1

Similar documents
整理番号

<4D F736F F D2091E6328FCD208DD08A5182CC94AD90B681458A6791E A834982CC93578A4A2E646F63>

<4D F736F F D208ED497BC82C982E682E98D8288B3834B AED88DA93AE928682CC8E968CCC96688E7E46696E616C816992F990B38CE3816A2E646F6378>

第3類危険物の物質別詳細 練習問題

大阪市立大学における 液体ヘリウムの汲み出し状況

Microsoft Word - HM doc

1 熱, 蒸気及びボイラーの概要 問 10 伝熱についての記述として, 誤っているものは次のうちどれか (1) 金属棒の一端を熱したとき, 熱が棒内を通り他端に伝わる現象を熱伝導という (2) 液体又は気体が固体壁に接触して流れ, 固体壁との間で熱が移動する現象を熱伝達又は対流熱伝達という (3)

<4D F736F F D2091E E838D BB95A88FC189CE90DD94F52E646F63>

P _Valves_j_2

電気工事用オートブレーカ・漏電遮断器 D,DGシリーズ

< 解説 > 医療用ガスボンベ誤認防止のため ガス種の確認は医薬品ラベルによる確認を最重要と捉えその励行を推奨し 特に誤認の多い医療用小型ガスボンベに焦点を当て 識別性の高い医薬品ラベルの指針を制定する また医療ガス安全管理委員会の役割を強化し 医療ガスを安全に取扱うための医療ガス教育を更に充実させ

<4D F736F F D D F944D8CF08AB78AED82CC E682E889C AB834B A682A DC58F4994C

< F31322D819A B8AED8BEF82CC C B95B68E91>

Xamテスト作成用テンプレート

高圧ガス(第576号),P48-53

< F2D819A834A835A B182F182EB82CC C B>

1

< F2D F8F9C90E18B405F FC89FC89FC>

<4D F736F F F696E74202D C4816A81798E9197BF A8B4B90A791CE8FDB82CC8DC490AE979D E >

FACCIA PIANA INGLESE.indd

高圧ガス(第571号),P69-75

島津ジーエルシー総合カタログ2017【GC・GCMS周辺部品】

OC TOB E R ky アルファ ラバル LKB および LKB-F 自動または手動バタフライ バルブ Manual or Automatic - it s your Choice コンセプト LKB の範囲は ステンレス鋼管システム用の衛生バタフライバルブです 動作のしくみ LKB

別紙 十分な知見を有する者について 1. 定期点検について専門点検 ( 簡易点検により 漏えい又は故障等を確認した場合に 可能な限り速やかに実施することとされている ) 及び定期点検については フロン類の性状及び取扱いの方法並びにエアコンディショナー 冷蔵機器及び冷凍機器の構造並びに運転方法について

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

PowerPoint プレゼンテーション

182 No. 61 RDF m 13 RDF RDF 中国の石油精製工場で爆発 m 中国の染料用化学製品工場で爆発 t km

Microsoft PowerPoint - 口頭発表_電子レンジ

. ライターによる事故について () 年度別の事故発生件数について NITE 製品安全センターに通知された製品事故情報のうち 平成 年度から 0 年度に発生したライターによる事故は図 に示すとおり 件 ( ) 発生しています また 平成 年 月から平成 年 月までに 件発生しており 直近の カ月 (

<4D F736F F F696E74202D20335F8F4390B BB956988C A E815B8BC696B195F18D9089EF816994AD955C8E9197BF966B8AD6938C816A3494C52E >

VA/VG シリーズ バルブ図面 VA シリーズ ノーマリークローズ ( 常時閉 ) タイプ /8 NPTF INLET 入口 4X #0-32 UNF.28 最小ねじ深さ ELK RIVER, MN USA 25 psi 最大 Ø2.23 [56.6] ポート位置 3.7 [80.52] 出口 O

