日本家政学会誌 Vol. ₆₆ No. ₂ 65~72(₂₀₁₅) 資料 幼稚園児をもつ母親の手芸 裁縫活動に対する意識と実態 梶山曜子 ₁, 下窪美咲 ₁ ₁, 鈴木明子 Consciousness and Actual Handicraft and Sewing Activities among Kindergartners Mothers Yoko KAJIYAMA ₁, Misaki SHIMOKUBO ₁ and Akiko SUZUKI ₁ We investigated the consciousness and the actual handicraft and sewing activities in the everyday life of kindergarteners' mothers. We obtained the following results. The rate of acquisition of basic handicraft and sewing skills was high. The ratio of people who learned those basic skills in home economics classes was the highest. There was a significant relationship between "the degree of time spent for handicrafts and sewing" and "the degree of mastery of basic handicraft and sewing skills." Therefore, it was suggested that basic skills are required for handcrafts and sewing. There was a significant relationship between "the degree of time spent for handicrafts and sewing" and "experience in making handmade items for children." Therefore, it was suggested that the presence of children is a factor in determining how much practice goes into handicrafts and sewing. There was a significant relationship between "preference for handicrafts and sewing" and "the degree of practice that goes into handicrafts and sewing" as well as "experience in making handmade items for children." These findings suggested the importance of teaching materials and home economics classes in which students enjoy themselves while making something for someone. Key words: handicraft 手芸,sewing 裁縫,mother 母親,kindergartner 幼稚園児,basic skill 基礎的技能 1. 緒言 近年, 生活の合理化が進み, 既製品の普及によって, 日常生活の中で手芸 裁縫活動を行う機会は減少してお り, それらの技能が日常生活に役立つという認識をもち にくい時代となった. その一方で, 手芸や裁縫は余暇活 動としても行われており, 物心両面における 豊かな生 活を創るための技術 の一つと考えられている ₁). 