< 目次 > ( 頁 ) 1. 低段 多段組合せ栽培とは 1 2. 導入の考え方 2 3. 栽培システムの設計 (1) 導入システムの基本条件 2 (2) 栽培装置 4 (3) 育苗施設 4 4. 作付組合せ体系の設計 (1) 考え方 5 (2) 設計方法 5 (3) 作付組合せモデル ( 例 )

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低段 多段組合せ栽培による トマトの周年多収生産技術マニュアル 平成 22 年 3 月 SHP 関東地域農業研究 普及協議会 研究実施機関 : 神奈川県農業技術センター千葉大学大学院園芸学研究科実用化支援機関 : 社団法人日本施設園芸協会独立行政法人農研機構野菜茶業研究所神奈川県農業技術センター横浜川崎地区事務所 MKVプラテック株式会社協力農家 : 杉山隆行氏

< 目次 > ( 頁 ) 1. 低段 多段組合せ栽培とは 1 2. 導入の考え方 2 3. 栽培システムの設計 (1) 導入システムの基本条件 2 (2) 栽培装置 4 (3) 育苗施設 4 4. 作付組合せ体系の設計 (1) 考え方 5 (2) 設計方法 5 (3) 作付組合せモデル ( 例 ) 7 5. 栽培方法 (1) 使用品種 8 (2) 二次育苗 8 (3) 本圃での栽培管理 8 (4) 培養液管理 10 (5) 病害虫防除 11 (6)CO2 施肥 12 6. 経済性 (1) 初期投資額 12 (2) 経営収支 13 (3) 作業時間 13 7. まとめ 14

収1. 低段 多段組合せ栽培とは施設園芸先進国のオランダでは, 夏期の冷涼な気候を生かしたトマトの長期多段どり養液栽培 (= 多段栽培 ) により,10a 当たり 70t を越える年間収量が得られています. しかし, 夏期に高温多湿となる日本にこの多段栽培を導入しても, 冬春期には多収となるものの夏期収量がほとんど見込めないことから, 10a あたりの年間収量は 25t 程度で頭打ちになっています. このような状況の中で, 近年, 夏期に高温多湿となる我が国の気候に適した独自の養液トマト栽培システムとして低段密植栽培が開発され,10a あたりの年間収量で 40t を越える事例も報告されているなど, トマトの超多収栽培の実現に向けた新しい栽培システムとして期待されています. しかし. この低段密植栽培は実用規模の施設での作業管理体系等が未解決であることと, 生育速度が低下する冬春期には非収穫期間が相対的に長くなり十分な収量が確保できないという問題点があります. そこで, この低段密植栽培と多段栽培をうまく組み合わせれば, 周年安定多収が達成できるものと予想されました ( 図 -1). そこで, 平成 20 年 9 月に社団法人日本施設園芸協会を事務局に, 同協会, 独立行政法人農業 生物系特定産業技術研究機構野菜茶業研究所,MKV ドリーム株式会社及び神奈川県農業技術センター横浜川崎地区事務所を支援機関とし, 神奈川県農業技術センター野菜作物研究部及び千葉大学園芸学部を研究実施機関とし, かつ横浜市の施設トマト生産者の杉山隆行氏の協力を得て SHP 関東地域農業研究 普及協議会 を立ち上げ, この 低段 多段組合せ栽培 をトマトの日本型周年安定多収生産技術として確立するための実証試験に取り組み (kg/10a) 5,000 4,000 量3,000 2,000 1,000 0 量図 -1. 低段密植栽培と多段栽培を組み合わせた場合の年間収量の理論モデル収[ 低段密植栽培 ] 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 5,000 4,000 量3,000 2,000 1,000 0 (kg/10a) [ 低段 多段組合せ栽培 ] 量0 [ 多段栽培 ] (kg/10a) 5,000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 4,000 月収3,000 2,000 1,000 0 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12-1-

