モーニングレクチャー 医療被ばくの基礎知識 平成 30 年 3 月 22 日 中央放射線部 坂本博昭
医療現場における被ばく 医療被ばく 放射線診療 ( 検査 治療 ) に伴い患者及び介助者の被ばく 職業被ばく 放射線診療 ( 検査 治療 ) に伴う医療従事者の被ばく
本日の内容 放射線の人体への影響 放射線防護体系と医療被ばく 医療被ばくにおける QA
本日の内容 放射線の人体への影響 放射線防護体系と医療被ばく 医療被ばくにおける QA
放射線の人体への影響 確定的影響 確率的影響 放射線の人体への影響は二つに分類される
確定的影響 しきい値を超えると現れる影響 線量がしきい値を超えると症状が発生し始め 線量の増加に伴い発生する症状の重篤度が高くなる 主な影響としては 脱毛 白内障 皮膚の障害 造血能低下 不妊 etc
しきい値と医療被ばくの線量 組織 臓器 影響 しきい値 (mgy) 水晶体白内障 500 撮影部位 入射皮膚線量 (mgy) 頭部 ( 正面 ) 3.0 生殖腺 ( 男 ) 生殖腺 ( 女 ) 皮膚 不妊 ( 永久 ) 3,500 不妊 ( 永久 ) 2,500 一過的脱毛 3,000 永久脱毛 7,000 胸部 0.3 腹部 3.0 腰椎 ( 側面 ) 5.0 腰椎 ( 正面 ) 11.0 骨髄造血能力低下 500
確率的影響 線量の増加に伴い発生確率が高くなる影響 広島 長崎の原爆被爆者等の集団のデータから推定 がん 遺伝的影響の発生 遺伝的影響は個体レベルでは観察されていない
確率的影響 ( 発がん ) 100 msv 以下の被ばくでは 線量とリスクの関係が科学的に証明されていない がんの発生率 医療被ばく 職業被ばく 線量とリスクが不明 広島 長崎の原爆の被爆者の追跡調査 100mSv 被ばく線量
100mSv 以上のデータの根拠 広島 長崎の被爆者全員を調査 被爆時の爆心地からの距離 状況 姿勢等を聞き取りして各個人の被ばく線量を実測と計算で推定 以後 今日まで健康調査を継続中
100mSv 以下の被ばくの取扱 100mSv 以下の被ばく線量と健康影響を適切に説明できる科学的データはない 医療被ばくは小線量 間欠被ばく原爆被爆者のデータ 医療被ばく 放射線防護では わずかな線量でも相応のリスクが増加すると 用心深く仮定
本日の内容 放射線の人体への影響 放射線防護体系と医療被ばく 医療被ばくにおける QA
放射線防護体系の 3 原則 行為の正当化 行為の最適化 線量限度
行為の正当化 放射線検査には被ばくというリスクが伴うも 医師又は歯科医師は患者が検査を受けることで病気の診断 治療の方針決定などのメリットが被ばくに伴うリスクを上回ると判断したときのみに検査を行う
行為の最適化 同じ検査を受けても医療機関により装置等の環境が異なり被ばく線量に差があるが 診断に影響のない範囲で合理的に達成できる限り低く保つ 線量を可能な限り低く設定透視時間を出来るだけ短縮照射範囲を診断に影響のない程度絞る
線量限度 一般公衆 作業者 1 ミリシーベルト / 年 20 ミリシーベルト / 年 ICRP( 国際放射線防護委員会 1990 年勧告 ) 線量限度という表現が1ミリシーベルトが安全と危険との境界をイメージさせるが 安全側に十分な余裕をもって設定された値 作業者の線量限度は放射線業務を生業とするメリットと被ばくのリスクを勘案して設定
医療被ばくの特殊性 医療被ばくは正当化 最適化が適切に図られており 放射線検査には被ばくによる健康懸念をはるかに上回る健康上のメリットがあるため 医療被ばくには線量限度はない
医療被ばく適正化に向けた動向 DRL(Diagnostic Reference Level) 診断参照レベル 適正な線量で検査が行われているかの目安として 一定の国 地域における検査毎の線量を集計し代表的な値が示されている法的な拘束力はない 本邦の DRL の一例 撮影部位 入射表面線量 (mgy) 頭部正面 3.0 頭部側面 2.0 頸椎 0.9 胸椎正面 3.0 胸椎側面 6.0 胸部正面 0.3 腹部 3.0 腰椎正面 4.0 腰椎側面 11.0
本日の内容 放射線の人体への影響 放射線防護体系と医療被ばく 医療被ばくにおける QA
Q1 放射線 と聞くと怖い印象があるので すが検査を受けても大丈夫ですか?
