[ 卒業論文 ] ハーツにおけるシュート ザ ムーンの検証 指導教員 Reijer Grimbergen コンピュータサイエンス学部グリムベルゲン研究室 学籍番号 C0113217 氏名坂本将吾 [ 2016 年度 ]
2016 年度 ハーツにおけるシュート ザ ムーンの検証 坂本 将吾 研究室 グリムベルゲン
内表紙 東京工科大学 卒業論文 ハーツにおけるシュート ザ ムーンの検証 指導教員 Reijer Grimbergen 提出日 2017 年 1 月 18 日 提出者 学部 コンピュータサイエンス学部 学籍番号 C0113217 氏名 坂本将吾
2016 年度卒業論文概要 ハーツにおけるシュート ザ ムーンの検証 コンピュータ指氏サイエンス学部導坂本将吾 Reijer Grimbergen 学籍番号教名 C0113217 員本検証ではトランプゲームのハーツを題材にした. ハーツはジョーカーを除くトランプ 52 枚を使用し, プレイヤー 4 人で遊ぶゲームである. このゲームではマイナス点となるカードを取らないことを目的としている. しかし, マイナス点のカードを全て取った場合は シュート ザ ムーン が発生する. シュート ザ ムーン が発生すると, 他のプレイヤー全てにマイナス点を与えることができる. 本検証では積極的に シュート ザ ムーン を狙う戦略の有効性について検証した. シュート ザ ムーンを狙う AI トリックの勝利を避ける AI ポイント札を出す AI マイナス点が少ない相手を妨害する AI の 4 種類の AI を作成し,10000 回の対戦を行わせた. シュート ザ ムーンを狙う AI は約 30% で 1 位, 約 50% で 4 位になった. シュート ザ ムーン へのリスクを軽減することはできなかったが, 狙うこと自体は間違いではないと考えられる. シュート ザ ムーン を狙い, 失敗した際の対策を行うことができれば, 勝率は上がると考えられる. i
目次 1. 序論... 1 1.1. 背景... 1 1.2. 本検証の狙い... 1 2. 理論... 2 2.1. ハーツとは... 2 2.2. ハーツのルール... 2 2.3. シュート ザ ムーンとは... 5 2.4. シュート ザ ムーンの問題点... 6 3. 提案手法... 7 3.1. 提案手法の説明... 7 3.2. 実装する AI の説明... 7 4. 実験... 15 4.1. 実験目的... 15 4.2. 実験手順... 15 4.3. 実験結果... 16 4.4. 考察... 18 5. 結論... 20 5.1. まとめ... 20 5.2. 今後の課題... 20 謝辞... 21 参考文献... 21 ii
1. 序論この章では, 本検証の背景及び狙いについて記述する. 1.1. 背景ハーツはジョーカーを除く 52 枚のトランプを使用する 4 人用のゲームである. 各プレイヤーに 13 枚の手札が配られ,1 枚ずつカードを出していく. 大きいカードを出したプレイヤーがカードを獲得し, 獲得したカードの点数を競う. 点数が 100 を超えるまでゲームを繰り返し, 点数が一番少ないプレイヤーが勝者となる. ハーツには シュート ザ ムーン というルールがあり, これを達成すると他のプレイヤー全てに 26 点を与えることができる. シュート ザ ムーン を積極的に狙うことで, 相手との差を広げ, ゲームを有利に進めることが期待できる. 1.2. 本検証の狙い本検証では シュート ザ ムーン を積極的に狙うことの有効性について検証する. さらに, 本検証を通じて シュート ザ ムーン を狙うべき状況について考察する. シュート ザ ムーン とは, スペードのクイーン及びハート 13 種類の全てを獲得することで発生する. これを達成することで他の相手プレイヤー全てに 26 点を与えることができる. 1
2. 理論この章では, 本検証で扱うハーツについて記述する. 2.1. ハーツとはハーツとは, トランプを用いて行うトリックアボイダンスゲームの一種で, 特定のカードを取るのを避けることが目標となる [1]. このゲームでは, ハートのカード 13 種類とスペードの Q を取るのを避けることが目標となる. 2.2. ハーツのルール本検証では,Windows に付属しているハーツのルールを用いる. 各プレイヤーには 13 枚ずつ手札が配られる. その後, 手札から任意の 3 枚を選んで他のプレイヤーと交換する. プレイする毎にカードを渡す対象のプレイヤーが変わる. 表 2.1 にカードを渡す相手の推移を示す. カードを渡す相手は自分から見て左, 右, 向かい側, 交換しない, といった順番で行う. 