学校教育において, 手芸 裁縫の内容を取り扱うのは 家庭科であるが, 時代背景や授業時間数の削減等により, 製作の機会が減少しており, 家庭科の授業で手芸 裁縫 等の ものづくり をする意義が問われている ₂). ₃) 大学生を対象に手芸に対する意識を問うた先行研究 においては, 学校の授業以外で趣味として手芸をする者 は少なく, 物が豊かで迅速に情報を得られる現代におい て, 時間や物の使い方自体が変化してきており, 手芸の 位置づけや形も変わってきていると推察している. しか し手作りのもの自体は好きで温かみを感じる者が多いこ と, いつかはやってみたいという者もいることから, 各 世代のニーズに合わせた機会の必要性を報告している. 幼稚園児をもつ母親は, 通園バックやお弁当袋の製作 や, バザーでの手芸品の出品等, 学校教育終了後, 手芸 や裁縫に関わる機会の多い世代であると考えられる. そ のような幼稚園児をもつ母親たちを対象に, 手芸 裁縫 ₄) に対する意識や実態を調査した研究はなく, 先行研究 においては, 経験の有無や裁縫道具の所有実態について の追究にとどまっている. そこで本研究では, 幼稚園児をもつ母親を対象に, 学 所属機関名 : 1 広島大学大学院教育学研究科 1 Graduate School of Education, Hiroshima University, Hiroshima, 739-8524 原稿受付 : 平成 26 年 6 月 24 日 原稿受理 : 平成 26 年 11 月 25 日 To whom correspondence should be addressed E-mail:kaji3yr@yahoo.co.jp Copyright 2015 The Japan Society of Home Economics (65) ₂₇
Vol. No. 校教育修了後の日常生活における, 手芸 裁縫活動の嗜好意識や実践度, 技能の習得状況等の調査を行い, 手芸 裁縫活動に対する意識と実態を明らかにすることを目的とした. それによって, 日常生活における ものづくり の意義や今日の手芸 裁縫活動及びそれらの技能の習得の意義について再考し, 学校教育における家庭科の当該内容や活動のあり方について示唆を得たい. 2. 方法 (1) 調査対象者, 調査時期及び調査方法広島県 H 市内の幼稚園に通う園児をもつ母親を調査対象とした. 園は国立 H 幼稚園, 公立 M 幼稚園, 私立 I 幼稚園の ₃ 園であった. 調査時期は₂₀₀₇ 年 ₉ 月で, 留置法による質問紙調査を実施した. 有効回答率は₇₇.₂% であった. (2) 調査内容調査内容は,1 調査対象者の属性と就業形態及び家族構成,2 裁縫道具の使用頻度,3 手芸 裁縫の基礎的技能の習得状況,4 手芸 裁縫の製作技能の習得状況と習得方法,5 日常生活における手芸 裁縫活動の意識と実態,6 手芸 裁縫活動を行う条件,7 子どものための手芸 裁縫活動に対する母親の意識,8ものづくりと生活の豊かさへの意識であった. 専業主婦 が ₈₅.₅% であり, 次いで パートタイム勤 務 が ₇.₀% という結果であった. 家族構成は 核家族 が ₉₁.₁%, 非核家族 が ₈.₉% であった. (2) 裁縫道具の使用頻度 裁縫道具の使用頻度について問うた結果を使用頻度の 高い順に図 ₁ に示した. 最も使用頻度の高いのは アイ ロン で, 次いで 縫い針, アイロン台, まち針 であった. ほぼ毎日 使用しているのは アイロン, 男女 H 年長 ₁₁ ₁₃ M 年長 ₂₂ ₂₃ I 表 1. 調査対象者の属性と人数 ( 人 ) 園児の性別 年中 ₁₀ ₁₇ 年少 ₇ ₉ 年中 ₃₂ ₂₉ 年少 ₀ ₀ 年中 ₀ ₀ 年少 ₀ ₀ 年長 ₄₂ ₃₂ 計 ₆₇ ₁₀₆ 計 ₁₂₄ ₁₂₃ ₂₄₇ ₇₄ (3) 集計方法 (₂) の1から8の各調査項目は, それぞれ度数を求め, 項目ごとの回答者を₁₀₀% としてその内訳を示した. 手芸 裁縫に対する 基礎的技能の習得度, 嗜好意識, 実践度, 子どものための手作り経験 及び 生活の価値意識 相互の関係については, 関連の質問項目ごとにそれぞれの群別に分類した. 