第 3 章診断に関する知識 1 エネルギー診断の進め方 2 個別設備ごとの診断 2-1 空気調和設備 換気設備 2-2 圧縮設備 空気供給系統 2-3 受変電設備 配電設備 2-4 照明設備 2-5 2-6 加熱設備 ( 電気加熱 ) 2-7 冷凍 冷蔵設備 2-8 ボイラー設備 2-9 電動機 ポンプ ファン 2-10 コージェネレーション 2-11 給湯 給水 昇降設備他 3 3 診断報告書のまとめ方 第 3 章では エネルギー診断を実務的に進めるために主要な設備毎に具体的に解説する まず設備の概要や重要となる理論 計算を解説し 基礎力の充実を図れるようにした 次に 当分野に精通した プロの視点 で 現場の課題抽出能力と課題解決能力が身につくように 診断手法を解説し 具体的な診断事例で理解を深め 報告書を自力で作成できるように配慮した この内容は 当センターの長年にわたる省エネ診断から蓄積された診断マニュアルを再編集したものである 1
加熱設備は 製造業において広く使用されており 熱源より燃焼炉と電気炉に分類される その用途とし 3 章 ては 乾燥 加熱 熱処理 溶解工程で多く使用される 一般に単一設備で大量のエネルギー消費が行われるため 省エネ診断対象として重要である 特に化学 鉄鋼 金属製品製造 熱処理 食品などの大規模工場においては削減量の大きな改善余地が発見されることが多く 省エネ診断が有効である 排熱回収による予熱空気の搬送配管を例に 熱搬送設備についても解説する 2-5-1 設備 技術の概要 (1) 構成要素 システム 代表的な加熱炉の構成を図 2.5.1 に示す 2 燃焼機器 ( バーナー 送風機 ) 1 炉体 ( 壁 扉 ) 燃料 13A F F バーナー燃焼空気ブロワー P レキュペレーター INV 炉圧調節弁 4 制御 システム O 2 分析計 排ガス入口温度 排ガス出口温度 3 排気 排ガス熱回収装置 図 2.5.1 加熱炉の構成 ( 例 : 鍛造炉 ) 出典 : 省エネルギーセンター資料 主要な構成要素は以下の通り 1 炉体設備 耐火物 断熱材で構成される 2 焼機機器 燃焼装置 ( バーナー ) 送風機 ( 燃焼空気 ) で構成される 3 制御 システム 所定の加熱と空気比を維持するための炉温制御 燃焼制御が導入されている また 大規模な工業炉では炉圧制御も通常行われている 4 排気設備 排ガス熱回収装置 燃焼炉においては排ガスを排出するために煙道 煙突で排気される 煙道には排ガスの熱回収装置 ( レキュペレーター ) が配置されることが多く この流れ抵抗が有るため通常は排ガスファンの設置が行われる また煙道には炉圧調整の為の弁が配置されている 189
2-5-2 診断に係わる重要な理論と計算 加熱炉の省エネ診断においては 伝熱 熱交換 燃料及び燃焼計算 熱精算の計 算知識が必要となる 以下にその要点を ③燃料及び燃焼計算 燃料の発熱量 排ガス損失熱量 加熱炉 ①伝熱 炉体からの放熱 炉内材料ヘの伝熱 バーナー 示す 図 2.5.11 参照 燃焼計算や伝熱については ボイラー ②熱交換 排ガス熱回収設計 熱回収装置の評価 空調設備等の他の主要設備にも利用する ので 十分に理解して下さい 送風機 図 2.5.11 加熱炉の診断に関わる主な計算 1 伝熱計算 実際に熱が伝わる状況はいろいろ考えられるが 基本的には 3 つに分けられ これらが単独で あるい は組合わさり現れる 伝熱の 3 形態は 伝導 対流 放射である このうち 伝導と対流は物体内部の温 度差により物体内を熱が伝わるのに対し 放射では 物体の表面から他の物体の表面まで 熱が直接伝わる という特徴を持っている また 伝導と対流では どちらも物体内を熱が伝わるということでは同じである が 熱を伝えている物体が静止しているか運動しているかによって区別している 気体や液体のように熱を 伝えている物体が運動している場合には 