婚姻終了時における夫婦間の財産の平等について ( 法整備支援対象国と日本の比較法検討 ) 慶應義塾大学松尾研究会 ( 鈴木 安田 横山 ) 1
目次 1 テーマの説明 比較検討することの意義 2 夫婦財産制の検討 (1)~(6) 3 離婚後の財産分与 財産分割の検討 (1)~(6) 4 配偶者相続分の検討 (1)~(6) 5 総括 ( 各国の総合検討 (1) (5) 平等性の評価(6)~(8)) 2
テーマの説明 ベトナム ラオス カンボジア 日本の民法 ( もしく は婚姻家族法 ) を同一テーマで比較検討する 今回扱うテーマは 婚姻終了時における夫婦間の財産の平等について 夫婦財産制 財産分与 配偶者相続権の3つの制度にまたがる ( テーマ設定の理由は後述 ) 3
目次 1 テーマの説明 比較検討することの意義 2 夫婦財産制の検討 (1)~(6) 3 離婚後の財産分与 財産分割の検討 (1)~(6) 4 配偶者相続分の検討 (1)~(6) 5 総括 ( 各国の総合検討 (1) (5) 平等性の評価(6)~(8)) 4
比較法検討することの意義 法整備支援を行う上で 対象国の法制度や社会的背景を知ることは不可欠 ある対象国の法整備に携わる専門家たちも 他の対象国の法制度や社会的背景について考える機会は少ないのでは 比較していく上で 日本の法制度の問題点が見えてくることもある ( 今回はこちらにも注目 ) 5
夫婦財産制 (1) 婚姻中の 夫婦間の財産の所在に関する制度 比較の観点は いくつかある 1 法定財産制は 共同制 別産制 混合制のうちどれか 2 何が ( どこまでが ) 共有財産 or 特有財産に該当するか 3 契約財産制を認めているか否かなど 6
夫婦財産制 (2) 1 別産制 共同制 混合制のうちどれか 別産制 : 婚姻中の財産は 原則夫婦で別々に所有 日本のみ 共同制 : 婚姻中の財産は 原則夫婦の共同所有 ベトナム ラオス カンボジア 混合制 : 別産制と共同制の中間 なし ( 他地域の採用国は スウェーデンなど ) 別産制は主に英米法由来 共同制はフランス法 ( もしくはソビエト法 ) 由来 もっとも 日本の別産制は 日本独自のもの ( 男女平等の徹底? 紛争防止機能?) 7
夫婦財産制 (3) 2 何が ( どこまでが ) 共有財産 or 特有財産に該当するか 一例を挙げると (A) 1960 年公布のベトナム家族法 婚姻をすることで全ての財産が共有となり 婚姻前の財産までもが離婚後の財産分割となる (B) 1987 年公布のベトナム婚姻家族法 婚姻前の財産や婚姻期間中に個別に相続 贈与により取得した財産については 当然に個別財産になるのではなく 共有財産とするか否かを選択する形を採っている 8
夫婦財産制 (4) 3 契約財産制を認めているか否か 契約財産制 法が規定する財産制度 ( 法定財産制 ) とは別に 夫婦が契約により財産の帰属を決定する自由を認める制度 認めている : 日本 ベトナム カンボジア 認めていない : ラオス カンボジア 日本 自由な契約財産制 ベトナム 制約のある契約財産制 9
夫婦財産制 (5) 別産制は 日本国内において昔から批判が強かった... 夫婦間に共同生活がある以上 そこにおのずから共同財産が発生することは否定できない 純粋別産制はこの事実に目をつぶるものであり そのため 職業を持たない大部分の妻の家事労働を評価しえない ( 五十嵐清 夫婦財産制 (1964, 有斐閣 )211 頁 ) 別産制が 憲法 24 条に反するのではないかということが 最高裁まで争われたケースも ( 後述 ) 10
