幼児期運動指針ガイドブック (9分3)

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(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

学校体育と幼児期運動指針の概要について

新しい幼稚園教育要領について

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3. ➀ 1 1 ➁ 2 ➀ ➁ /

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基本方針 これまでも幼稚園は幼稚園教育要領に 保育園は保育所保育指針に基づいた幼児教育 保育を展開してきた また 平成 20 年 3 月の大幅な改定により 3 歳児から5 歳児の教育に関する内容では整合性が図られている しかし 統一されたカリキュラムがないことで 幼稚園と保育園の内容に違いがあるかの

Taro-H29 教育課程編成届3

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5 児童生徒質問紙調査 (~P23) (1) 運動に対する意識等 [ 小学校男子 ] 1 運動やスポーツを [ 小学校女子 ] することが好き 1 運動やスポーツをすることが好き H30 全国 H30 北海道 6 放課後や学校が休みの日に 運動部や地域のスポーツクラブ以外で運動やスポーツをすることが

Taro-自立活動とは

子どもは 成長とともに徐々に友達と一緒に過ごす時間を増やしていきます そして 友達と一緒に遊んだり活動したりする中で 共に過ごす楽しさを味わうようになります その様子を見守ったり 援助したり 仲立ちしたりする保育士等の役割は重要であり 一人一人の子どもの友達への興味や関心 仲間関係などを把握する必要

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幼児期運動指針ガイドブック (9分4)

乳児期からの幼児教育について 大阪総合保育大学 大方美香

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保育計画成果報告書 法人名 社会福祉法人ちくさ学園 施設名 猫洞保育園 報告者 ( 役職 ) 横江美智代 ( 園長 ) 名古屋市千種区猫洞通 住所 連絡先 (052) タイトル ( 保育計画 ) 自分の身は自分で守るため

ICTを軸にした小中連携

(3) 生活習慣を改善するために

上体おこし長座体前屈反復横跳持久走三年女子 上体おこし長座体前屈反復横跳持久走三年男子 力ンド力ンド幅跳び幅跳び保健体育科学習指導案 指導者三和中学校小浦麻美日時平成 23 年 9 月 30 日 ( 金 ) 第 5 校時 ( 三良坂中学校体育館 ) 学年三和中学校第 3 学年 23 名 ( 男子 9

D-5 桐蔭横浜大学 田中ゼミKチーム

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

[ 中学校男子 ] 1 運動やスポーツをすることが好き 中学校を卒業した後 自主的に運動やスポーツをする時間を持ちたい 自分の体力 運動能力に自信がある 部活動やスポーツクラブに所属している 3 運動やスポーツは大切 [ 中学校女子

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

高松っ子いきいきプラン策定の趣旨 本プランは, 就学前の子どもが幼稚園 保育所 幼保一体化施設など, どこに在籍していても, 等しく質の高い教育 保育を受けられるよう, 各施設が積み上げてきたものを生かしつつ, 今後, 重点的に取り組むための方針や具体的な取り組みを示しています さらに小学校との連携

農山漁村での宿泊体験活動の教育効果について

平成29年度 小学校教育課程講習会 総合的な学習の時間

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幼児期の教育と小学校教育との円滑な接続の在り方について ( 報告 ) ( 概要 ) 子どもの発達や学びの連続性を踏まえた幼児期の教育 ( 幼稚園 保育所 認定こども園における教育 ) と児童期の教育 ( 小学校における教育 ) の円滑な接続の在り方について検討し 以下のとおり 報告をとりまとめた 1

Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については 知識や技能だけでなく 自ら学ぶ意欲や思考力 判断力 表現力などの資質や能力などを含めて基礎 基本ととらえ その基礎 基本の確実な定着を前提に 自ら学び 自ら考える力などの 生きる力 がはぐくまれているかどうかを含めて学力ととらえる必要があ

めざす幼児の姿 元気な子ども 基本的な生活習慣を身に付け, 園生活を楽しむ (3 歳児 ) 基本的な生活習慣を身に付け, 伸び伸びと園生活を楽しむ (4 歳児 ) 基本的な生活習慣を身に付け, 友達と協力しながら園生活を楽しむ (5 歳児 ) やさしい子ども 教師や友達と一緒に遊ぶことを楽しむ (3

