2. 開発のねらいと手段コマツクランクシャフトミラーはワークを固定し, 更に加工部近傍をレストでクランプすることにより, ワークの支持剛性が高く, 且つ大径のカッターベアリングとコマツ独自のスイングアーム方式によりカッター支持剛性も高い ( 図 2). この結果, 重切削でも高精度の加工が可能である

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製品紹介 クランクシャフトミラー GPM170F-5 の製品紹介 Introducing Crankshaft Miller Model GPM170F-5 鈴木武之 Takeshi Suzuki コマツ工機 工作機械事業の主力商品であるクランクシャフトミラーを 作業環境改善, 省エネ, フレキシブル性向上, 生産性向上 をターゲットにモデルチェンジ,2007 年に市場導入したその背景と技術を解説し, 製品紹介をする. The crankshaft miller, a leading product of the machine tool business of Komatsu Machinery Corporation, has been model-changed targeting Improved working environment, Energy saving, Enhanced flexibility and Enhanced productivity. The new miller was introduced into the market in 2007. The background, technologies and features of the new product are described. Key Words: クランクシャフト,GPM170F, 可変ピッチレスト, 等負荷切削, 騒音, 振動 1. はじめにエンジンのクランクシャフトを加工するクランクシャフトミラーは,1983 年にワーク固定型のインターナル方式へモデルチェンジして以来, 高精度で生産性が良いと高い評価を得ている. 現在日本と韓国ではほぼ 100% のシェアを持っているが, 近年客先の要求や市場の変化により, フレキシブル性や省エネ等の要求が高まってきた. 今回 13 年ぶりのモデルチェンジにあたり, 作業環境改善 省エネ フレキシブル性向上 生産性向上 をターゲットに5 型 ( 図 1) を開発したのでその概要について説明する. 図 1 クランクシャフトミラー GPM170F-5 52

2. 開発のねらいと手段コマツクランクシャフトミラーはワークを固定し, 更に加工部近傍をレストでクランプすることにより, ワークの支持剛性が高く, 且つ大径のカッターベアリングとコマツ独自のスイングアーム方式によりカッター支持剛性も高い ( 図 2). この結果, 重切削でも高精度の加工が可能である. この信頼性が高い旧モデルの構成はそのまま踏襲し, その基本構造の下で作業環境改善, 省エネ, フレキシブル性向上, 生産性向上をターゲットに具体的なねらいと手段を表 1のように設定した. カッターはスイングアームの中央に保持し, 一方を大径ベアリングで支持し他方をボールネジで駆動させる方式. 通常の平行動作に比べ高い支持剛性が得られ, また, テコの原理により大きな推力が得られる図 2 コマツ独自のスイングアーム方式 3. 実際の開発状況の紹介以下に開発を進めた状況の詳細を紹介する. 3.1 騒音低減クランクシャフトミラーは重切削を行うミーリング加工機であるため, ラインの中で最も騒音が大きい機械である. この騒音の低減は常に要求される. 今回はモデルチェンジに先立ち, 研究本部の協力を受け, 従来機で キャンベル線図による騒音分析, モーダル解析 を実施すると同時に機械のカバー形状の最適化を実施した. 最終的に 3dB(A) 低減することができたが, これは騒音エネルギーを半減させたという大きな成果である. 3.1.1 キャンベル線図による騒音分析キャンベル線図とは回転数や音の周波数より共振等の騒音特性を表した線図である. 本機では, カッター回転数を変えながら騒音の測定をし, 分析を行なった. 従来は 切刃がワークに衝突することで騒音が発生するので, 衝突の周波数の整数倍での周波数の音が大きくなる と考えられていた. 実測した結果を図 3に示すが, カッターの回転数が上がっても騒音の周波数は上がらず, 特定の周波数で高い値となっていることが判った. この特定の周波数での機械の振動モードをつかみ, そのモードで振れが大きくなっている部分を補強すれば, 騒音を低減できることが明確になった. 表 1 開発のねらいと手段 ねらい 手段 騒音低減 騒音分析 ( キャンベル線図 ) 機械の剛性解析 ( モーダル分析 ) カバーによる騒音の低減作業環境改善集塵効率向上集塵経路の変更 切粉対策 切粉流れの改善 切粉飛散スキマの改善 エアブローの削減 チャックシャッターの追加 省エネ 潤滑油の削減 自己潤滑装置付機器採用 電気消費量削減 省エネ機器の採用 フレキシブル対応 可変ピッチレストの採用 異材種ワーク対応 AC スピンドルモータ採用 生産性向上 工具寿命対応 等負荷切削 補正機能の充実 面倒れ補正の追加 リモート診断 不具合のスムーズな対応 外観品質向上デザイン向上 R 形状を採用したデザイン 受注設計変更の容 設計の標準化 作りやすさの追求 易化部品の標準化 標準部品化の推進 配管部品点数削減 油圧, 潤滑経路の見直し 周波数 Hz 2000 1500 1000 500 0 0 50 100 150 200 250 300 回転数 rpm rpm 図 3 キャンベル線図 53

