(3-1) スギ ヒノキ花粉削減に関する総合研究 課題名 E 花粉間伐実施後のモニタリング 1 調査年度 平成 2 年度 2 予算区分 県単 ( 県有林事業 ) 3 担当者 越地 正 毛利敏夫 三橋正敏 齋藤央嗣 ( 平成 14 年度 ~ 平成 16 年度実施 ) 4 目的スギ花粉症は大きな社会問題になっており 山側でも緊急の花粉発生源対策が求められている 神奈川県ではこれまでに花粉の少ないスギ品種を選抜し実用化している しかし 植林面積が減少している中で花粉対策品種苗の植え替えはあまり進んでいない 一方 現存するスギ植林地において 花粉発生の原因となる雄花の着花状況をみると 雄花着花量の多い個体や少ない個体が認められる したがって 雄花着花量の多い個体を優先的に抜き切りする花粉間伐により雄花量を削減する可能性が高い このような花粉間伐により雄花量の削減を図ることができるかどうかを検討する なお 今回の平成 2 年調査は 花粉間伐実施後 広町地区では 5 年目 陣馬地区 4 年目 大山地区 3 年目となるが この時点での花粉間伐実施後の持続効果を評価する 5 調査方法 (1) 事業実施年度および実施箇所 1 平成 14 年度 : 南足柄市広町 ( 以下 広町地区とする ) 南足柄管理区 15 16 林班 53 64 年生 ( 設定時 ) スギ林分 2 平成 15 年度 : 藤野町沢井 ( 以下 陣馬地区とする ) 藤野管理区 1 林班 65 年生 ( 設定時 ) スギ林分 3 平成 16 年度 : 伊勢原市大山 ( 以下 大山地区とする ) 伊勢原管理区 5 林班 52 54 年生 ( 設定時 ) スギ林分 (2) 花粉間伐処理区の設定 1 広町地区は 2 m 方形の大きさの処理区を設定し 花粉間伐の 3 処理区 (A 区 C1 区 D 区 ) と 無施業の対照区 (B 区 ) 通常の間伐 ( 劣勢間伐 ) を行った対照区 (C2 区 ) の 5 処理区を設定した 2 陣馬地区および大山地区は 花粉間伐区と無施業の対照区を 2 区づつ隣接する形で 3 組 6 処理区を設定した すなわち A 区 C 区 E 区を花粉間伐区 B 区 D 区 F 区を無施業の対照区として比較した 処理区の大きさは 広町地区と同様である 花粉間伐は 事業実施年度の 2 月に行い 本数間伐率で 21 ~ 22.5 % の弱度間伐とした なお 間伐木は花粉の多い個体を優先的に選木したが 目視が困難な場合は雄花着花量が多いと考えられる大径木を選定した (3) 間伐効果の評価法ア. 目視調査による評価双眼鏡を用いて目視により 2 m 方形内のスギ 1 本ごとに雄花着花量を次の 4 ランクの基準により評価した 3(1 点 ): 雄花が樹冠全面に密に着花 2( 5 点 ): 雄花が樹冠のほぼ全体に着花 または部分的に高密度に着花 1( 1 点 ): 雄花がまだらにもしくは限られた部分に着花 ( 点 ): 雄花が観察されないランク別に評価した本数に着花点数を乗じて その合計値を処理区別に求め比較した イ. トラップ調査による評価間伐後の林分の雄花量を測定するため 各処理区ごとに直径約 4cm.1288 m2の円形トラップを各処理区 1 基づつ設置した トラップ設置期間は 施業後の 4 月から 6 月とし 毎月 1 回の月の終わりに回収した 回収した試料は 乾燥後 夾雑物を分別し 雄花数とその乾燥重量を測定した 測定値は 1m 2 当たりの雄花数と雄花重に換算して評価した
ウ. 地区別のモニタリングの調査時期は 表 1 のとおりである 表 1 モニタリング調査時期 広町地区 目視調査 1 間伐前 :H14 年 12 月 2 間伐直後 :H15 年 3 月 3 間伐 1 年後 :H15 年 12 月 4 間伐 2 年後 : H16 年 12 月 5 間伐 5 年後 : H2 年 12 月 トラップ調査 1 間伐年 :H15 年 6 月 2 間伐 2 年後 : H16 年 6 月 3 間伐 3 年後 : H17 年 6 月 陣馬地区 目視調査 1 間伐前 :H15 年 11 月 2 間伐直後 :H16 年 3 月 3 間伐 1 年後 :H17 年 2 月 4 間伐 4 