ました. その結果, トマトの周年安定多収栽培体系として確立することができましたので, ここで一連の技術を体系化して, 栽培技術マニュアルとして取りまとめました. 2. 導入の考え方低段 多段組合せ栽培を導入するにあたっては, 現在, すでに稼働している既設の養液栽培システムであっても, それをそのまま利用できるような栽培体系にしました. もちろん, 新たな栽培システムとして導入してもかまいません. しかし, いずれの場合にも, 夏秋期にも安定した収量が得られる低段密植栽培と冬春期に多収となる多段栽培を季節ごとにどのように組み合わせたら, 年間安定して, 最も多くの収量が得られるのか, すなわち最適作付組合せパターンを設計することが技術の鍵を握ります. この作付組合せパターンは, 地域ごとに, また, 生産者の施設設備 経営状況ごとにそれぞれ異なります. 地域的な差については, 季節ごとの気温の変化をきちっと把握することが重要となります. 経営的な面では既設施設の有無, 既設の施設があるならその規模と設備状況に合わせて設計することがポイントになります. そこで, ここでは 既設の養液栽培システム 装置の利用 を前提条件として, 低段密植栽培と多段栽培の組み合わせ方法を最適化するための作付組合せ栽培体系の設計 構築方法とそれを実践するための各種装備, 培養液管理手法, 使用品種, 両栽培の切り換え作業の円滑化, 誘引 収穫作業等の個別技術の低段 多段組合せ栽培用への再編成等について取りまとめました. 3. 栽培システムの設計 (1) 導入システムの基本条件システム構築の基本条件を表 -1 にとりまとめました. なお, 周年, 連続してトマトを収穫するためには, 最低でも独立した3ブロックあるいは3 棟の施設が必要となります. 既設の栽培システム 装置を最大限に利用するため,1 栽培ベッドは既設栽培システム 装置の利用を前提に栽培方式にかかわらず固定とし,2 同一栽培ベッドに作型ごとに低段密植栽培では 10cm 株間の密植で, 多段栽培では 30cm 株間で定植します. そして,3これら二つの栽培方式が切り替わるときでも作付けが途切れないよう, 場合によっては前作の株を残したままで新苗を定植するインタープランティングも行います ( 図 -2). また,4 培養液管理は, 独立したブロック, 作付体系, インタープランティングの有無等にかかわりなく, 既設システムをそのまま利用または不足部分を増設して, 循環式量的管理システムとします. 新規に導入する際も, 一般的な培養液管理装置をそのまま活用することができます. -2-

項目 発芽 ~ 一次育苗 二次育苗 授 移植培地 育苗期間 管理システム 濃度管理 処 方 低段密植 ロックウール細粒綿 90mm 径不織布ポット 多段 ロックウールキューブ 75mm 角 第 1 花開花まで (400 d) z) なし / 第 1 花開花まで (400 d) z) 14 日 ( 夏期 )~20 日 ( 秋期 ) 20 日 ( 秋期 )~27 日 ( 冬春期 ) 初期濃度 3~8 月 :0.9dS/m 9~12 月 :1.1dS/m 給液管理 育苗管理 温度管理 ベッド高 ベッド幅 条 株 誘引方法 処 給液回数 給液量 間 摘心位置 方 初期濃度 給液方法 管理方法 ( マニュアル ) 温度管理 使用ポット 所要日数 栽培システム 整 給液回数 培養液調整 管理方法 ( 機器制御 ) 給液量 培養液調整 粉 間 栽植位置 枝 y) 培養液管理 給液量 病害虫防除 病害 害虫 表 -1. 低段 多段組合せ栽培における各栽培方式別の主要な育苗 栽培管理条件 10cm 30cm 1 条植え 左右振り分け 1 条植え 片側誘引 第 3~4 段花房上 2 葉 閉鎖型育苗施設苗 (23 日苗 ) を購入 循環型養液栽培 (Ebb&Flow) 高設プールベンチ ( 高さ 75cm) 量的管理 :1 日 1 回,N 成分量 50~100mg/ 株 ( マニュアルでも可 ) 大塚 A 処方を希釈し使用 タイマ式循環型 1 日 3 回 ( 冬期 )~6 回 ( 夏期 ) 深さ 2cm までプール給液後, 自然流下 葉が重なり合わない程度に株間を調整 夜温 13 ( 低温期 ), 換気温度 28 ロックウール培地, 循環型 既設 ( そのまま利用 )/ 新設 :45cm 既設 ( そのまま利用 )/ 新設 : 外寸 45cm, 内寸 30cm, 深さ 10cm 既設 ( そのまま利用 )/ 新設 :153cm 1 側面に寄せ植え 主枝 1 本 第 8~13 段花房上 2 葉 ( 生育の遅速により変更 ) ( 作型によって変更 ) 栽培ブロックにかかわらず一括の量的管理 大塚 A 処方を希釈し使用 1~2 月 :1.2dS/m,3~6 月 :0.9dS/m,7~9 月 :1.1dS/m,10~12 月 :1.4dS/m 土耕用灌水チューブをポット上に載せ給液 タイマ式, 循環型 1 日 10 回 ( 冬期 )~30 回 ( 夏期 ) 40ml/ 株 / 分,1 分 ( 冬期 )~3 分 ( 夏期 )/ 回 1 日 1 回, 第 3 花房開花株に対して N 成分量 250mg/ 株を基準に施用 日射比例式自動制御, 循環型 日射 1MJ/m 2 あたり 48ml/ 株 日射 1MJ/m 2 あたり, 第 3 花房開花株に対し N 成分量 25mg/ 株を基準に施用 マルハナバチ ホルモン処理併用 変温管理 ( 夜間最低温度 12, 換気温度 28 ) 各都道府県の病害虫雑草防除指導指針に準拠 根圏病害も含めて早期発見 早期除去 開口部に 0.4mm 目合の防虫ネットを設置 z) 積算温度, y) インタープランティング時には, 先行する既存作付株用の培養液管理をそのまま適用する. -3-