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7 本時の指導構想 (1) 本時のねらい本時は, 前時までの活動を受けて, 単元テーマ なぜ働くのだろう について, さらに考えを深めるための自己課題を設定させる () 論理の意識化を図る学習活動 に関わって 考えがいのある課題設定 学習課題を 職業調べの自己課題を設定する と設定する ( 学習課題

幼稚園教育要領解説

幼児の実態を捉えると共に 幼児が自分たちで生活をつくり出す保育の在り方を探り 主体的 に生活する子どもを育むための教育課程及び指導計画を作成する 3 研究の計画 <1 年次 > 主体的に生活する幼児の姿を捉える 教育課程 指導計画を見直す <2 年次 > 主体的に生活する幼児の姿を捉え その要因につ

スライド 1

5 本時の学習 (5/6 時間 ) (1) ねらい 技能 体を移動したり 用具を操作したりすることができる 態度 運動に進んで取り組み きまりを守って仲良く運動し場や用具の安全に気を付けることができる 思考 判断 運動遊びの行い方を知り 友達のよい動きを見付けることができる (2) 展開主な学習活動

案 参考資料 1 健康長寿笑顔のまち 京都推進プラン ( 計画期間 : 平成 30 年 ~34 年度 ) 身体活動 運動分野抜粋案 1

平成25~27年度間

【報道発表資料】

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

に教室の中を立ち歩いたり 教室の外へ出て行ったりする 68.5% 次に 担任の指示通りに行動しない 62.1% などとなっている また 不適応状況の発生の予防に効果的と思われる対応策 ( 図 2) 6 として最も多かったのが 学級担任の援助となる指導員等の配置 校長 61.4% 教諭 61.0% 次

を生かした環境を構成することも求められます 3 安全で保健的な環境次に 施設などの環境整備を通して 保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること としています 子どもの健康と安全を守ることは保育所の基本的かつ重大な責任です 全職員が常に心を配り 確認を怠らず 子どもが安心 安全に過ごせる保育の環境

Microsoft Word - 03目次

の向上多の獲得平成 27 年度 (2015 年度 ) 幼稚園教育に関する研究研究構造図 運動習慣の確立体力向上 様な動き作成 活用 進んで体を動かそうとする幼児 ~ 小学校の体育へ~ 場の工夫作成 配付 意欲 幼児期運動遊びプログラム 自然と体を動かしたくなる環境づくり 保護者向け啓発リーフレット

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1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

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(2) 記録用サポートブックの作り方 記録用サポートブックは 一般様式 を使って書きます 一般様式 は 項目 本人の状況 支援方法 の 3 つの枠からできています 様式一般様式支援者 : 場所 : 日付 : < 項目 > 例 ) 話を聞く( 授業中 ) 使い ポイント 方 気になるな 困ったな と思

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

教育調査 ( 教職員用 ) 1 教育計画の作成にあたって 教職員でよく話し合っていますか 度数 相対度数 (%) 累積度数累積相対度数 (%) はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ 0

1 単位対象学年 組 区分 1 年 必修 奥村秀章 黒尾卓宏 晝間久美 保健体育 保健 我が国の健康水準 健康であるための成立要因や条件について理解させ 飲酒や喫煙等の生活習慣について考える 薬物乱用 感染症 エイズの予防対策の重要性について認識させる ストレス社会への対処の仕方や身

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表紙(中学校)単独

1

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

H26関ブロ美術プレ大会学習指導案(完成版)

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走の運動遊び では, いろいろな方向に走ったり, 障害物を用いたりしてリレー遊びを行う その際, 方向を変えて走るときや障害物を走り越すときにはどのように体を動かすとよいかを考えさせる また, 障害物の置き方や間隔を変えることによって, リズムよく走り越すことができることを体験し, 体を操作して走る