分類の方法については, ₃. 結果及び考察 (₉) で示す. それぞれの群でクロス集計を行い, 群間差比較は χ ₂ 検定を行った. 調査の集計及び解析には, 統計用ソフト IBM SPSS Statistics ₂₂ を使用した. 3. 結果及び考察 (1) 調査対象者の属性と就業形態及び家族構成調査対象者の属性を表 ₁ に示した. 各園によって学年の対象者数に差がみられるのは, 調査に協力を得られた方のみの集計結果となっているためであり, 分析は学年や保育年数の差を考慮に入れず行った. ₃ 園の幼稚園児の母親の平均年齢は₃₄.₃ 歳, 各年代の内訳は₂₀ 代が ₁₀.₆%,₃₀ 代が₇₉.₇%,₄₀ 代が₉.₇% であった. 対象者の ₈₂.₂% が昭和 ₅₃ 年告示の小学校学習指導要領にもとづいて家庭科を学習している者であった. 母親の就業形態は アイロン縫い針アイロン台まち針針山ゴム通し糸切りバサミメジャーミシンチャコペンシルかぎ針 ( 編み物用 ) ゆびぬき棒針 ( 編み物用 ) ルレットチャコペーパー刺しゅう針へら刺しゅう枠へら台ニードル用針 ほぼ毎日週数回月数回年数回持っていない, 使わない無回答図 1. 裁縫道具の使用頻度 (n=247) ₂₈ (66)
アイロン台 のみであった. ミシン については, ₇₆.₆% が使用しており, その頻度については 年数回 が最も多く₅₁.₆% であった. 幼稚園児をもつ保護者を対象にした₁₉₈₀ 年の調査 ₄) においては, アイロン の所有率は₁₀₀%, ミシン は₉₃.₆% で本調査の₇₆.₆% と比較して₁₇.₀% 減少していた.₁₉₈₀ 年の保護者と比較し, 裁縫道具の所有率は低下の傾向が見られた. 一方で かぎ針, 棒針, 刺しゅう針, 刺しゅう枠 及び ニードル用針 は使用頻度が低い結果となった. また, ルレット, チャコぺーパー へら の使用頻度が低く, チャコペンシル の使用頻度が高いことから, 印つけの道具として チャコペンシル を主に使用していることが推察される. (3) 手芸 裁縫の基礎的技能の習得状況手芸 裁縫の基礎的技能の習得状況を 自信をもってできる と できる を合わせた割合の高い順に並べた結果, 最も習得率の高いのは, アイロンがけ (₉₈.₄%) で, 次いで ボタン付け (₉₈.₀%) であった ( 図 ₂ ). 平成 ₂₀ 年告示の小学校学習指導要領家庭編の衣生活領域で取り上げられている基礎的技能, 玉結び, 玉どめ, なみ縫い, 返し縫い, かがり縫い, ボタン付け, ミシン縫い の ₇ 項目についてはいずれも高い割合で習得していた. 果を図 ₃ に示した. 裁縫については, 雑巾, 袋等や修繕, 丈詰め等は できる と回答した者の割合が₅₀% 以上みられたが, 衣服製作や難しい部位の修繕はそれ以下であった. 手芸については, 編み物と刺しゅうは₅₀% 以上が できる と回答したが, ビーズワークやパッチワークはそれ以下であった. 図 ₁ において かぎ針, 棒針, 刺しゅう針, 刺しゅう枠 及び ニードル用針 は使用頻度が低いにもかかわらず, 編み物と刺しゅうは ₅₀% 以上ができると回答している結果から, それらの手芸は専門の道具がなくてもできる簡単なものとして捉えられていると推察される. しかし 自信をもってできる と回答した者は非常に少ないという結果から, 基礎的技能の習得率が高い者が必ずしも製作技能の習得率が高いとはいえず, 基礎的技能を活かして何かを作ることにはつながっていない現状があると推察できる. 手芸 裁縫の製作技能の習得方法を図 ₄ に示した. 基礎縫い, ミシン縫い, ボタン付け といった基礎的技能は, いずれも 家庭科で学んだ とするものが最も多かった. また, いずれも家庭科で扱う技能であるにもかかわらず, 少数ながら 習っていない という回答がみられた. 家庭科は手芸 裁縫技能の伝承の場としての役割を果たしていると推察できる. 