A B C 図 -2 インタープランティング.A: 多段 低段切り換え時の定植作業状況, B: 低段栽培株間引き後多段栽培用苗インタープランティング 2 週間後の株元. C:B と同じ作で全面植え換え区の生育状況. (2) 栽培装置既設の養液栽培施設を利用する場合には, 栽培装置, 培養液循環系等を確実に消毒した後, そのまま利用します ( 病害虫防除の項を参照 ). 支持培地は, 年間の作付回数が4~5 回と多いこと, インタープランティングを行うことなどからロックウールを利用するが最適です. 有機性培地を使用する場合には, できれば新しい培地に交換してから開始します. 栽培装置を新たに導入する際には, ベッドは幅 45cm, 高さ 45cm, 隣接するベッド間隔は 153cm で設置します ( 図 -3). (3) 育苗施設低段密植作では, 本圃での生育期間をできるだけ短くするために, 閉鎖型育苗施設で 23 日間育成した苗を, 第 1 花開花まで 14~27 日間二次育苗します. 閉鎖型育苗施設そのも のは高価なので, これ 153cm 45cm を新規導入すべきかど図 -3 新規導入する場合の栽培ベッドの配置事例. 写真は多段栽培での生育状況. -4-

うかは施設利用率に大きく依存します. そのため, このマニュアルでは閉鎖型育苗施設で一次育苗された苗を購入することを前提としました. 二次育苗施設は, 栽培面積の 10~15% 程度の規模で準備します. 給液方式はエブ & フロー方式を基本に, 育苗施設の状況に合わせてアレンジします ( 図 -4). 培養液管理装置は本圃と同じものを専用に用意し, 一般的な処方によっ 図 -4 二次育苗システムの設置事例 て EC 0.9( 夏期 )~1.1( 冬期 )ds/m を初期濃度とした量的管理を行いま す ( 表 -1). なお, 既設の育苗システムがあれば, それを二次育苗に使うこ とができます. 4. 作付組合せ体系の設計 (1) 考え方 各作での作付期間は, 主にトマトの生育スピードによって決まります. ト マトの生育スピードは, 日射, 土壌水分, 施肥量などいろいろな環境要因の 影響を受けますが, 実用上は温度によってその早い, 遅いが決まります. そ こで, この低段 多段組合せ栽培の作付組合せ計画の設計には, 積算温度ベ ースのヒートユニットシステム, すなわちトマトの主要な生育段階までに要 する積算温度を, 季節 時期別に計算し, それらを組み合わせて利用します. (2) 設計方法 トマトの主要な生育段階までに要する積算温度を図 -5 に示しました. トマ トの苗は閉鎖型育苗施設 ( 苗テラス ) で育苗することを前提にしていますか ら, 播種後 600 日で閉鎖型育苗施設を出庫します. その後,1000 日で 第 1 段果房が開花するので, この時点で定植することになります. 第 2 段花 房は, その後 210 日で開花し, 同様にして第 3 段, 第 4 段と順次開花して いきます. 一方, 結実した果実は, 開花後 1100 日で登熟 着色し, 収穫に至りま す. 各花房 4 果着果するとすると, 同一花房内で第 1 果が登熟 着色してか ら, 最後の果実が登熟 着色し収穫できるようになるまでに 420 日かかる ことになります. -5-

210 1100 23~24 日 600 20 =30 日 25 =2424 日 定植 二次育苗苗テラスでは 420 400 20 =2121 日 25 =16 日 210 210 1100 20 =55 日 25 =44 日 1100 420 1420 20 =76 日, 25 =61 日 1920 20 =96 日, 25 =77 日 2130 20 =107 日, 25 =85 日 2340 20 =117 日, 25 =93 日, 1 段 420 2 段 420 20 =2121 日 25 =17 日 図 -5 トマトの各生育段階までに要する積算温度 ( d( 日 )) 3 段 たとえば3 段密植栽培を例にすると, 図 -5 からもわかるように, 二次育苗した第 1 花開花苗の定植後 1940 日, 夏期に作付したとして日平均気温 25 であれば約 78 日で 1 作が終了します. 多段栽培では, 収穫段数に応じて開花から収穫までの積算温度を足し算していき, いつ収穫が終了するかおおよそ推定します. なお, これは極早生の ハウス桃太郎 を標準にした数値として見て下さい. 最近, トマト黄化葉巻病に抵抗性を持った品種が育成されていますが, いずれも晩生です. これらの晩生品種を用いる場合には, 図 -5 の数値に 200 日程度加算して計算するとだいたい一致します. トマトの主要な生育段階までに要する積算温度がわかれば, あとは季節 時期別の施設内の平均気温を推定します. 数年間の実測値があればそれを利用して半旬別の平均値を算出します. この各半旬別の日別平均気温で, トマトの各生育段階までに要する積算温度を割り返せば, 収穫段数にかかわらず生育所要日数を推定することができます. ただし, 季節, 地域あるいは施設の種類 ( ガラス温室かプラスチックフィルムか等 ) によって日平均気温は異なりますから, 推定した生育所要日数と実際の所要日数との間には 7~8 日 ( 積算温度で 150 日 ) 程度の誤差が生じます. したがって, まずは余裕の -6-