夫婦財産制 (6) 最大判昭和 36 年 9 月 6 日民集 15 号 8 巻 2047 頁 夫婦は一心同体であり一の協力体であつて 配偶者の一方の財産所得に対しては他方が常に協力 寄与するものであるとしても 民法には 別に財産分与請求権 相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており 右夫婦相互の協力 寄与に対しては これらの権利を行使することにより 結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる 別産制の欠点を 他の2 制度でカバー...? 今回のテーマ設定の理由 11
離婚後の財産分与 財産分割 (1) 比較の観点 1 財産分与 分割の扱い 2 分与額 分割割合 12
離婚後の財産分与 財産分割 (2) 1 財産分与 財産分割の扱い 日本当事者の請求によって分与がなされる ( 日本民法 768 条 1 項 ) カンボジア ベトナム ラオス離婚がなされれば必然的に財産分割を行う ( カンボジア民法 980 条 1 項 ベトナム婚姻家族法 59 条 1 項 ラオス家族法 28 条 1 項 ) 13
離婚後の財産分与 財産分割 (3) 2 分与額 分割割合 日本 ( 日本民法 768 条 2 項 3 項 ) 当事者間の協議による ( 協議が調わなければ ) 家庭裁判所の判断による分与の対象は 当事者双方がその協力によって得た財産 14
離婚後の財産分与 財産分割 (4) 2 分与額 分割割合 カンボジア ベトナム ( カンボジア民法 980 条 2 項 ベトナム婚姻家族法 59 条 1 項 2 項 4 項 ) 合意による ( 合意が成立しなければ ) 条文にしたがう 特有財産 = それぞれの所有 共有財産 = 基本的に 1/2 ずつ但し諸般の事情により調整 15
離婚後の財産分与 財産分割 (5) 2 分与額 分割割合 ラオス ( ラオス家族法 28 条 1 項 ) 条文にしたがう 特有財産 = それぞれの所有 共有財産 = 基本的に 1/2 ずつ但し諸般の事情により調整 16
離婚後の財産分与 財産分割 (6) 背景 夫婦財産制の違いから 日本 別産制財産分与はもともと制裁的 損害賠償的性格 請求によって分与開始法定の分与額 = 家裁の裁量による カンボジア ベトナム ラオス 共同制財産分割 = 清算的性格が強い 離婚したら必然的に財産分割法定の共有財産分割割合 = 原則 1/2 ずつ 17
配偶者相続分 (1) 1 相続の取り分 2 共同制採用国の相続分 3 社会の変化による改正 18
全体像 配偶者相続分 (2) 日本カンボジアベトナムラオス 配偶者子 2 分の1 2 分の1 均分均分 均分均分 特 :4 分の 1 共 :2 分の 1 特 :4 分の 3 共 :2 分の 1 配偶者 3 分の 2 3 分の 1 均分 特 :3 分の 1 共 :1 直系尊属 3 分の 1 3 分の 1+3 分の 1 均分 特 :3 分の 2 共 :0 配偶者 4 分の 3 2 分の 1 1 特 :2 分の 1 共 :1 兄弟姉妹等 4 分の1 2 分の1 0( 順位によって ) 特 :2 分の1 共 :0 ( 日本民法 900 条 カンボジア民法 1162 条 ベトナム民法 651 条 ラオス遺産相続法 12~14 条 ) 19
日本の配偶者相続分変遷 配偶者相続分 (3) 対子 対直系尊属 対兄弟姉妹 1898 年 3 分の1 2 分の1 3 分の2 1980 年 2 分の1 3 分の2 4 分の3 民法改正 3 分の 2? ( 朝日新聞 2016.10.19 3 面 ) 20
配偶者相続分 (4) 1 相続の取り分 日本 配偶者の取り分が多い ( 日本民法 900 条 ) カンボジア 子の取り分が多い ( カンボジア民法 1162 条 ) ベトナム 配偶者と直系尊属の優先 ( ベトナム民法 651 条 ) ラオス 子の取り分が多い ( ラオス家族法 12~14 条 ) 歴史的社会的背景による違いから 21
配偶者相続分 (5) 2 共同制採用国の相続分 ラオス 共有財産と特有財産の言及あり ( ラオス遺産相続法 14 条 ) 共有財産 : 家庭の必要性に従って使用する ( ラオス家族法 27 条 ) 配偶者が優先されるべき カンボジア ベトナムでも言及すべきでは? 22