母親 や 祖母 に習ったと回答した者もおり, 家庭も手芸 裁縫技能の伝承の場として機能していることがうかがえた. (4) 手芸 裁縫の製作技能の習得状況と習得方法手芸 裁縫の製作技能の習得状況を 自信をもってできる と できる を合わせた割合の高い順に並べた結アイロンがけボタン付け玉結び玉どめなみ縫いミシン縫いまつり縫いスナップ付け返し縫いかぎホック付けかがり縫いボタン穴かがリ 自信を持ってできるできるできないやったことがない無回答図 2. 基礎的技能の習得状況 (n=247) 雑巾縫製袋, カバー縫製ほころび直し型紙利用編み物刺しゅう丈詰め, 裾直し子供服縫製スカート縫製ビーズワークパジャマ縫製袖丈直し型紙製図ファスナー直しワンピース縫製パッチワークズボン縫製浴衣, 甚平縫製ウエスト直しリフォームジャケット縫製 自信を持ってできるできるできないやったことがない無回答図 3. 製作技能の習得状況 (n=247) (67) ₂₉
Vol. No. (5) 日常生活における手芸 裁縫活動の意識と実態手芸 裁縫活動に対する意識を図 ₅ に示した. 手芸 裁縫が好きである の問いに対して, とてもよくあてはまる, あてはまる と回答した者の割合は₃₉.₇% で, あてはまらない, 全くあてはまらない と回答した者の割合は₃₁.₂% で, 手芸 裁縫の嗜好意識は肯定派と否定派が互いに拮抗している結果となった. 手芸 裁縫技能は日常生活に役立つ に とてもよくあてはまる, あてはまる と回答した者の割合は₈₅.₈%, 手芸 裁縫が得意であることは生活を豊かにする は₆₉.₇% であった. 手芸 裁縫技能の日常生活への役立ち感や必要性を強く感じるとともに, それらの技能が生活を豊かにするという認識も高い傾向にあった. 手芸 裁縫の知識 技能は次世代に伝える必要がある は₈₁.₀% の者が とてもよくあてはまる, あてはまる と回答しており, 次世代に伝える必要性を感じていることがうかがえた. 手芸 裁縫をする人は ₁₃₄ 人 ₆₆.₃% で, しない人は₄₁ 人 ₂₀.₃% であった. 手芸 裁縫をする理由を選択式の複数基礎縫いミシン縫いボタン付けアイロンがけ洋裁和裁 母親祖母友人家庭科専門の学校習ってない ( 独学 ) 習ってない ( できない ) その他無回答図 4. 製作技能の習得方法 (n=247) 回答で問うた結果, 最も多かったのは 必要にせまられ て で, 好きだから より多かった ( 図 ₆ ). このこと から, 今日の手芸 裁縫活動には 必要にせまられて 行う行動と, 手芸 裁縫が好きだから 行う行動がみら れ, これらはそれぞれ家事的側面, 趣味的側面という二 つの側面からとらえることができよう. 手芸 裁縫活動に対する嗜好意識と技能の習得率の関 係を図 ₇ に示した. 手芸 裁縫が好きな者ほど趣味的側 面の強い活動と考えられるパッチワーク, 編み物, ビー ズワーク, 刺しゅうの技能の習得率は高い傾向にあった. 手芸 裁縫をしない理由を選択式の複数回答で問うた 結果, 最も多かったのは 余暇時間が十分ないから で あった ( 図 ₈ ). 対象者のほとんどが家庭科で基礎的技能 を習得しているにもかかわらず, 手芸 裁縫技能がな い と回答した者も多かった. 岡村ら (₂₀₀₅) ₅) は, 家庭 科の製作実習において, 作品を上手く仕上げようとして 指示されるままに行動し, 結果として方法にみられる原 必要に迫られて 手芸 裁縫が好き 製作するのが楽しい 製作物が生活の中にあると楽しい 家族への愛情表現 買うより作った物の方が愛着がわく 衣料支出の節約になる 材料 道具がそろっている 一緒にする友人がいる 余暇 ( 製作 ) 時間が十分にある デザインするのが好き, 楽しい 既製品が体型や好みに合わない 手芸 裁縫が得意 その他 52 39 25 20 18 12 8 8 7 12 75 71 71 図 6. 手芸 裁縫活動をする理由 ( 複数回答 ) 107 ( 人 ) 0 20 40 60 80 100 120 自分は手芸 裁縫が好きである 自分は手芸 裁縫に興味がある手芸 裁縫技能は日常生活に必要だ手芸 裁縫技能は日常生活に役立つ 自分は日常生活の中で手芸 裁縫をする自分は日常生活の中で手芸 裁縫をしたい手芸 裁縫が得意であることは生活を豊かにする 女性は手芸 裁縫が得意であるほうがよい男性は手芸 裁縫が得意であるほうがよい 手芸 裁縫活動の知識 技術を次世代に伝える必要がある とてもよく当てはまる 当てはまる どちらともいえない 当てはまらない 全く当てはまらない 無回答 図 5. 手芸 裁縫活動に対する意識 (n=247) ₃₀ (68)