ある, 実現可能な作付組合せパターンを設計することから始めます. その後, 実際に栽培してみて, 使用する品種特性なども考慮しながら順次修正し, 作付組合せパターンの完成度を高めて行きます. 盆や正月など年間のイベントや生活パターン, 雇用状況なども考慮して, 無理のない作付組合せパターンを設計することが大切です. (3) 作付組合せモデル ( 例 ) 実際に上記の条件で 10a 当たりの年間収量 50t を目標にした作付組合せモデル栽培体系の設計事例を紹介します. まず, 設計条件として,1 周年連続収穫できるよう複数の栽培ブロックを組み合わせた栽培体系とすること,2 収穫開始が 11 月以降または収穫終了が 6 月以前となる作型は 8 段以上の多段栽培, それ以外の期間は 1~3 段の低段密植栽培とすること,3トマトの市場単価が最も高くなる 10 月にできるだけ多収となること, の 3つの条件を設定しました. この条件で実践可能な組合せ栽培体系について様々な組合せで設計してみると, 異なる作付パターンの栽培ブロックが最低 3 区必要で, かつその組合せパターンは多くても 4 種類程度に限定されることが分かります. つまり, 低段 多段組合せ栽培で 10a あたり年間収量 50t を目指そうとすると, 一年のうちでいつからで 1 月 2 月 A 第 1 区 第 2 区 第 3 区 3 段打ち切り 8 段取り 1 月 2 月 B 第 1 区第 2 区第 3 区 A (kg/ m2 / 日 ) 0.4 0.3 1 月上旬定植スタートモデル日収量 3 月 4 月 8 段取り 休栽 3 月 4 月 13 段どり 12 段どり 13 段どり 日収量 0.2 0.1 50t ライン 8 段取り 5 月 5 月 0.0 8/1 10/1 12/1 2/1 4/1 6/1 月 / 日 6 月 7 月 6 月 7 月 予測年間累積収量 40t/10a 月当たり収量変動は 3t/10a 8 月 9 月 休栽 8 月 9 月 3 段どり 3 段どり B 0.4 0.3 秋期収量確保ブロック完結型モデル日収量 10 月 10 月 3 段どり 日収量 0.2 50t ライン 11 月 11 月 0.1 12 月 8 段取り 第 2 区へ続く 第 1 区へ続く 最上段に戻る 12 月 12 段取り同じ最上段へ戻る 0.0 8/1 10/1 12/1 2/1 4/1 6/1 月 / 日 図 -6 低段 多段組合せ栽培の作付組合せモデル体系事例 -7-

も栽培を開始できるわけではないのです. 実際にこの条件で設計した理想的な二つの作付組合せモデルの例を図 -6 に示しました. いずれの作付組合せモデル栽培体系についても, それを実践することができれば, 最低でも年間収量 40t/10a, 最大最小収穫月の収量差 3t/10a が達成できるものと予測されました. 表 -2 に実際に図 -6B の作付組合せで実証栽培したときの結果を示しました. 実際に栽培してみると, 夏作以降, 晩生のトマト黄化葉巻病抵抗性品種を採用したことによって生育期間が予想より 20 日程度長くなってしまうなど, 当初の作付組合せ計画どおりには行かなかった作もありましたが, 全体としては2~7 日のずれでほぼ計画通り作付することができました. 5. 栽培方法ここからは, 具体的な栽培方法について, 項目別に説明していきます. (1) 使用品種品種は作付時期によって使い分けます. 夏秋期は早生で, 品質 収量性ともに高い スーパー優美 を使います. 冬 ~ 春作では, 根腐萎凋病の心配がなければ 麗容 を, 発生が心配される場合には根腐萎凋病抵抗性の 桃太郎ヨーク を利用します. 夏 ~ 秋期作型で黄化葉巻病の発生が予想される場合には, 予防的対策として アニモ TY10 などの黄化葉巻病抵抗性品種を採用すると安心です. そのほか, 最近, 葉かび病抵抗性遺伝子 Cf 9 を併せ持つ極早生品種も育成されているので, 状況を見ながら適品種を採用します. (2) 二次育苗平均気温が 20 を上回る時期には, どうしても苗が徒長しやすくなります. トマトの伸長速度は温度に依存しますから, 給液を制限したり, 培養液濃度を上げたりしても苗の伸びを抑えることはできません. 苗が伸びすぎる高温期には二次育苗期間を 10 日程度とし, 早めにインタープランティングしてしまう方が省力的で, かつ有効です. また, 定植後のスムーズな活着と充実した花芽形成のためには, 作業性より苗の質, すなわち苗が老化しないような育苗管理を心がけます. (3) 本圃での栽培管理実際に低段 多段組合せ栽培に取り組むために必要な本圃での栽培管理のポイントについて,1 月上旬定植の多段栽培から開始する 3ブロック方式 ( 図 -6B) を採用した場合を例に説明します. 栽培には最低でも3つのブロックを準備し, 第 1ブロックを1 月上旬定植の多段作型でスタートさせます. 次作が低段密植栽培となるので, 次作はインタープランティングすることを前提に東寄せで定植します. 第 2, 第 3ブ -8-