静止している場合に比べて伝熱量は非常に大きくなり 速度によっ 第3章 ても大きく変化するため 静止している場合とは別の扱い方をしている 診断に関する知識 1 伝導伝熱 厚さ b m で面積が A m2 の壁があり 両側の温度がそれぞれ t 1 およ び t 2 に保たれているとき この壁を通して単位時間に通過する熱量は t1 次のようになる Q=λ A t1 t2 W b 式 2.5.1 大事 Q t2 この式で比例定数λは熱伝導率 W/ m K と呼ばれ 物体の種類によっ て異なる値を持つ このように 伝導における伝熱量は 壁の厚さと熱伝導率および両側の温 度が決まれば計算できる b 図 2.5.12 伝導伝熱 2 対流伝熱 壁の表面を流体が流れているとき 壁から流体へ流れる熱量は流体の種類 や速度によって大きく変化する 対流伝熱による伝熱量は壁の表面温度 t w tw と流体温度 t f の差に比例すると考えれば 表面積 A m の壁面から 2 tf の伝熱量は次の式により計算できる Q = h A tw tf W 大事 式 2.5.2 Q この式で比例定数 h は熱伝達率 W/ m2 K と呼ばれ 流体の種類や 流速によって大きく変化するものであり 実験によって求める 194 流体 図 2.5.13 対流伝熱 加熱設備 燃焼加熱 第3章2-5.indd 194 13/08/30 2:05
202 2)A0 と G0 の概略計算法 燃料の成分組成がわかれば理論空気量や理論燃焼ガス量が計算できるが 実際には燃料の成分組成が不明である場合が多い 一方 燃料の発熱量は容易に測定でき たいていの場合わかっているため 発熱量の値から理論空気量や燃焼ガス量が計算できると便利である 従来から多くの人により概略計算法が提案されているが 代表的なものを表 2.5.6 に示す 表 2.5.6 A 0,G 0 の概略計算式 (Boie の式 ) 燃料理論空気量 A 0 理論燃焼ガス量 G 0 この表から理論空気量 A 0 理論燃焼液体燃料ガス量 G 0 が計算できれば 実際の空気 0.296H H 1 1.36 m 1: MJ/kg 3 N /kg 0.376H1 3.91 m3 N /kg 量および燃焼ガス量は次式から計算で気体燃料きる 0.268H 1 m 3 N /m3 N 0.293H1 m3 N /m3 N H 1: MJ/m 3 N A = ma 0 ( 式 2.5.10 前述 ) G = G 0 + (m 1)A 現場的に便利な式 0 ( 式 2.5.12 前述 ) 2-5-3 診断手法 加熱炉の診断の目的は熱源 ( 燃料 ) の削減が主な目的である 加熱炉の熱の出入り ( 熱収支 ) を明らかにして 熱効率を如何に高めるかを検討する必要がある 下記の診断手順に基づいて 具体的な診断手法を解説する 手順 1: 事前情報の収集 熱原単位データーの分析 ( 熱効率の是非 ベンチマークで評価 ) 手順 2: 現地における情報収集 操業実態 ( 炉温 被加熱物温度 加熱時間 前後工程 ) 設備の実態 ( 燃焼機器 レキュペレーター 制御の種類 ) 手順 3: 診断の視点に基づく調査 分析 視点 1 空気比の適正化 ( 燃料 空気の供給装置 制御 ) 視点 2 炉圧の適正化 ( 炉圧調整装置 制御 ) 視点 3 炉壁の断熱強化 視点 4 排ガス温度 廃熱回収率 ( ヒートパターン 廃熱回収装置 制御 ) 視点 5 電気設備の見直し 加熱炉以外にも燃焼 伝熱を利用する設備は多いのでここで基礎力を十分に養なって下さい