3.1.2 モーダル解析モーダル解析とは, 機械の振動モードをつかむ手法である. 機械の各部にピックアップを付け機械を加振した際の振動を測定する. 各部のデータをコンピュータで集計し, 機械の振動の様子をアニメーションで見ることができる ( 図 4). 図 6 ワークヘッドの剛性 (FEM 解析 ) 図 4 モーダル解析アニメーションこの結果に基づき, 各部の板金, 溶接構造を改善したが, ここではワークヘッドでの改善の例を示す. モーダル解析の結果ワークヘッドは上下に大きく振れていた. その対策として, 図に示すよう前側の板金の板厚を厚く, 且つ大きなリブを追加し, 図 5の構造とした. その結果 FEM 解析により新構造での剛性が 60%UP していることが確認できた ( 図 6). 3.1.3 カバーによる騒音の低減カバーに対しても実加工テストを行いながら改善を進めた. 本機のカバーは機械内部カバーと機械周囲カバーに大別できる. 機械内部カバーはカッターの駆動と移動を行う為の重要構造物を囲っている. 切削による加振力により最も振動が発生しやすい部分のひとつである. この部分のカバーについては, 密閉性, 内部の吸音材の種類及び制振材の有無についてテストを実施した. この結果, 制振材の効果が小さいこと, 密閉性を高めることで大きな影響があることが判明した. 密閉性を上げる為にカバーの構造を変更して原価アップしたが, 制振材を廃止することで原価を下げることができた ( 図 7). 図 5 ワークヘッドの構造 図 7 機内カバー 54

また, 機械周りでの音を下げるため, 機械外部のカバーは上部に R 形状を採用し, 回折音も低減した. 吸音材は, 吸音性能だけではなく耐環境や防炎性能にも優れ, 経年劣化にも強い材質を採用した ( 図 8). エアは, チャック部分のチャックブローと左右移動面のサドルブローに使用されている. クランクシャフト 1 本はモデルサイクルでは約 40 秒で加工されているが, その間のブローは図 10の通りで, チャックブローの量が多くなっている. 本機のチャックはクランクシャフトのフロントシャフトのはまり込みの部分を逃げているが, 加工中にこの部分へ切粉が入り込まないようにエアブローをおこなっている. この時のエアブローを止めることができれば, エア消費量は格段に減らすことができる. 加工時のチャックブロー廃止 図 8 外周カバー 3.2 省エネ省エネはユーザーの生産コストを下げる為にも, また環境に対して改善を進めていることをアピールする為にも, 近年強く要求されている. モデルチェンジに際し, まず, 従来機でのエネルギー消費を測定した. 直列 4 気筒クランクシャフトのピン, ジャーナル加工を行うサイクルをモデルサイクルとして, その際の電気エネルギー, 潤滑油, エアエネルギーの消費量を測定した. 図 9に測定の結果を示す. 各エネルギーを金額に換算した結果であるが, エアの比率が 57% と極めて高いことが明確になった. エア消費量 100 50 0 従来機 図 10 エアブローのシーケンス チャックブローサドルブロー 0 10 20 30 40 時間 モデルチェンジ機では, この部分にシャッターを追加し, 切粉の侵入をシャッターで防ぐ構造とした ( 図 11). シャッター追加 従来機 電気 35% エア 57% 潤滑 8% 図 9 エネルギー消費比率 図 11 チャックシャッター同時に, 機械の各部の切粉たまりに対して傾斜を大きく取るように設計を変え, 切粉ブローも不要とした. 今回のモデルチェンジの設計は 3D-CAD で行ったが, 傾斜の様子をビジュアルで確認することが容易にでき大変有効であった. 55

電気エネルギーについては, カッターの回転を減速する際の回生機能や油圧バルブに省エネタイプを採用することにより, 削減を図った. 潤滑においては,LM ガイドやボールネジに自己潤滑装置を採用することで, 潤滑油量の削減を図った. その結果, エア, 電気, 潤滑油量で, 全体のエネルギー消費量を図 12 の通り半減させることができた. 費用 ( 千円 ) 1,200 1,000 800 600 400 200 0 エネルギー消費 F-3 型 F-5 型 図 12 エネルギー消費量 エア潤滑電気 3.3.3 AC スピンドルモータの採用多品種生産の中では, 異材種ワークの加工も必要になる. そこで, プログラムで容易に主軸の回転速度を変え切削速度が変更できる AC スピンドルモータを採用した. さまざまなワークに対し, 最適な切削条件で加工することができ, 工具寿命を向上できる. さらに, 生産性向上の為, 将来高速対応の工具が採用されても容易に対応が可能となった. 3.3.4 自動プログラミング機能アップ加工時間短縮や工具寿命延長のため, 従来切削負荷データを基に手動で最適な負荷になるよう計算し, プログラミングしていたものを, 主軸の負荷データを機械から抽出し, 自動プログラミングシステムで計算することにより, 自動的に切削速度や送り速度を変更できる機能を追加した ( 図 14). 工具へオーバーロードを掛ける事なく, 最適な切削負荷で加工できるため, 工具寿命を改善することが可能となった. 3.3 生産性の向上 3.3.1 軸速度の高速化加工軸の早送り速度は 8 m/min から 20 m/min, 横方向の割出軸は 16 m/min から 40 m/min と各軸共, 従来機に対し 2.5 倍に速度をアップし非切削時間を短縮した. 切削速度 送り速度 3.3.2 可変ピッチレストの採用ユーザーでの使われ方も多様になってきており, 量産ラインにおいて, 今までは手動段取りで対応していたが, 頻繁にロットの切替えをするため, 自動段取りで対応したいとの要望も多くなってきた. そのため加工時にワークをクランプするレストとカッターのピッチを変更可能にすることができる可変ピッチレストを開発することでフレキシブル性が向上した ( 図 13). 主軸負荷 図 14 等負荷切削補正画面 レスト カッター 3.3.5 保全性の向上海外納入機等の突発の故障に対し, 現地の状況をより正確に確認することができるようリモート診断の機能もオプションで準備した ( 図 15). これは, 現地にある機械の操作画面が, 事務所にいながら確認できるものである. この結果, クレームや不具合も確実でスムーズな対応が可能になり, ユーザーの MTTR 等の復旧時間を改善でき稼働率を改善できる. 万一の故障時, 文字だけではなく, 故障箇所も画面に表示し使いやすさも向上した. 図 13 可変ピッチレスト 56

