要件の判定に必要な事項 1. 患者数 ( 平成 24 年度医療受給者証保持者数 ) 3,144 人 2. 発病の機構不明 ( 心筋収縮蛋白の遺伝子異常が主な病因であると考えられている ) 3. 効果的な治療方法未確立 ( 根治治療なし ) 4. 長期の療養必要 ( 心不全などの治療の継続が必要である

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直接還流するように血行動態を修正する手術 ) を施行する ただ 順調なフォンタン循環であっても通常の慢性うっ血性心不全状態であるため いつかは破綻していくこととなる フォンタン型手術は根治的手術ではない また フォンタン型手術適応外となった群には 効果的な薬物治療はなく ACE 阻害薬 利尿薬の効果

受給者番号 ( ) 患者氏名 ( ) 告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 経過 ( 申請時 ) 直近の状況を記載 2/2 薬物療法 強心薬 :[ なし あり ] 利尿薬 :[ なし あり ] 抗不整脈薬 :[ なし あり ] 抗血小板薬 :[ なし あり

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d 運動負荷心電図でSTの低下が0.1mV 以上の所見があるもの ( イ ) 臨床所見で部分的心臓浮腫があり かつ 家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動には支障がないが それ以上の活動は著しく制限されるもの又は頻回に頻脈発作を繰り返し 日常生活若しくは社会生活に妨げと

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5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

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262 原発性高カイロミクロン血症

存や入院に何か影響するのか ) を明らかにします 取得する情報 基本情報 : 施設名 施設年間症例 施設地域 記入者 記入日 DPC 番号 ( 患者 ID として使用 ) 心不全患者としての適格性の判定 ( 適格 不適格 ) 入院日 生年月日 性別 身長 体重入院時退院時患者背景 : 心不全入院歴

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心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf)

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日小循誌 表 年齢 歳 死亡群 合計 9例 3 2 上室性期外収縮 心室性期外収縮 享 表3 房室解離 洞房ブロック 発症後の期間 月 2月 月 房室ブロック LVH例 全例数 心室性および上室性期外収縮 LVHの率 2 33

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

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心臓静脈動脈体循環 心臓の働き 肺循環 心臓は 全身に血液を送り出すポンプの働きをしています 生命維持に必要な酸素や栄養素などを含む血液を 拍動によって肺や全身へめぐらせます 肺循環心臓と肺のあいだをめぐる血液循環です 肺で酸素を取り入れ 二酸化炭素を放出します 体循環心臓と全身のあいだをめぐる血液

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書などで内容を確認することも重要である 心不全発症の誘因 ( 表 2) に留意して 本人および家族に問診することが重要であるが ( 心不全再発予防のため ) 本人が難聴や認知症などで問診困難な場合には 家族や介護者からの情報収集が大変重要である また, 高齢者では一般的に, 脱水状態, または脱水を

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図表 1 1,000 万円以上高額レセプト上位 100 位 ( 平成 28 年度 ) 注 : 主傷病名欄の ( ) は調剤レセプト ( 単位 : 円 ) 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 順位月額医療費 主傷病名 1 106,941,690 フォンウィルブ

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

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心臓弁膜症とはどんな病気 心臓にある弁の異常による病気の総称です 心臓には4つの部屋があり 各部屋の間には血液が 一方向に流れるよう片開きの扉の働きをする弁 逆流防止弁 があります 弁膜の異常は狭窄と逆 流 閉鎖不全 の2つがあります 狭窄は扉の開きが悪くなり 心臓の次の部屋や動脈に血液が送 り出さ

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

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330 先天性気管狭窄症 / 先天性声門下狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から喉頭 ) と下気道 ( 気管 気管支 ) に大別される 指定難病の対象となるものは声門下腔や気管に先天的な狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも先天性気管狭窄症や先天性声門下狭窄症が代表的な疾病である 多

平成14年度研究報告

A B V1 Ⅱ Ⅲ 45 V1 Ⅱ V3 Ⅲ V3 avr V4 avr avl avl V4 V5 V5 V6 V6 図 1 体表面12誘導心電図 A 発作時 心拍数220bpm 右軸偏位のregularなwide QRS頻拍を認めた B 非発作時 ベラパミル投与後 洞調律に服した 心拍数112

114 非ジストロフィー性ミオトニー症候群


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2 慢性心不全の症状は 慢性心不全では交感神経が活発になったままとなりますので 脈が速く 不整脈が出やすくな ります この症状が 動悸 です また 呼吸が浅く速いこと 肺での酸素の交換が悪くなって いるので呼吸が荒くなることも特徴で この症状が 息切れ です さらに 手足の筋肉や血管 いひろうかん