第3章以下 診断報告書を作成する上で大切となる診断の視点と調査 分析のポイント 対策の具体的手法を述 診断に関する知識べる 手順 1 事前情報の収集 下記の情報を収集する ( 診断先に問い合わせてできるだけ事前に入手する ) 1 工場の概要イ ) 稼動年月 処理品目 数量 稼動形態 ( 稼働時間帯 ) ロ ) 対象炉の前後工程ハ ) 対象炉の完成図書 ( 仕様書 図面 ) 2 使用エネルギーの種類 年間使用量等当該設備のエネルギー使用量 ( 燃料及び電力量 ) 燃料原単位 ( 燃料使用量 / 処理量 ( 重量トン ) 燃料種類 ( 性状表 ) 3 これまでに実施した主な省エネ対策 1のイ ) ロ ) は対策立案や効果を判断するのに必要であり 入手も容易である ハ ) は入手できないケースが多い 手順 2 の現地調査で確認すればよい 2の中では燃料原単位のデーターは特に重要であり是非入手したい 燃料原単位により炉の熱効率がおおよそ推定できるので 対象炉の改善ポテンシャルが判断できる 3は今後の対策立案の参考になる 事前で困難であれば現地調査で確認しておきたい 手順 2 現地における情報収集 事前調査では実際には入手できない情報が多い また稼働年数がたっている炉は稼働時の仕様とは設備 操業条件とも異なっている場合が多いので現地での観察 実態把握が特に重要である < 主なチェック項目 > 設備仕様 エネルギー消費量 運用形態 ( 負荷パターン ) 運転状態値( 温度 圧力 流量の設定値 必要値 ) 現状の問題点 過去の省エネ対策等 計測器を用いた計測診断が可能であれば より多くの診断データを入手することができる そのときの手法を以下にまとめておく < 計測診断の計画 検討項目 > イ ) 必要データの収集 消費電力実績 ( 年間 月間 ) 電気 配管 制御系統図 運転制御/ 設定値炉体および関連装置の図面等 ( 測定に必要な箇所 ) ロ ) 計測のための下見熱測定項目別 測定箇所 ( 監視盤からの読み取りまたは現場測定が必要か ) 電力測定箇所 ( 屋外の雨対策要否 ) 温度測定箇所 排ガス測定 計器用電源ハ ) 計測時期の決定工場の稼動状況を事前にヒヤリングし 休日 / 休み時間とその時間帯での測定要否昼夜連続操業の有無 連続測定またはバッチ測定の判別ニ ) センサー種類 計測機器の選定 ( レンタルまたは所有機器を想定する ) 温度計 ( 熱電対等 ) 流量計 圧力計 ガス分析計等 203
2-5-4 診断の具体例第3章診断に関する知識(1) 診断の実践 視点 1 空気比の適正化 ( 燃料 空気の供給装置 制御 ) 対象炉は都市ガスを燃料とするバッチ炉である 空気比の制御は図 2.5.26 に示すように空気とガスの均圧弁を用いる方法である 空気比の定量化のため 炉の出口の排ガス中の O 2 と CO の連続測定を実施した その結果 O 2 濃度は 8% であった 排ガス中の O 2 濃度から逆算した空気比は 1.6 と基準値より高め 炉内圧力記録計 燃料 GAS 流量計 であった 改善策 適正な空気比となるように 空気 ガスの調 炉内温度記録計 炉内温度指示調節計 節弁を手動調整する 空気元圧調節弁 温度検出器 炉圧発信器 炉 バーナ 煙道 空気調節弁 酸素分析計 図 2.5.26 ガス圧力調節弁 炉圧ダンパー 空気比制御系統 空気ブロワー 燃料 GAS 酸素記録計 空気比の適正化は大事! 排ガス中の O 2 濃度を測定して空気比を計算し 燃料が最適かどうかを診断することは 非常に大切です 重要な理論と計算式の所を復習し 自力で使えるようになって下さい 操業が変化する場合は 燃料の消費量変化によって O 2 濃度も変動しますので 適正な値になるように制御されているかチェックする必要があります O 2 濃度計も最近は安価に入手できるようになってきましたので 現場に常時設置できない場合でも 定期的に排ガス中の O 2 濃度を測定するようにアドバイスすべきです 簡易式 21 空気比 = 21-O 2 % 209