表 2.1 カードを渡す相手の推移 1 回目自分から見て左の相手 2 回目自分から見て右の相手 3 回目自分の向かい側の相手 4 回目カードを交換しない 5 回目自分から見て左の相手 6 回目自分から見て右の相手 7 回目自分の向かい側の相手 8 回目カードを交換しない 手札の交換を終えたら, クローバーの 2 を持っているプレイヤーから, 時計回りの順番にカードを 1 枚ずつ出していく. 全員が 1 枚ずつ出し終わった段階で最も大きい数字を出したプレイヤーが出したカードを獲得する. ゲーム進行の例を図 2.1 に示す. 図 2.1 の場合, クローバーの A を出したプレイヤーが場に出された 4 枚のカードを獲得する. これを全員の手札が無くなるまで繰り返し, 獲得したカードの点数に応じてプレイヤーの点数が加算される. 2
図 2.1 ゲーム進行の例 先述の流れをいずれかのプレイヤーの点数が 100 点に達するまで繰り返し, 最も点数の少ないプレイヤーの勝利とする. 図 2.2 に, ハーツの対戦結果の例を示す. 図 2.2 では, プレイヤー ( 人間 )1 人と AI( 西, 北, 東の 3 体 ) で対戦している. 対戦結果は, 西が 109 点で 100 点を超えたため, ゲームが終了している. この時点で最も点数が少ない東が勝者となる. 3
図 2.2 ハーツの対戦結果の例 カードの強さは強いものから順に以下に示す. A>K>Q>J>10>9>8>7>6>5>4>3>2 ハーツでは以下のカードを獲得した場合点数が加算される. ハートのカード 13 種類 (1 枚につき 1 点 ) スペードのクイーン (1 枚 13 点 ) 本検証で使用するハーツの用語 [2] についての説明を以下に示す. トリックプレイヤーが 1 枚ずつカードを出す小勝負を指す. リード ( 後述 ) されたマークの中で最も大きい数字を出したプレイヤーがそのトリックの勝者となり, 出したカードを獲得する. トリックの勝者が次のカードをリードする. リードトリックにおける最初のカードを出すこと. ゲームの最初のリード ( オープニングリードと呼ばれる ) はクローバーの 2 を持っているプレイヤーから行う. フォローリードされたカードのスート ( マーク ) と同じスートのカードを出すこと. フォローで 4
きる場合はフォローしなければならない. これをマストフォロールールと呼ぶ. ディスカードリードされたカードに対してフォローできなかった場合, 任意のマークのカードを出すこと. ディスカードの例を図 2.3 に示す. 図 2.3 の場合, ダイヤのカードをリードされたのに対してクローバーの 4 をディスカードしている. この場合, ディスカードされた数字の大きさに関わらず, ダイヤのジャックを出したプレイヤーがカードを獲得する. 図 2.3 ディスカードの例 ブレイクハートのカードが初めて出された場合を指す. ブレイクが起こるまではハートのカードをリードすることができない. 2.3. シュート ザ ムーンとはハーツではハートのカード及びスペードのクイーンを獲得した場合に点数が加算される. 1 ゲーム中にそれら全てを獲得した場合, シュート ザ ムーン が発生する. 本来であれば獲得したカードに応じてプレイヤー自身に点数が加算されるが, シュート ザ ムーン を達成した場合には相手プレイヤーに点数が加算される. 加算される点数はハート 13 枚 (1 枚につき 1 点 ) 及びスペードのクイーン (13 点 ) を合計した 26 点が加算される. 5
シュート ザ ムーン は達成したプレイヤー以外の相手プレイヤー全てに 26 点が加算 されるため, シュート ザ ムーン を達成することができれば大きく点差をつけること ができる. 図 2.4 に シュート ザ ムーン の例を示す. 図 2.4 シュート ザ ムーン 2.4. シュート ザ ムーンの問題点 シュート ザ ムーン を達成するためには, ハートのカード及びスペードのクイーン ( 以下これらをポイント札と呼ぶ ) を全て集める必要がある. しかし, ポイント札を 1 枚でも集め損なうとその分のポイントが自身に加算されてしまう. そのため, シュート ザ ムーン のみを狙っていっても結局損をしてしまうことが予想される. この問題を解決するためには, シュート ザ ムーン に失敗した場合には, なるべくポイント札を取らないように立ち回る必要がある. 6