Q1 放射線 と聞くと怖い印象があるので すが検査を受けても大丈夫ですか? A 放射線 という言葉から怖い印象を受 けますが放射線検査よるデメリット ( リスク ) より検査を受けて得られるメリットがはるかに大きいので安心して検査を受けて頂けます
被ばくに関する説明の注意点 被ばくに対する不安や心配 白血病 脱毛 皮膚障害 不妊 など 特定の影響が心配 何がどう心配とはっきり言えないが 漫然とした不安
被ばくに関する説明の注意点 放射線の影響は 被ばくした 部位のみに発生 線量に応じて発生
被ばくに関する説明の注意点 X 線検査の際 被ばくする部位は検査部位のみなので 頭部 CT 検査を受けて不妊を心配 歯科撮影を受けて胎児の影響を心配 検査室に入室しただけで被ばくすると心配 全く無用な心配
頭部 CT 検査での各臓器の線量 検査部位から離れるほど被ばく線量は急激に減少 眼 甲状腺 乳房 50 mgy 1.9 mgy 0.03 mgy 子宮 卵巣 0.005 mgy 以下 ICRP Publication 87
Q2 子供が転倒して繰り返し CT 検査を受け ましたが大丈夫ですか
Q2 子供が転倒して繰り返し CT 検査を受け ましたが大丈夫ですか A 短期間に複数回の CT 検査を数回受けて も影響が蓄積するわけではありません複数回の検査に伴うリスクより 病状の経過が把握でき 適切な診療が行われるという大きなメリットが得られます
被ばくに関する説明の注意点 異常が見つからなかった場合 症状が軽快した場合 検査のベネフィットはなくなり 不必要な検査をしたのでは という リスクだけが残ったように錯覚する患者 ( 家族 ) がいる 検査をしないリスク 異常がないと分かったベネフィットも伝える必要がある
Q3 妊娠中に放射線検査を受けてしまいまし たが お腹の赤ちゃんは大丈夫ですか?
Q3 妊娠中に放射線検査を受けてしまいまし たが お腹の赤ちゃんは大丈夫ですか? A 胎児被ばくで問題となるのは しきい値 のある確定的影響です 通常の放射線検査で胎児の被ばく線量がしきい値 (100 mgy) を超えることはないので安心して検査を受けて頂けます
しきい値 vs 放射線検査の胎児線量 頭部 X 線 検査項目 胎児線量 (mgy) 0.01 以下 胎生期 しきい値 (mgy) 影響 着床前期 100 胚死 ( 流産 ) 器官形成器 100 奇形の発生 胎児期 120 精神遅延 胸部 X 線 0.01 以下 腹部 X 線 1.4 腰椎 X 線 1.7 骨盤部 X 線 1.1 胃バリウム検査 1.1 注腸バリウム検査 6.8 頭部 CT 0.005 以下 胸部 CT 0.06 腹部 CT 8.0 骨盤部 CT 25.0 ICRP Publication 84 Pregnancy And Medical Radiation
不妊 流産 奇形の自然発生率 不妊妊娠を希望する夫婦の約 10% が不妊に悩む流産妊娠初期の自然流産率は約 15% 奇形奇形の自然発生率は約 3%
Q4 放射線検査で身体に悪い影響はないので しょうか? A 通常の放射線検査に伴う低線量被ばくで は日常生活の行動に伴うリスクの方が大きく 被ばくによる影響は確認できないほど小さなもので 健康を守るために必要な検査を受けることの方が大切です
確率的影響 ( 発がん ) のリスク 放射線検査による被ばくより 日常生活の中で健康に悪影響を及ぼす行為 喫煙 受動喫煙 高塩分の食品摂取 野菜不足 交通事故日常生活の中に 医療被ばくの健康影響よりもリスクの高いものが結構ある
放射線検査によるがんのリスク上昇 30% がん発生率 僅かでも 危険と仮定 0.5% 放射線によるがん 個人の生活習慣などによるがん 1.5% 100mSv 被ばく線量 300mSv
被ばくに関する説明の注意点 被ばくを心配する患者 家族の特徴 リスクを主観的に捉えてしまう リスクの表現で 10 万人に1 人 は科学的に極めて低リスクの事象だが 自分が その1 人 になってしまうのではと悩んでしまう
被ばくに関する説明の注意点 患者の不安 関心や理解力の程度に応じた説明を行い 放射線検査の線量 それに伴うベネフィットと健康リスクについて双方向のコミュニケーションを図りながら行う
ここがポイント! 通常の放射線検査に伴う放射線被ばくでは 確定的影響 明らかにしきい値を超えないので考えなくてよい 確率的影響 遺伝的影響の発生はなく がんの発生も線量とリスクが証明出来ないくらい小さい 安心して必要な検査を受けることが大切
ただし 国内外で IVR の一部で 皮膚障害の報告あり 第 2 度の皮膚反応乾性皮膚炎 第 3 度の皮膚反応湿性皮膚炎 第 4 度の皮膚反応潰瘍 循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン
まとめ 医療被ばくには診療行為を不当に制限しないように線量限度がないが 正当化 最適化が適切に図られている 医療被ばくに対する患者の不安除去のために 正確な知見のもと 患者に応じた言葉で双方向のコミュニケーションが必要
ご清聴ありがとうございました