = L h 1 2 1 2 (2) ここで, 変位 u1,u2,v1,v2 は正載荷時に変形する方向が正である. 載荷履歴は,± 弾性域,± 2Rp,± 4Rp,±6Rp をそれぞれ 2 回ずつ繰返す. ここで,Rp は表 4 表 5 シャルピー衝撃試験結果 の素材試験結果に基づく全塑性曲げモーメント計算値 bmp(a 材で =1493 knm,b 材で =1438 knm) に対応する弾性部材角計算値 (a 材で =.69 rad,b 材で =.595 rad) であり, 梁部材の曲げ変形とせん断変形を考慮して算定している. 4. 実験結果 4. 1 実験経過図 11 に梁の M-R の関係, 表 6 に主要な実験結果を示す. 図 11 の縦軸および横軸は bmp,rp でそれぞれ無次元化しており, 図中には破壊を生じた時点およびサイクルを併記している. 同一ロット材の梁同士で比較すると,SL NS WS 図 9 シャルピー試験片の採取位置 ( 単位 :mm) 採取位置 SAW 部 母材部 ve (J) veshelf (J) vtre ( ) vts ( ) α 1-2 ( -1 ) β 1-2 ( -1 ) a 材 14 59 46.2 52.9 2.46 3.65 b 材 15 8 29.4 43.2 3.78 6.72 a 材 191 22-37.9-26.2 4.98 4.97 b 材 165 238-25.8-11.2 3.34 4.71 v veshelf E( T ) = exp[ α( T T )] +1 1 Cr( T ) = exp β( T vt s) + 1 v re (1a) (1b) ve: 吸収エネルギー,vEshelf: 上部棚吸収エネルギー,vTre: エネルギー遷移温度,vTs: 破面遷移温度, α: エネルギー遷移係数,β: 破面遷移係数 25 2 1 8 (a) (b) SAW(a) SAW(b) ve (J) 15 1 C r (%) 6 4 5 27J 2-6 -3 3 6 9 T () -6-3 3 6 9 T () (a) 吸収エネルギー (b) 脆性破面率図 1 シャルピー衝撃試験結果 78 6 / 13

鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) 試験体は改善を施していない PL 試験体に比べて梁の塑性変形能力が向上していることがわかる. 他方で MW 試験体は改善を施していない SBR 試験体に比べて塑性変形能力が劣化していることがわかる. 各試験体の実験経過および破壊性状については 4.4 節で詳しく述べる. 4. 2 力学性能の改善効果図 12 に履歴曲線より抽出した正側, 負側の骨格曲線を示す [13]. 横軸は骨格曲線の部材角 sr を Rp で無次元化している. 図 12(a) から, SBR MW 試験体は骨格曲線がほぼ一致していることがわかる. 図 12(b) から,NS WS 試験体は,PL 試験体に比べて同一部材角時の曲げ耐力が大きいことがわかる. これは NS 試験体はスカラップを埋めたことにより断面性能が向上したこと,WS 試験体はスチフナが曲げを負担したことが影響していると考えられる.PL SL 試験体は骨格曲線がほぼ一致していることから, スリットの存在が梁の曲げ耐力の低下へ与える影響は小さいといえる. 2 SBR PL SL 1 M / b M p -1-2 -4R p (1) -6-4 -2 2 4 6 R / R p -4R p (1) -6-4 -2 2 4 6 R / R p -6R p (1) -6-4 -2 2 4 6 R / R p 2 MW +4Rp (1) NS +6R p (1) WS 1 M / b M p -1-6R p (2) -2-6 -4-2 2 4 6 R / R p -6-4 -2 2 4 6 R / R p -6-4 -2 2 4 6 R / R p 図 11 M-R 関係 試験体名 スカラップ底の延性き裂発生 破壊のタイミング 破壊の起点 表 6 主要な実験結果 emmax (knm) e M M b max p Eη S Eη A + - + - + - + - Total SBR +2Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1819-1742 1.22-1.17 3.5 2.3 5.7 5.7 11.4 PL -4Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1722-1718 1.2-1.19 2.7 1.8 4.1 4.2 8.3 SL -2Rp(1) -6Rp(1) スカラップ底 1918-23 1.33-1.41 6. 