区 第 1 ブロック 第 2 ブロック 第 3 ブロック 表 -2. 低段 多段組合せ栽培最適作付組合せモデル体系に基づいた計画と実績 作付順位 1 2 3 4 1 2 3 1 2 3 総計 z) 品種 播種日 ロックについても, 第 1 ブロック第 1 作と同時に多段栽培様式で定植してお けば, 栽培スタート時の施設利用の時間的ロスは軽減できます. なお, 以後, 苗は少なくとも 2 ヶ月前には発注し, 遅くとも 1 ヶ月前までに二次育苗を開 始できるようにしておきます. その後, 第 2 及び第 3 ブロックには, 5 月上旬及び同 4 月上旬にそれぞ れ二次育苗した苗を低段密植作型として定植します. 第 1 ブロック第 1 作と 同時に多段作型でスタートさせた場合, 第 2 ブロックについては既生育株を 一括除去してから定植しますが, 第 3 ブロックでは既生育株を残したまま, ロックウールベッド西側の空きスペースに苗をインタープランティングしま す ( 図 -2A). それ以降は作付組合せモデルに基づいて, 順次定植 栽培管理 収穫作業を進めます. 二次育苗開始日 定植日 開始日 収穫期間 終了日 収穫段数 y) 総収量 (t/10a) 計画 麗容 11/18 12/14 1/10 3/13 6/12 8 12.0 実績 麗容 11/20 12/15 1/13 3/25 6/12 8 17.0 81.4 計画 桃ヨーク 5/1 5/27 6/13 7/23 8/22 3 13.5 実績 桃ヨーク 5/1 5/27 6/15 7/24 8/26 3 10.4 66.8 計画 ス優美 7/13 8/8 8/23 10/2 11/17 3 13.5 実績 ス優美 7/13 8/7 8/27 10/13 1/26 4 13.3 66.9 計画 ス優美 9/28 10/24 11/18 1/2 6/13 13 19.5 実績 大安吉日 9/26 10/26 12/7 計画 桃ヨーク 3/29 4/23 5/12 6/24 7/26 3 13.5 実績 桃ヨーク 3/28 4/21 5/14 6/26 8/3 3 9.1 77.2 計画 ス優美 6/17 7/12 7/27 9/2 10/18 4 18.0 実績 ス優美 6/20 7/13 8/5 9/11 11/20 4 15.0 55.0 計画 ス優美 9/3 9/29 10/19 12/20 5/12 11 16.5 実績 大安吉日 9/7 10/3 11/5 1/22 計画 麗容 2/15 3/12 4/2 5/21 7/3 4 18.0 実績 麗容 2/15 3/12 4/7 6/1 7/13 4 11.2 63.2 計画 桃ヨーク 5/24 6/18 7/4 8/11 9/11 3 13.5 実績 桃ヨーク 5/24 6/18 7/13 8/12 10/2 3 10.1 32.0 計画 ス優美 8/12 9/7 9/23 11/15 3/16 8 12.0 実績 アニモ 10 8/13 9/7 10/5 12/4 モデル体系の年間収量 (t/10a) x) 50.0 可販果 (%) 計画 34.0 収穫終了した作付の収量 (t/10a) w) 実績 28.7 64.2 ( 計画対比 ) 84.3% z) 桃ヨークは桃太郎ヨーク ス優美はスーパー優美 アニモ 10 はアニモ TY10, y) 各作付の 10a あたり総収量 x) 各ブロック各作付の収量と作付面積から 組合せモデル体系 10a あたりの収量を算出 w) 組合せモデル体系の年間収量計画値のうち収量実績の得られた作付分の計. 赤字はインタープランティングで 重複期間には新旧株が共存 -9-

