Taro-8.中世キリスト教世界のダ

Similar documents
Taro-6.イスラームと12世紀ルネサンス

2-1_ pdf

教科 : 地理歴史科目 : 世界史 A 別紙 1 (1) 世界史へのいざない 学習指導要領ア自然環境と歴史歴史の舞台としての自然環境について 河川 海洋 草原 オアシス 森林などから適切な事例を取り上げ 地図や写真などを読み取る活動を通して 自然環境と人類の活動が相互に作用し合っていることに気付かせ

学習指導要領

【古代4 キリスト教の成立と発展】

2013 年 3 月 10 日 ( 日 ) 11 日 ( 月 ) 51 回目 Ⅵ-054 山上の垂訓 山上の垂訓 054 マタ 5:1~2 ルカ 6:17~19 1. はじめに (1) 呼び名について 1マタ 5:1~8:1 は 通常 山上の垂訓 ( 説教 ) と呼ばれる 2しかし この名称は 説教

平成 30 年度年間授業計画 教科 : 地理歴史科目 : 世界史 A 校内科目名 : 世界史 A 対象年次 :1 2 単位 使用教科書 教材 教科書 現代の世界史 改訂版( 山川出版社 ) 補助教材 ニューステージ世界史詳覧 ( 浜島書店 ) 1 学期 2 学期 指導内容指導目標評価の観点 方法 <

学習指導要領

人間科学部専攻科目 スポーツ行政学 の一部において オリンピックに関する講義を行った 我が国の体育 スポーツ行政の仕組みとスポーツ振興施策について スポーツ基本法 や スポーツ基本計画 等をもとに理解を深めるとともに 国民のスポーツ実施状況やスポーツ施設の現状等についてスポーツ行政の在り方について理

学習指導要領

CJT2C1Z1J154.indd

「改訂版 世界史A(世A019)」教科書シラバス案

指導内容科目世界史 A の具体的な指導目標評価の観点 方法 ユーラシアの諸文明 西アジア 西アジアにおける古代オリエント文明とイラン人の活動 アラブ人とイスラーム帝国の形成過程や文明の特質を理解する 5 ユーラシアの諸文明 ヨーロッパ 古代ギリシア ローマ文明 キリスト教を基盤とした東西ヨーロッパ世

年間授業計画09.xls

2

共科 通目 基礎情報学コンピュータ演習 -A( 絵画 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -A( デザイン 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -B( 絵画 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -B( デザイン 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -A( 絵画

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

年間授業画 地理 歴史 2 年必修世界史 A( 理系 ) 数 2 2 年 56 組 書 教材世界史 A( 実教出版 ) プロムナード世界史 ( 浜島書店 ) 1 近代ヨーロッパの成立以後の近現代史を全世界的観点から体系的に理解させる 今日的な諸課題の解決の一助として歴史的理解 意識を習得させる 2

Microsoft PowerPoint - ppt_No18_国教となったキリスト教


<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

教育学科幼児教育コース < 保育士モデル> 分野別数 学部共通 キリスト教学 英語 AⅠ 情報処理礎 子どもと人権 礎演習 ことばの表現教育 社会福祉学 英語 AⅡ 体育総合 生活 児童家庭福祉 英語 BⅠ( コミュニケーション ) 教育礎論 音楽 Ⅰ( 礎 ) 保育原理 Ⅰ 英語 BⅡ( コミュニ

アイヌ政策に関する世論調査 の概要 平成 3 0 年 8 月内閣府政府広報室 調査対象 全国 18 歳以上の日本国籍を有する者 3,000 人 有効回収数 1,710 人 ( 回収率 57.0%) 調査時期平成 30 年 6 月 28 日 ~7 月 8 日 ( 調査員による個別面接聴取 ) 調査目的

神学総合演習・聖霊降臨後最終主日                  2005/11/16

告白 という書物 告白 は 397~400 年頃の著作で 原題はラテン語で Confessiones 動詞の confiteri は 罪を懺悔する 神の恵みを賛美し感謝する という両方の意味がある 懺悔 賛美 感謝という順番が重要 と川添教授 自分が悪いことを認める 悪いところが神の恵みによって正さ