7.8 17.5 2.1 37.6 MW +2Rp(2) +4Rp(1) スカラップ底 1862-168 1.25-1.13 3. 1.3 6. 2.8 8.8 NS - +6Rp(1) 埋め戻し溶接溶接止端部 195-219 1.36-1.4 4.3 5.1 16.6 12.7 29.3 WS -2Rp(1) -6Rp(2) スカラップ底 228-2429 1.59-1.69 1.5 9.5 27.5 28.3 55.8 emmax: 最大曲げ耐力実験値,bMp: 全塑性曲げモーメント計算値 (SBR,MW=1493 knm,pl,sl,ns, WS=1438 knm),eη S: 骨格曲線を対象とした塑性変形倍率,Eη A: 履歴曲線を対象とした累積塑性変形倍率 79 7 / 13

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) 2 1.5 MW -2-1.5 SBR SBR MW M / b M p 1.5-1 -.5 2 4 6 8 1 2 4 6 8 1 sr / R p (a) SBR,MW 試験体の比較 sr / R p 2 1.5 NS -2-1.5 WS PL SL NS WS M / b M p 1-1 PL SL.5 -.5 2 4 6 8 1 2 4 6 8 1 sr / R p sr / R p (b) PL,SL,NS,WS 試験体の比較図 12 骨格曲線 em max / b M p 1.8 1.6 1.4 ξ 1.2 Eη A 6 4 2 η req b A Eη S 15 1 5 1 SBR PL SL MW NS WS SBR PL SL MW NS WS (a) 累積塑性変形倍率 SBR PL SL MW NS WS (b) 塑性変形倍率 図 13 耐力上昇率の比較 図 13 に耐力上昇率 emmax / bmp の比較を示す. ここで emmax は最大曲げ耐力実験値,bMp は全塑性曲げモーメント計算値である. まず, 改善を施していない試験体に対する改善効果をみると, SL NS 試験体は PL 試験体の約 1.2 倍,WS 試験は約 1.4 倍となっている. 他方で MW 試験体は SBR 試験体と大差が無い. 次に, 本論文では bmp の計算に素材試験結果を使用しているため, 塑性変形性能を保証するために必要な梁端のひずみ硬 図 14 塑性変形能力の比較 化による耐力上昇を考慮した係数である ξ=1.2 と比較する [14]. 図 13 から, 正側ではすべての試験体の emmax / bmp が 1.2 以上となっているが, 負側では SBR PL MW 試験体の emmax / bmp が 1.2 未満である. 前述しているとおり,WS 試験体はスチフナが曲げを負担していることで梁の曲げ耐力と変形性能が向上し, 耐力上昇率が大幅に上昇したものと考えられる. 図 14 に塑性変形能力の比較を示す. 塑性変形 8 8 / 13

鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) 能力の評価指標には, 履歴曲線に基づく累積塑性変形倍率 Eη A ならびに骨格曲線に基づく塑性変形倍率 Eη S を用いる [13]. ここで,Eη A および Eη S は塑性変形による吸収エネルギーに基づく評価指標であり, それぞれ履歴曲線や骨格曲線に面積が等価な完全弾塑性関係の塑性変形倍率に相当する. 図 14(a) から,Eη A は WS 試験体 > SL 試験体 > NS 試験体 > SBR 試験体 > MW 試験体 > PL 試験体の順に大きいことがわかる. また, 梁崩壊するラーメン骨組の構造ランクⅠの部材に要 req 求される塑性変形能力は bη A = 2 であり [3], 改善を施した SL NS WS 試験体は要求性能を満足している. 他方で MW 試験体は改善を図った ε f (%) 6 4 2 図 15 歪測定位置 PL NS WS 2 4 6 R S / R p 図 16 梁フランジ骨格歪 にもかかわらず, 要求性能を満足していない. 図 14(b) からも概ね同様の傾向がわかる. 4. 