配偶者相続分 (6) 3 社会の変化による改正 日本 高齢化問題 家族法は慣習を多く考慮した法 社会の変化 家族観の変化で改正が求められる 他国の規定を参考にした改正も必要か? 23
総括 (1) 1 各国の総合検討 2 平等性についての評価 24
総括 (2) 1 各国の総合検討 〇日本 夫婦財産制法定の財産分与額配偶者相続分 別産制 家庭裁判所の裁量 分与の対象は 当事者双方がその協力によって得た財産 配偶者は常に相続人 いかなる場合でも 他の相続人と比べて配偶者相続分が一番多い 25
総括 (3) 1 各国の総合検討 〇カンボジア 夫婦財産制法定の財産分割割合配偶者相続分 共同制 ( フランス支配の影響 ) 特有財産 : 各自の所有 共有財産 : 原則 1/2 ずつ ( 共同制との関係 ) 配偶者は常に相続人 相続人同士で均分に相続 子の取り分が多い ( クメール人の伝統 : 親子関係を重んじる ) 26
総括 (4) 1 各国の総合検討 〇ベトナム 夫婦財産制法定の財産分割割合配偶者相続分 共同制 ( フランス支配の影響 ) 特有財産 : 各自の所有 共有財産 : 原則 1/2 ずつ ( 共同制との関係 ) 配偶者は第一順位 その他直系尊属 子 第一順位の者同士で均分に相続 兄弟姉妹は第二順位 ( 社会通念 : 家族 = 経済の最重要単位 両親への尊敬 ) 27
1 各国の総合検討 総括 (5) 〇ラオス 夫婦財産制財産分割割合配偶者相続分 共同制 ( フランス支配の影響 ) 特有財産 : 各自の所有 共有財産 : 原則 1/2 ずつ ( 共同制との関係 ) 配偶者は子らと並び優先的に相続 共有財産は配偶者が大半を相続 子の取り分が多い ( 家族が社会の基本単位 親は財産をできるだけ子に残すべき ) 28
2 平等性について評価 総括 (6) 〇カンボジア ベトナム ラオス 夫婦財産制法定の財産分割割合 共同制 特有財産 : 各自の所有 共有財産 : 原則 1/2 ずつ 配偶者相続分 配偶者が第一相続順位 他の相続人と同等 orそれ以上の相続分 夫婦の有形無形の経済的協力が同等に評価される共同制を採る 離婚後の共有財産の財産分割が原則折半 配偶者相続分に関しては 他の相続人と同等かそれ以上の扱い 立法上 夫婦間の財産の平等を図っていると言える 29
2 平等性についての評価 総括 (7) 〇日本 ( 前掲したものと同様の表 ) 夫婦財産制法定の財産分与額配偶者相続分 別産制 家庭裁判所の裁量 分与の対象は 当事者双方がその協力によって得た財産 配偶者は常に相続人 いかなる場合でも 他の相続人と比べて配偶者相続分が一番多い 別産制の 夫婦間の不平等 という欠点を 財産分与や配偶者相続分によってカバーできているか? 30
2 平等性についての評価 総括 (8) 〇日本別産制の欠点は 財産分与や配偶者相続分によってカバーする予定だった 配偶者相続分 : 配偶者の取り分が多い 不平等性を一応カバー ( これでは完全とは言えない ) 財産分与 :( 協議が調わない場合 ) 家裁の裁量の対象が 婚姻中夫婦の協力によって得た財産 対象を概括的に記載 かつ具体的な取り分に言及なし 別産制の欠点を補うことができるかは 実務に委ねられている 立法上夫婦間の財産の平等を図っているとは言えない 31
ご清聴ありがとうございました 32
参考文献 五十嵐清 夫婦財産制 (1964, 有斐閣 ) 犬伏由子 夫婦の財産 (1991, 日本評論社 ) 大塚正之 臨床実務家のための家族法コンメンタール 民法親族編 (2016, 勁草書房 ) 上田広美 = 岡田知子 カンボジアを知るための62 章 (2012, 明石書 ) 今井昭雄 = 岩井美佐紀 現代ベトナムを知るための60 章 (2012, 明石書 ) 菊池陽子 = 鈴木玲子 = 阿部健一 ラオスを知るための60 章 (2010, 明石書 ) 33