* ユダヤ人の歴史家ヨセフスもまた同じような書き方をしている 5 テオピロは ルカの執筆活動を支援するパトロンであった可能性が高い 6 もしそうなら テオピロはローマ人クリスチャンであったと思われる (2)1~2 節は ルカの福音書の要約である 1 前の書 というのは ルカの福音書 のことである 2


2011 年 07 月 17 日 ( 日 ) 18 日 ( 月 )29 ローマ人への手紙 8:12~17 聖化の力 ( 聖霊 )(3) 養子の霊 1. はじめに (1) 聖化 に関する 8 回目の学びである 最終回 1 最大の悲劇は 律法を行うことによって聖化を達成しようとすること 2この理解は ク

(Microsoft Word - \201\2403-1\223y\222n\227\230\227p\201i\215\317\201j.doc)

PowerPoint Presentation

Microsoft PowerPoint - 15InMacro4.pptx


Try*・[

(2)関係機関との連携・協力

なぜ社会的責任が重要なのか

アメリカの歴史 テーマで読む多文化社会の夢と現実 有賀夏樹著 有斐閣 2003UA0138 京免理恵 第 12 章 : アメリカ人への誘惑 アメリカ人 はいつ誕生したか アメリカ建国の起源だといわれる 1776 年の独立宣言と同時に アメリカ人 という国民が生まれるのであれば悩むことはない しかし

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

スライド 1

2012 年 1 月 22 日 ( 日 ) 23 日 ( 月 )54 ローマ人への手紙 15:4~13 希望から希望へ 1. はじめに (1) 文脈の確認 11~8 章が教理 29~11 章がイスラエルの救い 312~16 章が適用 (2)14:1~15:13 は 雑多な問題を扱っている 1 超道徳

創世記5 創世記2章4節b~25

千葉大学 ゲーム論II


世界史-4-近代ヨーロッパの開始

(1)-2 東京国立近代美術館 ( 工芸館 ) A 学芸全般以下の B~E 全て B 学芸 ( コレクション ) 1 近現代工芸 2デザイン 所蔵作品管理 展示 貸出 作品調査 研究 巡回展開催に関する業務 C 学芸 ( 企画展 ) 展覧会の準備 作品調査 研究 広報 会場設営 展覧会運営業務 D

スモールワールドネットワークを用いた人工市場シミュミレーションの研究

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

専門科目 生活環境と情報認知 ( 15) 字幕 専門科目 リスク社会のライフデザイン ( 14) 字幕実験 専門科目 人口減少社会の構想 ( 17) 字幕 専門科目 ソーシャルシティ ( 17) 字幕 専門科目 食と健康

経済政策基礎論   第3章 社会政策論の基礎

代々木ゼミナール 2018|高校生コース|高1生~高3生

DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか

Transcription:

2014 年度 特殊講義 2 b( 後期 ) 12/10/2014 S. Ashina <キリスト教思想史 古代から中世 宗教改革 > 0. オリエンテーション 宗教と文化 1. キリスト教の成立と初期キリスト教 2. キリスト教教父 1 使徒教父 弁証家 3. キリスト教の国教化 4. 三位一体論の形成過程とその意義 5. 研究発表 1: 齋藤 田中 6. 修道制の展開 7. キリスト教教父 2 アウグスティヌス 8. 中世キリスト教世界のダイナミズム 9. キリストと文化 スコラ的文化総合 12/17 10. 研究発表 2( キリスト教学研究室 にて ): 張 立川 12/24 11. 自然神学と歴史神学 1/7 12. イスラームと12 世紀ルネサンス 1/14 13. 宗教改革と近代世界 ( キリスト教学研究室にて ) 1/21 < 前回 >アウグスティヌス (1) 時代と伝記的事項 1. 西方教会 ( ラテン世界のキリスト教 ローマ カトリック教会とプロテスタント教会の共通のルーツ ) における最大の教父 (354-430 年 ) 西方教会の基盤の形成 2. 若きアウグスティヌスと回心 聖人アウグスティヌスの放蕩時代? 3. アウグスティヌスと二人の女性 : 母モニカと同棲の女性 ( 妻 ) 人間性 = 両義的存在 : 通説ほど 人間は単純ではない母の両義性 : 聖女? あるいは悪女? 母と妻の板挟み母マリア 原罪とは アウグスティヌス自身の問題であった 妻との別れ 空しさ 空しさを埋めようとする空しい努力 いっそうの空しさ 神の恩寵のみがこの空しさからの救いを与えることができた 5. 古代教会のヘレニズム的パラダイムからラテン的中世的パラダイムへの転換 しかし きわめて問題の多いラテン教会の発展に対して責任があるということも疑い得ない ( キュンク 133) 西欧の神学における性的な事柄の抑圧 女性の従属的位置づけ 創世記二章によれば女は男から そして男のために造られた アウグスティヌスは 性的なリビドーに異端の烙印を押してしまった (135) 現代にまで ベネディクト十六世 6. 恩寵の物象化 西欧的敬虔における予定をめぐる不安 (3) ユングあるいは遠藤周作 (1923-1996) 7. ユング : 三位一体の象徴 ( キリスト教に規定された西洋文化圏における完全な自己の象徴 ) 三位一体の象徴は完全 (vollkommen) であるが 十全 (vollständig) ではない 三位一体の象徴は完全な自己の象徴として機能しうるものであるが そこには女性原理あるいは身体原理が欠けている キリスト教の三一神論は古代の女神の要素を排除することによって形成された 女性や身体の正当な理解が困難になり 悪の問題におけるアポリアが生じる 8.1960 年代以前のフェミニズム ( 主として男性中心の社会システムにおける女性の権利獲得を目指していた ) 男性中心の社会システム全般に対する異議の申し立てを超えて それを支え正当化している価値観や世界像の批判へ 9. キリスト教と女性的なもの ( 女性 身体 物質 悪 ) 正統キリスト教における三位一体のもつ深層心理学的な問題母性的なものの欠如 悪の問題を組み込めない神学理論 10. 私の考えている宗教というものに 二つの種類がある 一つは父の宗教であり 一つは母の宗教である 父の宗教というのは 神が人間にとっておそるべきものであ - 1 -

り またその神が人間の悪を裁き 罰し 怒るような神である 母の宗教というのはそうではなくて ちょうど母親ができのわるい子供に対してでもそうであるように 神がそれをゆるし 神が人間と一緒に苦しむような宗教である ( 遠藤 異邦人の苦悩 149 頁 ) 遠藤周作文学の基本構想 : 父の宗教から母の宗教への転換 8. 中世キリスト教世界のダイナミズム (1) 古代から中世へ ゲルマンの大移動 1. 年表 1: ゲルマン関連 375: ゲルマン民族大移動の発端 ( フン族に追われ東ゴート族がドナウ川を渡り 東ローマ帝国内へ避難 ) 395: ローマ帝国東西に分裂 西ゴートのアラリックがギリシャに侵入 406: リーメス ( ライン川とドナウ川に沿ったローマ帝国の国境防備線 ) の大決潰 410: 西ゴート ローマ侵入 431: ヴァンダル族 アフリカ侵入 449: アングロ サクソン族 ブリタニカ侵入 455: ヴァンダル族 ローマ占領 476: 西ローマ帝国滅亡 482: フランク王国 メロヴィス 1 世 (482-511) メロヴィング朝 (486-751) 498: クロヴィス カトリックの回心 ( 受洗 498) 516: ブルグンド カトリックに回心 603: ランゴバルド カトリックに回心 c.610: イスラームの成立 642: サラセン軍 エジプト侵入 661-80: ウマイヤ朝 711: サラセンによって西ゴート王国の滅亡 732: ツール = ポアチェーの戦 ( カール = マルテル サラセン軍を破る ) 751: ピピン カロリング朝 (751-843) 756: ピピン ラヴェンナ太守領を教皇に寄進 768-814: チャールズ 1 世 ( 大帝 カール シャルルマーニュ ) c.789: ノルマン人のイングランド侵入 800: セルビア人 キリスト教に帰依 843: フランク王国三分 950: ハラルド ( デンマーク王 ) のキリスト教公認 2. 年表 2: キリスト教会関連 354-430: アウグスティヌス 391: キリスト教の国教化 406: ウルガタ (Vulgata ラテン語訳聖書 ) の完成 440-61: レオ 1 世 教皇権の主張 484-518: 東西教会の分離 525: モンテカッシーノ修道院創建 ( ベネディクト修道会の成立 ) 590-604: グレゴリウス 1 世 教皇尊称の普遍化 グレゴリオ聖歌 649: ラテラノ公会議 ( キリスト単性論を排斥 ) 726-843: 聖像問題 (2) ゲルマン大移動のもたらしたもの 1. 古代から中世への転換期 : ローマ帝国からポスト ローマ国家 ( 小国家時代 ) へ - 2 -