3 梁フランジの歪性状図 15 に梁フランジの歪測定位置を, 図 16 に梁フランジ幅端部の骨格歪 ε f を示す. ここで ε f は負載荷時の引張側梁フランジの結果である.PL 試験体に比べて,NS WS 試験体は同一部材角時の ε f が小さくなっており,WS 試験体の ε f が最も小さい. よって NS WS 試験体は,PL 試験体よりも梁フランジに作用する負荷が小さくなったことで, 塑性変形能力が向上したものと考えられる. また,WS 試験体はスチフナの存在により梁フランジに作用する引張力が大幅に軽減されたために, スカラップ底に発生した延性き裂の進展が抑えられ, 塑性変形能力が最も向上したものと考えられる. 4. 4 破壊性状表 7 に各試験体の破壊状況の一覧を示す. 以下に, 各試験体の破壊状況を述べる. SBR 試験体は,+2Rp(1) でスカラップ底において図 17(a) に示すような不溶着上部から延性き裂の発生が目視により確認され,-4Rp(1) で梁フランジが脆性破壊を生じている. また, 脆性破壊への転化点は,SAW 金属であることが確認されている. PL 試験体は,-4Rp(1) でスカラップ底において図 17(a) に示すような不溶着上部から延性き裂の発生が目視で確認された直後に, 梁フランジが脆性破壊を生じている. また, 脆性破壊への転化点は,SAW 金属であることが確認されている. SL 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底において図 17(b) に示すような不溶着端部から延性き裂の発生が目視により確認されている. 以後, 延性 (a) 不溶着上部から発生 (b) 不溶着端部から発生図 17 スカラップ底の延性き裂発生位置 81 9 / 13

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 September 216 表 7 破壊状況一覧 梁フランジ外面 スカラップ底近傍 梁フランジ側破面 SBR PL SL MW 破壊 起点 NS WS 1 / 13 82 2_JSSC鋼構造論文集No91.indd 82 216/9/16 18:43:32

鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) き裂が梁の変形の進行に伴って進展し,SAW 金属を通過している. また,-6Rp(1) で梁フランジ外面中央の溶接止端部からも延性き裂の発生が確認され, スカラップ底からの延性き裂とつながる前に梁フランジが脆性破壊を生じている. スリット先端からの延性き裂発生などの異常は確認されていない. MW 試験体は,+2Rp(2) でスカラップ底における回し溶接の溶接止端部に延性き裂の発生が目視により確認され,+4Rp(1) で梁フランジが脆性破壊を生じている. 脆性破壊への転化点はスカラップ底に残留する SAW 金属であることが確認されている. 梁の塑性変形能力が向上しなかったのは, 回し溶接の溶接止端部に応力 歪が集中して, 回し溶接を行っていない SBR 試験体に比べて早期に延性き裂が発生し, 直ちに梁フランジ母材の板厚方向へ進展したことが影響していると考えられる. また, スカラップ底に残留する SAW 金属で脆性破壊に転化したことから, 再熱効果が無く, SAW 金属の靭性は低いままであったと考えられる. NS 試験体は, 埋め戻し溶接部近傍からの延性き裂の発生は確認されず, 表 7 に示す SAW ビード上の溶接止端部を起点として,+6Rp(1) で梁フランジが脆性破壊を生じている. よって,SAW 金属の靭性が低い場合,SAW ビード上に応力集中箇所を設けてしまうと, 当該箇所を起点として脆性破壊が生じることから, 改善効果が小さくなるおそれがあるといえる. WS 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底において図 17(b) に示すような不溶着端部から延性き裂の発生が目視により確認されている. その後, 延性き裂の進展は確認されず,-6Rp(2) で梁フランジが脆性破壊を生じている. 脆性破壊への転化点は SAW 金属であることが確認されている. 4. 5 破面分析各試験体の梁フランジ側破面を見ると,SBR PL MW NS WS 試験体は破面全体に明瞭なシェブロンパターンが確認でき, 脆性破壊への転化点は SAW 部であることがわかる. 他方で,SL 試験体はスカラップ底から発生した延性き裂が SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展した後に脆性破壊していることがわかる. 以下, 脆性破壊への転化点が異なっている点を考察する. まず, 延性き裂の発生モードをみると,SL 試験体と WS 試験体は図 17(b) のモードで共通しているが, 脆性破壊への転化点は異なっているため, 延性き裂発生モードとの関連は薄いようであ SAW 部フュージョンライン -4Rp(1) -4Rp(2) -6Rp(1) 写真 3 SL 試験体の延性き裂の進展範囲 る. 