死亡率(人口10 万対1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 ' 心血管系疾患 ( 動脈硬化による ) とがんが死亡の大 部分を占める 脳血管疾患 悪性新生物 結核 心疾患 )肺炎 50 不慮の事故自殺 0 肝疾患昭和

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58 肥大型心筋症 概要 1. 概要肥大型心筋症とは 原発性の心室肥大を来す心筋疾患である 肥大型心筋症は 心室中隔の非対称性肥大を伴う左室ないし右室 あるいは両者の肥大 と定義され 左室拡張機能低下を呈する 左室流出路閉塞を来す閉塞性ときたさない非閉塞性 に分類され 前者では収縮期に左室内圧較差が生じる 常染色体性優性の家族歴を有す例が多い 2. 原因心筋収縮関連蛋白 (β ミオシン重鎖 トロポニン T 又は I ミオシン結合蛋白 C など約 10 種類の蛋白 ) の遺伝子異常が主な病因である 家族性例の半数以上はこれらの遺伝子異常に起因し 孤発例の一部も同様である しかし いまだ原因不明の症例も少なくない 3. 症状本症では大部分の患者が 無症状か わずかな症状を示すだけのことが多く たまたま検診で心雑音や心電図異常をきっかけに診断にいたるケースが少なくない 症状を有する場合には 不整脈に伴う動悸やめまい 運動時の呼吸困難 胸の圧迫感などがある また 重篤な症状である 失神 は不整脈が原因となる以外に 閉塞性肥大型心筋症の場合には 運動時など左室流出路狭窄の程度の悪化に伴う脳虚血によっても生じる 診断には 心エコー検査が極めて有用で 左室肥大の程度や分布 左室流出路狭窄の有無や程度 心機能などを知ることができる 心エコー検査による検診は 本症と診断された血縁家族のスクリーニングにも威力を発揮する なお 確定診断のため 心臓カテーテル検査 組織像を調べるための心筋生検なども行われる 4. 治療法競技スポーツなどの過激な運動は禁止する 有症候例では β 遮断薬やベラパミル ( ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は一般的に使用しない ) により症状の改善が期待できる 心室頻拍例は植込み型除細動器の適応を考慮すべきであり 失神例も入院精査を要す 症状がない例でも 左室内圧較差 著明な左室肥大 運動時血圧低下 濃厚な突然死の家族歴などの危険因子があれば厳密な管理が必要である 難治性の閉塞性例では 経皮的中隔心筋焼灼術や心室筋切除術が考慮され 左室収縮能低下 ( 拡張相肥大型心筋症 ) による難治性心不全例では心移植の適応となる 5. 予後 5 年生存率 91.5% 10 年生存率 81.8%( 厚生省特発性心筋症調査研究班昭和 57 年度報告集 ) 死因と して若年者は突然死が多く 壮年 ~ 高齢者では心不全死や塞栓症死が主である

要件の判定に必要な事項 1. 患者数 ( 平成 24 年度医療受給者証保持者数 ) 3,144 人 2. 発病の機構不明 ( 心筋収縮蛋白の遺伝子異常が主な病因であると考えられている ) 3. 効果的な治療方法未確立 ( 根治治療なし ) 4. 長期の療養必要 ( 心不全などの治療の継続が必要である ) 5. 診断基準あり 6. 重症度分類肥大型心筋症の重症度分類を用いて中等症以上を対象とする 情報提供元 特発性心筋症に関する調査研究班 研究代表者九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授筒井裕之