パッチワーク ビーズワーク編物 刺しゅう できる (64) できない (174) できる (143) できない (97) できる (98) できない (143) できる (138) できない (98) すきどちらでもない嫌い 余暇 ( 製作 ) 時間が十分にあれば 136 子どもや家族から頼まれたら 111 楽しんでできる場 機会があれば 110 周囲に教えてくれる人がいたら 81 手芸 裁縫技能が身についたら 60 キットですぐ作れる状態なら 57 一緒に活動する人がいたら 38 忙しくても時間をみつけてしたい 36 条件がそろってもしたくない 10 その他 4 ( 人 ) 0 20 40 60 80 100 120 140 図 9. 手芸 裁縫活動を行う条件 ( 複数回答 ) 図 7. 手芸 裁縫活動に対する嗜好意識と技能の習得率の関係 余暇 ( 製作 ) 時間が十分ない 手芸 裁縫技術がない 買ったほうが早い 安価に出来ない 製作を楽しめるところまでいかない 手芸 裁縫が嫌い デザインするのが嫌い 苦手 作る必要性を感じない 手作りのものはどこかやぼったい 道具, 材料がない 既製品にイメージのものがある 一緒にする友人がいない 家族への愛情表現は他でする その他 図 8. 手芸 裁縫活動をしない理由 ( 複数回答 ) 理や根拠に関する知識が身に付いていないことを報告し ており, 布施谷ら (₂₀₀₃) ₆) は, 被服製作に関して, 個性 や独創性といった生徒主体の実習の必要性を報告してい る. 家庭科の製作実習は, 基礎的技能の習得や, 作品を 完成させることに主眼がおかれやすく, 生徒が考え創り 出す主体となっていない, 自己有用感や達成感をもてな いという実態があり, そのことが製作嫌いや苦手意識を もつことにつながり, ひいては 手芸 裁縫技能がない という理由に影響しているとも考えられる. (6) 手芸 裁縫活動を行う条件 28 26 22 21 17 16 12 9 6 2 3 45 43 37 ( 人 ) 0 10 20 30 40 50 手芸 裁縫活動をおこなう条件を選択式の複数回答で 問うた結果を図 ₉ に示した. 複数回答で最も多かったの が 余暇時間 ( 製作時間 ) が十分あれば, 次いで 子ど もや家族から頼まれたら, 活動できる場所や機会があ れば であった. 手芸 裁縫活動には, 余暇時間 ( 製作 時間 ) の十分な確保や, 子どもや家族との関係が影響し ていると考えられる. また, 楽しみながら活動できる場所, 機会に加え, 教えてくれる人が身近にいることが重要であると推察できる. (7) 子どものための手芸 裁縫活動に対する母親の意識子どものための手芸 裁縫経験について, 幼稚園から 布を素材としたものを作って持たせるように 要請された経験があるか問うたところ, 調査対象 ₂₄₇ 人の母親の内 ₂₂₄ 人 (₉₀.₇%) が幼稚園から要請された経験があった. この中で, 自分で作った と答えた者は ₁₈₂ 人 (₇₃.₇%) であった. また ある と回答した者にその内容を質問したところ, 袋類, 雑巾 が多い結果となった. この ₂ つは, 図 ₃ において 自信を持ってできる と回答した上位 ₂ つであった. その他には 体操服袋, 手提げかばん, スモック 等が挙げられた. 作って持たせた ₁₈₂ 人にその時の気持ちについて質問したところ, 複数回答で多かった回答は 子どもに喜んで欲しい ₁₄₃ 人, 子どもが使いやすいものを作りたい ₁₀₁ 人であった. また 楽しい は₄₅ 人の記述がみられたが, 面倒 という回答も₂₇ 人みられた. 