次に, 靱性の影響であるが, 溶接部の破壊靭性が大きなばらつきをもち, 極めて低い靱性を呈するのは, 溶接金属近傍の母材 ( 溶接熱影響部 ) に存在する局部的な脆化部が大きな役割を果たしていることが指摘されている [15]. 一方で溶融金属部における組織変化は非常に複雑であり, ミクロな観点では SAW 金属の材質もまったく同じであることはない. したがって,SL 試験体は SAW 金属および熱影響部のミクロな材質の違いに起因して,SAW 部で脆性破壊に転化しなかった可能性がある. 脆性破壊への転化については明らかとなっていない点が多いため, その要因の解明については今後の課題とするが, ここでは他の試験体と同様の位置で脆性破壊に転化した場合の SL 試験体の塑性変形能力の評価を試みる. 写真 3 に破面解析より得られた,SL 試験体の各サイクルの延性き裂の進展範囲を示す. 写真 3 には破面から 1mm 離れた位置の断面マクロから得られた,SAW 部のフュージョンラインを併記している. スカラップ底から発生した延性き裂は,-4Rp(2) で SAW 部に進展し,-6Rp(1) には SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展したと考えられる. 延性き裂が SAW 部に進展したときに脆性破壊に転化すると仮定すると,SL 試験体は +4Rp(2) と -4Rp(2) の間で破壊することになる. SL 試験体の +4Rp(2) 終了時までの Eη A は 17.1 程度,-4Rp(2) 終了時までの Eη A は 21.5 程度であり, req 梁の要求性能である bη A = 2 を大きく上回るような塑性変形能力が得られない可能性がある. 5. 結論本論文では, まず, 既往研究からスカラップ底からの破壊を防止し, 梁の塑性変形能力を向上させるための改善方法を抽出した. 次に, サブマー 83 11 / 13

Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) ジアーク溶接金属の靭性が低い先組みビルト H 梁を用いた梁端接合部に改善方法を適用し, 載荷実験により塑性変形能力の改善効果を確認した. スリット, 埋め戻し溶接, 梁ウェブ水平スチフナによる改善方法を適用した試験体は梁の要求性能を上回る塑性変形能力を示し, 各試験体の塑性変形能力は, 梁ウェブ水平スチフナ>スリット> 埋め戻し溶接の順で優れていた. 他方で, 回し溶接を施した試験体は, 改善を施していない試験体よりも塑性変形能力が劣化した. ただし, 改善方法の適用に際しては次の 2 点に注意が必要である. スリットによる改善方法を適用した試験体は, 脆性破壊への転化点が改善を施していない試験体と異なっており, 延性き裂がサブマージアーク溶接部で脆性破壊に転化しなかった要因にミクロな材質の違いの影響が考えられる. よって, 延性き裂がサブマージアーク溶接部で脆性破壊に転化する場合, 梁の要求性能を大きく上回るような塑性変形能力が得られない可能性がある. サブマージアーク溶接金属の靭性が低いビルト H 梁に対して埋め戻し溶接を行う場合, サブマージアーク溶接金属のビード上に応力集中箇所を設けてしまうと, 当該箇所を起点として脆性破壊が生じることから, 改善効果が小さくなるおそれがある. τ xz は x 軸に対する z 軸方向のせん断応力度であり, α は不溶着幅の半長 (m) である. 付図 3 に応力度データの抽出位置を示す. 応力度データは不溶着端部に沿って抽出している. 付図 4 に梁の変形角が.5rad 時の K Ⅰ,K Ⅲ の比較を示す. 実線が改善なしモデルの K Ⅰ,1 点鎖線が改善なしモデルの K Ⅲ を示しており,K Ⅰ に比べ K Ⅲ は極端に値が小さく, モード Ⅰ による負荷が支配的であるといえる. 付図 1 不溶着部に作用する負荷モード 付図 2 破壊力学モード 付録 1. 不溶着部に作用する負荷モード文献 [9] では, 不溶着部に作用する負荷モードに着目し, 不溶着端部に生じる応力拡大係数の比較を行うことで, スリットによる改善方法の改善効果の検討を行っている. 梁が曲げ変形を受け, 梁フランジに引張力が生じるとき, スカラップ底の不溶着部に生じる負荷は付図 1 に示す開口と, 面外せん断の 2 種類が考えられる. 不溶着部をき裂とみなして不溶着端部に生じる負荷を応力拡大係数で評価すると, 破壊力学におけるモードの違いにより, 付図 2 のモード Ⅰ とモード Ⅲ に分類され, それぞれの値は次式で表される. K = σ πa ( 付 1) yy K = τ πa ( 付 2) xz ここで,K Ⅰ はモード Ⅰ の応力拡大係数,K Ⅲ はモード Ⅲ の応力拡大係数,σ yy は y 軸方向の垂直応力度, K,K 15 1 付図 3 データ抽出位置 K K K 5 R 底 -2 2 4 6 8 1 12 14 16 R (mm) 付図 4 応力拡大係数の比較 (.5rad) 84 12 / 13