3. 提案手法この章では提案手法の説明, 実装する AI の説明を記述する. 3.1. 提案手法の説明 シュート ザ ムーン を狙うことがどの程度有効であるかを検証するために シュート ザ ムーンを狙う AI トリックの勝利を避ける AI ポイント札を出す AI 点数の低い相手を妨害する AI の 4 種類の AI を作成して対戦させる.AI が可能な行動を以下に示す. 手札を交換するとき リードするとき フォロー, またはディスカードするとき 3.2. 実装する AI の説明ここでは, 本検証で作成した AI のフローチャートと,AI の説明を記述する. 図 3.1 に, シュート ザ ムーンを狙う AI のフローチャートを示す. この AI は, シュート ザ ムーン を積極的に狙うことで相手との点数差を広げることを目的としている. Hearts のすすめ [3] の 2-2-1 ムーンを狙うには?( 基礎編 ) では, シュート ザ ムー ン を狙えるカードについて以下のように示している. 1, ハートのエース (HA) から HK HQ HJ とハートの上を連続で持っているとき 2,HA 以外のハートを 1 枚も持たず かつ他のスートの数字が全体的に高い場合 3,HA 以外のハートを 1 枚も持たず かつ一つのスートを多く持っているとき これらの条件に当てはまる手札になるよう手札の交換を行う. ハートのカードが 3 枚以下ならば, それらを全て交換することでハートが手札に無い状況を作ることが出来る. また, ハートで小さい数字 (7 以下 ) を 4 枚以上持っている場合は交換してもハートが残る. よって, クローバー, ダイヤから数字の小さいカードを交換する. シュート ザ ムーン を狙うためには, ポイントカードが出されたトリックで必ず勝利しなければならない. リード, フォローまたはディスカードする場合には, ポイント札が出ている場合には数字の大きいカード, 出ていない場合には数字の小さいカードを出すようにする. また,3 回以上リードされたマークに対しては, 相手が同じマークを持っている可能性が低くなるため, ハートをディスカードしてきやすくなる. そのため, 数字の大きいカードを出してトリックの勝利を狙う. 7
開始 手札交換があるか ハートのカードが 3 枚以下かつハートの A を持っていない ハートの 7 以下を 4 枚以上持っている ハートのカードを可能な限り渡し 残りはクローバー ダイヤから数字が小さいカードを渡す クローバー ダイヤから数字が小さい順に 3 枚渡す ハートのカードを小さい順に 3 枚渡す リード可能か フォロー可能か 3 回以上リードされたマークを出すか マークは 3 回以上リードされているか 最も大きい数字のカードををリードする 最も大きい数字のカードを出す ハートのカードが場に出ているか 最も小さい数字のカードをリードする ハート以外で最も小さい数字のカードを出す 終了条件を満たしたか 終了 図 3.1 シュート ザ ムーンを狙う AI のフローチャート 8
図 3.2 に トリックの勝利を避ける AI のフローチャートを示す. この AI は, トリックにおいて相手より小さい数字のカードを出すことでマイナス札の獲得を避けることを目的としている. スペードのクイーン, キング, エースのうちいずれかが 2 枚以上手札にある場合, スペードが出されたトリックに勝利しやすくなり, スペードのクイーンを獲得してしまう危険性がある. そのため, これらのカードを優先的に交換する. 数字の大きいカードもトリックに勝利しやすいため, 交換する. リードする際にスペードのクイーンがまだ出されていなければ, スペードのカードをリードする. これは, スペードのクイーンをディスカードされることを防ぐためである. 手札が少なくなるとリードしたカードを誰もフォローできないこともあるため, このような状況ではスペードのクイーンを獲得してしまう危険性が高くなる. 誰もフォローできなければ, リードしたプレイヤーがそのトリックの勝者となるため, スペードのクイーンがディスカードされるような状況は避ける. それ以外の場合, 手札の枚数が少ないマークかつ一番小さい数字のカードをリードしてディスカードを狙う. フォローする場合には, 相手より小さいカードかつその中で大きい数字のカードを出す. それが出来ない場合は, 最も大きい数字でフォローする. ディスカードする場合には, そのトリックで勝利することはないため, 数字の大きいカードを出す. 9