基準19 ハロゲン化物消火設備の設置及び維持に関する基準

News Release 安全とあなたの未来を支えます 1 / 年 6 月 27 日 NIT E ( ナイト ) 独立行政法人製品評価技術基盤機構製品安全センター ( 東京 ) エアコン 扇風機の事故にご注意ください ~ 関東甲信越における事故を中心に ~ 1. 関東甲信越地方のエアコ

20企広第  号

日常点検 か月定期点検 エンジンオイルなどの塗布部位 ホイールボルト ナットのねじ部の潤滑 ホイールボルトとナットのねじ部 ホイールナットと座金 ワッシャー とのす 日1回 運行の前に点検してください 目視での点検 ホイールボルトおよびナットがすべて付いているか点検します ディスクホイールやホイール

整理番号

また単分子層吸着量は S をすべて加えればよく N m = S (1.5) となる ここで計算を簡単にするために次のような仮定をする 2 層目以上に吸着した分子の吸着エネルギーは潜熱に等しい したがって Q = Q L ( 2) (1.6) また 2 層目以上では吸着に与える表面固体の影響は小さく

Microsoft Word - 本文(高圧圧縮油漏れ)H25.8.7r6.doc

屋内消火栓設備の基準 ( 第 4.2.(3). オ ) を準用すること (2) 高架水槽を用いる加圧送水装置は 屋内消火栓設備の基準 ( 第 4.2.(4). ア イ及びウ ) を準用するほか (1). ア イ及びウの例によること (3) 圧力水槽を用いる加圧送水装置は 屋内消火栓設備の基準 ( 第

別添 平成 23 年 3 月 17 日 消防庁 東北地方太平洋沖地震における被災地でのガソリン等の運搬 貯蔵及び取扱い上の留意事項 東北地方太平洋沖地震の被害は甚大であり 被災地におけるガソリン 軽油及び灯油等の燃料が不足しています 政府においてもガソリン等の燃料の迅速な運搬及び移送に努めており 被

株式会社神戸製鋼所及びグループ会社、三菱マテリアル株式会社子会社の不適切行為に関する調査について

様式 1-2 文書履歴 簡易容器検査規程 [ 機 ] 改訂 施行 改訂等の内容 コード 年月日 制定 支部住所等の変更に伴う改正 2 銀行名等の変更に伴う改正 近畿支部及び九州支部銀行支店名を改正 -3 2

ボイラー構造規格第 62 条 問 1. 最高使用圧力の異なるボイラーを主蒸気管で継ぐ場合, 低圧側ラインには, 安全弁が必要か 容量は, 高圧蒸気量の容量が必要か ( 下図参照 ) 答 1. 設問の場合は, 低圧側ラインに安全弁は必要である その吹出し設定圧力は, 低圧側ラインの最高使用圧力を超えな

<4D F736F F D E323589FC90B3817A97E DD94F58E968BC68ED28CFC82AF8D8288B3834B835895DB88C CC8EE891B182AB2E646F6378>

仮貯蔵 仮取扱い実施計画書 ( ドラム缶等による燃料の貯蔵及び取扱い ) 保有空地の周囲にロープを張り ( バリケードを立て ) 空地を確保する 第 5 種消火設備を 3 本設置する 保有空地 確保する 高温になることを避けるため 通気性を確保した日除けを設置 工場東側空地約 360 m2 通風 換

MAEZAWA 逆止弁 逆止弁は 大きく分けてばね式 (K 型 K3 型等 ) と自重式 (CA 型 ) のタイプで ばね式はさらに ( 公社 ) 日本水道協会規格品 準拠品と前澤オリジナル品に分類されます 種類を豊富に取り揃えていますので 設置場所に合った製品を選ぶことが出来ます 逆止弁は 長期的

P _Valves_j_2

( 給油取扱所関係 ) 問危険物の規制に関する政令 ( 昭和 34 年政令第 306 号 以下 政令 という ) 第 17 条第 3 項第 6 号に規定する自家用の給油取扱所 ( 以下 自家用給油取扱所 という ) にあっては 危険物の規制に関する規則 ( 昭和 34 年総理府令第 55 号 ) 第