インタープランティングを行う第 3ブロック第 1 作では, 定植当初は光条件が悪くなりやすいので, 新植株の整枝管理を徹底するとともに, 既生育株の下葉の摘葉や, 収穫終了株の早期除去により, 新植株の徒長を抑えます. 第 1 段花房がきちっと着果すれば, 既存株が除去されると同時に生育はすみやかに回復します. その後の作で, 前作の収穫終了が計画より遅れた場合などにもインタープランティングを採用すれば, 低段 多段栽培の切り換えに伴うタイムラグを軽減することができます. なお, 低段密植時やインタープランティング時には通風が悪くなるので, 攪拌扇を 100 m2に 1 基程度設置すると効果的です. 定植後に収穫終了時期が計画より早まることが予想された場合には, 摘心位置を計画より1 段上にし, 早めに摘心します. その後, 生育状況に応じ, 収穫段数を計画どおりとするか, 計画より1 段増やすかを最終判断します. このように収穫段位を調整 工夫することによって, 比較的簡単に各栽培ブロックでの収穫期間を連続させることができます. 授粉 着果にはマルハナバチの利用を基本としますが, 夏期の高温時には花粉の生成が悪くなるため, 着果ホルモン剤を使用します. 着果ホルモン剤は, なるべく気温の低い時間帯に, より低濃度で処理すると空洞果の発生が軽減されます. 施設内にマルハナバチ逃亡防止用ネットを設置していない場合には, 必ず着果ホルモン剤を使用します. 着果数の目標は, 品種, 作型, 収穫段位等によって異なりますが, 収量目標を 10a あたり年間 50t とすると,1 果 200g なら花房あたり 4 果着果,160g なら 5 果,140g 程度なら 5~6 果となります. 温度管理は変温管理とします. 冬期の夜間最低温度はマルハナバチの活動を考慮して 12, 換気温度は 28 とします. 茎葉が繁茂し, 栄養生長に偏るようであれば, 生育は少し遅くなりますが, 換気温度を 23~25 程度まで下げて昼夜温差を少なくすれば空洞果の発生を抑えることができます. (4) 培養液管理培養液管理方法については, 表 -1 に取りまとめました. 組成は大塚 A 処方とし,EC 0.9( 夏期 )~1.4( 冬期 )ds/m を栽培開始時の初期濃度とします. 株への給液方法は, 点滴チューブなど既設の設備があればそのまま利用します. 新設または増設する場合は, 散水チューブを応用すれば目詰まり対策を軽減することができます. 培養液の管理は制御機器類がない場合には, タイマを利用した循環給液とすればマニュアルでも対応できます. 給液量は 40ml/ 株 / 分, 給液時間は冬期 1 回 1 分, 夏期 3 分, 給液回数は冬期 1 日 10 回, 夏期 30 回程度を標準 -10-

にし, 季節と天候に合わせて適宜調整します. 培養液成分の調整は, 第 3 段花房開花時の株に対し,1 日あたり NO 3 -N で 250mg/ 株を基準にした量的管理とします. 既設の培養液管理システムを利用する場合は, これらの値をもとに構成や設定を調整します 培養液管理システムを新たに導入する場合には, 日射比例制御方式を採用すれば, 液肥投入と給液を省力的に量的管理で最適化することができます. この場合,3 段花房開花時の株に対し, 日射 1MJ/ m2あたり NO 3 -N で 25mg/ 株, 給液量は 48ml/ 株を基準とし, 気温や株の大きさにより加減します. 培地温度は, 冬期は最低 12, 夏期は最高 30 の範囲で管理します. 長期間 12 を下回ると根の機能は著しく低下し, 枯死に至ります. 培地や培養液の加温設備がない場合には, 温風ダクト内に培養液を循環させるホース経路を設けるだけでも,2 程度の加温が可能です. 一方,30 を越えると病原菌等が増殖するリスクが増すだけでなく, 溶存酸素が減少して根が腐敗しやすくなります. この場合には, 冷却したい部分にホースを通して水を流すだけでも 2 程度は温度を下げることができます. いずれの場合にも, 栽培槽やベッド上面をきちっと断熱したうえで対処します. 収量を確保するためには, 培養液濃度は低め, 給液量は多めとしますが, 気温あるいは蒸散量を基準にした培養液設定だと, 盛夏期以降, 過剰な給液設定となってしまいます. それを避けて培養液管理を最適化するには, 日射比例制御方式の培養液管理を適用するのが最も省力的, かつ効果的です. (5) 病害虫防除培地, 栽培槽, 培養液循環系統の消毒には次亜塩素酸ソーダを用いるのが一般的ですが, 熱水処理装置が使えれば,70 の熱水を栽培槽容量の2 倍量で培地 栽培槽 培養液循環系統の全体を 24 時間処理することにより, 効果的な消毒ができます ( 図 -7). 栽培期間中に根腐萎凋病が発病した場合には, 発病株をロックウールごと系外に持ち出して処分し, 蔓延を防止します. 残念ながら使用中の培養液と栽培システム全体を妥当なコストで効果的に殺菌する方法は確立していません. したがって, 休栽期間に培養液の循環経路全体を確実に殺菌し, その後の汚染を防止することが最も重要となります. 7~9 月の盛夏期は, 黄化葉巻病の発生リスクの高い時期です. 黄化葉巻病はトマト黄化葉巻ウイルス (TYLCV) によって引き起こされるウイルス病で, タバココナジラミが媒介します. タバココナジラミは薬剤耐性を持ちやすいため, 物理的防除手法として 0.4mm 目合いの防虫ネットを施設の開口部に設置するのが有効です. 育苗期の的確な薬剤防除と施設内への侵入防止及び -11-