開始 手札交換があるか スペードの Q,K,A のうち 2 枚以上がある スペードの Q,K,A を可能な限り渡す クローバー ダイヤで数字の大きい順にカードを渡す リード可能か フォロー可能か スペードの Q は出ているか 場のカードより弱いカードを出せるか スペードの Q,K,A, 数字が大きいカード, の優先順位で出す スペードのカードをリードする 場のカードより弱く その中で最も大きい数字を出す 一番大きい数字を出す 枚数が少ないマークで 最も小さい数字のカードをリードする 終了条件を満たしたか 終了 図 3.2 トリックの勝利を避ける AI のフローチャート 10
図 3.3 に, ポイント札を出す AI のフローチャートを示す. この AI は, ポイント札をディスカードして相手にポイントを与えることを狙う. 手札を交換する際には, 手札から枚数の少ないカードを優先的に渡すようにする. これは, 手札のマークの種類を減らすことでディスカードを狙うためである. リードする場合は, スペードのクイーンが出ていなければスペードのカードをリードする. トリックの勝利を避ける AI と同様の理由でスペードのクイーンをディスカードされることを避けるためである. それ以外では枚数が少ないマーク, 数字が小さいカードの優先順位でリードする. フォローする場合は, 相手より小さい数字のカードを出す. 出せない場合, 最も大きい数字でフォローする. ディスカードする場合は, スペードのクイーン, ハートのカード, 数字の大きいカードの優先順位でディスカードする. 相手により多くの点数を与えることを目的としているため,1 枚で 13 点になるスペードのクイーンは最優先でディスカードされる. 11
開始 手札交換があるか ハート以外に手札で 3 枚以下のマークがある クローバー ダイヤから枚数が少ない方のマークを 3 枚渡す ハート以外のマークが 1 種類以上無くなるようにカードを渡す リード可能か フォロー可能か スペードの Q は出ているか 場のカードより弱いカードを出せるか スペードの Q,K,A, ハート, の優先順位で出す スペードのカードをリードする 場のカードより弱く その中で最も大きい数字を出す 一番大きい数字を出す 枚数が少ないマークで 最も小さい数字のカードをリードする 終了条件を満たしたか 終了 図 3.3 ポイント札を出す AI のフローチャート 12
図 3.4 に 点数の低い相手を妨害する AI のフローチャートを示す. この AI は, 現在の自分と相手の点数に応じて戦術を変化させる AI である. この AI 自身が最もポイントが低い場合, トリックの勝利を避ける AI と同じ思考をする. それ以外の場合は. ポイント札を積極的に出す AI と同じ思考をする. ただし, この AI よりポイントが低いプレイヤーがポイントカードを獲得する可能性がある場合のみ, ポイント札を出す. 13
開始 自身が 1 位であるか マイナス札を出す AI トリックを取ることを避ける AI ディスカード時 自分より順位が上のプレイヤーがトリックを取る可能性がある ハートのカードを出す ハート以外の手札で枚数の少ないカードを出す 終了条件を満たしたか 終了 図 3.4 点数の低い相手を妨害する AI のフローチャート 14
4. 実験この章では実験の目的と手順, 結果, 考察について記述する. 4.1. 実験目的 シュート ザ ムーンを狙う AI と トリックの勝利を避ける AI ポイント札を出す AI 点数の低い相手を妨害する AI の合計 4 種類の AI を対戦させる. その結果から, シュート ザ ムーン を行うことの有効性と成功率を検証する. 4.2. 実験手順 シュート ザ ムーンを狙う AI と トリックの勝利を避ける AI ポイント札を出す AI 点数の低い相手を妨害する AI の合計 4 種類の AI を 10000 回対戦させる. 対戦の結果から, それぞれの AI の順位, シュート ザ ムーン を達成した回数, 手札を記録する. それらのデータから シュート ザ ムーン の有効性について考察する. 図 4.1 に, 本検証で使用したハーツの実験環境を示す. 今回使用した環境では, プレイヤーを南, 西, 北, 東で区別して時計回りに手番が回るよう設定している. 手札の表示に使用されている記号の説明を表 4.1 に示す. カードのマーク ( クローバー, ダイヤ, スペード, ハート ) を表す記号と, 数字を表す記号によって表示される. 例えば, C2 と表示されている場合は, クローバーの 2 を意味している. 図 4.1 本検証で使用したハーツの実験環境 15