鋼構造論文集第 23 巻第 91 号 (216 年 9 月 ) 次に, 改善なしモデルの K Ⅰ とスリットモデルの K Ⅰ を比較すると, 破線のスリットモデルの方が不溶着端部に作用する K Ⅰ が減少していることがわかる. ここでは不溶着端部に生じる K Ⅰ に着目して改善方法の検討を行っているが, き裂の進展方向に着目すると, 不溶着端部に生じるモード Ⅰ でのき裂の進展方向と, 梁フランジ破断が生じるときのき裂の進展方向は実際には異なっている. モード Ⅰ でのき裂進展が, 梁フランジの破断へ与える影響については明らかになっていないのが現状であり, 破壊評価指標の適正検討は今後の課題とする. 参考文献 [1] 中野達也, 前山大 : ビルト H 梁端接合部の塑性変形能力と破壊性状 ( 先組みビルト H 梁を用いた鋼構造梁端接合部の力学性能その 1), 日本建築学会構造系論文報告集, 第 711 号, 215.5 [2] 倉成真也, 中野達也 : 先組みビルト H 梁を用いた梁端接合部の脆性破壊, 日本鋼構造協会鋼構造年次論文報告集, 第 22 巻,pp.742-748,214.11 [3] 日本建築学会 : 建築耐震設計における保有耐力と変形性能 (199), 鋼構造編,199.1 [4] 日本鋼構造協会, 日本建築防災協会 :213 年改訂版既存鉄骨造建築物の耐震改修施工マニュアル,213.8 [5] JayAllen,JamesPartridge,SkipRadau, Ralph Richard:DUCTILE CONNECTION D E S I G N S F O R W E L D E D S T E E L M O M E N T F R A M E S, S E A O C 1 9 9 5 Convention Proceedings,pp.253-269, 1995.1 [6] 石原清孝, 小野喜信, 宇佐美徹 : 現場溶接形式のノンスカラップ工法による柱梁接合部の構造特性, 日本建築学会大会学術講演梗概集, C-1 構造 Ⅲ,pp.729-732,214.9 [7] 金和幸, 中野達也, 宗川陽祐 : 梁ウェブ水平スチフナによる梁端接合部の補強実験 - 既存鋼構造建築物における梁端接合部の補強方法 -, 日本建築学会関東支部研究報告集 Ⅰ, pp.69-612,215.3 [8] 的場弘晃, 浅田勇人, 田中剛, 山田哲, 上原拓馬 : 梁に H 形鋼を高力ボルト接合により付加する耐震補強構法に関する研究 ( その 4 角形鋼管柱梁接合部を対象とした実験の概要, その 5 角形鋼管柱梁接合部を対象とした 実験の結果と有限要素解析による検証 ), 日本建築学会大会学術講演梗概集,C-1 構造 Ⅲ, pp.791-794,215.9 [9] 倉成真也, 中野達也 : 先組みビルト H 梁の補修工法に関する有限要素解析, 日本建築学会関東支部研究報告集 Ⅰ,pp.613-616,215.3 [1] 豊憲太, 伊中泰穂, 浅田勇人, 多賀謙蔵, 田邉義和 : 既存超高層建築物の梁端溶接接合部の補強方法に関する研究, 鋼構造年次論文報告集, 第 21 巻,pp.559-566,213.11 [11] 井川大裕, 吹田啓一郎, 多賀謙蔵, 田邉義和, 塚越治夫, 坂井悠佑 : 変厚鋼板を梁フランジに用いた梁端溶接接合部の塑性変形能力と破断防止設計法, 鋼構造論文集, 第 19 巻第 75 号, pp.27-39,212.9 [12] 日本建築センター : 鉄骨梁端溶接接合部の脆性的破断防止ガイドライン 同解説,23.9 [13] 建築研究所, 日本建築連盟 : 鋼構造建築物の構造性能評価試験法に関する研究委員会報告書,pp.81-83,22.4 [14] 日本建築学会 : 鋼構造接合部設計指針, pp.128-129,212.7 [15] 産業技術サービスセンター : 接合 溶接技術 Q & A 1,pp.428-429,1999.8 (216 年 1 月 8 日原稿受理 ) 13 / 13 85