活実態と関連を図りながら重点的に指導していきたい また, 栄養教諭による給食献立の栄養バランスや食事によるエネルギー量を基盤として, グループごとに話合い活動を取り入れるなどの指導の工夫を行いたい また, 授業の導入にアイスブレイクや, カード式発想法を取り入れることにより, 生徒が本気で語ることが

< 先生方へ > 長崎県学力向上推進協議会では 子どもに確かな学力をつけていくためには 何 が大切か また 学力の向上を阻害している要因は何かなどについて 検討を重ね ています その中から次のようなことが指摘されました 1 家庭で毎日決まった時間に学習をする習慣をつけることが大切である 2 食事や睡

体育に関するアンケート (8 月 24 名実施 ) では 体をうごかすことやうんどうはすきですか という質問に対して はい まあまあすき と答えた児童は 22 名 あまりすきではない と答えた児童が 2 名で きらい と答えた児童はいなかった どんなうんどうがすきですか という質問では 水遊び ボー

実践 報告書テンプレート

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1 幼児期の教育 保育と小学校教育の違い 幼児期の教育 保育と小学校の教育では 発達の段階の違いだけでなく 教育課程等の違いもあります まずは相互を理解することが必要です 幼児期の教育 保育と小学校教育との間には このように教育課程や指導方法の相違点がある一方で 5 歳児から小学校低学年までの発達の

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

(4) ものごとを最後までやりとげて, うれしかったことがありますか (5) 自分には, よいところがあると思いますか

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2 教育及び保育の 標 Q17 認定こども園法第 9 条に規定する6つの教育及び保育の目標の達成に努めるとともに これらが満 3 歳未満の園児の保育にも当てはまることを理解している Q18 第 2 教育及び保育の内容に関する全体的な計画の作成 教育及び保育の内容に関する全体的な計画は 教育及び保育を

○ ○ 科 学 習 指 導 案

基本方針 2 児童 生徒一人ひとりに応じた学習を大切にし 確かな学力の育成を図ります 基本方針 2 児童 生徒一人ひとりに応じた学習を大切にし 確かな学力の育成を図ります (1) 基礎的 基本的な学力の定着児童 生徒一人ひとりが生きる力の基盤として 基礎的 基本的な知識や技能を習得できるよう それぞ

高等学校第 2 学年保健体育科学習指導案 日時 : 平成 25 年 月 日 ( ) 第 校時対象 : 東京都立 高等学校第 2 学年 組男子 名 1 単元名 体つくり運動 2 単元の目標 (1) 次の運動をとおして 体を動かす楽しさや心地よさを味わい 健康の保持増進や体力の向上を図り 目的に適した運

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平成 27 年度 全国体力 運動能力 運動習慣等調査の概要 平成 28 年 3 月 四條畷市教育委員会

第 9 章 外国語 第 1 教科目標, 評価の観点及びその趣旨等 1 教科目標外国語を通じて, 言語や文化に対する理解を深め, 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 聞くこと, 話すこと, 読むこと, 書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う 2 評価の観点及びその趣旨

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小学校 第○学年 学級活動(給食)指導案

平成 26 年度 全国体力 運動能力 運動習慣等調査の概要 平成 27 年 1 月 四條畷市教育委員会

うになるために, いろいろな走 跳の運動遊びを行い, 単元の最後に 海田東小オリンピック を開催するゴールを設定する 走の運動遊び では, いろいろな方向に走ったり, 障害物を用いたりしてリレー遊びを行う その際, 方向を変えて走るときや障害物を走り越すときにはどのように体を動かすとよいかを考えさせ

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新潟市立亀田西中学校

資料6 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿の再整理イメージ(たたき台)

4. 題材の評価規準 題材の評価規準 については, B 日常の食事と調理の基礎 (2),(3), D 身近な消費生活 と環境 (1) の 評価規準に盛り込むべき事項 及び 評価規準の設定例 を参考に設定して いる 家庭生活への関心 意欲 態度 お弁当作りに関心をもち, おか 生活を創意工夫する能力