表 4.1 手札の表示に使用されている記号の説明 C クローバー D ダイヤ S スペード H ハート J ジャック Q クイーン K キング A エース 4.3. 実験結果 4 種類の AI を 10000 回対戦させた結果を示す. シュート ザ ムーンを狙う AI の対戦結果を表 4.2 に示す. 表 4.2 では,1 位の回数が 3303 回となった. しかし,4 位になった回数は 5133 回で 1 位になった回数より多かった. 一方で,2 位,3 位になった回数がそれぞれ対戦回数の 1 割にも満たないという結果になった. シュート ザ ムーン の回数は 16937 回であった. これは,1 回の対戦中に平均でおよそ 1.69 回 シュート ザ ムーン を行っている計算になる. 表 4.2 シュート ザ ムーンを狙う AI の対戦結果 順位 回数 1 位 3303 回 2 位 723 回 3 位 841 回 4 位 5133 回 トリックの勝利を避ける AI の対戦結果を表 4.3 に示す. 表 4.3 では,1 位が 2704 回で 3 位が 2700 回とほぼ同じ回数であった. 最も多かった順位は 2 位で,4 位になった回数は最も少なかった. シュート ザ ムーン は 286 回で,10000 回の対戦回数の中でもほとんど行われていないように見られる. 16
表 4.3 トリックの勝利を避ける AI の対戦結果 順位 回数 1 位 2704 回 2 位 3233 回 3 位 2700 回 4 位 1363 回 ポイント札を出す AI の対戦結果を表 4.4 に示す. 表 4.4 では,1 位の回数が 1809 回で他の順位と比べて最も少なかった. また, シュー ト ザ ムーン は 322 回でほとんど行われていない. 表 4.4 ポイント札を出す AI の対戦結果 順位 回数 1 位 1809 回 2 位 2979 回 3 位 3367 回 4 位 1848 回 点数の低い相手を妨害する AI の対戦結果を表 4.5 に示す. 表 4.5 では, 突出した結果は見られなかったが, トリックの勝利を避ける AI と同様の順位の傾向が見られた. シュート ザ ムーン は 274 回で, ほとんど行われていない. 表 4.5 点数の低い相手を妨害する AI の対戦結果順位回数 1 位 2402 回 2 位 3199 回 3 位 2837 回 4 位 1562 回 17
4.4. 考察 シュート ザ ムーンを狙う AI ( 以下ムーン AI) の勝率はおよそ 33%( 表 4.2) で他の AI より高い結果を示したが,4 位になった回数も他の AI と比べて最も多かった. 本検証では,10000 回の対戦において 80831 回のプレイが行われた. その中で, ムーン AI が シュート ザ ムーン を達成した回数は 16937 回であった. この回数は他の AI と比べて, およそ 56 倍の回数である. シュート ザ ムーン の成功率はおよそ 20% であるが, 残りのおよそ 80% は失敗していることになる. ムーン AI は, ポイント札の獲得に重点を置くため, シュート ザ ムーン に失敗した場合に多くの点数を取ってしまう. この問題を解決するためには, シュート ザ ムーン が可能な手札とそうでない手札を見分ける必要がある. シュート ザ ムーン が困難な手札で無理に狙おうとすれば, 中途半端にポイント札を獲得することになるためである. 表 4.6, 表 4.7, 表 4.8 に, シュート ザ ムーン を達成した手札の例を示す. 表 4.6, 表 4.7, 表 4.8 では, トリックの勝利を避ける AI( 南 ) ポイント札を出す AI( 西 ) 点数の低い相手を妨害する AI( 北 ) シュート ザ ムーンを狙う AI( 東 ) の対戦時の手札を示している. 表 4.6 シュート ザ ムーンを達成した手札の例 1 プレイヤー手札南 C5 C6 C7 C10 CK DQ DK S8 SA H3 H4 H6 H10 西 C3 CJ D2 D4 D6 D10 DJ DA S6 S9 SJ HJ HQ 北 C8 C9 D5 D7 D8 S3 S4 S5 S7 S10 H5 H9 HK 東 C2 C4 CQ CA D3 D9 S2 SQ SK H2 H7 H8 HA 表 4.7 シュート ザ ムーンを達成した手札の例 2 プレイヤー手札南 C3 C5 CJ CK D2 D4 D8 S3 S8 SJ SK H6 H9 西 C4 C6 C7 D3 D6 D7 DQ DK S2 S5 S9 S10 H2 北 C8 C9 C10 CA D5 SQ H3 H5 H8 H10 HJ HQ HA 東 C2 CQ D9 D10 DJ DA S4 S6 S7 SA H4 H7 HK 表 4.8 シュート ザ ムーンを達成した手札の例 3 プレイヤー手札南 C3 C4 C10 D4 D9 DQ S5 S6 SQ SK H2 H4 HQ 西 C2 C5 C8 CJ CQ D2 D6 D8 DA S2 H5 H7 H10 北 C6 C9 CA D7 DK S3 S4 S7 S8 S10 H3 H8 HJ 東 C7 CK D3 D5 D10 DJ S9 SJ SA H6 H9 HK HA 18