工場毎に規格が違っていることもある. このため, 設計の手間がとられる. 3.5.1 機械周りカバー, 操作盤取付方法の改善ワーク搬入高さが指定されている為, 機械ベッドの下の敷板厚みを変えて対応する. その度に機械周りのカバーを上下に延長する必要があった. モデルチェンジでは, この部分に別カバーを設け上下に調整可能とし, 設計変更なしで対応できるようにした ( 図 17). 図 15 保全画面 3.4 外観デザインの向上従来機では外観デザインが欧州の機械に対し見劣りするとの評価があった. 日本国内, 韓国での販売においては, この評価は重要なものではないと考えていた. しかし米国, 欧州, 中国での販売活動においては, 大きなファクタとなってきた. 今回デザイン部の協力を受け, 全く新しいイメージに刷新した ( 図 16). 新しいカバーはデザインとして美しいだけでなく, 丸みを帯びていること, ボルトの頭や取手等の突起物も少ないことから, 安全上でも優れている. 3.5 作りやすさの追求今回のモデルチェンジでは品質の向上を行なうと同時に作りやすさを追求した. 本機のユーザーは自動車会社で, ユーザー毎に社内規格が決められており, これを守ることを要求される. 時折, 同じ自動車会社であっても, 図 17 機械外周下部ガード埋込みタイプの操作盤では, 操作盤の高さが指定され, そのために周囲のカバーを変更する必要があった. モデルチェンジでは, 操作盤をカバーから離し, 取付けパイプ長さのみの変更で対応を可能にした ( 図 18). 図 16 外観デザイン 57

図 18 操作盤 3.5.2 配管構成の改善従来, ワークをクランプするチャックの仕様が多数あり, 油圧, 空圧を供給するパイプの形状も各々異なっていた. モデルチェンジでは, チャックの仕様を大幅に減らしパイプの種類を減らした. オプション仕様となる場合にも, 標準仕様に対してのパイプは変更なく使えるようにし, オプション分を追加するだけとした ( 図 19). 配管経路も見直し継手の部品点数も 20% 削減し組立性を改善した. 客先仕様 1 客先仕様 2 図 19 ワークヘッド配管 筆者紹介 Takeshi Suzuki すず き たけ し 鈴木武之 1990 年, コマツ入社. 現在, コマツ工機 工作機械事業部工機開発センタ所属. 筆者からのひと言 コマツ工機の主力商品であるインターナル方式のクランクシャフトミラーは乗用車用の 170F からトラックや建機用の 320F までのラインナップを取り揃えています. 量販機種である 170F のモデルチェンジは, 実に 13 年ぶりのフルモデルチェンジとなりました. 今回の開発でキャンベル線図による騒音分析やモーダル解析などを研究本部, 外観をデザイン部など, 他部門の協力を受けることで, 大変満足のできる結果を得ることができました. 今後もさらに多様化していく市場やユーザーの声をよく聞き, 上位機種へ展開し, 更に良い機械へ成長させていこうと思います. また, コマツ工機の都度設計を行う受注設計業務において 3D-CAD で設計することができました. 問題点も多数ありましたが, 今後も製造部門と協力し, さらに 3D-CAD を活用していきたいと思います. 4. おわりに現在, 日本や韓国のメーカーは, 工作機械を単体で各メーカーへ発注しているが, 欧米メーカーや BRICs 等の新興国では, ターンキーでの加工ラインのシステム販売が主流になりつつある. 今後, コマツ工機は NTC との協業を深め, クランクシャフトを加工するフルラインでシステム販売をしていく戦略を進めようとしている. 中でもクランクシャフトミラーは競合他社に対し, 強みのある機械であり, その強みをさらに伸ばし, 今後前後工程の機械の競争力も上げることでコマツ工機が, 世界の自動車メーカーへクランクシャフトの加工工程を提案していけるメーカーとして発展していきたい. 58