一方, 作って持たせなかった ₃₈ 人 (₁₅.₄%) に その時持たせたもの を質問したところ, 複数回答で最も多かったのが 自分以外の誰かの手作り ₂₅ 人, 市販のもの ₁₈ 人であった. 自分で作らなかった理由を質問したところ複数回答で最も多かったのが ミシン等の道具がないから ₂₀ 人, 次いで 手芸 裁縫が苦手だから ₁₇ 人であった. その他の回答として 下手なものを子どもに持たせるのは恥ずかしい, 完成したものに自信がない 等の回答がみられた. 以上の結果から, ほとんどの対象者が幼稚園から手作りを要請されており, その要請を受けて手芸 裁縫をすると答えた者が多く, 子どもがいることは手芸 裁縫を行う大きな要因の一つといえる. 手作りを持たせるのは (69) ₃₁
Vol. No. 面倒であると感じる者も少なからずいるが, 子どものことを考えながら作品の製作を楽しんでいることがうかがえた. 自分で作らない者も, その約半数が自分以外の誰かの手作りを持たせており, 対象者の多くが子どもに手作りのものを持たせることへの意義を感じていると思われる. (9) 手芸 裁縫に対する 基礎的技能の習得度, 嗜好意識, 実践度, 子どものための手作り経験 及び 生活の価値意識 相互の関係 基礎的技能の習得度 は, 図 ₂ の₁₂ 項目の 自信をもってできる を ₃ 点, できる を ₂ 点, できない やったことがない を ₁ 点として₁₂ 項目の合計得点を算 出した.₂₄₇ 人の平均得点は ₂₀.₀₄ であり, それより高い (8) ものづくりと生活の豊かさへの意識 ものづくりの文化をいかして生活を豊かにしたいか という問いに対し, 全体の₁₈₀ 人 (₇₂.₉%) が はい と回答した. その内 ₁₄₉ 人の自由記述から はい と回答した理由や背景ととらえられる内容を読み取り,₆₃ 項目を抽出した. ₁ 人の回答から複数の項目が読み取れ, のべ件数は₃₁₁ 件であった. これらをそれぞれの内容項目の件数として計上した.₆₃ 項目の上位 ₁₀ 項目は 物を大切にする ₂₇ 件, 家族が喜んでくれる ₂₃ 件, 手作りの物は温かみや味わいがある ₂₀ 件, 手作りすることが楽しい ₂₀ 件であった. いいえ と回答した ₃₇ 人 (₁₅.₀%) のうち₃₃ 人の自由記述から, 同様にその理由や背景ととらえられる内容を読み取り,₂₇ 項目を抽出した. のべ件数は₅₉ 件となり, ₂₇ 項目のうち上位 ₅ 項目は 自分で作ることが豊かな生活ではない ₁₀ 件, 時間や気持ち 金銭的に余裕がないのでできない, 手芸 裁縫に興味がない, 市販品で充分に生活を満たせる, 必要な時にだけすればよい という内容であった. 群を 高 群, 低い群を 低 群とした. 嗜好意識 は, 図 ₅ の 手芸 裁縫が好きである に とてもよくあてはまる, あてはまる と回答した者を 好き 群, どちらでもない と回答した者を どちらでもない 群, あてはまらない, 全くあてはまらない と回答した者を 嫌い 群とした. 実践度 は, 図 ₅ の 日常生活の中で手芸 裁縫をすることがある に とてもよくあてはまる, あてはまる と回答した者を 実践 群, どちらでもない と回答した者を どちらでもない 群, あてはまらない, 全くあてはまらない と回答した者を 非実践 群とした. 子どものための手作り経験 は,(₇) において幼稚園から要請され自分で作った ₁₈₂ 人を 経験有 群, 自分で作らなかった ₃₈ 人を 経験無 群とした. 生活の価値意識 は,(₈) の ものづくりの文化をいかして生活を豊かにしたいか という問いに対し, はい と答えた者を 豊かにしたいと思う 群, いいえ と答えた者を 豊かにしたいと思わない 群とした. 無回答を除いた₂₀₂ 人において, それぞれの群ごとにクロス集計を行い,χ ₂ 検定を行った結果を表 ₂ に 示した. 表 2. 