シュート ザ ムーン を達成できる手札の傾向として, 以下のものが確認できた. 1. 数字の大きいカード (J~A) が 4 枚以上あること 2. 数字の小さいカード (2~5) が 3 枚以下であること 3. 特定の種類のマークのカードが少ないこと (2 枚以下 ) シュート ザ ムーン を達成した手札の中からランダムに 30 種類の手札を抽出し, 手札の傾向を分析した. その結果, 上記 1~3 が該当した回数を表 4.9 に示す. 表 4.9 シュート ザ ムーンを達成した手札の傾向と該当した回数 手札の傾向 該当した回数 J~A が 4 枚以上 23 2~5 が 3 枚以下 18 特定のマークが 2 枚以下 26 表 4.9 から, 手札の数字の大きさよりも特定のマークに偏りがある方が シュート ザ ムーン を狙う際に重要であると考えられる. 表 4.9 に示した傾向に該当しない場合には シュート ザ ムーン を狙うことを避けた戦略を取ることができれば, ムーン AI の勝率が上がると考えられる. 序盤に シュート ザ ムーン を達成することはできたが, その後も シュート ザ ムーン を狙い続けたことにも問題があった. シュート ザ ムーン を達成すれば, 相手と 26 点の差をつけることができる. 点数が大きく有利になっていれば, 無理に シュート ザ ムーン を狙う必要は無いと考えられる. そのため, 相手と十分な差が付いていれば シュート ザ ムーン を狙う必要はないと判断する. このように戦略を切り替えることで, シュート ザ ムーン で得た優位性を保持する必要があると考えられる. 19
5. 結論この章では, 本検証の結果のまとめ, 今後の課題について記述する. 5.1. まとめ本検証はハーツで シュート ザ ムーン を狙うことの有効性を求めるために行った. シュート ザ ムーン を狙う AI とその他の AI を 3 種類用いた合計 4 種類の AI を使用し, シュート ザ ムーン を狙うことで得られる勝率と シュート ザ ムーン の成功率を検証した. その結果, シュート ザ ムーンを狙う AI は 1 位がおよそ 33%,4 位がおよそ 51% という結果になった. 他の AI と比べても 1 位の回数が最も多かったが,4 位の回数も最も多かった. シュート ザ ムーン を狙うことはある程度は有効であるが, そのリスクを軽減するまでには至らなかった. 5.2. 今後の課題 シュート ザ ムーンを狙う AI( 以下ムーン AI) が 1 位を獲得するには シュート ザ ムーン が必要不可欠であるが, シュート ザ ムーン を 1 回行っても 1 位を獲得することはできなかった. ムーン AI が 1 位を獲得した傾向として, シュート ザ ムーン を 2 回以上行ったパターンが多く見られた. シュート ザ ムーン を 2 回以上出来れば大きく有利にはなるが,1 回達成するだけでも優位に立つことはできると考えられる. そこで, シュート ザ ムーン で得た点数の優位性を保つ戦略を AI に組み込む必要がある. これを実装することで, リスクの高い シュート ザ ムーン を何度も狙う必要が無くなり, 結果的に点数の蓄積を抑えられると考えられる. また, シュート ザ ムーン を狙うことが困難な手札のパターンも存在する. 例として, 手札の数字が全体的に小さい状況が挙げられる. そのパターンを見極めて, シュート ザ ムーン を狙わない判断をする必要がある. 20
謝辞 本検証を行うにあたり, ご意見やご指摘をくださった Reijer Grimbergen 教授, グリム ベルゲン研究室の皆様に感謝します. ありがとうございました. 参考文献 [1] ハーツ ( トランプゲーム )- Wikipedia (2017 年 1 月 12 日参照 ) https://ja.wikipedia.org/wiki/ [2] ハーツ攻略 TOP (2017 年 1 月 12 日参照 ) http://www51.atpages.jp/nlet/hearts/index.html [3] Hearts のすすめ (2017 年 1 月 12 日参照 ) http://www.geocities.co.jp/silkroad/2175/hearts/hearts.htm 21