単元構造図の簡素化とその活用 ~ 九州体育 保健体育ネットワーク研究会 2016 ファイナル in 福岡 ~ 佐賀県伊万里市立伊万里中学校教頭福井宏和 1 はじめに伊万里市立伊万里中学校は, 平成 20 年度から平成 22 年度までの3 年間, 文部科学省 国立教育政策研究所 学力の把握に関する研究

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このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

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3 第 3 学年及び第 4 学年の評価規準 集団活動や生活への関心 意欲態度 集団の一員としての思考 判断 実践 学級の生活上の問題に関心 楽しい学級をつくるために を持ち 他の児童と協力して意 話し合い 自己の役割や集団と 欲的に集団活動に取り組もう してよりよい方法について考 としている え 判

1 一日の生活の連続性及びリズムの多様性への配慮 (1) 全体的な計画の作成幼保連携型認定こども園教育保育要領第 1 章総則では 幼保連携型認定こども園の 全体的な計画 の作成について示されています 全体的な計画は 保育所保育指針における保育課程 幼稚園教育要領における教育課程に当たります また 全


Transcription:

なぜ 様々な遊びを取り入れることが必要なのか 幼児期は運動機能が急速に発達し 多様な動きを身に付けやすい時期です この時期には 多様な運動刺激を与えて 体内に様々な神経回路を複雑に張り巡らせていくことが大切です それらが発達すると タイミングよく動いたり 力の加減をコントロールしたりするなどの運 動を調整する能力が高まり普段の生活で必要な動きをはじめ とっさの時に身を守る動きや 将来的にスポーツに結び付く動きなど基本的な動きを多様に身に付けやすくなります 基本的な動きには 立つ 座る 寝ころぶ 起きる 回る 転がる 渡る ぶら下が はるなど 体のバランスをとる動き や 歩く 走る はねる 跳ぶ 登る 下りる 這う よける すべるなど 体を移動する動き 持つ 運ぶ 投げる 捕る 転がす 蹴る 積む こぐ 掘る 押す 引くなどの 用具などを操作する動き があります 体を動かす遊びには 特定のスポーツ ( 運動 ) のみを続けるよりも多様な動きが含ま れます 例えば 鬼ごっこをすると 歩く 走る くぐる よける などの動きが含ま れます 幼児が楽しんで夢中になって遊んでいるうちに多様な動きを総合的に経験する ことになります ですから 様々な遊びをすると その中には複合的に動きが含まれ 結果的に多様な動きを経験し それらを獲得することができるのです なお 幼児の場合は 自発的に様々な遊びを体験し 多様な動きが獲得できるように することが大切です ですから 幼児期において動きを身に付けていくにあたっては トレーニングのように特定の動きばかりを繰り返したり 運動の頻度や強度が高過ぎ 特定の部位にストレスが加わるけがにつながったりしないよう注意が必要です 遊びが 楽しく 自ら様々な遊びを求めるようになれば 遊びもさらに広がり 一層 多様に動 きを獲得できるようになります 文部科学省で平成 19 年度から 21 年度に実施した 体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究 ( 以後 文部科学省調査という ) では より多くの友達と活発に遊びを楽しむ幼児ほど運動能力が高い傾向にありました 楽しく体を動かす遊びは 生涯にわたって運動 ( スポーツ ) を楽しむための基礎的な体力や運動能力を発達させるだけでなく 複数の友達との関わりを通して コミュニケーション能力 やる気や集中力 社会性や認知的能力などを育む機会を与えてくれます 発達の個人差が大きい幼児期であることを考慮しながら 十分に体を動かす気持ちよさを体験し 自ら体を動かそうとする意欲が育つよう 多様な動きが含まれる遊びをバリエーション豊かに楽しめるような工夫が必要です 8

体のバランスをとる動き 寝ころぶ 起きる 立つ 座る 渡る 回る 転がる ぶら下がる 体を移動する動き 歩く 走る はねる 跳ぶ は登る下りる這う よける すべる 用具などを操作する動き 持つ運ぶ投げる捕る転がす 蹴る 積む こぐ 掘る 押す 引く 幼児期に経験する基本的な動きの例 9