PowerPoint プレゼンテーション

- 1 -

平成 26 年度経済産業省委託事業 高圧ガス取扱施設における リスクアセスメント手法及び保安教育プログラム調査研究 講師データベースの構築 平成 27 年 3 月 高圧ガス保安協会

例題 1 表は, 分圧 Pa, 温度 0 および 20 において, 水 1.00L に溶解する二酸化炭素と 窒素の物質量を表している 二酸化炭素窒素 mol mol mol mol 温度, 圧力, 体積を変えられる容器を用意し,

(Microsoft Word - \207V10\215\\\221\242\212\356\217\200P44-52.doc)

目次 組立 施工の前に P.1 開口部の確認 P.2 同梱一覧 P.3 組立 施工 1. 枠の組立 P.8 2. 埋込敷居の床貼込み寸法 P.9 3. 枠の取付 P 敷居の取付 P ケーシングの取付 P 床付ガイドピン 振止めストッパーの取付上吊りタイプ P.16

AS-FS-A-C1-F1.indd

別紙 1 消防危第 174 号 平成 25 年 10 月 4 日 < 関係団体の長 > 殿 消防庁危険物保安室長 ガソリン携行缶本体の注意表示の充実に係るご協力のお願いについて 平素から消防行政へのご理解とご協力を賜り 厚く御礼申し上げます 平成 25 年 8 月 15 日に京都府福知山市花火大会で

Flat-A-C1-CS3.indd

MAX N2 R PSA LCD

高圧ガス(第577号),P44-49

混合三方弁(JIS 10K) 形V5065

附属書A(参考)品質管理システム

目次 1 総論 趣旨等 委員会の構成 委員会開催状況 4 2 圧縮水素スタンドに設置されるについて 検討対象となる 緊急時に内の圧縮水素を安全に放出する技術基準 6 3 民間団体等から提案された検討内容 7 4 緊急時に内の圧縮水素を安全に

( イ ) 水圧試験 適 用 主として液体系配管に適用し 所定の水圧により配管接合箇所の漏洩 破損 耐水圧などの確認を行 うものとする 試験圧力 MPa(kg/cm 2 ) 保持時間 (min) 各用途ポンプの吐出管高架タンク以下二次側管蒸気配管自然流下管ポンプ吸込管等試験方法 締め切り圧 ( ポン

目次 株式会社フジキン大阪工場 1ペ-ジヤマト産業株式会社 11ペ-ジ日陽エンジニアリング株式会社鹿島支店 14ペ-ジ

( 社 ) 日本冷凍空調設備工業連合会 ( 以下日設連と略 ) では, 不活性フルオロカーボンを冷媒とする業務用冷凍空調機器の使用時漏えいを削減するため, 以下の規程並びにガイドラインを制定した ( 制定日時 : 平成 22 年 10 月 1 日 ) (1) 業務用冷凍空調機器フルオロカーボン漏えい

事故事例データベース検索システム

日消装発第 号初版 : 平成 22 年 10 月 14 日改訂 1: 平成 24 年 9 月 12 日一般社団法人日本消火装置工業会 容器弁の安全性 に係る点検について Q&A Q1: 容器弁の安全性 の点検対象は? A1: 不活性ガス消火設備 ハロゲン化物消火設備 粉末消火設備 パッケ

日鋼プレシジォン

高圧ガス(第580号),P50-56

<4D F736F F F696E74202D2091EA924A8D6888EA88C995FB825288D98B63905C82B597A782C492C28F712E B8CDD8AB B83685D>

< F2D8EA98EE5935F8C9F92CA926D94AD8F6F97702E6A7464>

スライド 1

★02レジオネラ指針【新旧・案文】日付・番号入り

(様式**)

untitled

<4D F736F F D E817A899E977095D22D979A97F082C882B >

CV10 空気式制御弁 / 1.0 仕様データ バルブ部 型式接続本体材質 CV10 フランジ JIS10KFF フランジ JIS10KRF ねずみ鋳鉄 FC0 炭素鋼鋳鋼 ASTM A216 Gr.WCC ステンレス鋳鋼 ASTM A351 Gr.CF8M 最高使用圧力 PMO 1.0

fronto_ _

NEW LINE UP No, NPPDF 3-02 小型部品組立てなどに最適な エアピンセット VTA&VTB ペン型の本体に真空パッドと真空発生器を内蔵 チューブ (ø4 mm ) を接続 圧縮エア (0.5MPa) を供給 穴またはボタン操作で真空発生 小型ワークを吸着 特性は 2 タイプを用