2014 年度 特殊講義 2 b( 後期 ) 12/10/2014 S. Ashina 政治的統合から宗教的文化的統合へ 2. 移動 = 民族形成 民族移動後の数百年 = エトノス生成 流動性の高い集団から 民族と呼ばれる政治集団が創出 ローマ的秩序の外部としてのゲルマンローマによるガリア征服 (BC.58-51: ガリア戦争 ) 征服の対象としてのガリア人 ケルト人 それに対するゲルマン人の異質性 ( 民族的統合以前 ) ライン川の向こう側 = まつろわぬ土地 3. 従来の学説 : 古代の終焉 ( 厳密には西ローマ帝国の滅亡 )= 暗黒時代しかし 地域によっては 古代と中世の連続性は一定程度確保された アフリカでは ローマ帝国の徴税制度が機能し続けた 古代と中世との関係性については 地域的な多様性に即した詳細な考察が必要 4. 古代の終焉の理由 : 巨大すぎた領土と経済構造の変動がマクロな要因となった そこにゲルマンの大移動が起こり 土台から崩壊することになる 四世紀のローマ帝国でめだった現象は 貧富の差が激しくなったことであった 大都市だけが栄え 中小の都市は廃れていった ( ブラウン 28) 大きくなりすぎたローマ帝国は 時間と距離を敵に回すことになった 資産の評価がいくら良心的に行われるにしても 広大なローマ帝国で資産の正確な再評価を頻繁に行うことは不可能であった そこで脱税が常態化し 運の悪い者に負担が集中することになった (29) (3) ゲルマン民族とキリスト教ローマ帝国による国教化にもかからず 国家自体 ( 西ローマ帝国 ) の崩壊により 政治権力との関係構築をゼロから行うことが必要になった 二人の大教皇 ( レオ一世とグレゴリウス一世 ) が直面したの課題 5. 西方教会 ( ローマ教会 ) の地位の確立 : ニカイア公会議第六決定文 ( ローマ アレクサンドリア アンティオキアの司教座は 総大司教区 ( パトリアルカ ) として認める ) 第七決定文 ( エルサレムに栄光の地位を与える ) コンスタンティノープル公会議 (381 年 ) に コンスタンテイィノープル司教はローマに次ぐパトリアルカの地位を獲得 パパ ( ス ) ローマ司教のみが パパ = 教皇 と呼ばれることになるのは 6 世紀 コンスタンティノープル司教は総大司教と名のる 6. ゲルマン後継国家において 教会はカトリック教会の支部であるものの 教皇以下の聖職者制度としての Hierarchia とは関わりなく独立し ただ信仰上の事項に関してのみ 道徳的に 教皇の公式の司教の下に服従する義務を有する いわゆる 地方教会 (Landeskirche) を形成した 教皇権の発達に従って対立の度を加えたが その対立はすでに中世初期にその端を発し 中世における政治抗争の因をなした ( 石原謙 キリスト教の源流 岩波書店 566-567 頁 ) 西欧ラテン世界における教会的秩序の分析 : 教権と俗権との関係は複雑 7. レオ一世 ( 在位 440-461) 民族移動の混乱期においてすでに中世ヨーロッパにおけるカトリシズムの中心勢力をなるべき礎石を据えた第一の基調は 言うまでもなくローマ教皇の東帝国およびビザンティン教会からの独立と 西方諸民族の精神的指導権の確立とである (554-555) レオ一世以後のローマ教皇 殊にグレゴリウス一世はペテロの聖座の継承者として 地上における キリストの代理者 (Vicarius Christi) の地位を占め (565) ペテロ = 岩 = 教会 という理念の成立の意義と問題 - 3 -