A B 温度 ( ) 70 60 50 40 30 C 上部下部対照 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 ( 午後 2 時 ) ( 午前 0 時 ) 処理後時間 (h) ( 午前 7 時 ) 図 -7 養液栽培システムの湛液槽への処理方法 (A,B) 及び 70 の熱水を処理したときの湛液槽の部位別温度変化 (C). 上部はロックウールの上, 下部は湛液部の値. 熱水はベッド中央部から注入. 湛液槽は 200L, 熱水処理量は 400L.2007 年 2 月 1 日処理. 増殖抑制を徹底すれば, 被害株の発生は数 % 以下ですみ, 収量低下は回避できます. 各作型を通じて, 常に葉かび病, 灰色かび病, うどんこ病, コナジラミ類及びハモグリバエ類の発生が予想されます. これらについては, 日常の栽培管理の中で予防的な適期防除を基本にした早期防除を心がけます. (6)CO 2 施肥 CO 2 施肥の効果を安定して得るためには, 換気温度設定と関連づけた複合制御による CO 2 濃度管理を行う必要があります.CO 2 施肥は, 光合成が行われる日中に実施するのが最も効果的なのですが, 温度管理を優先させざるを得ないため, まだ有効な CO 2 施肥技術は確立されていません. そのため, このマニュアルでは CO 2 施肥は採用しませんでした. 6. 経済性 (1) 初期投資額表 -3 は, 低段 多段組合せシステムを新設する場合と慣行のロックウールかけ流し養液栽培 ( 以下, 慣行栽培システムという.) を実施している施設に導入したときの,10a あたり初期投資額の試算結果です. 栽培システムを更新または新設する場合は 480 万円必要ですが, 既設の慣行栽培システムを利用する場合には, 新たに必要なのは循環式給液設備のみなので 69 万円で導入できます. 一方, 低段 多段組合せ栽培では, 低段密植栽培時に, どうしても二次育 -12-

苗施設が必要となります. 既設の慣行栽培システム では, 本圃の空いている ベッド部分を育苗用に利 用していることが多く, 育苗施設が整備されてい ないのがほとんだと思い ます. したがって, 試算 では, 育苗用施設の整備 費として 73 万円計上し ています. その結果, 合 計では, 栽培システムを 新設する場合には 10a あ たり 553 万円必要です が, 既設の慣行栽培シス テムを利用する場合には 同 142 万円の初期投資 で低段 多段組合せ栽培 システムを導入すること ができます. (2) 経営収支 導入後の 10a あたり経 営収支試算結果を表 -4 に とりまとめました. 試算 の前提として, 低段 多 段組合せ栽培は年間収量 50t, 慣行栽培システムは 半促成栽培と抑制栽培の年 2 作で最大年間収量 25t としました. その結果, 慣行栽培システムでの粗収入は 746 万円, 農業所得は 202 万円となるのに 対し, 低段 多段組合せ栽培での粗収入は 1,414 万円, 農業所得は, 栽培シ ステムを新設した場合は 467 万円, 既設システムを利用した場合には 580 万円と試算され, 経営的に極めて有利であることが分かりました. (3) 作業時間 内訳[本圃養液システム][二次育苗施設表 -3 作業時間についても 10a あたり及び収量 1t あたりについてそれぞれ試算 し, 表 -5 にまとめました. 低段 多段組合せ栽培では低段密植栽培が組み込 -13- 低段 多段組合せシステム初期投資額試算 新設既設利用 培養液管理システム 759,000 253,000 給液装置 687,000 131,000 配管資材 201,000 45,000 栽培槽 架台 1,804,000 0 ロックウールベッド 578,000 0 諸経費 施工費 771,000 257,000 小計 4,800,000 686,000 育苗用ガラス室 209,000 209,000 保温カーテン 12,000 12,000 温風暖房機 31,000 31,000 培養液管理システム 480,000 480,000 ]小計 732,000 732,000 合計 5,532,000 1,418,000 表 -4 10a 当たり経営収支試算 10a 当たり. 育苗施設は 1.6a として試算.1000 円未満切り上げ. 既設利用は慣行のロックウールかけ流し栽培システムとする. 項目 低段多段組合せ新設既設利用 慣行 RW 収量 (kg) 50,000 50,000 25,000 単価 ( 円 /kg) 283 283 298 粗収入 ( 円 ) 14,141,231 14,141,231 7,460,373 経営費 ( 円 ) 9,471,327 8,399,512 5,439,795 物財費 6,626,327 5,494,977 3,939,515 内訳 種苗費 1,391,250 1,391,250 135,000 肥料費 409,570 409,570 176,432 薬剤費 70,344 70,344 56,033 諸材料費 863,533 863,533 178,320 施設減価償却費 3,208,213 2,076,863 2,385,325 農機具減価償却費 49,947 49,947 30,838 光熱水費 633,470 633,470 977,563 出荷費 ( 円 ) 2,845,000 2,845,000 1,500,284 農業所得 ( 円 ) 4,669,904 5,801,254 2,020,578 投下労働時間 2,646 2,646 1,868 所得 ( 円 / 時間 ) 1,765 2,192 1,082 所得率 33.0 % 41.0 % 27.1 % 10a 当たり.1000 円未満切り上げ. 既設利用は慣行 RW( ロックウール ) かけ流し栽培システムとする.