Microsoft Word - MBV-LDカタログ

HPIS

内蔵 USB コネクタキットの取り付け はじめに 内蔵 USB コネクタキットには ワークステーションのシャーシに内蔵されているタイプ A USB デバイスに対応したタイプ A の USB コネクタ ( メス ) が含まれています このガイドでは 内蔵 USB コネクタキットを HP Z および x

第5章第二種製造届本文

1

1. 災害調査の概要 1.1 災害の種類塩酸供給バルブからの塩酸漏洩 略 1.4 災害概要清掃工場の汚水処理設備施設において, 純水設備へ塩酸を供給するため, 塩酸貯槽 (6 m 3 ) から 35% 濃度の塩酸をマグネットポンプにて圧送していたところ, 塩酸貯槽のレベル異常 ( 水

Microsoft Word - 点検チェックシ-ト(WEBアップ用).doc

<4D F736F F D C B835E815B81758EE58DF CC89F090E0208F4390B C52E646F63>

第 9 屋外貯蔵タンク冷却用散水設備の基準 ( 昭和 57 年 7 月 1 日消防危第 80 号 ) タンクの冷却用散水設備 ( 以下 散水設備 という ) は 次によること 1 散水設備の設置範囲は 危険物規則第 15 条第 1 号に定める技術上の基準に適合しないタンク ( 一部適合しないものにあ

PPシリーズ ポリアミド製空圧式アクチュエータ -ロータリータイプ -ポリアミド樹脂製 -軽量 高耐食性 - I SO DI N 3337 VDE NAMUR ジャンクション株式会社 102 0072 東京都千代田区飯田橋1 12 2 エスダブルビル2F TEL 03 52

める製品でトリブチルスズ化合物が使用されているものの環境汚染防止措置に関し公表する技術上の指針本指針は 第二種特定化学物質であるトリブチルスズ=メタクリラート ビス ( トリブチルスズ ) =フマラート トリブチルスズ=フルオリド ビス ( トリブチルスズ )=2,3 ジブロモスクシナート トリブチ

水素ステーションの設置・運用等に係る規制合理化のための研究開発

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

Microsoft PowerPoint - 熱力学Ⅱ2FreeEnergy2012HP.ppt [互換モード]

MAEZAWA 各種継手類 各種継手は 管と管 弁 栓及びメータとの接続などに使用する継手です 主にEJ 継手は 異種金属による電食が心配される場合に使用し 伸縮ユニオン メータソケットはメータのように定期的な交換が必要器具などとの接続に使用し ユニオンソケット シモクは接続部のねじ形状などの変更に

《公表資料》柏崎刈羽原子力発電所6,7号機における自主的な安全対策の取り組みについて

施工説明書 アラウーノ手洗いラウンドタイプ ( ショート ) 品番一覧 手動水栓 自動水栓 自動水栓 ( 寒冷地 ) GHA8FC2SAP GHA8FC2JAP GHA8FC2JAP7 7: 寒冷地仕様 施工説明書をよくお読みのうえ 正しく安全に施工してください 特に 安全上のご注意 (2 ページ

<4D F736F F F696E74202D20824F DA AE89E682CC89E696CA8DED8F9C816A2E >

スイベルジョイント (SJC 形 SJK 形 SJM 形 SJS 形 SJ 形 ) 特徴 作動油を使用し油圧を伝える土木建設機械 工作機械及び一般産業機器の配管に広く使われています 特に 油圧の圧力配管に使用され 低速回転や揺動 ( 往復回転運動 ) が出来る継手です 主に固定配管と高圧ホース連結に