なぜ 楽しく体を動かす時間の確保が必要なのか 多様な動きの獲得のためには 量 ( 時間 ) 的な保障も大切な視点です 一般的に幼児は 興味をもった遊びに熱中して取り組みます しかし 友達が他の遊びをしていたり 新しい遊具に関心をもったりすると自発的に遊びを次々と変えていく場合も多く見られます ですから 楽しい遊びが提供された上にある程度の時間を確保すると 幼児はその中で様々な遊びをし 結果として多様な動きを獲得することにつながります 前述の文部科学省調査では 外遊びをする時間が長い幼児ほど 体力が高い傾向にありましたが 4 割を超える幼児の外遊びをする時間が 1 日 1 時間 (60 分 ) 未満でした 一日にどれだけ体を動かすと動きの獲得がスムーズにいくのかといった明快なデータを示すことは困難ですが 多くの幼児が体を動かす実現可能な時間として わかりやすい指標を立てる必要があることから 毎日 合計 60 分以上 体を動かすことが望ましいことを目安として示しました ただし 時間だけが問題なのではなく 様々な遊びを中心として 散歩やお手伝いなど 多様な動きの経験が大切です 幼児にとっては 幼稚園や保育所などに登園しない日でも体を動かす必要がありますから 保育者だけでなく保護者も共に体を動かす時間の確保について工夫することが望まれます また 本来ならば 幼児が力いっぱい体を動かして遊びをする上では 外でのびのびと遊ぶことが望ましいのですが 施設などの環境や天候 季節などの影響があることから 幼児が体を動かす時間は 屋内も含め 1 日の生活の中での時間として設定しています なお 世界保健機関 (WHO) をはじめとして 多くの国々では 幼児を含む子どもの心身の健康的な発達のために 毎日 合計 60 分以上の中強度から高強度の身体活動 を推奨しており この目安は現在の世界的なスタンダードということができます 身体活動安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての営みのこと 幼児の運動能力調査 : 体力総合評価 ( 文部科学省, 2011) 10

世界の 子どもの身体活動におけるガイドライン 概要 なぜ 発達の特性に応じた遊びが重要なのか 幼児期の運動は 体に過剰な負担が生じることのない発達の特性に応じた遊びを中心に展開することで 無理なく多様な動きを身に付けることができます 幼児は 一般的にその時期に発達していく身体の諸機能を使って動こうとしますから 発達の特性に合った遊びをすることは それらの機能が一層 促進されるとともにけがの予防にもつながります 幼児の身体諸機能を十分に動かし活動意欲を満足させることは 幼児の有能感を育むことにもなり 体を使った遊びに意欲的に取り組むことにも結び付きます なお 幼児期は心身の発達が著しい時期ですが その成長は個人差が大きいので 幼児に体を動かす遊びを提供するに当たっては 一般的な発達の特性の理解だけでなく一人一人の発達に応じた配慮が必要です 11

3. 幼児期における発達の特性 (1) 全般的な発達の特性幼児期は 心と体が相互に関連しながら 総合的に発達していきます 幼児期に入ると 家庭内での親しい人間関係を軸に営まれていたそれまでの生活から 生活の場 他者との関係 興味や関心などが急激に広がり 依存から自立に向かいます 生活の場では 保護者や周囲の大人に見守られているという安心感に支えられて いろいろなことをやってみようとする活動意欲が高まる時期です 行動範囲は家の外へと広がり 運動機能も急速に発達していきます 他者との関係においては 他の幼児や家族以外の人々の存在に気付きはじめ 次第に関わりを求めるようになります 初めは それぞれが別々の活動をしながらも同じ場所で過ごすことで満足する姿が見られますが やがて一緒に遊んだり 言葉を交わしたり 物をやりとりするなどの関わりをもつようになっていきます ときには自己主張のぶつかり合いや友達と折り合いをつけるなどの体験を重ねながら 友達関係が生まれ深まっていきます 興味や関心は 生活の場や対人関係の広がりに伴って 徐々に様々な対象に向けられていきます 自分でよく見たり聞いたり 十分に関わり合うことにより 好奇心や探究心を満足させながら 思考力の基礎を培っていきます 幼児期においては それまでの自己を表出することが中心の生活から 他者との関わり合いを通して その存在を意識する生活へと変化するため 自己を抑制しようとする気持ちが生まれ 自我の発達の基礎が築かれていきます (2) 運動の発達の特性と動きの獲得の考え方幼児期は 日常生活での運動 表現に用いる運動 労働での運動 スポーツにおける運動といった人間の生涯にわたってさまざまな場面において必要な運動の基になる 基本的な動きを幅広く獲得する非常に大切な時期です 幼児期はまさに 運動における基礎づくりの段階にあるといえます 基本的な動きの習得には 日常生活や体を動かす遊びなどの様々な経験の中で 基本的な動きの種類を増大させていく 動きの多様化 すなわち獲得する動きの種類の増大と それぞれの基本的な動きの運動の仕方 ( 動作様式 ) がより合理的 合目的的になり 動きが上手になっていく 動きの洗練化 つまり基本的な動きの質的な変容という二つの方向性があります 動きの多様化 とは 年齢とともに獲得される基本的な動きが増大することです 基本的な動きの例は 9 ページに示しました 基本的な動きは 体のバランスをとる動き 12