8. マタイ福音書 16 章 18 節 わたしも言っておく あなたはペトロ わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる 陰府の力もこれに対抗できない 9. ゲルマン民族のキリスト教化 まず異端的キリスト教が 次に正統キリスト教が ゴート族はまずアレイオス派キリスト教を受け入れる ウルフィラス (Ulfilas c.311-383) による聖書のゴート語訳 ゴート族への伝道 アレイオス派キリスト教とカトリックとの対立 ボエティウスは 投獄され ( 哲学の慰め を執筆 ) 国家 ( 東ゴート王国 ) の裏切り者として処刑 (524 年 ) 10. グレゴリウス一世 ( 在位 590-604) ゲルマン諸民族のカトリック化の意義を認識していた ( ゲルマン宣教構想 ) ビザンティンからフランクへの転換 ゲルマン宣教の意義と問題 (4) 中世社会の構造と動態 1. 中世社会の力学 : 教会と王権 ( 教皇と皇帝 ) 都市と農村キリスト教とイスラーム 2. キリスト教のダイナミズム : イエス運動の宗教理念 + 制度化 3. 中世社会の変動と新しい宗教性の展開 : 下部構造から上部構造? 農業革命 都市の発展 都市民衆の宗教性 異端的民衆運動と教会の対応十字軍 ( アルビジョア十字軍 ) 新しい修道院運動 ( ドミニコ会 フランシスコ会 ) 異端審問制度 4. 長期にわたるダイナミズムと安定度の高い構造性 (5) 中世都市とキリスト教 5. 古代都市 ( ヘレニズム都市 ) との関係 地域的多様性 立地上の連続性 ( 古代の集落やキヴィタス ( 新市街に対する旧市街 ) の改変 ) 新たな都市空間の創出 = 中心地としての都市 中世都市は 地域の手工業生産 消費 交換市場の中心として また軍事的 宗教的 政治的 行政的機能を備えた 地域的中心 として 漸進的にヨーロッパの政治社会関係を変容させていった ( 河原 32) 6.7 世紀以降の人口増加 土地の開墾 技術改良による農業の集約化と生産力の増大 10 世紀以降 古典荘園制の衰退によって 荘園制度下で生活していた不自由な農民や手工業者が近隣の都市的定住地へ移動 14 世紀 : ヨーロッパの総人口 7500 万人の約 20%(1500 ~ 1700 万人 ) が都市の居住 中世末期までの都市化は北イタリアとネーデルランドで顕著 大都市 : パリ (8-20 万人 ) ミラノ (10-15) フィレンツェ (10-12) ヴェネチア (12) ジェノバ (10) ケルン (5) ロンドン (5) ピサ (4) 地域の中心都市 (1-4) 中都市 (1) 小都市 極小都市 都市のネットワーク 同盟 ( ハンザ同盟など ) 中央と周辺 辺境のダイナミズム 旅する人々 宗教改革期には ヨーロッパ諸都市には 思想レベルでの独自のネットワーク ( 寛容のネットワーク ) が存在していた 7. キヴィタスと司教座 商品と貨幣流通の出入り口 ( ヴィク ) 行政と流通の拠点 ( ポルトゥス ) 保護された集落 ( ブルグス ) 市壁の建設 8. 文化としての都市 ヨーロッパ中世都市がキリスト教という宗教を軸にまさしく - 4 -