手芸 裁縫に対する 基礎的技能の習得度 嗜好意識 実践度 子どものための手作り経験 及び 生活の価値意 識 相互の関係 基礎的技能の習得度 嗜好意識 実践度 子どものための手作り経験 生活の価値意識 高 :₈₁(₄₀.₁%) 低 :₁₂₁(₅₉.₉%) 好き :₈₆(₄₂.₆%) 嫌い :₆₂(₃₀.₇%) 実践 :₁₃₄(₆₆.₃%) 非実践 :₄₁(₂₀.₃%) どちらでもない :₅₄(₂₆.₇%) どちらでもない :₂₇(₁₃.₄%) 経験有 :₁₇₀(₈₄.₂%) 経験無 :₃₂(₁₅.₈%) 思う :₁₆₃(₈₀.₇%) 思わない :₃₂(₁₅.₈%) どちらでもない : ₇(₃.₅%) 基礎的技能の習得度 嗜好意識 高 > 低 ( 好き群 ) 実践度 高 < 低 ( 非実践群 ) 好き < 嫌い ( 非実践群 ) 子どものための手作り経験 高 < 低 ( 経験無群 ) 好き < 嫌い ( 経験無群 ) 実践 < 非実践 ( 経験無群 ) 生活の価値意識 高 < 低 ( 豊かにしたいと思わない群 ) 好き > 嫌い ( 豊かにしたいと思う群 ) n.s. 経験有 > 経験無 ( 豊かにしたいと思う群 ) χ ₂ 検定の結果, 有意な関係が認められた集計結果に有意水準 (p<₀.₀₅,p<₀.₀₁,p<₀.₀₀₁, 有意差なし n.s.) を示した. さらに残差分析を行い, 回答割合に最も差が認められた回答項目を抜粋し, 高低差を不等号で示した. ₃₂ (70)
手芸 裁縫の 嗜好意識 と 実践度 には有意な関係性がみられ, 手芸 裁縫が好きな者は実践する者が多く, 嫌いな者は実践しないという傾向にあった (p< ₀.₀₀₁). 実践には嗜好意識が影響していた. 嗜好意識 と 基礎的技能の習得度 においても有意な関係性がみられ, 基礎的技能の習得度が高いほうが手芸 裁縫が好きである割合が高かった (p<₀.₀₀₁). 手芸 裁縫を楽しむためには基礎的技能の習得が必要であることが推察される. また, 嗜好意識 と 子どものための手作り経験 にも有意な関係性がみられ, 手芸 裁縫が好きな者ほど子どものための手作りをしていた (p<₀.₀₀₁). 加えて, 嗜好意識 と 生活の価値意識 には有意な関係性があり, 手芸 裁縫が好きな者ほどものづくりで生活を豊かにしたいと思っている割合が高かった (p<₀.₀₅). 手芸 裁縫が好きであることは, 子どものために手作りを行うことにつながり, 生活の価値意識に影響を及ぼすと推察される. 手芸 裁縫の 実践度 と 基礎的技能の習得度 には有意な関係性があり, 基礎的技能の習得度が低い者ほど実践していなかった (p<₀.₀₅). また, 実践度 と 子どものための手作り経験 には有意な関係性がみられ, 日常生活で手芸 裁縫を実践している者は子どもにも手作りをしている割合が高かった (p<₀.₀₀₁). また, 子どものための手作り経験 と 基礎的技能の習得度 には有意な関係性があり, 子どものための手作り経験の無い者は基礎的技能低群の割合が高かった (p<₀.₀₅). 実践には基礎的技能の習得が必要であり, 子どもの存在が実践につながることが考えられる. 生活の価値意識 と 子どものための手作り経験 には有意な関係性があり, 子どものために手作りをしている者は, ものづくりで生活を豊かにしたいと思っている割合が高かった (p<₀.₀₅). また, 生活の価値意識 と 基礎的技能の習得度 には有意な関係性があり, 基礎的技能の低い者はものづくりで生活を豊かにしたいと思わない者の割合が高かった (p<₀.₀₅). 基礎的技能の習得や子どものために手作りをする経験は生活の価値意識に影響を及ぼすと推察される. 以上の結果から, 手芸 裁縫の基礎的技能の習得意義や学校教育における家庭科の布を用いた製作実習等の位置付けに対して次のような示唆が得られた. まず, 手芸 裁縫の基礎的技能を家庭科で習得したと答えた者の割合が高いことから, 家庭科の製作実習において, 確実な基礎的技能の習得と定着の必要性が再認識された. 