第3診断に関する知識214 各改善提案における効果の定量評価を以下に示す (2) 改善の定量的評価 改善提案 1: 空気比の適正化 (1) 試算条件 (2) 試算 改善前の有効熱量の計算章 改善後の有効熱量 燃料都市ガス ( 発熱量 41.9MJ/Nm 3 単価 55 円 /m 3 CO 2 原単位 2.15kg/Nm 3 ) 燃料使用量 144,000Nm 3 / 年事前調査データ - より 加熱炉温度 1,200 計測より 排ガス温度 1,100 ( 比熱 1.4kJ/Nm 3 ) 計測より 排ガス中の O 2 濃度改善前 8% ( 測定 ) 計測より 空気比 m= 0.21/(0.21 -(O 2 ))= 0.21/(0.21-0.08)= 1.62 表 2.5.6Boie の式より Ao: 理論空気量 11.2Nm 3 /Nm 3 Go: 理論燃焼ガス量 12.3Nm 3 /Nm 3 実排ガス量 =(m - 1)Ao + Go =(1.62-1) 11.2 + 12.3 = 19.24Nm 3 /Nm 3 排ガス熱量は 1,100 の空気の平均比熱 1.4kJ/Nm 3 を使用して計算し 排ガス熱量 = 比熱 温度変化 排ガス量 = 1.4 (1100-20) 19.24 = 29,090 kj/nm 3 有効熱量 = 発熱量 - 排ガス熱量 = 41.9-29.1 = 12.8 MJ/Nm 3 現状の空気比 1.62 は工業炉の空気比基準に比べて大きすぎるので 空気比を適正な値である 1.2 に改善する 実排ガス量 =(1.2-1) 11.2 + 12.3 = 14.5 Nm 3 /Nm 3 有効熱量 41.9 - {1.4 10-3 (1100-20) 14.5} = 20.0 MJ/Nm 3 燃料節約率 (20.0-12.8) 20.0 = 0.36 (36%) 省エネ量 144,000 0.36 = 51,840Nm 3 / 年 CO 2 削減量 2.15 51,840 10-3 = 111t/ 年 費用効果 55 51,840 10-3 = 2,851 千円 / 年 (3) 設備費用および回収年数 ( 例 ) イ ) 年 2 回程度の燃焼診断と調整の場合費用 150 千円 / 回 2 = 300 千円 / 年回収年数 300 2,851 = 0.1 年ロ )O 2 メータを設置 自動制御を導入する場合費用 5,000 千円 / 一式回収年数 5,300 2,851 = 1.9 年 空気比は大切なので十分理解して下さい
診断報告書のまとめ方について特に定まったフォーマットがあるわけではない 診断先の事業者等が多種 3 章 診断報告書のまとめ方 多様であるので ケースバイケースに応じて最もふさわしい診断報告書をまとめる必要がある ここでは基本的な事項について説明するので 実際の診断報告書作成の一助にしていただきたい 特に 中小規模事業者向けには 理解しやすく提案した内容が具現化できるように工夫が必要である 3-1 診断報告書作成の目的 狙い 省エネルギー診断結果が有効に活用されるためには 整理され読み易い報告書であることが大切である 診断報告書は 工場 ビルのエネルギー使用実態の良否を審査するものではなく 工場 ビルに対し今後いかなる有効な省エネルギー施策を採りうるかに主眼を置き 管理 技術両面について実態に即した具体的提案を行うことを目的とする 提案した内容を具現化させるためには 現場担当者の理解とともに最も重要なことは経営層の意識を強めてもらうことにある 多忙な経営層や現場の担当者に短時間で要点のみをしっかり把握してもらえるような報告書を目指すべきである 報告書を説明する機会がある場合は 経営層の出席をぜひ促すようにすることが大切である 3-2 診断報告書の構成 内容 診断報告書の参考となる構成例を表 (3).3.1 参照に示す 基本的な構成でありケースバイケースで工夫していただきたい 診断先の事業規模や省エネの取り組み状況に応じて報告書の構成 内容は見直すことが必要である 表 (3).3.1 診断報告書の構成 内容 診断報告書のまとめ方 351
エネルギー診断結果総括 ( 参考例 ) 参考例 参考の一例であり もっと工夫してください 診断報告書のまとめ方 353