2014 年度 特殊講義 2 b( 後期 ) 12/10/2014 S. Ashina 新たら都市空間をつくりだしたという点 ( 河原 7) 都市の両義性 : 天上の都市と地上の都市の区別 ( アウグスティヌスの 神の国 ) 聖なる都 エルサレム 天上の都市としての修道院悪徳の場としての都市 バビロン 托鉢修道会の役割 ( 都市の浄化 都市的活動の正当化 ) 9. 十二世紀後半には それまで平信徒は宗教と信仰の問題を 教会に委ねておけばよいと考えていた けれども都市化の波をかぶった民衆は そのような受け身の信仰生活によっては心の安らぎをうることができなくなった ( 坂口 31) 10. 市民 の登場: 都市の自由と自治を享受し担う主体 制約により市民権を得 権利とともに義務 ( 軍役など ) を負う 市民以外の都市住民: 外国人 異教徒 ( ユダヤ人 ムスリム ) 聖職者 ( 特権的存在 ) 女性は政治的権利を持たない 富裕層と貧困層の二極化 放浪芸人 物乞い 娼婦などの周縁民を生み出す 相互扶助の組織化: 特定の聖人に帰依し教会から特別の保護 特権を受けた人々 ( 聖人衆 教会祭壇民 聖マリア衆 都市自治団体を構成する有力メンバー ) 同業ギルドや様々な兄弟団 11. 都市の暦 ( 守護聖人の祝祭など多様な祭礼と宗教儀礼 ) 演劇空間としての都市公共時計の出現 時間の秩序化 ( 近代へ ギデンズ モダニティと自己アイデンティティ 後期近代における自己と社会 ハーベスト社 ) (6) 教会と王権 12. 宗教と政治の相互補完性 統合体内部での緊張関係 この関係性を支え それを表現していたのが儀礼 象徴体系 統治なるものを三位的オイノコミアにおける神学的トポスに位置づける 三位的オイコノミアという装置が 統治機械の機能と分節化 内的分節化と外的分節化 を観察するにあたっていかに特権的な実験室たりうるかを示す ( アガンベン 9) これらの問いに対しては 政治学や社会学といった水準では陳腐な回答しか見いだせないようである だが これらの問いを神学という次元へと回復してやることによって 西洋の統治機械の最終的構造がオイコノミアと栄光のあいだの関係のうちに見分けられるようになる ( 同書 10) 13. 教皇権の確立 ( ビザンチンに対して 国家に対して ) と集権化 王権の確立と集権化 この二つの動向の重なり 聖職叙任権闘争 : 聖職者が世俗権力から土地財産を寄進されるだけでなく 聖職 ( とくに司教職 ) をも授与されるという慣例が腐敗の根源であるとして 教会の自由と世俗権力からの解放を求めた教皇庁と それに対抗するドイツ皇帝らの権力闘争 1074 年以降 世俗権力による聖職叙任を 聖職売買 として禁止 1076 年 : ドイツ皇帝ハインリヒ 4 世は ウォルムスで帝国会議を開催し グレゴリウスの教皇への選出無効を決議 ハインリヒ 4 世の破門 ドイツ諸侯は皇帝からの離反 皇帝は兵力での対抗の試みる 14. カノッサの屈辱 (1077 年 1 月 25-28 日 ) カノッサ城の前で みずぼらしい身なり 裸足で グレゴリウス 7 世へ慈悲と赦しを求める 破門を解く 15.1080 年 : グレゴリウスは公会議で再びハインリヒを破門 しかし 今度は教会諸侯が教皇より離反し 教皇の廃位を決議 ハインリヒは対抗教皇クレメンス 3 世を選ぶ グレゴリウスは 南イタリアへ逃亡し 1085 年 5 月 25 日に失意の内に死亡 16. 叙任権闘争は 1122 年に教会に司教選出と序階の自由を認め 皇帝には被選出者へ - 5 -