SG1 シリーズ圧力調整弁 - 減圧弁 DSG012031XJP2 仕様本カタログに記載されていない材質や特注品については TESCOM 製品販売店までお問い合わせ下さい 操作パラメータ CGA E-4 ANSI/ASME B31.3 を基準とする 最大入口圧力 C v = 0.06: 31.0 M

OM

Transcription:

酸素などの断熱圧縮と摩擦熱による高圧ガス事故の注意事項について高圧ガス保安協会 1. 目的高圧ガス事故 ( 喪失 盗難を除く災害 ) の統計と解析の結果 高圧ガス事故の 90% が漏えい事象であり 8% が漏えいの先行なしの爆発 火災 破裂 破損事象 ( 以下 爆発 火災事象など という ) である 1) なかでも 酸素 支燃性ガスの場合に 主にバルブを急に開く操作 ( 以下 急開き操作 という ) に起因する断熱圧縮と摩擦熱により圧力調整器 バルブなどの爆発 火災事象などが発生している 酸素 支燃性ガスは 具体的に溶接 溶断用酸素 工業用酸素 医療用酸素 高圧空気 三フッ化窒素など ( 以下 酸素など という ) である なかでも 医療用酸素の事故は 家庭 病院などの身近な場所で発生している 高圧ガス保安協会 (KHK) 発行の保安管理技術テキストでは 断熱圧縮による事故防止のため バルブは徐々に操作することなどが示されている 一方 酸素などでは 断熱圧縮以外に摩擦熱による爆発 火災事象などが発生している しかし 摩擦熱による事故防止について具体的な注意事項などは示されていない このため KHKの事故調査解析委員会において 過去に発生した酸素などの断熱圧縮と摩擦熱による高圧ガス事故の内容を改めて精査し 事故の未然防止に向けた注意事項について検討することとした この資料は 酸素などの断熱圧縮と摩擦熱による事故について 高圧ガス事故データーベースを用いて抽出し 事故を解析して 事故防止のための注意事項を示すことを目的とする 2. 事故の抽出 (1) 事故の抽出方法高圧ガス事故データーベースを用いて 昭和 40 年から平成 25 年までの高圧ガス事故のうち 断熱 圧縮熱 摩擦 をキーワードとして検索し 高圧ガス容器 圧力調整器 バルブ 配管 安全弁などで発生した酸素などの爆発 火災事象などを対象とした この結果 断熱圧縮と摩擦熱をキーワードとする事故は 37 件を抽出した さらに 断熱圧縮と摩擦熱による事故として 温度上昇 をキーワードとして検索し 爆発 火災事象などの 38 件を抽出した なお 摩擦熱による事故としては 流体の流動摩擦に伴い発生する熱による事故と 固体同士の動摩擦によって発生する熱による事故がある ただし この資料では ポンプ 圧縮機などの動機器は対象外で 後者の摩擦熱による事故は除いた 断熱圧縮 摩擦熱および温度上昇の事故件数の推移を図 1 に示す 1

事故件数 年 図 1 断熱圧縮 摩擦熱および温度上昇の事故件数の推移 断熱圧縮と摩擦熱をキーワードとする事故 (37 件 ) と 温度上昇をキーワードとする事故 (38 件 ) に分類して 以下に示す (2) 断熱圧縮と摩擦熱をキーワードとして抽出した事故 1 事象ごとの事故件数を 表 1 に示す 37 件の事故のうち 8 件が爆発事象 22 件が火災事象 7 件が破裂 破損事象である ただし 漏えい事象はなかった 2 物質ごとの事故件数を 表 2 に示す 31 件が酸素 2 件がそれぞれ空気と三フッ化窒素 残り 2 件が水素またはフルオロカーボンに酸素が混入した事故である 3 設備区分ごとの事故件数を 表 3 に示す 圧力調整器 バルブ ホース 配管 ストレーナーなどで事故が発生している 4 圧力調整器とバルブの事故の合計は 18 件であり 事故全体 (37 件 ) に占める比率は 49% である また ホースの事故も 6 件と多い 5 上記の事故は 断熱圧縮と摩擦熱により酸素などの温度が上昇し 可燃物が発火温度以上となり 爆発 火災事象などが発生したと考えられる 表 1 事象ごとの事故件数 表 2 物質ごとの事故件数 ( 断熱圧縮と摩擦熱 ) ( 断熱圧縮と摩擦熱 ) 事象 事故件数 爆発 8 火災 22 破裂 破損など 7 合計 37 物質 事故件数 酸素 31 空気 2 三フッ化窒素 2 酸素 水素 1 酸素 フルオロカーボン 1 合計 37 2