体を移動する動き 用具などを操作する動き におよそ分類して捉えることができます 幼児期においては 体を動かす遊びや日常的な生活の中でこれらの動きを経験し 易しい動きから難しい動きへ 一つの動きから類似した動きへと 動きのレパートリーやバリエーションが拡大し 多様な動きを獲得していきます 動きの洗練化 とは 年齢とともに様々な運動を経験し動き方がうまくなり 質的に改善されていくことです 3 歳から 4 歳では 動きに 力み や ぎこちなさ がみられますが 年齢とともに 無駄な動きや過剰な動きに伴う未熟な動きが減少し 目的に合った合理的な動きによる滑らかな運動や動きの組み合わせが成立するようになります 下の図に 3 4 歳ごろから 5 6 歳において 投げる動きが上手になっていく過程を示しました 幼児期において 上体のひねり 足のステップ 投げる準備動作としての腕の引き フォロースルーなどが見られるようになり 投げ方が質的に改善されていくことがわかります 投げる動作 の動作発達段階の特徴 動作パターン パターン 1 上体は投射方向へ正対したままで 支持面 ( 足の位置 ) の変化や体重の移動は見られない パターン 2 両足は動かず 支持面の変化はないが 反対側へひねる動作によって投げる パターン 3 投射する腕と同じ側の足の前方へのステップの導入によって 支持面が変化する パターン 4 投射する腕と逆側の足のステップがともなう パターン 5 パターン 4 の動作様式に加え ワインドアップを含む より大きな動作が見られる 次に 1 3 歳から 4 歳ごろ 2 4 歳から 5 歳ごろ 3 5 歳から 6 歳ごろに分けて それぞれの発達段階での一般的な運動の発達の特性と その時期に経験しておきたい遊び ( 動き ) の例について示しました なお 幼児の発達は 必ずしも一様ではありません 同じ年齢でもできることや興味は様々ですから 一人一人の発達の実情をとらえることが大切です 13

1 3 歳から 4 歳ごろ 基本的な動きが未熟な初期の段階から 日常生活や体を使った遊びの経験をもとに 次第に上手にできるようになっていきます 特に幼稚園 保育所等の生活や家庭での 環境に適応しながら 体のバランスをとる動き 体を移動させる動き 用具などを 操作する動き といった多様な動きが一通りできるようになります そして心身の発 達とともに 自分の体の動きをコントロールするようになります 基本的な動きを何 度も繰り返すうちに 次第に身体感覚を高め より巧みな動きを獲得するようになっ ていきます したがって この時期の幼児には 体を使った遊びの中で多様な動きが経験でき 自 分から進んで何度も繰り返すことにおもしろさを感じることができるような環境を構成 することが必要になります 例えば 屋外での滑り台 ブランコ 鉄棒などの固定遊具や 室内での巧技台やマッ トなどの遊具の活用を通して 全身を使って遊ぶことなどにより 立つ 起きる 回る は渡る ぶら下がるなどの 体のバランスをとる動き や 歩く 走る 跳ぶ 登る 這う などの 体を移動する動き を経験しておくことが望まれます 傾斜をつけて斜面歩き 登ったり下りたり 遠くへ跳ぶ 動物わたり なわテープ ヘビ ナマケモノ 転がる 四つ足で歩く バランスをとって横歩き 両足で 上向き下向き 2 4 歳から 5 歳ごろ 3 歳から 4 歳ごろに経験し獲得した基本的な動きが定着し さらに上手になっていきます 友達と一緒に運動することに楽しさを見い出し また環境との関わり方や遊び方を工夫しながら 多くの基本的な動きを経験するようになります 特に全身のバランス 14