< 診断基準 > 基本病態 肥大型心筋症は 不均一な心肥大に基づく左室拡張能低下を基本病態とする疾患群である また 拡張相肥大型心筋症は 左室駆出率低下と左室内腔の拡張が肥大型心筋症から移行したことが確認されたものをいう 分類 a) 非閉塞性肥大型心筋症 b) 閉塞性肥大型心筋症 c) 心室中部閉塞性肥大型心筋症 d) 心尖部肥大型心筋症 e) 拡張相肥大型心筋症 肥大型心筋症の診断基準 肥大型心筋症診断における最も有用な検査は (1) 心エコーなどの画像診断による所見である (1) の 検査結果に加えて (2) 高血圧性心疾患などの鑑別すべき疾患との鑑別診断を行うことは必須である ま た (3) 心筋生検による所見 (4) 家族性発生の確認 (5) 遺伝子診断が確定診断に有用である 各項目の条件を以下に記載する (1) 心エコーなどの画像診断による下記の所見 a) 非閉塞性肥大型心筋症心室中隔の肥大所見 非対称性中隔肥厚 ( 拡張期の心室中隔厚 / 後壁厚 1.3) など心筋の限局性肥大やびまん性肥大 b) 閉塞性肥大型心筋症左室流出路狭窄所見 僧帽弁エコーの収縮期前方運動 c) 心室中部閉塞性肥大型心筋症左室中部狭窄所見 d) 心尖部肥大型心筋症心尖部肥大所見 e) 拡張相肥大型心筋症左室駆出率低下と左室内腔の拡張を認め 肥大型心筋症からの移行が確認されたもの (2) 鑑別診断 心筋肥大を来しうる以下の疾患の鑑別が必要である 高血圧性心疾患 心臓弁膜疾患 先天性心疾 患 虚血性心疾患 内分泌性心疾患 貧血 肺性心 特定心筋疾患

特定心筋疾患 :1アルコール性心疾患 産褥心 原発性心内膜線維弾性症 2 心筋炎 3 神経 筋疾患に伴う心筋疾患 4 膠原病 ( 関節リウマチ 全身性エリテマトーデス 皮膚筋炎 多発性筋炎 強皮症など ) に伴う心筋疾患 5 栄養性心疾患 ( 脚気心など ) 6 代謝性疾患に伴う心筋疾患 ( ファブリー (Fabry) 病 ヘモクロマトーシス ポンペ (Pompe) 病 ハーラー (Hurler) 症候群 ハンター (Hunter) 症候群など ) 7その他 ( アミロイドーシス サルコイドーシスなど ) (3) 心筋生検による下記の所見 肥大心筋細胞の存在 心筋細胞の錯綜配列の存在 (4) 家族歴 家族性発生を認める (5) 遺伝子診断 心筋 β ミオシン重鎖遺伝子 心筋トロポニン遺伝子 心筋ミオシン結合蛋白 C 遺伝子などの 遺伝子異常 診断のための参考事項 (1) 自覚症状 : 無症状のことも多いが 動悸 ( 不整脈 ) 呼吸困難 胸部圧迫感 胸痛 易疲労感 浮腫など めまい 失神が出現することもある (2) 心電図 :ST T 波異常 左室側高電位 異常 Q 波 脚ブロック 不整脈 ( 上室性 心室性頻脈性不整脈 徐脈性不整脈 ) など QRS 幅の延長やR 波の減高等も伴うことがある (3) 聴診 :III 音 IV 音 収縮期雑音 (4) 生化学所見 : 心筋逸脱酵素 (CKやトロポニンT or I 等 ) や心筋利尿ペプチド (BNP, NT-proBNP) が上昇することがある (5) 心エコー図 : 心室中隔の肥大 非対称性中隔肥厚 ( 拡張期の心室中隔厚 / 後壁厚 1.3) など心筋の限局性肥大 左室拡張能障害 ( 左室流入血流速波形での拡張障害パターン 僧帽弁輪部拡張早期運動速度の低下 ) 閉塞性肥大型心筋症では 僧帽弁エコーの収縮期前方運動 左室流出路狭窄を認める その他 左室中部狭窄 右室流出路狭窄などを呈する場合がある 拡張相肥大型心筋症では 左室径 腔の拡大 左室駆出分画の低下 びまん性左室壁運動の低下を認める ただし 心エコー図での評価が十分に得られない場合は 左室造影やMRI CT 心筋シンチグラフィなどで代替しても可とする (6) 心臓 MRI: 心エコーによる観察が困難な患者においても 心筋肥大の評価に有用である シネモードを用いることにより 左室のみならず 右室の形態及び機能の評価を行うことが可能である ガドリニウム造影剤を用いた心臓 MRIにおいて 遅延相でのガドリニウム増強効果は 心筋線維化 ( 線維瘢痕 ) の存在を反映する