表 3 設備区分ごとの事故件数 ( 断熱圧縮と摩擦熱 ) 設備区分 事故件数 バルブ 10 圧力調整器 8 ホース 6 配管 4 ストレーナー 2 容器 1 アキュムレーター 1 空調設備 1 圧力計 1 ストレーナー 加温器 1 集合装置連結管 1 安全弁 放出管 1 合計 37 表 4 事象ごとの事故件数 表 5 物質ごとの事故件数 ( 温度上昇 ) ( 温度上昇 ) 事象 事故件数 爆発 2 火災 28 破裂 破損など 8 合計 38 物質 事故件数 酸素 38 合計 38 表 6 設備区分ごとの事故件数 ( 温度上昇 ) 設備区分 事故件数 圧力調整器 19 バルブ 12 圧力計 2 流量設定器 1 容器 充てん枝管 1 充てん枝管 1 LPガス配管 1 安全弁 1 合計 38 (3) 温度上昇をキーワードとして抽出した事故 1 事象ごとの事故件数を 表 4 に示す 38 件の事故のうち 2 件が爆発事象 28 件が火災事象 8 件が破裂 破損事象である ただし 漏えい事象はなかった 2 物質ごとの事故件数を 表 5 に示す すべて酸素である 3 設備区分ごとの事故件数を 表 6 に示す 圧力調整器 バルブ 圧力 3

計 配管などで事故が発生している 20 件が圧力調整器 ( 流量設定器を含む ) の事故で 事故全体 (38 件 ) に占める比率は 53% である 4 圧力調整器 ( 流量設定器を含む ) とバルブの事故の合計は 32 件で 事故全体 (38 件 ) に占める比率は 84% である 5 上記の事故は 断熱圧縮と摩擦熱により酸素の温度が上昇し 可燃物が発火温度以上となり 爆発 火災事象などが発生したと考えられる 3. 事故の解析断熱圧縮 摩擦熱および温度上昇をキーワードとして抽出した事故は いずれも断熱圧縮と摩擦熱 ( 主に流動摩擦に伴う熱 ) により酸素などの温度が上昇し 可燃物が発火温度以上となり 爆発 火災事象などが発生したと考えられる ただし 温度上昇は断熱圧縮と摩擦熱の結果であるが 断熱圧縮と摩擦熱の寄与は明確に区別することはできなかった 一般的に 可燃物は 空気中に比較して高濃度の酸素中では 発火温度が低下する 事故の解析結果を 以下に示す (1) 物質 75 件の事故のうち 71 件が酸素である ただし 高圧空気と三フッ化窒素という特殊な物質が それぞれ 2 件ある (2) 設備区分 75 件の事故のうち 圧力調整器が 26 件 バルブが 22 件 ホースが 6 件 配管が 7 件で これらの合計 61 件が全 75 件の 81% を占める (3) バルブ操作 1 75 件の事故のうち 74 件がバルブ操作 圧力調整器のハンドル操作で事故が発生している バルブ操作は 圧力計 安全弁の元バルブの操作を含む 残り 1 件の取扱い状況は不明である 2 主にバルブの急開き操作の直後に事故が発生している ただし バルブの急開き操作から時間を置いて発生している事故もある 3 バルブを開操作した後 漏えいを確認したので バルブを閉止した際に 事故が発生している また 締結部の増し締め操作を行った際に 事故が発生している (4) 可燃物 1 油分 ごみ 金属粉などの可燃物の混入 付着が事故の要因となっている 75 件の事故のうち 60 件の事故で可燃物が特定されている 2 圧力調整器の場合は 内部のフィルター ストレーナーの油分 ごみ 金属粉 シールテープが可燃物となっている (5) 誤使用 1 水素 フルオロカーボン 窒素の設備に誤って酸素を使用して 4 件の事故が発生している 4