次に, 基礎的技能の習得度 と手芸 裁縫の 嗜好意識 において有意な関係性があることから, 基礎的技能の習得によって, 手芸 裁縫を日常生活の中で活用し楽しむことが可能になるということが示唆された. さらに, 手 芸 裁縫の 嗜好意識 と 実践度, 子どものための手作り経験 及び 生活の価値意識 に有意な関係性があることから, 家庭科の製作実習では, 基礎的技能の習得にとどまらず, 作る楽しみを実感できる教材や学習方法で学ぶこと, 及び誰かのために作ることの意義が示唆された. また, 子どものための手作り経験 と 生活の価値意識 に有意な関係性があることから, 作る相手を思いながら製作活動をすることによって, 生活の豊かさや価値を問い直す機会を与えることができると考えられる. 本研究では, 幼稚園児をもつ母親のみを対象としており, 専業主婦の割合が高かったことからも, 結果は限られた集団のものである. また, 家庭科との関連性において, 母親の学習履歴及び学習経験に対する意識等との関係については調査していない. 今後は, 様々な背景をもつ母親や子どもをもたない女性さらに男性等対象者を広げ, 対象者の学習履歴との関連性についての継続的な調査が必要であると考える. それにより, 日常生活における一般的な手芸 裁縫活動の意識と実態を広くとらえ, 手芸 裁縫技能の習得意義を再考し, 学校教育のあり方への具体的な示唆を得ることも課題である. 4. 要約幼稚園児をもつ母親を対象とした質問紙調査によって, 日常生活における手芸 裁縫活動に対する意識と実態を明らかにした結果, 次のような知見が得られた. ₁) 手芸 裁縫の基礎的技能の習得率は高く, いずれも 家庭科 で学んだとするものが最も多かった. ₂) 手芸 裁縫の 嗜好意識 は肯定派と否定派が互いに拮抗していたが, 手芸 裁縫の 嗜好意識 と 実践度 には有意な関係性があり, 手芸 裁縫が好きな者ほど実践していた. ₃) 手芸 裁縫の 実践度 と 基礎的技能の習得度 には有意な関係性があることから, 実践には基礎的技能の習得が必要であることが示唆された. ₄) 手芸 裁縫の 実践度 と 子どものための手作り経験 には有意な関係性があることから, 子どもの存在が手芸 裁縫を行う大きな要因であることが推察された. ₅) 手芸 裁縫の 嗜好意識 と 実践度, 子どものための手作り経験 及び 生活の価値意識 に有意な関係性があることから, 家庭科の製作実習では, 基礎的技能の習得にとどまらず, 作る楽しみを実感できる教材や学習方法で学ぶこと, 及び誰かのために作ることの意義が示唆された. 謝辞本研究の調査に多大なご協力をいただいた, 広島県 H (71) ₃₃
Vol. No. 市内の国立 H 幼稚園, 公立 M 幼稚園, 私立 I 幼稚園のお母様方及び先生方, 本調査の集計 分析に協力をしていただいた三村晴香さんに深く感謝申し上げます. 引用文献 ₁) 堀内かおる, 武井洋子, 田部井恵美子. 被服製作及び手芸の教育的意義 学習要求からの考察. 東京学芸大学紀要第 ₆ 部門産業技術 家政.₁₉₈₈, 40, ₁₂₇-₁₄₀ ₂) 鈴木明子. 家庭科教育における 布を用いた製作 の教育的意義の検討 体験としての意義と基礎的 基本的技能習得との関係を中心に. 広島大学大学院教育学研究科紀要第二部文化教育開発関連領域. ₂₀₀₉, 58, ₃₀₁-₃₀₇ ₃) 江崎智子. 現代の大学生における手芸に対する意識. 早稲田大学人間科学学術院人間科学研.₂₀₁₃, 26, ₁₂₈- ₁₂₈ ₄) 本郷美枝, 潮田美智子. 幼稚園児を持つ主婦の家庭洋裁について ( 第 ₁ 報 ). 東京家政大学研究紀要.₁₉₈₀, 第 ₂₀ 集 (₂), ₇₅-₈₀ ₅) 岡村好美, 平田雅代. 家庭科の被服 における学生の意識と理解に関する調査研究. 宮崎大学教育文化学部紀要芸術 保健体育 家政 技術学.₂₀₀₅, 第 ₁₂ 号, ₁-₆ ₆) 布施谷節子, 高部啓子. 家政系女子短大生と母親の被服製作能力と被服製作の必要性に関する意識と実態. 家教誌.₂₀₀₃, 46, ₂₅₅-₂₆₄ ₃₄ (72)