項目 育苗 本圃準備定植 着果管理 本圃管理 残渣処理 収穫出荷 合計 -14- まれるので, 10a あたりの作業時間 は慣行栽培システ ムに比べ 40 ~ 70% 増加します. 一方, 収量 1t あた りの作業時間で見 てみますと, 低段 多段組合せ栽培で は作業量より収量 の増加量がより多 くなるので, 全体で は慣行栽培システムの 70% と大幅に低減化されます. これは時間あたり所得 に反映され, 表 -4 に示すとおり, 低段 多段組合せ栽培における時間あたり 所得は, 新設で 1765 円, 既設の慣行栽培システム利用では 2192 円と試算 されました. これは慣行栽培システムの 1082 円の 1.6~2 倍となり, 低段 多段組合せ栽培は経営的に極めて有利な栽培方式であることがわかりました. 7. まとめ 低段 多段組合せ栽培は, 我が国の気象条件に最も適した日本型のトマト周 年安定多収生産技術です. この栽培法を採用すれば, 収量の季節変動が解消さ れ, 周年にわたって安定した収量が得られるため,10a 当たりの年間トマト収 量 50t も夢ではなくなりました. さらに既設の慣行栽培システムに大幅な変更 を加える必要がなく, 既設設備がそのまま使えるので安価な初期投資で導入で き, かつ多収となるため経営収支の向上と安定化に大きく寄与するものと期待 されます. また, 栽培期間の短い低段密植栽培を作付体系の中に組み込むことによって, 多段栽培で脅威となっているトマト黄化葉巻病による被害を効果的に回避する ことができます. 実際, 現地実証試験では, 夏秋期に低段密植栽培を適用し, かつ黄化葉巻病耐病性品種を作付けた結果, 黄化葉巻病による被害を最低限に 抑えられました. 表 -5 140 (163) 86 67 (159) 42 67 (167) 40 40 (140) 29 538 (105) 512 100 (167) 60 1,695 (154) 1,100 作業時間試算 10a 当たり (h) 低段多段 慣行 RW 2,646 (142) 1,868 収量 1t 当たり (h) 低段多段 慣行 RW 2.8 (81) 3.4 1.3 (79) 1.7 1.3 (83) 1.6 0.8 (70) 1.1 10.8 (53) 20.5 2.0 (83) 2.4 33.9 (77) 44.0 52.9 (71) 74.7 10a 当たり. 育苗施設は 1.6a として試算. 慣行 RW はロックウールかけ流し栽培とする. 括弧内は慣行 RW に対する 100 分比. このマニュアルで示した作付組合せモデルは南関東地域の気象条件に合わせ て構築したものなので, それをそのまま他の地域のトマト栽培に適用すること はできません. しかし, 各地域の気象条件や年間を通した温室内環境について のおおよそのデータはそろっているはずですから, それらを積算温度ベースの ヒートユニットシステムに適用すれば, 簡単な計算で地域ごとの最適な作付組

合せパターンを構築することができます. もちろん, 難しい計算は別として, これまでの多段栽培の作型を基本に, これを前後にずらしたり, 一部を削ったりすることによって, 自らの経営に適した形で夏秋期に低段密植栽培を1ないし2 作導入する, といった現実的な作付組合せも採用可能です. これを機会に, 多くの生産者の方々がこの低段 多段組合せ栽培を採用することによって, より有利な施設トマト経営を展開していっていただきたいと思います. 多段栽培から低段密植栽培に切り換える途中のインタープランティング状況 -15-