2 窒素容器群に酸素容器が混在し 気密試験で誤って酸素容器を使用して 1 件の事故が発生している 3 酸素用ではない圧力調整器 ホース 圧力計などを酸素容器に使用して 3 件の事故が発生している また 締結部のシール材に生ゴム ガムテープ ポリエチレン キャップ材など 酸素用として不適切なパッキンの代用品を使用して 8 件の事故が発生している (6) 断熱圧縮と摩擦熱高圧ガス事故データーベースに記載されている事故原因は 詳細な事故調査報告書の添付がなく 実験などで事故原因を特定している訳ではない したがって 断熱圧縮か摩擦熱かという真の事故原因は 不明な場合が多い 4. 事故のメカニズムの検討と課題 (1) 断熱圧縮 1 定義外部から熱の供給がない状態 ( 断熱状態 ) でガスを圧縮すると ( 断熱圧縮 ) ガスの温度は上昇する ガスを急激に圧縮すると ガスの温度は急上昇する この現象を 断熱圧縮という 2 事故のメカニズム断熱圧縮は 主にバルブの急開き操作に起因して 圧力調整器 バルブ 配管などの閉空間に酸素などの高圧ガスが急激に ( 瞬時に ) 流入し ガスの圧力と同時にガスの温度が急上昇する このとき 内部に油分 ごみ 金属粉 シール材などの可燃物があれば 容易に発火し 爆発 火災事象などが発生する (2) 摩擦熱 1 定義摩擦によって発生する熱を 摩擦熱という 摩擦熱には 1) 流体の流動摩擦 (flow-friction) に伴い発生する熱と 2) 固体同士の動摩擦による熱がある 1) は バルブ 調整器などの静機器で 高圧ガスの流動摩擦に伴い発生する熱である 2) は ポンプ 圧縮機などの動機器で 回転 往復動に伴う動摩擦によって発生する熱である ( この資料では 動機器の事故は対象外 ) 2 事故のメカニズムバルブの弁座と弁シート ( シートパッキン ) の間 調整器のフィルターなどの狭い空隙を酸素などの高圧ガスが流動すると 流動摩擦に伴い発生する熱によってガスの温度と空隙を形成する材料の温度が急上昇する このとき 内部に可燃物があれば 容易に発火し 爆発 火 5

災事象などが発生する ただし 流動に伴う熱の発生 発火に至るメカニズムは 解明されている訳ではない (3) 可燃物一般的に 可燃物は高濃度の酸素中で発火温度が低下するから ガスの温度の急上昇により容易に発火する 可燃物は 油分 ごみ 金属粉 シール材などである 油分は酸化し 経年的に可燃性が高くなる バルブの開閉部はねじ構造であり 開閉操作に伴うねじの摩耗により 金属粉 ( 摩耗粉 ) が必ず生成する 酸素中では 潤滑油が使用できないので 金属粉の生成が助長される 金属粉の表面は新生面で酸化性が強く 表面積 / 体積の比が大きいので可燃性が高い (4) 事故のメカニズム 1 75 件の事故は 事故原因として断熱圧縮と摩擦熱を明確に区別することはできず 断熱圧縮と摩擦熱の複合効果と考えられる いずれにしても 可燃物が爆発 火災事象などの必要条件となる 2 断熱圧縮 摩擦熱に加えて 金属粉に注目する必要がある ガス中に金属粉を含む場合 金属粉の流動と接触に伴い発生する熱によって金属粉が発火する 特に 酸素中の場合は 金属粉の蓄熱 赤熱という事象がある 3 高圧ガス容器 圧力調整器 バルブ ホース 配管などを構成する金属材料 ( 銅合金 ステンレス鋼など ) は 火災によって溶融する 内部で爆発 火災事象などが発生した場合 金属材料の溶融によって外部への噴出口が拡大し 人的被害を伴う大規模火災事象となることがある 4 液滴 金属粉 ごみなどを含むガスは 流動摩擦に伴い発生する静電気の放電が可燃物の発火の原因とされることがある このため 断熱圧縮と摩擦熱に静電気を加えた複合効果を考える必要があり 今後の課題である (5) 従来の研究結果酸素の断熱圧縮の実験結果は ガス事業者により公開されている 一方 酸素の摩擦熱は再現実験が難しく 実施されていない ただし 数値解析により 断熱圧縮による熱で高温となったガスが シートパッキンなどの狭い空隙を通過する際に 流動摩擦による熱が付加されてさらに温度が高くなり シートパッキンなどの発火温度までに達するという結果が 事業者により公開されている 5. 事故防止の注意事項 (1) バルブ操作 1 高圧ガス保安法では バルブは静かに開閉することが定められている 6