年後 : H2 年 12 月 トラップ調査 1 間伐年 :H16 年 6 月 2 間伐 2 年後 : H17 年 6 月 大山地区 目視調査 1 間伐前 :H16 年 12 月 2 間伐直後 :H17 年 3 月 3 間伐 3 年後 : H2 年 12 月 トラップ調査 1 間伐年 :H17 年 6 月 2 間伐 2 年後 : H18 年 6 月 3 林分調査事業実施年度に各処理区ごとに毎木調査を行い 立木本数 樹高 胸高直径 枝下高を測定した 6 調査結果 ( 1) 平成 2 年度の調査結果花粉間伐実施後 平成 2 年度は 広町地区 5 年目 陣馬地区 4 年目 大山地区 3 年目となる 今回は目視調査のみで実施したが その結果は図 1 図 2 図 3 のとおりである 3 処理区の着花点数の平均値では 広町地区は対照区に比較して 1.72 倍 陣馬地区 1.7 倍 大山地区 1.42 倍に増加したことから いずれの地区も花粉間伐により雄花量が増加した 従って 平成 2 年調査時点では 3 地区とも花粉間伐によるマイナス効果が認められた 16 14 12 着花点数合計値 1 8 6 4 2 A 区 ( 花粉間伐 ) B 区 ( 対照 ) C1 区 ( 花粉間伐 ) C2 区 ( 通常間伐 ) D1 区 ( 花粉間伐 ) 図 1 広町地区の花粉間伐実施 5 年後の着花点数 6 5 4 着花点数合計値 3 2 1 図 2 陣馬地区の花粉間伐実施 4 年後の着花点数
16 14 12 着花点数合計値 1 8 6 4 2 図 3 大山地区の花粉間伐実施 3 年後の着花点数 (2) 間伐実施前後の目視調査の結果花粉間伐の効果がいつまで持続したのかを解析するため 過去に調査した資料を検討した 1 広町地区 - 図 4 参照広町地区の間伐直後は 本数間伐率 22% の花粉間伐を実施した結果 着花点数の合計値でみると 3 処理区平均で間伐処理区は対照区の 25% 減少となった 間伐実施 1 年後は 図 4 に示すように雄花着花量が非常に少ない年であったため 着花点数も小さい値となり 処理による差は明らかではなかった しかし 間伐実施 2 年後は 花粉間伐した 3 処理区平均では対照区に比較して 26% 減少しており 花粉間伐の効果が認められた 着花点数の合計値 4 35 3 25 2 15 1 5 A 区 ( 花粉間伐 ) B 区 ( 対照区 ) C1 区 ( 花粉間伐 ) C2 区 ( 通常間伐 ) D 区 ( 花粉間伐 ) 図 4 間伐前後及び 2 年後までの着花点数 ( 広町 ) 間伐前間伐直後 1 年後 2 年後 2 陣馬地区 - 図 5 参照陣馬地区の間伐直後は 本数間伐率 21% の花粉間伐を実施したところ 着花点数の合計値でみると 3 処理区平均で間伐処理区は対照区の 41% 減少となった しかし 間伐前および間伐直後は 図 5 に示すように雄花着花量が非常に少なかった年であったため 着花点数が非常に小さい値となり比較が難しかった 間伐実施 1 年後は 間伐 3 処理区平均でみると 対照区とほぼ同じ値となっており花粉間伐の効果は認められなかった 着花点数の合計値 35 3 25 2 15 1 間伐前 間伐直後 1 年後 5 図 5 間伐前後および 1 年後までの着花点数 ( 陣馬 )
3 大山地区 - 図 6 参照大山地区の間伐直後をみると 本数間伐率で 22.5% の花粉間伐を実施したところ 着花点数の合計値でみると 3 処理区平均で間伐処理区は対照区の 34% 減少となった なお 間伐実施 1 年以後の目視調査は実施していないので不明である 45 4 35 間伐前 間伐直後 3 着花点数の合計値 25 2 15 1 5 図 6 間伐前後の着花点数 ( 大山 ) ( 3) 間伐実施前後のトラップ調査の結果 1 広町地区 - 図 7 参照広町地区の雄花数は 間伐 1 年後の雄花着花量の非常に少なかった年を除いて 間伐実施年および間伐 2 年後は 処理区によりばらつきが大きいが 3 処理区平均で 26.7% 減少し 間伐効果が認められた この減少率は 目視調査の結果とほぼ同様であった 7 6 間伐実施年間伐 1 年後間伐 2 年後 