(7) 心臓カテーテル検査 : < 冠動脈造影 > 通常冠動脈病変を認めない < 左室造影 > 心室中隔 左室壁の肥厚 心尖部肥大 心尖部瘤など < 圧測定 > 左室拡張末期圧上昇 左室 大動脈間圧較差 ( 閉塞性 ) ブロッケンブロー (Brockenbrough) 現象 (8) 心内膜下心筋生検 : 他の原因による心筋肥大を鑑別する上で有用である 肥大心筋細胞 心筋線維化 ( 線維瘢痕及び間質線維化 ) 心筋細胞の錯綜配列など (9) 家族歴 : しばしば家族性 ( 遺伝性 ) 発生を示す 血液や手術材料による遺伝子診断が 有用である (10) 拡張相肥大型心筋症では 拡張相肥大型心筋症の左室壁厚については 減少するもの 肥大を残すもの 非対称性中隔肥大を認めるものなど様々であるが 過去に肥大型心筋症の診断根拠 ( 心エコー所見など ) があることが必要である 指定難病の対象 新規申請時は 下記の大項目を一つ以上満たすこととする 大項目 1 心不全や不整脈治療 (ICD 植込みなど ) による入院歴を有する 大項目 2 心不全の存在 心不全症状 NYHAII 度以上かつ [( 推定 METs 6 以下 ) or (peak VO 2 < 20)] 大項目 3 突然死又は心不全のハイリスク因子を一つ以上有する 1) 致死性不整脈の存在 2) 失神 心停止の既往 3) 肥大型心筋症による突然死又は心不全の家族歴を有する 4) 運動負荷 * に伴う血圧低下 ( 血圧上昇 25mmHg 未満 ; 対象は40 歳未満 ) 5) 著明な左室肥大 ( 最大壁厚 30mm) 6) 左室流出路圧較差が50mmHg を超える場合などの血行動態の高度の異常 7) 遺伝子診断で予後不良とされる変異を有する 8) 拡張相に移行した症例 * 運動負荷を行う場合には 危険を伴う症例もあるため注意を要する

申請のための留意事項 1. 新規申請時には 12 誘導心電図 ( 図中にキャリブレーションまたはスケールが表示されていること ) 及び心エコー図 ( 実画像又はレポートのコピー ) により診断に必要十分な所見が呈示されていること ) の提出が必須である 2. 心エコー図で画像評価が十分に得られない場合は 左室造影やMRI CT 心筋シンチグラフィなどでの代替も可とする 3. 新規申請に際しては 心筋炎や特定心筋疾患 ( 二次性心筋疾患 ) との鑑別のために 心内膜下心筋生検を施行することが望ましい また 冠動脈疾患の除外が必要な場合には 冠動脈造影又は冠動脈 CTが必須である 本認定基準は 肥大型心筋症の診療に関するガイドライン (2007 年改訂版日本循環器学会 ) などをもとに作成 している

< 重症度分類 > 中等症以上を対象とする 肥大型心筋症重症度分類 注釈 1) 活動度制限と BNP 値の判定は患者の状態が安定しているときに行う 2) 非持続性心室頻拍 :3 連発以上で持続が 30 秒未満のもの 3) 突然死リスク : 致死性不整脈 失神 心停止の既往 突然死の家族歴 左室最大壁厚 >30mmのうち2 項目以上 < 参考資料 > 1) 活動度制限の評価に用いる指標 NYHA 分類 Ⅰ 度心疾患はあるが身体活動に制限はない 日常的な身体活動では疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生じない II 度軽度から中等度の身体活動の制限がある 安静時または軽労作時には無症状 日常労作のうち 比較的強い労作 ( 例えば 階段上昇 坂道歩行など ) で疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる III 度高度の身体活動の制限がある 安静時には無症状 日常労作のうち 軽労作 ( 例えば 平地歩行など ) で疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる IV 度心疾患のためいかなる身体活動も制限される 心不全症状や狭心痛 ( 胸痛 ) が安静時にも存在する わずかな身体活動でこれらが増悪する NYHA: New York Heart Association

NYHA 分類 身体活動能力 (Specific Activity Scale; SAS) 最大酸素摂取量 (peakvo 2) I 6 METs 以上基準値の 80% 以上 II 3.5~5.9 METs 基準値の 60~80% III 2~3.4 METs 基準値の 40~60% IV 1~1.9 METs 以下施行不能あるいは 基準値の 40% 未満 NYHA 分類に厳密に対応する SAS はないが 室内歩行 2METs 通常歩行 3.5METs ラジオ体操 ストレッチ体操 4METs 速歩 5~6METs 階段 6~7METs をおおよその目安として分類した

診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1. 病名診断に用いる臨床症状 検査所見等に関して 診断基準上に特段の規定がない場合には いずれの時期のものを用いても差し支えない ( ただし 当該疾病の経過を示す臨床症状等であって 確認可能なものに限る ) 2. 治療開始後における重症度分類については 適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって 直近 6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする 3. なお 症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが 高額な医療を継続することが必要なものについては 医療費助成の対象とする