( 一般高圧ガス保安規則第 6 条第 2 項第 1 号へ 第 18 条第 1 号ト 第 60 条第 1 項第 1 号 第 62 条第 7 号 他省略 ) 2 KHK 高圧ガス保安管理技術テキストでは バルブは徐々に操作することが明記されている ( バルブ操作 ) また バルブ取扱指針では バルブの開閉はゆっくりと行い 振動 異常音 漏れなどのないことを確認しながら行うと記載されている ( 手動バルブの操作 ) 3 ソフト対策として 酸素などを取扱う者は 断熱圧縮と摩擦熱による爆発 火災事象などの危険性を念頭に置いて 充てん容器などのバルブは徐々に ( 静かに ゆっくり 段階的に ) 操作することを徹底する 4 ハード対策として 酸素の充てん設備などの比較的大口径のバルブは 与圧ラインを設けて 圧力差を少なくしてから 主バルブを操作している (2) 維持管理 1 バルブの取扱いとともに 容器 バルブ 調整器などの維持管理が重要である 可燃物 ( 油分 ごみ 金属粉 シール材など ) が事故の必要条件であることから 油分 ごみなどの混入防止と点検 清掃を心がける 酸素中での油分の使用は 厳禁である さらに 酸素などに適合するパッキンの使用を厳守するとともに 古いパッキン 損傷パッキンの交換を図る 2 バルブの開閉部の摩耗防止を図り 金属粉 ( 摩耗粉 ) の生成を軽減する (3) 締結管理バルブと調整器の締結部からガスが漏えいして その対応中に事故が発生している 漏えいしている状況では 直ちにバルブを閉止して 漏えいを止めることが最優先である 漏えい部位は ガス通過による流動摩擦で温度が高くなっている可能性があり 締結部の増し締め 締め直しなどの対応は ガスを止めてから実施する この場合 落ち着いて バルブの開閉方向を間違えることなく 確実に閉止する (4) その他 1 水素 フルオロカーボン 窒素の設備に誤って酸素を使用して 事故が発生している 酸素と可燃性ガス 酸素と油分が混合することがないように ガス種を十分確認するとともに 気密試験は不活性ガスで行い 酸素は使用しない 2 高圧空気は酸素分圧が高く 断熱圧縮と摩擦熱の事故が発生している 高圧空気は酸素などと同様と見なす必要がある 7

写真圧力調整器の事故例 ( 事業所提供 ) 圧力調整器の維持管理 適合パッキンの使用 損傷パッキンの交換 油分 ごみ 金属粉 シール材などの除去 フィルターは 油分 ごみ 金属粉 シールテープに注意 図圧力調整器の維持管理 ( 図は KHK 作成 ) 文献 1) 小林英男編著 高圧ガス事故の統計と解析 高圧ガス保安協会 (2014 年 2 月 ) 8

9

10