の牧杖による俗権の授与を認めるということで決着 ( ヴォルムス協約 ) グレゴリウス改革の精神はほぼ実現 13 世紀初頭のインノケンティウス3 世のときに 教皇権は頂点に達する 17. 紛争解決の手段としての儀礼 中世をつうじて とくにその初期から盛期にかけて 支配者層の間での紛争解決に頻繁に援用された 仲裁 降伏 儀礼 ( 池上 11) 戦火を交えれば双方の被害は大きいし 一方は取りかえしようもなく名誉を失う だからそんな事態にいたらぬような和解工作が たゆみなく 繰り返し背後でなされる慣習があり 裁判制度に中にも組み込まれていた ( 池上 12) 贖罪と降伏の儀礼を真剣に演じた相手には その悔い改めの心は真摯であると認め 赦免の儀礼を行うことが求められる 階層的宇宙 ( 自然から超自然 恩恵へ サクラメンタルな宇宙 ) の中で 各階層を結び付ける象徴と儀礼が機能し それが社会秩序の安定化を可能にする 可視的ものを通じて不可視的ものへ (per visibilia ad invisibilia) 18. 儀礼の衰退 = 近代への移行 現代の総力戦へ 中世末になると そこにはルールも慈悲もない 殺し合い つぶし合いの戦争が出来る 騎士道の倫理とは無縁の傭兵が 金のみを追求して金払いのよい主君を渡り歩きつつ 跋扈したし 騎兵ではなく歩兵が主役となる市民軍においては やはり騎士道のモラルがないばかりか卑怯な飛び道具を躊躇うことなく使い 敵を捕虜にして身代金を獲得する代わりに 皆殺しにしてしまうことも稀ではなくなったのである ( 池上 270) 19. まとめ 宗教と政治 教会と国家という単純な二分法は 議論の出発点としては意味があるが 大きな限界がある 象徴体系 儀礼から 中世的秩序を分析する 文化人類学的キリスト教学の可能性 言語 象徴論からのアプローチ 歴史的現象( 実在と出来事 ) 類型構成 段階論 要素 構造論 あるいは両者の統合 < 参考文献 > 1. 佐藤彰一 中世世界とは何か ( ヨーロッパの中世 1) 岩波書店 2008 年 2. ピーター ブラウン 古代末期の世界 ローマ帝国はなぜキリスト教化したか? 刀水書房 3.H.I. マルー 教父時代 平凡社ライブラリー 4.M.D. ノベルズ他 中世世界の成立 平凡社ライブラリー 5.J. ペリカン 中世神学の成長 (600-1300 年 ) 教文館 6. リーゼンフーバー 中世哲学の源流 創文社 中世思想史 平凡社ライブラリー 7. 鈴木宣明 ローマ教皇史 教育社 8.C. ブルック 中世社会の構造 法政大学出版局 9. 増田四郎 ヨーロッパ中世の社会史 岩波セミナーブックス 10. 河原温 都市の創造力 ( 中世ヨーロッパ 2) 岩波書店 11. 小澤実 薩摩秀登 林邦夫 辺境のダイナミズム ( 中世ヨーロッパ 3) 岩波書店 12. 池上俊一 儀礼と象徴の中世 ( 中世ヨーロッパ 8) 岩波書店 13. 阿部謹也 中世を旅する人びと ヨーロッパ庶民生活点描 ちくま学芸文庫 中世賤民の宇宙 ヨーロッパ原点への旅 ちくま学芸文庫 14. 坂口昂光 中世の人間観と歴史 フランシスコ ヨアキム ボナヴェントゥラ 創文社 15. カントーロヴィチ 王の二つの身体上下 ちくま学芸文庫 16. ジョルジョ アガンベン 王国と栄光 オイコノミアと統治の神学的系譜学のために 青土社 - 6 -