をとる能力が発達し 身近にある用具を使って操作するような動きも上手になっていきます 体を使った遊びを発展させ 自分たちでルールや決まりを作ることにおもしろさを見い出します さらに自分の近くにいる友達や大人が行う魅力ある動き ( 遊び ) や気に入った動きのまね ( 模倣 ) をすることに興味を示し それらを楽しみながら繰り返すことによって自然に動きを獲得するようになります かっこいい 自分もできるようになりたい といったまねをしたい動きを見せてくれる友達 保育者 保護者の存在が 基本的な動きの獲得に大きく影響します この時期には 例えば なわ跳びやボール遊びなど 体全体でリズムをとったり 用具を巧みに操作したりコントロールさせたりする遊びの中で 持つ 運ぶ 投げる 捕る 蹴る 押す 引くなどの 用具などを操作する動き を経験しておくことが望まれます 頭の上に乗せて いろいろな形でキャッチする パッと手を放してみる 上に投げてキャッチ 弾ませてキャッチ ついたボールを蹴る 転がしたボールを蹴る 自由に蹴る ゴールに向けて蹴る 3 5 歳から 6 歳ごろそれまでの経験をもとに 無駄な動きや過剰な動きが少なくなり より基本的な動きが上手になっていきます さらに走ってきて跳ぶといったように複数の動きを中断することなく連続的に行ったり ボールをつきながら走るといったように易しい複数の動きを同時に行ったりするような 基本的な動きの組み合わせ ができるようになってきます それまでの経験の中で印象に残っているイメージや 友達と共通のイメージをもって遊ぶ中で 基本的な動きの再現性が高まり さまざまな動きを上手に行うことが定着し 15

ていきます また目的に向かって集団で行動したり 友達と力を合わせたり 役割を分担したりして遊ぶようになり 満足するまで繰り返して取り組むようになります さらにそれまでの知識や経験を生かし 工夫をして 遊びを発展させていく姿も見られるようになります この時期は 全身を使った運動がそれまでより滑らかで巧みに行えるようになり 全力で走ったり 跳んだりすることに心地よさを感じるようになります 幼児にとって 挑戦してみたいと思えるように組み合わせた動きが含まれる遊びに取り組んでいくことで 結果として 体のバランスをとる動き 体を移動する動き 用具などを操作する動き がより滑らかに遂行できるようになることが期待されます そのため 遊具を用いた複雑な動きが含まれる遊びや 様々なルールでの鬼遊びなどを経験しておくことが望まれます 手つなぎ鬼 パイナップル パイナップルじゃんけん ボール回し鬼ボールを持っている人をタッチ いちご! フルーツバスケット 図形鬼 いろいろな図形で 鬼は入れないよ 夜中の 12 時! オオカミさん今何時? 影踏み 逃げろ (3) 小学校教育とのつながり平成 23 年 4 月より 小学校では新しい学習指導要領による教育課程が全面実施されています 今回の小学校学習指導要領体育科の改訂においては 体つくり運動 が低学年から位置付けられました その内容としては 低学年に 多様な動きをつくる運動遊び 中学年に 多様な動きをつくる運動 が示されています これらは 将来の体力向上につなげていくために この時期に様々な基本的な動きを総合的に身に付けていくことを目指しています 幼児期においては 体を動かす遊びや日常生活の中で 多様な動きを自然に身に付けていけるような実践が求められます 16