1m2 当たりの雄花数 5 4 3 2 1 A 区 ( 花粉間伐 ) B 区 ( 対照区 ) C1 区 ( 花粉間伐 ) C2 区 ( 通常間伐 ) D 区 ( 花粉間伐 ) 図 7 広町地区の処理区別雄花数の変化 2 陣馬地区 - 図 8 参照陣馬地区の雄花数は 間伐 1 年後には A 区および C 区の平均で対照区に比較して 32% 減少し 間伐効果が認められた しかし E 区の雄花数をみると対照区の 169% 増となった この原因としては 間伐実施前から E 区は対照区の 155% 増と雄花数が多かったことが考えられる 3 大山地区 - 図 9 参照大山地区の雄花数は 間伐実施年では間伐処理区と対照区との差はほとんどなかった また 間伐 1 年後は A 区および C 区の間伐処理区平均は対照区の 124% 増となった しかし E 区の間伐処理区は対照区の 22% 減少となり 間伐効果は認められた 大山地区は処理区によってばらつきがあり一定の傾向を捉えることができなかった
35, 3, 間伐前年間伐実施年間伐 1 年後 1m2 当たりの雄花数 25, 2, 15, 1, 5, 図 8 陣馬地区の処理別雄花数の変化 1m2 当たりの雄花数 5, 45, 4, 35, 3, 25, 2, 15, 1, 5, 間伐前年間伐実施年間伐 1 年後 図 9 大山地区の処理別雄花数の変化 7 まとめ雄花着花量の多い個体を優先的に抜き切りする花粉間伐を実施した結果 ( 本数間伐率約 22%) 間伐直後は雄花着花量が 3 地区平均で 33% 減少した その後 広町地区は間伐実施 2 年後には目視調査およびトラップ調査のいずれの方法で測定した結果では約 26% の減少となった 従って広町地区は間伐実施から 2 年後まで花粉間伐の効果が持続したといえる 一方 陣馬地区と大山地区では 間伐実施 1 年後には一部の処理区で間伐効果がみられたが 他の処理区ではモニタリング期間が短いこともあり一定の傾向を捉えることができなかった 花粉間伐の持続効果を確認するために実施した平成 2 年調査では 3 地区とも花粉間伐処理区で雄花着花量が増加したことから花粉間伐のマイナス効果が認められた この点については 間伐しない無施業区を対照区としたため対照区の雄花着花量自体が減少したことも考えられた いずれにしても 今回のモニタリング結果からすると花粉間伐の持続効果は比較的短期間であると考えられた 以上の結果から 花粉間伐の効果を発揮させるには 今回実施したような雄花着花量の多い木を優先的に抜き切りし 2 ~ 25% の弱度間伐により 5 年以内の短期間に繰り返し間伐を実施していく必要がある また 花粉間伐は花粉発生量の多い地域を中心に実施していく必要があろう これらの花粉間伐と平行して さらに根本的な花粉症発生源対策につなげるためには 花粉の少ない品種の積極的な導入を図り 現存するスギ林の更新を進めていく必要もある 8 今後の課題 1 一般に太陽光が良く当たる斜面において雄花の着花量が多くなる傾向がある 平成 2 年調査で増加した原因も 間伐により林内に光が入るようになり着花量が多くなったのではないかと考えられた 花粉間伐の効果を確認するには 通常間伐処理区を対照区にした花粉間伐試験地 ( 広町地区の 1 処理区で実施 ) を今後いくつか検討してみる必要がある 2 今回の事業期間は 3 年間であり 3 箇所の地域を毎年 1 地区ずつ実施したため広町地区以外は間伐実施後 1 年目までしかモニタリングできなかった 花粉間伐の効果を評価するには間伐実施後 3 年間は継続してモニタリングする必要がある
3 モニタリングは 目視による方法とトラップによる方法で行ったが トラップ法はトラップ設置 月 1 回の試料回収 その後の試料分別等の多種にわたる作業が必要となり労力負担が大きい 両者の測定法は相関関係が高いこと 目視による方法は比較的簡便であることを考慮すると 目視法が実用的と思われる 4 今回の調査期間中 雄花の着花量が非常に少ない年があった この年は目視とトラップのいずれの方法でも雄花の絶対量が少ないので比較が難しかった このような年はモニタリングには適さないことがわかった